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歯医者が多い地域なら妊婦は受診する?2万8782人で見えた「見つかる」と「行く」の差

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2026年10月06日

歯医者が多い地域なら妊婦は受診する?2万8782人で見えた「見つかる」と「行く」の差

(受付さんの備忘録)

はじめに

妊娠中に歯科医院へ行こうと思ったとき、「近くに歯医者がたくさんある地域なら、受診には困らないのでは?」と思うかもしれません。

たしかに、歯科医院そのものがなければ受診はできません。診てもらえる場所が近くにあることは、とても大切です。

でも、受付で患者さんをお迎えする側から考えてみると、「歯科医院がある」と「実際に歯科医院へ行く」の間には、いくつもの段階があります。

まず、自分が受診できそうな歯科医院を探す。

妊娠中でも診てもらえるのかを確認する。

予約できる日時を探す。

体調や仕事、産婦人科への通院などと予定を調整する。

そして実際に来院する。

一見すると一本につながっているようですが、本当にすべて同じ「歯科へのアクセス」と考えてよいのでしょうか。

2026年、『BMC Oral Health』に、まさにこの問題を調べた研究が先行公開されました。

米国のPregnancy Risk Assessment Monitoring System、いわゆるPRAMSの2018~2019年データと、歯科医療供給に関するデータを組み合わせ、14州とWashington D.C.の28,782人を解析した研究です。統計的な重み付けをすると、1,539,814人に相当します。[1]

結果は少し意外でした。

州レベルの歯科医療供給指標が高いほど、「妊婦を受け入れてくれる歯科医を見つけられない」という問題は少なくなっていました。

ところが、実際に妊娠中のクリーニングを受けたか、歯の問題が起きたときに歯科医院を受診したかとなると、歯科医療供給との関連はずっと弱かったのです。[1]

今回は、

「歯科医療資源がある」

「妊婦を診てくれる歯科医院を見つけられる」

「実際に歯科医院へ行く」

を分けながら、妊娠中の歯科受診について受付の立場から考えてみます。

今回は「28,782人の妊婦を追跡した研究」ではありません

最初に、研究の形を整理しておきます。

今回使われたPRAMSは、米国CDCが行っている妊娠・出産に関する調査です。

解析対象になったのは、最近出産した女性のうち、妊娠中の歯科受診に関する質問へ回答し、解析に必要な情報がそろった28,782人でした。

つまり、

「28,782人の妊婦を妊娠初期からずっと追いかけた研究」

ではありません。

出産後に、妊娠中の状況について回答してもらったデータを用いた横断研究です。

対象となったのは14州とWashington D.C.で、統計的な重み付けを行うと1,539,814人に相当しました。[1]

「2万8782人」という大きな数字は研究の強みの一つですが、それだけで研究デザイン上の限界がなくなるわけではありません。

この点は、後ほどもう一度取り上げます。

質問は「妊娠中、診てくれる歯医者を見つけられなかったか」

この研究の中心となったPRAMSの質問は、とても具体的です。

内容は、

「妊婦を患者として受け入れてくれる歯科医または歯科医院を見つけられなかった」

という趣旨の質問で、「はい」「いいえ」で回答しています。[1]

ここは少し注意が必要です。

この質問に「はい」と答えた人すべてが、

「歯科医院へ電話したところ、妊娠を理由に診療を断られた」

という意味ではありません。

何軒問い合わせたのか。

実際に電話や予約まで進んだのか。

保険の問題だったのか。

距離の問題だったのか。

そもそもどこを探したらよいか分からなかったのか。

そこまでは、この一つの質問から区別できません。

したがって今回の記事では一貫して、

「妊婦を受け入れる歯科医院を見つけることに困難があった」

と表現します。

「妊婦が歯科医院から断られた割合」と置き換えるのは正確ではありません。

「見つけにくかった」は5.4%でした

28,782人のデータを解析した結果、

5.4%

が、妊婦を受け入れる歯科医・歯科医院を見つけることに困難があったと回答しました。[1]

数字だけを見ると、

「94.6%は困っていなかったのだから、それほど大きな問題ではないのでは?」

と思うかもしれません。

ところが、今回の研究のおもしろいところはここからです。

研究者らは、

「見つけられたか」

だけでなく、

「実際に歯科サービスを利用したか」

まで調べています。

この二つを比べると、かなり違う景色が見えてきます。

研究では「歯医者の多さ」を2種類の物差しで測っています

今回の論文では、歯科医療の供給状況を一つの数字だけでは測っていません。

二つの指標が使われています。

人口10万人あたりの活動歯科医師数

一つ目は、とても分かりやすい指標です。

その州に、人口10万人あたり何人の活動歯科医師がいるか。

いわば州全体の歯科医師供給量を表す数字です。

ただし、この数字だけでは、

その歯科医師が州内のどこに分布しているのか、

妊婦を実際に診療しているのか、

どのような保険を受け入れているのか、

までは分かりません。

HPSAの「dental needs met」

もう一つは、Health Professional Shortage Area、HPSAに関する指標です。

少し聞き慣れない言葉です。

今回使われた「HPSA percentage of dental needs met」は、指定された歯科医療不足地域で、人口対歯科医師比の基準を満たすために必要な歯科医師数に対し、利用可能な歯科医師数がどの程度あるかを表す指標です。

つまり、

「州全体に歯医者が何人いるか」

という数字だけでなく、

歯科医療が不足している地域で、人口対歯科医師比の基準からみて必要とされる歯科人員がどの程度満たされているか

という別の側面を見ています。[1]

なお、後ほど詳しく触れますが、このHPSA指標も各参加者の自宅周辺を直接測ったものではありません。

今回の研究では、州レベルの歯科医療供給を表す指標として用いられています。

歯科医療供給が多いほど「見つからない」は減っていました

社会人口学的要因、妊婦健診の充足度、州、調査年などを調整したあと、歯科医療供給と「妊婦を診てくれる歯科医を見つけにくい」とのpartial correlationは、

人口10万人あたり活動歯科医師数:−0.1692

HPSA dental needs met:−0.5523

でした。[1]

マイナスの相関ですから、

州レベルの歯科医療供給指標が高いほど、「見つけられない」という回答が少ない

という方向です。

ここまでは、なんとなく想像しやすい結果かもしれません。

州レベルの歯科医療供給指標が高ければ、妊娠中に受診できる場所も見つけやすそうです。

ただし、二つの数字の大きさにはかなり差があります。

「何人いるか」だけでなく、「不足地域で必要量が満たされているか」

人口10万人あたり活動歯科医師数とのpartial correlationは−0.1692でした。

一方、HPSAのdental needs metでは−0.5523でした。

つまり今回の解析では、単純な州全体の歯科医師数よりも、

歯科医療不足地域で、人口対歯科医師比の基準からみて必要とされる歯科人員の充足度

の方が、「妊婦を受け入れる歯科医院を見つけられるか」と強く関連していました。[1]

著者らも、歯科医師が州内で偏って分布していることや、どの保険を受け入れているかなどが、単純な歯科医師数だけではアクセスを十分表せない理由になり得ると考察しています。

たとえば、州全体では歯科医師が多くても、その多くが一部の都市に集中していれば、州の別の場所に暮らす患者さんにとっては「歯科医師が多い州」という数字ほど利用しやすくない可能性があります。

また、活動中の歯科医師全員が妊婦を診療しているとは限りません。

つまり、

「州に歯医者が何人いるか」と「自分が利用できる歯医者がどれだけあるか」は同じではない

ということです。

相関を二乗した数字は「30.5%解決する」という意味ではありません

論文ではさらに、partial correlationを二乗した値も示されています。

HPSA dental needs metでは、

0.3051

つまり約30.5%でした。

一方、人口10万人あたり活動歯科医師数では、

0.0286

つまり約2.9%でした。[1]

ここだけを見ると、

「HPSAを改善すれば、アクセス問題の30.5%が解決する」

と読みたくなるかもしれません。

しかし、その意味ではありません。

この30.5%は、ほかの変数で説明されなかった「見つけにくさ」のばらつきのうち、HPSA指標との統計学的な関連で説明される部分を表したものです。

政策を実施したときに30.5%改善する、という介入効果ではありません。

今回の研究は横断研究なので、

HPSAの充足率を上げれば何%改善するか

までは答えていません。

ところが、クリーニングの受診との関連はほとんどありませんでした

ここから結果が少し変わります。

研究者らは、

妊娠中に歯科医師または歯科衛生士によるクリーニングを受けたか

も調べています。

歯科医療供給とのpartial correlationは、

人口10万人あたり活動歯科医師数:0.0251

HPSA dental needs met:0.0074

でした。[1]

先ほどの、

−0.1692

や、

−0.5523

と比べると、かなり小さな数字です。

特にHPSA指標では、

「妊婦を受け入れる歯科医を見つけにくい」とのpartial correlationが−0.5523だったのに対して、

実際にクリーニングを受けたかとのpartial correlationは0.0074でした。

「見つけやすい」ことと「実際にクリーニングへ行く」ことは、同じではありませんでした。

歯の問題があったときの受診でも関連は弱いままでした

もう一つ、研究では、

妊娠中に歯科的な問題があり、そのことで歯科医院を受診したか

も調べています。

こちらとのpartial correlationは、

人口10万人あたり活動歯科医師数:0.0548

HPSA dental needs met:0.0213

でした。[1]

クリーニングより少し大きい数字もありますが、それでも「見つけにくさ」との関連に比べるとかなり弱い結果です。

つまり、

州レベルの歯科医療供給指標が高い
↓
妊婦を診てくれる歯科医院を見つけやすい

という関係は比較的はっきり見えた。

しかし、

州レベルの歯科医療供給指標が高い
↓
実際に歯科へ行く

となると、関係はかなり弱くなりました。

P=0.0001でも「強く関係している」とは限りません

ここは数字の読み方として少し重要です。

人口10万人あたり歯科医師数とクリーニングの関係は、

partial correlation=0.0251

ですが、

P=0.0001

でした。

歯の問題で受診したかについても、

0.0548、P=0.0002

です。[1]

P値だけを見ると、とても小さな数字なので、

「かなり強い関係があるのでは?」

と思うかもしれません。

でも、P値と関連の大きさは別です。

今回のように対象者数が非常に多い研究では、関連そのものが小さくても、統計学的には検出される場合があります。

研究者らも大規模標本であることを考慮し、今回の解析では統計学的有意水準を通常よく使われるP<0.05ではなく、

P<0.01

に設定しています。[1]

ですから、

「統計学的に関連を検出できた」

と、

「実際に大きな関連がある」

は分けて読む必要があります。

感度分析でも「見つけにくさ」と供給量の関係は残りました

一方で、「歯科医療供給と見つけにくさとの関連」そのものが、特定の解析方法だけで出た結果だったのかというと、そうでもありません。

著者らはデータ分布の影響を確認するため、順位に変換した感度分析も行っています。

調整後のrank-based partial correlationは、

人口10万人あたり活動歯科医師数:−0.347

HPSA dental needs met:−0.391

で、どちらもP<0.001でした。[1]

つまり、解析方法を変えても、

州レベルの供給指標が高いほど「妊婦を診てくれる歯科医を見つけにくい」という回答が少ない

という方向自体は残っています。

ただし、これも因果関係を証明したという意味ではありません。

クリーニング項目に回答した人では50.3%が受診していました

Table 3を見ると、妊娠中のクリーニング項目に回答のあった人では、

クリーニングを受けた:50.3%

受けていない:49.7%

でした。[1]

ここで、先ほどの5.4%を思い出してみます。

「妊婦を受け入れる歯科医を見つけることに困難があった」のは5.4%。

一方で、クリーニングを受けていなかったのは約半数です。

もちろん、これは別々の質問です。

「49.7%から5.4%を引けば、残り44.3%は別の理由だった」

という計算はできません。

対象となる質問も分母も、意味も違います。

それでも、

「受診先が見つからない」という壁だけでは、妊娠中の未受診をすべて説明できない

ことは分かります。

だからといって「見つけられることは重要ではない」わけでもありません

ここも誤解したくないところです。

「歯科医療供給と実際の利用との関連が弱かった」

という結果だけを見ると、

「じゃあ歯医者を増やしたり、見つけやすくしたりしても意味がないの?」

と思うかもしれません。

そうではありません。

クリーニングを受けなかった人では、

7.5%

が「妊婦を診る歯科医院を見つけにくかった」と回答していました。

クリーニングを受けた人では、

3.4%

でした。

また、歯科的な問題があった人のうち、

実際に歯科を受診した人では「見つけにくい」が8.6%だったのに対し、

受診しなかった人では17.5%でした。[1]

つまり、

「見つけられない」という壁は、未受診の人でより多くみられています。

大切なのは、

「見つけられることが重要ではない」

ではなく、

「見つけられることだけでは十分ではなさそう」

ということです。

「ある」「見つかる」「行く」を分けてみる

今回の研究を患者さん向けに整理するなら、三つの段階に分けると分かりやすいと思います。

① 地域に歯科医療資源がある

今回の研究では、個々の患者さんの自宅周辺を直接測ったのではなく、州レベルの歯科医療供給指標として評価しています。

② 妊婦を診てくれる歯科医院を見つけられる

「自分が利用できる受診先を見つけられるか」という段階です。

③ 実際に歯科サービスを利用する

クリーニングを受けたり、歯の問題を相談したりする段階です。

今回の研究では、

①に相当する州レベルの供給指標と②には関連がありました。

ところが、

①と③との関連はかなり弱い結果でした。

この間に、もう何かがあるのでしょう。

誰もが同じように「見つけられない」わけではありませんでした

「妊婦を受け入れる歯科医院を見つける困難」は、すべての人に均等に起きていたわけでもありません。

さまざまな社会人口学的要因や妊婦健診の充足度などを調整した多変量解析では、民間医療保険加入者を基準としたMedicaid加入者で、

調整オッズ比2.68
95%信頼区間2.06~3.48

でした。

また、主言語が英語の人を基準とすると、英語以外を主言語とする人では、

調整オッズ比2.39
95%信頼区間1.53~3.75

でした。[1]

Non-Hispanic Blackでは1.48、Asian/Pacific Islanderでは1.89という結果も報告されています。

ただし、ここを単純に、

「英語が話せないから歯科医院に断られた」

「Medicaidだから診療拒否された」

と読むことはできません。

この研究から分かるのは、

ほかの要因を調整した後でも、「妊婦を受け入れる歯科医を見つけにくい」という回答のオッズに差があった

というところまでです。

なぜその差が生じたのかは、さらに別の研究が必要です。

保険があることと「診てもらえる場所が見つかる」ことも同じではありません

妊娠中のdental insuranceについても興味深い結果があります。

単純比較では、

dental insuranceなしでは「見つけにくい」が8.7%、

ありでは4.5%でした。[1]

ところが、多変量解析でほかの条件を調整すると、

dental insuranceありの調整オッズ比は、

0.78
95%信頼区間0.60~1.00
P=0.047

でした。[1]

今回の研究はP<0.01を統計学的有意の基準としているため、著者らは明確な関連として扱っていません。

米国の保険制度を日本の健康保険にそのまま置き換えることはできませんが、

「保険に入っている」と「自分が利用できる歯科医院を見つけられる」も完全には同じではない

ことを考える材料にはなります。

なお、Medicaidなどによる層別解析ではmedical insuranceを用いており、著者ら自身も、それがdental insuranceと一致するとは限らないことを注意点として述べています。

都市か地方かだけでも説明できませんでした

未調整の結果では、

都市部で「見つけにくい」と回答した割合は5.2%、

ruralでは6.4%でした。

多変量解析では、

ruralの調整オッズ比1.15
95%信頼区間0.88~1.51
P=0.311

で、明確な関連は示されませんでした。[1]

「地方だから歯医者が見つからない」

という一言だけでも説明できなかったわけです。

もっとも、この研究の歯科医療供給指標は州レベルです。

都市部・地方という大まかな分類だけでは、市町村や生活圏ごとの細かな違いを十分に捉えられていない可能性があります。

では「見つかる」と「行く」の間に何があるのでしょう

ここまで読むと、一番気になるのは、

なぜ州レベルの歯科医療供給指標が高くても、実際の受診とはあまり結びつかなかったのか

だと思います。

残念ながら、今回の研究だけで答えを一つに決めることはできません。

著者らはDiscussionで、

  • 妊婦を診療することへの歯科医療者側の姿勢
  • 保険を受け入れているか
  • 妊娠中の歯科治療の安全性や必要性に対する患者側の認識
  • 口腔健康に対する文化的な考え方
  • 交通
  • 予約・スケジュール

など、歯科医師数以外の要因について議論しています。[1]

ただし、

「今回の未受診の最大の原因は不安だった」

と特定したわけではありません。

不安も、費用も、交通も、予約の取りにくさも、今回の主要解析で一つずつ原因として検証したものではないからです。

「行かない」だけでなく「行けない」こともあります

受付の立場で考えてみると、同じ「受診していない」という結果にも、いろいろな状況がありそうです。

今のところ痛くないので、歯科を受診する必要を感じなかった。

受診したいけれど、妊婦を診てもらえる歯科医院が見つからなかった。

受診できる歯科医院は見つかったけれど、仕事や産婦人科への通院と時間が合わなかった。

移動が難しかった。

費用が気になった。

「妊娠中に歯科治療を受けてもよいのかな」と迷った。

もちろん、これらすべてが今回の研究で原因として確認されたわけではありません。

だからこそ、

「妊婦さんが歯医者へ行かない」

と一言でまとめない方がよいのだと思います。

「行かない」と「行けない」は違います。

そして「行けない」の中にも、

受診先がない、

見つからない、

予約できない、

移動できない、

判断できない、

という別々の段階があります。

日本ではどうでしょう――熊本県20,702人の歯科健診事業

今回の米国研究を読んでいると、日本では「歯科医院の数」と「受診までの導線」をどのように考えたらよいのかも気になります。

そこで参考になるのが、2015年に『日本衛生学雑誌』へ報告されたKumamoto RAINBOW Projectです。[2]

ただし最初に明確にしておきたいのは、この熊本研究は、米国研究の結果を日本で再現した研究ではありません。

「地域の歯科医師数が多いほど妊婦が受診するか」を調べた研究でもありません。

妊婦歯科健診事業の中で、どのくらいの人が健診を受け、地域や受診場所によってどのような違いがあったかを報告した研究です。

今回は、受診機会をどこに置くか、患者さんが歯科へたどり着く導線を考える補助資料として紹介します。

この事業には、2012年8月から2014年1月までに、

20,702人

の妊婦が参加しました。

妊娠前半期に歯科健診を受けたのは、

9,527人、46.0%

でした。

そして地域別に見ると、

熊本市63.3%

に対して、

熊本市以外の7地域32.0%

と、大きな差がありました。[2]

熊本市では83.4%が「親子健康手帳を受け取る場所」で健診を受けていました

さらに注目したいのが、熊本市で歯科健診を受けた場所です。

熊本市で歯科健診を受けた5,863人のうち、

4,890人、83.4%

が、各区役所で親子健康手帳を取得した際に歯科健診を受けていました。

歯科医療機関で受診したのは973人、16.6%でした。

受診時期も、

区役所で受診した群では平均妊娠9.3週、

熊本市の歯科医療機関では17.2週、

熊本市以外の歯科医療機関では17.3週

でした。[2]

ここには、「歯科医院が何軒あるか」とは少し違う話があります。

通常、歯科健診を受けようと思えば、

歯科医院を探す。

予約する。

別の日に足を運ぶ。

という行動が必要です。

一方、熊本市では、親子健康手帳を取得する際に区役所で受診する方法と、後日歯科医療機関で受診する方法を選ぶことができました。

患者さんが歯科へ向かう導線そのものが違っていた

と考えることができます。

熊本県内でも、健診制度や費用負担の条件は同じではありませんでした

熊本研究を読むときには、もう一つ重要な点があります。

事業開始前の妊婦歯科健診の体制は、熊本県内でも地域によって異なっていました。

熊本市以外の44市町村のうち9市町村では歯科医療機関で公費による妊婦歯科健診が行われ、残る35市町村では自己負担でした。

熊本市では公費で、親子健康手帳取得時に区役所で受ける方法か、後日歯科医療機関で受ける方法を選択できました。

また、今回の事業では、もともと自己負担だった地域の妊娠前半期健診や、県内全域の妊娠後半期健診について事業側が費用を負担しています。[2]

つまり、地域差の背景には「受診場所」だけでなく、

費用負担や制度設計の違いも含まれています。

「区役所で健診すれば受診率が上がる」と証明した研究ではありません

ですから、

「区役所で歯科健診をすれば受診率が63.3%になる」

と因果関係を断定することはできません。

熊本市とほかの地域を無作為に分け、

一方だけ区役所健診を行い、

ほかの条件をすべて同じにした、

という比較試験ではないからです。

地域が違えば、

  • 人口密度
  • 交通環境
  • 就労状況
  • 医療機関の数
  • 歯科への関心
  • 行政サービス
  • 費用負担

なども違う可能性があります。

研究者ら自身も、

親子健康手帳発行時に行政機関で歯科健診を受けられたことや、公費で行政機関または歯科医療機関を選べたことが、高い受診率に寄与したと推定しています。[2]

「証明された」ではなく、「そうした仕組みが関係した可能性がある」と読むのが適切です。

それでも「歯医者の数」以外に「受診への導線」が見えてきます

ここで米国と熊本の研究を並べてみます。

米国の研究では、

州レベルの歯科医療供給指標が高い
→ 妊婦を受け入れる歯科医を見つけにくいという問題は少ない

という関連がありました。

でも、

州レベルの歯科医療供給指標が高い
→ 実際のクリーニングや問題時受診が大きく増える

という関係はほとんどみられませんでした。

一方、熊本の研究では、

すでに妊婦さんが訪れる行政の場所にも歯科健診の機会が設けられている

という別の仕組みがあり、その地域で高い受診率が観察されました。

研究目的も、時代も、国も違います。

直接比較はできません。

それでも二つを並べると、

「歯医者を何人配置するか」だけでなく、「患者さんが歯科へたどり着くまでの道をどう作るか」

という、もう一つの問いが見えてきます。

受付も「見つけた」と「受診する」の間にいます

歯科医院の受付は、地域の歯科医師数を増やすことはできません。

行政制度を変えることもできません。

それでも、受付は患者さんが歯科医院を見つけたあと、実際の診療につながるまでの入口にいます。

「妊娠中なのですが、予約しても大丈夫ですか」

「まず健診だけでも相談できますか」

「今の症状は歯医者へ聞いてよいのでしょうか」

そうした疑問があるとき、どこへ相談すればよいのかが分かることも、一つの受診のしやすさだと思います。

今回の研究が、

「受付対応を改善すれば受診率が上がる」

ことを証明したわけではありません。

それでも、

「ここへ連絡してよいのか分からない」というところで患者さんが止まらないこと

は、受付として大切にしたいところです。

妊娠中の予約方法は別の記事で詳しくまとめています

今回の記事は、「妊娠中にどのような歯科治療ができるか」を詳しく解説する記事ではありません。

そのため、

妊娠何週なのか、

授乳中なのか、

現在飲んでいる薬はあるのか、

予約時に何を伝えるのか、

といった実際の予約については、こちらの記事で詳しくまとめています。

関連記事:
妊娠中・授乳中に歯医者を予約するときは何を伝える?受付で確認したいこと

また、広島市の妊婦歯科健診について、費用・時期・持ち物などを知りたい方はこちらです。

関連記事:
妊婦健診の歯科項目・内容は?妊婦歯科健診で何をする?広島市の費用・時期・持ち物まで解説

妊娠中の歯ぐきの腫れや、つわり中の歯磨きについてはこちらで扱っています。

関連記事:
妊娠中に歯ぐきが腫れるのはなぜ?つわり中の歯磨きと歯医者の受診目安

今回の記事では、それらを繰り返すのではなく、

「歯科医療へたどり着くまで」

そのものを考えています。

「歯医者を増やしても意味がない」という研究ではありません

ここまで読むと、

「結局、歯医者を増やしても受診率とは関係ないのなら、増やしても意味がないのでは?」

と思うかもしれません。

それも違います。

今回の研究では、州レベルの歯科医療供給指標が高いほど、

妊婦を受け入れてくれる歯科医院を見つけにくい

という問題が少ない方向の関連がみられています。

特にHPSA dental needs metとのpartial correlationは−0.5523でした。

少なくとも、

「受診できる歯科医院を見つける」という壁と、歯科医療供給との関連がみられました。

研究者らも、特に歯科医療不足地域の供給を増やすことは、妊婦が受診先を見つける困難を減らす方策の一つになり得るとしています。[1]

正確な読み方は、

歯科医療供給を整えることは、「見つけにくさ」を減らす方策の一つになり得ます。

でも、それだけでは実際の受診まで十分には説明できない。

です。

「妊婦さんの知識不足が原因だった」とも言えません

逆方向の決めつけにも注意が必要です。

歯医者があっても受診しない。

だから、

「妊婦さんが歯科の必要性を知らないからだ」

と結論することもできません。

今回の研究では、

  • 不安
  • 費用
  • 交通
  • 予約可能な時間
  • 治療に対する考え方
  • 家族の事情
  • 仕事との調整

などを一つずつ測定し、「未受診の原因ランキング」を作ったわけではありません。

供給量との関連が弱かったからといって、その残りすべてを「患者さんの意識」の問題にすることはできません。

著者らも、患者側だけではなく、医療提供者側や制度側の障壁を含めて考える必要があるとしています。[1]

28,782人の研究でも、歯科医療供給を比べた上位の地域単位は15です

今回の研究には大きな数字が出てきます。

28,782人。

加重後では約154万人。

かなり大規模な研究です。

ただし、歯科医療供給の数字そのものは、

14州+Washington D.C.

という州レベルで変化します。

つまり、歯科医療供給を比較する上位の地域単位は15です。

研究者らも、この15単位では安定したmultilevel modelを組むには少ないとして、州と年を直接調整する方法を選んでいます。[1]

ですから、

「2万8782人もいるのだから、米国内の細かな地域差まで非常に精密に分かった」

という研究ではありません。

州に歯医者が多くても、その人の近所に多いとは限りません

さらに重要なのが、州レベルの数字と個人レベルの生活圏の違いです。

今回の研究では、

自宅から一番近い歯科医院まで何kmだったか、

車で何分かかったか、

徒歩圏に何軒あったか、

そのうち何軒が妊婦を受け入れていたか、

といったところまでは調べていません。

HPSA dental needs metについても、個々の回答者が実際にHPSAに住んでいたかは特定できません。

研究者ら自身も、この州レベルの集計から個人レベルの利益をそのまま推測することによる、

ecological fallacy、生態学的誤謬

の可能性を限界として挙げています。[1]

「州に歯医者が多い」

と、

「私の生活圏に妊娠中でも通える歯医者がある」

は、同じではありません。

「見つけにくかった」という回答そのものにも限界があります

今回の主要アウトカムは自己申告です。

研究者らも、

回答には記憶による偏りや、社会的に望ましい回答をしようとする影響が入り得ることを限界として挙げています。

また、「妊婦を診てくれる歯科医を見つけにくかった」という一つの質問では、

  • 費用
  • 保険
  • 交通
  • 予約可能時間
  • 距離
  • 言語

などの具体的な障壁を区別できません。[1]

5.4%という数字は重要ですが、

5.4%の中で何が起きていたのかまでは分からない

ということです。

2018~2019年の米国データを、そのまま今の日本へ当てはめることもできません

もう一つ、大きな限界があります。

今回のPRAMSデータは、

2018~2019年の米国

です。

米国と日本では、

  • 保険制度
  • 地域の歯科医療供給
  • 妊婦健診制度
  • 交通事情
  • 予約方法
  • 医科と歯科の連携

などが違います。

COVID-19以前のデータでもあります。

したがって、

「日本の妊婦でも5.4%が歯医者を見つけられない」

とは言えません。

「日本でも歯科医師数を増やしても受診率は変わらない」

とも言えません。

同じように、熊本の研究も2012~2014年に行われたものなので、2026年現在の全国の妊婦歯科健診受診率を示す数字ではありません。

「見つけやすくなる」の先まで調べる研究が必要です

今回の研究から次に知りたくなるのは、

では、どこで受診が止まっているのか

です。

たとえば今後、

  • 自宅から受診可能な歯科医院までの距離
  • 実際に妊婦を受け入れる医院数
  • 予約できるまでの日数
  • 対応する保険
  • 言語対応
  • 移動時間
  • 費用負担
  • 産科から歯科への紹介
  • 妊婦歯科健診制度
  • 予約を取ったか
  • 実際に来院したか
  • 必要な治療まで完了したか

といった情報を一緒に追うことができれば、

「歯科医院が存在するのに、なぜ受診につながらないのか」

を、さらに細かく見ることができそうです。

著者らも、妊婦が治療内容や利用可能な費用支援を理解し、必要な治療へ進めるようにするnavigationや周辺支援の必要性に触れています。[1]

今回の研究は、その先を考える入口になる研究だと思います。

受付に連絡が来た時点で、すでにいくつもの壁を越えています

受付に予約の電話やWEB予約が届いたとき、患者さんはすでに、

「歯科へ行こう」

と思っています。

そして、

歯科医院を探し、

その医院を候補に選び、

連絡を取ろう、

というところまで進んでいます。

考えてみれば、受付までたどり着く前にも、すでにいくつもの段階があります。

逆に、

「妊娠中だから歯医者はやめておこうかな」

「どこに聞けばいいか分からない」

「痛くないし、今はいいかな」

と思って、検索や予約まで進まなかった人は、歯科医院側からは見えません。

「来院した患者さん」だけを見ていると、この人たちの存在には気づきにくいのです。

今回の研究を読んでいると、

アクセスというのは、医院の玄関まで来られたかどうかだけではない

のだと感じます。

「歯医者がある」と「歯医者へ行ける」の間には距離があります

今回の研究をまとめると、いくつかのポイントが見えてきます。

まず、米国の28,782人を解析した結果、5.4%が妊婦を受け入れる歯科医を見つけることに困難があったと回答しました。

そして、州レベルの歯科医療供給指標が高いほど、この「見つけにくさ」は少ない方向の関連がみられました。

特に、単純な歯科医師数よりも、歯科医療不足地域で人口対歯科医師比の基準からみて必要な歯科人員がどの程度満たされているかという指標の方が強く関連していました。

しかし、実際にクリーニングを受けたか、歯の問題で受診したかとなると、歯科医療供給との関連はかなり弱くなりました。

つまり、

歯科医療資源がある。

自分を診てくれる歯医者を見つけられる。

実際に予約して行く。

この三つは、同じことではありません。

歯科医院の数は、受付では変えられません。

でも、

「妊娠中だけど、ここに相談していいのかな」

と思っている患者さんが、必要なときに入口を見つけられるようにすることはできます。

「歯医者がある」と「実際に歯医者へ行ける」。

その間には、思っているより長い距離があるのかもしれません。

今回の研究は、その距離を「歯科医師数」だけでは説明できないことを、数字で見せてくれた研究でした。

参考文献

  1. Lee H, Hong N, Russell SL. Dental provider availability and access to prenatal oral healthcare: a cross-sectional analysis of PRAMS data 2018–2019. BMC Oral Health. 2026. Article in Press. doi:10.1186/s12903-026-10067-1.
  2. 値賀さくら,大場隆,三好潤也,田上大輔,川瀬博美,加藤貴彦,片渕秀隆.熊本県の妊婦における歯科健診の実態―Kumamoto RAINBOW Project―. 日本衛生学雑誌. 2015;70:167–172.

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