2026年5月20日

はじめに
ブランデンタルクリニックの患者様、そして地域の皆様、こんにちは。ブランデンタルクリニック院長です。
本日は、最近ニュースやSNSでも大きな話題となり、多くの患者様からお問い合わせをいただいている「保険診療における予約キャンセル料」について、非常に重要なお話をさせていただきます。
厚生労働省から令和8年3月27日付で発信された「保医発0327第7号」という通知(「療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いについて」の一部改正)により、医療機関の予約キャンセル料について新たな整理が示されました。
ただし、ここで最初に強調しておきたいのは、「予約制の歯科医院であれば、保険診療の患者様に対して自由にキャンセル料を請求できるようになった」という理解は正確ではない、ということです。
今回の通知で問題となるのは、一般的な歯科医院の時間枠予約そのものではなく、制度上の「選定療養における予約に基づく診察」に関するものです。つまり、普通に「次回は何月何日の何時に来てください」と予約を取ることと、選定療養として特別な料金を設定した予約診療は、同じものではありません。
この点については、後日公開した関連記事でも詳しく整理しています。より制度面を詳しく知りたい方は、こちらもご覧ください。
【厚生労働省の「キャンセル料通知」はなぜ誤解を招いたのか!予約制歯科医院と選定療養の違い】
今回のコラムでは、この新しいルールの中身を正しく紐解き、なぜこのような制度上の整理が行われたのか、そして当院「ブランデンタルクリニック」はこの問題に対してどのようなスタンスを取るのかを、長文となりますが非常に大切なことですので最後までじっくりとお読みいただければ幸いです。

厚生労働省による通知の背景:なぜ今、キャンセル料の話が出てきたのか
まず、なぜ厚生労働省がこのタイミングでキャンセル料の徴収を認めるに至ったのか、その社会的背景を説明する必要があります。
歯科医院における「予約」は、単なる順番待ちではありません。私たちは患者様お一人おひとりの治療内容に合わせ、以下のような準備を整えてお待ちしています。
①専門スタッフの確保
歯科医師、歯科衛生士、歯科助手などの専門スタッフが、その時間を患者様のために空けています。
②診療ユニット(チェア)の確保
限られた台数の診療台を、その予約時間中、他の方を入れずに確保します。
③滅菌・消毒された器具の準備
治療内容に応じた高価な使い捨て材料や、厳格に滅菌された器具を、予約時間に合わせてセットアップしています。
④高度な治療計画の策定
前回の治療経過を踏まえ、当日のスムーズな進行のために事前のシミュレーションを行っています。
しかし、残念なことに、事前の連絡がない「無断キャンセル」や、診療直前でのキャンセルが、全国の医療機関で深刻な問題となってきました。
これが続くと、医療機関側には「人件費」「材料費のロス」「光熱費」などの甚大な経済的損失が発生します。
さらに近年の価格高騰で多くの歯科医院で経費が上昇する中、保険診療の値上げは十分に行われていないのが現状です。
それ以上に深刻なのは、「本当に今、痛みがあって診てほしい」と願っている他の患者様の受診機会を奪ってしまうことです。
予約枠が埋まっているために、痛みを抱えた方の急患対応を断らざるを得ない状況がある一方で、予約されていた方が来院されない――。
この不条理を少しでも減らし、限られた医療資源を適正に使うために、国は一部の制度上の予約診療について、患者都合による直前キャンセル料の取扱いを整理したと考えられます。
2.今回の通知で特に注意すべき点:「予約制」と「選定療養」は同じではありません
今回の通知について、最も誤解されやすいのは「予約に基づく診察」という言葉です。
一般の患者様から見れば、「予約に基づく診察」と聞くと、普通に予約して歯科医院を受診することのように感じると思います。実際、歯科医院の多くは予約制であり、虫歯治療、歯周病治療、定期検診、クリーニング、根管治療、被せ物の調整など、ほとんどの診療は予約時間を決めて行われます。
しかし、医療制度上の文脈では、ここでいう「予約に基づく診察」は、単なる一般的な予約制ではなく、「選定療養における予約に基づく診察」として理解する必要があります。
選定療養とは、患者様の選択により、通常の保険診療とは別に特別の料金を支払うことで、保険診療と保険外の診療を併用する制度です。代表的なものとしては、差額ベッド代、大病院を紹介状なしで受診する場合の特別料金、制度上の予約診療などがあります。
つまり、普通に「次回予約を取る」ことと、選定療養として特別の料金を設定した予約診療を行うことは、制度上まったく同じではありません。
そのため、「歯科医院は予約制だから、保険診療でも自由にキャンセル料を請求できるようになった」と受け止めるのは正確ではありません。
この点は非常に重要です。当院では、今回の厚生労働省通知を理由に、通常の保険診療の患者様へ一律にキャンセル料を請求する運用を始めるものではありません。
3.厚生労働省が示したキャンセル料の取扱い
今回の通知やその後の疑義解釈を踏まえると、ポイントは次のように整理できます。
①対象は、一般的な予約制すべてではなく、選定療養における予約に基づく診察であること。
②診察日の直前に、患者都合でキャンセルされた場合に限られること。
③診察の予約にあたり、患者都合によるキャンセルの場合には費用徴収がある旨を、事前に説明し、同意を得ていること。
④費用を徴収する場合には、内容や料金が分かりやすく示されていること。
⑤徴収する費用は、社会的にみて妥当適切な範囲であること。
⑥実際に費用を徴収した場合には、他の費用と区別した内容の分かる領収証を発行すること。
このように、今回の話は「どの医療機関でも、好きな金額を自由に請求できるようになった」というものではありません。
また、災害、急病、交通機関の大きな乱れなど、患者様の責任とはいえない事情まで一律に対象とするような考え方は、制度の趣旨から見ても適切ではありません。
大切なのは、キャンセル料という言葉だけが独り歩きしないように、制度上の対象と、実際の歯科医院の予約運営の問題を分けて考えることです。
4.キャンセル料の金額について
今回の通知では、キャンセル料の具体的な金額が一律に示されているわけではありません。
そのため、「保険診療のキャンセル料は何円が相場です」と断定的に書くことは、現時点では慎重であるべきだと考えます。
一方で、歯科医院が患者様一人を診るために確保している時間、いわゆるチェアタイムには、確かに大きな価値があります。
例えば、1時間の予約枠を確保している場合、その時間には歯科医師、歯科衛生士、歯科助手、受付、診療台、器具、材料、滅菌工程、家賃、光熱費など、さまざまなコストが含まれています。
また、その時間で本来行われるはずだった診療が行えなければ、医院側には経済的な損失が生じます。
ただし、だからといって、一般的な保険診療の予約キャンセルに対して、直ちにキャンセル料を請求できるという話ではありません。ここでも、制度上の選定療養としての予約診療と、通常の歯科医院の予約制を混同しないことが重要です。
他業界、例えばレストラン、ホテル、美容院などではキャンセル料の考え方が広く知られています。しかし医療には公共性があり、保険診療という制度の中で行われている以上、同じ感覚で単純に比較することはできません。
したがって当院としては、キャンセル料の金額そのものを強調するのではなく、まずは「予約時間は患者様と医院、そして他の患者様にとって大切な医療資源である」という点を丁寧にお伝えしたいと考えています。
5.ブランデンタルクリニックの決断:当面「導入は見送ります」
ここで、当院「ブランデンタルクリニック」としての結論をお伝えします。
当院では、今回の厚生労働省の通知を受けても、通常の保険診療の患者様に対して一律にキャンセル料を徴収する運用は、当面導入いたしません。
また、当院の通常診療は、患者様の診療内容に合わせて時間枠を確保する予約制を基本としていますが、これは制度上の選定療養として特別な予約料を設定する予約診療とは異なるものです。
この決断に至った理由は、何よりも「患者様との信頼関係」を第一に考えたいからです。
歯の治療は、多くの方にとって決して楽しいものではありません。
不安や緊張を抱えながら、お忙しい時間を縫って通院してくださっていることは十分に理解しております。
急な体調不良や、どうしても避けられないお仕事のトラブル、ご家庭の事情があることも重々承知しています。
そうした中で、一律に「キャンセル料をいただきます」という事務的なルールを適用することは、私たちが理想とする「心を通わせる歯科医療」の姿とは少し距離があると感じたのです。
私たちは、皆様が「この医院なら信頼して任せられる」と思ってくださる気持ちを大切にしたい。
お金で解決するルールを作る前に、まずはコミュニケーションと相互理解によって、スムーズな予約運営を実現したいと考えています。
6.しかし、これは「無条件の容認」ではありません
ただし、ここからが非常に心苦しく、しかし切実なお願いとなります。
今回、当院がキャンセル料の導入を見送る決断をしたのは、あくまで「今のブランデンタルクリニックを支えてくださっている患者様の良心を信じているから」に他なりません。
もし、今後以下のような状況が目立つようになった場合、私たちは苦渋の決断として、キャンセル料の導入に踏み切らざるを得なくなります。
①無断キャンセルが頻発し、他の患者様の急患対応に支障が出ること。
②「予約はとりあえず取っておくもの、行けなければ連絡しなくていい」という考えが広まってしまうこと。
③直前キャンセルの増加により、用意した滅菌器具や材料が無駄になり、医院の経営・存続を脅かすこと。
キャンセル料を取らないということは、その負担を医院側が受け止めているということでもあります。
これは、健全な歯科診療を継続していく上での大きなリスクとなります。
「キャンセル料がないから、連絡しなくても大丈夫だろう」というお考えは、どうか持たないでいただきたいのです。
予約の変更やキャンセルをしたいときの具体的な連絡の目安については、こちらの記事でも受付の立場からまとめています。
【歯医者の予約をキャンセル・変更したいときは?連絡の目安と予約枠の考え方】
7.患者様の「自制」と「協力」が、良い医療を作ります
私たちが守りたいのは、キャンセル料という「罰金」のない、温かな医療環境です。
そのためには、患者様お一人おひとりの「自制心」と「思いやり」が不可欠です。
予約を守るということは、単に「時間を守る」ということ以上の意味を持っています。
それは、「あなたの治療のために準備をしているスタッフへの敬意」であり、同時に「あなたの後ろで待っている、他の患者様への優しさ」でもあります。
もし、どうしても予約の時間に間に合わない、あるいは予定を変更しなければならないと分かった時は、「できるだけ早く」ご連絡をください。
2日前、あるいは前日の午前中にご連絡をいただければ、その空いた枠に、歯の痛みで困っている他の方をご案内することができます。
その一本の電話が、誰かの痛みを救うことにつながるのです。
また、予約時間に遅れそうな場合も、無断で来院時間を過ぎてしまうより、分かった時点でご連絡いただけると受付で状況を確認しやすくなります。
【予約時間に遅れそうなときはどうする?歯科医院へ連絡する目安と予約枠の考え方】
歯科治療は、私たち歯科医療従事者と、患者様である皆様との「二人三脚」で進めていくものです。
計画通りの通院は、治療期間の短縮につながり、結果として皆様の負担(費用や身体的ダメージ)を減らすことにも直結します。
8.これからのブランデンタルクリニックが目指すもの
今回の厚生労働省の通知は、ある意味で「医療機関と患者の関係性」を問い直すきっかけとなりました。
医療はサービス業の一面も持ちますが、基本的には公共性の高い社会資源なのです。
それをどう守り、どう育てていくかは、提供する側と受ける側、双方の歩み寄りに委ねられています。
ブランデンタルクリニックは、これからも「最高の技術」と「誠実な対応」で、皆様のお口の健康を守り続けます。
最新の設備を整え、衛生管理を徹底し、一人ひとりに寄り添ったカウンセリングを行う準備をして、皆様をお迎えします。
その準備が無駄にならず、必要としているすべての方に平等に医療が届くよう、どうか予約という「約束」を大切にしていただければと切に願います。
初めて受診される方、WEB予約について確認したい方は、こちらもご覧ください。
【初診の方へ】
結びに代えて
長文となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。
今回の通知については、「保険診療でもキャンセル料を自由に取れるようになった」と受け止められやすい表現がありました。しかし正確には、一般的な予約制の歯科医院すべてにそのまま当てはまる話ではなく、選定療養としての予約診療に関する整理として理解する必要があります。
そのうえで、無断キャンセルや直前キャンセルが他の患者様の受診機会に影響することも、ぜひ知っていただきたいと思います。
キャンセル料を導入しないという今回の選択が、「正解」であったと数年後に笑って言える。
そんな信頼に満ちたブランデンタルクリニックでありたいと思っています。
今回の制度の話について、あるいは予約の取り方について、何か不安や疑問がございましたら、いつでもスタッフにお声がけください。
皆様の自制ある行動と、変わらぬご理解・ご協力を、心よりお願い申し上げます。
ブランデンタルクリニック
院長 拝
《参考文献》
厚生労働省
「療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いについて」の一部改正について
令和8年3月27日 保医発0327第7号
厚生労働省
療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について
令和8年5月29日
厚生労働省
保険外併用療養費制度について
