2025年6月12日


はじめに
歯ぎしり(ブラキシズム)は、無意識のうちに上下の歯を強くこすり合わせたり、噛みしめたりする行為であり、日中の緊張やストレス、または夜間睡眠中に発生することが多いです。
この現象は一般的に「パラソムニア(睡眠時異常行動)」の一種と考えられ、歯や顎関節、周囲の軟組織にさまざまな影響を与える非常に複雑な生理的・心理的要因の結果として発現します。
歯ぎしりの発生メカニズムと原因
1. 神経筋制御の異常
歯ぎしりの根底にあるのは、中枢神経系の調節異常です。
特に、脳幹および中枢神経系の調整が乱れることにより、歯列接触や顎筋の収縮を制御する信号に乱れが生じると考えられています。
これにより、異常な顎の筋肉活動が発生し、歯ぎしりが誘発されます。
2. 精神心理的要因
ストレスや不安、緊張は、歯ぎしりの重要な発症要因です。
心理的プレッシャーは自律神経系の活動を促進し、顎筋の強張りにつながります。
また、精神的な緊張状態が夜間の無意識の歯ぎしりを引き起こすことも多々あります。
3. 歯列・咬合の異常
不正咬合や噛み合わせの乱れも、歯ぎしりの誘因となります。
正常な咬合バランスを欠くと、顎関節に負荷がかかり、これを緩和しようと筋活動が増加します。
特に、咬合の際の異常は、筋肉の過剰な収縮を誘発するためです。
4. 生理的・ホルモン的要素
ホルモンの変動、例えば女性の月経周期や妊娠中、そして甲状腺機能亢進症なども歯ぎしりのリスクを高めることがあります。
これらのホルモンは顎筋の緊張状態を変化させるためです。
5. 薬剤や生活習慣
抗鬱剤や精神安定剤の副作用、カフェインやアルコールの摂取も歯ぎしりを誘発または悪化させることがあります。
歯ぎしりがもたらす影響
歯ぎしりは、単なる歯の摩耗や知覚過敏だけでなく、顎関節症(TMD:Temporomandibular Joint Disorder)、筋肉痛、頭痛、歯の破折や歯根の露出などの重篤な問題を引き起こす可能性があります。
長期間の歯ぎしりは、歯の損傷や咬合の崩壊を誘発し、最終的には顎関節に構造的な変化をもたらす恐れもあります。
診断と治療法
歯科医師は、患者の問診や口腔内検査、歯の摩耗状態の観察、顎運動の記録などの評価を行い、歯ぎしりの診断を確定します。
治療には以下のようなアプローチが用いられます
- マウスピース(ナイトガード):夜間の歯ぎしりを抑制し、歯や顎関節の損傷を防止
- 行動療法:ストレス管理や咬合調整、筋弛緩法の指導
- 心理カウンセリング:心理的ストレスの軽減
- 咬合調整:不正咬合の解消
- 薬剤療法:筋弛緩薬や抗不安薬の使用(必要に応じて)
終わりに
歯ぎしりは多因子性の現象であり、その原因解明には神経筋制御、心理的要素、咬合状態など多角的なアプローチが必要です。
早期の診断と適切な治療により、重篤な口腔・顎関節の疾患を未然に防ぐことが可能です。歯科医師と連携し、根本原因に対処することが、健康な咬合と快適な生活の維持にとって重要です。