2026年9月19日

(院長の徒然コラム)

はじめに
親知らずを抜いた直後、口の中ではなく頬の外から10分間、光を当てる。
それだけで、抜歯2日後の痛みにかなり大きな差が出た――。
2026年9月16日、Lasers in Medical Scienceに、下顎の埋伏親知らずを抜歯した70人を対象とする無作為化比較試験が掲載されました。
抜歯直後に光生体調節(photobiomodulation:PBM)を1回行った群では、2日目の100mm疼痛VASが平均20.34mm。一方、PBMを行わなかった対照群は41.43mmでした。
差は21.09mmです。
PBM群の平均値は対照群のおよそ49%ですから、「群平均では約半分」という、かなり目を引く結果です。
ところが、この研究で私がより気になったのはその先でした。
顔の腫れには群間差がない。口の開きにも群間差がない。
さらに7日目になると、疼痛VASは対照群9.34mm、PBM群6.74mm。統計学的にはp=0.040と有意差が残ったものの、実際の差はわずか2.6mmで、著者自身が臨床的には無視できる程度としています。
「レーザーを当てたら全部よくなった」という研究ではないのです。
痛みには大きな差が出た。しかし、腫れも開口障害も変わらなかった。
では、この結果をどう読めばよいのでしょうか。
そして、痛みが少なかったことを、そのまま「傷の治りが速くなった」と言い換えてよいのでしょうか。
今回はこの70人の研究を中心に、昔「低出力レーザー治療」と呼ばれていた研究、偽照射を置いた比較試験、2025~2026年の新しい試験、さらに複数の研究をまとめたメタ解析まで遡って考えてみます。

まず、どんな70人を調べた研究だったのか
今回の研究には70人が参加し、PBM群35人、対照群35人に無作為に振り分けられました。
年齢は17~25歳、平均22.04歳。全員が全身状態良好なASA Iで、喫煙者は除外されています。
さらに「下顎の親知らずなら何でもよい」という研究でもありません。
対象となったのは、症状のない下顎埋伏智歯のうち、歯の傾きが近心傾斜で、Pell–Gregory分類ではClass IBという条件にそろえられた症例でした。
つまり、
「いろいろな難しい親知らずを抜いた70人」
ではありません。
若く、健康で、喫煙せず、親知らずの埋まり方まで比較的そろえた70人です。
深く骨の中へ埋まった症例、水平に倒れた症例、周囲に炎症を伴う症例、高齢者、喫煙者、基礎疾患のある患者さんなどに、この結果をそのまま当てはめることはできません。
実際の親知らず抜歯では、歯根の形、骨への埋まり方、下顎管との位置関係、服薬、全身状態などを個別に確認します。こうした抜歯前の確認については、以前の「抜歯前の確認日は何をしている?」でも詳しく取り上げています。
手術そのものも、一人の術者でかなりそろえている
手術は一人の口腔外科医が担当しています。
局所麻酔を行い、歯肉を切開して粘膜骨膜弁を開き、骨を削り、必要に応じて歯を分割して抜歯。鋭い骨縁を整え、抜歯窩を洗浄して縫合する、という一連の手順です。
手術時間も記録されており、平均は対照群24.8分、PBM群25.7分。群間に有意差はありませんでした。
つまり、「PBM群の方がたまたま簡単な抜歯だった」という影響をできるだけ小さくしようとしています。
研究デザインとして評価できる部分です。
実は全員、同じ鎮痛薬を定期的に飲んでいる
タイトルだけを見ると、
「レーザーだけで痛みが約半分になった」
ようにも見えます。
しかし、そうではありません。
この研究では両群とも、研究内で統一された同じ術後薬物管理を受けています。
鎮痛薬はデキスケトプロフェン25mgを1日2回。そのほか、アモキシシリン/クラブラン酸、ベンジダミンとクロルヘキシジンを含む含嗽剤も処方されています。
さらに、処方された鎮痛薬だけでは足りない場合には、アセトアミノフェン500mgを追加使用できる設計でした。
実際には、70人全員が追加のアセトアミノフェンを使用しませんでした。また、この7日間にドライソケットや術後感染も認められませんでした。
したがって、今回調べたのは、
「PBMだけで痛みを抑えられるか」
ではありません。
正確には、
「この研究で両群に統一された術後薬物管理に、PBMを1回追加すると違いが出るか」
です。
歯科の急性痛と鎮痛薬については、「歯科急性痛の経口鎮痛薬をどう選ぶか?」で詳しく解説しています。
“頬の外から10分レーザー”とは、実際には何をしたのか
ここで今回の処置を少し正確に見てみます。
最近の論文ではphotobiomodulation、略してPBMと呼ばれることが増えています。日本語では光生体調節などと訳されます。
一方、少し古い論文を読むと、Low-Level Laser TherapyやLow-Reactive Level Laser Therapy、つまりLLLTという言葉が頻繁に登場します。
この分野ではレーザーだけでなくLEDを光源にする研究も増えてきたため、現在はPBMという包括的な呼び方が広がっています。
今回使用された装置について原著は、650+904nmの二波長を用いるPBM装置で、レーザーシステムとLEDを組み合わせたものと記載しています。650nm側に7個、904nm側に8個の発光素子があるとされています。
したがって、この記事では患者さんに分かりやすいようタイトルに「レーザー」と書いていますが、実際には単純な「一本のレーザー光を患部へ当てた」という処置ではありません。

細いレーザーチップではない――照射面積は99cm²
今回のプローブはかなり大きなものです。
照射面積は99cm²、大きさは110×90mm。
これを抜歯した側の下顎角から下顎枝付近の皮膚へ密着させ、動かさず10分間照射しています。
総エネルギーは270J。
ただし、この「270J」だけを見て、
「270Jもの光を抜歯窩へ直接入れた」
と考えるのは間違いです。
99cm²という広い照射面全体へ10分間に放出された総エネルギーが270Jです。
単位面積当たりでは、照射強度4.54mW/cm²、エネルギー密度2.73J/cm²でした。
PBM研究を比較するときは、「何nmの光か」だけでは足りません。
照射面積、照射強度、エネルギー密度、照射時間、照射する場所、何回行ったかまで見なければいけません。
これは後ほど重要になってきます。
「最大50mmまで届く」は、この研究で患者さんを測った数字ではない
原著には、この装置について「最大50mmの組織深達性」と記載されています。
しかし、その直前にはメーカー仕様によればと明記されています。
この70人について、
「皮膚表面に2.73J/cm²を照射したとき、抜歯窩周囲へ実際に何J/cm²届いたか」
を測定したわけではありません。
光は組織の中へ入ると、吸収されたり散乱したりしながら減衰します。
ですから、
「904nmの光が5cm奥まで十分な治療量で届き、抜歯窩へ直接作用したことが証明された」
とは言えません。
今回分かっているのは、皮膚表面からこの条件で照射した、というところまでです。
結果の本丸――2日目の疼痛VASは41.43対20.34
痛みは100mmのVASで測定されました。
0mmが「痛みなし」、100mmが「想像できる最悪の痛み」です。
抜歯2日後は、対照群41.43±25.15mm、PBM群20.34±24.38mm。
差は21.09mmで、p<0.001でした。
PBM群の平均値は対照群のおよそ49%です。
ですから、
「2日目の群平均VASは約半分だった」
は数字として成立します。
しかし、
「PBMを受ければ、一人ひとりの痛みが半分になる」
とは言えません。
標準偏差が両群とも約24~25mmあります。
つまり、患者さんごとのばらつきはかなり大きかった。
この研究が示したのは、あくまで、
PBMを受けた35人全体の平均疼痛値が、対照群35人より約21mm低かった
ということです。
ところが、顔の腫れには群間差がなかった
2日目の顔面腫脹の計測値は、対照群304.49mm、PBM群301.34mm。
p=0.473です。
7日目も292.71mm対291.49mmで、p=0.897。
統計学的な群間差は認めませんでした。
両群とも術後2日目には腫れ、その後7日目に向かって改善しています。
しかし、PBM群だけ明らかに腫れなかった、という結果ではありません。
口の開きにも群間差はなかった
最大開口量は、術前が対照群43.87mm、PBM群46.00mm。
2日目には24.40mm対26.09mm。
7日目には34.89mm対35.17mmでした。
どの時点でも、群間に有意差はありません。
つまり両群とも、親知らず抜歯後には一時的にかなり口が開けにくくなり、その後回復しています。
PBMをした群だけ、開口障害が大きく軽減したわけではありませんでした。

「差がなかった」=「絶対に効かない」ではない
ここは研究を読むときに注意が必要です。
今回の主要評価項目は痛みでした。
必要な参加人数も、痛みの差を検出するために計算されています。
腫脹、最大開口量、生活への影響は副次評価項目です。
著者自身も、それぞれについて十分な検出力を保証するなら、本来は副次評価項目ごとに独立した人数設計が必要だと記載しています。
ですから、
「PBMには腫れを抑える作用がないことが証明された」
とまで言うのは強すぎます。
正確には、
この70人、この照射条件では、腫脹と最大開口量について明確な群間差を検出しなかった
です。
ただし実際の数値そのものも近く、痛みの21mm差のような大きな違いが見えているわけでもありません。
生活への影響は2日目に良かったが、7日目には差が消えた
生活への影響については、0~100mmの尺度を患者さん自身につけてもらっています。
2日目は、対照群50.51、PBM群69.83。
PBM群の方が良好で、p=0.002でした。
しかし7日目には87.89対92.34となり、群間差は有意ではありませんでした。
ここにも注意があります。
今回の評価は、食事、会話、日常活動、社会生活などを含めた状態を、患者さん自身が一本の100mm尺度で総合評価したものです。
多数の質問項目から生活への影響を細かく測る尺度とは異なります。
したがって、
「2日目の生活への影響を示す自己評価はPBM群で良かった」
とは言えますが、
「生活の質をあらゆる面で改善した」
まで広げるべきではありません。
最大の弱点――対照群に“偽照射”をしていない
ここから、この研究の解釈で最も重要な問題に入ります。
PBM群は、抜歯後に装置を頬へ当てられ、10分間の追加処置を受けました。
一方、対照群には追加処置がありません。
つまり、同じ装置を当てるけれど治療光だけ出さない「偽照射」を対照群へ行っていません。
研究では術後の測定を行う評価者については群を知らないようにしていましたが、患者さん本人は、自分が追加処置を受けたかどうか分かります。
今回、患者さん自身が評価する痛みと生活への影響には差が出ました。
一方、群を知らされていない評価者が測定した顔面腫脹と最大開口量には差が出ませんでした。
これは無視できない組み合わせです。
古くからLLLT研究では、無作為化、被験者・評価者の盲検化、偽照射、照射面積、照射強度、エネルギー密度、連続光かパルス光か、単回か複数回か、といった条件が研究結果へ影響すると指摘されています。

では、21mmの差は“全部プラセボ”なのか
それも言えません。
偽照射を置いた研究でも、術後痛が軽くなった報告が存在します。
2022年、Momeniらは両側に下顎埋伏智歯を持つ25人を対象に、一方へ940nmの低出力レーザーを口の外から照射し、反対側を偽照射とする比較試験を行いました。
レーザー側では痛みが低く、鎮痛薬使用量も少なくなりました。
腫脹については群間差なし。
開口量については2日目、7日目の個別比較ではレーザー側が大きい時点がありましたが、経時的な変化全体としての群間差は有意ではありませんでした。
つまり、
「患者さん自身が評価する痛みだけ良かったのだから、今回の結果は全部期待効果だ」
と切り捨てるのも適切ではありません。
PBMそのものに早期の鎮痛作用がある可能性は残っています。
今回の問題は、
その作用だけで21mmの差が生じたのか、処置を受けたという期待や安心感がどの程度加わったのかを、偽照射なしでは分けられない
ということです。
同じ650+904nm系なのに、2025年の偽照射試験では効かなかった
今回集めた資料の中で、特に重要だと思ったのがŞenとBalelの2025年試験です。
この研究も下顎埋伏智歯抜歯後に、904nmのGaAlAs赤外レーザーと650nm LEDを組み合わせたPBMを1回行っています。
装置もGRR Laser Medical製です。
しかし、こちらは対照群へ偽照射を行っています。
36人のうちPBM群21人、偽照射群15人。
痛み、最大開口量、腫脹、鎮痛薬使用量を追跡しましたが、主要な群間差は認めませんでした。
たとえば2日目の疼痛VASは、偽照射群4.21、PBM群4.48。
むしろこの時点では、PBM群の平均値の方がわずかに高いくらいです。
7日目も1.21対1.14とほぼ同じでした。
この研究だけ見れば、
「650+904nmを1回当てれば親知らず抜歯後痛が必ず減る」
とは到底言えません。
しかし、今回の2026年試験が間違っている、と結論するのも早すぎます。
症例条件、照射方法、プローブ、エネルギー量、照射時間などが異なるからです。
ここから得られる重要な教訓は、
650+904nmという波長名が同じでも、それだけで“同じPBM”とは言えない
ということです。

PBMは“レーザーだけの治療”でもない
ここも最近の研究を見ると面白いところです。
2026年のHageらの無作為化二重盲検試験では、42人を対象に660nmのLEDを使っています。
レーザーではありません。
それでも2日目と4日目には、LED群で痛みが少なく、鎮痛薬使用も少なく、口の開きも良好でした。
一方で、顔面腫脹と生活への影響には差がなく、7日目にはすべての評価項目で群間差が消えました。
今回の「早い時期の痛みには差があるが、何もかも改善するわけではない」という結果と、どこか似ています。
さらにAlbayrakらは2026年、両側に対称的な埋伏智歯を持つ72人を、低出力レーザー、LED、両者併用の3条件に分け、それぞれ片側をPBM、反対側を対照として比較しました。
618nm LEDでも、術後早期の疼痛低下が報告されています。
ですからPBMを、
「レーザーだから効く」
という一言で片づけるのも正確ではありません。
二波長なら一波長より強い、という証拠もまだない
今回の研究では650+904nmという二つの波長を組み合わせています。
すると、
「赤色光と近赤外光を両方使うから、一波長より強いのでは?」
と考えたくなります。
しかし、それもまだ確立していません。
Pereiraらの2025年試験では20人を登録し、最終的には18人・72本の第三大臼歯を解析して、808nm単独と660+808nmの二波長PBMを比較しました。
骨の治癒、軟組織の治癒、痛み、浮腫などを最長90日まで評価しましたが、二つの方法の間に有意差を認めた評価項目はありませんでした。
つまり、
「二波長だから単波長より優れている」
という単純な話にもなっていません。
何nmかだけではPBMを比較できない
この問題は最近始まったわけではありません。
2018年の日本レーザー歯学会誌のレビューでは、すでに下顎埋伏智歯抜歯後のLLLT研究がまとめられています。
808nm、810nm、830nm、980nm。
術直後1回だけの研究もあれば、1日後、2日後、3日後、7日後と繰り返す研究もあります。
口の中から当てる研究、口の外から当てる研究もあります。
そして結果は、痛みに差が出た研究もあれば出ない研究もあり、腫脹や開口障害についても結果はそろっていません。
少なくとも30年以上、この分野は
「光を当てれば効くか」
だけではなく、
「どの条件で当てたときに、どの症状へ効くのか」
を探し続けています。
「強く当てれば、もっと効く」でもない
PBMでは照射量と反応が単純な直線関係にならない可能性が知られています。
ある範囲では生体反応を促しても、条件を強くすれば同じ効果がそのまま増えていくとは限りません。
国内のLLLT総説でも、波長、照射面積、照射強度、エネルギー密度、連続光かパルス光か、単回か複数回かなど、多数の条件が結果へ影響すると整理されています。
今回の2.73J/cm²で良い疼痛結果が出たからといって、
「親知らずには2.73J/cm²が最適」
とは言えません。
実際、今回集めた細胞研究でも、照射条件を変えると細胞増殖が促進される条件と、逆に低下する条件の両方が報告されています。
PBMは「多ければ多いほど効く」という治療概念ではないのです。
650+904nmには基礎研究がある。しかし今回の機序を証明したわけではない
では、650+904nmという組み合わせに全く生物学的根拠がないのかというと、そうでもありません。
2019年の国内レビューには、904~910nmのパルス光と650nmの連続光を組み合わせ、培養したヒト歯肉上皮細胞へ照射した研究が掲載されています。
その研究では、細胞の増殖や遊走が促され、MAPK/ERKという細胞内シグナルの活性化も確認されています。
つまり、
650nm前後と904nm前後を組み合わせた光刺激が、生体細胞へ作用し得る
という基礎的な背景はあります。
ただし、培養皿の細胞へ直接光を当てる実験と、患者さんの頬の外から光を当てる臨床研究は同じではありません。
基礎研究の照射量も、今回の条件とは違います。
「ERKが活性化したから痛みが半分になった」とは言えない
PBMの鎮痛作用については、末梢神経活動への作用や、炎症に関係する物質の調節など複数の候補があります。
末梢神経に対する低出力レーザー研究をまとめたレビューでも、神経活動を抑える作用が鎮痛機序の一つになり得るとされています。
しかし今回の70人で測定したのは、痛み、生活への影響、顔の腫れ、最大開口量です。
ATPも、COX-2も、CGRPも、TRPV1も、神経伝導速度も測定していません。
したがって、
「650+904nmがこの分子を変化させたため、2日目の痛みが21mm下がった」
という因果関係は今回の研究からは証明できません。
機序について言えるのは、複数の生物学的候補が存在するところまでです。
「レーザーで治りが速くなった」は、この70人研究からは言えない
ここは今回、最も大切にしたい部分です。
今回の研究では、創傷治癒そのものを直接測っていません。
- 抜歯窩が何日で上皮に覆われたか
- 骨がどの程度形成されたか
- 血餅がどう維持されたか
- 組織学的に何日早く修復したか
こうした評価はしていません。
確かに、細胞実験や動物実験にはPBM後の細胞増殖や骨形成、創傷治癒の変化を報告したものがあります。
そして別のヒト研究には、抜歯窩の軟組織や骨の治癒そのものを評価したPBM研究もあります。
しかしそれらは、今回の70人から得られた結果ではありません。
今回測定した腫脹と開口量は、疼痛と同じ方向には動きませんでした。しかも上皮化や骨形成など、創傷治癒そのものは測定していません。
したがって、この結果を「治癒全体が促進した」と読むことはできません。
「痛みが少なかった」と「傷が早く治った」は、同じ評価ではないのです。
7日目はp=0.040。それでも著者が「臨床的には無視できる」とした理由
この研究は、統計の読み方を考える上でも分かりやすい例です。
7日目の疼痛VASは、対照群9.34mm、PBM群6.74mm。
p=0.040。
通常の「p<0.05」という基準だけを見れば、
「7日目にも統計学的な有意差があった」
と書けます。
しかし差はわずか2.6mmです。
100mmの痛み尺度で2.6mm。
著者自身も、これは臨床的には無視できる大きさとしています。
つまり、
統計学的に差があることと、患者さんにとって意味のある大きさであることは別です。
2日目の21.09mm差と、7日目の2.6mm差。
どちらもp<0.05ですが、臨床的な意味は同じではありません。

18本の“偽照射あり試験”だけ集めても、平均ではPBM側に有利だった
一本の研究だけでなく、複数の研究をまとめるとどうでしょうか。
2025年にJADAへ掲載されたメタ解析では、低出力レーザーと偽照射を比較したスプリットマウス型無作為化試験だけに対象を絞っています。
最終的に18研究が採用されました。
統合すると、48時間の疼痛と腫脹、7日目の開口障害についてPBM側に有利な結果が得られました。
それでも著者らの実臨床への結論は、使用を支持する証拠の確実性は低いというものでした。
なぜか。
研究ごとに、波長、照射する場所、出力、エネルギー密度、照射回数などが違い、結果のばらつきも大きいからです。
2024年の別の22研究・989人のメタ解析でも、48時間の疼痛と腫脹ではPBM側に有利な結果が出ていますが、疼痛の研究間異質性はI²約92%でした。
平均すると効いて見えるが、個々の研究結果はかなりそろっていない。
これが今のPBM研究をよく表しています。

2026年には、5施設79人の三重盲検試験でも差が出なかった
そして、比較的新しい陰性研究もあります。
BIOSTOTT試験は、イタリア5施設、79人を対象にした無作為化三重盲検試験です。
445、660、970nmの複数波長を使い、術直後だけでなく、その後2日間にも照射しています。
つまり今回のAnaçらの「口外から10分、1回だけ」とはかなり違う方法です。
それでも、疼痛、腫脹、開口障害、生活への影響、鎮痛薬使用について明確な群間差は示されませんでした。
この結果を見ると、
「1回では足りない。なら何回も当てれば必ず効く」
という説明も成立しません。
単回か複数回かだけで結果が決まるわけではないことが分かります。
この研究を“難しい親知らず全部”へ広げない
最後に、もう一度今回の対象へ戻ります。
- 17~25歳
- ASA I
- 非喫煙
- 症状のない親知らず
- 近心傾斜
- Pell–Gregory Class IB
かなり条件をそろえています。
現実には、親知らずの難易度はさまざまです。
水平に倒れたもの、深く埋まったもの、根の形が複雑なもの、下顎管に近接するものなどがあります。
こうした場合にはCTで三次元的な位置関係を確認することもあります。「歯科用CTと普通のレントゲンは何が違う?」でも、この違いを詳しく取り上げています。
今回の研究から、
「親知らずを抜く人なら誰でも、PBMで同じくらい痛みが減る」
とは言えません。
もう一つの方法論上の注意――試験登録は研究終了後だった
今回の研究は前向きの無作為化比較試験として行われ、倫理審査は研究開始前の2025年1月30日に承認されています。
一方、公的試験登録ClinicalTrials.govのNCT07522918では、研究開始が2025年2月15日、研究完了が2026年1月20日、初回登録提出が2026年4月3日となっています。
論文の投稿受付日は2026年4月1日でした。
つまり時系列は、
研究完了 → 論文投稿 → 公的試験登録提出
です。
これは「研究自体が後ろ向きだった」という意味ではありません。
倫理審査も研究開始前ですし、論文は前向き試験として実施されています。
現在の登録内容と論文の評価項目にも整合性があります。
ただし、前向き登録された試験のように、
「主要評価項目や解析計画が、結果を見る前から公的登録簿上で固定されていた」
ことを登録履歴から確認することはできません。
逆に、
「結果を見て評価項目を都合よく変更した」
と断定する証拠もありません。
この二つは分けて考える必要があります。
抜歯数日後の強い痛みは、今回のPBM研究とは別に考える必要がある
今回の研究は、通常の術後疼痛を比較した試験です。
70人にはドライソケットも術後感染も認められていません。
したがって、
「PBMをすればドライソケットを防げる」
という研究ではありません。
親知らず抜歯後、一度落ち着いた痛みが数日して強くなる場合には、別の原因を考える必要があります。
こうした抜歯後疼痛については、「ドライソケットの治療は何をする?」も参考にしてください。
では、今回の70人から何が言えるのか
今回の研究で比較的しっかり言えるのは、
17~25歳の健康な患者さんで、条件をそろえた下顎埋伏智歯を抜歯し、この研究で統一された術後薬物管理に加えて650+904nmのPBMを頬の外から10分間、抜歯直後に1回行ったところ、2日目の平均疼痛VASが対照群より約21mm低かった
ということです。
一方、腫脹と最大開口量には明確な群間差を認めませんでした。
7日目には疼痛差も2.6mmまで縮小しました。
ここまでは今回のデータです。
その先の、
- 治りが速くなる
- 誰にでも効く
- 腫れを防ぐ
- 鎮痛薬が不要になる
- 親知らず抜歯後には全員行った方がよい
までは、この研究は示していません。
院長として、この研究で一番面白かったところ
今回かなり多くのPBM・LLLT研究を読みましたが、結局一番面白いのは、最初に戻って「痛みだけが大きく違った」ことだと思います。
今回の70人では、痛みには大きな差が出た。
生活への影響の自己評価にも2日目は差が出た。
しかし、腫れには差がない。
口の開きにも差がない。
7日目には痛みの差もほぼ消えた。
今回測定した腫脹と開口量は、疼痛と同じ方向には動きませんでした。しかも上皮化や骨形成など、創傷治癒そのものは測定していません。
ですから、この結果を「治癒全体が促進した」と読むことはできません。
一方、PBMには早期鎮痛作用が本当に存在する可能性があります。
偽照射ありの研究でも疼痛低下が出ているからです。
さらにレーザーではなくLEDだけでも、早期疼痛低下を示した試験があります。
しかし、同じ650+904nm系でも偽照射試験では陰性だった。
二波長が一波長より優れるとも限らない。
複数回照射しても陰性の高品質試験がある。
メタ解析では平均としてPBMに有利な信号があるのに、証拠の確実性はまだ低い。
ここまで並べると、現在地はかなりはっきりします。
「PBMは効く」「PBMは効かない」という二択ではありません。
問うべきなのは、
どの患者に、どの波長を、どの強さで、どこから、何回照射すると、どの症状がどの程度変わるのか。
そこがまだ十分に決まっていないのです。
そして今回の70人RCTから最も大切にしたいのは、最後のこの一点です。
「痛みが少なかった」と「傷の治りが速かった」は、似ているようで別の結論です。
今回の研究が示したのは、後者ではなく、まず前者についての興味深いシグナルでした。
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