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顎関節症の原因、症状、治療について

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2025年1月31日

顎関節症の原因、症状、治療について

(院長の徒然ブログ)

はじめに

顎関節症(がくかんせつしょう)は、顎の関節や周囲の筋肉に関連する痛みや機能障害を引き起こす疾患のことです。

顎関節は、下顎と頭蓋骨をつなぐ重要な関節であり、食事や会話、表情など日常生活において欠かせない役割を果たしています。

顎関節症は、こういった様々な機能に影響を及ぼすため、患者の生活の質を大きく損なうことがあります。

今回のコラムでは、顎関節症の定義、原因、症状、分類、治療法、そしてTCH(tooth contacting habit)について詳しく解説していきます。

顎関節症の定義

顎関節症は、「顎関節やその周囲の筋肉(主に咀嚼筋)に痛みや不快感を引き起こす疾患」であり、顎の動きに制限をもたらすことがあります。

日本顎関節学会では顎関節症の疾患概念を以下のように定めています。

「顎関節症は、顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節(雑)音、開口障害ないし顎運動異常を主要症候とする障害の包括的診断名である。

その病態は咀嚼筋痛障害、顎関節痛障害、顎関節円板障害および変形性顎関節症である。」

顎関節症の原因

主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。

ストレス

精神的なストレスは、食いしばり(クレンチング)や歯ぎしり(グラインディング)といったブラキシズムを誘発させ、顎の筋肉を緊張させ、顎関節に負担をかけることがあります。

歯ぎしりや食いしばり

睡眠中や日常生活での無意識の歯ぎしりや食いしばりは、顎関節に過剰な力をかけ、痛みを引き起こす原因となります。

通常リラックスしている状態だと上下の歯は当たってないことが通常ですが、歯ぎしりや食いしばりが習慣になっている人は、平静時でも接触しています。

これについては後ほど説明していきます。

不正咬合

歯の噛み合わせが悪いと、顎関節に不均等な力がかかり、顎関節や周囲組織に痛みや機能障害を引き起こすことがあります。

場合によっては歯並びだけでなく、顎骨自体の変形や左右差(傾きなど)による不調和で起こることもあります。

外傷

顎への外的な衝撃や事故による外傷も、顎関節症の原因となることがあります。

外傷自体によって引き起こされることはもちろんですが、時折あるのは、交通事故などで顎骨が骨折し、その際不均等に骨折が治癒してしまい、骨折治癒後も顎関節症に悩まされるケースもあります。

関節の変性

加齢や関節炎などによる関節の変性も、顎関節症を引き起こす要因となります。

後発的に進行するので、徐々に症状が生じていくことが多いです。

顎関節症の症状

それでは症状について紹介いたします。顎関節症の症状は多岐にわたりますが、主なものは以下の通りです。

顎の痛み

顎関節や周囲の筋肉に痛みを感じることが多く、特に開口閉口時、食事中や会話中に悪化することがあります。

顎の動きの制限

顎が開きにくくなったり、動かすときに引っかかる感じがすることがあります。

特に関節円板と言われる軟骨や、関節の骨自体に異常がある時に生じます。

音の発生

顎を動かすときに「カクッ」といった音がすることがあります。これはクリッキング音と呼ばれ、関節内の軟骨や靭帯の異常によるものです。

痛みも無く無症状に経過することも多いですが、顎関節症の方の多くはこの初期症状を経験します。

頭痛や耳鳴り

顎関節症は、頭痛や耳鳴りを引き起こすこともあります。

これは、顎関節と耳の位置関係が影響しているためです。

また咀嚼筋の一部は側頭部などもカバーしているため、頭痛に襲われたり肩こりとして症状に現れたりします。

顎関節症の分類

Ⅰ型:咀嚼筋痛障害

主に咀嚼筋といった筋肉の痛みを主体とする型です。

しゃべり過ぎたり、大声を出し続けたりするなど顎の筋肉の酷使によって引き起こされる筋緊張型の顎関節症です。

過度の食いしばりの継続などによっても引き起こされます。

要するに分かりやすく言うと筋肉痛です。

Ⅱ型:顎関節痛障害

顎関節を支える靭帯の損傷によるタイプです。

硬い物を食べたり、歯ぎしり、食いしばったりすることによって、引き起こされます。

もっとわかりやすくいうと、顎が捻挫してしまった状態です。

Ⅲ型:顎関節円板障害

下顎の骨と頭蓋骨の間には、関節円板と呼ばれる軟骨のクッションがあります。

その関節円板の異常によるタイプです。

顎関節には下顎骨と頭蓋骨の間に関節の突起がすっぽり入る関節窩(かんせつか)と言われる窪みが形成されます。

この骨と骨の間には関節円板というクッションのような軟骨組織が介在し、顎をスムーズに開閉させる役割があります。

この関節円板の位置がずれてしまった状態です。

知らないうちに戻ったりずれたりを繰り返す場合もあれば、ずれたまま位置が戻らないこともあります。

このタイプは閉口時に関節円板が元の位置に戻る「復位性」と、元の位置に戻らない「非復位性」にさらに分類されます。

顎関節円板障害の大部分は、関節円板の前方転位、前内方転位または前外方転位の3つのうちのいずれかなのですが、稀に内方転位、外方転位、後方転位、開口時の関節円板後方転位などもあります。また、「口を開けようとするとひっかかり開口できない状態」を間欠ロックと呼ぶのですが、これも復位性顎関節円板障害に含めます。

Ⅳ型:変形性顎関節症

骨の変形を伴うタイプです。

変形性顎関節症言われ、繰り返し慢性的な負荷が顎関節にかかるために顎関節の関節突起が変形して起こります。

V型:その他

Ⅰ〜Ⅳのいずれにも該当しないタイプです。

TCH(Tooth Contacting Habit)について

TCH(tooth contacting habit)は、無意識のうちに歯を接触させる習慣を指します。

これは、日常生活の中で無意識に歯を噛み合わせている状態であり、特にストレスや緊張を感じているときに多く見られます。

TCHは、顎関節に過剰な負担をかけ、顎関節症の発症や悪化に大きく寄与することがあります。

TCHの影響は以下のように現れます。

筋肉の緊張

歯を接触させることで、顎の筋肉が緊張し、痛みを引き起こすことがあります。

顎関節への負担

TCHが続くと、顎関節に過剰な力がかかり、関節の変性や炎症を引き起こす可能性があります。

不正咬合の悪化

TCHがあると、常に歯に異常な力が働いている状態となるため、歯の位置や噛み合わせが変わり、不正咬合が悪化することがあります。

TCHを改善するためには、意識的に歯を接触させないようにすることが重要です。

ストレス管理やリラクゼーション法を取り入れることで、TCHを軽減することができます。

またTCHのことを患者さん自身で意識してもらうことによって改善するケースもあります。

顎関節症の治療法

顎関節症の治療は、症状の程度や原因に応じて異なります。主な治療法は以下の通りです。

1. 保存的治療

保存的治療は、外科的な治療を伴わない非侵襲的な方法であり、初期の段階で行われることが一般的であり第一選択でもあります。

主な方法は以下の通りです。

  • 生活習慣の改善: ストレス管理やリラクゼーション法を取り入れることで、顎の筋肉の緊張を緩和します。また、食事時には柔らかい食べ物を選び、顎にかかる負担を軽減します。氷をガリガリ噛んだりする習慣の改善もこれに当たります。
  • 物理療法: 温熱療法や冷却療法が用いられます。温熱療法は血流を改善し、筋肉の緊張を緩和する効果があります。一方、冷却療法は炎症を抑え、痛みを軽減します。低周波治療による筋肉への電気刺激やレーザーによる疼痛緩和もこれに当たります。
  • マッサージ: 顎周囲の筋肉をマッサージすることで、筋肉の緊張を緩和し、血流を促進します。特に、咬筋(咬合筋)や側頭筋のマッサージが効果的です。
  • ストレッチング: 顎の可動域を改善するためのストレッチングが推奨されます。顎をゆっくりと開閉する運動や、左右に動かす運動が含まれます。下顎可動化訓練だけでなく、顎の筋肉の筋力増強訓練も行われることがあります。

2. 装置療法(アプライアンス療法)

装置療法は、顎関節や咬合に対する物理的なアプローチです。アプライアンス療法とも呼ばれることがあります。主に以下の装置が使用されます。

  • ナイトガード: 睡眠中の歯ぎしりや食いしばりを防ぐために使用されるマウスピースです。ナイトガードは、寝ている時の無意識なブラキをジムからの顎関節への負担を軽減し、筋肉の緊張を緩和します。
  • オクルーザルスプリント: 咬合の調整を目的とした装置で、顎の位置を正しい位置に導き下顎頭の位置を修正する役割を果たします。これにより、顎関節への不均等な力を軽減し、異常な筋肉の活動を是正します。
  • 矯正装置: 不正咬合が原因で顎関節症が発生している場合、歯科矯正治療が必要です。矯正装置を用いて歯の位置を改善し、そもそもの不正咬合を正常化することで、顎関節への負担を軽減します。

3. 薬物療法

薬物療法は、痛みや炎症を軽減するために使用されます。特に慢性化してしまった顎関節症で行われることがあります。主な薬剤は以下の通りです。

  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs): イブプロフェンやロキソプロフェン、ジクロフェナクナトリウムなどのNSAIDsは、痛みや炎症を軽減するために広く使用されます。これらの薬剤は、顎関節の炎症を抑える効果があります。
  • 筋弛緩薬: 筋肉の緊張を緩和するために使用される薬剤で、テルネリン(チザニジン)、ミオナール(エペリゾン)といった薬があります。特に顎の筋肉が過度に緊張している場合に効果的ですが、副作用が強いため最近は使用が減ってきました。
  • 抗うつ薬: ベンゾジアゼピン系薬物が主に使用され、慢性的な痛みの管理に役立つことがあります。睡眠中の歯ぎしりを原因とする顎関節の痛みや疲労感がある場合は、睡眠の改善と筋肉の緊張を緩和するために使用されます。とはいえ薬に依存性があるため、1~2週間以内の短期間での服用に抑えたいところです。

4. 外科的治療

保存的治療や薬物療法が効果を示さない場合、外科的治療が検討されます。主な外科的手法は以下の通りです。

  • 関節鏡視下手術: 顎関節内の異常を直接観察し、必要に応じて修正する手術です。関節鏡を使って関節の癒着を剥離していき、関節内の軟骨や靭帯の損傷を修復することができます。
  • 関節腔洗浄療法:パンピング療法とも呼ばれ、生理食塩水を関節腔に注入と排出を繰り返して洗浄する処置です。関節腔内の滑液が新しく置き換わることで、顎関節の新陳代謝が改善され、老廃物が排出されます。
  • 関節円板の整復や切除:3型の治療法で用いられます。前方に転位した関節円板を関節腔に直接注射して関節腔を拡大し、徒手的に円板を元の位置に戻す処置です。関節円板が損傷を受けて変形や転位している場合、関節内で癒着し可動性を失った場合などに適応されます。
  • 顎関節置換術: 重度の顎関節症や関節の変性が進行している場合、顎関節を人工関節に置換する手術が行われることがあります。この手術は、変形性変化が非常に強い場合などに適応され、顎の機能を回復させます。

5. 補完療法

補完療法は、あくまで補助的な治療法として用いられます。以下のような方法があります。

  • 鍼治療: 要するに鍼灸です。マッサージなどに付随して行われます。鍼治療は、痛みの軽減や筋肉の緊張を緩和するために用いられ、顎周囲の筋肉をほぐします。
  • 心理療法: ストレスや不安が顎関節症に影響を与えることがあるため、心理療法やカウンセリングが有効です。認知行動療法(CBT)などが用いられます。

終わりに

いかがでしたでしょうか。

昨今のストレス社会により顎関節症の患者さんは増加傾向にあります。

顎関節症の治療は、保存的治療から外科的治療まで多岐にわたります。

患者の症状や原因に応じて、適切な治療法を選択することが重要です。

生活習慣の改善や物理療法、装置療法、薬物療法を組み合わせることで、顎関節症の症状を軽減し、患者の生活の質を向上させることが期待されます。

顎関節症は慢性的な疾患であるため、早期の診断と適切な治療が重要です。

顎関節症のことで、疑問がございましたらいつでもお尋ねください。

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