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テトラサイクリン歯とは?:概要、原因、分類、治療法と2023年の論文への見解

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2025年11月06日

テトラサイクリン歯とは?:概要、原因、分類、治療法と2023年の論文への見解

(院長の徒然コラム)


はじめに

えー最近ブログを読んでる患者さんから結構質問されます。
自費診療も含めて、私のコラムは容赦なくデメリットも書いてますが、大丈夫なんですか?患者さん自費診療選ばなくなるんじゃないですか?と。


結論として、それが「医療」だと思ってるので、言わないといけないと思っています。
デメリットを説明して、患者さんが選ばなかったら、それはそれで良いのです。
我々歯科医師がまず診断に基づいてするべきは「治療の選択幅の提示」なのですから。
それでは早速今回のコラムの本編行きましょう!


美しい笑顔と健康的な歯は、見た目だけでなく心理的な安定や社会生活においても重要な役割を果たします。
しかしながら、さまざまな原因により歯の色調や形態が変化し、美容面や口腔機能に支障をきたすケースも少なくありません。
その中でも代表的なものの一つが「テトラサイクリン歯」です。今回は、その概要、原因、分類法、そして最新の治療法までを詳しく解説します。

テトラサイクリン歯の概要と原因



①テトラサイクリン歯とは何か?


テトラサイクリン歯とは、妊娠中や幼少期にテトラサイクリン系抗生物質を服用した結果、歯の発育過程に内因性着色が生じた状態を指します。
多くの場合、永久歯のエナメル質や象牙質に色素沈着が起こり、歯の見た目に濃い色調や縞模様、斑点、灰色調といった異常が現れます。


②原因とメカニズム


テトラサイクリン系抗菌薬は、1950年代から臨床使用が始まり、多くの感染症に対して有効な抗生物質として重宝されてきました。
しかし、子供の歯の発育期間に服用すると、歯の形成過程でエナメル質や象牙質の微細構造内に薬物が沈着し、内因性色素沈着を引き起こすことが判明しています。

これは主に歯の発生過程で、エナメル芽細胞や象牙芽細胞の分化・分裂に影響を及ぼすことが原因と考えられています。

この着色は、薬物が歯の形成期に入り込むことにより、歯質の微細構造内に色素が固定化されるため、一般的なブラッシングや歯面清掃では除去できません。
特に、子供の時期(出生から8歳まで)に服用された場合、その影響は成人になっても色素の沈着として残存します。


③臨床上の特徴

⚫︎色調の多様性
淡黄色から濃灰色、青みがかった色まで、多様な色彩があります。

⚫︎縞模様の存在
縞模様や斑点の出現は、薬物服用の時期に応じた発育段階と関連していると考えられています。

⚫︎エナメル質の脆弱性
厚みや硬度の低下、耐摩耗性、耐酸性の低下が見られます。

日本や世界における患者数と現状


日本では、過去に多くの幼児や小児に対してテトラサイクリン系抗生物質が投与されており、その副作用である歯の着色例は少なからず報告されています。
国内の疫学調査によると、潜在的な患者数は数百万人と推定されており、成人になってから歯の美観に悩むケースも増加しています。


一方、米国では1970年代以降、妊婦や子供に対しての投与に対する規制が強化され、現在ではほとんど見られません。
ただし、一部アジア諸国では、医療従事者の無知や誤解により依然投与が継続されている地域もあり、課題は残されています。
(日本でも2000年代になるまでは、投与してしまうケースがチラホラありました。)

タイプと分類法


①ファインマンの分類(Feinman分類)

テトラサイクリン歯の色調と範囲を理解するために有用な分類法の一つが、Feinmanらによる分類です。この分類は、歯の色の濃さや縞模様の有無に基づいています。

⚫︎第1度(F1)
歯全体が一様に淡い黄色、褐色、灰色に着色。縞模様はなく、比較的軽度の着色。

⚫︎第2度(F2)
第1度よりも濃く、歯全体が均一に着色されているが、縞模様は認められない。

⚫︎第3度(F3)
濃い灰色や青みがかった灰色で、縞模様が明瞭に現れる。

⚫︎第4度(F4)
着色が非常に強く、縞模様も顕著である。歯全体が濃い灰色や青灰色に染まり、部分的に黒ずみや褐色の沈着も見られる場合が多い。

この分類は、歯の外観だけでなく、治療アプローチや予後の見通しを立てる上で有用とされています。


②福島の分類

日本の臨床現場の一部で使われているのが「福島の分類」です。

⚫︎タイプⅠ
軽度の着色や薄い縞模様、または局所的な色素沈着。通常、表層の研磨や漂白で改善可能。

⚫︎タイプⅡ
歯全体に一定の色調変化や濃い縞模様。研磨や漂白だけでは改善が難しい場合もあり、修復処置を併用。


⚫︎タイプⅢ
重度の着色で、エナメル質や象牙質の著しい変色や欠損を伴う。ラミネートベニアやクラウン等の修復処置が必要となる。

これらの分類は、特にラミネートベニアの適用範囲決定や漂白法の適応判断に役立ちます。

治療法とアプローチ


①基本的な治療選択肢

⚫︎カウンセリングとインフォームドコンセントまずは患者の希望、歯の状態、治療予後について十分に説明し、納得の上で治療計画を立てることが重要です。
治療のメリット・デメリットを丁寧に説明します。
特に、コンプレックスな色調や全体的な修復を要するケースでは、患者の希望を尊重しながら、最適な解決策を提案します。

⚫︎歯面の清掃と研磨
まずは軽度の着色を落とし、徹底した口腔衛生指導や、専門的歯面清掃、研磨を行います。
もちろん内部の着色は落ちませんが、漂白(狭義のホワイトニング)や補綴をする前準備としても非常に大事な工程です。

⚫︎漂白療法(ホワイトニング)
失活歯や生活歯の歯面漂白は、歯質の内因性色素沈着に有効です。
とはいえ、完全に消えるかどうかは着色の「深度」によります。象牙質の浅い部分にはフリーラジカルが浸透するので色が薄くすることはできます。ただ完全には白くならないケースもあるでしょう。

⭐︎失活歯漂白
歯が歯髄腔に漂白剤を封入し、複数回施術を行うウォーキングブリーチ法だったり、歯の内部にホワイトニング剤を入れて漂白するインターナルブリーチを行うことがあります。

⭐︎生活歯漂白
高濃度過酸化物を用いたオフィスホワイトニングや、低濃度のホームホワイトニングも広く用いられています。
両方行うことをデュアルホワイトニングと呼びます。

あ、ちなみにテトラサイクリン歯にポリリン酸ホワイトニングしても意味ないですよ。
あれはあくまで「着色汚れ」とコーティングに特化したホワイトニングです。

⚫︎ エナメルマイクロアブレージョン

主にホワイトスポットなどを治すための治療法で、エナメルマイクロアブレージョンは、テトラサイクリン歯の変色(特に表面的なもの)に有効な治療法となることがあります。
しかし、前述の通りテトラサイクリン歯の変色の原因は象牙質にもあるので、効果は完全とは言えないでしょう。

⚫︎修復処置
漂白や研磨で改善しきれない重度の変色には、ダイレクトボンディングやセラミックラミネートベニアやクラウン修復が選択されます。

⭐︎ ダイレクトボンディング
部分的や全体的に着色が強い場合、低粘性レジンを用い、歯の形態や色調を修復します。
修復範囲が限定的な場合には適用が容易です。

⭐︎セラミックラミネートベニア
重度の生活歯の変色や形態異常には、薄いセラミック製(ジルコニアやemaxなどに使われるLithium disilicate製)ラミネートベニアを貼付し、自然な歯の色や形態を再現します。
上顎前歯の審美修復に広く用いられ、自然な色調と透明感を再現します。薄く加工されたセラミックシェルを歯の表面に貼り付けることで、歯の変色、形態不良、裂け目や僅かな欠損、歯間の段差を効果的に改善します。優れた耐久性を持ち、長期にわたって美しさを維持できる点が特徴です。
特に、純白志向や改善できない重篤な色調には適しています。

⭐︎オールセラミック冠
テトラサイクリンによる着色が失活歯についている場合は選択肢として有用ですね。
審美性と耐久性に優れ、重度の変色や欠損に対応可能です。金属も使用しないため、色調や光の透過性も優れます。

⚫︎ホワイトニングと修復の併用療法
漂白効果と修復処置を併用することで、自然な審美性と長期的な耐久性を両立させるアプローチが推奨されています。
セラミックで治そうにも、結構セラミックって透過性あるので、予め内部をちゃんと漂白してから補綴しましょうってことですね。

2023年の論文:テトラサイクリンが歯の色に関与しない可能性がある?


ここまで説明しておいてなんですが、2023年に気になる研究が発表されました。
長年、歯科界では「テトラサイクリン系抗生物質の服用が歯の内因性着色の最大の原因」とされてきました。
(私もそう習って歯科医師を続けていました。)
臨床現場でも多くの患者さんがこの薬剤による変色に悩み、治療の対象とされてきました。
しかし、2023年オーストラリアのメルボルン大学を中心とした研究チームが、従来の常識に疑問を投げかける最新の知見を発表しました。


①メルボルン大学の研究概要


2023年6月2日に公表されたこの研究は、システマティックレビューに基づき、幼児期のテトラサイクリン系抗菌薬服用と歯の色素沈着との関係性について再評価を行ったものです。
調査には、様々なのデータベースから1,003件もの研究を抽出し、その中から34件を選定し行われました。


②研究での主な結論


⚫︎子供の頃における高用量のテトラサイクリン投与と歯の内因性着色には明確な関連性は認められない。
⚫︎用量や服用時期による差はあるものの、多くの研究において、推奨されている範囲の用量では歯の色調変化と直結しないと示された。
⚫︎むしろ、着色には他の要素(外的染料、口腔衛生状態、遺伝的要因)が大きく関与している可能性がある。


正直、昔これを読んだ時の私の感想は「信じられない!」でした。今でもこの結論は疑っています。
おそらくこれを読んでらっしゃる歯科医師の先生も同じ気持ちじゃないですか?


③これまでの常識と新たな視点


伝統的には、「テトラサイクリン服用=内因性着色」の式が崩れることは考えにくいとされてきました。
特に、テトラサイクリンの服用時期や用量に関わらず、色素沈着が避けられないと長きにわたり思われてきたのです。


しかし、メルボルン大学のこの研究は、「推奨される用量内の服用」では、歯の着色に寄与しない可能性を示唆しています。
これは、従来の学説に一石を投じるものであり、今後の臨床のあり方を見直す必要性をもたらしているのです。
(まあ日本の医療って、かつて結構抗生物質出し過ぎな傾向もあったので、「推奨される容量」だったかと言われると…目を背けたい先生もいるのかも…)


④結論に至った経緯


臨床データとメタアナリシスの厳密な解析により、評価対象の研究で用量と色素沈着の関連性が一貫して低く、また、服用時期と変色の関係性も限定的だったそうです。
分子生物学的研究でも、薬剤が歯の発生過程に与える影響が従来の予想と異なる可能性が示唆されている。つまり、薬剤がエナメル質の微細構造に入り込んでも、必ずしも着色を引き起こすわけではない可能性も浮上しているんです。


⑤歯科医師は思い込みを捨て、慎重に今後の研究を待て


過去の診療指針や教育において、テトラサイクリン服用の患者には「変色」があると教えられてきましたが、その結論に疑問が示されました。
そうなってくると、もちろん漂白治療や修復処置の適応判断においても、新たな視点が必要となるケースも出てくるかもしれません。
-薬剤の服用履歴だけを頼りに変色を判断するのではなく、口腔内の実際の色調や患者の希望に基づいた総合的な治療計画の見直しが求められるでしょう。
そして、我々歯科医師は「歯科医師になってからの勉強」を怠ってはいけない良い例かと思います。


⑥今後の課題と研究


今回のメルボルン大学の研究は、従来のテトラサイクリンの歯の着色に関する理解に新たな視点をもたらしましたが、いくつかの重要な課題も残されています。
まず、現在のエビデンスは主にメタアナリシスや疫学的調査に基づいており、薬理学的メカニズムや遺伝的要因との関連性についての詳細な解明はまだ不足しています。


次に、臨床現場においては、服用時期や用量に関わらず必ずしも着色を伴わないケースも「確かに」存在するため、個々の患者の遺伝的背景や生活習慣、口腔衛生状態がどのように影響しているのかを明らかにする必要があります。
(そもそも子供の頃にテトラサイクリン服用したかなんて覚えている人が少ないんですよね。)
例えば、遺伝子解析を取り入れた研究や、歯質内部の微細構造の解析を行った研究が今後の方向性として重要となるでしょう。


また、薬剤の服用履歴と歯の色調との関係をより正確に評価するためには、大規模なコホート研究や長期追跡調査が求められます。その中で、最適な予防策や治療法などの確立、検討を重ねる必要があります。


もちろん我々も研究結果だけを鵜呑みにするのではなく、今後の動向をしっかりアンテナを張っておいて情報をキャッチし、患者さんの治療を最適化していく努力を怠ってはいけません。

終わりに


長きにわたり、歯科医療において「テトラサイクリン歯」は、患者の審美的な悩みと診療側の課題として位置付けられてきました。
従来の考え方では、抗生物質の投与と歯の着色は不可分の関係にあるとされてきましたが、最新の研究と臨床経験は、その見解を見直す必要性を示しています。


メルボルン大学の研究により、推奨される範囲内のテトラサイクリン薬剤の使用は、直接的な歯の着色と関与しない可能性が示唆されました。
これは、私たち歯科医師にとって、患者さん一人ひとりの背景を再評価し、適切な治療法を選択するための重要な指針となります。


さらに、日本におけるテトラサイクリンが原因とされている着色歯の患者数の実態は完全には把握されていませんが、多くの潜在患者が存在すると考えられ、その適切なケアが求められています。
これに伴う治療技術や材料の進歩に目を向け、審美的満足と長期的健康の両立を目指すことが歯科医療の重要な使命です。


私たち歯科医師は、これからも科学的根拠に基づきながらも、個々の患者さんの希望と心理的背景を尊重し、最適な診療を提供していく責務があります。
これからも絶えず変化する歯科医療の常識をキャッチし、最前線に目を向け、知識と技術の研鑽を続けていきたいと思います。

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