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研磨剤なしの歯磨き粉はフッ素が長く残る?成人7人で調べた広島大学の研究を読み解く

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2026年9月28日

研磨剤なしの歯磨き粉はフッ素が長く残る?成人7人で調べた広島大学の研究を読み解く

(歯科衛生士さんのある日の日誌)

はじめに

歯磨き粉を選ぶとき、皆さんは箱やチューブのどこを見ていますか。

「フッ素1450 ppm」「研磨剤無配合」「低発泡」「ステイン除去」。売り場に並ぶ言葉を見ていると、むし歯予防も、着色も、磨き心地も気になって、どれを優先したらよいのか迷いますよね。

今日は、その中の「研磨剤」と「フッ素」の関係を調べた研究を読んでみました。

研磨剤というと、「着色を落としてくれるもの」「歯を削りすぎないか気になるもの」というイメージがあるかもしれません。今回の研究は、そこにもう一つ、歯磨き後にフッ化物がどのくらい口の中に残るかという視点を加えています。

広島大学の研究グループが、健康な成人7人と、歯の主な無機成分を模した材料を使って行った研究です。ウエルテックから歯磨剤と歯ブラシの提供を受け、2026年9月10日に、査読のある学術誌『Dentistry Journal』で論文が公開されました。続いて9月25日15時21分、ウエルテックが研究成果を発表しています。[1、25]

読み終えて、歯磨き粉の選び方を少し丁寧に説明できそうだと感じました。ただし、「研磨剤なしなら、むし歯になりにくいと証明された」と受け取ると、この研究が調べた範囲を越えてしまいます。

何が分かって、何がまだ分からないのか。これまでの研究ともつなげながら、順番に整理してみます。

今回の研究で分かったことを、最初に整理します

最初に、今回の結果を短くまとめます。

調べたこと得られた結果読み取るときの注意
1450 ppmFの市販歯磨剤5種類一部の製品間で、歯磨き20分後・30分後のフッ化物濃度に差があった研磨剤以外の成分も異なる
同じ基本処方でシリカ系研磨剤を0・10・20・30%に変更10~30分後は、0%条件の平均値が高い傾向だった後半の各時点で、すべての条件間に有意差が示されたわけではない
ハイドロキシアパタイトのペレットを使った実験最初の洗浄液では、0%条件から回収されたフッ化物が他の条件より多かった天然の歯そのものや、実際のむし歯発生を調べた実験ではない

この研究から考えられるのは、シリカ系研磨剤の配合が、使用後のフッ化物の残り方に影響する可能性があるということです。

一方で、参加者は7人。調べたのは歯磨き後30分までの濃度などで、数か月、数年後のむし歯の発生率ではありません。「すべての無研磨剤製品が優れている」「研磨剤が多いほど必ずフッ素が残らない」といった結論も出ていません。[1]

この区別を押さえると、新しい研究を毎日の歯磨きにどう生かせるかが見えてきます。

同じ1450 ppmFでも、磨いた後まで同じとは限りません

まず、歯磨き粉の表示と、研究で測る数値を整理しておきましょう。

一般には「フッ素入り」と呼びますが、歯磨き粉にはフッ化ナトリウムなどのフッ化物が配合されています。この記事でも、普段の言葉としては「フッ素」、研究の測定結果を説明するときには「フッ化物」や「フッ化物イオン」と書きます。

「1450 ppmF」は、歯磨き粉に含まれるフッ化物の濃度を示す表示です。しかし、この数字だけで、磨いた後の唾液や歯の表面にどれだけ残るかまで分かるわけではありません。

見ているもの主な問い
歯磨き粉に含まれる総フッ化物製品全体にどれだけ含まれているか
可溶性フッ化物・実験上の利用可能なフッ化物決められた条件で溶け出し、測定できる形でどれだけ存在するか
使用後の口腔内フッ化物磨いた後、唾液・歯垢・粘膜などにどれだけ残るか
むし歯予防効果一定期間使い続けた人で、むし歯の発生や進行がどう変わるか

これらは関係する指標ですが、同じ数値ではありません。

たとえばHashizumeらの2003年の研究では、日本の歯磨剤を購入直後と室温で1年間保存した後に調べています。一部のリン酸水素カルシウム系研磨剤を含む製品で、保存後に可溶性フッ化物が減り、不溶性の部分が増えました。ただし、当時の製品を調べた結果であり、研究者らは測定された可溶性フッ化物がなお十分な水準にあると評価しています。現在の日本の歯磨き粉全体を否定する話ではありません。[2]

Shenらの2021年の研究は、カルシウムを含む市販歯磨剤6種類を実験室で比較しました。総フッ化物は表示量の94~105%でしたが、研究上「利用可能」と評価した割合は、CPP-ACP(カルシウムとリン酸に関わる成分)配合の1製品で97%、炭酸カルシウム配合製品では27~61%でした。これは歯磨剤を水と混ぜて分析した結果で、口の中に残った割合や、むし歯が減った割合ではありません。[3]

今回の広島大学の研究は、このうち「使用した後の残り方」に目を向けています。製品の表示濃度をそろえた上で、処方の違いがその後の濃度にどう関係するかを調べた点が、読みどころです。

成人7人で、どのように比較した研究なのか

ヒトでの実験に参加したのは、20代の健康な成人7人です。同じ参加者が、日を変えて複数の条件を経験しました。[1]

比較は大きく二つあります。

一つ目は、いずれも1450 ppmFの市販歯磨剤5種類。シリカ系の研磨剤を含む製品と、研磨剤を含まない製品が含まれています。

二つ目は、同じ基本処方を使い、シリカ系研磨剤の濃度を0%、10%、20%、30%に変えた歯磨剤です。市販品同士では香味や発泡剤なども違うため、研磨剤の濃度に着目しやすい比較を別に設けています。

歯磨き粉の使用量は0.5 g、歯磨き時間は2分。磨いた後は10 mLの水で5秒間すすぎ、さらに10 mLの水で5秒間すすいだ液を「0分」の試料として採取しました。その後も、5分、10分、20分、30分の各時点で、決められたすすぎ液を採取しています。

ここで気をつけたいのが、測定したのは、自然に出てきた唾液そのものではなく、水ですすいで回収した液だということです。

「口腔内フッ化物濃度」という表現だけを読むと、ずっと口に水を入れずに過ごした人の唾液を調べたように感じるかもしれません。しかし、実際には測定のためのすすぎが繰り返されています。これは比較条件をそろえるための実験方法で、家庭で同じように何度もすすぐよう勧めるものではありません。

また、この0.5 gという量も実験条件です。日常の推奨量とは分けて考えます。

市販品の比較では、20分後・30分後に差が出ました

市販品5種類の比較では、論文中でEとされた無研磨剤製品が、Bとされた研磨剤配合製品より、20分後と30分後に高いフッ化物濃度を示しました。いずれも統計学的に有意な差として報告されています。[1]

ただし、「無研磨剤の製品すべてが、研磨剤入りの製品すべてより高かった」という結果ではありません。

市販品は、研磨剤の有無だけで構成されているわけではないからです。粘り気、発泡剤、保湿剤など、処方には複数の違いがあります。今回の無研磨剤製品同士でも、発泡剤の配合は同じではありませんでした。

この比較から直接言えるのは、同じ表示濃度の市販製品でも、同じ使い方をした後の濃度が一致するとは限らないということです。

特定の成分がどこまで影響したかを考えるために、次の「同じ基本処方で研磨剤量だけを変えた比較」が役立ちます。

シリカ0・10・20・30%では、時間によって結果が違いました

シリカ系研磨剤の濃度を変えた比較では、すべての時点で同じ順位になったわけではありません。[1]

測定時点論文の図から確認できること
0分20%条件の濃度が高く、有意差が示された比較がある
5分明確な有意差は示されていない
10・20・30分0%条件の平均値が最も高い傾向。ただし、図にはこれらの時点の有意差表示がない

注目したいのは、磨いた直後に近い時点と、少し時間がたった時点で様子が違うことです。

「研磨剤なしの方がフッ素が長く残る?」というタイトルの問いには、この研究条件では、その可能性を示す結果が得られた、と答えるのが適切だと思います。

ただし、平均値に差が見えることと、その差が偶然のばらつきでは説明しにくいと統計学的に示されることは別です。10~30分後は0%条件の平均値が高いものの、その時点の図には有意差が示されていません。したがって、今回の結果は、時間がたってもフッ化物が残りやすい可能性を示す段階と受け止めるのがよいと思います。

7人という人数も、この読み方に関わります。より多くの人で再現するか、年齢や唾液の状態が変わっても同じ結果になるかは、今後確かめる必要があります。

歯の成分を模したペレットでも、フッ化物の回収量に違いがありました

研究では、ヒトでの比較に加えて、ハイドロキシアパタイトのペレットを使っています。ハイドロキシアパタイトは、歯の無機成分の主なものです。[1]

ただし、今回使ったのは天然の歯を丸ごと再現した「人工歯」ではありません。一定の大きさの材料に、一定の量の歯磨剤を使ってブラッシングし、決められた条件で洗う実験です。

ペレットには0.5 gの歯磨剤を使い、荷重やブラッシング回数をそろえています。その後、5 mLの水で30秒間洗う操作を3回行い、洗浄液に回収されたフッ化物を測定しました。

最初の洗浄では、研磨剤0%条件から回収されたフッ化物が、10%、20%、30%条件より多く、いずれも有意差がありました。2回目、3回目も0%条件の平均値は高かったものの、同じように有意差が示されたわけではありません。

この結果は、研磨剤の配合によって、材料の周囲に残るフッ化物や洗い出されるフッ化物が変わる可能性を示します。

一方、測定されたフッ化物のすべてが、ハイドロキシアパタイトの内部に取り込まれたと確認されたわけではありません。表面や周囲に残った歯磨剤の影響と、材料に保持されたフッ化物の影響を、この実験だけですべて分けることはできません。

口の中には唾液や歯垢があり、歯の表面には唾液由来の薄い膜もできます。そうした環境を含めた検証は、また別に必要です。

なお、ハイドロキシアパタイトを「実験材料として使うこと」と「歯磨き粉の有効成分として配合すること」は、別の話です。配合成分としての研究は、ハイドロキシアパタイトとフッ素の歯磨き粉についての記事⁠でも整理しています。

研磨剤が「フッ素を奪う」とまでは言えません

ここまで読むと、「シリカがフッ素を吸い取ってしまうのでしょうか」と考えたくなるかもしれません。

しかし、今回の研究は、結果を生んだ仕組みを一つに特定したものではありません。研磨剤の配合で歯磨剤の物理的な性質が変わり、それが残り方や洗い流され方に影響した可能性もあります。ただし、粘度などを測って、その経路を証明した実験ではありません。[1]

また、研磨剤には複数の種類があります。シリカの今回の結果と、先ほどのカルシウム系研磨剤の保存安定性の結果を、一つの仕組みとして説明することもできません。

カルシウムとフッ化物は、組み合わせ方まで見る

カルシウムが含まれていれば、フッ化物が一律に使えなくなるわけでもありません。

石井らの2024年の研究では、カチオン化セルロース、水溶性カルシウム塩、リン酸塩を組み合わせた処方を調べています。ハイドロキシアパタイトを使った評価では、組み合わせた条件で回収されたフッ化物量は0.45±0.14 μgで、比較条件の0.09±0.03 μg、0.21±0.07 μgより多い結果でした。別のウシエナメル質の実験では、人工唾液へのフッ化物イオンの放出も評価されています。[4]

ただし、この実験では、歯磨剤から研磨剤などを除いた上清を用いています。歯磨剤そのものを使った今回のペレット実験とは方法が違うため、数値を並べて製品の優劣を決めることはできません。

Fujikiらの2025年の研究では、可溶性カルシウムとピロリン酸を組み合わせた1450 ppmFの歯磨剤を、ウシエナメル質の実験で評価しました。可溶性フッ化物を95%超維持した処方で、フッ化物のみの比較処方より再石灰化やフッ化物の浸透が高かったと報告されています。ただし、21日間の実験室での評価で、ヒトのむし歯発生を追った試験ではありません。[5]

石井ら、Fujikiらの論文の著者はライオン所属です。企業の研究も、実験方法や比較対象、開示情報を確認しながら読みます。

成分名を一つだけ見て判断するのは難しく、どの形の成分を、何と、どのように組み合わせた処方なのかが大切になります。

カルシウム・リン酸系の技術にも種類があり、ここで紹介した処方を、そのまま別の製品の技術と同一視することはできません。クリンプロF1450の研究を整理した記事⁠も、製品ごとの根拠を読むための参考になります。

無研磨剤のジェルとフォームでも、同じ結果にはなりません

無研磨剤であることが共通なら、ジェルでもフォームでも同じように残るのでしょうか。

廣瀬らの2021年の研究は、この疑問を考える手がかりになります。950 ppmFのペースト、ジェル、フォームを比較し、11人を解析した研究です。0.5 gを使って2分間磨き、15 mLの水で5秒間すすいだ後、唾液中のフッ化物イオンを4時間にわたって測っています。[6]

濃度の時間変化をまとめたAUCは、次のようになりました。AUCは、濃度と時間で囲まれた面積を使い、測定した期間の濃度をまとめる指標です。

剤型0~240分のAUC:平均±標準誤差
ペースト24.3±7.9 ppm・分
ジェル13.5±2.9 ppm・分
フォーム40.8±8.4 ppm・分

この条件では、フォームはペースト、ジェルのそれぞれより有意に高い値でした。ペーストとジェルの間には有意差がありませんでした。

注目したいのは、ジェルとフォームはいずれも無研磨剤だったことです。研磨剤がないという共通点だけでは、同じ結果になりませんでした。

pHや発泡に関わる成分なども異なり、試験の実施順序も固定されていました。この結果から「フォームなら必ず一番残る」と一般化することもできません。

歯磨き粉の姿や呼び名は、選ぶときの入り口にはなります。ただ、それだけで処方全体の働きを言い切るのは難しいのです。

今回の広島大学の結果も、「研磨剤なし」という表示があれば同じように再現すると決まったわけではありません。同じ基本処方でシリカの量を変えた比較と、市販のジェルやフォームを選ぶ場面とをつなぐには、製品全体の違いを見る必要があります。

泡立ちが少ないほど、フッ素が残るのでしょうか

泡が多いと、口いっぱいになって磨きにくい。味や刺激が気になって、何度もすすぎたくなる。こうした使い心地は、毎日の歯磨きを考える上で大切です。

ただし、泡立ちや発泡剤の有無から、フッ化物の残り方を一方向に決めることはできません。

Vogelらの2015年の研究では、成人10人にフッ化ナトリウムの洗口液を使ってもらい、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)を加えた条件と比較しました。1時間後の唾液の液体部分や歯垢の液体部分では、SLSを加えた条件のフッ化物が高くなりました。一方、総フッ化物では同じような有意差はありませんでした。[7]

これは歯磨き粉の試験ではなく、洗口液の実験です。それでも、「発泡剤は必ずフッ化物保持を悪くする」という単純な説明では整理できないことが分かります。

刺激の感じ方と、フッ化物保持の測定結果は、それぞれ確認したい項目です。口内炎や刺激が気になる場合は、SLSや香味と口内炎についての記事⁠も参考に、使っている製品と症状の出方を歯科で相談してみてください。

口の中で、フッ化物はどこに残っているのでしょうか

「口の中に残る」と一口に言っても、測る場所によって見えてくるものが違います。

自然に分泌された唾液、すすいだ液、歯と歯の間の液、歯垢の中の液体、歯垢の固体部分、粘膜。研究では、こうした場所を分けて調べることがあります。

Larsenらの2019年の研究では、健康な成人14人で歯磨き後の唾液と口腔粘膜を調べています。1450 ppmFの歯磨剤を使った1時間後の値は、口腔粘膜で1.15 ppm、唾液で0.33 ppmでした。測定する場所が違えば、濃度も同じにはなりません。[8]

高齢者を対象に、唾液と歯垢を分けて測った研究もある

Baez-Polanらの研究は、65~80歳の20人を対象にしたクロスオーバー試験です。フッ化物洗口だけの条件と、その前にカルシウムの洗口を行う条件を比べ、2時間まで調べました。唾液量が正常な人と少ない人の両方が含まれています。[9]

この研究では、唾液全体とその上清、歯垢の固体部分と液体部分を分けて分析しました。カルシウムの前洗口を加えた条件で、多くの時点・試料のフッ化物が高く、2時間後にも差がありました。ただし、歯垢の液体部分のAUCには有意差がありませんでした。

一つの時点の濃度が高いことと、測定期間全体のAUCに差があることも、同じではないのですね。

この結果は、今回のシリカの研究を高齢者で再現したものではありません。また、自宅でカルシウムの洗口液を作るよう勧める根拠でもありません。口の中のどこを測るか、唾液の状態をどう扱うかで、研究の問いが変わることを教えてくれます。

こうして見ていくと、別々の論文の「何ppmだった」という数字を、採取方法を確認せずに並べることはできません。今回のすすぎ液の数値も、その測定条件と一緒に読む必要があります。

フッ素が多く残ることは、むし歯が減ることとどこまでつながるのか

フッ化物が口の中に残り、歯の周囲で働くことは、むし歯予防を考える上で大切です。ただし、今回の研究で測った濃度の違いが、実際のむし歯発生にどの程度の違いを生むかは分かりません。

研究の段階を整理すると、次のようになります。

評価の段階分かることの例それだけでは分からないこと
試験管・材料の実験成分の相互作用、洗浄後の回収量日常の口の中で同じことが起こるか
歯質を使った実験ミネラルの変化、再石灰化、硬さ人が使い続けた場合のむし歯発生率
ヒトの短時間の測定使用後の唾液やすすぎ液の濃度長期的に新しいむし歯が減るか
ヒトの臨床試験一定期間のむし歯の発生や進行対象や条件が異なる人にも同じ程度の効果があるか

今回の研究は、この中の材料実験と、ヒトでの短時間の測定を組み合わせています。先ほどのFujikiらの研究は歯質の再石灰化を調べていますが、それもヒトの長期試験とは別の段階です。[1、5]

歯の根元のむし歯も、同じ材料実験だけでは説明できない

歯ぐきが下がって見えてくる歯の根元は、歯冠のエナメル質とは構造が違います。象牙質にはコラーゲンなどの有機成分もあり、ハイドロキシアパタイトだけの材料では、その性質をすべて再現できません。根面う蝕についての福島の総説でも、歯質の特徴を踏まえた考え方が整理されています。[10]

Chenらの2026年の系統的レビューは、歯磨剤と根面う蝕に関する研究を、実験室、口腔内に試料を置く実験、臨床試験に分けて検討しています。2024年1月までを検索対象とし、実験室研究13件、口腔内試料を用いた研究3件、臨床研究12件が含まれました。測定する結果や研究の確かさには違いがあり、このレビューを使って今回の「研磨剤なし」を最上位に置くことはできません。[11]

新しい研究は、次に調べるべきことを具体的にしてくれます。今回なら、参加人数を増やすこと、異なる年齢や唾液の状態でも調べること、別の研磨剤や処方でも再現するか確かめること、そして長期的なむし歯の結果につながるかを見ることです。

研究への企業の関わりも確認します

今回の論文には、ウエルテックが歯磨剤と歯ブラシを提供したことが記載されています。一方、著者らの申告では、企業は研究デザイン、解析、原稿執筆などに関与せず、外部研究資金も受けていないとされています。[1]

製品提供を受けていることも、研究者がどのように関与を説明しているかも、判断材料として一緒に示しておきたい点です。

研磨剤の役割は、着色除去・摩耗・フッ素保持を分けて考えます

今回の研究を読んで、「研磨剤は入っていない方がよい成分なのだ」と感じた方もいるかもしれません。

けれども、研磨剤には、歯の表面の着色などを落とす役割があります。歯磨き粉を評価するときは、少なくとも次の三つを分けて考える必要があります。

  • 着色や汚れをどのくらい落とせるか。
  • 歯や修復物の表面に、どのような摩耗を生じるか。
  • フッ化物などの成分が、使用後にどのように残るか。

今回の研究が主に調べたのは、三つ目の項目です。着色除去や歯の摩耗については、それぞれ別の研究を見ます。

研磨剤の量と摩耗を調べた研究

Enaxらの2023年の研究では、含水シリカの量を変えたモデル歯磨剤などを使い、PMMAという樹脂材料の表面を分析しています。モデル処方では、シリカ量の増加に伴って摩耗の指標が増え、表面形状の測定とRDAとの関係も検討されました。RDAは、一定条件で象牙質に対する研磨性を比較する指標です。[12]

ただし、PMMAは天然の歯ではありません。シリカと書かれた製品すべてが同じ研磨性になるわけでもなく、配合率だけから別製品のRDAや日常の歯質の減り方を計算することもできません。

着色除去をヒトで調べた研究

LiuとTuの2021年の試験では、成人86人を2群に割り付け、81人が8週間の試験を完了しました。高清掃性シリカ10%、フィチン酸ナトリウム0.5%、ピロリン酸ナトリウム0.5%を組み合わせた歯磨剤を、通常のシリカ配合対照歯磨剤と比較しています。[13]

8週時点では、着色の面積、濃さ、それらを組み合わせた指標で試験処方が良好でした。調整後の複合着色指標は、試験群1.45、対照群2.50。対照群に対して42%低いという結果です。

この42%は「歯が42%白くなった」という意味でも、使用前から42%改善したという意味でもありません。決められた着色評価の指標を、2群で比較した値です。また、複数成分の組み合わせなので、シリカ単独の効果には分解できません。

この試験は着色除去を評価しています。フッ化物保持、むし歯予防、長期的な歯の摩耗まで一緒に証明したものではありません。

国内にも、ウシの歯と電動歯ブラシを使って着色除去を調べた学会抄録があります。製品間で着色の落ち方に違いがある一方、表面粗さでは明確な差が示されなかったと報告されています。ここでも、表面粗さに差がないことと、歯質の体積がまったく減っていないことは同義ではありません。実験の長いブラッシング時間を、家庭での推奨時間として使うこともできません。[14]

着色を落としたい人にとって、清掃性は意味のある働きです。研磨剤の有無だけで善し悪しを決めず、その人の目的と歯の状態に合うかを考えたいと思います。

今回の研究で加わったのは、この判断の中で「磨いた後のフッ化物の残り方」にも目を向ける材料です。着色除去の結果とフッ化物保持の結果を、それぞれの測定条件とともに確認することが、製品を選ぶ際の手がかりになります。

着色への対応は、コーヒー・紅茶によるステインとクリーニングの記事⁠でも紹介しています。また、紫色による色の見え方の補正と、着色そのものの除去は別の働きです。紫の歯磨き粉の研究を整理した記事⁠では、その違いも扱っています。

成分表示では、まず何を確認すればよいのでしょうか

売り場で確認するなら、まずは使う人の年齢に合ったフッ化物濃度と使用方法を見ます。その上で、研磨剤の有無、発泡性、香味、知覚過敏などに対応する成分を、目的に合わせて確認します。

「フッ素配合」の文字だけで濃度までは分からない

石塚らの2026年の研究では、濃度の記載がない、または詳細な濃度が公開されていないフッ化ナトリウム配合歯磨剤8製品を選んで分析しています。測定値は、500 ppm未満が1製品、500 ppm前後が4製品、900~1000 ppm前後が3製品でした。[15]

これは2024年に選んだ8製品の調査で、市販品全体の割合を示すものではありません。表示が後から変更される場合もあります。それでも、「フッ素入り」の一言だけでは濃度が同じとは限らないことが分かります。

2024年にまとめられた国内製品一覧も、当時の製品を知る資料として役立ちます。ただし、その一覧の「1000」「1500」といった分類は、すべての製品の実測値がぴったりその値であるという意味ではありません。現在の製品は、手元の表示でも確認します。[16]

同じ長さに出しても、重さまで同じとは限らない

伊井らの2021年の研究では、歯科用歯磨剤31製品などを対象に、使用量に関わる要因を調べています。製品によって密度や吐出口などが異なるため、同じ長さに出しても、同じ重さになるとは限りません。[17]

このことは、家庭で毎回はかりを使う必要があるという意味ではありません。年齢別の長さの目安は実用的です。ただ、論文に書かれた「0.5 g」を、すべての歯磨き粉で同じ長さだと読み替えることはできない、ということです。

成分表示では分からない配合率や物性もあります。分からないところを想像で埋めず、製品の説明や歯科での相談につなげるのがよいと思います。

製品と一緒に、使う量・磨き方・すすぎ方も確認します

ここまで製品の違いを見てきましたが、フッ化物の残り方には使い方も関わります。今回の研究があるからといって、研磨剤の有無だけに注目する必要はありません。

使用量とすすぎ回数を調べた成人42人の研究

Creethらの2013年の研究は、成人42人を無作為化し、9条件を比較したクロスオーバー試験です。39人がすべての条件を完了しました。歯磨剤量、フッ化物濃度、磨く時間、すすぎ回数を変え、唾液中のフッ化物を測っています。[18]

比較この研究での結果
歯磨剤量0.5 gと1.5 g複数の歯磨き時間で平均した5~120分のAUCは、1.5 g条件で約1.90倍
15 mLのすすぎ1回と3回1.5 g・60秒・1150 ppmFの比較では、3回条件の5~120分のAUCが42.5%低い
歯磨き時間の違い5~120分のAUCには全体として有意な影響がなく、30~120分のAUCには影響が認められた

同じ研究でも、最初の時間帯を含めるかどうかで結果の見え方が違います。また、1.90倍はむし歯予防効果の倍率ではなく、42.5%もむし歯が増える割合ではありません。

歯と歯の間を測った研究では

Ishizukaらの2020年の研究では、成人8人を対象に、歯と歯の間のフッ化物濃度をペーパーポイントで測っています。60分までのAUCは、次のように変化しました。[19、20]

  • 歯磨剤の長さを1 cmから2 cmにすると、47.2%増加。
  • 歯磨き時間を1分から2分にすると、26.8%増加。
  • すすぎの水を20 mLから10 mLにすると、41.2%増加。

それぞれの比較で有意差がありましたが、三つの割合を足して「全部変えれば115.2%よくなる」とは計算できません。Creethらの研究とは、参加者、処方、測定場所、評価時間も違います。

この研究には剤型の比較も含まれ、先ほど紹介した廣瀬らの研究とは単純に一致しない結果もあります。製品の形だけで順位を決めにくい理由の一つです。

すすぎなしと、25 mLでのすすぎを比べた国内研究

葛西らの2022年の研究は、成人10人に1450 ppmFの歯磨剤0.8 gを使って5分間磨いてもらい、すすぎをしない条件と、25 mLの水で30秒すすぐ条件を比較しています。[21]

安静時唾液の採取時点すすぎなし25 mLで30秒すすぎ
歯磨き直後の採取区間73.2 ppm8.90 ppm
10分後の採取区間6.40 ppm3.44 ppm

各試料は一定時間かけて採取されています。「磨き終わった瞬間の口の中全体がこの濃度だった」という意味ではありません。また、論文の有意差表示は主に歯磨き前との比較で、表のすべての条件間に有意差が示されているわけではありません。

研究ごとに歯磨き時間やすすぎ条件が違うため、この数字をそのまま家庭で再現できるとは限りません。それでも、すすぎ方が、使用直後のフッ化物濃度に関わることを考える資料になります。

日常では、年齢に合った推奨方法を基本に

日本の4学会が2023年に示した利用方法は、次のとおりです。[22]

年齢フッ化物濃度使用量の目安磨いた後など
歯が生えてから2歳900~1000 ppmF米粒程度、1~2 mm必要に応じて、ティッシュなどで歯磨剤を軽く拭き取ってもよい
3~5歳900~1000 ppmFグリーンピース程度、約5 mm軽く吐き出す。うがいをする場合は少量の水で1回
6歳~成人・高齢者1400~1500 ppmF歯ブラシ全体、1.5~2 cm程度軽く吐き出す。うがいをする場合は少量の水で1回

いずれも、就寝前を含めて1日2回の使用が基本です。幼い子の使用量は保護者が管理し、歯磨剤は手の届かない場所に保管します。飲み込みや吐き出しに難しさがある場合は、その人の口腔機能に合わせて歯科で方法を調整します。

今回の研究の「10 mLで5秒」は実験条件で、この提言の「少量の水」を厳密に定義し直したものではありません。

すすぎ方については、歯磨き後のうがいとフッ素の残り方の記事⁠でも詳しく紹介しています。

今回の研磨剤の研究は、使用量や磨く時間、すすぎ方をそろえた条件で得られた結果です。日常の歯磨きに生かすときには、歯磨き粉の処方と、その人の実際の使い方を一緒に確認したいと思います。

歯科衛生士としては、今の歯磨き粉と使い心地を一緒に確認したい

この研究を読んだ方から歯磨き粉について相談されたら、私は、今使っているチューブを一緒に見ながら話したいと思います。

まず、年齢に合うフッ化物濃度か。どのくらい出しているか。何回すすいでいるか。次に、着色が気になるのか、歯がしみるのか、泡や味がつらいのか。口の乾きや、歯の根元の露出はどうか。

「研磨剤なしを選ぶ」という選択肢も、その中で位置づけられます。

分かっていても続けにくいことがある

相澤・池田の2022年の研究では、推奨されるフッ化物配合歯磨剤の使い方を、歯科衛生学生に実践してもらっています。6週間の取り組みを解析した25人のうち、毎日実践できたのは7人、28%でした。一方、継続したいと回答した割合は、歯磨剤で84%、ジェルで76%でした。[23]

「続けたい」という気持ちと、「毎日できること」の間には差があります。口腔内の総細菌数にも有意な変化はなく、この研究を「使い方を変えれば細菌が確実に減る」と紹介することはできません。

歯科衛生の知識を学んでいる人でも、習慣を変えるのは簡単ではないのですね。だからこそ、方法を伝えるときには、味や泡立ち、生活の流れも一緒に確認したいと思います。

阿部らが2000年に東京都内で行った調査にも、保護者の研磨への心配や、子どもの味・泡立ち・すすぎへの抵抗などが記録されています。古い地域調査なので、現在の全国の状況を表すものではありませんが、歯磨剤を使い続ける際の困りごとを考える資料になります。[24]

口が乾く方では、乾く感じと実際の唾液量が必ず一致するとは限りません。口の乾きと唾液量の関係⁠も踏まえ、症状と測定の両方から考えます。むし歯のリスクが高い場合には、歯磨剤とフッ化物洗口の使い分け⁠など、歯科で予防方法全体を相談することにも意味があります。

毎日使うものだからこそ、成分の働きと、使い続けられる条件の両方を大切にしたいです。

よくある疑問

今使っている研磨剤入りの歯磨き粉は、やめた方がよいですか?

今回の研究だけで、すべての人に中止を勧めることはできません。フッ化物濃度、着色、歯や歯ぐきの状態、使い心地、磨き方を含めて考えます。

研磨剤なしなら、フッ素濃度が低い製品に替えてもよいですか?

今回の主な比較は1450 ppmFの歯磨剤です。「研磨剤なしなら、低い濃度でも同じ効果になる」とは調べていません。まずは年齢に合った推奨濃度を確認します。

ジェルなら、すべて研磨剤なしですか?

名前や見た目だけでは判断できません。個々の製品の成分や説明を確認します。また、無研磨剤でも、処方が違えばフッ化物の残り方が同じになるとは限りません。

泡立たないものほど、フッ素が残りますか?

そのような一律の結論はありません。泡立ちの少なさが使いやすさにつながる人はいますが、保持の研究では製剤全体と使用条件を確認する必要があります。

シリカと書いてあれば、歯を強く削りますか?

成分名だけでは研磨性の強さを判断できません。粒子の性質、配合、歯ブラシや力のかけ方、歯の状態なども関わります。今回の研究は歯が削れた量を測っていません。

電動歯ブラシなら、研磨剤なしを選ぶべきですか?

今回の研究から、電動歯ブラシ用の一律の結論は出せません。歯ブラシと歯磨剤それぞれの使用説明、歯の状態、ブラシを押しつける力などを確認します。

子どもにも今回の結果を当てはめてよいですか?

参加者は20代の成人です。子どもで同じ残り方になるかは確認されていません。子どもには、年齢別の濃度と量、保護者による管理を基本にします。

研磨剤なしに替えれば、何度もすすいでも大丈夫ですか?

そのようには言えません。研磨剤の比較と、すすぎ方の影響は別々に確認する必要があります。日常では、軽く吐き出し、うがいをする場合は少量の水で1回という推奨を基本にします。

ハイドロキシアパタイト入りの歯磨き粉が優れている、という研究ですか?

今回のペレット実験は、ハイドロキシアパタイトを歯の成分を模した材料として使っています。その成分を配合した歯磨き粉の優劣を調べた実験ではありません。

まとめ:成分表示から、磨いた後のフッ素まで考えてみる

今回の研究は、歯磨き粉の研磨剤について、着色除去や摩耗に加えて、フッ化物の残り方という視点を示しました。

健康な成人7人の実験では、同じ基本処方のシリカ0%条件で、10~30分後のフッ化物濃度の平均値が高い傾向がありました。ハイドロキシアパタイトの材料実験でも、最初の洗浄で回収されたフッ化物量に差がありました。

ただし、この結果だけで「研磨剤なしの歯磨き粉なら、むし歯がより少なくなる」とまでは言えません。処方全体、測定方法、使用量、すすぎ方によっても結果は変わります。

歯科衛生士として、この研究から相談に生かしたいのは、歯磨き粉を選ぶときに確かめる項目を増やせることです。

年齢に合ったフッ化物濃度。使う量。すすぎ方。着色を落としたいという希望。刺激や泡立ち。歯の根元や唾液の状態。そして、その使い方を毎日続けられそうか。

次に歯磨き粉を手に取ったとき、表の「フッ素入り」という文字に加えて、裏の成分表示や使い方にも少し目を向けてみてください。迷ったら、今の歯磨き粉を歯科に持ってきていただいて構いません。

その一本が、今のお口と使い方に合っているか。一緒に確かめるところから始められたらと思います。

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※文献2・5・7・8・19の一部は公開抄録等で確認できた範囲を用い、文献14は学会抄録として扱っています。文献20は文献19などを解説する総説で、独立した別の臨床試験として数えていません。文献25は企業の発表資料であり、実験方法と結果の説明には文献1の原著を用いています。

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