2025年4月09日

(院長の徒然ブログ)

はじめに
親知らず、または第三大臼歯は、通常18歳から25歳の間に生えてくることが多い歯です。
しかし、親知らずはしばしば不正咬合や歯列の乱れ、さらには周囲の歯や歯茎に悪影響を及ぼすことがあります。
そのため、早期の抜歯が推奨されることが多いです。
本コラムでは、親知らず自体の存在意義と早期抜歯(ジャームエクトミー:germectomy)の意義、手術の流れ、術後のケア、そして注意点について詳しく解説します。
親知らずの生え方と問題点
親知らずは、通常、下顎と上顎の奥に位置するため、他の歯と比べて生え方が不規則になることが多いです。以下のような問題が発生することがあります。
隣の歯に接して埋伏
埋伏歯親知らずが完全に生えず、歯茎の中に埋まったままの状態というのはしばしば見かけます。
これにより、周囲の歯に圧力がかかり、歯列が乱れる原因となります。
虫歯や歯周病
親知らずは、清掃が難しいため、周囲の歯を巻き込んで虫歯や歯周病にかかりやすいです。
特に、隣接する第二大臼歯との間に食べ物が詰まりやすく、これが虫歯や歯周病の原因となります。
痛みや腫れ
親知らずが生える際に、周囲の歯茎が炎症を起こし、痛みや腫れを引き起こすことがあります。
親知らずの存在率と形成
最近では先天的に親知らずが欠如した方も多く見受けられます。
調査報告では、30〜40%の方が1本以上の親知らず(第三大臼歯)を先天的に欠如しているとなっています。
また、上顎が下顎より欠如率が高いが、左右差はみられず、2歯の欠如が最も多く 3歯欠如が最も低確率であるとの報告があります。
(下顎の欠如率は上顎に比べて1.6倍多い)
親知らず保有率
そうは言っても94.8%の人に親知らずの1歯以上の存在が認められており、親知らずはほぼすべての人に存在するということを前提に対応する必要があります。
4本欠如は稀なのです。
また、親知らずの歯胚形成開始時期が平均9.4歳という結果から、9歳を目安にした早期からのパノラマエックス線写真での確認を開始し、必要に応じての患者様であるお子さんとその家族への告知と教育支援が重要になってくるのです。
親知らずの生え方と他組織への影響とリスクについて
親知らずの歯冠(歯の頭部分)形成完了期から歯根(歯の根っこ)形成開始期は、他の永久歯が生えてきたり、顎骨の成長に伴う歯列・咬合の変化が大きい時期であり、頭頸部の変化が著しい時期です。
ですので、隣在歯や歯周組織に影響を及ぼす時期と捉え管理していく必要があります。
通常、この歯冠形成完了から歯根形成の初期であるおよそ 13〜17歳頃に親知らずは生えてくることが多いです。
骨に完全に埋まっておらず、軟組織(歯肉)に埋伏していて中途半端に出ている親知らずを保存した場合、隣の歯(第二大臼歯)の歯周組織への影響が4.88倍に増加するという報告もあります。
だからこそ、成長過程でレントゲン写真を撮影して、親知らずがたとえ歯肉下ではあったとしても、歯槽骨から出てきたら、慎重に判断して必要に応じた早期治療も検討しなければならないのです。
親知らずがちゃんと生える確率
統計データでは、親知らずの歯根形成後に下において骨性完全埋伏するものはわずかに 2.7%しかありません。すなわちほとんどのケースで歯槽骨を出てしまうのです。
一方で、完全に萌出し上の歯とちゃんと噛み合わさるケースは1%未満というデータとなっています。
このことから、ほとんどの親知らずは歯茎の下での不完全な萌出、つまり骨は出ているが不完全な状態に留まることが明らかになっているのです。
親知らずの歯胚は、第二大臼歯後ろ(遠心)から発生してきます。(下顎上行枝と下顎体が移行する部位)
歯冠が完成すると歯の植立方向がおおよそ決まり、どのように萌出するのか見当がつきます。
(歯冠軸が歯槽縁に平行であれば水平埋伏,傾斜していれば傾斜理伏,萌出方向が垂直であれば通常に萌出してくる。)
完全に萌出するためには、下顎骨自体が大きく、親知らずの萌出に必要なスペースが十分に確保される必要があります。
歯根形成後に水平埋伏歯の方向転換及び完全萌出の可能性は著しく低いので、抜歯した方がいいと判断できるのです。
(ちなみに約50%で水平埋伏歯になってしまいます。)
歯根が完成してから水平埋伏歯を抜く場合の偶発症
そのように割合の高い水平埋伏歯の抜去に伴う発症として、上顎の水平埋伏歯であれば上顎洞への交通、下顎であれば下顎管損傷による神経麻痺があげられます。
歯根形成完了に近づくとともに親知らずと上顎洞や下顎管との距離が狭まってくることから、親知らずの早期抜歯は、歯根形成後の親知らず抜歯に比べて偶発症の発生リスク低下につながるのです。
また、前述の通り親知らずが良くない状態で萌出しているのを放置すると、年齢とともに歯周疾患の罹思率や重症度率が上昇します。
以上のことから、早期抜歯(Germectomy)の有用性が上がってくるのです。
親知らずを残す意義
もちろん親知らずの形成や萌出状況だけでその抜去を安易に考えてはいけない面もあります。
もし低確率ながら親知らずが咬合に参加できていれば、咬合全体の水平的・垂直的な安定の維持とその強化につながります。
また、レアケースですが自家歯牙移植のドナー歯やブリッジの支台歯、義歯の鉤歯、矯正治療で使用できることもあります。
ただしこれらの場合においても、親知らず自体の形態異常の出現頻度が高いことや、歯髄形態の複雑さから取り扱いは困難であることも少なくありません。
十分に精査し保存か抜去かを検討する方がいいでしょう。
早期抜歯(Germectomy)とは
Germectomy(ジャームエクトミー)とは、親知らずの芽(歯胚)を早期に摘出する手術です。
この手術は、親知らずが生える前に行うことで、将来的な問題を未然に防ぐことを目的としています。
特に、親知らずが生えるスペースが不足している場合や、歯列に悪影響を及ぼす可能性がある場合に推奨されます。
早期抜歯(Germectomy)の適応年齢
早期抜歯(Germectomy)は、歯胚の段階で抜歯を行うため、適応年齢は6~12歳頃となります。
まだ顎の骨の中に埋まっている段階で、ゼリー状の歯の卵もしくは、歯の頭の一部しかない状態の歯を除去していきます。
ジャームエクトミー(Germectomy)のメリット
将来的な問題の回避
Germectomyを行うことで、親知らずが生えることによる不正咬合や歯列の乱れを防ぐことができます。
手術の簡便さ
親知らずがまだ芽の状態であれば、抜歯は比較的簡単で、術後の回復も早いです。
骨も大きく削らないですし、歯の根っこの部分もないので、腫れが少なくなります。
合併症のリスク低減
親知らずが完全に生えた後に抜歯を行う場合、周囲の組織や神経に対するリスクが高まりますが、早期に摘出することでこれを回避できます。
ジャームエクトミー(Germectomy)の手術の流れ
①診断と計画
初診時に、歯科医師はレントゲン検査を行い、親知らずの位置や状態を確認します。これに基づいて、手術の計画が立てられます。
特にCTは重要で、必須と言っても過言ではありません。埋まっている歯胚の位置を正確に把握していきます。
②麻酔
手術は局所麻酔下で行われることが一般的です。
通常局所麻酔で十分ですが、患者様の不安を軽減するために、必要に応じて鎮静剤が使用されることもあります。
④抜歯手術
歯茎を切開し、親知らずの芽を取り出します。
周囲の組織に対する影響を最小限に抑えるため、骨削除は最小限に慎重に行われます。
⑤止血・縫合
手術後、止血と切開した部分を縫合します。
通常の親知らず抜歯より断然出血は少ないです。
⑥術後のケア
手術後は、出血や腫れを抑えるための指示が与えられます。痛み止めや抗生物質が処方されることもあります。
手術後の治りを良くするためにレーザーが用いられる場合もあります。
術後のケアと注意点
①出血管理
手術後は、出血が続くことがあります。ガーゼを噛むことで圧迫し、出血を抑えることが重要です。
②食事制限
手術後は、柔らかい食事を摂ることが推奨されます。熱い食べ物や硬い食べ物は避け、反対側の歯で食事しましょう。
③口腔衛生
手術後は、口腔内の清潔を保つことが重要です。
ただし、手術部位を直接触れないように注意が必要です。医師から指示された通りにうがいや歯磨きを行いましょう。
研磨剤清掃剤成分が入っている歯磨剤は細かい粒子が傷口に入り込むため、避けるようにしましょう。
④痛み管理
痛みがある場合は、処方された痛み止めを適切に使用します。痛みが強い場合や、異常を感じた場合は、すぐに歯科医師に相談することが重要です。
⑤抗生物質服用
術後感染を防ぐため、抗生物質は用法用量を指示通り守り、しっかり服用しましょう。
終わりに
親知らずの早期抜歯(germectomy)は、将来的な歯列の問題や口腔内の健康を守るために非常に重要な手術です。
適切なタイミングで行うことで、手術のリスクを最小限に抑え、患者様の負担を軽減することができます。
親知らずに関する不安や疑問がある場合は、早めに歯科医師に相談し、適切なアドバイスを受けることが大切です。ご質問等ございましたらいつでもお尋ねください。
健康な口腔環境を維持するために、親知らずの管理を怠らないようにしましょう。