2024年11月26日
(院長の徒然ブログ)
今回も歯科偶発症について説明していきます。
今回は局所麻酔中毒について説明します。
局所麻酔中毒とは?
局所麻酔薬中毒は、局所麻酔薬が体内に過剰に取り込まれた結果、神経系や心血管系に悪影響を及ぼす状態のことです。
「歯科」においては「極めて極めて稀」です。
教科書や歯科偶発症の本には必ず書かれていますが、ほとんどの歯医者が一生に一度も見ることなく終わります。
その理由は後ほど説明します。
局所麻酔中毒のメカニズム
局所麻酔薬は、手術や医療処置の際に痛みを軽減するために使用されますが、過剰投与や不適切な使用により中毒症状が現れることがあります。
局所麻酔薬は、神経細胞のNa+(ナトリウム)チャネルをブロックすることによって神経の信号を遮断します。
これによって、神経信号が遮断されることによって、段階的に症状が出るのです。
中毒の症状は、中枢神経系と心臓血管系に別れます。
①中枢神経系機序
中枢神経系への作用としては、初期症状は大脳皮質の抑制系の遮断によって起こる症状です。
(抑制を抑制する…つまり大脳皮質が興奮するということです。)
それによって舌、口唇の痺れや味覚異常(金属を舐めているような味)、多弁(よく喋る)だけど呂律が回らない、興奮、目眩、視力及び聴力障害やふらつきなどです。
さらに中毒症状が進むと、抑制経路だけでなく興奮経路の遮断が生じてきます。
そうなると今度は大脳皮質が抑制され、誰妄、意識消失、呼吸停止などが起こってきます。
基本的には中枢神経系の症状が徐々に進むが、ダイレクトに「けいれん」や「心停止」が起きる場合もあるのです。
②心血管系機序
初期の神経症状の進行、すなわち中枢神経系の興奮により高血圧、頻脈、心室性期外収縮が起こります。
中枢神経系自体が抑制される段階になると、洞性徐脈、心臓のパルスの伝導障害、低血圧や循環虚脱、心静止などが起こりえます。
ただし、局所麻酔薬が直接血管内への注入した場合などは、前述の神経症状が起こってない段階で循環虚脱が生じます。
局所麻酔中毒の原因
局所麻酔薬中毒の原因を列挙していきます。
①過剰投与
局所麻酔薬の量が多すぎた場合です。
とはいえ歯科で行う量では通常起きず、歯科において血管内に直接薬を入れるということが、まずありません。
②不適切な投与方法
下顎孔伝達麻酔時などに、下歯槽動脈内に局所麻酔薬が血管内に誤って注入された場合です。
ただ、こんなことしたら指先の感覚で通常気付きますし、まず起こりません。
薬を誤注入した場合、動脈内を逆行して脳循環に入り、少量でもすぐさま中毒症状を起こすとされています。
局所麻酔中毒の対処法
局所麻酔薬中毒が疑われる場合、以下の対処法が重要です
①局所麻酔薬使用を中断
まずは速やかに局所麻酔薬の使用を中断しましょう。
②119に電話
今は初期症状でも段階的に症状が進行していく可能性があるため、サッサと救急に連絡しましょう。
③迅速な評価
患者の意識レベル、呼吸状態、心拍数を確認します。
血圧・心電図・パルスオキシメータを装着しましょう。
④酸素投与
呼吸抑制症状がある場合は、救急隊到着まで酸素を投与します。
呼吸停止時は、必要に応じて気管挿管、人工呼吸などを行います
④抗けいれん薬の投与
けいれんが見られる場合は、ベンゾジアゼピン系抗けいれん薬を投与します。
血圧・心拍が不安定な場合はプロポフォールの使用は控えてください。
⑤脂肪乳剤療法:
重度の中毒の場合、脂肪乳剤を静脈内に投与することで、局所麻酔薬の血中濃度を低下させることができます。
⚫︎脂肪乳剤の投与法
1、1.5 mL/kgを約1分かけて投与。その後0.25mL/kg/min で持続投与開始
2、5分後、循環の改善が得られなければ再度1.5ml/kgを投与するとともに持続投与量を2倍の 0.5mL/kg/min に上昇。さらに5分後に再度1.5mL/kgを投与
3、循環の回復・安定後もさらに10分間は脂肪乳剤の投与を継続する
終わりに
いかがでしたか?
正直歯科で局所麻酔薬中毒を見ることはありません。
しかしいざ起こったら生命に関わります。
対応しつつ、すぐに救急に連絡しましょう。