2024年11月11日
(院長の徒然ブログ)
抜歯後合併症ドライソケット
歯を抜いた後に、稀に激しい痛みに見舞われることがあります。
可能性の一つとして「ドライソケット」という状態が考えられます。
ドライソケットとは、抜歯後に発生する可能性のある症状で、特に下顎の奥歯を抜いた後に発生しやすいです。
通常の抜歯後の治癒経過
まずは通常の抜歯後の治癒過程から見ていきましょう。
①止血
抜歯後はガーゼで圧迫止血したり、止血剤や縫合することによって、血を止めていきます。
「基本的に」抜歯後は出血があることが一般的で、出血があるからこそ、そこに新たな血管が増生する糧となるのです。
②翌日
まだ血が滲む可能性はありますが、出血が徐々に収まり、痛みが出始めることがあります。
特に下の顎の歯はでやすいです。
化膿止めと痛み止めを服用することが一般的です。
③3日後まで
痛みのピークは3日目までが普通です。
傷の部分に白血球マクロファージも集まり、余分な細胞を除去します。
大抵のセフェム系抗生物質はこの頃に血管内で最高濃度になります。
通常は3日目くらいに少しずつ痛みが改善していきます。
この時期は、患部を冷やしたり、アルコールやタバコを避けたりすることが大切です。
できれば歯磨き粉はつけないか、研磨剤(清掃剤)不使用のものを使いましょう。
④1週間くらいまで
この頃にはかなり楽になり、腫れや痛みがかなり軽減し、抜歯した部分が少しずつ治癒していきます。
血管も新生が初まり、傷が治って行きます。コラーゲンも産生され始めます。
大事なことなのですが、血管は低酸素状態で新生が促進されます。
あとで説明するドライソケットでは、傷が解放して酸素に触れ放題になっているので、血管新生が非常に起こりにくいのです。
⑤2週間後
血管増生がさらに進み、網目状に構成されます。コラーゲンも作られてきて抜歯した部分の骨が再生が少し進み、周囲の組織が回復していきます。この段階では、痛みはほぼ無通常の食事が可能になりますが、硬いものや刺激物は避けると良いでしょう。
⑥3から6ヶ月後
骨が出来上がってほぼ平になるよう完全に治癒するまでには、数ヶ月かかります。特に上の顎の骨の窪みが埋まるまでには半年程度掛かることもあります。
ドライソケットのメカニズム
ドライソケットは、歯を抜いた後に血餅(けっぺい)が形成されない、または血餅が早期に失われることによって発生します。
通常、血餅は抜歯した部位を保護し、血管新生を誘導して治癒を促進する役割を果たします。
しかし、血餅がないと骨が露出し、神経が刺激されるため、強い痛みを引き起こすのです。
ドライソケットの発生確率
ドライソケットの発生確率は、一般的に抜歯後の患者の約2%から5%に見られます。
前述の通り、特に下顎の奥歯の抜歯の場合は、発生率が高くなることがあります。
また喫煙者(毛細血管が萎縮し、骨に入り込む血管が制限されて出血が少なくなったり、再生に伴う血管の増生が阻害される可能性が高い)や女性(特に月経周期に関連するホルモンの影響を受ける場合)では、発生率が上昇します。
ドライソケットの原因
ドライソケットの主な原因には以下のようなものがあります
①血餅の喪失または未形成
抜歯後に血餅が形成されない、または早期に失われることで、血管ができないどころか、傷が骨まで露出することによって、骨の神経が刺激されズキズキ痛む
②喫煙
タバコの成分は血管を細くし血流を妨げ、血餅の形成を妨げます。
③口腔衛生
口腔衛生管理が不十分だと、細菌感染を引き起こし、血餅の形成を阻害されたり、血餅が剥がれたりすることがあります。
④ホルモンの影響
特に女性の場合、月経周期に関連するホルモンの変動が影響を与えることがあります。
女性ホルモンのエストロゲンには、創傷治癒を早める効果があり、傷が治る過程において血管の新生や肉芽の形成、再上皮化(新たに皮膚を形成する過程)を誘導します。
また、血管内皮細胞の増殖を促進する作用もあります。
しかし月経周期で女性ホルモンが低下しているとドライソケットは起こりやすくなります。
⑤再出血
過度の運動や飲酒、長湯などすると再出血や血が止まりにくくなり、せっかく出来た血餅が移動したり、失われたりすることがあります。
従来ドライソケットの治療法
①再出血させて血餅を再度作る
傷の周りを麻酔した上で少し引っ掻いて再出血させ、再度血餅を作ることで、傷を乾かさずに覆います。
②痛みの管理
鎮痛剤や表面麻酔を塗布した薬剤を使用して痛みを和らげます。
③消毒、洗浄
傷の部分の清潔を保ち、細菌感染を防ぐために、抜歯部位を消毒洗浄します。
④薬剤の填入
抗生物質や鎮痛剤を含む薬剤を抜歯部位に入れることがあります。
場合によっては治癒促進のためにコラーゲンの塊を入れます。これにより痛みを軽減し、治癒を促進します。
最近はドライソケットは再出血させない
じゃあ実際ブランデンタルクリニックでは、どう対処するようにしているかというと、再出血などさせません。
ドライソケットがなんで痛いかといいと、その名の通り「乾燥」しているからなんです。
傷が乾燥し、乾いていれば痛いのは当たり前で、「潤った傷こそ治っていく」のです。
ですので、まず傷を湿潤状態にすれば楽になっていきます。
その際、何も再出血させて血餅でなくても「代替材料」でいいんです。
ですのでしっかりと保湿させたコラーゲンなどを用いた物理療法で十分対処可能なのです。
いかがでしたか?
ドライソケットは非常に痛みを伴う状態ですが、適切な治療を受けることで回復が可能です。
もし抜歯後に異常な痛みや不快感を感じた場合は、早めに歯医者に相談してください。