2024年11月28日
(院長の徒然ブログ)
血管収縮薬過剰反応とは
今回も歯科偶発症の続きを説明していきます。
血管収縮薬過剰反応とは、その名の通り血管収縮薬が体内で過剰に作用することによって引き起こされる状態です。
血管収縮薬は通常、α-アドレナリン受容体や他の受容体に結合して血管を収縮させます。
しかし過剰な刺激により、これらの受容体が過敏化し、少量の薬剤でも強い反応を示すことがあります。
現在、血管収縮薬として添加されている最もメジャーな薬物はエピネフリンです。
このエピネフリンの過剰作用による全身反応が問題となります。
まず歯科医療従事者が認識しておかねばならないのは、歯科用局所麻酔薬に添加されている血管収縮薬は医科で使用するものに比べ高濃度であることを理解しておく必要があります。
血管収縮薬過剰反応の原因
ではなぜエピネフリンの過剰反応が起こるのか原因を解説します。
原因としては、
①エピネフリン添加局所麻酔薬の量が多い
②局所麻酔薬を血管内に打ってしまった、もしくは入り込んだ
③甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫などエピネフリンに感受性の高い患者さんだった
④三環系抗うつ薬や非選択性β遮断薬などを服用している患者さんへ投与だった。
などが考えられます。
特に全身疾患は事前に分かることなので、こういった患者ではエピネフリン添加局麻薬の使用は避けたほうが良いでしょう。
血管収縮薬過剰反応の症状と対策
症状としては、頻脈,不整脈,動悸、血圧上昇、頭痛,振戦。めまい,胸部不快感などの交感神経が亢進することによる症状が出てきます。
既往歴によっては心筋梗塞や脳卒中のリスクが上がるので、慎重に経過を見ていく必要があります。
幸いなことにエピネフリンの分解は速やかで15~20分で血中濃度は半減します。
そのため多くの場合症状は一過性であり、安静にし、体位を半座位に変換し酸素投与を行って経過を観察すれば寛解することがほとんどです。
ただし、フェノチアジン誘導体などの抗精神病薬投与中の患者ではエピネフリンの作用逆転により逆に重篤な血圧低下が起こりえます。
こうならないように、予めお薬手帳の確認は行っておきましょう。
一応今のところ、歯科用キシロカイン®カートリッジの添付文書から、高血圧,動脈硬化,心不全,甲状腺機能亢進、糖尿病患者への使用禁忌が外れており、原則禁忌(歯科医師の判断で、利益がリスクを上回る際にドクターの判断のもとで投与)になっています。
しかし2000年までは使用禁忌であったことを忘れずに、より慎重な使用が求められます。
今もまだ「原則禁品」ですので、歯科用キシロカイン®カートリッジをこれらの患者に使用する場合、しっかりと生体モニターを用意し、有事の際の酸素投与や血管拡張薬の準備は怠らないようにする必要があります。
中等度の循環器系疾患患者では一般的にはカートリッジ2本の3.6mℓ(エピネフリン45μg)まで使用可能とすることが一般的です。
また、肥大型心筋症ではエピネフリン添加局麻薬は使用せず、大人しく血管収縮薬不使用の局所麻酔薬を使用しましょう。
ただしだからといって、エピネフリンによる反応を恐れるあまり、局所麻酔薬を必要以上に少量にしたり、シタネストやスキャンドネストを選択した場合で、該当部位の神経遮断が不十分になって、結果的に疼痛を与えてしまっては本末転倒です。
疼痛によるストレス反応で、内因性のカテコールアミンが放出され、より制御困難な血圧上昇・頻脈などを惹起したり、疼痛性ショックなどを起こしては意味がありません。
終わりに
血管収縮薬過剰反応は、予め歯科医師がどれだけ患者さんのことを調べておく…要するに現病歴、既往歴、薬歴を見ているかにかかっています。
原則禁忌なのを知らないというのはいけませんが、歯科医師の裁量の元、安全な治療を心がけてまいります。