2024年11月05日
(院長の徒然ブログ)
キシリトールは危険?
こんばんは。
先ほどYahooニュースが流れてきました。
よもや6月のEuropean Heart Journal(ヨーロッパの学雑誌です)の記事を参考にして記事を書いてくると思わず、急ぎカウンターのコラムをと思い作成しております。
記事によると、
「低カロリー甘味料であるキシリトールを多く摂取した人は心臓発作、脳卒中、死亡のリスクが約2倍になる可能性があることが新たな研究で明らかになった。 」
ということです。
実は以前のコラムでも、この記事について書いたんですが、ちょこっとだけなので書き足しておきます。
少しでも多くの人の誤解が解けますように。
そもそも「多く摂取」ってどのくらい?
このジャーナルの記事を元に、大量のキシリトールの「ネガティヴキャンペーン」が起こったんですが、そのどの記事にも具体的な量を書いてくれてないんですよね。
(ですので読者は不安感だけが残るというメカニズムです。メディアとしては成功ですが…)
論文も読んでるので、メディアに代わって答えます。
3つの研究がされていますが、今回の話の根幹となるのは10人の被験者(18歳以上の健康体)を対象とした介入研究です。
全員24歳から46歳までの年齢で、男女比は均等、非喫煙者でした。
ここからは驚きで、被験者には
「30gのキシリトールが含まれている飲料を2分以内に飲み干してもらう」
実験を行ったそうです。
そして30分、1時間、4時間、6時間、24時間後の血液検査などを行い、動態を調べたという形です。
キシリトールは元々体内に存在しますが、キシリトールの濃度が1000倍以上になったという結果になりました。
正直私はこの実験に対して被験者に同情します。
そもそも、キシリトールって食べ過ぎたら「お腹が緩くなる」って聞いたことありませんか?
キシリトールは糖アルコールの一種で、小腸で吸収されにくい性質があります。
そのため大量に摂取すると、頑張って吸収しようとして腸内に大量の水が出されます。
結果、便はとても緩くなり浸透圧性の下痢を起こします。
おまけに脱水状態にもなるので、血中濃度は余計に濃くなり、脱水というだけで心臓にも負荷掛かっちゃいますよね…。
1日に30g取っても浸透圧性の下痢を起こすと言われているんですよね。
要するに下剤大量に飲むようなもんです。
それを2分で飲み干したこの実験は…きっと地獄絵図だったでしょう…😱
そもそもの研究への誤解
まずこの「Xylitol is prothrombotic and associated with cardiovascular risk」という研究は、我々が「普段摂取している糖をキシリトールに置き換えたら」どうなるのかという背景をテーマにしている節があります。
この研究者たちはそもそも、虫歯予防のために1日に僅かに摂取するキシリトール量を対象にしていたわけではないんです。
(だったら実験の方法がおかしいですよね。)
日本のメディアも、ここぞとばかりに「キシリトール」を槍玉に挙げましたが、せめて前提条件は書いて欲しいところです。
キシリトール30gってどれくらいの量なの?
キシリトールガム一粒を思い浮かべてください。
その中に含まれているキシリトールは、たったの1.3gです。
つまり30gのキシリトールを2分で摂取するには、キシリトールガム24粒(キシリトールガム粒2ダース)を口の中に放り込み、2分間必死に噛んで味がなくなるまで噛んで噛んで噛みまくる…ことなのですが、中々しんどそうですね。
その他の研究は
3つ目の研究以外では、
①2004年から2011年の間に、心臓病の検査を受けた人々から採取した血液サンプルを分析
②心臓病のリスクが高いと考えられる人たちから採取したの血液サンプルを分析
そのサンプルを「キシリトール濃度が最も高いグループ」と「キシリトールが最も低い群」で比べると、3年間のMACE(心臓発作、脳卒中、死亡)のリスクがほぼ2倍だったそうです。
その理由の仮説として
「ヒトの血小板にはキシリトール分子の受容体が存在し、受容することで血小板の凝固を促す。
だからキシリトールが血液中に多くあると血小板が凝固して血栓ができて血管に詰まりが生じやすいんだ」
ということでした。
ただ、この研究は母数も少なく、他の疾患要因も考慮していないので、いくつかの他の研究と結果が合致していないのも事実なんですよね。
(まあ第3の実験みたいに人為的に脱水引き起こせば、それだけで心臓に負荷かけますが)
結論
もしかしたらこの仮説が正しいとしても、虫歯予防のために使われるキシリトールなんて、せいぜい5g程度です。
それで健康被害がでてくるということはまずありません。
正直、今回の研究以上にキシリトールが安全というデータの研究の方が多いです。
しかし何事も(はっきり言ってほぼ全ての食物や栄養素は)過ぎたるは及ばざるが如しです。
風評に流されず、適正な量を守って、虫歯予防に役立てていきましょう。