2025年1月14日
(院長の徒然ブログ)
はじめに
皆さんは歯周病と診断されたことはありますか?
成人した日本人の8割は歯周病と言われていますが、皆さんは歯周病で骨や歯周組織が壊されていくのは、誰が犯人と思いますか?
「細菌」と答えたあなた、半分正解…いえ、半分も正解になっていないのです。
実は歯周病が進行している際に、骨などを溶かしていくのは、私たちの身体の細胞自身なのです。
本コラムでは、歯医者では普段話されない歯周病の進行の、専門的なメカニズムを紹介したいと思います。
歯周病は免疫応答により進行していく
歯周病は、歯肉や歯槽骨を含む歯周組織の炎症性疾患であり、主に細菌感染によって引き起こされます。
ですが歯周病の進行自体は、細菌だけでなく細菌に対しての免疫反応と密接に関連しており、さまざまな炎症性メディエーターが関与しています。
歯周病の進行メカニズムに焦点を当て、特に免疫応答の役割について以下で詳しく解説していきます。
細菌の歯周組織への侵入時にまず起きること
細菌が歯周組織内への侵入しようとしても、そこにはバリアがあるんです。実は歯茎は歯と(歯肉接合上皮による)ヘミデスモゾーム結合というもので接着しています。(ラミニン5やインテグリンα6β4で構成)
こういったバリア機能や抗菌ペプチド(β ディフェンシン等)の発現に防御されているんです。
しかし,歯と歯茎の境目は構造的にプラーク(細菌塊が沈着しやすく、歯肉溝(歯と歯茎の境目の溝)内は細菌によるバイオフィルムの形成が非常に起こりやすい環境なのです。
上記のシステム以外にも、我々は存在する細菌に対して,IgAなどの抗菌物質を含んだ唾液やIgGを中心とした抗体、サイトカインを含んだ歯肉溝
滲出液、好中球などの貪食細胞による一次防御反応 (自然免疫)により、細菌に対抗していきます。
構造上、歯肉接合上皮および歯肉溝上皮は細胞の層が薄いため、血管網からのすみやかな貪
食細胞(好中球等)の応援を呼べます。
実際,細菌に反応した歯肉接合上皮が産生するIL-8等のケモカインや、宿主による補体成分C5a,ロイコトリエンB4などの白血球走化誘起物質の産生は,血管内より好中球の滲出を促進します。
本来の健康な歯肉において、1分間に3万個もの好中球が歯肉接合上皮を通過して口腔内に到達します。
好中球は補体や抗体の働きに助けられながら細菌への貪食能を発揮していきます。
通常は,上述するような生体応答を繰り
返すことによって、細菌に負けずに歯肉の状態が維持されるのです。
しかし,この一次防御システムを上回る細菌群が押し寄せることにより、度重なる免疫応答が誘導され,その結果上皮の潰瘍形成及び細菌の結合組織内への侵入が起こっていくのです。
歯周病の初期段階と免疫応答
歯周病は、まずプラークの蓄積から始まります。
プラーク内の病原性細菌が歯肉に感染すると、宿主の免疫系が反応します。
この反応の一環として、マクロファージや好中球が感染部位に集まり、細菌を排除しようとします。
マクロファージは、細菌を貪食するだけでなく、炎症性メディエーターと言われる物質を分泌します。
これには、プロスタグランジンE2(PGE2)やインターロイキン(IL-1、IL-6など)が含まれ、これらは炎症を促進し、血管透過性を高める役割を果たします。
炎症の進行と破骨細胞の活性化
炎症が持続すると、慢性的な免疫応答が引き起こされ、歯周病は進行します。
慢性炎症の状態では、マクロファージやT細胞が活性化され、腫瘍壊死因子α(TNFα)や干渉因子γ(IFNγ)などのサイトカインが分泌されます。
これらのサイトカインは、破骨細胞の活性化を促進し、骨吸収を引き起こします。
そうやって破骨細胞は、歯槽骨を破壊し、歯周病の進行を助長していくのです。
つまり、元は細菌による刺激が原因ですが、最終的に骨を破壊するのは自分の細胞自身なのです。
おまけ:MMPとTIMPのバランス
歯周病の進行には、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)とその抑制因子である組織インヒビター(TIMP)のバランスも重要です。
MMPは、歯周組織の構造を破壊する酵素であり、炎症によってその活性が増加します。
一方、TIMPはMMPの活性を抑制する役割を持っていますが、炎症が続くとTIMPの産生が追いつかず、MMPが優位に立つことで組織の破壊が進行します。
おまけ:LPSとLTAの役割
歯周病の原因となる細菌は、リポポリサッカライド(LPS)やリポテイコ酸(LTA)を産生します。これらの物質は、宿主の免疫系を刺激し、炎症反応を引き起こします。
LPSは特に強力な免疫刺激物質であり、マクロファージや樹状細胞を活性化し、サイトカインの産生を促進します。
この結果、炎症が持続し、歯周病が進行する要因となります。
終わりに
歯周病は、免疫応答によって進行する複雑な疾患です。
初期の感染に対する免疫反応が、慢性的な炎症を引き起こし、破骨細胞の活性化やMMPの増加を招きます。
これにより、歯周組織の破壊が進行し、最終的には歯の喪失に至ることもあります。
歯周病の予防と治療には、これらの免疫メカニズムを理解し、適切な対策を講じることが重要です。
定期的な歯科検診や適切な口腔ケアを行うことで、歯周病のリスクを低減し、健康な口腔環境を維持することが可能です。
是非、歯を守るためにも定期検診を継続してみてください。