2025年2月27日

(院長の徒然ブログ)

はじめに
近年、医療現場においてラテックスグローブの使用が広く普及しています。
特に歯科医療の分野では、感染予防の観点から、ラテックスグローブは欠かせないアイテムとなっています。
しかし、ラテックスに対するアレルギーを持つ患者や医療従事者も少なくなく、これが健康に与える影響について理解を深めることが重要です。
今回のコラムでは、ラテックスアレルギーのメカニズム、症状、診断方法、治療法、そして関連するラテックスフルーツ症候群について詳しく解説します。
ラテックスアレルギーとは
ラテックスアレルギーは、天然ゴム(natural rubber latex)に含まれるタンパク質に対する免疫系の過剰反応です。(即時型アレルギー反応)
ラテックスは、パラゴムの木(Hevea brasiliensis)から採取される天然素材であり、手袋やバルーン、医療器具などに広く使用されています。
この木の幹に傷をつけることで得られる白い樹液には、多くのタンパク質が含まれています。これらのタンパク質は、ゴム手袋などの最終製品にも残留し、皮膚などに接触することによってラテックス特異IgE抗体の産生を引き起こします。
アレルギー反応は、この主にIgE抗体が関与して起こってしまうのです。
ラテックス製品の普及
天然ゴム製品は、医療用手袋や家庭用の炊事用手袋、ゴム風船、靴、安全道具など、私たちの日常生活において非常に多くの場面で接触する機会がある素材です。
特に医療従事者は、感染予防のためにラテックス手袋を頻繁に使用するため、アレルギーのリスクが高まる要因となっています。
これにより、ラテックスアレルギーの発症が懸念されるため、医療現場では代替品の使用が推奨されることもあります。
ラテックスアレルギーの症状
このアレルギーは、接触性皮膚炎と呼ばれる皮膚のかゆみや発赤、腫れといった軽度の症状から、重篤なアナフィラキシーショックに至るまで、様々な症状を引き起こす可能性があります。
接触性皮膚炎(かゆみや発赤、腫れなどの症状)は、ラテックスに触れた部分に現れます。
一方、アナフィラキシーショックは、全身に影響を及ぼし、呼吸困難や血圧低下、意識障害などの重篤な症状を引き起こすことがあります。
さらに、ラテックスに含まれる主要なアレルゲンと構造が似ているタンパク質が、特定の食物にも含まれているため、ラテックスアレルギーを持つ人は食物アレルギー(特に「ラテックス-フルーツ症候群」)を併発することがあります。
この症候群は、ラテックスに感作された人が特定の果物や野菜を摂取することでアレルギー反応を示す現象です。
※ラテックスアレルギーの症状の個別説明
ラテックスアレルギーの症状は、軽度から重度までさまざまです。主な症状には以下のようなものがあります。
①皮膚症状: 接触性蕁麻疹が主症状です。具体的にはかゆみ、発赤、腫れ、湿疹などが見られます。これらはラテックスに直接接触した部位に現れることが多いです。
ただ時折これらの症状は全身に広がることもあります。
②呼吸器症状: 鼻水、くしゃみ、咳、喘鳴などの症状が現れることがあります。また、結膜の痒みなどアレルギー性鼻炎の症状が起こることもあります。これらは、ラテックスの微細な粒子が空気中に漂うことで引き起こされることがあります。
③消化器症状: 吐き気、腹痛、下痢などの消化器症状が現れることもあります。
④全身症状: 重篤な場合には、アナフィラキシーショックが発生し、呼吸困難、意識障害、血圧低下などの症状が現れます。これは生命を脅かす状態であり、緊急の医療処置が必要です。
ラテックスアレルギーの原因
ラテックスアレルギーの原因は、主に以下の要因によって引き起こされます。
①頻繁な接触: 医療従事者や歯科医師は、ラテックスグローブを頻繁に使用するため、アレルギーのリスクが高まります。特に、長時間の使用や繰り返しの接触がアレルギーの発症に寄与します。
また医療処置を繰り返し頻繁に受ける患者さんも(手術や治療を受ける機会が多い人)、ラテックスに接触する機会が増えるため、リスクが高まります。
②遺伝的要因: アレルギー体質の家族歴がある場合、ラテックスアレルギーを発症するリスクが高まります。
③他のアレルギー: 特に、食物アレルギー(バナナ、アボカド、キウイなど)を持つ人は、ラテックスアレルギーを併発することが多いです。後ほど詳しく解説します。
ラテックスアレルギーの対処法
ラテックスアレルギーの治療は、主に以下の方法で行われます。
①回避
ラテックス製品の使用を避けることが最も重要です。代替品として、ニトリルやポリウレタン製のグローブが推奨されます。
②抗ヒスタミン薬
軽度のアレルギー症状には、抗ヒスタミン薬が効果的です。これにより、かゆみや発赤を軽減することができます。
③アナフィラキシーの管理
重篤なアレルギー反応が起こった場合には、エピネフリン自己注射器(エピペン)を使用し、直ちに医療機関に連絡する必要があります。
ラテックスフルーツ症候群
ラテックスアレルギーと関連しているのが「ラテックスフルーツ症候群」です。これは、ラテックスにアレルギーを持つ人が、特定の果物(下記参照)に対してもアレルギー反応を示す現象です。
この現象は「ラテックス-フルーツ症候群(Latex-Fruit Syndrome)」と呼ばれています。ラテックスアレルギーを持つ人は、これらの食物にも注意が必要です。
これは、これらの果物に含まれるタンパク質が、ラテックスのタンパク質と構造的に類似しているために起こります。
ラテックス-フルーツ症候群は、口腔や咽頭に症状が現れることが多く、口腔アレルギー症候群(OAS)の一種とされています。
具体的には、口の中のかゆみや腫れ、喉の違和感などが見られます。
ちなみに私はパイナップルを食べると口の周りがひりひりしたり痒くなったりしますが、こう言った経験をしたことはありませんか?
こういった経験のある方は、是非歯医者の受診時に教えていただけると幸いです。
ラテックスとフルーツの共通抗原
ラテックスとの共通抗原性が報告されている食物
ラテックスアレルギーを持つ人が注意すべき食物には、以下のようなものがあります。
高い共通抗原性を持つもの
バナナ、アボカド、キウイ、クリ、ジャガイモ、トマト
中程度の共通抗原性を持つもの
マンゴー、メロン、モモ、リンゴ、パパイヤ、パイナップル、ネクタリン、パッションフルーツ、イチジク、ニンジン、ホウレンソウ
これらの食物を摂取する際には、特に注意が必要です。
ラテックスアレルギーを持つ人は、これらの食品を食べる前に医師と相談し、必要に応じてアレルギー検査を受けることが推奨されます。
終わりに
いかがでしたか。フルーツにアレルギーのある方は意外に多く、同時にラテックスゴムに暴露される時間が長いとそういった方のラテックスアレルギー発症リスクは高まっていきます。
ラテックスグローブは今の日本の医療において、欠かせないものではありますが、ラテックスアレルギーがある方への対応もちゃんと理解した上で、適切な使用が医療従事者には求められます。
皆様も、歯科受診の際に問診を受けると思いますが、アレルギーがある方はしっかり教えていただければと思います。
もし疑問などございましたら、御気軽にお尋ねください。