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むし歯だけじゃない!子どもの歯の「エナメル質形成不全(MIH)」について

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2026年3月26日

むし歯だけじゃない!子どもの歯の「エナメル質形成不全(MIH)」について

(院長の徒然コラム)

はじめに

子どもの歯の健康といえば、「むし歯」を思い浮かべる方がほとんどでしょう。

しかし、近年、むし歯とは異なる歯の異常が注目されています。

それが「エナメル質形成不全」、特にその中でも特定の症状を示す「MIH(Molar Incisor Hypomineralization)」です。

今回のコラムでは、このMIHについて深く掘り下げ、子どもの歯の健康を守るために私たちが知っておくべきこと、そして歯科医療に何ができるのかを考えていきます。

エナメル質形成不全とは?歯の「フライトレコーダー」のような記録

まず、エナメル質形成不全とはどのような状態を指すのでしょうか。

私たちの歯は、表面を覆う人体で最も硬い組織であるエナメル質、その内側の象牙質、そして歯根にあるセメント質などで構成されています。

エナメル質形成不全は、このエナメル質が正常に形成されない病気の総称です。

この形成不全には、大きく分けて二つの種類があります。

一つは遺伝子の異常によって起こる「エナメル質形成不全症(amelogenesis imperfecta)」で、これはすべての歯に現れ、血族内で遺伝する特性があります。

もう一つは、遺伝性ではない「エナメル質形成不全(enamel hypomineralization)」で、これは特定の期間や部位にのみ異常が現れます。

この非遺伝性の形成不全は、さらにエナメル質の「量」が少ない「エナメル質減形成(enamel hypoplasia)」と、エナメル質の「質」が悪い「エナメル質石灰化不全(enamel hypocalcification)」に分類されます。

特に興味深いのは、この非遺伝性のエナメル質形成不全が「年代別障害(chronological disturbance)」とも呼ばれることです。

これは、歯の形成期である妊娠中から乳幼児期にかけて、何らかの障害が起こった時期とその歯の部分に、まるで飛行機の「フライトレコーダー」のように記録が残る、という考え方です。

例えば、麻疹による高熱を乳幼児期に経験すると、その時期に形成されていたエナメル質に減形成が見られることがあります。

このように、エナメル質は一度形成されると、骨のように再生することはありません。

そのため、その異常は一生涯残り続け、過去の健康状態を物語る貴重な手がかりとなるのです。

MIH:現代の子どもたちに広がる「むし歯ではない歯の異常」

そして、近年最も注目されているのが、エナメル質形成不全の中でも「第一大臼歯(奥歯)」と「切歯(前歯)」に限局して発生する「MIH(Molar Incisor Hypomineralization)」です。

MIHは、その名の通り「臼歯(Molar)」と「切歯(Incisor)」に「低石灰化(Hypomineralization)」が見られる状態を指し、その原因はいまだ不明な点が多いものの、世界中で報告が増加しています。

MIHの主な症状は、歯の色調異常、歯面粗造、そして知覚過敏です。

具体的には、歯の表面に白濁や黄褐色、褐色の斑点や広範囲な変色が見られたり、表面がザラザラして光沢を失っていたり、冷たいものや熱いものがしみたりするといった症状が現れます。

重症化すると、エナメル質が脆くなり、萌出したばかりの歯でも欠けてしまったり、歯質が崩壊したりすることもあります。

日本におけるMIHの有病率に関する調査は、これまで十分ではありませんでしたが、日本小児歯科学会と富山大学が2015年から2016年にかけて、全国47都道府県の約5,000人の7~9歳児を対象に行った大規模調査では、日本全体で約19.8%の有病率が報告されています。

これは、約5人に1人の子どもにMIHが見られるという、決して少なくない割合です。

さらに興味深いことに、この調査ではMIHの有病率に「西高東低」の地域差があることが明らかになりました。

最も有病率が高かったのは四国地方(28.1%)と九州地方(25.3%)で、最も低い東北地方(11.7%)とは2倍以上の差がありました。

これは、地域の環境要因や生活習慣がMIHの発症に影響を与えている可能性を示唆しており、今後の詳細な研究が待たれます。

また、別の調査(千葉県八千代市での小学校児童2121人対象)でも、MIHの有病率は11.9%と報告されています。

この調査では、MIH罹患者の約76.6%が軽度(白色や変色のみ)でしたが、23.4%は広範囲な変色や歯質欠損を伴う重度MIHと診断されました。

MIHは初期段階では軽微に見えても、放置すると重症化することがあります。

なぜMIHが起こるのか?複雑に絡み合う原因の糸

MIHの原因は多岐にわたり、一つに特定することが難しいのが現状です。

多くの研究から、妊娠中から乳幼児期にかけての様々な要因が複合的に関与していると考えられています。

《全身的な要因》

①母体の健康状態

妊娠中の栄養障害、疾病(感染症など)、特定の薬剤(抗生物質など)の長期服用が、胎児の歯の形成に影響を与える可能性があります。

②子どもの健康状態

早産、低出生体重、栄養障害(特にカルシウム、リン、ビタミンA, C, Dの欠乏)、重い感染症、発疹性疾患、幼少時(特に生後1年以内)の高熱なども原因として挙げられます。

③内分泌異常

甲状腺機能や副甲状腺機能の異常も関連が指摘されています。

《局所的な要因として》

①外傷

乳歯列期に受けた外傷が、後から生えてくる永久歯の歯胚に影響を与え、形成不全を引き起こすことがあります。

②感染

乳歯の根尖性歯周炎や歯槽膿瘍などの炎症が、隣接する永久歯の歯胚に波及し、「ターナー歯」と呼ばれる形成不全を生じさせることもあります。

また、興味深いことに、フッ化物の利用状況との関連も指摘されています。

ある調査では、全体的に見ればフッ化物配合歯磨剤の使用が重度MIHの罹患率を低くする傾向があったものの、2歳未満の低年齢児におけるフッ化物配合歯磨剤やフッ化物ジェルの使用が、重度MIHの罹患率を高める傾向が見られました。

このことは、フッ化物自体を否定するものではなく、その使用方法や量が子どもの年齢や発達段階に合わせて適切な濃度を守る必要があることを示唆しています。

日本ではフッ化物の使用に関するガイドラインの周知が十分でない可能性もあり、歯科医師や歯科衛生士による丁寧な指導の重要性が改めて浮き彫りになっています。

MIHの原因についてはまだ不明な点が多く、まさに「原因不明のエナメル質形成不全」という言葉が示す通り、複雑な背景が絡み合っていると言えるでしょう。

しかし、この複雑な糸を解きほぐすことで、将来的にMIHを予防したり、より効果的な治療法を確立したりする道が開かれるはずです。

MIHを見逃さないために!保護者と歯科医療者が知るべき兆候

MIHは「むし歯」と間違われやすく、そのために適切な処置が遅れてしまうことがあります。

子どもの歯の健康を守るためには、保護者が日頃から子どもの歯に注意を払い、気になる症状があれば歯科医院を受診することが非常に大切です。

また、歯科医療者もMIHの知識を深め、鑑別診断能力を高める必要があります。

《保護者がMIHを疑うべきサイン》

①歯の色がおかしい

生えてきたばかりの歯に、部分的に白い斑点や黄褐色、褐色っぽい変色が見られる。

②歯の表面がザラザラしている

歯の表面に光沢がなく、つるつるしていない。

③冷たいものがしみる

知覚過敏の症状がある。

④歯が欠けやすい

歯質が脆く、欠けたり崩れたりしやすい。

⑤むし歯ではないはずの部分に変色や欠損がある

例えば、歯茎に近い部分や、歯の溝以外の平らな部分に変色や穴がある。

《歯科医療者がMIHを診断する際のポイント》

①第一大臼歯と切歯に限局しているか

MIHの大きな特徴です。他の歯にも異常がないか、確認します。

②重症度が左右対称ではないか

ターナー歯など局所的な原因によるものは非対称ですが、MIHも非対称性が比較的多いとされています。

③むし歯検知液に反応しないか

MIHによる歯質の異常は、むし歯菌の活動によるものではないため、むし歯探知液にほとんど染まりません。

④過去の病歴や生活習慣

妊娠中から乳幼児期の病歴、薬の服用、フッ化物利用状況などを問診で詳しく確認します。

これらのサインを見逃さず、早期にMIHを診断することが、子どもの歯の長期的な健康を守るための第一歩となります。

MIHへの適切な対応:将来を見据えた「暫間治療」の重要性

MIHは通常のむし歯とは異なるため、その治療方針も大きく異なります。

MIHの治療の目標は、単に目の前の症状を改善するだけでなく、「成長発達を阻害することなく、年齢に応じた正しい歯列・咬合の回復と安定を図り、将来、本格的な補綴処置を行うまで維持する」という、長期的な視点に立った「暫間治療」が中心となります。

《具体的な暫間治療の選択肢》

①フッ素塗布

軽度なMIHや知覚過敏の軽減に効果的です。

②セメント・レジン充填

変色や歯質欠損が軽度の場合、グラスアイオノマーセメントやレジンを用いて欠損部を被覆・充填し、歯質を補強します。

③既製金属冠・ポリカーボネートクラウン

重度のMIHで歯質の欠損が大きい臼歯には、既製の金属冠(乳歯冠など)で歯全体を被覆し、歯質の保護と咬合の安定を図ります。

前歯部では、透明なクラウンフォームとレジンを用いた被覆冠で審美的な問題を解決しつつ歯質を保護します。

成長期が終わった後で、最終補綴を行なっていきます。

《長期的な管理の重要性》

①定期健診

MIHの歯はむし歯になりやすく、進行も早いため、2ヶ月に一度を目安としたこまめな定期健診が不可欠です。歯質の欠損や知覚過敏の進行がないか、注意深く観察します。

②家庭での口腔ケア指導

⚫︎歯ブラシ

歯質が脆いMIHの歯には、ヘッドが小さく、毛が柔らかい歯ブラシを選び、一本一本丁寧に磨く「一本磨き」を指導します。

⚫︎歯磨剤

研磨剤の少ないフッ化物配合歯磨剤の使用を推奨します。ただし、前述のフッ化物利用とMIHの関連を考慮し、低年齢児への使用量には細心の注意が必要です。

⚫︎知覚過敏対策

知覚過敏が強い場合は、知覚過敏抑制効果のある歯磨剤の使用や、フッ素入りジェル・洗口剤の活用も検討します。

⚫︎咬合の維持

MIHの歯は咬耗や破折が起こりやすいため、咬合高径の低下や咬合位の崩壊を防ぐことが重要です。

MIHの診断と治療は、歯科医師だけでなく、保護者、そして必要に応じて小児科医との連携が不可欠です。

子どもの成長に合わせて、その時々で最適な治療を選択し、長期的な視点を持って口腔健康をサポートしていくことが、MIHと向き合う上での鍵となります。

終わりに:MIHへの理解が未来の笑顔を拓く

MIHは、むし歯とは異なる歯の異常でありながら、その症状や原因の複雑さ、長期的な影響の大きさから、現代の子どもの口腔健康における重要な課題の一つです。

しかし、MIHの認知度はまだ十分とは言えません。

その理解が深まることは、すべての子どもたちが健やかな歯と笑顔で未来を迎えられる社会を作る上で不可欠です。

私たちは、MIHを単なる「むし歯」として見過ごすことなく、その存在を認識し、適切な診断と長期的な管理を行うことで、子どもの大切な歯を守ることができます。

「歯は人生のフライトレコーダー」です。

エナメル質に刻まれた過去の記録を読み解き、適切なケアを施すことで、未来の口腔健康へと繋がる道を開くことができるでしょう。

MIHへの理解を深め、子どもたちの健やかな成長を社会全体で支えていくことこそが、私たちに求められているのです。

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