2024年11月17日
(院長の徒然ブログ)
知覚過敏とは
知覚過敏とは、歯ブラシの毛先が当たったり、冷たいもの、甘いもの、酸っぱいもの、風にあたった時などに歯の神経が刺激に対して過敏に反応する状態のことを指します。
この際歯に一時的な痛みを感じますが、まもなく治ってくるのが特徴です。
また、痛みは感じますが、患部の歯に虫歯や歯の神経(歯髄)の炎症などの病変がないのも特徴です。
知覚過敏のメカニズム
基本的に歯というのは神経の通ってない硬いエナメル質という硬い部分に囲まれているので、通常痛みを感じることはありません。
故にこのエナメル質部分までなら削っても痛みを感じないのです。
その硬いエナメル質の中には、黄色味がかった象牙質という構造物があります。
またエナメル質が覆っているのはあくまで歯の頭部分であり、本来歯肉や骨の中に埋まっている歯根部では、エナメル質がなく全層が象牙質でできています。(正確には根部には象牙質の外に脆いセメント質という層があります。)
実は象牙質というのは象牙細管という管が中に無数に通っており、表面には小さな穴が空いているんです。
ですので、器具で擦ったり、冷たいものや熱いもの等の刺激がくると、その刺激は内部の神経に伝達されて、歯は痛みを感じるようになっているのです。
ですから、虫歯治療で神経が露出してなくとも削ると痛いのは、象牙質部分は痛みを伝えてしまう部分だからなのです。
ただし、通常象牙質はエナメル質に覆われているので、刺激が象牙質に伝わらず痛みを感じることはないのですが、極端に冷たいアイスや何かの衝撃で内部の神経が活発になってしまっている時などは、エナメル質の上からでも刺激が内部の象牙質にまで伝わってしまうので、歯が痛みを感じることもあるのです。
後に紹介しますが、様々な理由で象牙質が露出すると、刺激が神経に伝達されて、「知覚過敏」が生じてしまいます。
しかし必ずしも象牙質が露出していれば、知覚過敏が怒るわけではないのです。
この象牙細管は加齢などで塞がってくることもあります。
そうなると管が目詰まりしている状態ですので、刺激は伝わらず、知覚過敏も起きません。
あくまで象牙細管を通じて内部の神経に刺激が伝わった時だけに起こるのです。
纏めると以下の2つの要素がメカニズムというわけです。
①象牙質の露出
歯のエナメル質が磨耗したり、歯茎が後退したりすると、象牙質が露出します。
象牙質にある象牙細管が神経に接続しているため、外部からの刺激が象牙細管を通じて神経に伝わることで、痛みが生じる。
②神経の過敏性
知覚過敏のある人では、神経が通常よりも過敏になっていることがあります。
これにより、通常の刺激でも強い痛みを感じることがあります。
知覚過敏の原因
①歯肉の退縮
歯肉が下がると、当然象牙質が露出するため知覚過敏が起こりやすくなります。
歯肉の位置が下がる要因としては、加齢、強すぎる噛み合わせ、強過ぎるブラッシング圧など様々です。
歯肉の退縮に伴って歯の根っこが露出し、象牙質がむき出しになるのです。
ここに歯ブラシが触れたり、冷温刺激などが加わると、痛みを感じることがあるのです。
痛みの持続時間は1分以内で、時間が経てば痛みは治ります。
下がった歯茎の部分の歯質の表面に歯石がたくさん付いているような場合、歯石を取った場合も象牙質が剥き出しになるので、知覚過敏が起こり得るのです。
②エナメル質の摩耗
歯は毎日反対の歯と当たり、日々摩耗していきます。噛み合わせが強かったり、反対の歯が硬い補綴物だったり、何十年と使っていたりと理由は様々ですが、少しずつすり減っていくのです。
その結果、エナメル質が部分的に擦り切ってしまい、象牙質が露出することがあります。
もちろん擦り減って象牙質が露出しても必ず知覚過敏が見られるわけではありません。
逆に本当に僅かな範囲の象牙質露出でも知覚過敏が起きることもあるのです。
若い方でも磨きすぎや硬い歯ブラシの使用、歯ぎしりなどでエナメル質が磨耗していきます。
③虫歯の治療後
虫歯の治療をした後に、知覚過敏が発生することもあります。
歯を削る振動や、神経の近くまで虫歯を取っていた場合、歯の神経に刺激が行き、過敏になってしまうこともあるのです。
また、治療による微妙な噛み合わせの高さの変化で、噛み合わせた際に痛みが生じることもあります。
そういう場合、経過を見て知覚過敏がなくなる場合はいいのですが、時として噛み合わせ調整や知覚過敏の治療、詰め物のやり直しや神経を除去する必要になることもあります。
④歯のひび割れや欠け
外傷などにより歯にひびが入ったり欠けたりすると、内部の象牙質を通じて神経が刺激されやすくなります。
完全に破折している時には、歯の残っている部分に細かいクラック(亀裂)が入っていることも珍しくありません。
クラックが、神経まで到達していなければいいのですが、歯の神経まで到達していて最近の侵入を許しているようであれば、多くは歯の神経を取らなければいけません。
⑤酸性の飲食物
私たちが口にしているものに酸性のものは意外に多く、そういった酸性の食品や飲料(例:柑橘類、炭酸飲料など)はエナメル質を侵食し、知覚過敏を引き起こすことがあります。
エナメル質は硬いですが、酸には弱く、pH5.5程度で溶け始めてしまいます。
炭酸飲料や酸っぱい飲食物を、時間をかけてゆっくり食べたり飲んだとする習慣がついてしまうと、再石灰化する猶予もなく、歯がどんどん溶けてしまい、内部の象牙質が露出してしまいます。
このような状態の歯を酸蝕歯と呼び、特に前歯のエナメル質が溶かされているのを時折見かけます。
象牙質も露出しているので、知覚過敏も起きやすくなりますが、さらに悪いことに象牙質がエナメル質以上に酸に弱いので、どんどん進行してしまうということです。
⑥ホワイトニングに伴う知覚過敏
ホワイトニング治療によって、一時的に軽度の知覚過敏が起きることがあります。
ホワイトニングで使う薬剤による歯の内部影響であったり、刺激で歯茎が僅かに下がることが原因と考えられています。
ホームホワイトニングの場合は数日のホワイトニング中断で症状は良くなり、良くなったら再びホワイトニングを行っても差し支えありません。
またホワイトニング治療が終了すれば、知覚過敏もなくなるのが普通です。
オフィスホワイトニングの場合は、術後にしみ止めの材料を塗布したり、再石灰化を促したりします。
知覚過敏の治療法
知覚過敏の治療法にはいくつかあります。出来るだけ侵襲の少ない治療法から行っていくのが通常です。
①再石灰化を行う
象牙細管に刺激が伝わろうとしていても、再石灰化して目詰まりしていれば刺激は伝わりません。
軽度な知覚過敏であれば、「再石灰化」によって自然に改善することは良くあることなのです。
唾液は別名「液体エナメル」と言われるくらい、再石灰化の成分が含まれてる上に、昨今の歯磨き粉にはフッ素が含まれています。
これらの再石灰化成分によって、象牙質の微細な空隙が封鎖されてくので、神経への刺激が軽減して徐々にしみなくなっていくのです。
しみるからといって歯磨きをその部分しないでいると、汚れが沈着して再石灰化が起こりません。
それどころか付着した最近が酸を産生し、虫歯にしてしまいます。
露出した象牙質は歯みがきでも痛みを感じやすくなっているのですが、十分に歯磨きを行い再石灰化を促してあげてください。
②知覚過敏用の歯磨き粉を使う
知覚過敏用の歯磨き粉には、歯の神経の信号伝達を鈍らせる成分が入っています。
痛みが伝わるには、歯の神経が刺激を受けて、信号が脳に到達することで痛みを感じます。
この神経自体を鈍らせて信号を送らせないようにする、つまり神経を興奮させないという治療法もあります。
それを勘弁に行う手段こそ知覚過敏用歯磨き粉なのです。
代表的なものは硝酸カリウムと乳酸アルミニウムがあります。
硝酸カリウムには、カリウムイオンの働きで歯の神経に伝わる刺激を軽減する働きがあります。
これは歯の神経の周囲をカリウムイオンが多く取り巻いていると、神経細胞の受容体が活性化しにくく、興奮が起こりにくくなるというメカニズムをを利用したものです。
この作用には即効性があり、ブラッシングの際に痛みがある場合に効果的です。
乳酸アルミニウムには、象牙細管と呼ばれる象牙質から神経まで通じる無数の小さな穴を塞ぐ働きがあります。
この象牙細管が、開いている状態だと刺激が神経まで通じてしまい、知覚過敏が生じます。
ですが、乳酸アルミニウムが開いた穴を塞ぐことによって、知覚過敏を抑えることも期待できるのです。
この乳酸アルミニウムは効果に持続性があるとも言われており、硝酸カリウムとともに有効です。
これらの成分は知覚過敏用の歯みがき粉に含まれていることが多く、継続して使うことで、知覚過敏を改善することができます。
③象牙質の露出した空隙を埋める
露出した象牙質の内部の小さな空隙を、埋めてしまって刺激をシャットアウトする治療法です。
歯と同じような成分の結晶や、その他樹脂など様の材料で封鎖することで、歯の神経への刺激の経路を塞ぎます。
歯科医院で塗布するしみ止めのお薬に含まれている他、歯みがき粉にも結晶ができるのを誘発する成分が配合されているものがあります。
歯科医院で塗布する材料は、数種類ありますが、いずれも歯磨き粉よりも即効性があり、効果が高いです。
また、患部の象牙質表面を樹脂成分の材料でカバーし、知覚過敏を起こさないようにすることも可能です。
通常ですと、薄い皮膜で覆ってあげるだけなのですが、コンポジットレジンなどで側面の歯のくびれ(楔状欠損など)などを埋めることもあります。
さらに、レーザーを使用して象牙細管を封鎖し、神経への刺激を減少させる方法もあります。
これも痛みを軽減し、再石灰化を促進する効果があります。
⑤歯の神経を取る
知覚過敏は本来一時的な痛みを生じますが、痛みが尾を引くような場合や、痛みが非常に強い場合などは、歯の中の神経全体が炎症を起こしていることも疑われます。
もちろん歯の神経を温存するべきなのですが、生活に支障が出ているようならば、神経を取る(抜髄)に踏み切ることもあります。
終わりに
知覚過敏は多くの人が経験する症状ですが、適切な治療法を用いることで症状を軽減することが可能です。
普通の虫歯と違って、長期間知覚過敏に悩まされる患者さんもいらっしゃいます。
もし知覚過敏の症状が続く場合は、是非ご相談ください。