2026年3月31日

(歯科衛生士のある日の日誌)

はじめに
歯科の診療で「血圧」「脈拍」「SpO2(酸素飽和度)」を測られることがあります。
これは単なる形式ではなく、あなたの安全を守るための重要なチェックです。
ここでは、バイタルサインモニターで何が分かるか、よく出る数値(正常値・要注意値・平均血圧の説明)と、もし異常があったときに歯科でどのように対応するかを分かりやすく説明します。
1. バイタルサインモニターで分かる主なこと
①血圧(上:収縮期血圧/下:拡張期血圧)
心臓から送り出される圧力と血管に残る圧力を示します。
②平均動脈圧(MAP:Mean Arterial Pressure、平均血圧)
心拍サイクル全体の平均的な血圧で、臓器に十分な血液が届くかの目安になります。
計算式の簡単な目安は
「MAP ≒ 下の血圧 + 1/3(上−下)」です。
(例:120/80 の場合 MAP ≒ 80 + (40/3) ≒ 93 mmHg)。
③ 脈圧
脈圧 = 収縮期血圧(上) − 拡張期血圧(下)。
心拍ごとの動脈圧の振幅を示します。
(例:血圧120/80 mmHg → 脈圧 = 120 − 80 = 40 mmHg)
④心拍数(脈拍、HR)
1分あたりの心拍数。速いか遅いか、リズムが乱れていないかをチェックします。
⑤酸素飽和度(SpO2)
血液がどれだけ酸素を運んでいるかの割合です(%)。指先のセンサーで測定します。
⑥脈波(PPG)や波形表示
血流の状態や測定が正確かの判断に使います。
⑦呼吸数・体温(機器によっては同時に記録)
全身状態の把握に役立ちます。
2. よく使われる目安(成人の一般的な正常値)
①血圧(安静時、成人)
正常値
収縮期(上) 90〜139 mmHg
拡張期(下) 60〜89 mmHg
高めの値
上 140〜159 / 下 90〜99 mmHg(注意)
高い(要注意)
上 ≥160 または 下 ≥100 mmHg
②平均動脈圧(MAP)
目安
70〜100 mmHg が一般的な正常域。
臓器灌流を保つにはおおむね MAP ≥65 mmHg が必要とされます。
③脈圧
目安
約30–50 mmHg(個人差あり)。
30未満は低脈圧、50以上は高脈圧とされることが多い。
④心拍数(HR)
安静時の目安
60〜100 bpm(運動習慣ある方は低めでも正常)
⑤血液酸素飽和度:SpO2(室内空気下)
正常値
95〜100%(慢性肺疾患がある方は個別目標あり)
※注意
95%未満、特に90%未満は酸素不足の可能性あり。
⑥呼吸数
目安
12–20 回/分
3. 数値が教えてくれること
⚫︎血圧が高い
心臓や血管に負担がかかりやすく、処置中に脳や心臓のトラブルが起きるリスクが高まります。
⚫︎MAP が低い
臓器(脳や腎臓など)に十分な血液が届いていない可能性があります(めまいや脱力が出ることがあります)。
⚫︎脈圧が高い/低い
高い脈圧(例:≥60 mmHg)は動脈硬化や大動脈の硬さの指標になり、心血管イベントリスクの上昇と関連します。
高齢者でよく見られます。
極端に低い脈圧は心拍出量低下(重症心不全やショック)の可能性を示唆します。
脈圧単独で即時の処置判断になることは少ないが、高脈圧は全身リスク(心血管疾患)を示すため、既往歴や内服薬の確認・医科連携の参考になります。
血圧が高くかつ脈圧も大きければ(例:上が高く下はそれほど高くない)、血管への負担が大きいことを示すため、処置の延期や内科への相談を検討します。
低脈圧かつ症状(めまい・冷汗・意識障害)があれば速やかな評価・救急対応が必要です。
⚫︎心拍数が速い
痛みや不安、発熱、脱水、貧血、不整脈などが疑われます。息苦しさや胸の痛みがあれば要注意。
⚫︎心拍数が遅い
薬の影響や心臓のリズムの問題の可能性があり、めまい・失神が伴うと危険です。
⚫︎SpO2が低い
体が十分な酸素を得られていない状態で、呼吸や気道の問題がないか調べます。
4. 歯科で測って異常が出たらどうする?
①スタッフが数値の再確認と患者さんの自覚症状(胸痛・息苦しさ・強いめまいなど)を確認します。
②無症状で軽度異常の場合は安静にして再測定、痛みや不安を減らす配慮、歯科医師と相談して処置継続か一時中止か決定します。
③有症状または重度異常(例:血圧の上が180以上/下が120以上で頭痛や視力障害がある、SpO2 <90%、意識障害など)がある場合は速やかに処置を中止し、酸素投与や安静にして救急手配(救急搬送や内科・循環器への引き継ぎ)を行います。
④必要に応じて血管確保や心電図、薬の情報を専門医へ提供します。
5. 測定結果に影響する要因
①血圧
緊張(白衣高血圧)、痛み、カフェイン、喫煙、直前の活動などで上がることがあります。
複数回測ることが重要です。
②SpO2
指先の冷え、爪のマニキュアや人工爪、動き、低灌流で誤差が出ることがあります。
CO中毒やメトヘモグロビン血症では正確でない場合があります。
③心拍数
直前の歩行・緊張・薬の影響で変動します。安静時の傾向を見ます。
6. 来院前に患者さんができる準備(安全な治療のために)
常用薬は必ず伝えてください(薬手帳や薬のボトルを持参)。
降圧薬・抗凝固薬・心臓薬・精神科薬などは特に重要です。
家での血圧記録があれば持参すると判断に役立ちます。
当日は早めに到着し、深呼吸して落ち着く時間を作ると心拍や血圧の測定が安定します。
もし体調不良(熱、強い咳、息苦しさ、胸の違和感など)がある場合は事前に連絡してください。
7. よくある不安とその答え(Q&A)
Q:血圧が高いと治療を断られますか?
A:必ずしも断られません。数値と症状、処置の緊急性や内容を考慮して、延期・短時間治療・降圧管理の相談などを行います。
安全第一です。
Q:SpO2が少し低いと言われたら?
A:まず再測定と波形確認を行い、必要なら酸素を投与します。
慢性肺疾患がある方は個別の目標があるため、普段の担当医と相談しているかを確認します。
8. 最後に(患者さんへのメッセージ)
バイタルサインモニターは数字だけで判断する道具ではなく、あなたの症状や普段の健康状態と合わせて安全に治療するための情報を提供します。
測定された数値について分からないことがあれば、その場で遠慮なく質問してください。
薬や既往歴をしっかり伝えることが、安全な歯科治療につながります。
