歯周病だと妊娠しにくい?岡山大学のレビューで考える不妊との関連と歯周治療の効果|広島市中区立町の歯医者(紙屋町、八丁堀、袋町からすぐで通いやすい)|ブランデンタルクリニック|土曜日、日曜日、祝日診療

〒730-0032 広島県広島市中区立町2-1 立町中央ビル4F

082-258-6411

ネット予約はこちらから
受付

歯周病だと妊娠しにくい?岡山大学のレビューで考える不妊との関連と歯周治療の効果

歯周病だと妊娠しにくい?岡山大学のレビューで考える不妊との関連と歯周治療の効果|広島市中区立町の歯医者(紙屋町、八丁堀、袋町からすぐで通いやすい)|ブランデンタルクリニック|土曜日、日曜日、祝日診療

チャットボット チャットボット

2026年9月28日

歯周病だと妊娠しにくい?岡山大学のレビューで考える不妊との関連と歯周治療の効果

(院長の徒然コラム)

はじめに

「歯周病があると、妊娠しにくくなる」

この言葉を、皆さんはどう受け止めるでしょうか。

口の健康に関心を持つきっかけになる方もいれば、「歯ぐきから血が出る自分は大丈夫だろうか」と不安になる方もいると思います。妊娠を望んで時間を重ねている方にとっては、「妊娠できないのは、歯の手入れが足りなかったからなのか」という、自分を責める言葉にもなりかねません。

だからこそ、歯科医師がこの話題を伝えるときには、言葉を慎重に選ぶ必要があります。

先に、今回の結論をお伝えします。歯周病と妊娠のしやすさとの関連を示唆する研究はあります。しかし、歯周病が人の不妊を引き起こすことも、歯周治療によって妊娠率が上がることも、現時点では証明されていません。

一方で、歯周病を診断し、必要な治療を受けることには、お口の健康を守るという確かな目的があります。この二つを混ぜずにお話しすることが、患者さんへの誠実な説明だと私は考えています。

2026年9月26日、岡山大学と三宅医院の研究者らによる、歯周炎と不妊に関する批判的ナラティブレビューが『Reproductive Biology and Endocrinology』で先行公開されました。Omori、Miyake、Takashibaの3氏による論文です。[1]

興味深いのは、その論文が「歯周病と不妊は関係がありそうだから、まず治療しましょう」と結論していないことです。むしろ、何が分かり、どこから先が分かっていないのかを切り分け、次にどのような研究を行うべきかを丁寧に提案しています。

今回はこのレビューを軸に、妊娠中の歯周病、早産、男性側の研究、歯科受診に関する資料も重ねながら、「関連がある」という言葉の先に、どこまで言えるのかを考えてみます。

「妊娠しにくい」と「妊娠してからのトラブル」は、分けて考える

最初に整理したいのは、研究が何を調べているのか、という点です。

その前提として、歯周病という言葉にも幅があります。歯周病には、主に歯ぐきに炎症が起こる歯肉炎と、歯を支える組織が失われる歯周炎があります。今回のレビューの中心は歯周炎ですが、関連研究には歯肉炎、菌、抗体などを調べたものも含まれます。

歯みがきのときに出血することと、歯を支える組織が失われる歯周炎があること、さらにそれが妊娠の成立に影響することは、それぞれ分けて考える必要があります。

歯周病と妊娠に関する記事では、不妊、早産、赤ちゃんの出生体重、妊娠中の歯ぐきの腫れが、一続きの話として紹介されることがあります。しかし、これらはそれぞれ違う問いです。

研究で調べること具体的な指標それだけでは分からないこと
妊娠の成立まで妊娠するまでの期間、1周期当たりの妊娠のしやすさ妊娠後の経過や出生までの結果
不妊治療の結果臨床妊娠、妊娠継続、生児獲得自然妊娠でも同じことが起こるか
男性の生殖に関わる状態精子の運動率、形態、濃度、DNAの損傷実際にカップルの妊娠率が上がるか
妊娠後の経過早産、低出生体重、妊娠高血圧腎症などそもそも妊娠しやすかったか
口の状態歯肉の出血、歯周ポケット、歯を支える組織の状態生殖機能に影響しているか

例えば、すでに妊娠した女性を対象に「歯周病がある人では早産が多かった」と報告されても、その研究から「歯周病があると妊娠しにくい」とは言えません。妊娠に至らなかった人が、その集団には含まれていないからです。

また、精子の検査値が良くなることと、赤ちゃんを授かる確率が上がることも、同じ結果ではありません。

研究が測定したものを、そのままの大きさで受け取る。この基本を守るだけでも、見出しから生まれる誤解はかなり減らせます。

岡山大学のレビューは、何を調べ直したのか

今回の論文は、新しい患者さんを歯周治療群と対照群に分けて妊娠率を比較した臨床試験ではありません。すでに発表されている臨床研究や実験研究を読み解き、その限界と次の研究課題を整理したレビューです。[1]

著者らは2026年7月8日までの文献を検索し、中核となる16報を詳細に検討しました。その内訳は、ヒトの一次研究10報、間接的・実験的な研究2報、既存のレビュー4報です。ヒトと動物の両方を扱った論文も含まれます。

つまり、「16本の研究が、歯周病による不妊を証明した」という話ではありません。16報は目的も方法も異なる研究の集まりで、その中には、別の論文をまとめたレビューも入っています。

さらに著者らは、正式なシステマティックレビューとして実施したものではないことも明示しています。独立した二重の文献選択、正式なバイアス評価、GRADEという方法による証拠の確実性評価などは行われていません。研究を統合した効果量を一つ提示することよりも、異なる領域の知見をつなぎ、どの疑問が残っているかを考える論文です。

この位置づけを踏まえると、受け止め方は明確になります。

「原因ではないと決着した」わけでも、「原因だと分かった」わけでもありません。現時点の研究では、因果関係と治療効果を判断するための条件が、まだそろっていない。そのことを、具体的に示したレビューです。

なお、妊孕性とは妊娠の成立に関わる能力を指す言葉です。本稿ではOmoriらのレビューを軸に、Bond、Paju、Khalife、Kamei-Nagataらの個別論文の結果や、周産期・口腔保健の追加文献も照合しています。中心レビューを通して紹介する研究と、個別論文を参照する研究は、本文の引用と参考文献で区別します。

「妊娠するまでに時間がかかった」という研究をどう読むか

このテーマでしばしば紹介されるのが、Hartらの2012年の研究です。レビューによれば、歯周病がある女性では、妊娠するまでの期間が長いという関連が報告されました。[1]

ただし、研究の対象は、すでに妊娠した女性でした。妊娠までの期間は後から振り返って回答され、歯周状態の評価も妊娠中に行われています。

ここには、少なくとも二つの問題があります。

一つは、妊娠を試みたものの妊娠に至らなかった人が、分析に含まれないことです。もう一つは、妊娠中に測定した歯周状態が、妊娠前の状態をそのまま表しているとは限らないことです。妊娠自体が、歯肉の反応や生活習慣に影響する可能性があるからです。

また、ほかの要因を調整した後の関連は、原著で「non-Caucasian」と分類された参加者に主として認められました。この結果を、そのまま民族による生物学的な違いと解釈することはできません。集団の構成、社会経済的な背景、受診環境などの影響も検討する必要があります。

同じくレビューが取り上げたNwhatorらの研究は、不妊外来の受診者58人と妊婦70人を比較したものです。歯周病の指標と妊娠までの期間に関連がみられましたが、対象者の選ばれ方や男性側の要因を十分に扱えないという限界があります。[1]

どちらも、次の研究につながる手掛かりです。ただし、それだけで、歯周病が妊娠を遅らせたと結論することはできません。

関連を示した研究も、示さなかった研究もある

女性の妊孕性に関する研究を並べると、結果は単純ではありません。中心レビューの整理に、個別論文で確認した対象条件や結果を補って見ていきます。[1,33–35]

研究調べたこと・主な結果解釈するときの注意点
Pajuら、2017年妊娠を望む非妊娠女性256人を12か月追跡。唾液中のP. gingivalisや抗体反応と、追跡中に妊娠しなかったこととの関連を報告臨床的な歯周所見には、妊娠した群と妊娠が遅れた群との間で明確な差がなかった
Bondら、2021年妊娠を計画する女性2,764人の前向き研究。自己申告による三つの歯周炎関連指標で、妊娠のしやすさが低い方向の推定値指標によって結果の確かさが異なり、歯科診察による確認もない
Khalifeら、2019年体外受精の小規模研究。34人を登録し、28人を解析。歯肉の炎症などの指標と治療結果との明確な関連は示されなかった歯周炎の診断基準を満たす参加者がおらず、歯周炎の影響を否定する比較にはならない
Yildiz Telatarら、2021年原因不明不妊の女性50人と対照50人を比較。不妊群で歯周状態やむし歯の指標が不良口の状態が先に悪かったのか、共通の背景があるのかを分けにくい

Pajuらの研究では、菌や抗体だけでなく、臨床的な歯周状態も調べています。歯を支える組織の付着の喪失、歯数、歯周ポケット数、歯肉出血には、妊娠した女性と妊娠が遅れた女性との間で明確な差が認められませんでした。菌・抗体の関連を、そのまま歯周炎そのものの影響と読み替えられない例です。[34]

Bondらの結果も、指標ごとに分ける必要があります。主解析の調整後の妊孕率比、つまり1周期当たりの妊娠のしやすさの比は、次のとおりでした。[33]

自己申告した指標妊孕率比95%信頼区間
歯周炎の診断歴0.890.75〜1.06
歯周炎の治療歴0.790.67〜0.94
外傷以外で永久歯が自然に動揺した経験0.710.44〜1.16

この比では1が「関連なし」に相当します。三つとも推定値は妊娠しにくい方向ですが、診断歴と動揺歴の信頼区間は1をまたぎます。三つの指標すべてで同じ確かさの関連が示されたわけではありません。

また、治療歴のある人で妊娠のしやすさが低かったことを、「歯周治療が妊娠を妨げた」と読むこともできません。治療歴は、それまでの病状や受診行動などを反映し得る情報であり、治療を割り付けて効果を比較した研究ではないからです。

対象は、登録時点で妊娠を試みて6月経周期以内で、不妊治療を受けていない女性でした。また、口腔に関する質問は研究の途中で追加され、1,330人は登録時、1,434人は追跡時の質問票で回答しています。追跡時の質問票には妊娠期や産後のものも含まれます。前向きに妊娠を追った研究ではありますが、全員の口腔状態を妊娠前に診察して確認した研究ではなく、過去の歯周炎関連情報をいつ、どのように尋ねたかにも注意が必要です。[33]

Khalifeらの研究は、小規模であることに加え、参加者に歯周炎と診断された女性がいなかった点が重要です。歯周炎がある人とない人を十分に比較して差がなかった、という研究ではありません。[35]

前向き研究とは、ある時点の状態を調べ、その後に何が起こるかを追う研究です。時間の順序を考えるうえで有用ですが、前向きであれば自動的に因果関係が証明されるわけではありません。測定の正確さや、ほかの要因の影響が問題になります。

反対に、「関連が認められなかった」という小規模研究を一つ挙げて、関係はないと言い切ることもできません。対象者が少なければ、実際にある違いを捉えられない場合があります。

都合のよい結果だけを選ばず、結果の方向、研究の大きさ、測り方を一緒に見る必要があります。

菌がいること、抗体があること、歯周炎があることは同じではない

この領域の研究では、歯周病関連菌の名前がよく登場します。代表例が、Porphyromonas gingivalis、一般にP. gingivalisと表記される菌です。

ただし、「その菌が検出された」ということと、「現在、歯周炎がどの程度進んでいるか」ということは、別の情報です。

唾液の検査は、採取した試料に菌やその遺伝物質があることを示します。抗体の検査は、その菌に対する体の免疫反応を捉えます。抗体は、過去の接触や個人ごとの免疫の反応性も反映し得ます。一方、臨床的な歯周炎は、歯周ポケット、歯を支える組織の喪失、骨の状態などを組み合わせて評価します。[1]

これらをすべて「歯周病がある」という一つの箱に入れてしまうと、何と何が関連した研究なのかが分からなくなります。

例えば、「抗体が高い人に不妊が多かった」という結果があっても、そこから直ちに「歯周治療で抗体を下げれば妊娠する」とは言えません。途中にいくつもの未確認の段階があります。

現時点で、こうした菌や抗体の研究を根拠に、不妊の原因を調べるための歯周病菌検査が確立したと説明することもできません。

日本の研究が示した、興味深い結果と残る疑問

中心レビューは、Kamei-Nagataらが2025年に発表した、ヒトとマウスを組み合わせた研究も取り上げています。この個別論文の結果も確認してみます。[1,36]

ヒトの研究では、原因不明不妊の女性70人と、自然妊娠した女性のうち経腟分娩した76人を比較しました。不妊群では、いくつかの歯周病関連菌に対する血清IgG抗体が高く、年齢を含む多変量解析でも、P. gingivalis W83株とPrevotella intermediaに対する抗体価は不妊と正の関連を示しました。

ただし、菌株によって結果はそろっていません。同じ多変量解析で、P. gingivalis FDC381株に対する抗体価は逆方向の関連を示しました。抗体が高ければ一律に不妊と関連するわけではなく、この逆方向の結果から、その菌が妊娠を助けると結論することもできません。[36]

この結果には、さらに調べる価値があります。しかし、ヒトの対象者には臨床的な歯周検査が行われていません。また、対照は自然妊娠した女性として募集され、同意後に採血され、その後の分娩様式で解析対象が選ばれた集団です。「出産した女性を解析した」ことと「出産後に採血した」ことは同じではありません。妊娠状態の違いや、対象者の選ばれ方、免疫反応の違いが結果に関わった可能性を考える必要があります。

つまり、比較しているものが「現在の歯周炎の強さ」なのか、「過去の菌への接触」なのか、「妊娠・出産や免疫反応の違い」なのかを、十分に切り分けられていないのです。

動物実験では、P. gingivalisへの感染と、歯に糸を巻く方法を組み合わせて歯周炎を起こしたマウスで、子宮断面積の増大、エストロゲン受容体αやプロゲステロン受容体の発現変化が観察されました。また、産まれた仔の総数や生存仔数の減少、胎仔死亡数の増加、出生仔体重の低下も報告されています。[36]

ここで測定された産仔数や出生仔体重を、そのまま妊娠成立率の低下と同一視することはできません。

これらは、口の炎症が生殖器に影響する仕組みを考える手掛かりです。しかし、実験的に歯周炎を起こしたマウスの結果を、そのまま人の着床障害や不妊の説明に置き換えることはできません。ヒトの抗体の結果と、マウスの子宮の結果が、一つの因果関係としてつながったことを証明した研究でもありません。

「人でも同じことが起こるのか」を、次の研究で確かめる段階にあると読むのが適切です。

男性側の研究もあるが、精液所見と妊娠率は分ける

妊娠に関する話になると、女性の生活習慣や体調ばかりに関心が向きがちです。しかし、生殖に関わる研究を、女性だけで完結させることはできません。

中心レビューによると、男性の口腔状態と精液所見を調べた研究の結果は、一致していません。[1]

Pasztorらの研究では、明確な関連が認められませんでした。一方、Pragerらは歯石や歯肉出血と複数の精液異常との関連を、Taoらは歯周状態と精子運動率との関連を報告しています。男性不妊に関するレビューでは、運動率、形態、精子DNAの断片化との関連が示唆される一方、精子数や濃度の結果は一貫していないと整理されています。

精液所見には、年齢、喫煙、肥満、精索静脈瘤、薬剤、発熱、禁欲期間など、さまざまな要因が関わります。検査値自体にも変動があります。口の状態との関連が見えても、これらをどう扱ったかによって、結果の意味は変わります。

ここで、古い介入に近い報告にも触れておきます。レビューが紹介するBieniekとRiedelの1993年の研究です。

抗菌薬治療後も精液中の細菌が持続した男性36人を対象とし、歯、口腔、顎の感染源と考えられる病変を18人で治療したところ、6か月後には治療群の約3分の2で細菌学的に陰性となり、精液所見も改善したと報告されています。[1]

したがって、「口の治療と男性の生殖に関するヒトの報告は一つもない」という説明は正確ではありません。

ただし、この研究は小規模で、無作為に群を分けた試験ではありません。対象者は特殊な背景を持ち、治療内容も標準化された歯周治療に限定されていません。妊娠率や生児獲得率の改善を確かめたものでもありません。

歴史的な手掛かりとして評価しつつ、「男性も歯周病を治せば妊娠率が上がる」と約束する根拠にはしない。その両方が必要です。

口の炎症が全身に影響するという仮説は、どこまでつながっているか

歯周炎と生殖機能の関係が研究されるのには、生物学的な理由があります。中心レビューは、おおむね三つの経路を整理しています。[1]

一つは、歯周組織の炎症が全身の炎症に影響する可能性です。二つ目は、細菌やその成分が血流などを介して離れた臓器に影響する可能性。三つ目は、それらに対する免疫応答や酸化ストレスが生殖機能に関わる可能性です。

こうした経路を考えることは、研究を進めるうえで大切です。しかし、もっともらしい仕組みがあることと、患者さんでその仕組みが働き、妊娠の成立を妨げていることは同じではありません。

このレビューが想定する仕組みを検証するには、歯周炎、全身の炎症や免疫反応、生殖に関わる組織の変化、妊娠・出産の結果がどのようにつながるかを調べる必要があります。

一方、歯周治療に生殖の面で利益があるかという問いは、適切に設計された臨床試験で別に評価します。治療効果を確かめることと、その効果が生じる分子レベルの仕組みをすべて解明することは、同じ課題ではありません。

例えば、歯周治療後にCRPなどの炎症指標が下がったとしても、それだけで妊娠率が上がったことにはなりません。血液検査の変化は途中の手掛かりであって、患者さんが知りたい最終的な結果そのものではないからです。

「全身炎症」という言葉は便利ですが、便利な言葉ほど、その中で何が実際に測定されたのかを確認したいと思います。

PCOSや子宮内膜症の研究を、そのまま不妊の証明に使わない

多囊胞性卵巣症候群、いわゆるPCOSや、子宮内膜症と口腔の状態との関連を調べた研究もあります。[1]

PCOSでは、歯周炎症が強い、歯周病が多いといった関連が報告されています。しかし、肥満、インスリン抵抗性、喫煙、社会経済的な背景など、両方に関わる要因があります。共通の背景によって二つの状態が同時に生じている可能性を考える必要があります。

子宮内膜症については、Fusobacteriumという細菌に注目した実験研究も紹介されています。ただし、口にも存在し得る菌が研究に登場したからといって、「歯周病菌が口から子宮へ移動して不妊を起こした」とは言えません。

その経路を示すには、どこに由来する菌なのか、口の菌と生殖器で見つかった菌がどの程度一致するのか、採取や検査の過程で混入していないか、といった確認が必要です。とくに、もともとの菌量が少ない場所の検査では、わずかな混入でも解釈に影響します。

また、PCOSや子宮内膜症があることと、歯周病が原因で妊娠しにくいことも同義ではありません。関連する病気を介して、いつの間にか因果関係を一段ずつ飛び越えていないか。ここにも注意が必要です。

研究によって「歯周病」の測り方が違う

研究結果がそろわない理由の一つに、歯周病の定義や測定方法の違いがあります。

測定方法主に分かること注意点
自己申告過去に診断された経験、自覚症状など受診歴や本人の記憶に左右される
歯肉出血・炎症面積現在の炎症の程度を考える材料歯を支える組織の破壊の程度とは一致しない
歯周ポケットの深さ歯と歯肉の境目の溝の深さ歯肉の腫れによっても変わる
付着の喪失・骨の吸収歯を支える組織に生じた損傷過去の損傷も含み、現在の炎症とは分ける必要がある
菌・抗体微生物への接触や免疫応答臨床的な歯周炎の診断を代替しない

測る場所にも違いがあります。追加文献のHongらの研究は代表的な12歯を調べていましたが、Oliveiraらの研究は全顎の歯を1歯につき6か所測定しています。[15,29]

一部の歯を調べる方法は調査の負担を減らせる一方、病変の分布によっては捉え方が変わります。異なる方法による「歯周病あり」を、そのまま同じ状態として比較することには無理があります。

また、歯周病の重症度が高いことと、その時点の炎症が強いことも、必ずしも同じではありません。生殖機能との関係を炎症から考えるなら、過去に失われた組織の量だけでなく、今どこにどれだけ炎症があるかを調べる必要があります。

妊娠すると口が変わる――反対向きの影響も考える

「口の状態が妊娠に影響したのか」を考えるときには、「妊娠が口の状態に影響したのではないか」という反対向きの可能性も忘れられません。

妊娠中は、ホルモンや免疫応答の変化に加え、つわり、食事の取り方、歯みがきのしやすさなども変わります。歯肉の腫れや出血が増えても、それだけで妊娠前から重い歯周炎があったとは言えません。[7,9,13,26]

久保らの国内研究は、妊婦3,359人と非妊婦316人の歯周状態を比較しました。ただし、妊婦のデータは2016〜2019年、非妊婦は2020年に得られたもので、同じ人を妊娠前後で追った研究ではありません。集団や調査時期の違いも考える必要があります。[8]

Gil-Montoyaらの前向き研究では、妊娠初期から後期まで追跡した147人において、歯周炎に分類された人数が25人から42人、歯肉炎が54人から63人へ増えました。[25]

ただし、当初同意した206人全員が解析されたわけではなく、除外された59人には歯周治療を受けた9人も含まれます。また、分類やポケットの深さが変化したことから、全員に不可逆的な歯周組織の破壊が進んだとまでは言えません。

大友・松浦の研究では、妊娠初期の509人中370人、72.7%が何らかの口腔内自覚症状を報告しました。これは「妊婦の72.7%が歯周炎だった」という数字ではありません。症状の有無と病気の診断を取り違えないことが大切です。[9]

また、「女性ホルモンが増えると特定の菌が増え、それで全部説明できる」というほど単純でもありません。加藤らの総説などは、妊娠中の歯周組織や細菌叢の変化を複数の要因から整理しています。[7] 杉山氏の学位論文要旨にも、ホルモン、歯周組織、細菌叢を検討した研究が示されていますが、要旨から分かる範囲を越えて、解析の妥当性や因果関係まで判断することはできません。[3]

妊娠中に口の状態が変わり得るからこそ、妊娠前の歯周病が妊娠の成立に影響したかを知るには、妊娠前から調べることに意味があります。

喫煙、体格、受診環境――二つの状態に共通する背景

観察研究では、歯周病そのものの影響と、歯周病のある人に多い別の要因の影響を分ける必要があります。このように、比較している関係に別の要因が入り込むことを「交絡」と呼びます。

ブラジルの2015年Pelotas出生コホートを用いたOliveiraらの研究では、妊婦2,474人のうち歯周炎は362人、14.63%でした。喫煙は歯周炎と関連し、調整後の有病割合比は1.62でした。[29]

この数字は歯周炎に関する結果で、妊娠率を測ったものではありません。ただ、口の状態を考える際にも、喫煙のような背景を外せないことが分かります。

一方、Gil-Montoyaらの研究では、肥満と妊娠後期に歯周炎があることとの関連が、調整オッズ比2.83、95%信頼区間0.91〜8.74、p値0.070と報告されています。[25]

この解析は、初期から後期への悪化だけを評価したものではありません。「肥満で歯周状態が悪化する確率が約3倍になった」とは読めません。また、推定には大きな幅があり、関連なしという値も含むため、この解析では統計学的に明確な関連は示されませんでした。

歯科受診には、費用、仕事、通院時間、家族の支援、地域の医療へのアクセスも影響します。不妊治療を受ける生活では、さらに通院や経済的な負担が重なることもあるでしょう。

口の状態を、本人の努力や清潔さだけの問題に還元しない。研究を読むうえでも、患者さんと向き合ううえでも、大切な視点です。

早産や低出生体重との「関連」は、どう報告されているか

ここからは、妊娠後の経過に関する研究です。妊娠の成立とは別の問いですが、歯周病と全身の関係を考えるうえで、蓄積の多い領域です。

Zhangらの2022年のメタ解析は、24件の観察研究、計15,278人を統合しました。歯周病と早産との関連はオッズ比1.57、95%信頼区間1.39〜1.77、低出生体重との関連は2.43、1.75〜3.37でした。一方、在胎週数に対して小さい児を指すSGAでは、1.62、0.86〜3.07で、統計学的に明確な関連は示されませんでした。[28]

ここでも、数字には説明が必要です。

まず、オッズ比は、そのまま「発症する確率が何倍になる」という意味ではありません。次に、元の研究は観察研究ですから、結果を統合しても、残った交絡が消えるわけではありません。

さらに、低出生体重の解析では、研究間の結果のばらつきが大きく、I²という指標は82.1%でした。地域、対象者、歯周病の診断基準などが違う研究を、一つの数字で代表させることには限界があります。

Karimiらの2023年のメタ解析も多くの研究を扱っていますが、少なくとも一部の解析では、強い研究間のばらつきがある状況で固定効果モデルが使われ、特定の研究の重みが大部分を占めています。[24] 統合された数字が大きく見えることだけで、こちらのほうが確実だとは判断できません。

Tsikourasら、Nannanら、AlShariefら、Mariamらなどのレビューも、関連や機序を理解する参考になります。[16,21,22,30] ただし、複数のレビューが同じ一次研究を引用している場合、それを別々の独立した証拠として数えることはできません。

早産や低出生体重との関連を示す報告はある。その関連の大きさと理由には、なお不確実性がある。そして、それ自体は「歯周病があると妊娠できない」という証拠ではない。この三点を一緒に伝える必要があります。

歯周治療をすると、妊娠の結果は良くなるのか

関連があるなら、治療すれば結果も良くなるのではないか。自然な疑問です。しかし、この問いに答えるには、実際に治療を行って比較する研究が必要です。

中心レビューは、妊娠中の歯周治療を検討した大規模試験も参照しています。OPT試験は823人、MOTOR試験は1,760人を対象としましたが、歯周状態の改善がみられても、早産の減少は示されませんでした。[1]

一方、2017年のCochraneレビューでは、37週未満の早産についてはリスク比0.87、95%信頼区間0.70〜1.10と明確な減少を示さなかったものの、2,500g未満の低出生体重では0.67、0.48〜0.95という減少を示唆する結果もありました。いずれも証拠の確実性は低いと評価されています。[37]

したがって、「歯周治療の試験は全部効果がなかった」と一括りにするのも正確ではありません。何を結果として測ったかによって違いがあり、研究の質にも課題があります。

そして、これらは妊娠した後の治療を調べた研究です。妊娠する前に治療すると妊娠率が上がるかどうかには、直接答えていません。

「妊娠中では遅かったのかもしれない」という仮説は立てられます。しかし、「だから妊娠前に治療すれば有効だ」と結論を進めるには、妊娠前の研究が必要です。効果が示されなかった理由の候補は、効果があることの証明にはなりません。

レビューがたくさんあっても、証拠が強いとは限らない

今回、関連するレビューを読み比べて、あらためて注意が必要だと感じたのが、「論文の数」と「証拠の確かさ」の違いです。

Machadoらは、妊娠転帰と歯周病に関する43件のシステマティックレビューを評価しました。方法の質は35件が「極めて低い」、2件が「低い」、1件が「中等度」、5件が「高い」と判定されていました。[19]

システマティックレビューやメタ解析という名称が付いていれば、それだけで信頼性が保証されるわけではありません。何を検索し、どの研究を選び、研究の偏りをどう評価し、どのように統合したかが問われます。

この研究では、レビュー同士で元の研究が重複していることも問題となりました。同じ試験を何度も別のレビューで見かけると、証拠が繰り返し積み上がったように感じます。しかし、同じ参加者から得られた一組の結果が、新しい参加者によって再現されたわけではありません。

また、観察研究の関連について「強い証拠」と分類されていても、その分類が統計学的な条件に基づくものであれば、因果関係や治療効果の確実性を意味するとは限りません。介入に関する41の推定結果に、その分類での「強い証拠」がなかったことも、「有効な結果が一つもなかった」という意味にはなりません。[19]

総人数の読み方にも注意が必要です。Wenらのレビューは40報、約178万人を扱っていますが、その約98.7%を一つの大規模研究が占めていました。[13] 「非常に多くの独立した集団が、同じ答えを示した」と理解するのは早計です。

ZhaoらやLiuらの書誌計量研究は、どの国や分野で研究が増えているか、どの論文がよく引用されるかを知るために役立ちます。[12,27] しかし、研究が活発であることや引用回数が多いことは、歯周病が不妊を起こすことの証明ではありません。

論文の肩書きや数に安心せず、中身を確認する。その手間が必要な領域です。

数字の読み違いが、強すぎる見出しをつくることもある

少し専門的ですが、患者さん向けの記事を書く側として、触れておきたい点があります。論文の数字と、文章による説明が一致しているかという問題です。

Shahiらの2023年のレビューでは、歯周治療と周産期死亡について、−0.88、95%信頼区間−2.53〜0.76という推定値が示されています。本文ではORと表記されていますが、図は対数オッズ比の尺度であり、表記にも不整合があります。[20]

この「−0.88」を、そのまま「88%減少した」と読むことはできません。対数オッズ比は、通常の割合とは違う尺度です。オッズ比に戻すためには指数変換が必要です。また、対数オッズ比では0が「差がない」という値なので、この信頼区間は差がない可能性も含みます。

同様に、早産の解析で示された−0.31という対数オッズ比を「31%減少」と書くこともできません。その95%信頼区間−0.70〜0.09も0をまたぎます。ここを読み違えると、不確かな結果が、はっきりした大きな治療効果へと変わってしまいます。

ほかにも、Alnasserらのレビューでは、タイトルにランダム化比較試験とありますが、収載表には、治療を無作為に割り付けた比較だけでなく、歯周状態と出生結果との関連を調べたものとして紹介されている研究も含まれています。例えばMeqaらの研究の欄は、歯周状態と早産・低出生体重の関係を示す内容で、治療の無作為割付は記載されていません。表に並んだ研究を、すべて同じ種類の治療効果の証拠として扱うことはできません。[18]

Minerviniらのレビューでは、抄録に含めた研究数を27報とする記述がある一方、本文では最終的に5報を選んで解析したと説明されています。また、低出生体重を扱う検索に、通常は体重減少を指す「weight loss」が使われています。[14]

こうした記載は、採択した研究を正確に追えるか、目的に合う研究を検索できているかを判断する際の確認事項です。レビューが引用した個々の研究について、本文を確かめないまま内容まで決めつけることも避けなければなりません。

こうした指摘は、研究者を批判すること自体が目的ではありません。私たちが患者さんに何かを勧める際に、その根拠としてどの数字まで使えるのかを考えるためのものです。

刺激的な数字ほど、引用する前に立ち止まる。「歯周治療で妊娠率が上がる」といった大きな約束をするなら、その慎重さはなおさら必要です。

治療で差が出なかったときも、結論を急がない

治療研究で差が出なかった場合、その理由を考えることには意味があります。

治療によって口の炎症は十分に減ったのか。想定する全身の変化は起きたのか。対象者の歯周病は、そもそもその仮説を検証できる程度だったのか。治療の時期や追跡期間、人数は適切だったのか。中心レビューも、こうした点を研究設計の課題として挙げています。[1]

ただし、差が出るまで「時期が違った」「治療が足りなかった」「対象者が違った」と理由を後付けし続けるのでは、仮説を公平に検証できません。

必要なのは、研究を始める前に、どの程度の歯周炎症の改善を目指すのか、何が変われば想定した仕組みを支持するのか、どの結果なら次の試験に進まないのかを決めておくことです。

口の炎症が十分に改善したのに、想定した全身指標も生殖に関する結果も変わらなかったなら、それは仮説を見直す重要な情報です。逆に、口の炎症がほとんど変わらなかった試験では、その仕組みを十分に検証できていない可能性があります。

効果がある方向の結果だけでなく、仮説に不都合な結果にも、同じ重みを置く。その姿勢があって初めて、研究は患者さんの役に立つ答えに近づきます。

著者らが最初に提案したのは、男女双方を妊娠前から追う研究

今回のレビューの特徴は、次の一手として、いきなり大規模な歯周治療の試験を勧めていないことです。

最初に提案しているのは、妊娠を希望するカップルの双方を妊娠前から調べ、その後を追う前向きの観察研究です。[1]

妊娠した人だけでなく、追跡中に妊娠しなかった人も含める。女性と男性の両方の口の状態を評価する。歯周病だけでなく、むし歯、歯の根の病変など、口の中のほかの炎症や感染も区別して記録する。

そして、年齢、喫煙、体格、全身疾患、生殖に関わる要因、治療内容などをできるだけ考慮し、「口の状態が先にあり、その後の妊娠のしやすさと、どの程度関係するのか」を確かめます。

ここで大切なのは、統計学的に関連があるかどうかだけではありません。その違いが、患者さんにとって意味のある大きさなのかを評価することです。非常に小さな差しかない場合に、通院や治療の負担を増やすだけの価値があるかは、別に考える必要があります。

この段階で時間の順序や臨床的に意味のある関連が支持されなければ、当然のように介入試験へ進むべきではありません。著者らの研究計画は、「歯周治療を妊娠のために勧める」という結論を先に置いたものではないのです。

次は仕組みと実行可能性、その後に治療効果を確かめる

前向き研究によって仮説が支持された場合に、次に検討されるのが、仕組みと小規模な介入の実行可能性です。[1]

歯周治療で炎症が改善するか。その変化に伴って、想定する全身の指標も変化するか。不妊治療を受けている方が無理なく参加できるか。治療や再評価を予定どおり行えるか。こうしたことを、まず小さな研究で確かめます。

歯肉の出血や、炎症のある歯周組織の面積を表すPISAなどは、歯周治療が狙った変化を起こしたかを確認する候補です。ただし、これらが良くなったことを、妊娠率の改善と読み替えないことは、ここでも同じです。

著者らは、凍結した胚盤胞を一つ移植する治療場面を、研究モデルの一つとして提案しています。条件をある程度そろえ、母体の全身状態や子宮に関わる経路を調べやすくするためです。

しかし、この方法で調べられる範囲は限られます。すでに胚ができた後の段階を扱うため、卵子の状態、受精、男性側の影響、自然妊娠の過程全体を検証するモデルではありません。

そこで一定の結果が出ても、すべての妊娠希望者に広げてよいとは限りません。小規模研究から多施設の効果検証、実際の医療への導入まで、対象と目的を確かめながら段階的に進む必要があります。

「治療後4〜8週間」は、妊活を待つよう勧める数字ではない

この論文を患者さん向けに紹介する際、特に取り違えたくない点があります。

著者らは初期の介入試験の案として、非外科的歯周治療の完了から凍結胚移植まで4〜8週間を置く方法を挙げています。移植の直前には、歯周状態や全身の指標を再評価する計画です。[1]

ただし、この4〜8週間は、試験で検証する候補となる間隔です。最適な期間や生物学的な境目が分かったわけではなく、今すべての患者さんに「その間は妊娠や胚移植を待ちましょう」と勧めるための数字ではありません。

論文の後半は、著者らが提案した、仮説を検証するための研究の枠組みです。確立した診療ガイドラインではありません。

不妊治療では、年齢や治療状況によって時間の意味が異なります。まだ利益が確かでない歯科介入のために、必要な治療を一律に遅らせることは正当化できません。研究に参加する場合でも、既存の生殖医療を妨げない設計が必要です。

一方、痛みや急性の感染など、早く対応すべき歯科の問題を、研究の都合で放置してよいわけでもありません。治療時期を比較する研究には、待機できる条件と、途中で必要な治療を行う基準が必要です。

結果の測り方も重要です。妊娠反応が出たこと、超音波などで臨床的に妊娠を確認したこと、妊娠12週などの時点まで継続したこと、赤ちゃんが生まれたことは、それぞれ異なります。

また、胚移植まで進んだ人だけで結果を計算すると、途中で中止した人や、治療予定が変わった人の経験が見えなくなる可能性があります。通院回数、費用、不安、予定の変更も含め、患者さんが負担したことと得られたことを評価する必要があります。

妊娠率の数字だけが少し動けばよい、という研究では足りないのです。

それでも、妊娠前から口を整えておく意味はある

ここまで読むと、「結局、妊娠を考えていても、歯科に行く意味はないのか」と感じる方がいるかもしれません。

そうではありません。歯周病があれば、歯を支える組織を守るために評価と治療を行う意味があります。むし歯や痛み、腫れがあれば、その問題に対応する必要があります。妊娠を考える時期に、自分の口の状態を確認しておくことにも意義があります。

ただ、その説明に「妊娠率が上がります」という未確認の利益を付け加える必要はありません。

妊娠中であっても、必要な歯科診療を一律に避けるべきではありません。米国歯科医師会は、妊娠中の予防・診断・修復治療や、必要な歯周治療を受けられることを示しています。実際の内容や時期は、症状、妊娠経過、全身状態などを踏まえて相談します。[32]

国内の上野・里村による総説も、妊産婦や授乳期の歯科治療と薬物療法を扱っています。[5] 治療や薬について判断が必要なときは、歯科と産科などが必要な情報を共有することが大切です。Bostanci氏の論説も、口腔保健を妊娠期のケアに組み込む意義を述べています。[23]

不妊治療中であれば、歯科にはそのことと治療予定を伝えてください。生殖医療側にも、歯科でどのような治療を予定しているかを共有できると、調整がしやすくなります。

大切なのは、「妊娠のために、さらに一つ努力を増やす」という発想だけにしないことです。今ある口の困りごとを減らし、食べることや日々の生活を支える。そのための診療として考えたいと思います。

知っていること、受診したいこと、実際に受診できることは違う

口腔保健に関する調査も、この話を考えるうえで参考になります。ただし、知識や受診意向を調べた研究から、妊娠率や早産予防の効果を読み取ることはできません。

Bushehabらの400人を対象とした調査では、歯周病と診断された場合に歯周治療を受ける意思について、妊娠中66.4%、出産後96.2%と報告されています。[17]

これは、診断された場合という条件付きの治療意向です。一般的な健診への参加意向でも、実際の受診率や治療完了率でもありません。人数と総数からの単純計算では小数点以下まで一致しないため、ここでは論文が報告した割合として示しています。

Ramanauskaiteらがリトアニアの妊婦112人を調べた研究では、表に示された妊娠中の受診は、歯科医師61人、歯科衛生士46人でした。[31] 両方を受診した人がどれだけ重なるかが分からなければ、二つを単純に足したり、「半数は専門家のケアを一切受けていない」と言い換えたりすることはできません。

国内では、柴田らの妊婦113人の調査で、歯科健診の受診は56.6%でした。受診者にも歯周病の自覚症状はありましたが、そのことだけで「健診は効果がない」とは言えません。症状があったから受診した可能性もありますし、健診を受けることと治療を完了することは別です。[11]

川尻らの32人の調査は、かかりつけ歯科と口腔保健行動との関係を考える材料になりますが、小規模な自己申告の調査であり、治療による妊娠結果の改善を示すものではありません。[2]

知識を伝えるだけでなく、実際に通える時間や費用、体調に合った受診の仕方を考える。そのほうが、「赤ちゃんのために歯を治さなければ」と不安を重ねるより、現実の支援につながるのではないでしょうか。

母親の口と子どもの歯を結ぶ研究も、母親を責める材料にしない

妊娠中の歯科の話題は、出産後の子どものむし歯へと広がることもあります。ここでも、関連の説明には慎重さが必要です。

武市らの2026年の研究は、母子259組を対象に、母親の妊娠中の歯周状態と、子どもの3歳時のむし歯との関連を調べました。[6]

3歳時にむし歯が認められた子どもは27人、そのうち4本以上のむし歯があった子どもは12人でした。母親に妊娠中6mm以上の歯周ポケットがあることとの関連は、次のように分かれています。

子どもの3歳時の結果人数オッズ比95%信頼区間
むし歯あり27人/259人5.331.52〜18.76
4本以上の多数歯う蝕12人/259人7.201.44〜35.91

むし歯があるかどうかと、4本以上あるかどうかは別の結果です。人数とオッズ比を組み合わせる際にも、この区別を保つ必要があります。

ただし、該当する子どもは少なく、推定の幅も広い結果です。親子で共有する食習慣、歯科受診、生活環境などの影響もあります。特定の菌が母親から子どもへ伝わり、それによってむし歯が起きたことを、この研究が証明したわけではありません。

矢野らの母子87組を追った研究では、母親に歯周病の症状がある群の子どもで、1歳6か月時の歯の汚れが少なく、3歳時には関連が認められませんでした。[4] これも、「母親に症状があるほうが子どもに良い」という意味ではありません。保護者の関心や行動、参加者の特徴など、さまざまな背景が関わり得ます。

仲井氏の総説が扱うように、周産期から母子の口腔保健を支えることには意義があります。[10] ただし、その意義と、「母親の歯周病が不妊、妊娠中の問題、子どものむし歯まで一続きに引き起こす」という説明は別です。

母親の口の状態を、家族の将来に対する責任の重さへと変えてしまわない。家族の健康を支える歯科だからこそ、守りたい線です。

よくある疑問に、現時点でどう答えるか

歯みがきで血が出ます。不妊の原因になりますか。

出血だけから、不妊の原因を判断することはできません。歯肉炎や歯周炎などの評価を受ける理由にはなりますが、妊娠できないことと直結させる必要はありません。

歯周病を治せば、妊娠率は上がりますか。

その効果は、現時点では証明されていません。歯周病は口の健康のために治療しますが、妊娠率の上昇を約束することはできません。

妊娠前の歯科健診には、意味がありますか。

あります。自分の口の状態を知り、必要な治療や日々のケアを相談できます。その価値は、妊娠率を上げる効果が証明されているかどうかとは別にあります。

歯周治療が終わるまで、不妊治療や胚移植を待ったほうがよいですか。

一律に待つことを勧める根拠はありません。歯科の病状と生殖医療の予定を共有し、必要性や緊急性を個別に判断します。レビューにある研究上の期間を、そのまま自分の待機期間にする必要はありません。

男性も歯周病を調べるべきですか。

男性にとっても口の健康管理は大切です。ただし、不妊の改善を目的とする特別な歯周検査や治療が、すべての男性に必要だと確立したわけではありません。女性だけの責任にしないことと、男女ともに未証明の効果を約束しないことを両立させたいと思います。

歯周病菌や抗体を調べれば、不妊の原因が分かりますか。

今回紹介した研究から、そのようには言えません。菌や抗体の検査は、歯周炎そのものの診断とも、不妊の原因を確定する検査とも異なります。

妊娠してから歯ぐきが腫れました。妊娠前から重い歯周病だったのでしょうか。

そうとは限りません。妊娠に伴う歯肉の反応や生活の変化も関わり得ます。現在の状態を診察して、必要なケアを考えます。

「まだ証明されていない」は、「関係がない」という意味ですか。

違います。関連を示す手掛かりはありますが、原因であることや、治療によって生殖の結果が変わることまでは確認できていない、という意味です。将来の研究で理解が変わる可能性を残しながら、今言える範囲を守ることが大切です。

歯科医師として、約束できることを丁寧に伝えたい

歯周病と全身の病気との関連は、歯科の役割を考えるうえで大切な研究テーマです。今回の論文も、口の炎症と生殖機能の関係を、これから真剣に調べる価値があることを示しています。

ただ、研究する価値があることと、今の患者さんに効果を約束できることの間には、距離があります。

その距離を省略して「妊活には歯周治療」と言えば、分かりやすい見出しにはなるかもしれません。しかし、その言葉を受け取る方は、限られた時間と費用の中で、次に何をすべきかを真剣に考えています。結果が出なかったときに、自分の努力が足りなかったと感じてしまう方もいるでしょう。

私は、歯科の大切さを伝えるために、まだ確認されていない妊娠率の改善を持ち出す必要はないと考えています。

歯ぐきの出血や腫れをきちんと調べる。歯を支える組織を守るために、必要な治療を行う。毎日のケアを、その方の体調や生活に合わせて一緒に考える。治療の時期に配慮が必要なら、ほかの診療科と相談する。

歯科が担うべき仕事は、それだけでも十分にあります。

妊娠しないことを、歯の手入れの責任にしない。まだ分からないことは、分からないと伝える。そして、今困っている口の問題には、きちんと向き合う。

患者さんの口の健康と、その方が大切にしている時間や気持ち。その両方を尊重する診療でありたいと思います。

参考文献

本稿は文献1の批判的レビューを軸に、追加文献を参照しています。Hart、Nwhator、Yildiz Telatar、男性の主要研究、OPT・MOTOR試験など、引用を文献1としている箇所は中心レビューを通した紹介です。Bond、Paju、Khalife、Kamei-Nagataらについては個別論文の結果を追加確認し、文献33〜36として示しました。文献37はCochraneの公式公開要約・抄録も確認しています。

文献3は学位論文要旨の参照です。文献35は出版社公開本文で確認できた結果の記載を参照しています。引用したすべての一次研究を全文精読したという意味ではありません。各文献の対象は、妊孕性、妊娠後の転帰、口腔状態、保健行動などで異なります。

1. Omori K, Miyake T, Takashiba S. Periodontitis and infertility: a critical narrative review with qualitative synthesis and an author-proposed translational roadmap for preconception periodontal research. Reproductive Biology and Endocrinology. 2026. Article in Press. doi:10.1186/s12958-026-01616-y⁠

2. 川尻望ほか.妊娠期における口腔保健行動の現状と課題.バイオメディカル・ファジィ・システム学会誌. 2023;24(2):9–14.

3. 杉山のどか.女性ホルモンの変動による歯周組織と細菌叢の変化とそれらを介した切迫早産との関連.北海道医療大学大学院歯学研究科.令和5年度学位論文要旨.【要旨参照】

4. 矢野朋子ほか.地域ふれあい教室における母親の歯周病症状と子どもの健診時の口腔衛生状態の縦断的調査.実践政策学. 2025;11(2):293–298. doi:10.69287/ppseb.11.2_293⁠

5. 上野繭美,里村一人.妊産婦および授乳期における歯科治療と薬物療法.歯科薬物療法. 2023;42(2):69–74.

6. 武市真那実ほか.母親の妊娠期の歯周状態と児の3歳時におけるう蝕罹患との関連.口腔衛生学会雑誌. 2026;76:29–37.

7. 加藤幸紀ほか.妊婦の歯周疾患と早産・低体重児出産.日本歯周病学会会誌. 2024;66(4):151–157. doi:10.2329/perio.66.151⁠

8. 久保枝莉ほか.妊婦の歯周状態に関連する因子の分析.口腔衛生学会雑誌. 2023;73:21–30.

9. 大友舞,松浦和代.妊娠初期における口腔内自覚症状と関連要因の分析.口腔衛生学会雑誌. 2022;72:165–172.

10. 仲井雪絵.未来につなぐう蝕予防戦略として周産期からの母子保健の可能性を探る.日本歯科衛生学会雑誌. 2024;18(2):6–13.

11. 柴田愛ほか.COVID-19感染拡大時期を過ごした妊娠中期の妊婦の口腔衛生行動と歯周病自覚症状.日本助産学会誌. 2022;36(1):129–136. doi:10.3418/jjam.JJAM-2021-0032⁠

12. Zhao et al. The association between periodontal disease and adverse pregnancy outcomes: a bibliometric analysis from 2000 to 2023. Frontiers in Medicine. 2025. doi:10.3389/fmed.2025.1526406⁠

13. Wen et al. The bidirectional relationship between periodontal disease and pregnancy via the interaction of oral microorganisms, hormone and immune response. Frontiers in Microbiology. 2023. doi:10.3389/fmicb.2023.1070917⁠

14. Minervini et al. Periodontal Disease and Pregnancy: Correlation with Underweight Birth. European Journal of Dentistry. 2023;17:945–950. doi:10.1055/s-0042-1757906⁠

15. Hong et al. Risk factors associated with periodontal disease and its impact on quality of life among pregnant women. Journal of Obstetrics and Gynaecology. 2023. doi:10.1080/01443615.2023.2264382⁠

16. Nannan M, Xiaoping L, Ying J. Periodontal disease in pregnancy and adverse pregnancy outcomes: Progress in related mechanisms and management strategies. Frontiers in Medicine. 2022;9:963956. doi:10.3389/fmed.2022.963956⁠

17. Bushehab et al. Oral Hygiene Practices and Awareness of Pregnant Women about the Effects of Periodontal Disease on Pregnancy Outcomes. International Journal of Dentistry. 2022:5195278. doi:10.1155/2022/5195278⁠

18. Alnasser et al. The Potential Association Between Periodontal Diseases and Adverse Pregnancy Outcomes in Pregnant Women: A Systematic Review of Randomized Clinical Trials. Cureus. 2023;15:e33216. doi:10.7759/cureus.33216⁠

19. Machado et al. Adverse Pregnancy Outcomes and Maternal Periodontal Disease: An Overview on Meta-Analytic and Methodological Quality. Journal of Clinical Medicine. 2023;12:3635. doi:10.3390/jcm12113635⁠

20. Shahi et al. Evaluation of the periodontal disease on oral microorganisms during pregnancy: A systematic review and meta-analysis. Journal of Clinical and Translational Research. 2023;9(3):144–152. doi:10.18053/jctres.09.202303.001⁠

21. Mariam et al. Pregnancy Outcomes and Maternal Periodontal Diseases: The Unexplored Connection. Cureus. 2024. doi:10.7759/cureus.61697⁠

22. Tsikouras et al. The Impact of Periodontal Disease on Preterm Birth and Preeclampsia. Journal of Personalized Medicine. 2024;14:345. doi:10.3390/jpm14040345⁠

23. Bostanci N. Periodontal health and pregnancy outcomes: Time to deliver. Acta Obstetricia et Gynecologica Scandinavica. 2023;102:648–651. doi:10.1111/aogs.14548⁠

24. Karimi et al. The association between periodontal disease and risk of adverse maternal or neonatal outcomes: A systematic review and meta-analysis. Health Science Reports. 2023. doi:10.1002/hsr2.1630⁠

25. Gil-Montoya et al. Oral and general health conditions involved in periodontal status during pregnancy: a prospective cohort study. Archives of Gynecology and Obstetrics. 2023;308:1765–1773. doi:10.1007/s00404-022-06843-3⁠

26. Susanto A, Bawono CA, Putri SS. Hormonal Changes as the Risk Factor That Modified Periodontal Disease in Pregnant Women: A Systematic Review. Journal of International Oral Health. 2024;16:189–195. doi:10.4103/jioh.jioh_155_23⁠

27. Liu et al. Bibliometric Analysis of the Knowledge Landscape of Periodontal Disease in Pregnancy: A Noteworthy Multidisciplinary Issue. Journal of Multidisciplinary Healthcare. 2023;16:3941–3957. doi:10.2147/JMDH.S437127⁠

28. Zhang et al. Periodontal Disease and Adverse Neonatal Outcomes: A Systematic Review and Meta-Analysis. Frontiers in Pediatrics. 2022;10:799740. doi:10.3389/fped.2022.799740⁠

29. Oliveira et al. Factors associated with periodontal diseases in pregnancy: Findings of the 2015 Pelotas Birth Cohort Study. Brazilian Oral Research. 2023;37:e110. doi:10.1590/1807-3107bor-2023.vol37.0110⁠

30. AlSharief M, Alabdurubalnabi E. Periodontal Pathogens and Adverse Pregnancy Outcomes: A Narrative Review. Life. 2023;13:1559. doi:10.3390/life13071559⁠

31. Ramanauskaite E, Maciulskiene V, Baseviciene N, Anuzyte R. A Survey of Lithuanian Pregnant Women’s Knowledge about Periodontal Disease, Its Prevalence and Possible Influence on Pregnancy Outcomes. Medicina. 2024;60:1431. doi:10.3390/medicina60091431⁠

32. American Dental Association. Pregnancy⁠. 2026年9月27日参照.

33. Bond JC, et al. Self-reported periodontitis and fecundability in a population of pregnancy planners. Human Reproduction. 2021;36(8):2298–2308. doi:10.1093/humrep/deab058⁠

34. Paju S, Oittinen J, Haapala H, Asikainen S, Paavonen J, Pussinen PJ. Porphyromonas gingivalis may interfere with conception in women. Journal of Oral Microbiology. 2017;9(1):1330644. doi:10.1080/20002297.2017.1330644⁠

35. Khalife D, et al. No association between the presence of periodontal disease and poor IVF outcomes: a pilot study. International Journal of Women’s Health. 2019;11:363–370. doi:10.2147/IJWH.S202135⁠

36. Kamei-Nagata C, et al. Periodontitis associated with Porphyromonas gingivalis infection is a risk factor for infertility through uterine hypertrophy. Scientific Reports. 2025;15:34964. doi:10.1038/s41598-025-18992-x⁠

37. Iheozor-Ejiofor Z, Middleton P, Esposito M, Glenny AM. Treating periodontal disease for preventing adverse birth outcomes in pregnant women. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2017;(6):CD005297. doi:10.1002/14651858.CD005297.pub3⁠

歯周病と妊孕性_院長の徒然コラム_最終稿_2026-09-27.md⁠

TOP