2026年2月28日

(院長の徒然コラム)

序章:はじめに
私たちの口の中には、通常、乳歯が20本、永久歯が28本(親知らずを含めると32本)生えてきます。
しかし、中には「標準の歯の数よりも多く歯が生えてくる」という現象が起こることがあります。これが「過剰歯(かじょうし)」です。
「え、歯が多いってどういうこと?」と驚かれる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、この過剰歯は決して珍しいものではなく、歯科臨床の現場では比較的遭遇する機会の多い疾患の一つです。
特に、歯が生え変わる時期のお子さんの歯並びの相談や、大人の原因不明の口腔内不調の検査で発見されることも少なくありません。
今回のコラムでは、この「過剰歯」について、その実態、なぜ問題になるのか、そしてどのように向き合っていくべきかについて、詳しく掘り下げていきたいと思います。
第1章:過剰歯とは? その種類と発生要因
過剰歯とは、その名の通り「標準の歯の数よりも過剰に形成された歯」のことを指します。
主に、歯の元となる「歯胚(しはい)」が過剰に形成されることによって生じる硬組織疾患です。
①発生部位
過剰歯は口の中の様々な場所に発生する可能性がありますが、最も多く見られるのは「上顎前歯部」です。
特に、上顎の真ん中の前歯(正中切歯)の間に発生するものが多く、「正中過剰歯(せいちゅうかじょうし)」と呼ばれます。
②過剰歯の形態
過剰歯は、その形によっていくつか種類に分けられます。
⚫︎円錐歯(えんすいし):円錐形をしており、比較的小さい。
⚫︎結節歯(けっせつし):複数の結節を持つ。
⚫︎臼歯状歯(きゅうしじょうし):通常の臼歯に似た形をしている。
⚫︎補足歯(ほそくし):通常の歯と区別がつかないほど形が似ている。
特に上顎正中過剰歯では、円錐歯や結節歯が多く見られます。
一般的に埋伏している過剰歯は、形が不完全なものが多いとされています。
③発生の原因
過剰歯の発生メカニズムは、実はまだ完全に解明されているわけではありません。しかし、いくつかの説が提唱されています。
⚫︎歯胚の過形成説
歯の発生を促す「歯堤(しほう)」という組織が過剰に活動し、余分な歯胚ができてしまうという説です。
⚫︎隔世遺伝説(かくせいいでんせつ)
人類が進化の過程で歯の数を減らしてきた中で、ごく稀に祖先の多い歯の形質が発現するという説です。
⚫︎遺伝的要因と環境要因
特定の遺伝的因子や、妊娠中の母体の健康状態、栄養状態などが影響するという説も指摘されています。
過剰歯は「歯胚が過剰に形成され歯数異常をきたす硬組織疾患」と定義されており、これらの発生要因が複雑に絡み合っている可能性が示唆されています。
また、口唇裂・口蓋裂、ガードナー症候群、ダウン症候群、鎖骨頭蓋異形成症などの全身疾患との関連も報告されています。
④発生部位と頻度
過剰歯は30人から40人に1人の割合(2〜5%)で見られます。
女性より男性に多い傾向にあります。
研究によると、よく発生する場所は上の前歯が49.2%で、一番多く、それに続いて上の奥歯が37.8%、下の奥歯は6.6%くらいの割合で発生します。
乳歯に関しては、過剰歯が見つかることはほとんどないのも特徴です。
第2章:過剰歯はなぜ問題になるの?放置のリスク
過剰歯が見つかっても、痛みや違和感がなければ「放っておいても大丈夫なのでは?」と思われるかもしれません。
しかし、多くの過剰歯、特に上顎正中部に埋まっている過剰歯は、放置すると様々なトラブルを引き起こすリスクがあります。
①歯列不正(歯並びの問題)
⚫︎正中離開(せいちゅうりかい)
上顎の真ん中の前歯の間が大きく開いてしまう状態です。ある研究では過剰歯が原因で正中離開が生じた症例が約15%に認められています。
⚫︎永久歯の萌出遅延(ほうしゅつちえん)
本来生えてくるはずの永久歯が、過剰歯に邪魔されてなかなか生えてこない、あるいは生える方向がずれてしまうことがあります。
これについても研究で、過剰歯が原因で後継永久歯萌出遅延が11.6%の症例で見られました。
⚫︎転位・埋伏
永久歯が過剰歯のために正しい位置に生えられず、他の場所にずれて生えてきたり、骨の中に埋まったままになってしまったりすることもあります。
②隣在歯への影響
⚫︎歯根吸収(しこんきゅうしゅう)
過剰歯が隣接する永久歯の根に触れ続けることで、永久歯の根が溶けてしまうことがあります。
これは永久歯の寿命を縮める重大な問題です。研究では過剰歯が原因で隣在歯根吸収が7.8%の症例で確認されています。
⚫︎歯周組織への影響
過剰歯が部分的に萌出している場合、その周りに食べカスが詰まりやすくなり、炎症(歯肉の腫れなど)を引き起こすことがあります。
③嚢胞形成(のうほうけいせい)
過剰歯の周りに「嚢胞(のうほう)」と呼ばれる袋状の組織ができることがあります。
この嚢胞は徐々に大きくなり、周囲の骨を溶かしたり、他の歯を圧迫したりする可能性があります。
これまた研究では、過剰歯が原因で嚢胞形成が3.5%の症例に認められ、中には上顎洞や鼻腔への圧排性変化を伴う巨大な嚢胞形成症例も報告されています。
④その他
⚫︎鼻腔内萌出(びくうないほうしゅつ)
稀に、過剰歯が上顎の骨を突き破って鼻腔内に生えてしまうこともあります。
研究では、過剰歯が原因で4.7%の症例で鼻腔内萌出が発生確認されています。
⚫︎疼痛・違和感
特に成人期に発見される過剰歯では、周囲の歯肉の痛みや腫れ、あるいは原因不明の違和感を訴えるケースも少なくありません。
15歳以上の患者において、この疼痛や違和感が受診のきっかけとなるケースが59.2%と最も多く、注目すべき点です。
第3章:最新の臨床データから見る過剰歯の真実
それでは過剰歯の具体的な実態を見ていきましょう。
①性差:男性に多い傾向
過剰歯は性差があることが指摘されてきましたが、ある研究では男性が68.2%に対し女性が31.8%と、男性が女性の2倍以上も多く認められることが示されました。
この傾向は、過剰歯の発生には男性ホルモンや遺伝的要因が関与している可能性が示唆されます。
②過剰歯数:多くは1本
過剰歯の数については、1本のみの症例が80.2%と最も多く、2本の症例が19.8%であったという報告が、研究ではされています。
複数本の過剰歯を持つケースも約2割存在するため、注意が必要です。
③萌出方向:逆生が多数
過剰歯が骨の中に埋まっている場合、その歯冠(頭の部分)がどの方向を向いているかによって、「逆生(歯根の方向を向いている)」、「順生(歯冠の方向を向いている)」、「水平(横を向いている)」に分類されます。
1本の過剰歯の場合では、逆生が71.5%と最も多く、次いで順生18.4%、水平10.1%でした。
逆生で埋まっている過剰歯は、自然に萌出することが期待しにくく、合併症を引き起こしやすいため、特に注意が必要です。
④過剰歯発見の経緯:年代による違い
過剰歯が発見される経緯は、年齢層によって異なることが多いです。
⚫︎15歳未満の小児の場合
矯正治療前の検査で発見されるケースや、歯列不正(正中離開、後継永久歯萌出遅延など)を主訴として受診し、過剰歯が原因と判明するケースが全体の64.1%を占めていました。
また、歯科治療時のX線写真撮影で偶然発見されるケースも30.6%と多かったようです。
⚫︎15歳以上の成人の場合
過剰埋伏歯周囲の歯肉の痛みや違和感を主訴として受診するケースが59.2%と最も多く、次いで歯科治療時のX線写真撮影による偶発的発見が26.5%でした。
このデータは、小児期は歯並びの問題、成人期は痛みや違和感が受診の動機となる傾向があることを示しており、それぞれの年代に応じたアプローチの重要性を示唆しています。
⑤垂直的位置と成長の関係:10歳前後の深部移動に注意
過剰歯が骨の中でどれくらいの深さに位置しているか(垂直的位置)と、抜歯時の年齢との関係も大事なチェックポイントです。
ある研究では、CT画像を用いて鼻腔底から上顎歯槽骨頂までの長さを3等分し、Type I(最も鼻腔側)、Type II(中間)、Type III(最も口腔側)に分類して評価しました。
この結果、上顎骨の発育成長時期である「10歳前後」において、過剰埋伏歯が深部(Type IやType II)へ移動する可能性が示唆されました。
これは、成長に伴って過剰歯が上方へ移動していく可能性を示唆するもので、早期発見・早期対応の重要性を裏付けるデータと言えるでしょう。
(年齢が進んだら深くて取りにくくなってしまう傾向が強いんです。)
⑥抜歯時のアプローチ方向:口蓋側が主流
上顎正中過剰埋伏歯の抜歯は、ほとんどのケースで「口蓋側(上あごの内側)」からアプローチされることが一般的です。
研究データでは、口蓋側からの抜歯が95.3%と圧倒的に多く、唇側(上あごの外側)からの抜歯はごく少数でした。
これは、過剰歯の多くが口蓋側に位置しているためと考えられます。
第4章:いつ抜くのがベスト?抜歯のタイミングと考慮すべきこと
過剰歯が見つかった場合、最も気になるのが「いつ抜歯するのが良いのか」というタイミングです。
①抜歯の最適な時期:6〜9歳頃
様々な萌出障害が出現する前に、比較的低侵襲で、後継永久歯に影響が少なく、心身ともに手術に耐えうる「6〜9歳頃」が適正な抜歯時期です。
この時期は、乳歯から永久歯への生え変わりの時期であり、以下のような利点があります。
⚫︎永久歯への影響を最小限に
後継永久歯の歯根がまだ完全に形成されていない段階で抜歯することで、永久歯の歯根吸収などのリスクを低減できます。
⚫︎手術の難易度が低い
過剰歯が深く埋まってしまう前に抜歯できる可能性が高く、手術時間や患者さんへの負担を軽減できます。
また、前述の通り10歳前後で深部に移動する可能性もあるため、移動前に抜歯することが有利です。
⚫︎お子さんの協力が得やすい
精神的にもある程度手術に耐えられる年齢であり、全身麻酔なしでの局所麻酔下での手術も比較的行いやすい時期と言えます。
②無症状の過剰歯との向き合い方:経過観察の重要性
過剰歯が発見されても、何の症状もなく、隣の永久歯にも影響が見られない場合、「すぐに抜かなくても良いのでは?」と考える方もいるでしょう。
しかし、無症状の過剰埋伏歯であっても、将来的に嚢胞化や過剰歯の移動によって手術の難易度が上がる可能性を考慮し、「十分な説明と治療計画の立案、経過観察が重要」なのです。
⚫︎嚢胞形成のリスク
嚢胞は時間とともに大きくなり、周囲の骨を広範囲に溶かしてしまうことがあります。
待つ移動のリスク
過剰歯が上顎の成長とともに深部に移動したり、予測不能な位置にずれていったりすると、抜歯が非常に困難になることがあります。
場合によっては、全身麻酔下での大掛かりな手術が必要になることもあります。
このようなリスクを回避するためにも、たとえ無症状であっても、定期的な歯科検診やX線写真での経過観察が不可欠です。
③抜歯方法と全身麻酔の選択肢
過剰歯の抜歯は、一般的に歯科口腔外科で行われます。
⚫︎局所麻酔下が一般的
通常は局所麻酔で行われますが、過剰歯の位置が深い、複数本ある、あるいは患者さんが幼く協力が得られにくい場合などは、全身麻酔下での手術が選択肢となります。
しかし体動が激しい場合や過剰歯が深部に位置し骨削除量が多くなると予想される場合には全身麻酔での手術を推奨しています。
そして前述の通り、上顎正中過剰歯の多くは口蓋側からのアプローチで抜歯されます。
第5章:終わりに
過剰歯は、口の中に余分な歯が存在するという一見すると単純な状態に見えますが、放置すると歯列不正、永久歯の萌出遅延、歯根吸収、嚢胞形成など、様々な深刻な合併症を引き起こす可能性があります。
以下にざっくり内容をまとめます。
⚫︎過剰歯は男性に多く、その多くは上顎正中部に1本が逆生して埋伏している。
⚫︎小児期は歯列不正が、成人期は痛みや違和感が発見の主な契機となる。
⚫︎上顎の成長期である10歳前後で、過剰歯が骨の深部に移動する可能性があり、抜歯の難易度が上がる可能性がある。
⚫︎合併症のリスクを考慮すると、比較的低侵襲で永続歯への影響が少ない「6〜9歳頃」が抜歯の適正時期である。
⚫︎無症状の過剰歯であっても、将来的なリスク(嚢胞形成や移動)を考慮し、十分な説明と経過観察が不可欠である。
過剰歯は早期発見・早期治療が非常に重要です。
お子さんの定期的な歯科検診はもちろんのこと、歯並びが気になる、永久歯がなかなか生えてこない、といった場合には、積極的に歯科医院を受診し、レントゲン検査を受けることをお勧めします。
特に、パノラマX線写真や歯科用CTスキャンなどの精密な画像診断は、埋伏している過剰歯の正確な位置や周囲組織との関係性を把握するために極めて有効です。
もし過剰歯が見つかった場合は、歯科医師から十分な説明を受け、最適な時期に、患者さんにとって負担の少ない方法で適切に処置を行うことが、将来の健やかな口腔環境を守る上で何よりも大切です。
今回のコラムが、皆さんの過剰歯への理解を深め、適切な対応を考える一助となれば幸いです。
