2026年2月12日

(院長の徒然コラム)

はじめに:国民病「歯周病」の深部に潜む難敵
私たちの口腔内で静かに進行し、多くの成人にとって「国民病」とまで称される歯周病。
歯を支える骨が溶かされ、最終的には歯を失う原因となるこの病気は、日常のケアだけでは防ぎきれない複雑さを持っています。
その中でも特に、治療が困難とされる「根分岐部病変」は、歯周病が進行した際に現れる、まさに歯の生存を左右する重大な病変と言えるでしょう。
根分岐部病変は、特に複数の根を持つ歯(多根歯)に発生し、歯根と歯根の間の分岐部に歯周病が及んだ状態を指します。
この部位は解剖学的に非常に複雑であり、プラークコントロールが難しく、歯石も蓄積しやすいため、通常の歯周病治療では対応が困難となることが多いのです。
しかし、現代の歯科医療では、この根分岐部病変に対しても、様々な診断技術と治療法が確立されつつあります。
今回のコラムでは、日本歯周病学会が策定した最新の「歯周病患者における再生療法のガイドライン2023」を参考にしながら、根分岐部病変の基礎知識から診断、そして最先端の治療法に至るまでを、深く掘り下げて解説していきます。
この情報を通じて、読者の皆様がご自身の口腔健康に対する理解を深め、大切な歯を一生涯守っていくための一助となることを願っています。
根分岐部病変とは何か?:歯の構造から理解するその危険性
根分岐部病変とは、端的に言えば、歯周病によって歯を支える歯槽骨が破壊され、複数の根を持つ歯(多根歯)の根と根の間の分岐部分に、歯周組織破壊が及んだ状態を指します。
多根歯とは、主に奥歯である大臼歯(上顎は一般的に3根、下顎は2根)や一部の小臼歯に見られる特徴で、1本の歯冠から複数の根が分岐して生えている構造です。
この根分岐部は、歯周病菌にとって格好の隠れ家となります。
なぜなら、その解剖学的複雑性が、プラーク(歯垢)や歯石の除去を極めて困難にするからです。歯ブラシの毛先や歯科用の器具が届きにくく、また、歯根表面の凹凸や形態異常が存在することも多いため、細菌が増殖しやすい環境が形成されやすいのです。
根分岐部は、解剖学的に複雑な形態であり、患者さんによるプラークコントロールも、歯科医院での歯石除去も大変困難なため、根分岐部病変の進行度に伴い、その歯の生存率が低下することが報告されており、根分岐部病変の存在は、歯周病の管理を著しく困難にすると言えます。
根分岐部病変は単なる歯周病の進行形態ではなく、歯の予後(将来性)を大きく左右する重要な病態なのです。
根分岐部病変が進行すると、歯を支える歯槽骨がさらに吸収され、歯の動揺が大きくなったり、根の間に食渣が詰まりやすくなったり、さらに深い感染を引き起こしたりします。
これは、歯の抜歯につながる可能性が高まる、非常に危険なサインなのです。
根分岐部病変の進行度分類:その重症度を見極める
根分岐部病変の進行度を正確に診断することは、適切な治療法を選択するために不可欠です。ここではまず進行度の分類を解説していきます。
①1度:GradeⅠ(初期)
根分岐部にプローブ(探針)は入るが、歯の幅の1/3以内。
根と根の間の分岐部に探針がわずかに入る程度の初期段階。骨の吸収は軽微で、まだ歯周組織の破壊は広範囲には及んでいません。
できれば歯医者としてはこの段階で治療したいところです。
②2度:GradeⅡ(部分期)
根分岐部にプローブ(探針)が1/3以上入るが、貫通はしない。
探針が根分岐部に深く進入するものの、根分岐部を完全に貫通しない状態。
骨の吸収が進行しており、プラークや歯石の蓄積も顕著になります。この段階から治療の難易度が大きく上がります。
③3度:GradeⅢ(全体期)
根分岐部にプローブ(探針)を入れると、プローブが貫通する。
探針が根分岐部を完全に貫通する状態。歯槽骨の広範囲な破壊が起こっており、歯の動揺も大きくなることが多いです。
この段階では、歯の保存が非常に困難になるケースも少なくありません。
日本歯周病学会のガイドラインでも、進行度分類が用いられており、それぞれのグレードに応じた治療選択が推奨されています。
これらの分類は、単に深さを測るだけでなく、病変の形態や広がり、そして歯の動揺度なども総合的に評価するために用いられます。
この分類を通じて、病変の進行度を客観的に把握し、患者さん個々の状態に応じた最適な治療計画を立案することが、歯科医療の専門家には求められます。
患者さん自身も、これらの進行度について理解を深めることで、ご自身の歯の状態がどの段階にあるのかを把握し、歯科医師とのコミュニケーションをより円滑に進めることができるでしょう。
根分岐部病変の原因となるリスクファクター:なぜあなたの歯が危ないのか
根分岐部病変は、単なる歯周病の進行によってのみ引き起こされるわけではありません。
いくつかの特定の要因が重なることで、その発症リスクが高まり、病変の進行を加速させる可能性があります。
これらのリスクファクターを理解しておくことは、予防と早期発見、そして適切な治療に繋がります。
①プラークと歯石の蓄積
これは歯周病全体の最も基本的な原因であり、根分岐部病変においても例外ではありません。
根分岐部の複雑な形態は、プラークや歯石が蓄積しやすい環境を作り出します。
これらが除去されずにいると、歯周病菌が増殖し、炎症が慢性化することで歯槽骨の破壊が進行します。
②不適切な口腔衛生習慣
日常のブラッシングやデンタルフロスの使用が不十分であると、プラークコントロールがうまくいかず、歯周病リスクが高まります。
特に、根分岐部は通常のブラッシングでは届きにくいため、専門的な指導を受けて口腔清掃を行うことが必要となる場合があります。
③喫煙
喫煙は、歯周病の最大のリスクファクターの一つとして広く認識されています。
ニコチンは血管を収縮させ、歯肉への血流を悪化させることで、歯周組織の抵抗力を低下させます。
また、免疫機能にも悪影響を与え、炎症反応を抑制することで、歯周病の発見を遅らせたり、治療効果を低下させたりする可能性があります。
日本歯周病学会のガイドラインでも、歯周病治療の成功には禁煙が不可欠であることが示唆されています。
④糖尿病
糖尿病患者は、非糖尿病患者に比べて歯周病の発症リスクが高く、進行も速い傾向にあります。
血糖値が高い状態が続くと、歯周組織の炎症が慢性化しやすく、また感染に対する抵抗力も低下するため、根分岐部病変の発生や悪化に繋がりやすくなります。
⑤遺伝的要因
一部の人々には、遺伝的に歯周病にかかりやすい体質を持つことが知られています。
これは、特定の免疫応答遺伝子や炎症性サイトカインの産生に関わる遺伝子などが関与していると考えられています。
⑥歯の形態学的特徴
根分岐部病変のリスクを特に高めるのが、歯そのものの形態的特徴です。
⚫︎短い歯根幹部(ルートトランクが短い)
歯根と歯冠の境目から根が分岐するまでの距離が短い場合、歯槽骨の吸収がわずかでも起こると、すぐに根分岐部に病変が及びやすくなります。
⚫︎根の形態異常
歯根表面の溝など、その部位にプラークが蓄積しやすく、歯周組織が付着しにくいため、病変が発生しやすくなります。
⚫︎根の分離度
根と根の間隔が狭いと、清掃が困難になり、病変が進行しやすくなります。
⑦全身疾患と薬剤
骨粗しょう症などの全身疾患や、特定の薬剤(ステロイドなど)の使用も、歯周組織の健康状態に影響を与え、歯周病リスクを高める可能性があります。
これらのリスクファクターを総合的に評価し、個々の患者さんの状態に合わせた予防策や治療計画を立てることが、根分岐部病変の管理において極めて重要です。
根分岐部病変の正確な診断:見逃さないためのアプローチ
根分岐部病変の診断は、その複雑な形態ゆえに、一般的な歯周病の検査に加えて、より専門的で細かな評価が求められます。
正確な診断があって初めて、適切な治療法を選択し、歯の長期的な保存へと繋げることが可能となるのです。
①臨床検査
⚫︎プローブによる検査
⭐︎垂直的プロービング
歯周ポケットの深さを測る通常の検査に加え、根分岐部に到達したプローブを垂直方向に挿入し、ポケットの深さを測定します。
⭐︎水平的プロービング
根分岐部病変の診断において最も重要な検査の一つが、専用の根分岐部プローブ(曲がった形状の特殊な探針:ファーケーションブローブ)を用いた水平的プロービングです。
プローブを根と根の間の分岐部に水平に挿入し、その進入度合いによって病変の進行度(1度、2度、3度)を判定します。この検査は病変の重症度を客観的に評価するために不可欠です。
⭐︎歯の動揺度検査
歯のぐらつき(動揺)の程度を評価します。動揺度が大きい歯は、歯槽骨の破壊が広範囲に及んでいる可能性が高く、治療の難易度や予後に影響を与えます。
⭐︎歯肉の状態評価
歯肉の発赤、腫脹、出血、排膿などの炎症兆候を確認します。
②画像診断
⚫︎デンタルX線写真(根尖部X線写真)
個々の歯の詳細な情報を得るために撮影されます。
根分岐部周囲の骨吸収の有無、形態、範囲、そして歯根の形態や長さ、根管治療の状況などを確認できます。
ただし、平面の写真なので情報量は限られます。
⚫︎パノラマX線写真
口腔全体の歯や顎骨の状態を広範囲に把握できるため、複数の根分岐部病変の有無や、隣接する歯との関係性を評価するのに役立ちます。
⚫︎歯科用CT(コーンビームCT)
従来のX線写真では2次元的な情報しか得られませんでしたが、CTスキャンを用いることで、根分岐部周囲の骨欠損の形態を3次元的に詳細に評価できます。
これにより、骨欠損の奥行きや複雑な形態を正確に把握し、外科的治療計画をより精密に立てることが可能となります。
例えば、骨の壁がいくつ残っているか、再生療法が可能か、切除療法が適切かなどの判断に役立ちます。
③その他の検査
⚫︎細菌学的検査
歯周ポケット内の細菌の種類や量を調べることで、病原性の高い細菌の存在を確認し、抗菌療法などの補助的な治療の選択に役立てることがあります。
これらの臨床的、画像的、そして必要に応じた補助的な検査を総合的に行うことで、根分岐部病変の正確な診断が可能となり、患者さんにとって最善の治療方針を導き出すことができるのです。
根分岐部病変の治療法:保存か、切除か、再生か
根分岐部病変の治療は、その進行度、患者さんの全身状態、口腔衛生状態、そして歯の形態など、多くの要因を考慮して総合的に判断されます。
基本的に、治療の目的は、病変部位の清掃性を改善し、プラークの蓄積を防ぎ、歯周組織の炎症を抑制すること、そして可能であれば破壊された歯周組織を再生させることにあります。
①非外科的治療(保存療法)
初期段階の根分岐部病変(特に1度病変)や、外科的治療が困難なケースにおいて選択されることがあります。
⚫︎スケーリング・ルートプレーニング(SRP)
歯周ポケット内の歯石や感染したセメント質を除去し、歯根表面を滑らかにする治療です。
これにより、歯周病菌の数を減らし、歯肉の炎症を抑制します。しかし、根分岐部の複雑な形態のため、器具が届きにくく、完全な清掃は困難な場合があります。
正直、SRP単独では限界があります。
⚫︎プラークコントロールの徹底
患者さん自身による適切なブラッシングやデンタルフロスの使用は、治療の成否を左右する最も重要な要素です。
根分岐部病変においては、歯間ブラシやタフトブラシなど、特殊な清掃器具の使用指導が不可欠となります。
⚫︎SPT (Supportive Periodontal Therapy) / 定期的なメインテナンス
1度(軽度)の根分岐部病変を伴う歯周病については、SPT (Supportive Periodontal Therapy) によって経過観察を行うこともあります。
治療後も、定期的な専門家による清掃と検査を受け、病変の再発や進行を早期に発見し、対処することが重要です。
⚫︎ブルーラジカル治療
3%の過酸化水素と405nmの青色レーザー光を組み合わせ、活性酸素の力で重度歯周病の原因菌を99.99%殺菌するという日本で初めて厚生労働省が認定した非外科的治療法です。
中程度の歯周病には非常に有効(むしろ最優といえます)ですが、光の届かない分岐部病変に対しては、効果が減弱し、これだけでは治らない場合が多いです。
※ブルーラジカル治療について
過酸化水素水は、活性酸素を放出しますが、特定波長の青色レーザーが当たると活性酸素の発生が促進されます。
ですが、レーザー照射口はチップ先端についているわけではなく、根本についているため、レーザーの当たる部分にしか99.99%除菌効果は発揮されません。(メーカー確認済)
ですので、通常の歯周ポケットには有効な手段ですが、レーザー光の当たらない分岐部は効果は著しく減少します。
組織の再生を促進するわけでもないので、あくまでも非常に優秀なSRP効果とお考えください。(手の届く範囲はすごく殺菌できる。)
素晴らしい治療ではありますが「魔法の治療」ではないことにご注意ください。
メリットしか言わない歯医者にはご注意を…
②外科的治療
非外科的治療で効果が得られない場合や、より進行した根分岐部病変(2度、3度病変)に対して行われます。
日本歯周病学会のガイドラインでは「II度以上の根分岐部病変」に対して、再生療法か切除療法を選択するチャートが示されています。
(1) 歯周組織再生療法(Regenerative Therapy)
失われた歯周組織(歯槽骨、セメント質、歯根膜)を再生させることを目的とした治療法です。
特に、骨欠損の形態が再生に適している場合に高い効果が期待されます。
⚫︎GTR法 (Guided Tissue Regeneration: 組織誘導再生法)
メンブレン(人工膜)を用いて、歯根面に歯肉の上皮細胞や結合組織細胞が侵入するのを防ぎ、歯周組織を形成する能力を持つ細胞(歯根膜細胞や骨芽細胞)が優先的に増殖できるスペースを確保することで、失われた歯槽骨や歯根膜、セメント質の再生を促します。
日本歯周病学会のガイドラインでは、「GTR法:2度根分岐部病変に対して、吸収性膜を用いたGTR法を行うことを推奨する」とされており、「推奨の強さ:強い推奨」「エビデンスの確実性:中」と評価されています。
吸収性膜は体内で自然に吸収されるため、除去手術が不要な点がメリットです。
⚫︎EMD (Enamel Matrix Derivative: エナメルマトリックスタンパク質誘導体)
歯が発生する際に存在するエナメル質形成に必要なタンパク質を歯根面に塗布することで、歯周組織の再生を促します。
これは歯周組織の形成を模倣する作用を持つと考えられています。
日本歯周病学会のガイドラインでは、「EMD:2度根分岐部病変に対して、EMDを用いることを推奨する」とされており、「推奨の強さ:強い推奨」「エビデンスの確実性:中」と評価されています。
⚫︎FGF-2 (Basic Fibroblast Growth Factor: 塩基性線維芽細胞増殖因子)
特定の成長因子を応用し、歯周組織の再生能力を高める治療です。骨の再生を促進する効果が期待されます。
日本歯周病学会のガイドラインでは、「FGF-2:2度根分岐部病変に対して、FGF-2を用いることを推奨する」とされており、「推奨の強さ:強い推奨」「エビデンスの確実性:中」と評価されています。
ただし、3度根分岐部病変に対するFGF-2の適用については、「有効なエビデンスがないため、歯周組織再生療法を行わないことを強く推奨する」と明記されており、適応症の厳密な見極めが重要です。
⚫︎再生療法の適応症と非適応症
再生療法が上手くいく可能性が高い条件として「プラークコントロールが良好」「非喫煙者」「他部位の歯周病進行度が低い」「全身的健康」「歯根の数が少ない(下顎大臼歯)」「根分岐部病変の進行が重度ではない」「歯根同士が近すぎずほどよく離れている」などが挙げられます。
再生療法は、患者さんの全身状態と口腔衛生状態が良好で、かつ病変の形態が再生に適している場合に、成功率が高まることを示しています。
⚫︎歯周組織再生療法のリスク
歯周組織再生療法によって、一時的な歯肉退縮や動揺の増加が見られる可能性のあります。
再生療法は高度な技術を要し、術後の合併症や、期待通りの再生が得られない可能性も存在します。そのため、
術前の十分な説明と、熟練した歯科医師による治療が不可欠です。
(2) 切除療法(Resective Therapy)
病変部位の歯根の一部を切除したり、歯の形態を修正したりすることで、プラークコントロールを容易にし、病変の進行を抑制する治療法です。
再生が困難な場合や、特定の条件下で選択されます。
⚫︎ルートセパレーション(歯根分割術)
複数の根を持つ歯を、根分岐部に沿って分割し、独立した単根歯のように扱う方法です。
これにより、根分岐部の清掃性を改善し、歯周病の進行を食い止めます。
分割された歯根はそれぞれ補綴物で覆われることが多いです。
感染が歯髄、髄床底にまで及んでいる場合など、再生が困難なケースでの有効な選択肢となります。
⚫︎ルートセクション(歯根切除術)
病的に侵された歯根の一部または全体を切除する方法です。
健全な歯根が残っていれば、それを保存することで歯の機能を維持します。
⚫︎トンネリング(Tunneling)
根分岐部を貫通する形で、歯肉と歯槽骨を整形し、清掃しやすい「トンネル」状の形態を作る方法です。
特に下顎大臼歯の根分岐部に適応されることがありますが、長期的な予後は、患者さんのプラークコントロール能力に大きく依存します。
⚫︎切除療法の適応症
切除療法は、歯の動揺度が大きい場合や、骨欠損の形態が再生に適さない場合、また、特定の歯根にのみ重度の病変がある場合などに選択されます。
再生治療の適用ではないケース(過度の動揺がある場合や、根分岐の形態が再生に適さない場合)で、切除療法や抜歯が選択されることがあります。
(3) 抜歯(Extraction)
他の治療法では歯の保存が不可能と判断された場合、あるいは歯周病が進行しすぎて歯の機能回復が見込めない場合、患者さんの全身状態や経済的負担などを考慮して、最終手段として抜歯が選択されます。
特に、3度病変で歯の動揺が著しい場合や、根分岐部病変が他の歯周組織に深刻な悪影響を及ぼしている場合などが挙げられます。
抜歯は避けたい最終手段でありながらも、時には他の歯を守るために必要な選択となることを示唆しています。
ただ他院で抜歯と言われてしまった方も、是非当院にご相談ください。
※抜歯の判断基準
日本歯周病学会のガイドラインのフローチャートにおいても、「過度の動揺がある」場合には、「妥協的メインテナンス」または「抜歯」が選択肢として提示されており、歯の保存が非常に困難な状況が示されています。
また、再生療法に関しても、3度根分岐部病変に対する有効なエビデンスが現行ないので、歯周組織再生療法を行わないことが推奨され、抜歯を含めた他の治療法の検討が促されています。
抜歯後の選択肢としては、欠損部を補うために、インプラント、ブリッジ、または義歯などの補綴治療が必要となります。
特に、歯周病で失われた歯の周囲の骨は脆弱である場合が多く、インプラント治療には十分な骨量や骨質の評価が不可欠です。
根分岐部病変治療の成功を支える長期的な視点とメンテナンス
根分岐部病変の治療は、単に外科処置や再生療法を行うだけで完結するものではありません。
治療後の長期的な予後を良好に保つためには、患者さん自身のセルフケアと、歯科医院での継続的なプロフェッショナルケアが不可欠です。
①治療後の口腔衛生管理(セルフケア)
治療によって根分岐部の清掃性が改善されたとしても、再びプラークや歯石が蓄積すれば、病変は再発してしまいます。
⚫︎マンツーマンでブラッシング指導
通常の歯ブラシだけでなく、歯間ブラシやタフトブラシなど、根分岐部の複雑な形態に合わせた清掃器具の正しい使用方法を習得することが重要です。
歯科衛生士による丁寧な指導を受け、日々のケアに実践することが求められます。
⚫︎フッ化物配合歯磨剤の使用
フッ化物は、歯質の強化や再石灰化を促進し、虫歯予防にも効果的です。
根分岐部病変治療後の歯根面は、虫歯のリスクが高まることがあるため、積極的な使用が推奨されます。
②定期的なプロフェッショナルケア(メインテナンス、SPT)
患者さんのセルフケアだけでは除去しきれないプラークや歯石は、歯科医院での専門的な清掃によって除去する必要があります。
⚫︎定期検診とPMTC (Professional Mechanical Tooth Cleaning)
数ヶ月に一度の定期検診では、歯周組織の状態を評価し、根分岐部病変の再発や進行の兆候がないかを確認します。
また、歯科衛生士によるPMTCでは、専用の器具を使って、歯ブラシでは届きにくい部位のプラークやバイオフィルムを徹底的に除去します。
⚫︎X線写真による経過観察
必要に応じてX線写真を撮影し、根分岐部周囲の骨の状態に変化がないかを確認します。
これにより、初期の骨吸収の進行を見逃さずに対応することができます。
X線写真による客観的な評価は予後の状況維持に非常に重要なのです。
⚫︎リスクファクターの再評価
喫煙、糖尿病などの全身状態、口腔衛生習慣など、根分岐部病変のリスクファクターを定期的に評価し、必要に応じて患者さんへの指導や情報提供を行います。
根分岐部病変の治療における課題と将来の展望
根分岐部病変の治療は、現代の歯科医療においても依然として多くの課題を抱えています。
【治療における課題】
①解剖学的複雑性
根分岐部の複雑な形態は、外科器具の操作を困難にし、術野の確保も容易ではありません。
また、歯根の数や形態、分岐角度なども患者さんごとに異なるため、一律の治療法では対応しきれない場合があります。
②術者の技術と経験への依存
再生療法や切除療法といった高度な外科処置は、術者の豊富な知識、技術、経験に大きく依存します。
そのため、治療結果にばらつきが生じる可能性があります。
③患者側の要因
患者さんの口腔衛生状態、全身疾患(糖尿病など)、喫煙習慣などは、治療効果に大きな影響を与えます。
特に、治療後のプラークコントロールが不十分な場合、再発のリスクは高まります。
④コストと保険適用
根分岐部病変の治療は、高度な技術や材料を要するため、治療費が高額になることがあります。
また、一部の先進的な再生療法材料は保険適用外であるため、患者さんの経済的負担が大きくなることも課題です。
⑤長期的な予後予測
再生療法によって組織が再生したとしても、その長期的な安定性や機能が完全に保証されるわけではありません。
治療後の組織の維持には、継続的な観察とメンテナンスが不可欠です。
終わりに:根分岐部病変と向き合い、健康な未来を築くために
根分岐部病変は、歯周病が進行した際に現れる、多根歯の根と根の分岐部に及ぶ組織破壊であり、その解剖学的複雑性から治療が非常に困難とされる病態です。
しかし、現代の歯科医療は、この難所に対しても、診断技術の進歩と多様な治療法の開発によって、多くの解決策を提供できるようになっています。
本コラムを通じて、根分岐部病変の基礎知識から、プローブによる進行度分類、X線写真やCTを用いた画像診断の重要性、そして保存療法、再生療法、切除療法、そして抜歯に至るまで、多岐にわたる治療法について深くご理解いただければ幸いです。
特に、日本歯周病学会の「歯周病患者における再生療法のガイドライン2023」が示すエビデンスに基づいた推奨や、治療チャートは、歯科医療の専門家が患者さんの歯を救うためにいかに総合的かつ戦略的にアプローチしているかを物語っています。
重要なことは、根分岐部病変は早期発見と早期治療が極めて重要であるという点です。
初期段階であれば、SRPや適切なプラークコントロールといった非外科的治療で管理できる可能性があり、病変が進行した場合でも、再生療法や切除療法によって歯を保存できるチャンスがあります。
しかし、病変が進行しすぎると、最終的に抜歯という選択を避けられなくなることもあります。
患者さん自身が、自身の口腔内に目を向け、定期的な歯科検診を怠らないこと。そして、歯科医師や歯科衛生士と密接に連携し、適切なセルフケアとプロフェッショナルケアを継続すること。
これら全てが、根分岐部病変の進行を食い止め、大切な歯を一生涯守っていくための不可欠な要素となります。
根分岐部病変は決して諦めるべき病気ではありません。
正しい知識を持ち、信頼できる専門家と共に歩むことで、この難敵と効果的に向き合い、健康で豊かな未来を築き上げていくことが可能となります。
ご自身の歯の健康を守るために、今回で得た知識を活かし、積極的な行動を起こしてください。
