2025年1月31日

(院長の徒然ブログ)

はじめに
歯周病は、歯を支える組織に炎症が生じ、最終的には歯の喪失を引き起こす可能性がある疾患です。
歯周病の治療には、歯周組織の再生が重要な役割を果たします。
近年、歯周組織再生のための材料として注目を集めているのが「リグロス」です。
本コラムでは、リグロスの特性、使用方法、効果、そしてその臨床的意義について詳しく解説します。
リグロス®️とは
リグロスは、2016年9月に保険適用となった歯周組織再生材料です。
有効成分であるトラフェルミンが主成分であり、これは歯周組織を再生してくれる細胞を増やす成長因子で、歯周病で破壊された歯周組織の再生を促進します。
トラフェルミンはあくまで一般名で、正式にはヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor(bFGF))と呼ばれます。
bFGFは線維芽細胞や血管内皮細胞、血管平滑筋細胞等、組織再生に関わる多くの細胞を誘導して再生を促すのです。
リグロス®️の組成
①トラフェルミン(遺伝子組み換え)
前述の通り、主に成長因子を含むペプチドで、細胞の増殖や分化を促進する作用があります。
特に、線維芽細胞や骨芽細胞の活性化を助け、歯周組織の再生を促進します。
トラフェルミンは、傷の治癒過程において重要な役割を果たし、組織の再生を加速させるため、歯周病治療において非常に有用です。
②凍結乾燥品
エデト酸ナトリウム水和物、白糖、pH調整剤などが含まれます。
エデト酸ナトリウム水和物(EDTA)は、キレート剤として知られ、金属イオンと結合する能力があります。
これにより、歯周組織内のカルシウムイオンを捕囚し、細胞の活性化を促進します。
また、EDTAは、歯根面の清掃や消毒にも寄与し、感染のリスクを低減する役割を果たします。
凍結乾燥品として提供されることで、薬剤としての安定性が高まり、使用時に溶解して活性を発揮します。
白糖は他の成分と混合する際の安定剤としても機能し、製品の物理的特性を向上させる役割があります。
pH調整剤は、溶液のpHを適切な範囲に保つために使用されます。歯科用材料の効果はpHに依存することが多く、適切なpHを維持することで、成分の安定性や生体適合性を向上させます。これにより、治療効果が最大限に引き出され、患者にとっても安全な環境が提供されます。
③ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)
製品の溶解剤として用いられている高分子化合物で、粘度を調整する役割があります。
これにより、リグロスの適用時に適切な流動性が確保され、均一に塗布することが可能になります。
また、HPCは生体適合性が高く、組織との相互作用を促進するため、再生過程においても有益です。
リグロス®️の使用方法
①診断と治療計画
歯周病の診断を行い、リグロスを使用する治療計画を立てます。
必要に応じて、歯周ポケットの深さや骨の状態を評価します。
保険診療内で使用する際は、最低でも3回目の歯茎の検査まで、歯茎の治療を進めなければいけません。
(その過程で、歯石除去などを目的とするスケーリング、歯の根の面の感染物を綺麗にするSRPという処置が行われます。)
②手術準備(麻酔と消毒)
患者に対して局所麻酔を行い、手術部位の消毒を行います。
③歯周組織の剥離と感染物除去
歯周ポケット内の炎症組織や感染した組織を除去します。この段階で、歯根面の清掃も行います。
④リグロスの塗布
清掃した部位を生理食塩水などで綺麗に洗い流し、リグロスを塗布します。薬品が貯留するように過不足なく塗布していきます。
⑤縫合と歯周パック
リグロスを適用した後、手術部位を縫合します。
また、その上にさらに歯周パックと呼ばれるセメント状のパックを置きます。
これにより、リグロスが漏れないよう安定して周囲の組織への貯留が確保されます。
⑥術後管理
手術後は、患者に対して適切なアフターケアを指導します。
抜糸は通常2週間程度ですが、場合によっては前後します。
抜糸後も定期的なフォローアップが重要で、定期的にレントゲン撮影も行って、組織の再生の度合いをチェックしていきます。
リグロス®️の適応症
基本的に
「歯周ポケットの深さが4mm以上、骨欠損の深さが3mm以上の垂直性骨欠損がある場合」
に使用します。
リグロス®️歯科用液キットは、粘稠のある液体ではあるのですが、貯留という意味ではエムドゲインなどの再生材料には一歩劣ります。
ですので壁に囲まれていない組織の再生は不十分ですし、水平性骨欠損には使用できません。
しかしその分、保険診療で適応が認められているのに、垂直性骨欠損の再生に対する効果は高いです。
リグロス®️の副作用
リグロス歯科用キットは一般的に安全性が高いとされていますが、使用に際していくつかの副作用が考えられます。
①局所的な炎症
リグロスの適用後、局所的な炎症反応が起こることがあります。
これは、体が異物として認識することによるもので、通常は一時的なものです。
②アレルギー反応
リグロスに含まれる成分に対してアレルギー反応を示す患者もいます。
一般的にアレルギー反応は塗布後数十分以内に症状が出ます。アレルギー反応が起こった場合、適切な対処が必要です。
③感染のリスク
リグロス特有の副作用では無いのですが、手術後の感染はリグロスの使用に限らず、すべての外科的手技においてリスクがあります。
感染が発生すると、再生過程が妨げられる可能性があります。
④再生不全
再生材料として注目されているリグロスですが、リグロスを使用しても、必ずしも再生が成功するわけではありません。
患者の全身状態や口腔内の環境、再生の足場となる組織の環境などが影響を与えるため、再生不全が起こることもあります。
⑤使用禁忌症例
口腔内悪性腫瘍などがある患者様には使用ができません。
妊婦に対しても使用は基本的に使用禁止です。
その他、尿中アルブミン陽性、尿中NAG上昇、尿中β2ミクログロブリン上昇、AST上昇、CRP上昇 、ビリルビン上昇、CK上昇、ALT上昇、LDH上昇、尿糖陽性、リンパ球増多といった副作用もあるため、全身疾患のある方には対診して使用を決定します。
終わりに
リグロスは、歯周組織再生において非常に有用な材料であり、その特性や効果から多くの歯科医師に支持されています。
歯周病は、適切な治療を行わなければ進行し、最終的には歯の喪失につながる可能性があり、現在日本で最も歯を失う原因ともなっています。
リグロスを使用することで、歯周組織の再生を促進し、患者の口腔健康を守ることができるケースもあります。
今後もリグロスの研究が進むことで、より効果的な治療法が開発され、歯周病に悩む患者にとっての新たな希望となることが期待されています。
当院ではリグロスを用いた歯周再生治療も行っておりますので、お気軽にお尋ねください。