2024年12月13日
(院長の徒然ブログ)
はじめに
貧血は、血液中の赤血球やヘモグロビンの不足によって引き起こされる状態であり、さまざまな種類があります。
特に、悪性貧血、巨赤芽球貧血、鉄欠乏性貧血、再生不良性貧血、溶血性貧血、腎性貧血などの異なるタイプの貧血は、口腔内に症状を引き起こすことがあります。
これらの症状は、貧血の種類や重症度によって異なるため、注意深く観察することが重要です。
今回は貧血の分類でどういった口腔内症状が現れるのかを説明していきます。
巨赤芽球貧血(悪性貧血)
巨赤芽球貧血は、ビタミンB12や葉酸の不足によって引き起こされる貧血です。
その中でも特にビタミンB12を吸収するのに必要な内因子に対してや、その内因子自体を産生する胃の壁細胞に対して自己免疫機能が働き、ビタミンB12が吸収できなくなるものを「悪性貧血」と呼びます。
悪性貧血以外だと、アルコール依存症や偏食などによって、葉酸が欠乏して起こりやすいです。
ビタミンB12や葉酸は赤血球の細胞の外側…つまり骨格を維持するのに必要な物質であり、不足すると血液自体が作れなくなってしまいます。
この状態では、口腔内に特有の症状が現れることがあります。
例えば、舌の炎症(舌炎)や、舌の表面が滑らかになり、赤く変色することが一般的です。
また、口内の粘膜が乾燥しやすく、口内炎が発生しやすくなることもあります。
さらに口腔内の粘膜が敏感になり、食事中に痛みを感じることもあります。
この時の舌の炎症を特に「ハンター舌炎」と呼び、舌の味蕾の消失して舌がテカテカになり、舌にヒリヒリした灼熱感がある他、味覚障害がおきたり、食べ物がしみたり、舌が乾燥するなどの症状があります。
これらの症状は、赤血球の形成に必要な栄養素が不足することによって引き起こされたり、特に悪性貧血の場合はビタミンB12の不足による細胞の異常な成長や再生に起因しています。
鉄欠乏性貧血
鉄欠乏性貧血は、その名の通り鉄分の不足によって引き起こされる最も一般的な貧血です。
鉄欠乏性貧血自体は、食物からの鉄分摂取不足によっても起こりますが、体内からの出血が原因となることも多いです。
特に女性では、生理の際の出血により欠乏する場合があります。
このタイプの貧血では、舌が平になりヒリヒリした痛みを感じるようになり、口腔内に乾燥感や口内炎、時には口角に亀裂が現れることがあります。
さらに、口腔内の味覚が変化することもあり、特に金属的な味を感じることがあります。
食道の方の粘膜にも、薄い膜状の粘膜による狭窄が生じて、咽頭部の違和感や飲み込みにくさを感じることがあります。
このように鉄分が不足すると、赤血球の生成が妨げられ、これが口腔内の健康にも影響を与えるのです。
上記の鉄欠乏性貧血・舌炎・嚥下障害の3主特徴を備えているものを、プランマー・ビンソン症候群と呼びます。
再生不良性貧血
再生不良性貧血は、造血幹細胞の傷害や造血幹細胞自身の異常により、骨髄の機能が低下し、赤血球の生成が不十分になる状態で、指定難病となっている病気です。
骨髄の機能が低下しているので、末梢血管で血球成分の低下が見られます。
軽症では貧血と血小板減少だけなのですが、重症例だと白血球数も低下し、免疫にも影響を及ぼします。
この貧血では、口腔内の症状として、口内炎や舌炎が見られることがあります。
特に、口腔内の粘膜が脆弱になり、粘膜のバリア機能も低下するため感染症にかかりやすくなるため、注意が必要です。
また、血小板低下により出血しやすくなること(出血傾向)もあり、歯茎からの出血が見られることがあります。
重症例だと白血球数低下により、さらに感染症にかかりやすくなるので、虫歯も歯周病も悪化しやすくなります。
日本に7500人ほど患者さんがおり、治療法は未確立であり、輸血や造血幹細胞移植などが行われている。
溶血性貧血
溶血性貧血は、赤血球が異常に短期間で破壊されてしまうことによって引き起こされる貧血であり、赤血球の寿命が著しく縮んでしまいます。(通常赤血球の寿命は120日程度)
この状態が長期化すると、体内で十分な赤血球量を維持することが困難となり、全身の細胞への酸素供給能力が低下してしまいます。
この状態では、口腔内においても出血傾向が見られることがあります。
特に、歯茎からの出血や口内炎が頻繁に発生することがあり、これが患者にとって大きな不快感を引き起こします。
また、口腔内の粘膜が黄疸を呈することもあり、これは赤血球の破壊によってビリルビンが増加するためです。
腎性貧血
腎性貧血は、腎臓の機能低下によってエリスロポエチンの生成が減少し、赤血球の生成が不十分になる状態です。
この貧血では、口腔内の症状として、口内炎や舌の変色が見られることがあります。
また、唾液腺の萎縮によって口腔内の乾燥感や味覚の変化も報告されています。
口腔内が乾燥すると唾液による(IgAなど)抗菌作用も無くなるため、虫歯や歯周病に罹患しやすくなります。
腎機能が低下すると、全身の健康状態にも影響を及ぼし、口腔内の健康が損なわれることがあるのです。
こういった症状は透析を受けている患者さんにも共通するので、注意が必要です。
終わりに
貧血は、さまざまな種類があり、それぞれが口腔内に様々な症状を引き起こすことがあります。
巨赤芽球貧血、鉄欠乏性貧血、再生不良性貧血、溶血性貧血、腎性貧血などの貧血の種類を理解し、それに伴う口腔内の症状を把握することは、早期の診断と適切な治療につながります。
口腔内の健康を維持するためには、貧血の兆候を見逃さず、必要に応じてドクターの診断を受けることが重要です。