2026年8月04日

(院長の徒然コラム)

※本稿は、2026年8月に確認した指定医薬部外品「楽養生」のインターネット広告について、歯科医学、患者安全、広告倫理の観点から検証したものです。
※広告表現が法令に違反するかどうかを最終的に判断するのは、所管行政機関および司法です。本稿は、特定の企業、歯科医師、歯科医院の違法行為を断定するものではありません。
※広告画面は、公開された広告表現を批評・検証するため、必要な範囲に限って引用します。赤枠、下線、注釈、ぼかしは筆者によるものです。広告本文の文言や掲載順序は変更していません。
私はこの広告を最後まで読むことが苦痛だった
インターネットを閲覧していたところ、「グラつく歯が一転」「歯医者も驚く」「飲むだけで歯がピタッ」といった趣旨の広告が表示された。
紹介されていた商品は、指定医薬部外品の「楽養生」である。
最初は、健康商品の広告で時折見かける、少し大げさな表現の一つだと思った。
しかし、読み進めるにつれて、その認識は変わった。
この広告は、歯が揺れている人、歯肉が下がっている人、硬いものが食べにくい人に対し、まず歯科医院への恐怖と不信を植え付ける。
歯科医院へ行けば叱られる。
抜歯を勧められる。
高額なインプラントを提案される。
歯科医師は自由診療で利益を得たいから歯を抜く。
そのような物語を積み上げたうえで、今度は「歯肉のコラーゲンを作る」「弱った歯を強くする」「グラグラした歯がピタッと止まる」と受け取れる説明を並べ、商品の購入へ誘導する。
さらに広告の後半では、歯科医師とされる人物の顔写真、氏名、歯科医院名、院内に商品を置いた写真まで登場する。
歯科医療を利益目的の敵役として描きながら、商品を信用させる場面では歯科医師の肩書きと医院の信用を利用する。
私は歯科医師として、この構造を到底看過できない。




出典:指定医薬部外品「楽養生」インターネット広告。2026年8月閲覧。赤枠・ぼかしは筆者による。
本稿は「楽養生」という商品を頭ごなしに否定する記事ではない
最初に、検証対象を明確にしておきたい。
私は、ビタミン含有保健剤という制度そのものを否定しているのではない。
栄養状態が不十分な人や、特定の栄養素が不足している人に、必要な栄養を補うことには医学的な意味がある。
また、「楽養生」が指定医薬部外品として承認された商品であることまで否定するものでもない。
問題にしているのは、指定医薬部外品として承認された効能・効果と、広告全体が消費者に抱かせる歯周病治療効果の印象との間に、大きな隔たりがないかという点である。
厚生労働省の承認基準上、ビタミン含有保健剤は、滋養強壮、虚弱体質の改善、肉体疲労時などの栄養補給を目的とする内用剤として位置づけられている。基本的な効能には、体力や身体抵抗力の維持・改善、疲労の回復・予防、虚弱体質や栄養不良に伴う身体不調の改善・予防などが含まれる。
指定医薬部外品であることは、広告に登場する独自の作用機序や、動揺歯の固定、歯槽骨の再生、歯肉退縮の回復、抜歯の回避まで国が個別に認定したことを意味しない。
商品名を明示する理由もここにある。
漠然と「怪しい健康広告に注意しましょう」と書くだけでは、実際にこの広告を見た患者には届かない。
どの商品について、どの表現が使われ、それが歯科医学とどこで食い違うのかを具体的に示す必要がある。
広告は歯科受診への恐怖を作ってから商品を売っている
広告では、歯が揺れ、食事に困っている人物が登場する。
歯科医院へ行ったところ、叱られたうえに抜歯を予告され、不快な思いをしたという物語が語られる。
仕事が忙しくて通えない。
歯を抜かれたくない。
入れ歯もインプラントも嫌だ。
ここまでは、患者が現実に抱くことのある不安である。
ところが広告は、その不安を正しい診断や相談へつなげるのではなく、歯科医療への不信に変換していく。
広告画面には、歯科医院へ行けば抜歯を勧められ、一本30万円以上のインプラントを提案されるといった趣旨の記述がある。
さらに、
競争の激しい歯科医師は自由診療で利益を確保したい
と読める説明や、
歯医者に行くと、おそらく抜かれる
歯医者さんは儲かるし、トラブルも少ない
という趣旨の文章まで掲載されている。

出典:指定医薬部外品「楽養生」インターネット広告。2026年8月閲覧。赤枠・ぼかしは筆者による。
これは治療法の比較ではない。
歯周ポケット、プロービング時の出血、臨床的アタッチメントレベル、骨支持量、動揺度、根分岐部病変、歯根破折、残存歯質、咬合状態など、保存可能性を判断するための情報を一つも示さないまま、「歯科医師は利益のために抜く」と動機を決めつけている。
歯科治療にも費用はかかる。自費診療を提案することもある。保存が難しい歯について、抜歯を提案しなければならないこともある。
しかし、歯を残せるかどうかは、歯科医師の住宅ローンや子どもの教育費で決めるものではない。
歯根破折、歯周組織の破壊量、感染の制御可能性、残存歯質、清掃性、咬合、全身状態、治療後の予測可能性などを総合して判断する。
その臨床判断を「歯医者が儲けたいから」と一括りにすることは、歯科医師への侮辱であるだけではない。
治療を必要とする患者を医療から遠ざける危険な誘導である。

出典:指定医薬部外品「楽養生」インターネット広告。2026年8月閲覧。赤枠は筆者による。
「歯がグラグラする」は病名ではない
広告では、歯が揺れる理由を、加齢による歯肉のコラーゲン減少や、歯肉の衰えを中心に説明している。
しかし、「歯がグラグラする」は病名ではない。
複数の異なる病態から生じる臨床徴候である。
歯周炎によって歯槽骨や歯根膜の支持が失われている場合もあれば、歯周膿瘍などの急性炎症によって、一時的に動揺が増していることもある。
咬合性外傷、歯根破折、外傷、根尖部の炎症、歯内歯周病変、矯正力などが関係している場合もある。
同じ「グラグラする」という症状でも、原因が違えば、必要な治療も予後もまったく異なる。
日本歯周病学会の『歯周治療のガイドライン2022』は、歯周病の検査、診断、治療計画、口腔バイオフィルム感染への対応、治療後の継続管理までを一連の診療として扱っている。
錠剤を飲む前に、なぜその歯が揺れているのかを診断しなければならない。
診断を飛ばして「コラーゲンを作れば歯が強くなる」と結論づけることは、歯科医療ではない。

歯肉にコラーゲンがあることと、飲めば歯周病が治ることは別である
歯肉の結合組織にコラーゲンが多く含まれることは事実である。
ビタミンCが正常なコラーゲン合成に必要であることも、医学的にはよく知られている。
重度のビタミンC欠乏症では、歯肉出血や創傷治癒不良を生じることもある。
だからといって、一般的な歯周炎や歯肉退縮を「加齢によるコラーゲン不足」とほぼ同一視し、ビタミンを服用すれば、失われた歯周組織が戻ると考えることはできない。
歯周炎は、歯肉のコラーゲン量だけで説明できる病気ではない。
歯面に形成された細菌性バイオフィルムを起点とし、宿主の炎症・免疫応答を介して、歯根膜、セメント質、歯槽骨を含む歯周組織が破壊される疾患である。
喫煙、糖尿病、口腔清掃状態、全身状態、咬合なども、病態や進行に影響する。
歯周炎によって歯槽骨や臨床的アタッチメントが失われた場合、コラーゲン合成に関与する栄養素を補っただけで、失われた支持組織が自動的に元へ戻るわけではない。
家を支える柱と基礎が失われているとき、建築材料を購入しただけで家が自動的に建て直されるわけではない。
それと同じである。

出典:指定医薬部外品「楽養生」インターネット広告。2026年8月閲覧。赤枠・ぼかしは筆者による。
アスコルビン酸(ビタミンC)で「下がった歯茎」は戻るのか
広告では、アスコルビン酸(早い話がビタミンC)が、年齢とともに減少したコラーゲンの生成に関与し、下がった歯肉を改善するという流れが作られている。
しかし、歯肉退縮は単一の原因で起こるものではない。
歯肉や歯槽骨の薄い形態、歯の唇側転位、強すぎるブラッシング、炎症、付着喪失、歯列不正、矯正治療、加齢など、複数の要因が関与する。
炎症や腫脹が改善した結果、歯肉の見え方が変わることはある。
栄養欠乏のある人へ、適切な栄養を補給することにも意味はある。
しかし、それと、退縮した辺縁歯肉がアスコルビン酸の内服によって歯冠側へ戻るという話は別である。
本当に「下がった歯茎を改善した」と主張するなら、少なくとも次の情報が必要になる。
- 歯肉退縮量
- 臨床的アタッチメントレベル
- 角化歯肉幅
- 測定期間
- 対照群
- 併用した歯周治療
- 被験者の栄養状態
- 評価者の盲検化
- 利益相反
広告の印象的な画像や体験談だけでは判断できない。
東京大学には歯学部がない――では、誰が何を研究したのか
この広告で、もう一つ見過ごせないのが、
東大やハーバード大でも研究
という表示である。
広告画面には、研究者を思わせる白衣姿の人物、大学校舎のような画像、東京大学とハーバード大学の名称が並べられている。
その直後には、アスコルビン酸がコラーゲンを生成し、下がった歯肉を改善するという趣旨の説明が続く。
一般の消費者がこの流れを見れば、
東京大学やハーバード大学の歯科研究者が、「楽養生」による動揺歯や歯肉退縮の改善を研究した
と受け取る可能性がある。
しかし、東京大学の公式な学部・研究科一覧に、歯学部や歯学系研究科は存在しない。東京大学の学部は、法学部、医学部、工学部、文学部、理学部、農学部、経済学部、教養学部、教育学部、薬学部で構成されている。
東京大学医学部附属病院には、口腔顎顔面外科・矯正歯科という診療部門が存在する。だが、それは「東京大学歯学部」ではなく、広告の商品について歯周病や動揺歯の臨床研究を行ったことを意味するものでもない。
もちろん、東京大学の医学系、薬学系、農学生命科学系などで、アスコルビン酸、コラーゲン、酸化ストレス、骨代謝に関する研究が行われることはあり得る。
しかし、
ある成分や生体機構が東京大学で研究されている
という事実と、
「楽養生」を服用すれば、下がった歯肉が戻り、動揺歯が固定される
という主張は、まったく別である。
広告主には、具体的に示してほしい。
東京大学のどの研究科、どの研究者、どの論文を指して「東大でも研究」と表示したのか。
研究対象は「楽養生」そのものなのか。
配合されたアスコルビン酸なのか。
コラーゲン代謝の一般論なのか。
培養細胞や動物を用いた基礎研究なのか。
実際の歯周炎患者を対象とした臨床研究なのか。
商品そのものを用いた歯科臨床研究ではないのであれば、大学名を商品の効能説明の直前に配置することが、消費者にどのような印象を与えるか、慎重に考えるべきである。
「大学で研究されている成分」と「大学がこの商品を研究し、効果を認めた」は同じではない。

出典:指定医薬部外品「楽養生」インターネット広告。2026年8月閲覧。赤枠・ぼかしは筆者による。東京大学には歯学部および歯学系研究科は存在しない。広告が指す研究機関、研究者、研究対象および論文は、広告画面だけでは確認できない。
L-システインの抗酸化作用と、動揺歯の固定は同じ話ではない
広告では、L-システインについて、歯肉細胞の抗酸化力を高める成分として紹介している。
酸化ストレスが歯周炎の病態研究と無関係であると言っているのではない。
歯周炎に伴う炎症反応において、活性酸素種や抗酸化系は研究対象となっている。
しかし、ある成分に抗酸化作用があることと、その成分を含む製品を服用すれば、歯周炎患者の動揺歯が固定されることは同義ではない。
細胞や動物を対象とした基礎研究で変化が見られたとしても、実際の患者において、
- 歯周ポケット
- プロービング時の出血
- 臨床的アタッチメントレベル
- 骨支持量
- 動揺度
- 歯の喪失率
が改善するかどうかは、別の臨床研究で検証しなければならない。
「抗酸化」という言葉は科学的に聞こえる。
しかし、科学的に聞こえる言葉を並べることと、製品の臨床的有効性を証明することは違う。
ピリドキシン塩酸塩がカルシウムを骨にし、歯を固定するのか
この広告で、私が特に理解し難かったのが、ピリドキシン塩酸塩に関する説明である。
広告は、カルシウムは骨の材料にすぎず、その材料を骨にしていく力となるのがピリドキシン塩酸塩であるという趣旨の説明をしている。
そして、その直後に、
驚くほどグラグラした歯が、いつの間にかピタッと
という印象を与える記述を置いている。
ピリドキシン塩酸塩は、ビタミンB6製剤に用いられる成分である。
ビタミンB6は、アミノ酸代謝などに関与する重要な栄養素である。
しかし、それを「カルシウムを骨に変える力」と単純化し、歯周炎によって失われた歯槽骨が再生して、動揺歯が固定されるかのようにつなげるのは、あまりにも飛躍が大きい。
歯周炎に伴う歯槽骨吸収は、単純なカルシウム不足やビタミンB6不足だけで生じるわけではない。
歯周組織再生を目指す場合でも、まず感染と炎症を制御し、骨欠損形態、清掃状態、喫煙、糖尿病、咬合などを評価したうえで、再生療法の適応を判断する。
錠剤を服用することと、失われた歯周組織を再生させる治療は同じではない。


出典:指定医薬部外品「楽養生」インターネット広告。2026年8月閲覧。赤枠は筆者による。画像内の大きな赤い矢印は広告原本に含まれる。
「指定医薬部外品」は歯周病治療薬という意味ではない
厚生労働省の承認基準では、ビタミン含有保健剤は、滋養強壮、虚弱体質の改善、肉体疲労時の栄養補給などを目的とする内用剤として定義されている。
同基準には、体力・身体抵抗力の維持や改善、疲労の回復、栄養不良に伴う身体不調の改善などが効能・効果の範囲として示されている。
一定の配合成分によっては、「骨又は歯の衰え」という例示を付記できる。
ここで一般消費者が誤解しやすい。
「骨又は歯の衰え」という表現を見れば、歯周炎、歯槽骨吸収、動揺歯、歯肉退縮を直接治療する製品だと受け取る人がいても不思議ではない。
しかし、
- 歯周炎を治療する
- 歯槽骨を再生する
- 動揺歯を固定する
- 下がった歯肉を元へ戻す
- 抜歯を回避する
という意味にまで拡張してよいわけではない。
指定医薬部外品という区分は、広告に書かれたすべての説明を国が保証したことを意味しない。


出典:指定医薬部外品「楽養生」インターネット広告。2026年8月閲覧。赤枠は筆者による。
医薬部外品の広告は、承認範囲を超えてはならない
厚生労働省の医薬品等適正広告基準は、医薬品、医薬部外品などの広告が虚偽・誇大にならないようにし、適正化することを目的としている。
この基準は、新聞、雑誌、テレビだけではなく、ウェブサイトやSNSを含むすべての媒体を対象としている。また、広告を行う者には、使用者が適正に使用できるよう、正確な情報を伝える責務が求められている。
承認を必要とする医薬品や医薬部外品の効能・効果について、明示的か暗示的かを問わず、承認範囲を超えて広告することはできない。
また、医師、歯科医師、病院、診療所、学校、学会などが、商品を指定、公認、推薦、指導、選用していると受け取られる表現にも厳しい制限がある。
今回の広告が薬機法上どのように判断されるかは、行政が広告全体を確認して決めることである。
しかし、
- 下がった歯茎を改善
- 歯を強くする
- グラグラした歯がピタッと止まる
- 固いものも食べられる
- 歯科医院へ行けば抜かれる
という一連の表示について、承認された効能との関係を行政が精査する必要はあると考える。
「医学誌に掲載」は、臨床効果の証明なのか
広告には、「Medical Science Digest」の2026年2月号に掲載されたという趣旨の表示がある。
しかし、「医学誌に掲載」の意味は一つではない。
それは、
- 査読付き原著論文
- 総説
- 解説記事
- 企業提供記事
- 広告
のいずれなのか。
医学雑誌の誌面へ載ったことと、商品の臨床的有効性が科学的に証明されたことは同じではない。
「楽養生」そのものを用い、歯周炎患者の動揺度、歯槽骨、臨床的アタッチメントレベル、歯肉退縮、歯の生存率を評価した研究があるなら、研究タイトル、著者、所属、研究デザイン、対象者数、対照群、評価期間、統計解析、利益相反を示してほしい。

出典:指定医薬部外品「楽養生」インターネット広告。2026年8月閲覧。赤枠・ぼかしは筆者による。掲載形式が原著論文、総説、企業提供記事または広告のいずれであるかは、広告画面だけでは確認できない。
Amazonランキングや販売数は医学的根拠ではない
広告では、Amazonランキング1位、ベストセラー、楽天やAmazonの星評価、累計販売数などが大きく表示されている。
しかし、販売順位や購入者評価は、臨床的有効性を証明しない。
多く売れた商品が、歯周病治療として有効であるとは限らない。
購入者が「飲みやすい」「続けやすい」と評価することはあり得る。
しかし、それと、歯槽骨や臨床的アタッチメントが回復したかどうかは別である。
動揺歯の改善を主張するなら、必要なのは販売順位ではなく、標準化された検査で得られた臨床データである。



出典:指定医薬部外品「楽養生」インターネット広告。2026年8月閲覧。赤枠は筆者による。販売順位や販売数は、歯周組織への臨床的有効性を示す指標ではない。
小さな「個人の感想」では、広告全体の印象は消せない
広告内には、「個人の感想であり、効果効能を保証するものではない」という小さな注記が表示されている。
しかし、その前後では、
- グラグラした歯が止まった
- 固いものを食べられるようになった
- 理想の歯と歯肉を目指せる
- 入れ歯や抜歯を避けられる
と受け取れる構成が続く。
広告は、注記の一文だけで評価されるものではない。
大きな文字、写真、CG、体験談、大学名、歯科医師、医院名、ランキング、値引き表示を含む広告全体が、消費者にどのような印象を与えるかで考える必要がある。
大きな文字で効果を印象づけ、隅に小さく「個人の感想」と記載すれば、すべてが打ち消されるわけではない。
なぜ歯科医師の顔と医院名が掲載されているのか
広告には、歯科医師とされる人物の氏名・顔写真が掲載されている。
さらに、「歯科医院で取り扱い」「医師も注目」として、複数の医院名と、院内に商品を置いた写真が示されている。
ここは感情だけで決めつけてはならない。
現時点で、掲載された歯科医師や医院が、広告全文を確認し、すべての文言を了承したという証拠はない。
したがって、個々の歯科医師や医院を、直ちに広告の共犯者と断定することはできない。
しかし、説明は必要である。
ただ私見を述べるなら、このような広告に歯科医師が加担するとは到底思えない。

出典:指定医薬部外品「楽養生」インターネット広告。2026年8月閲覧。医院名・ロゴのぼかしおよび赤枠は筆者による。掲載医院が広告全文を確認・承認したかは確認できていない。



出典:指定医薬部外品「楽養生」インターネット広告。2026年8月閲覧。氏名・顔のぼかしおよび赤枠は筆者による。掲載人物が広告全文を監修・承認したかは確認できていない。
広告内容まで確認し、全面的に了承していた場合
仮に掲載された歯科医師や医院が、
- 歯科医師は利益のために抜歯を勧める
- アスコルビン酸で下がった歯肉が改善する
- ピリドキシン塩酸塩で動揺歯が固定される
- 歯科受診より商品を選ぶことが歯を残す方法である
と受け取られ得る広告全文を確認したうえで、氏名、顔写真、医院名、院内写真の使用を了承していたのであれば、歯科医師として重い説明責任を負う。
どの医学的根拠を確認したのか。
院内で患者へどのように説明して販売しているのか。
販売利益、監修料、広告出演料などの利益関係はあるのか。
歯周病治療の代替にはならないことを説明しているのか。
これらを明らかにすべきである。
商品を置くことだけ了承し、広告内容を知らなかった場合
医院に商品を置くことと、この広告全文を承認することは同じではない。
メーカーからサンプルを受け取り、一時的に受付へ置いただけかもしれない。
通常のビタミン含有保健剤として取り扱っただけで、動揺歯や歯肉退縮が改善すると説明していない可能性もある。
しかし、自院名や院内写真が、「歯科医師も認めたグラグラ歯改善法」の権威づけに使われていると知った後は別である。
広告主へ掲載削除と訂正を求め、自院の患者に対して、広告の医学的主張を監修・保証していないことを明確にするべきである。
完全な無断掲載だった場合
氏名、顔写真、医院名、院内写真が無断で使われていたのであれば、掲載された歯科医師と医院は被害者である。
その場合、広告側は、歯科医師や医院の信用を商品の販売装置として利用したことになる。
販売会社、広告制作会社、広告代理店、配信媒体に対し、画像と氏名の入手経路、使用許諾、掲載期間、配信規模、審査過程を確認し、削除と訂正を求めるべきである。
どの分岐であっても、曖昧なままでは済まない。
了承していたなら、了承した歯科医師の責任が問われる。
了承していなかったなら、医療者の信用を利用した広告側の責任が問われる。
問題を知った後も放置するなら、その時点から新たな説明責任が生じる。
歯科医師会は「行政の仕事だから」で終わってよいのか
歯科医師会は、厚生労働省や都道府県の薬務担当課のような行政上の監督官庁ではない。
広告の薬機法違反を認定する権限も、歯科医師免許を行政処分する権限もない。
したがって、「会員の名前が広告に出たから、直ちに歯科医師会にも法的な監督責任が生じる」と断定するのは正確ではない。
しかし、職能団体としての責任は別である。
会員歯科医師や会員医院の名称・写真が、歯科受診を遠ざけかねない広告に利用されているという具体的情報を得たなら、少なくとも次の対応を検討すべきではないか。
- 掲載許諾の有無を会員へ確認する
- 広告の医学的主張を監修したか調査する
- 無断掲載なら、会員を守るため広告主へ対応を求める
- 関与があったなら、利益関係と倫理上の問題を確認する
- 国民へ、動揺歯を自己判断せず歯科検査を受けるよう注意喚起する
これは行政上の監督責任ではなく、職能団体としての調査責任、自浄責任、会員指導責任、国民への情報提供責任の問題である。
会員が広告に加担しているのか。
それとも、会員の信用が無断利用されているのか。
そこを確認せず放置すれば、広告を見た国民には「歯科医師会も問題視していない」「歯科医師も認めている商品なのだ」という印象だけが残る。
値引きと限定表示が、医学的な疑問を考える時間を奪う
広告は、通常価格6,400円の商品が2,980円になると強調し、「本日先着200名」「1,000円OFFクーポン」などの限定表示を重ねている。
値引き販売や定期購入そのものが悪いわけではない。
問題は、歯を失う恐怖、歯科医療への不信、大学名、医学誌、歯科医師、医院名による権威づけを積み重ねた直後に、「今だけ」「先着」「割引」という時間的圧力を加えていることである。
動揺歯のある人が本当に必要としているのは、購入ボタンを急いで押すことではない。
なぜ歯が揺れているのかを検査し、保存可能性を評価することである。


出典:指定医薬部外品「楽養生」インターネット広告。2026年8月閲覧。赤枠は筆者による。
本当に歯が揺れている患者へ伝えたいこと
ここまで厳しい言葉で書いてきた。
しかし、最も伝えたい相手は、広告主でも、広告に登場する歯科医師でも、歯科医師会でもない。
実際に歯が揺れ、食事に困り、歯科医院へ行くことを怖がっている患者である。
歯が揺れているからといって、必ず抜歯になるわけではない。
炎症を抑え、プラークや歯石などの原因を除去し、咬合性外傷を軽減し、必要に応じて暫間固定を行うことで、動揺が小さくなる歯もある。
骨欠損の形態や残存支持組織によっては、歯周組織再生療法を検討できることもある。
一方で、残念ながら保存が難しい歯も存在する。
重度の歯周組織喪失、縦方向の歯根破折、感染制御が困難な状態などでは、抜歯を先延ばしにすることで、周囲組織や隣接歯に悪影響が及ぶ場合もある。
大切なのは、広告だけを見て、
歯医者へ行けば利益のために抜かれる
と決めつけないことである。
歯科医師の役割は、何でも抜くことでも、何でも残すことでもない。
検査を行い、保存可能性、治療負担、予後、費用、患者の希望を説明し、その人にとって妥当な選択肢を一緒に考えることである。
栄養補給を否定する必要はない。
しかし、それを歯周病の検査や原因除去治療の代わりにしてはいけない。

「楽養生」の広告主へ回答してほしいこと
広告主および広告制作関係者には、少なくとも次の点を明らかにしてほしい。
- 「下がった歯茎を改善」「グラグラした歯がピタッと」と受け取れる表現は、「楽養生」のどの承認効能に基づくのか。
- 「楽養生」そのものを用いて、歯周炎患者の動揺度、歯槽骨、臨床的アタッチメントレベル、歯肉退縮を評価した臨床試験は存在するのか。
- 「東大やハーバード大でも研究」という表示は、具体的にどの研究科、研究者、論文を指しているのか。
- 東京大学には歯学部が存在しないが、広告内の東京大学表示は何の研究を意味しているのか。
- 「医学誌掲載」とは、査読付き原著論文、総説、企業提供記事、広告のどれなのか。
- 掲載された歯科医師の氏名・顔写真、医院名、院内写真について、どの範囲の許諾を得ているのか。
- 掲載された歯科医師は広告全文を確認し、医学的表現まで監修・承認したのか。
- 歯科医院への販売手数料、監修料、広告出演料などの利益関係はあるのか。
- 「歯医者は利益のために抜歯する」と受け取れる文章を、誰が作成し、誰が最終承認したのか。
- 動揺や咀嚼困難がある人へ、歯科受診を勧める注意表示を、なぜ目立つ形で掲載していないのか。
広告が適正であり、十分な医学的根拠と掲載許諾があるというのであれば、これらには回答できるはずである。
広告に掲載された歯科医師と医院にも説明を求めたい
掲載された歯科医師と医院については、非難する前に事実を確認しなければならない。
広告への掲載を承認したのか。
「楽養生」を現在も院内で販売しているのか。
動揺歯や歯肉退縮の改善を患者へ説明しているのか。
広告全文を確認したのか。
氏名・写真の掲載料や、商品販売による利益を受けているのか。
広告内容を知らなかったのであれば、広告の存在を把握した後、広告主へどのような対応を求めたのか。
全面的に関与していた場合と、無断で利用されていた場合では、責任の所在は正反対になる。
だからこそ、沈黙ではなく説明が必要なのである。
歯科界が沈黙すれば「歯医者も認めた商品」という印象だけが残る
この広告に対して歯科界が黙っていれば、一般の人には何が残るだろうか。
歯科医院へ行けば、利益のために抜歯される。
歯が揺れるのは、加齢による歯肉のコラーゲン不足である。
指定医薬部外品を飲めば、弱った歯が強くなる。
東京大学やハーバード大学でも研究されている。
医学誌にも掲載されている。
歯科医師や歯科医院も、この方法を認めている。
そのような印象だけが残る。
一度失われた受診機会は戻らない。
治療可能だった歯が、受診を先延ばしにしている間に保存困難になるかもしれない。
炎症を繰り返し、周囲の歯周組織まで失うかもしれない。
咀嚼機能が低下し、栄養状態や生活の質に影響するかもしれない。
だから私は、この広告を単なる「胡散臭い通販広告」として片づけたくない。
商品名を明示し、広告の医学的主張を検証し、掲載された歯科医師と医院に説明を求め、歯科医師会にも職能団体としての対応を求めたい。
「楽養生」がビタミン含有保健剤として適切に利用されることと、
グラグラした歯が止まり、下がった歯肉が改善し、歯科医院へ行かなくても自分の歯を残せる
という印象を広告で作ることは、まったく別の問題である。
患者の不安を利用して歯科医療への不信を作り、その直後に大学名、医学誌、歯科医師の顔、医院名で商品を権威づけする。
そのような広告手法を、歯科界は放置してはならない。
広告内容を了承していたのなら、歯科医師はその責任を説明すべきである。
了承していなかったのなら、広告主による医療者の信用の利用を徹底して追及すべきである。
そして歯科医師会は、会員が広告に関与しているのか、それとも会員の信用が無断利用されているのかを調査し、国民へ正確な情報を伝えるべきである。
沈黙は中立ではない。
広告を見た患者には、歯科界の沈黙さえも、
「歯医者も認めている商品なのだ」
というメッセージとして届いてしまうからである。
参考文献・参照資料
- 厚生労働省.医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等について.
- 厚生労働省.新指定医薬部外品の製造販売承認基準の一部改正について.
- 特定非営利活動法人日本歯周病学会編.歯周治療のガイドライン2022.
- 東京大学.学部・研究科.
- 東京大学医学部附属病院.口腔顎顔面外科・矯正歯科.
- 指定医薬部外品「楽養生」インターネット広告.2026年8月閲覧。
