2024年11月09日
(院長の徒然ブログ)
ジルコニアというセラミック
恒例になっているセラミックシリーズ、今回は歯科セラミックで「頑丈No1」のジルコニアについて紹介いたします。
歯科用ジルコニアは、その名の通り主にジルコニウム酸化物(ZrO₂)から成る材料で、負担の掛かる部位のセラミック治療には、欠かせないセラミックです。
特にブリッジと言われる欠損部の補綴をする際は、他のセラミックを寄せ付けない頑丈さを発揮します。
結晶構造の安定のために、イットリウム酸化物 (Y₂O₃)、リウム酸化物、マグネシウム酸化物などが添加されることもあり、更に近年では前歯部用に透明性の高いセラミックを配合していることもあります。
ジルコニアは、優れた機械的特性や生体適合性を持つため、歯科医療において非常に重要なセラミックなのです。
ジルコニアが歯科に使われた歴史
ジルコニアの歴史は、歯科セラミックの中では割と浅いです。
1978年にドイツ人のマルティン・ハインリヒ・クラプロートによってジルコンから発見されました。
瞬く間に注目を集め、1980年代にはジルコニアの特性が研究され始め、その高い強度と耐久性が注目されました。
この時期はまだ工業用途で使用されていましたが、歯科医療への応用が検討されるのにそれほど時間はかかりませんでした。
1990年代に入るといよいよ歯科への導入が始まります。
ジルコニアを用いてクラウンやブリッジなどの高強度を必要とする補綴物に使用されるようになりました。
そしてイットリウム酸化物を安定材として使用したジルコニア(Y-TZP)が開発され、これが歯科用ジルコニアの基盤となりました。
ただし、この頃はジルコニアは加工が難しく、技工料の値段は高い状況だったのです。
2000年代になるとCAD/CAM技術の発展により、ジルコニアの加工が容易となり、精密かつ安価に補綴物の製作が可能になりました。
このしてジルコニアは審美性と機械的強度を兼ね備えた優れた材料として、普及していったのです。
2010年代には色調や透明度を高める材料を含んだブロックの開発が加速度的に進み、審美性が向上した製品が登場しました。
因みにここまで読んだ人ならお気づきかもしれませんが、「ジルコニア」は物質名です。
以前紹介した「e.max」「セラモーション」は製品名です。
つまりジルコニアといっても、例えば「株式会社松風のジルコニア」ととか「京セラのジルコニア」などで若干色味や丈夫さが異なってきます。
ブランデンタルクリニックでは、どこも拘って状況に応じて使い分けています。
ジルコニアの性質
①高い曲げ強度
約1000から1300MPaというすごい曲げ強さを持ち、耐久性に優れています。
これにより、たわむ力が掛かるブリッジなどでも使用できます。
②強い靱性
圧縮強さは脅威の3500〜5600MPaです。
靱性とは外力によって破壊されにくい性質のことで、一般的にセラミックは脆く脆性材料とも呼ばれますが、ジルコニアはタフなため破壊靭性が高く、衝撃に対しても高い耐性があります。
③ピッカース硬度が高い
ピッカース硬度が約1200〜1500 HVで、摩耗に強いです。
これは天然歯の277〜366HVに対して圧倒的に高い数値です。
ジルコニアが摩耗しないというメリットもありますが、反対の歯が削れていくという大きなデメリットにもなり得ます。
因みに…
「人工ダイヤモンド」「模造ダイヤモンド」と言われますが、ダイヤモンドに硬さが近い!…わけでは無く、光の屈折率がダイヤモンドと近いのでそう呼ばれています。
④熱伝導率が低い
2.7〜3.0W/m•kという低い熱伝導率を持ち、口腔内で幾度となく繰り返される温度変化に対して耐性があります。
⑤熱膨張係数が歯にそれなりに近い
熱膨張係数は7.9〜11.0×10-6/℃比較的低い熱膨張係数を持ち、歯との接着の適合性が良好です。
温度変化によって歯との寸法変化があまり起きないので、脱離や不適合のリスクが低いです。
(参考:エナメル質が11.4×10-6/℃で、象牙質が8.3×10-6/℃)
⑥それなりに耐薬品性がある
一般的な酸や塩基に対しては侵食はされない。
ただし、フッ化水素酸(フッ酸)に対してはとても脆く、水酸化ナトリウム、硝酸、塩酸にも微かながら侵食される。
最もそんな酸塩基が口の中に入ったらそれどころではないが…
⑦生体適合性が高い
ジルコニアは生体適合性が高く、口腔内での使用においてアレルギー反応を引き起こすことが少ない。
そのためインプラントの材料としても使われるのです。
⑧審美性も高い
一部の見た目がとても良いセラミックに比べれば見劣りするが、それでも十分自然な歯に近い色合いを再現できる。
また、透明感もそれなりにある。
⑨分子間距離が短い。
構成する分子の距離が短いため、着色させる分子などが入り込みにくく、「着色などの汚れがつきにくい」というメリットがある。
一方で歯科技工歯がステイン法で着色する際は、中々色素が乗らずに、「ステインをつけにくい」というデメリットにもなってしまっています。
要するに、ジルコニアというのはメリットが凄まじいが、デメリットもあるセラミックなのです。
使用する補綴物
ジルコニアは、クラウン(被せ物)、基本的に大抵のブリッジ(ダミーの歯を含む橋渡しをする被せ物)、インレー(詰め物)、ラミネートベニア(上の前歯に貼り付けるシェル)など、さまざまな補綴物に使用されます。
ラミネートベニアでは、e.maxに比べると色調再現や透明感で劣りますが、頑丈さで圧倒的に上回ります。
つまり、審美性も求めたいが、負担の掛かる場所に対して補綴をする際に、その特性を大いに活かせるセラミックなのです。
一方で、高さ調整などを誤ると、対合歯を割ったり、摩耗させたりするという、歯科医のマメさと腕前が思いっきり出てしまう材料でもあります。
いかがでしたか?
ジルコニアはとても高い強度・靱性を持ち、審美性も高いという優秀な材料なんです。
また、今後他のセラミックと併用することで拡張していくセラミックともいえます。
是非セラミック治療の際は、ご検討いただければと思います。
これからはセラミック治療は選ぶ時代です。
自分の歯に合ったセラミック治療をしていきましょう。