2025年6月12日


はじめに
乳歯の虫歯に関して、多くの親御さんや保護者の方が抱く疑問の一つに、「乳歯の虫歯を放置しても大丈夫なのか?」というものがあります。
確かに、乳歯は永久歯に比べて早く抜けるため、治療をせずに経過観察で済ませる選択をするケースもありますが、そのまま放置することのリスクや影響について正しい理解を持つことが重要です。
本コラムでは、乳歯の虫歯の性質、放置の影響、適切な対処法について詳しく解説いたします。
乳歯の特徴と虫歯の進行
乳歯(乳歯列・乳歯列弧に属する歯)は、乳幼児期から生え始め、一般的に6か月頃から徐々に生え揃い、12歳頃までに全ての乳歯が生え揃います。
乳歯は、永久歯に比べて歯質(エナメル質や象牙質)が薄く、エナメル質の硬度もやや低いため、虫歯になりやすい構造になっています。
虫歯(むし歯・齲蝕)は、口腔内の細菌による酸産生によって歯のエナメル質、次いで象牙質にダメージが及び、進行すると歯髄(歯の神経組織)にまで達します。
乳歯の虫歯の進行とそのリスク
乳歯の虫歯は、進行度によって以下のように分類されます。
- 初期虫歯(白斑):エナメル質の脱灰が始まる段階。痛みや自覚症状はほとんどなし。
- 象牙質の虫歯:痛みや温度刺激に敏感になる。歯の色に濁りや茶褐色の変色が見られる。
- 歯髄に近接/穿通:歯髄の炎症や壊死を引き起こし、激しい痛みや感染症のリスクが高まる。
乳歯の虫歯を放置した場合、単に歯の健康を失うだけではなく、以下のような問題を引き起こします。
- 二次的な感染症:歯髄の感染が拡大し、歯の根の先の骨内に膿瘍や嚢胞(のうほう)が形成されることもあります。
- 周囲の組織への波及:感染が歯槽骨や歯茎に拡大し、局所の腫れや痛みを引き起こす。
- 咬合の乱れや噛み合わせの問題:乳歯の喪失早期、または不適切な治療放置により、永久歯の正しい萌出や発育に影響を及ぼす可能性がある。
- 永久歯への悪影響:乳歯の根の近くに待機している永久歯胚の発育に悪影響を与えることもあります。
乳歯の虫歯放置のリスク:なぜ避けるべきか?
乳歯は永久歯への架橋やスペース保持の役割を担っているため、その健康維持は非常に重要です。
虫歯を放置した場合に懸念される主な影響は次の通りです。
1. 噛み合わせ・発音への悪影響
乳歯の喪失により、噛み合わせが乱れ、発音障害の原因となることがあります。
特に前歯や奥歯の喪失は、発音や食べ物の咀嚼に支障をきたし、将来的な言語発達に悪影響を与える可能性も指摘されています。
2. 二次的な歯並びの乱れ
乳歯が早期に失われたり、痛みや感染のために抜歯が必要となった場合、隣の歯の倒伏やスペースの縮小により、永久歯の萌出時期や位置に乱れが生じることがあります。
虫歯による歯の喪失や歯列のズレは、将来の矯正治療の必要性を高めることがあります。
3. 口腔感染症の拡大と全身疾患への影響
歯の感染は局所だけでなく、血行性に拡散しやすいため、心内膜炎や菌血症などの重篤な全身感染症のリスクもあります。
また、慢性的な口腔感染は、体全体の免疫機能に影響を及ぼす可能性も示唆されています。
4. 精神的・社会的影響
乳歯の虫歯や歯の抜けた状態は、子どもの自己意識や対人関係に悪影響を及ぼすケースもあります。
見た目のコンプレックスや局所の痛みや不快感が学習態度や生活の質を低下させることも考えられるのです。
乳歯の虫歯に対する適切な対応
乳歯の虫歯に適切に対処するためには、次のステップを踏むことが重要です。
1. 定期的な歯科受診と早期発見
子どもの歯科検診は数か月に一度程度、定期的に行い、虫歯の早期発見と進行の阻止を図ることが推奨されています。(最適頻度はリスクによって変わる)
特にキシリトールやフッ化物塗布は再石灰化を促進し、虫歯予防に有効です。
2. 小さな虫歯でも早めの治療
初期の虫歯は、フッ化物の酸応性乳歯用のシーラントや、必要に応じて少量の切削と充填により、進行を抑えることが可能です。
放置せず、歯科医師の指導の下、積極的に治療を行うことが望ましいです。
3. 適切な歯磨きと口腔衛生の徹底
子ども自身に合った歯ブラシや歯磨き粉を使用し、適切なブラッシング方法やフロスなどのデンタルケアを習慣化することが虫歯予防に直結します。
4. 食生活の改善
甘味や酸味の多いおやつやジュースの摂取を控え、バランスのとれた食事を心がけることも虫歯予防の一助となります。
終わりに
乳歯の虫歯は放置しても自然に治るわけではなく、多くの場合、進行し、さまざまな問題を引き起こすリスクがあります。
痛みや違和感の有無に関わらず、早期に歯科医師に相談し適切な治療を行うことが、子どもの健やかな成長と健康な永久歯の発育を支えるために必要です。定期的な歯科検診と家庭での口腔ケアを徹底し、虫歯の予防・早期発見を心掛けましょう。
もし質問や不安なことがあれば、是非当院で相談することをおすすめします。
子どもたちの笑顔と健康な歯を守るために、適切な対応を心がけましょう。