2025年3月07日

(院長の徒然コラム)

歯性上顎洞炎とは
歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)とは、上顎の歯に関連する感染が原因で副鼻腔の一つである上顎洞に炎症が生じる病態を指します。
上顎洞は、鼻腔の奥に位置する空洞で、顔面の骨(上顎骨)の中に存在します。
この空洞は、呼吸や嗅覚に関与し、声の共鳴にも影響を与えます。
歯性上顎洞炎は、特に上顎の臼歯や犬歯の感染が原因で発症することが多く、意外に多くの人が気付かずに感染しているケースが多いのです。
よくあるケースとしては、ただの蓄膿と思い耳鼻科を受診し抗生物質で一度は症状は回復したが、また再発するというのがあります。
急性症状と慢性症状
歯性上顎洞炎は上顎の歯の感染が直接的に上顎洞に波及することによって引き起こされます。
感染が進行すると、上顎洞内に膿がたまり、炎症が悪化することがあります。
急性上顎洞炎の場合は突然の痛みや腫れを伴うことが多いですが、慢性の場合は症状が軽微であることが多く、診断が難しいことがあります。
歯性上顎洞炎の症状
歯性上顎洞炎の症状歯性上顎洞炎の症状は多岐にわたりますが、主なものは以下の通りです。
①顔面の痛み
特に上顎の痛みが強く、頬や目の周りに放散することがあります。痛みは鈍痛から鋭い痛みまでさまざまで、特に噛むときに増すことがあります。
また、階段の上り下りや、ジャンプなどすると違和感や痛みを感じることがあります。
②鼻づまり
上顎洞が炎症を起こすことで、鼻腔が圧迫され、鼻づまりを引き起こすことがあります。これにより、鼻詰まりを起こすことがあります。
③膿性鼻汁
上顎洞からの膿が鼻腔に流れ込み、膿性の鼻水が出ることがあります。鼻水の色が黄色や緑色になることがあり、この症状のために歯科ではなく耳鼻科に受診されるケースが多いです。
④発熱
感染が進行すると、発熱を伴うことがあります。特に急性歯性上顎洞炎で起こりやすいです。体温が上昇し、全身の倦怠感を感じることもあります。
同時にリンパ節の腫れも出てくるため、風邪と誤認するケースもあります。
⑤口臭
上顎洞からの膿が口腔内に流れ込むことで、口臭が強くなることがあります。
特に、膿が口の中に流れ込むと、悪臭を伴うことがあります。
⑥歯の痛み
上顎の歯に痛みを感じることがあり、特に噛むときに痛みが増すことがあります。これは、感染が歯の根に広がっていることを示しています。
しかし痛みが上顎骨に放散していると、歯と気付けないケースもあるのです。
歯性上顎洞炎の原因
歯性上顎洞炎の原因歯性上顎洞炎の主な原因は、上顎の歯の感染です。具体的には、以下のような要因が考えられます。
①虫歯
上顎の臼歯や犬歯に虫歯が進行すると、歯髄腔を超えて歯周組織に感染が広がり、上顎洞に炎症を引き起こすことがあります。
場合によっては歯の根尖が上顎洞に入り込んでおり、すぐに上顎洞炎に波及する場合もあります。特に、根管治療をしたことのある歯は神経がない(抜髄したことがある)ため、痛みに気づくのが遅れ、上顎洞炎を引き起こしやすいのです。
②歯周病
歯周病が進行すると、歯周ポケットから細菌が侵入し、上顎洞に感染を引き起こすことがあります。
特に重度の歯周病は、歯性上顎洞炎のリスクを高める要因となります。
前述の歯の根尖が上顎洞に入っているケースだと、同様にすぐに波及してしまいます。
③歯の外傷
前述の2つよりは稀ですが、外的な衝撃や事故によって歯が折れたり、抜けたりすることで、感染が生じることがあります。これにより、歯の根から上顎洞に感染が広がることがあります。
歯が折れたり抜けたりしたら、必ず放置しないようにしましょう。
④根管治療の失敗
以前の根管治療が不完全であったり、感染物が根に残っている場合、上顎洞に炎症を引き起こすことがあります。治療後のフォローアップが不十分な場合もリスクが高まります。
また、根充材が根外に逸出している場合も原因となります。
⑤副鼻腔炎
更に稀ではありますが、上顎洞と歯の根が近接しているため、副鼻腔炎が歯に影響を与えることもあります。
副鼻腔炎が慢性化すると、根尖が上顎洞の中や近くにある場合、根尖から歯の中が細菌に汚染されるケースがあります。一度そうなってしまうと、上顎洞炎が治っても、歯から細菌が出てくるため再発を起こしてしまいます。
歯性上顎洞炎が見つかりにくい理由
歯性上顎洞炎は、耳鼻科に受診されて指摘されるケースや、症状はあれど歯が原因と気づかれず放置されるケースもあり、見つかりにくいことがあります。理由を解説していきます。
①症状の多様性
歯性上顎洞炎の症状は、一般的な上顎洞炎と似ているため、診断が難しいことがあります。
例えば、鼻づまりや頭痛、顔面の圧迫感などの症状は、他の病気でも見られるため、歯科医師も耳鼻科医も見逃すことがあります。
②歯科的な診断の難しさ
歯性上顎洞炎は、歯科的な問題が原因であるため、歯科医師が診断する際に、上顎洞の状態を十分に評価しないことがあります。
特に、初期段階では明確な症状が現れないことが多く、診断が遅れることがあります。
③画像診断の限界
現在日本の保険診療では、CTスキャンの点数を算定できる条件が厳しく、CTスキャン装置が無かったり、あってもほとんど撮らない歯科医院も多いです。
通常のレントゲン検査(デンタルX線検査やパノラマX線撮影)でも、上顎洞の状態を確認できることがありますが、歯の根の状態や感染の広がりを正確に把握することが難しい場合があります。
特に、初期の段階では画像診断で異常が見つからないこともあります。
歯性上顎洞炎の治療法
歯性上顎洞炎の治療は、感染の原因を特定し、適切な治療法を選択することが重要です。
ここでは歯性上顎洞炎の治療法や手順について詳しく説明します。
①初期診断と評価
治療を開始する前に、歯科医師は患者の症状を詳細に評価し、診断を確定します。
これには、病歴の聴取、臨床検査、画像診断(レントゲンやCTスキャン)が含まれます。
特に、上顎洞の状態や感染の広がりを確認するために、CTスキャンが有効です。
これにより、歯の根の状態や上顎洞内の膿の有無を把握することができます。
②抗生物質の投与
感染が確認された場合、抗生物質の投与が行われます。抗生物質は、感染を引き起こしている細菌を抑制し、炎症を軽減する役割を果たします。
一般的に、セフェム系などの広域に効く抗生物質が使用されますが、患者のアレルギー歴や細菌の感受性に応じて適切な薬剤が選択されます。
治療の初期段階では、経口投与が一般的ですが、急性化した重症例では静脈内投与が必要になることもあります。
③歯科治療
歯性上顎洞炎の根本的治療な原因は、上顎の歯の感染です。
したがって、感染源となる歯の治療が不可欠です。具体的な治療法は以下の通りです。
根管治療
虫歯や不良根充が原因である場合、歯の中の感染物を除去するために根管治療を行います。
これにより、歯の中の汚染物質や歯髄の残骸などを除去し、根管内を消毒した後、適切な材料で封鎖します。根管治療は、感染の再発を防ぐために非常に重要です。
歯周病の治療
歯周病が原因である場合、歯周ポケットの清掃や歯石除去、必要に応じて歯周外科的治療が行われます。
また、保存不可能である場合は抜歯も行うことがあります。
④副鼻腔の洗浄
上顎洞に膿がたまっている場合、耳鼻科で洗浄が必要になることがあります。
上顎洞内の膿や炎症物質を除去し、洗浄液で洗い流します。上顎洞内に感染物質が残っている場合には内視鏡による除去も必要なケースもあります。
この手技により、感染を直接的に除去し、症状の改善が期待できます。
⑤治療後の定期的な経過観察
治療後も定期的なフォローアップが重要です。
再発を防ぐために、患者さんの歯の健康状態を確認し、必要に応じて追加の治療や検査を行います。定期的なパノラマX線撮影やCTスキャンは非常に有効です。
また、患者には口腔衛生の重要性を説明し、適切なブラッシングやフロスの使用を指導します。
歯性上顎洞炎の再発を防ぐためには、まずは再び虫歯や歯周病にならないように、日常的な口腔ケアが不可欠です。
定期的な歯科検診を受けることで、虫歯や歯周病の早期発見・早期治療が可能になります。
また、喫煙や不規則な生活習慣は歯の健康に悪影響を与えるため、これらを改善することも重要です。
終わりに
歯性上顎洞炎は、気づかずに症状に悩まされる患者さんが多い病気です。
治療するためには感染の原因を特定し、適切な治療法を選択することが重要です。
抗生物質の投与、歯科治療、など、さまざまなアプローチが必要となってきまづ。
治療後も定期的なフォローアップを行い、再発を防ぐための口腔ケアを徹底することが、健康な歯と上顎洞を維持するために不可欠です。
患者さん自身も、日常的な口腔衛生に気を配り、健康な口腔環境を保つ努力が求められるのです。
何か今回のような症状にお悩みの方がいらっしゃれば、是非お気軽にご相談ください。