2026年6月18日

(歯科衛生士さんのある日の日誌)

はじめに
妊娠中に「歯ぐきが腫れた」「歯磨きで血が出るようになった」「つわりで歯磨きがつらい」と感じる方は少なくありません。これは、決して歯磨きをさぼっているからだけではなく、妊娠中の体の変化、つわりによる口腔ケアのしづらさ、食事回数の変化などが重なるためです。ただし、妊娠中だから仕方ないと我慢し続ける必要もありません。体調に合わせたケアと、無理のないタイミングでの歯科相談が大切です。

妊娠中に歯ぐきが腫れやすくなるのはなぜ?
診療室で妊婦さんとお話ししていると、「妊娠してから歯ぐきが弱くなった気がします」と相談されることがあります。実際、妊娠中は歯ぐきが腫れたり、歯磨きのときに出血したりしやすくなる時期です。
理由のひとつは、妊娠中のホルモン変化です。妊娠中は体の中でエストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンが大きく変化し、歯ぐきがプラーク、つまり歯垢に対して炎症を起こしやすくなることがあります。いつもと同じくらい磨いているつもりでも、歯ぐきが赤く腫れたり、歯ブラシを当てると血が出たりすることがあるのです。
ただし、「妊娠したから歯ぐきが腫れる」と単純に考えるのは少し違います。歯ぐきの炎症の土台には、やはりプラークの停滞があります。妊娠中は歯ぐきが敏感になりやすい時期なので、少しの磨き残しでも症状として出やすくなる、と考えると分かりやすいかもしれません。
つわりで歯磨きがつらいと、口の中は変化しやすくなります
妊娠中の歯ぐきの腫れには、つわりも大きく関係します。歯ブラシを口に入れるだけで気持ち悪くなる、歯磨き粉の香りで吐き気がする、奥歯を磨こうとするとえずいてしまう。そのような状態では、いつも通りに磨くことが難しくなります。
また、妊娠中は一度に食べられる量が減って、少しずつ食べる回数が増えることもあります。つわりで酸っぱいものを好むようになったり、嘔吐によって口の中が酸性に傾いたりすることもあります。こうした変化が重なると、むし歯や歯ぐきの炎症が起こりやすい環境になります。
大切なのは、「完璧に磨けない日がある=悪いこと」と考えすぎないことです。体調が悪い日に、無理に長時間磨こうとしてさらに気分が悪くなってしまうと、歯磨きそのものがつらい記憶になってしまいます。妊娠中の口腔ケアは、完璧を目指すよりも、できることを途切れさせない工夫が大切です。

つわり中の歯磨きは「できる範囲」で大丈夫です
つわりがある時期は、朝起きてすぐの歯磨きがつらい方もいます。その場合は、朝にこだわらず、体調が少し落ち着いている時間に磨いてみてください。食後すぐが難しければ、まずは水でよくうがいをして、気分が落ち着いてから磨くのでも構いません。
歯ブラシは、ヘッドが小さめのものを選ぶと奥歯に入れやすく、吐き気が出にくいことがあります。歯磨き粉の味や泡立ちが苦手な場合は、歯磨き粉をつけずに磨いてもよいです。フッ素入り歯磨き剤が使える日は使い、どうしてもつらい日は歯ブラシだけで汚れを落とす。そんなふうに、日によって変えても大丈夫です。
磨く姿勢も意外と大切です。上を向いたまま磨くと唾液や泡が喉の奥にたまりやすく、吐き気につながることがあります。少し下を向いて、口の中のものが喉に流れ込みにくい姿勢で磨くと楽になる方もいます。
吐いてしまった直後は、すぐに強く磨くよりも、まずは水でやさしくうがいをして口の中の酸を流しましょう。歯磨きは、少し落ち着いてからで構いません。

歯ぐきの腫れは、どこまで様子を見てよい?
妊娠中の歯ぐきの腫れや出血は珍しいことではありませんが、すべてを「妊娠中だから」と片づけてよいわけではありません。軽い出血だけで、痛みがなく、体調に合わせた歯磨きで落ち着いてくる場合は、急ぎすぎずに歯科健診やクリーニングのタイミングで相談してもよいことがあります。
一方で、腫れが数日以上続く、歯磨きのたびに出血する、歯ぐきが痛い、膿が出る、口臭が急に強くなった、食事がしづらい、親知らずの周りが腫れてきた、顔の腫れや発熱がある。このような場合は、早めに歯科医院へ相談してください。
特に痛みや腫れが強い場合は、「妊娠中だから治療できない」と思い込んで我慢するより、まず相談することが大切です。妊娠週数、出産予定日、つわりの有無、産科で注意されていること、服用中のお薬などを確認したうえで、その時期にできる対応を一緒に考えることができます。

妊娠中の歯科受診では、何を伝えればよい?
妊娠中に歯科医院へ行くときは、予約時や受付で「妊娠中です」と伝えていただけると安心です。できれば、妊娠何週か、出産予定日、つわりがあるか、横になるのがつらいか、産科で注意されていることがあるか、現在飲んでいる薬があるかも教えてください。
歯ぐきの腫れで受診する場合は、いつから腫れているのか、痛みがあるのか、出血や膿があるのか、食事や睡眠に影響しているのかを伝えていただくと、確認がスムーズです。
ブランデンタルクリニックでは、妊娠中・授乳中の方が不安なまま診療に進まないよう、受付や問診でもできるだけ丁寧に確認することを心がけています。電話、LINE、WEB予約の際にも、「妊娠中で歯ぐきが腫れています」「つわりで歯磨きが難しいです」と短く書いていただければ大丈夫です。
お薬を飲まれている方や、産科以外の医療機関にも通院されている方は、お薬手帳があると確認しやすくなります。
【歯医者にお薬手帳は必要?持病・服薬を伝える理由と受付で確認したいこと】
妊娠中の歯ぐきの腫れと、赤ちゃんへの影響を怖がりすぎないでください
妊娠中の歯周病と早産・低体重児出産との関連については、これまで多くの研究で検討されています。そのため、「妊娠中はお口の炎症を放置しないことが大切」という考え方は重要です。
ただし、患者さんに知っておいてほしいのは、「歯ぐきが少し腫れたら赤ちゃんにすぐ影響する」という話ではない、ということです。不安をあおるためではなく、妊娠中のお口の変化に早めに気づき、必要な時に相談できるようにするための知識として受け止めていただければと思います。
歯ぐきの腫れや出血は、体調が落ち着いた時期にクリーニングや歯磨きの確認を受けることで改善を目指せることがあります。妊娠中は自分の体調だけでも大変な時期ですから、「ちゃんと磨けていない自分が悪い」と責めるよりも、今の体調でできる方法を一緒に探していきましょう。
【「お口の健康が、未来の命を守る」妊娠と歯科の関係:早産と歯科治療時期】
体調が落ち着いたら、妊婦歯科健診やクリーニングも相談を
つわりが強い時期は、歯科受診そのものが負担になることもあります。その場合は、無理に急がず、まずは産科で相談しながら体調を優先してください。症状が強いときは早めの相談が必要ですが、検診やクリーニングは体調が落ち着いた時期に予定する方が楽なこともあります。
妊娠中期、いわゆる安定期に入ると、つわりが落ち着き、歯磨きや外出がしやすくなる方もいます。もちろん個人差はありますが、「つわりが少し楽になってきた」「横になるのがつらくない時間がある」というタイミングで、一度お口の状態を確認しておくと安心です。
また、妊娠中に相談先を作っておくと、出産後や授乳中に歯が痛くなったとき、薬や治療について相談したいときにもつながりやすくなります。
【授乳中の患者に歯科治療をどう行うか:薬剤・母乳・虫歯・口腔機能発達】
よくある質問
妊娠中に歯ぐきから血が出るのはよくあることですか?
妊娠中は歯ぐきが炎症を起こしやすくなり、歯磨きのときに血が出やすくなることがあります。ただし、出血が毎回続く、歯ぐきが腫れている、痛みがある、口臭が気になる場合は、歯肉炎や歯周病が進んでいる可能性もあります。妊娠中だから仕方ないと決めつけず、歯科医院で確認してもらうと安心です。
つわりで歯磨きができない日はどうしたらいいですか?
まずは水でうがいをするだけでも構いません。体調がよい時間に短時間で磨く、小さめの歯ブラシを使う、歯磨き粉をつけずに磨く、少し下を向いて磨くなど、できる方法を試してみてください。完璧に磨けない日があっても、自分を責めすぎないことが大切です。
吐いた後はすぐ歯磨きした方がいいですか?
吐いた直後は口の中が酸性に傾いていることがあります。まずは水でやさしくうがいをして、気分が落ち着いてから歯磨きする方が無理なく続けやすいです。気持ち悪さが強いときは、うがいだけにして、磨けるタイミングを待っても大丈夫です。
妊娠中でも歯医者に行っていいですか?
妊娠中でも歯科相談はできます。大切なのは、妊娠中であること、妊娠週数、つわりの有無、産科で注意されていること、服用中のお薬などを事前に伝えることです。必要な処置や検査は、妊娠時期や体調を確認しながら判断します。不安がある場合は、予約時に先に伝えてください。
歯ぐきの腫れは産後まで待ってもいいですか?
軽い違和感程度で、体調に合わせたケアで落ち着く場合もあります。ただし、腫れが続く、痛みがある、膿が出る、顔が腫れる、発熱がある、食事がしづらい場合は、産後まで待たずに相談してください。感染や炎症が強い場合は、早めに対応した方がよいことがあります。
まとめ:妊娠中の歯ぐきの腫れは、我慢しすぎず相談してください
妊娠中は、ホルモン変化、つわり、食事回数の変化、歯磨きのしづらさが重なり、歯ぐきが腫れたり出血したりしやすくなります。これは珍しいことではありませんが、「妊娠中だから仕方ない」と我慢し続ける必要はありません。
つわりが強い時期は、うがいだけの日があっても大丈夫です。小さめの歯ブラシを使う、歯磨き粉なしで磨く、体調のよい時間に磨くなど、できる範囲で続けていきましょう。そして、腫れや出血が続くとき、痛みや膿があるとき、食事や生活に影響しているときは、早めに歯科医院へ相談してください。
ブランデンタルクリニックでは、妊娠中・授乳中の方の不安をできるだけ減らせるよう、受付時の確認や診療前の問診を大切にしています。広島市中区・立町周辺で、妊娠中の歯ぐきの腫れ、つわり中の歯磨き、妊婦歯科健診について気になる方は、電話・LINE・WEB予約の際にお気軽にお知らせください。
出産後、お子さんの歯医者さんの予約で何を伝えればよいか迷ったときは、こちらの記事も参考になります。
