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唾石症の原因と症状と治療:舌の下の粘膜が突然腫れた

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2026年3月21日

唾石症の原因と症状と治療:舌の下の粘膜が突然腫れた

(院長の徒然コラム)

はじめに

私たちの健康にとって不可欠な唾液。

その通り道である唾液腺や唾液管に、時に「石」が形成されることがあります。

これが「唾石(だせき)」と呼ばれるもので、唾液の流れを妨げ、様々な不快な症状を引き起こす疾患を「唾石症(だせきしょう)」と呼びます。

唾石症は、決して稀な疾患ではありません。

口腔外科や耳鼻咽喉科の診療室では日常的に遭遇する疾患であり、その症状が歯科を受診するきっかけとなることも少なくありません。

今回のコラムでは、唾石症の基本的な知識から、原因や診断・治療法、そして歯科医師が果たすべき役割について、エビデンスを交えながら詳しく解説していきます。

唾石症とは何か? その基礎知識

まず、私たちの体には大きく分けて3種類の唾液腺があります。

耳の前下にある「耳下腺(じかせん)」、下顎骨の内側にある「顎下腺(がくかせん)」、舌の下にある「舌下腺(ぜっかせん)」の3つの大唾液腺と、その他口腔内に散らばる小唾液腺です。

これらの唾液腺から分泌される唾液は、食べ物の消化を助け、口腔内を潤し、虫歯や歯周病から守るなど、重要な役割を担っています。

唾石の定義と形成機序

唾石は、脱落した上皮細胞や口腔内に迷入した異物、細菌などを核として、その周囲にリン酸カルシウムや炭酸カルシウムなどが同心円状に層状に沈着することで形成されます。

まるで真珠の層が形成されるように、徐々に大きくなっていくのです。

好発部位と症状

唾石の発生部位には特徴があります。日本の多くの報告によると、唾石の9割以上が顎下腺に発生するとされています。

これは、顎下腺から分泌される唾液が粘稠度が高く、唾液管が長く、重力に逆らって唾液を排出するため、唾液の流れが滞りやすいためと考えられています。

しかし、欧米の一部の報告では、耳下腺唾石の割合が30〜40%にも上るとされており、人種や食生活などの違いも影響している可能性があります。

唾石症の主な症状は、食事中に顎の下や耳の下が腫れ、痛みを伴う「唾液疝痛(だえきせんつう)」です。

これは、食事中に唾液の分泌が活発になることで、唾石が唾液の流れを堰き止め、唾液腺がパンパンに腫れ上がるために起こります。

食事が終わると症状が治まることが多いため、一時的なものと見過ごされがちですが、何度も繰り返す場合は唾石症を疑うべきです。

さらに、唾液の流れが慢性的に滞ると、唾液腺内に細菌が感染しやすくなり、「急性化膿性唾液腺炎(きゅうせいかのうせいだえきせんえん)」を引き起こすこともあります。

この場合、患部の強い痛み、発熱、腫れに加え、唾液腺の開口部から膿が排出されることもあります。

歯科医師の役割

これらの症状を訴える患者さんは、まず歯科医院を受診することが少なくありません。

歯科医師は、問診(食事時の痛みや腫れの有無、繰り返し方)、視診(口腔底粘膜からの唾石の透見、開口部からの唾液排出状況)、触診(唾石の触知、唾液腺の腫脹や硬結の確認)を通じて、唾石症を疑うことが重要です。

顎下腺に唾石がある場合、口腔底を触診することで、硬い石状の塊を触知できることがあります。

唾石症の確実な診断:画像診断の活用

唾石症の診断には、唾石の有無だけでなく、その位置、大きさ、数、周囲組織との関係性を正確に把握することが不可欠です。

そのため、様々な画像診断が用いられます。

1. 単純X線撮影

歯科医院で一般的に行われるパノラマX線写真やデンタルX線写真でも、唾石が写り込むことがあります。

顎下腺唾石の約90%はカルシウムを多く含むため、X線に白く写る「放射線不透過性」であり、比較的発見しやすいとされています。

しかし、耳下腺唾石の約90%は放射線透過性(X線に写りにくい)であるため、単純X線だけで診断を下すのは困難な場合があります。

また、金属補綴物などが重なることで、小さな唾石が見えにくくなることもあります。

2. 超音波検査

超音波検査は、非侵襲的で患者への負担が少なく、放射線被曝もないため、近年唾石症の診断に広く用いられています。

超音波では、唾石は点状の高エコー像(白く明るい像)として描出され、その奥に音響陰影(黒い影)を伴うことが特徴的です。

超音波検査の感度は60〜95%、特異度は85〜100%と非常に高い精度を誇ります。

特に、直径2mm以上の唾石であれば、ほぼ検出可能とされており、X線に写りにくい放射線透過性の唾石も検出できる利点があります。

唾石の有無だけでなく、唾液腺自体の腫脹や炎症の有無、唾液管の拡張なども同時に評価できるため、非常に有用な検査です。

3. CT(Computed Tomography)

CTは、石灰化病変である唾石の検出に非常に優れています。

唾石の位置(唾液腺内、唾液管内、開口部付近、移行部など)、数、大きさ、そして周囲組織との関係性を三次元的に詳細に把握することができます。

特に、唾液管の走行と一致する石灰化病変として描出されることが多いです。膿瘍形成の有無など、感染状況の評価にも有用であり、治療計画を立てる上で欠かせない情報を提供します。

造影剤を使用しないCTでも十分な情報が得られることが多いですが、炎症の評価には造影CTが選択されることもあります。

4. MRI(Magnetic Resonance Imaging)/MR Sialography

MRIは、放射線被曝がなく、唾液腺や唾液管の軟部組織を詳細に描出できる検査です。

特にMR Sialography(MR唾液腺造影)は、造影剤を使わずに唾液腺の導管構造を評価できる画期的な方法です。

これは、唾液の強いT2強調像を強調することで、拡張した唾液管や狭窄、唾石を非侵襲的に描出することができます。

MRIは唾石の検出において、感度・特異度ともに90%以上と非常に高いと報告されており、小さな唾石や唾液管の奥深くにある唾石の検出に特に有用です。

造影剤アレルギーがある患者さんや、急性炎症で唾液腺造影ができない場合にも適応となります。

5. 唾液腺造影(Sialography)

唾液腺造影は、唾液管開口部から造影剤を逆行性に注入し、X線撮影を行う検査です。

唾液管の拡張や狭窄、唾石による欠損像などを直接的に確認でき、慢性炎症やシェーグレン症候群などの診断にも有用でした。

しかし、侵襲性があり、ヨードアレルギーや急性炎症時には禁忌となるため、超音波やMRIの普及により、近年は施行頻度が減少傾向にあります。

唾石症の治療法:患者に合わせた選択

唾石症の治療法は、唾石の大きさ、位置、症状、そして患者さんの希望によって多岐にわたります。

低侵襲な方法から、より侵襲的な外科的治療まで、いくつかの選択肢があります。

1. 保存的治療

症状が軽度で、小さな唾石の場合、唾液分泌促進(唾液腺マッサージ、酸っぱいものを食べる)、水分補給、抗炎症剤の使用などで経過を観察することもあります。

しかし、唾石が存在する限り、再発のリスクは常に伴います。

2. 口内法による唾石摘出術(Transoral Surgery)

口内法は、口腔内からアプローチして唾石を摘出する方法です。

特に、浅在性で触知可能な顎下腺移行部唾石やワルトン管内唾石に適応されます。

顎下腺全摘術と比較して低侵襲であり、高度な内視鏡機器を必要としないため、低コストで実施可能である点が大きな利点です。

手術時間も平均70分程度で、在院日数も平均4日と短期間で済みます。

術後の早期合併症としては、軽度発熱、顎下部腫脹、舌のしびれ、開口障害、軽度喉頭浮腫、咽頭側索浮腫などが認められることがあります。

顎下腺移行部唾石に対する口内法手術は低侵襲で安全かつ低コストな治療法ではあるのですが、術野が狭いことや舌神経の操作が必要となるため、熟練した技術が求められます。

3. 唾液腺内視鏡(Sialendoscopy)

近年、耳鼻咽喉科領域では唾液腺内視鏡を用いた治療が急速に普及しています。

口径1mm台の極細の内視鏡を唾液管に挿入し、唾石を直接観察しながら、バスケットカテーテルや鉗子で摘出する方法です。

理論上は最も低侵襲な方法であり、唾液腺を温存できる利点があります。

内視鏡単独での摘出は、通常5mm以下の小さな唾石に適しています。

しかし、5mm以上の唾石は摘出が困難な場合が多く、その場合は「ホルミウムYAG(Ho-YAG)レーザー」を用いて唾石を砕いてから摘出を試みます。

このHo-YAGレーザーは泌尿器科領域の結石治療で広く用いられているもので、その導入には高額なイニシャルコストがかかるため、全ての施設で実施できるわけではありません。

また、レーザーによる唾液管の狭窄や穿孔のリスクも指摘されています。

内視鏡単独で摘出可能な唾石症例は35〜40%程度と報告されています。

内視鏡の径については、顎下腺管には1.6mm、耳下腺管には1.3mmのものが使われることが多いです。

4.複合的治療(Combined Approach)

唾液腺内視鏡と口内法手術の利点を組み合わせた治療法です。

内視鏡で唾石の位置を確認しながら、口腔内を切開して摘出する方法や、大きな唾石をレーザーで破砕した後、内視鏡または口内法で摘出する方法などが含まれます。

触知不能な小さい唾石や、内視鏡単独では摘出が難しい大きな唾石に対して有効であり、低侵襲性と確実性を両立させるアプローチとして注目されています。

5. 顎下腺全摘術(Open Gland Excision)

唾石が非常に大きく、唾液腺の奥深くに存在する場合、または唾液腺の慢性的な炎症が重度で機能が失われている場合などには、顎下腺全体を摘出する手術が選択されます。

これは最も確実な治療法ですが、頸部を切開する必要があり、顔面神経の下顎縁枝麻痺(口角が下がるなどの症状)や手術痕が残るリスクが伴うため、上記のような低侵襲治療が普及するにつれて、選択される頻度は減少傾向にあります。

治療選択のフロー:歯科医師の視点から

唾石症の患者さんを診察した際、歯科医師はどのようなステップで治療方針を検討し、患者さんに説明すべきでしょうか。

①初期診断と情報収集

問診で症状の詳細を把握し、食事との関連性を確認します。

視診と触診で、口腔底粘膜からの唾石の透見、唾液腺の腫脹、硬結、唾液の排出状況などを確認します。

また、パノラマX線写真などで、唾石の有無や位置を確認します。

②専門医への紹介

パノラマX線写真で唾石が確認された場合、または超音波検査やCTなど、より詳細な画像診断が必要と判断された場合、耳鼻咽喉科や口腔外科の専門医へ紹介します。

特に、触診で唾石が触知できない場合、唾液腺の深部に唾石が存在する可能性が高い場合、再発を繰り返す場合、感染を伴っている場合は、専門医への紹介が必須です。

③治療法の検討(専門医との連携)

紹介先の専門医は、画像診断の結果(唾石の大きさ、位置、数)に基づき、以下の手順に沿って治療法を検討します。

⚫︎触知可能な唾石(特に顎下腺移行部唾石)

口内法による唾石摘出術が第一選択となります。

低侵襲で安全かつ低コストであり、多くの症例で良好な結果が期待できます。

患者さんには、術後の舌のしびれや腫脹などの一時的な合併症の可能性を説明します。

⚫︎触知不能な唾石、または口腔底からのアプローチが困難な唾石

5mm以下の唾石であれば、唾液腺内視鏡単独での摘出が検討されます。

5mmを超える唾石や、内視鏡単独での摘出が困難な場合は、複合的治療(内視鏡補助下の口内法または外切開)が検討されます。

この場合、Ho-YAGレーザーの使用も考慮されます。

⚫︎非常に深く、広範囲にわたる唾石や、唾液腺自体の機能が著しく低下している場合は、顎下腺全摘術が選択されることがあります。

その際は、侵襲性や合併症(顔面神経麻痺、手術痕)のリスクを十分に説明する必要があります。

④インフォームドコンセント

最終的な治療法の選択にあたっては、各治療法のメリット・デメリット、予測される経過、合併症のリスクなどを、専門医から患者さんへ丁寧に説明し、十分なインフォームドコンセントを得ることが重要です。

歯科医師も、この説明プロセスに協力し、患者さんの疑問に答える役割を担います。

歯科医師に求められる役割と他科との連携

唾石症の診断と治療において、歯科医師は非常に重要な役割を担います。

①早期発見と初期診断

患者さんが食事時の痛みや腫れを訴えた際、唾石症を鑑別診断の一つとして考慮し、的確な問診、視診、触診、X線検査を行うことで、早期に疾患を発見することができます。

特に、口腔底の触診は、唾石の存在を直接確認できる重要な手技です。

②患者への情報提供と心理的サポート

唾石症の可能性を患者さんに説明し、不安を軽減するための情報提供を行います。

また、専門医への紹介の必要性とその理由を丁寧に説明し、適切な医療へと繋げます。

③専門医との連携

診断に必要な情報(患者の症状、初診時の所見、既往歴、服用薬など)を適切に提供し、紹介先の耳鼻咽喉科医や口腔外科医との密な連携を図ります。

治療計画についても、必要に応じて連携医と情報共有し、患者さんが安心して治療を受けられるようサポートします。

多くの耳鼻咽喉科施設では、顎下腺移行部唾石に対して、いまだ顎下腺全摘術を選択している現状があると言われています。

しかし、口内法が低侵襲で安全かつ低コストな代替手段であることを示しており、低侵襲手術の普及が強く望まれています。

歯科医師がこの現状を理解し、適切なタイミングで専門医に紹介することで、患者さんはより適切な低侵襲治療を受ける機会を得られる可能性が高まります。

終わりに

唾石症は、唾液腺の障害の中でも比較的頻度の高い疾患であり、患者さんの生活の質(QOL)に大きく影響を与えます。

歯科医師は、その症状を初期に発見し、的確な診断を行い、適切な専門医へと患者さんを導く「ゲートキーパー」としての役割を果たすことが期待されます。

近年の医療技術の進歩により、唾液腺内視鏡や低侵襲な口内法による摘出術など、患者さんの負担を軽減しながら唾石を除去できる治療法が普及しつつあります。

これらの治療選択肢を理解し、個々の患者さんの状態に合わせた最適な治療法を、専門医と連携しながら提供していくことが、私たち医療従事者の使命です。

このコラムを通じて、唾石症への理解を深め、適切な診断と治療選択が、多くの患者さんの口腔の健康と全身のQOL向上に繋がることを願っています。

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