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顎関節症と首・肩の痛み:噛み合わせが悪いと頭が痛くなる?首・肩が痛いと顎が痛くなる!?

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2026年2月18日

顎関節症と首・肩の痛み:噛み合わせが悪いと頭が痛くなる?首・肩が痛いと顎が痛くなる!?

(院長の徒然コラム)

はじめに

「朝起きると顎がだるい」「口を開けるとカクカク音がする」「特定の食べ物を噛むと顎が痛む」。これらは顎関節症の典型的な症状です。

また、「慢性的な首の凝りや肩こり」「原因不明の頭痛」「顔面の痛み」に悩まされている方も少なくありません。

一見すると別々の問題に思えるこれらの症状ですが、実は私たちの顎、首、肩、そして頭部は、想像以上に深く、そして複雑な相互作用メカニズムによって結びついています。

これまで、これらの症状が併発することは臨床的に広く認識されていましたが、その背後にある明確な因果関係、特に「どちらが原因でどちらが結果なのか」については、不明な点が多く残されていました。

今回のコラムでは最新の遺伝子疫学研究を基に、この長年の疑問にスポットライトを当ててみましょう。

顎と首・肩の「双方向性」因果関係

今回議題に挙げる論文「Associations between temporomandibular disorders/bruxism and head and neck pains: a bidirectional Mendelian randomization study」は、メンデルランダム化研究という、遺伝子変異を「自然のランダム化試験」として利用する手法を用いて、顎関節症(Temporomandibular Disorders, TMDs)、ブラキシズム(歯ぎしり・食いしばり)、そして頭頸部痛(Head and Neck Pains, HNPs)の間に存在する因果関係を詳細に分析しました。

この手法の大きな強みは、一般的な観察研究で問題となる「交絡因子( confounding factors)」や「逆因果(reverse causation)」の影響を最小限に抑え、より信頼性の高い因果関係の分析を可能にする点にあります。

この研究の最も大きなな発見は、顎関節症と首・肩の痛み(Neck/Shoulder Pain, NSP)の間に、「双方向性」かつ「有意な因果関係」が存在するということです。

これは単に「顎関節症の人は首・肩が痛くなりやすい」「首・肩が痛い人は顎関節症になりやすい」といった相関関係に留まらず、遺伝的要因を基盤として、明確な因果的な影響があることを示しています。

つまり、

①顎関節症が首・肩の痛みの発症リスクを高める。

②首・肩の痛みが顎関節症の発症リスクを高める。

という二つが共に明確になったということなのです。

特に注目すべきは、今回の研究で首・肩の痛みが顎関節症の発症リスクを約7倍にも高める可能性が示唆された点です。

これは非常に強い関連性であり、不安、肥満、睡眠不足といった他の潜在的な交絡因子を統計的に調整(多変数メンデルランダム化解析)した後でも、この関係性が頑健に維持されることが確認されました。

一方で、ブラキシズム(歯ぎしり・食いしばり)については、頭痛、首・肩の痛み、顔面痛など、他の頭頸部痛との間に、今回の研究では直接的な因果関係は確認されませんでした。

これは従来の臨床的経験や印象とは異なる結果であり、ブラキシズムが直接的な原因というよりも、ストレスや睡眠障害など、共通の第三の要因を介して間接的に症状に影響を及ぼしている可能性を示唆していると考えられます。

しかし、ブラキシズムが顎関節や歯に過度な機械的負荷をかけ、摩耗や破損、そして痛みを引き起こす重要な要因であることに変わりはありません。

因みに当院の歯科コラムを読んでいらっしゃる医療従事者の皆さんは、あまり疑問に思わないですよね。

何故なら睡眠時ブラキシズムは、「噛み合わせ」ではなくて、むしろ中枢神経系に依存するという事実を知っているからです。

しっかり勉強されている方は「噛み合わせが悪いから、寝るときに歯軋りする」なんてことは絶対言わないはずです。

詳しくは過去のコラムを参照ください。

なぜ、顎と首・肩はこれほど深くつながるのか?その多層的なメカニズムを探る

では、なぜ私たちの顎と首・肩は、これほどまでに複雑に、そして密接に影響し合うのでしょうか?

実を言うとそのメカニズムはまだ仮説段階で、はっきり分かっていないのです。

しかしこの研究論文や、関連する多数の研究論文からは、以下のメカニズムが複合的に作用していることが示唆されています。

仮説①:解剖学的・機能的連結:頭蓋頸部下顎システム (Craniocervico-mandibular system) の連動

私たちの体は、顎関節、頭蓋骨、頸椎が一体となって機能する「頭蓋頸部下顎システム」として捉えられます。

このシステム内では、咀嚼に関わる筋肉群(咬筋、側頭筋、内外翼突筋など)と、首や肩を支える筋肉群(胸鎖乳突筋、僧帽筋、頭板状筋、頸板状筋など)が、神経学的、筋膜的、そして生体力学的に密接に連携しています。

だからこそ、その一部分にトラブルが生じると、連結している部位に連動してトラブルが生じるという考え方です。

⚫︎筋肉の連鎖

例えば、顎関節に機能不全が生じると、咀嚼運動のバランスが崩れ、その負荷を代償するために首や肩の筋肉が過剰に緊張したり、異常な活動パターンを示したりすることがあります。

顎の開閉運動中は、頸部の筋肉が顎の動きと同期して活動することがわかっており、片方のシステムに不調が生じると、もう一方のシステムに負担が波及しやすい構造と言えます。

⚫︎姿勢との関連

頸部の筋肉は、頭部の安定性維持にも深く関与しています。

特に、上部頸椎の位置異常や、首の深層筋の機能不全は、顎の位置や顎関節の動きにも影響を及ぼし、咀嚼筋群の協調運動を妨げ、顎関節に不必要なストレスを与えかねません。

ある研究では、顎関節症患者は頸部の不調、特に頸椎関節の圧痛や可動域の制限を伴うことが報告されています。

仮説②:神経経路の複雑な交差:三叉神経脊髄路核における収束(Trigeminocervical Convergence)

痛みの信号が伝わる神経経路も、顎と首・肩の関連を理解する上で非常に重要です。

顔面や顎からの感覚情報は、主に三叉神経を介して脳に伝達されます。

一方、首や肩、特に後頭部からの感覚情報は、主に頸神経(C1-C3)を介して伝わります。これらの三叉神経と頸神経の求心性線維(感覚を伝える神経線維)は、脳幹にある三叉神経脊髄路核 (Spinal trigeminal nucleus, Sp5C) と呼ばれる領域で互いに収束(交差)していることが、解剖学的および生理学的に明らかになっています。

⚫︎関連痛の発生

この神経収束メカニズムがあるため、顎関節の不調による痛みが首や肩に、あるいは首や肩の痛みが顎や顔面に「関連痛(referred pain)」として感じられることがあります。

脳は、どちらの部位から痛みの信号が送られてきたのかを正確に区別することが難しいため、広範な痛みとして認識してしまうのです。

例えば、顎関節症と片頭痛、緊張型頭痛といった頭頸部痛との高い併発率は、この三叉神経脊髄路核における神経収束が深く関与していると考えられています。

仮説③:全身の姿勢とバランスの崩れ:ストレスの連鎖と生体力学的影響

姿勢は、顎と首・肩の健康に極めて大きな影響を与えます。

特に、現代人に多く見られる前頭位姿勢(Forward Head Posture, FHP)、いわゆる「猫背」や「ストレートネック」の状態は、頭部が体の前方に出てしまい、その重さを支えるために首や肩の筋肉に常に過度な負担をかけます 。

人間の頭部の重さは約4〜5kgと言われており、頭部が前方に出ることで、頸部にかかる負担は劇的に増加します。

⚫︎顎位への影響

このFHPは、顎の位置(下顎位)や顎関節の機能にも直接的な影響を及ぼします。

顎が後ろに引かれたり、下顎の運動が制限されたりすることで、咀嚼筋の活動パターンを変化させ、顎関節への機械的ストレスを増加させることが指摘されています。

また、FHPは、舌骨(顎の下にある骨)の位置にも影響を与え、舌の機能や上気道の開きやすさにも変化をもたらします。

 ⚫︎呼吸と睡眠への影響

FHPは、上気道が狭くなる原因となりやすく、口呼吸の誘発や、閉塞性睡眠時無呼吸症候群といった呼吸関連の睡眠障害と関連します 。

これらの問題は、睡眠の質を低下させ、全身の筋肉の緊張を高めたり、睡眠時ブラキシズムを誘発したりすることで、間接的に顎や首・肩の痛みを悪化させる悪循環を生み出す可能性があります。

仮説④:痛みへの感受性亢進と悪循環:中枢性感作 (Central Sensitization)

慢性的な痛みは、私たちの脳と神経系を「痛みに敏感な状態」へと変化させます。

長期間にわたる顎や首・肩の痛みは、脳や脊髄といった中枢神経系を過敏な状態にする中枢性感作 (Central Sensitization)を引き起こす可能性があります。

⚫︎神経細胞の変化

中枢性感作が生じると、脊髄後角の神経細胞の興奮性が高まり、通常は痛みとして感じないような弱い刺激(軽い接触などでも)でも痛みを感じたり(アロディニア)、通常の痛みを伴う刺激がより強い痛みとして感じられたり(痛覚過敏)するようになります。

これは、神経伝達物質の放出増加や、受容体の数・感度の変化など、神経細胞レベルでの変化によって引き起こされます。

⚫︎広範な痛みと機能不全

この状態では、体の広い範囲で痛みの閾値が低下し、顎関節のわずかな不調が首や肩の広範な痛みや凝りを引き起こし、それがさらに顎の痛みを増幅させるという悪循環に陥りやすくなります。

今回の紹介論文では、下行性疼痛抑制系(脳から脊髄に下る痛みを抑える神経系)の機能不全が、このような慢性痛の増悪に寄与する化膿性のことも記されています 。

仮説⑤:炎症反応と神経原性炎症:分子レベルでの影響と持続性

分子レベルでも、顎と首・肩の痛みは共通のメカニズムでつながっています。

どういうことかというと、顎関節や周囲の咀嚼筋で生じる炎症は、インターロイキン-1β (IL-1β) や腫瘍壊死因子-α (TNF-α) といったプロ炎症性サイトカインを放出し、末梢の痛覚受容体を感作させ、痛みを増幅させる役割を果たすことが知られています 。

⚫︎神経原性炎症

神経細胞から放出される神経ペプチドであるCGRP (Calcitonin Gene-Related Peptide) や Substance P も、神経原性炎症と呼ばれる炎症反応に深く関与しています。

これらの物質は、血管透過性を亢進させたり、炎症性細胞の遊走を惹起することで炎症を促進し、末梢および中枢神経系における痛みの感受性を高め、慢性的な痛みの持続に寄与する可能性が指摘されています。

特にCGRPは、片頭痛の発症メカニズムとの関連が強く、顎関節症と片頭痛の併発にも関与していると考えられています。

⚫︎グリア細胞の関与

最近の研究では、アストロサイトやミクログリアといったグリア細胞(神経細胞をサポートする細胞)が、炎症性サイトカインの放出や神経伝達物質の調整を通じて、中枢性感作の持続に重要な役割を果たすことも明らかになっています。

これにより、痛みは単なる神経刺激の伝達だけでなく、脳内の微細な環境変化によっても引き起こされ得るのです。

終わりに:私たちができること

この多角的で複雑なメカニズムの理解は、顎関節症や首・肩の痛みに悩む方々、そして歯科医療を含む関連医療に携わる私たちにとって、非常に重要なものです。

もはや顎の痛みや首・肩の凝りを単一の問題として捉えるレベルの話ではありません。

顎関節症の症状がある場合、歯科医師は単に顎の治療だけでなく、患者様の姿勢、頸部や肩の筋肉の状態、頭頸部の可動域などにも注意を払うべきです。

同様に、慢性的な首や肩の痛みがある場合は、顎関節の機能やブラキシズムの有無も評価することが、根本的な原因の特定と治療に繋がります。

日常生活における姿勢(特にスマートフォンやPC使用時)への意識を高め、頸部や顎への不必要な負担を軽減することが極めて重要です。

定期的な運動やストレッチは、筋肉の柔軟性を保ち、正しい姿勢の維持に役立ちます。

また、ストレスは筋肉の緊張を高め、痛みの感受性を亢進させ、中枢性感作を悪化させる要因となります。

さらに睡眠不足は全身の回復を妨げ、痛みを悪化させます。

適切なストレス管理を行うとともに、規則正しい生活リズムと十分な睡眠時間の確保は、全身の健康にとって不可欠であり、痛みの軽減にも繋がります。

顎の痛みも首・肩の凝りも、もはや単一の問題として捉えるのではなく、全身の複雑なシステムの中で包括的に理解して対処していくことが、痛みの軽減と生活の質の向上への鍵となります。

もし、顎や首・肩の不調を感じているなら、一度歯科医師にご相談ください。

必要に応じて、適切な専門機関へのご紹介も含め、多角的なアプローチでサポートさせていただきます。

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