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なぜ歯周病治療が認知症予防に!?論文紹介と相互の関係性、理由の説明

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2026年1月31日

なぜ歯周病治療が認知症予防に!?論文紹介と相互の関係性、理由の説明

(院長の徒然コラム)

はじめに

皆さんは、認知症と歯周病という、一見すると全く異なる病気が、実は深く、そして密接に繋がり合っていることをご存知でしょうか? 

口腔内の健康が、私たちの脳の機能、ひいては健康寿命全体に大きな影響を与えていることが、近年の科学的な研究によって次々と明らかになっています。

今回のコラムでは、この関連性について、2025年に発表された研究論文「Association between periodontal disease and age-related cognitive impairment: a narrative review」を主軸に、4つの視点から掘り下げて説明してみようと思います。

その1:認知症と歯周病の意外なつながり:双方向性の関係性

認知症と歯周病は、一見するとそれぞれ異なる疾患として捉えられがちですが、近年、その間に密接な「双方向性」の関係があることが科学的に明らかにされてきています。

この関連性は、単に高齢者によく見られる二つの健康問題というだけでなく、互いに影響し合い、悪化させる可能性がある点で、私たちの健康寿命を考える上で非常に重要なものなのです。

今回の研究では、この双方向性の関係性を包括的にレビューしています。

過去の研究では、歯周病が認知機能の低下を招く可能性が示唆されており、逆に認知機能の低下が自身の口腔衛生管理を困難にすることで歯周病を悪化させるという相互作用が報告されていました。

これは、認知症によって日々の歯磨きや歯科医院への受診が滞り、口腔内の状態が悪化しやすいだけでなく、歯周病そのものが脳に影響を与え、認知症の発症リスクを高める、あるいはその進行を早める可能性があることを意味します。

この双方向性の背景には、両疾患に共通する生物学的メカニズムが存在します。

最も重要なメカニズムの一つは「全身性炎症」という視点です。

歯周病は、歯を支える組織の慢性的な細菌感染症であり、その炎症反応は口腔内に留まらず、口腔内の細菌やその代謝産物が血流に乗って全身に広がり、全身性の炎症反応を引き起こすことがあります。

この炎症性物質は、脳に到達し、神経炎症を誘発することで認知機能に悪影響を与えると考えられています。

実際に、認知症、特にアルツハイマー病においても、脳内の慢性炎症が病態生理の一部をなしていることが多くの研究で示されています。

さらに、「酸化ストレス」も共通の要因です。

歯周病によって体内で過剰に発生する活性酸素種(ROS:Reactive Oxygen Species)は、細胞や組織にダメージを与える酸化ストレスを引き起こします。

この酸化ストレスは、全身および脳の老化プロセスや神経変性を促進する要因となり得ます。

また、歯周病の主要な病原菌の一つであるPorphyromonas gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス)が、アルツハイマー病のリスクを高める可能性が指摘されており、この菌が産生する特定の酵素が脳内で検出され、アルツハイマー病の病変との関連が示唆されています。

このようなエビデンスは、認知症と歯周病が単独の疾患としてではなく、相互に関連し合う複合的な健康問題として捉え、総合的なアプローチで対応する必要があることを強く示唆しています。

特に高齢者においては、両者の予防と早期介入が、生活の質の維持と健康寿命の延伸に不可欠であると言えるでしょう。

この双方向性の関係性を理解することは、今後の医療・介護における戦略を考える上で極めて重要です。

その2:歯周病が認知機能に与える影響:特定の認知領域への注目

昨今、歯周病が認知機能に悪影響を与えるという理解は深まりつつありますが、その影響は認知機能全体に均一に及ぶわけではないことが、最新の研究で明らかになってきています。

つまり、歯周病が特定の認知領域に選択的な影響を及ぼす可能性があるということです。

論文によると、歯周病を抱える高齢者において、特に「視空間機能」「注意」「記憶」「言語」「指示理解能力」といった認知領域が障害される可能性があると指摘されています。

これらの特定の認知機能は、日常生活における自身の口腔ケア能力と密接に関連しています。

例えば、視空間機能が低下すると、歯ブラシを適切に歯の表面に当てるのが難しくなったり、歯磨き粉の量を正確に判断するのが困難になったりします。

注意機能の低下は、十分な時間をかけて丁寧に歯を磨く集中力を維持することを妨げ、口腔ケアがおろそかになる原因となります。

記憶機能の低下は、歯磨きの習慣自体を忘れてしまったり、定期的な歯科受診の予約を忘れたり、歯科医師から受けた指示を覚えていられなくなったりすることにつながります。

また、言語機能や指示理解能力の低下は、歯科医師や介護者とのコミュニケーションを困難にし、適切な口腔ケアの指示を理解し、それに従って行動する能力に影響を与えます。

ではなぜこれらの特定の認知領域が歯周病の影響を受けやすいのでしょうか? 

一つの理由は、口腔衛生を適切に維持するためには、これらの認知機能が複合的に働く必要があるためです。

歯磨きやデンタルフロスの使用、定期的な歯科医院への通院といった行動は、単なる習慣ではなく、計画立案、実行、記憶、そして視覚的・触覚的なフィードバックを統合する複雑なプロセスを含みます。

歯周病による全身性炎症や酸化ストレスが脳に影響を及ぼす際に、これらの複雑なタスクを司る脳領域が特に脆弱である場合、適切な行動が難しくなるでしょう。

また、論文では、この関連性を調査する際に「適切な認知評価方法の選択」が非常に重要であると強調しています。

これまでの研究では、ミニメンタルステート検査(MMSE)のような全体的な認知機能を評価するテストが用いられることが多かったため、歯周病が引き起こす特定の認知機能障害を見落としていた可能性があります。

今回の論文では、視空間機能、注意、記憶、および指示理解能力を測定する一連のテストが、歯周病を伴う個人の認知機能障害を評価するのに最適であると提案されています。

具体的には、視空間機能にはクロックドローイングテスト、注意にはディジットスパンフォワード、記憶にはWMS-R(ウェクスラー記憶検査改訂版)、言語にはボストン呼称検査(BNT: Boston Naming Test)などが挙げられます。

このような特定の認知領域へのアプローチは、歯周病と認知症の間のメカニズムをさらに深く解明し、将来的には、よりターゲットを絞った予防・治療戦略を開発するための基盤となるかもしれません。

その3:認知症を抱える高齢者の口腔健康改善の重要性:予防と介入戦略

認知症を抱える高齢者にとって、口腔健康の維持は、その生活の質を大きく左右する重要な要素です。

認知機能の低下は自己の口腔ケア能力を損ない、結果として歯周病を悪化させる悪循環を生み出します。

しかし、適切な介入とサポートがあれば、この状況を改善し、認知機能のさらなる低下を遅らせる可能性も示されています。

まず、認知症高齢者の口腔衛生が悪化する背景には、いくつかの共通する要因があります。

記憶力の低下により歯磨きの習慣を忘れてしまったり、実行機能の障害によって歯磨きの手順を計画・実行することが困難になったりします。

また、視空間機能や手の巧緻性の低下は、歯ブラシを正確に操作することを難しくし、口腔ケアの効率を下げます。

これらに加え、歯科医院への定期的な受診が滞ることも多く、問題が顕在化してから受診に至るケースが少なくありません。

論文でも指摘されている通り、自己の口腔ケアを十分に維持できない状況では、歯周病やむし歯(う蝕)が劇的に悪化する可能性が高まります。

このような状況を改善し、認知症を抱える高齢者の口腔健康を向上させるために、論文ではいくつかの有効な予防と介入戦略が提案されています。

①パートナーアシスト型介入

介護者が口腔ケアの補助を行うアプローチです。

介護者が適切な歯磨き方法やデンタルフロスの使い方を学び、認知症患者の口腔ケアをサポートすることで、口腔衛生状態の著しい改善が見られます。

これは、患者が完全に自立した口腔ケアを行うことが難しい場合に特に効果的です。

②適切な歯磨きと電動歯ブラシの活用

十分な歯磨きができれば良いですが、手先の巧緻性の低下が見られる方には電動歯ブラシの使用も推奨されています。

電動歯ブラシは、手動歯ブラシよりも効率的に歯垢を除去できる場合が多く、巧緻性の低下した高齢者や介護者にとっても負担が少ない可能性があります。

フッ化物配合歯磨剤の利用もむし歯予防に重要です。

③早期からの定期的な歯科受診と口腔衛生教育

軽度認知障害(MCI)の段階から、定期的な歯科受診を開始し、本人、家族、そして介護者に対して口腔衛生の重要性や適切なケア方法に関する教育を行うことが非常に重要です。

早期の介入は、歯周病やむし歯の進行を抑え、結果として認知症の悪化を遅らせる可能性を秘めています。

④食事と栄養の改善

論文では、介助者の料理スキルの向上や特定の食事パターン(栄養価の高い食事、炎症を抑える食事など)が口腔健康に寄与する可能性にも言及しています。

健康的な食事は全身の炎症を起こりにくくし、栄養状態を改善することで、口腔組織の抵抗力を高め、結果的に認知機能にも良い影響を与えることが期待されます。

⑤オーラルフレイル対策

高齢者特有の口腔機能の低下、いわゆる「口腔フレイル」も、認知症との関連が指摘されています。

舌圧の低下、咀嚼機能の不全、歯の欠損などは、認知機能障害のリスク要因です。

これらオーラルフレイルへの対策として、定期的なスケーリング(歯石除去)や適切な義歯の装着、口腔機能訓練(お口の体操など)などが挙げられます。

これらの戦略を組み合わせることで、認知症を抱える高齢者の口腔健康を多角的にサポートし、その結果として認知機能の維持、ひいては生活の質の向上に貢献できると考えられます。

歯科医療従事者、介護者、そして患者本人が一体となった、継続的な取り組みが求められます。

その4:さらなる研究と口腔ケアの標準化

認知症と歯周病の関連性に関する理解は近年大きく進展していますが、まだ多くの課題と未解明な点が残されています。

今後の研究と実践において、どのような方向性が求められているのでしょうか。

①研究の課題と方向性

現在の研究は、歯周病と認知機能障害の間の双方向性関係を示唆していますが、そのエビデンスは依然として不明瞭な部分もあり、一貫性に欠ける部分があります。

⚫︎研究方法がバラバラ

多くの研究が異なる認知機能評価方法や歯周病の診断基準を用いているため、結果の比較が困難です。

このため、より信頼性の高い結論を導き出すためには、標準化された評価プロトコルの確立が急務です。

認知機能の全体的なテストだけでなく、特定の認知領域(視空間機能、注意、記憶、言語)を評価するテストを画一的に組み合わせた評価が求められます。

⚫︎系統的レビューとメタアナリシスの重要性

今回の紹介論文はナラティブレビューであり、より確定した結論を得るためには、複数のデータベースを用いた系統的レビューやメタアナリシスが不可欠です。

これにより、既存のエビデンスの質を向上させ、より強力な仮説を導き出すことができます。

⚫︎長期縦断研究の必要性

歯周病が認知機能の低下に先行するのか、あるいはその逆なのか、あるいは両者が相互に進行を加速させるのかといった因果関係を明確にするためには、大規模かつ長期にわたる縦断研究が不可欠です。

これにより、疾患の進行パターンを深く理解し、早期介入の最適なタイミングを見極めることができます。

⚫︎精密歯周治療とバイオマーカーの活用

論文では、「精密歯周治療(precision periodontal care)」の概念や、歯周病原菌および微生物バイオマーカーの効果に関するさらなる研究の必要性が提起されています。

これは、個々の患者の遺伝的背景や微生物叢の特性に基づいた、より個別化された治療法を開発し、その治療効果を客観的に評価するための鍵となるでしょう。

②口腔ケアの標準化と多職種連携

認知症を抱える高齢者の口腔健康を改善し、認知機能への良い影響を最大限に引き出すためには、エビデンスに基づいた介入策を標準化し、それを実践に落とし込むことが極めて重要です。

⚫︎認知機能評価の標準化

歯周病患者における認知機能障害を評価するための標準化されたテストプロトコルを確立し、臨床現場で広く採用することが求められます。

これにより、特定の認知機能障害を早期に発見し、その患者に合わせた適切な口腔ケア計画を立てることが可能になります。

⚫︎歯科医療と他医療分野、介護分野との連携強化

歯科医師、医師、介護士、栄養士、理学療法士など、様々な専門職が連携し、口腔健康が認知機能に与える影響に関する知識を共有し、協力して患者をサポートする「チーム医療」の体制を構築することが重要です。

医療従事者や介護者への口腔ケア教育もその一環となるでしょう。

③早期介入の重要性の啓発

軽度認知障害(MCI)の段階から、口腔健康管理の重要性を本人、家族、そして介護者に広く啓発し、早期からの歯科受診と適切な口腔ケア習慣の確立を促す必要があります。

これにより、疾患の進行を遅らせ、より長く自立した生活を送るための基盤を築くことができます。

結論として、歯周病と認知症の関連性は、高齢者の健康寿命と生活の質を向上させる上で無視できない重要なテーマです。

この複雑な関係性をさらに深く解明し、エビデンスに基づいた効果的な予防・介入戦略を確立するためには、今後のさらなる研究と、医療・介護分野における多職種連携、そして国民全体への意識啓発が不可欠であると言えるでしょう。

口腔健康を維持することは、単に口の中だけの問題ではなく、脳の健康、ひいては全身の健康を守るための重要な一歩なのです。

終わりに

この4つの章を通して、認知症と歯周病が決して無関係な病気ではなく、複雑な相互作用の中で私たちの健康に関わっている可能性をご理解いただけたでしょうか。

口腔の健康は、単に口の中だけの問題に留まらず、全身の健康、そして特に脳の健康を維持するための重要な鍵となります。

今日からの一歩が、未来の健やかな生活へと繋がることを信じて、定期的な歯科検診と日々の丁寧な口腔ケアを、ぜひ生活の一部として取り入れてみてください。

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