2025年11月30日

(院長の徒然コラム)

はじめに
近年、口腔癌の診断件数が増加傾向にあることは、医療界における重大な関心事となっています。
今回はDENTAL TRIBUNEで「Mouth cancer incidence in England hits all-time high」という論文にて報告された内容についてご紹介できたらと思います。
報告のデータによると、2022年にはイングランドで9,293人が口腔癌と診断され、これは過去10年間で37%の増加を示しています。
このデータは、口腔癌が国民の健康に与える影響が拡大していることを浮き彫りにしています。
さらに、口腔癌による死亡者数も増加し、この過去10年間に2,970人が命を落とし、42%の増加を記録しています。
今回のコラムでは、この英国での報告を紹介するとともに、日本の発症率や、口腔がんの予防法などについて説明できたらと思います。
公共の認識の欠如
皆さんは口腔癌についてどういったことをご存知ですか?
驚くべきことに、口腔癌についての公衆の認識は依然として低いままです。
イギリスのオーラルヘルス財団(Oral Health Foundation、略称OHF)の調査によると、約23%もの人が「口の中や周辺で癌が発生する可能性があることを知らない」と答えています。
さらに、一般的な症状に関する認識も低く、最もよく知られている症状については、わずか20%の人しか理解していないそうです。
このような低い認識が、口腔癌の早期発見を妨げていることを、我々は理解しないといけません。
口腔癌の初期症状
口腔がんは、早期段階での発見が生存率を大きく向上させるため、定期的な歯科検診が重要です。自分自身で口腔内をチェックし、異常に気づいた場合は迅速に医療機関を訪れることが勧められます。
特に、以下のような症状に注意が必要です
⚫︎治らない潰瘍
⚫︎赤または白の斑点
⚫︎舌や歯茎に異常な腫れやしこり
⚫︎喉の痛みや違和感
⚫︎嚥下(えんげ)困難感が出てきた
⚫︎歯の動揺や痛み
これらの症状に気づいた場合、ただちに歯科医や医療機関を訪れることが勧められます。
早期に発見し、治療を開始することで、完治の可能性が大きく広がります。
リスク要因の時代に伴う変化
近年、口腔癌のリスク要因にも変化が見られます。従来のリスク要因とされていた喫煙や過度のアルコール摂取に加え、ヒトパピローマウイルス(HPV)が新たなリスク要因として認識されています。
特に、若年層においてHPVによる口腔癌の発症が増加していることが問題視されています。HPVは性行為を介して感染することが多く、これが新たな口腔癌の流行に寄与している可能性があります。
定期的な歯科受診の重要性
口腔癌の早期発見において、定期的な歯科診断は非常に重要です。
我々歯科医師は、口腔内の異常を専門的に評価する訓練を受けており、患者自身では気づかない症状を発見することができます。
無症状の段階でも、歯科健診を受けることで早期に問題を発見することが可能です。
定期的な検査を受けることで、口腔癌だけでなく、その他の口腔疾患の早期発見にもつながります。
口腔癌とその社会的影響
口腔癌は身体的な健康だけでなく、心理的、社会的、経済的な側面にも大きな影響を及ぼします。
口腔癌にかかると、食事や会話に困難を感じることが多く、それが社会性や精神的健康に悪影響を与える可能性があります。
この病気の影響により、社会生活の質が低下し、患者だけでなく、その家族や介護者も感情的および経済的負担を強いられることがあります。
報告にあった患者の体験に基づく教訓
論文にあった患者例として、ミルトン・ケインズ出身のロバート・パウエル氏の話があります。
彼は初め、喉の痛みを長い間無視してしまいましたが、最終的に歯科医によって深刻な状況であることが指摘されました。
彼の扁桃腺にできた癌が発見されたのが62歳の誕生日だったと語っています。
ロバート氏は、「自分には起こらないと思って油断してはいけない。定期的な歯科検診は、命に直結することがある」と強調しているそうです。彼の経験は、早期発見の重要性と口腔癌に対しての無知がどれほど危険かを物語っています。
日本における口腔がんの現状
口腔がんは、口腔内で発生する癌の一種であり、唇、舌、歯茎、口蓋(口の上部)、口底(舌の下)などの部位に発生します。
近年、日本における口腔がんの発症率も増加していることが報告されており、その現状を理解することは、効果的な予防と早期発見にとって不可欠です。
日本での口腔癌発症率と好発年齢
日本における口腔がんの発症率は、近年上昇している傾向にあります。
2020年のデータによると、日本全国での口腔がん新規診断件数は約3,000件とされています。
この中で、特に高い発症率が見られる年齢層は、50代から70代にかけてです。
70歳以上の高齢者層では特にリスクが高く、加齢とともに発症率が増加する傾向があります。
日本での口腔癌の発症性差
口腔癌における性差は明らかで、男性の発症率が女性よりも高いことが知られています。
日本においても、男性は女性の約2~3倍の確率で口腔がんを発症するとされています。
この性差の背景には、主に喫煙や飲酒といった生活習慣が関連していると考えられています。
特に、男性の喫煙率が女性に比べて高いため、口腔がんのリスクを増加させているとされています。
(ただ若年層だと喫煙率の性差が小さくなっているので、この性差が無くなってくるかもしれませんね)
口腔癌の発生原因
口腔癌の発生原因は複数あり、主に以下の要因が関与しています。
①喫煙
喫煙は口腔がんの主要なリスク要因の1つです。タバコの煙には多くの発がん物質が含まれており、長期間の喫煙が口腔内の細胞にダメージを与え、変異を引き起こすことが知られています。
②飲酒
過度のアルコール摂取も口腔がんのリスクを高めます。アルコールは口腔内の粘膜を傷つけ、発がん性物質の吸収を助長する可能性があります。
③ウイルス感染
ヒトパピローマウイルス(HPV)の一部の型は、特に口腔がんの発生に関連していることがわかっています。
HPV感染は、若年層においても口腔がんのリスクを高める要因となっています。
④口腔衛生の不良
口腔衛生への認識不足や手入れ不足により、口腔内の感染症や慢性炎症が生じることで、口腔がんのリスクが増加することがあります。
歯周病などの感染は、癌の発生に寄与するとの研究もあります。
⑤食事
栄養バランスの悪い食事や、果物や野菜の摂取不足も口腔がんのリスク要因とされています。
特に抗酸化物質を含む食材が不足することで、細胞が悪影響を受けやすくなります。
⑥不良補綴物や歯並びなどによる機械的刺激
舌や頬などは常に歯牙に触れて機械的刺激を受けます。歯並びや補綴日物が適切でなく過度な機械的刺激を組織に与え続けると口腔がんのリスク要因とされています。
具体的な予防策
口腔癌の増加は、特に早期発見が重要であることを示しています。
公衆の認識向上が急務であり、教育と啓蒙活動を通じて、多くの人々に口腔癌のリスクや症状について知識を提供する必要があります。
以下に、口腔癌予防のための具体的なポイントをまとめます。
①禁煙
喫煙者はすぐに禁煙を始めることで、口腔がんのリスクを低減することができます。
禁煙外来を利用するのも良い手段です。
②飲酒の制限
アルコールの摂取量を制限し、適度な飲酒を心掛けることで、リスクを低下させることが可能です。
③HPVワクチンの接種
特に若年層には、HPVワクチンが口腔がんの予防に役立つ可能性があります。
ワクチン接種を検討することで、ウイルスによるリスクを低減できます。
④バランスの良い食事
フルーツや野菜を豊富に摂る食事は、抗酸化物質やビタミン、ミネラルが多く含まれており、体の健康を支え、発がんリスクを減少させることができます。
⑤定期的な歯科健診
年に4回程度、歯科医の診察を受けることが推奨されています。
歯科医による口腔内のチェックで、異常が早期に発見される可能性が高まります。
⑥口腔衛生の徹底
こまめな歯磨きやデンタルフロスの使用、マウスウォッシュの利用など、日常的な口腔ケアを徹底することが重要です。
終わりに
口腔がんは、日本においても増加が懸念される疾患であり、その発症率やリスク要因が人々にちゃんと理解されているとは言い難い状況です。
しかし知識を持つことで、個々人が自らの健康を守ることができます。
口腔癌は早期発見が生存率を大幅に向上させる病気です。地域社会と医療機関が連携し、口腔癌に対する認識を高め、患者さんの体験から学ぶことで、今後の患者の命を救うことができるでしょう。
最後に、疑わしい症状を感じたときは、すぐに専門家に相談することが何よりも重要です。
もし何か不安な点、疑問点などございましたら、いつでもお問い合わせくださいね。
私たち一人一人の意識と行動が、口腔癌の予防には欠かせないのです。
