2026年8月06日

(院長の徒然コラム)

はじめに
歯科診療において、経口鎮痛薬ほど頻繁に処方されながら、その選択根拠が言語化されにくい薬剤も少ないのではないでしょうか。
抜歯後にはロキソプロフェン、歯髄炎にもロキソプロフェン、根管治療後にもロキソプロフェン。効かなければアセトアミノフェンを追加する。あるいは、より「強い」と考えられているジクロフェナクへ変更する。
こうした処方には、長年の臨床経験に裏づけられた実用性があります。しかし、同じ「歯が痛い」という訴えの中には、不可逆性歯髄炎、症候性根尖性歯周炎、根管治療後痛、抜歯後痛、ドライソケット、智歯周囲炎、歯周膿瘍、咬合性外傷、歯根破折、さらには非歯原性疼痛まで、異なる病態が含まれています。
病態が違えば、炎症性成分の強さ、痛みの時間経過、必要な原因治療、鎮痛薬に期待できる効果も異なります。同じ薬剤であっても、1回量、投与間隔、投与時期、単回投与か反復投与か、単剤か併用かによって結果は変わります。
本稿では、局所麻酔薬、笑気吸入鎮静法、静脈内鎮静薬、全身麻酔薬、慢性口腔顔面痛に対する鎮痛補助薬を主題としません。対象を、成人の外来歯科診療における急性歯痛および歯科処置後痛に使用する経口鎮痛薬へ限定します。
ADAの急性歯痛ガイドラインは12歳以上の青少年、成人、高齢者を対象としていますが、本稿で詳しく扱う国内用量は原則として成人用です。18歳未満では、年齢、体重、製品ごとの電子添文、小児歯科領域の指針に基づく個別判断が必要です。乳幼児・小児の体重換算投与、入院下の術後鎮痛、慢性口腔顔面痛は別の検討対象とします。ADAは、抜歯後痛および確定的歯科治療を直ちに行えない歯痛に対し、NSAIDs単独またはアセトアミノフェンとの併用を第一選択としています。
本稿の中心となる問いは、次のとおりです。
歯科医師は、どの歯科急性痛に、どの経口鎮痛薬を、何mg、いつ、単剤または併用で使用し、どの患者では避けるべきなのでしょうか。
日本の歯科臨床には、海外研究の中心であるイブプロフェンよりも、ロキソプロフェンを中心に運用されてきたという特徴があります。
海外の歯科急性痛エビデンスはイブプロフェンを中心に構築されていますが、日本の歯科診療はロキソプロフェンを中心に運用されています。
したがって、海外ガイドラインの結論をそのまま翻訳するだけでは、日本の歯科臨床に必要な処方設計にはなりません。

経口鎮痛薬は原因治療ではありません
鎮痛薬を選ぶ前に、何の痛みを治療しているのかを確定しなければなりません。
経口鎮痛薬は、炎症歯髄を除去しません。感染根管を清掃しません。膿瘍を排膿しません。高い仮封や補綴物の咬合を調整しません。ドライソケットの抜歯窩を処置しません。歯根破折を修復することもできません。
ロキソプロフェンとアセトアミノフェンの電子添文には、いずれも消炎鎮痛薬による治療は原因療法ではなく対症療法であり、原因療法があればこれを行うことが明記されています。ロキソプロフェンでは、急性疾患に使用する場合、疼痛や炎症の程度を考慮し、原因療法を行い、漫然と投与しないことも求められています。
歯科急性痛では、この原則が特に重要です。
不可逆性歯髄炎の激痛は、単に鎮痛薬が不足しているから持続しているのではありません。炎症を生じた歯髄組織が硬組織に囲まれた髄腔内に残存しているために続きます。
症候性根尖性歯周炎では、根管内感染、根尖孔外への機械的・化学的刺激、咬合性外傷、根管処置、仮封の状態を評価する必要があります。
歯周膿瘍や急性根尖性膿瘍では、感染源の除去、排膿、洗浄が疼痛管理の中心になります。ドライソケットでは、鎮痛薬の増量よりも抜歯窩の診査と局所処置が優先されます。
したがって、「鎮痛薬が効かない」には、少なくとも二つの意味があります。
一つは、選択した薬剤、1回量、投与時期が病態に対して不十分だったという意味です。
もう一つは、薬剤だけで抑えるべきではない原因が残っているという意味です。
後者を前者と誤認すると、NSAIDsの増量、異なるNSAIDsの重複、アセトアミノフェンの過量、不要な抗菌薬投与へ進みやすくなります。
「歯科急性痛」を一つの病態として扱ってはいけません
抜歯後痛
抜歯後痛は、歯肉や骨膜の切開、歯槽骨の削除、歯牙分割、抜歯窩周囲組織の損傷に伴って生じる急性炎症性疼痛です。
特に下顎埋伏第三大臼歯抜歯は、経口鎮痛薬の比較試験で頻繁に用いられてきました。処置時刻を揃えやすく、一定の侵襲を加えられ、局所麻酔の消退後に中等度から重度の痛みが生じやすいため、薬剤間の差を検出する研究モデルとして優れています。
一方、このモデルの参加者は若く健康であることが多く、原因歯はすでに除去されています。未処置の歯髄炎や膿瘍が残っているわけではありません。
第三大臼歯抜歯後痛は、薬効を評価するうえで非常に有用ですが、すべての歯科急性痛を代表するモデルではありません。抜歯後痛に関するネットワークメタ解析には82件のRCTが含まれ、NSAIDs単独またはアセトアミノフェンとの併用が良好な結果を示しましたが、これは成人抜歯後痛の研究群から得られた結論です。
不可逆性歯髄炎
不可逆性歯髄炎では、歯髄組織の炎症、血管透過性亢進、侵害受容器の感作、髄腔内の圧変化などが関与します。
自発痛、持続する温度刺激痛、放散痛、夜間痛を呈することがあり、抜歯後痛とは病態が異なります。確定的治療は歯髄除去を含む歯内療法、または抜歯です。
鎮痛薬は確定的治療までの橋渡しとして重要ですが、炎症歯髄を残したまま薬剤のみで管理することには限界があります。
症候性根尖性歯周炎と根管治療後痛
根管治療後痛には、術前痛の程度、歯髄・根尖部診断、根管形成、根尖孔外へのデブリ押し出し、洗浄液、貼薬、仮封、咬合、術者差などが関与します。
そのため、抜歯後痛の研究で上位となった薬剤が、根管治療後痛でも同じ順位になるとは限りません。根管治療後痛のシステマティックレビューでは、NSAIDsが最も多く検討され、イブプロフェンが最も頻繁に研究されていましたが、研究数と方法の違いから、統一された投薬プロトコルを確立するには限界があるとされています。
智歯周囲炎
智歯周囲炎では、炎症、局所の細菌負荷、食片の停滞、対合歯による外傷、開口障害などが複合します。
抗菌薬を併用した研究では、疼痛改善が鎮痛薬によるものか、感染・炎症の自然経過や抗菌薬によるものかを分離しにくくなります。
したがって、智歯周囲炎の薬効試験を、純粋な鎮痛薬間比較として読むことはできません。
歯周膿瘍、咬合性外傷、歯根破折
歯周膿瘍では排膿と感染源への対応、咬合性外傷では咬合調整、歯根破折では保存可能性の評価が必要です。
鎮痛薬を変更して一時的に痛みが減っても、原因診断が正しいとは限りません。
歯科鎮痛薬の臨床試験をどう読むか
薬剤名と平均疼痛スコアだけを見ていると、臨床試験を誤読しやすくなります。
VASやNRSは、患者が感じる痛みの強さを連続値または段階値で評価します。
PIDは投与前と投与後の疼痛強度差、SPIDはPIDを時間で積算した値、TOTPARは疼痛軽減度を時間で積算した値です。
レスキュー薬使用率は、試験薬だけでは疼痛を管理できなかった患者の割合を反映します。
NNTは、対照群と比較して一人多く望ましい効果を得るために、何人を治療する必要があるかを示します。数値が小さいほど効果量は大きくなります。
しかし、NNTも薬剤の絶対的な強さランキングではありません。研究対象、疼痛モデル、用量、評価時間、主要評価項目、レスキュー薬の扱いが異なれば、異なる研究のNNTを単純に並べることはできません。
日本の古い臨床試験では、「著効」「有効」「やや有効」「無効」といった医師総合判定が用いられてきました。
国内試験の「有効率88%」と、海外試験の「6時間SPID」や「50%以上の疼痛軽減率」は、同じ物差しではありません。
本稿で薬剤を単純な強さ順に並べないのは、このためです。

なぜNSAIDsが歯科急性痛の第一選択になりやすいのでしょうか
組織損傷や炎症が生じると、アラキドン酸カスケードを介してプロスタグランジンが産生されます。
プロスタグランジンは侵害受容器を感作し、機械刺激や炎症刺激に対する疼痛反応を増幅します。
NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ活性を阻害し、プロスタグランジン産生を低下させます。このため、炎症性成分が強い抜歯後痛や歯科小手術後痛に、理論的・臨床的な適合性があります。
ADAのガイドラインは、イブプロフェンやナプロキセンなどのNSAIDsを、単剤またはアセトアミノフェンとの併用で第一選択としています。オピオイドは、第一選択が不十分、またはNSAIDsが禁忌となる限定的な状況に留保されています。
ただし、「NSAIDsが第一選択」と「どのNSAIDでも同等」は同義ではありません。
薬剤ごとに、承認用量、吸収速度、半減期、COX-1・COX-2への作用、消化管・腎・心血管リスクが異なります。
歯科急性痛に関する臨床試験数にも、大きな差があります。
イブプロフェンはなぜ海外エビデンスの中心なのでしょうか
イブプロフェンは、第三大臼歯抜歯後痛に関する臨床試験が豊富であり、海外の歯科急性痛ガイドラインの中心的NSAIDとなっています。
2013年のCochraneレビューでは、7件の二重盲検RCT、計2,241例が解析されました。イブプロフェン400mgは、アセトアミノフェン1000mgより、投与6時間以内に50%以上の疼痛軽減を得た患者が多く、レスキュー薬を使用せずに済んだ患者も多いという結果でした。すべて第三大臼歯抜歯後の単回投与試験であり、若く健康な被験者が中心でした。
この結果は、
第三大臼歯抜歯後痛において、イブプロフェン400mgはアセトアミノフェン1000mgより効果的である可能性が高い
ことを示しています。
一方、
あらゆる歯科急性痛で、イブプロフェンがアセトアミノフェンより必ず優れる
ことを証明するものではありません。
また、日本の医療用イブプロフェン電子添文では、手術・外傷後の消炎鎮痛について、通常成人は1日600mgを3回に分ける、または製品によっては急性疾患に1回200mgを頓用すると記載されています。ロキソプロフェンのように「歯痛」「抜歯後痛」が個別に明示された歯科適応ではありません。海外歯科試験の1回400mgを、国内の歯科処方へ機械的に移すことはできません。
海外の薬効エビデンスと、日本の承認適応・用量は別々に確認する必要があります。
これは、本稿全体に共通する原則です。
なぜ日本の歯科ではロキソプロフェン60mgが定番になったのでしょうか
ロキソプロフェンが日本の歯科で広く使用されてきた背景には、国内で行われた承認時試験と長年の臨床使用経験があります。
抜歯後疼痛を対象とした国内多施設二重盲検試験では、ロキソプロフェン60mg、120mg、メフェナム酸500mgが比較されました。
「有効」以上の割合は、ロキソプロフェン60mg群88.2%、120mg群91.4%、メフェナム酸群79.4%でした。120mg群はメフェナム酸群より良好でした。
この試験は、
なぜ日本の歯科でロキソプロフェン60mgが標準的な鎮痛薬として定着したのか
を理解する重要資料です。
しかし、
ロキソプロフェン60mgが、現代のすべての歯科急性痛試験で最も優れている
ことを示す資料ではありません。
2013年の国内5大学共同研究では、歯髄由来痛、歯周・根尖部由来痛、抜髄後痛、感染根管治療後痛、膿瘍切開後痛、抜歯後痛を有する116例に、ロキソプロフェン60mg、メフェナム酸500mg、アセトアミノフェン400mgのいずれかが投与されました。
3剤ともVASを低下させ、薬剤間に有意差は認められませんでした。ただし、薬剤は無作為に割り付けられたのではなく担当医が選択しており、多くの患者で服薬前に歯科処置が行われ、抗菌薬などの併用もありました。したがって、「有意差がなかったので3剤が同等」と結論することはできません。
ロキソプロフェンの用法は製品ごとに確認する必要があります
ここは、日本の歯科処方において重要な注意点です。
先発品のロキソニン錠60mgでは、歯痛に対して通常1回60mg、1日3回、頓用時は1回60~120mgとされています。
一方、手術後・外傷後・抜歯後の鎮痛・消炎については、1回60mgを頓用し、原則1日2回まで、1日最大180mgとされています。
これに対し、2025年12月作成のロキソプロフェン錠60mg「EMEC」では、歯痛と手術後・外傷後・抜歯後が同じ用法欄にまとめられ、通常1回60mg、1日3回、頓用時1回60~120mgと記載されています。
つまり、同じロキソプロフェン60mgでも、現行電子添文の用法表記が製品間で完全には一致していません。
したがって、「ロキソプロフェンの一般的な用法」と一括せず、実際に処方する銘柄の最新電子添文を確認する必要があります。
この製品差そのものが、薬剤名だけで処方を決めてはいけないことを示しています。
また、いずれの電子添文でも、他の消炎鎮痛薬との併用は避けることが望ましいとされています。ロキソプロフェンが効かない患者が、市販のイブプロフェン、ナプロキセン、アスピリン、ジクロフェナクなどを自己追加することは避けなければなりません。
「プロドラッグだから胃に安全」は正確ではありません
ロキソプロフェンは、吸収後に活性代謝物へ変換されるプロドラッグとして開発されました。
胃内での直接刺激が少なくなる可能性はありますが、NSAIDsによる消化管障害は、錠剤が胃へ直接接触することだけで生じるわけではありません。
吸収後の全身性COX阻害によって、胃粘膜防御に関与するプロスタグランジン産生が低下する経路もあります。
ロキソプロフェンの電子添文でも、活動性消化性潰瘍は禁忌であり、潰瘍既往患者には再発への注意が求められています。
したがって、
ロキソプロフェンはプロドラッグなので、消化性潰瘍や抗血栓薬服用患者にも安全です
とはいえません。
ジクロフェナク、ナプロキセン、セレコキシブをどう位置づけるか
ジクロフェナク
ジクロフェナクは、しばしば「ロキソプロフェンより強い鎮痛薬」と表現されます。
しかし、ロキソプロフェン60mgとジクロフェナクカリウム50mgを比較した抜歯後痛RCTでは、多くの評価時点で両群間に有意差が認められず、差が認められたのは一部の時点に限られました。
さらに、この試験では単純抜歯が多数を占めていました。
したがって、ジクロフェナクを普遍的に「一段強い薬」と位置づけることはできません。
消化管、腎、心血管系、妊娠、抗血栓薬との相互作用を含め、患者背景に応じて選択する必要があります。
ナプロキセン
ナプロキセンは比較的作用持続時間が長いNSAIDであり、海外ガイドラインではイブプロフェンとともに第一選択候補として扱われています。
作用持続が長いことは服用回数を減らす利点となりえますが、有害作用が生じた際にも薬理作用が長く続く可能性があります。
日本の歯科診療における承認用量・適応、国内使用経験は、ロキソプロフェンとは異なります。
セレコキシブ
セレコキシブはCOX-2選択的阻害薬であり、日本では抜歯後痛にも適応を有します。
手術後・外傷後・抜歯後の消炎・鎮痛では、通常、初回400mg、2回目以降は1回200mgを1日2回使用し、投与間隔を6時間以上あけます。
頓用では、初回400mg、必要に応じて以降200mgを6時間以上あけて使用し、1日2回までとします。通常投与と頓用の記載を混同してはいけません。
COX-2選択性は、非選択的NSAIDsと比較した上部消化管障害リスクを考えるうえで意味をもちます。
しかし、腎血流低下、体液貯留、血圧上昇、心不全、心血管系血栓塞栓性事象といったリスクが消失するわけではありません。セレコキシブの電子添文にも、心血管系血栓塞栓性事象への注意が記載されています。
「胃に優しいから全身的にも安全」と単純化してはいけません。

アセトアミノフェンは「弱いが安全な薬」なのでしょうか
抗炎症作用が弱いことと、鎮痛作用がないことは同じではありません
アセトアミノフェンは、NSAIDsほど末梢炎症を強く抑制しません。
このため、炎症性疼痛に対して「弱い薬」と一括されやすくなります。
しかし、鎮痛作用は抗炎症作用だけで決まるものではありません。
アセトアミノフェンの作用機序は完全には解明されていませんが、中枢神経系における作用を中心に複数の経路が関与すると考えられています。
さらに、NSAIDsとは主要な作用点が異なるため、両者を併用した場合に鎮痛作用が加算される可能性があります。
少量投与で「効かない」と判断していないでしょうか
日本では長年、アセトアミノフェンの承認用量が海外より少なかった時期がありました。
この歴史が、「アセトアミノフェンは歯痛には効きにくい」という印象を形成した可能性があります。
国内5大学研究で使用されたアセトアミノフェンは400mgでした。一方、海外の歯科急性痛試験では、1回500~1000mgが用いられることが多くあります。
国内の下顎埋伏智歯抜歯40例を対象とした小規模試験では、アセトアミノフェン500mgと1000mgが比較され、1000mg群で鎮痛持続時間が長いことが示唆されました。
ただし、各群10例で、観察時間も短く、静脈内鎮静法や静注NSAIDとの比較を含む試験です。
この結果から、
アセトアミノフェン1000mgは、すべてのNSAIDsと同等です
とはいえません。
一方、
アセトアミノフェン400mgで不十分だったので、アセトアミノフェンという薬剤は歯痛に効きません
ともいえません。
アセトアミノフェンの評価では、少なくとも次を確認する必要があります。
- 1回量
- 投与間隔
- 患者の体重
- 疼痛強度
- 炎症性成分
- 投与時期
- 単剤かNSAIDsとの併用か
- 肝機能、飲酒、栄養状態
- 他のアセトアミノフェン含有薬
国内の歯科承認根拠は大きくありません
アセトアミノフェンの国内電子添文に記載された歯科領域の臨床試験は、歯痛7例、抜歯後疼痛25例の計32例と小規模です。
アセトアミノフェン400mgを頓用し、「有効」以上と判定された割合は、歯痛で71.4%、抜歯後疼痛で56.0%でした。
これは、国内で歯痛に使用されてきた根拠の一つですが、
国内承認されていることと、国内の大規模RCTで歯科急性痛への有効性が確立していること
は同義ではありません。
1日4000mgは目標量ではなく上限です
成人の各種疼痛に対する現行電子添文では、アセトアミノフェンは通常1回300~1000mg、投与間隔4~6時間以上、1日総量4000mgを限度としています。
しかし、4000mgはすべての患者へ積極的に投与する目標量ではありません。
アセトアミノフェンは、過量投与によって重篤な肝障害を起こしえます。
特に注意が必要なのは、次の患者です。
- 肝疾患がある
- 多量飲酒がある
- 絶食または低栄養である
- 摂食障害がある
- 低体重である
- 高齢である
- 脱水している
- アセトアミノフェン含有OTC薬を使用している
- 総合感冒薬や配合鎮痛薬を使用している
アセトアミノフェンの電子添文は、一般用医薬品を含む他のアセトアミノフェン含有薬との併用を避けるよう明記しています。
処方箋上のカロナール量だけを計算しても、患者の総摂取量を把握したことにはなりません。
イブプロフェン+アセトアミノフェン併用には何が証明されているのでしょうか
NSAIDsとアセトアミノフェンの併用療法は、単に鎮痛薬を二種類重ねる治療ではありません。
末梢の炎症性疼痛に作用するNSAIDsと、異なる経路で鎮痛作用を示すアセトアミノフェンを組み合わせ、単剤の過度な増量を避けながら鎮痛効果を高める考え方です。
第三大臼歯抜歯後痛では、イブプロフェン+アセトアミノフェン併用を評価した複数のRCTがあります。
Mehlischらの234例のRCTでは、イブプロフェン400mg+アセトアミノフェン1000mgが、イブプロフェン400mg単剤、アセトアミノフェン1000mg単剤、低用量併用群より良好な鎮痛効果を示しました。イブプロフェン200mg+アセトアミノフェン500mgは、アセトアミノフェン単剤より良好でしたが、イブプロフェン400mg単剤との差は明確ではありませんでした。
つまり重要なのは、
併用したかどうかではなく、それぞれを何mg使用したのか
です。
抜歯後痛のネットワークメタ解析でも、イブプロフェン200~400mg+アセトアミノフェン500~1000mg、イブプロフェン400mg、ナプロキセン400~440mgなどが良好な結果を示しました。オピオイド単剤や一部のオピオイド配合は、プラセボより明確に優れないものもありました。
2025年に公表された1,815例の多施設二重盲検RCTでは、イブプロフェン400mg+アセトアミノフェン500mgと、ヒドロコドン5mg+アセトアミノフェン300mgが、埋伏第三大臼歯抜歯後痛で比較されました。
非オピオイド併用群は、術後最初の2日間の疼痛と患者満足度で良好であり、オピオイド配合群が非オピオイド群を上回る時点はありませんでした。
この研究は、
重度の歯科術後痛には必ずオピオイドが必要です
という考えを支持しません。
ただし、米国におけるオピオイド処方環境、若年健常者中心の第三大臼歯抜歯モデルである点には注意が必要です。
根管治療後痛でも併用は検討されています
Elzakiらは、症候性不可逆性歯髄炎に対する初回根管治療後痛170例で、アセトアミノフェン単剤、イブプロフェン+アセトアミノフェン、メフェナム酸+アセトアミノフェン、ジクロフェナク+アセトアミノフェン、プラセボを比較しました。
疼痛低下はイブプロフェン+アセトアミノフェン群で最も大きく、次いでジクロフェナク+アセトアミノフェン群でした。アセトアミノフェン単剤とプラセボの差は明確ではありませんでした。
ただし、これは単回投与、8時間観察の単施設試験です。使用されたイブプロフェン600mgは、日本の医療用イブプロフェンの通常1回量ではありません。
この用量を国内処方例として転載すべきではありません。
ロキソプロフェン+アセトアミノフェンをどう位置づけるか
これは、日本の歯科医師にとって最も実務的であり、同時に最も慎重な表現が必要な論点です。
NSAID+アセトアミノフェンとしての合理性はあります
ロキソプロフェンはNSAIDであり、アセトアミノフェンとは主要な作用点が異なります。
したがって、ロキソプロフェン単剤では不十分な炎症性歯科急性痛に、アセトアミノフェンを加えることには、NSAID+アセトアミノフェン併用としての薬理学的合理性があります。
日本では実務的な提案がなされてきました
2014年に日本歯科薬物療法学会誌へ掲載された須田英明先生の総説では、当時の表現で「急性化膿性歯髄炎」による著しい歯痛に対し、酸性NSAIDsとアセトアミノフェンの併用が提案されています。
具体例として、ロキソプロフェン60mgを1日3回使用する処方に、アセトアミノフェン900mgを疼痛時頓用として加え、頓用は1日3回まで、投与間隔4~6時間以上とする例が示されています。
これは、日本の歯科実務でロキソプロフェン+アセトアミノフェン併用が提案されてきたことを示す重要資料です。
しかし、これは2014年の専門家総説に掲載された処方例であり、無作為化比較試験でも、GRADEによって作成された正式な急性歯痛診療ガイドラインでもありません。
ロキソプロフェン固有の直接RCTは不足しています
2026年8月までに確認できた範囲では、歯科急性痛において、
- ロキソプロフェン単剤
- アセトアミノフェン単剤
- ロキソプロフェン+アセトアミノフェン併用
を十分な規模で無作為化比較した、質の高い直接RCTは確認できませんでした。
したがって、次のように整理するのが妥当です。
ロキソプロフェン+アセトアミノフェンは、NSAID+アセトアミノフェン併用として薬理学的に合理的であり、日本の歯科実務でも提案されてきました。一方、イブプロフェン+アセトアミノフェンと同じ水準の直接エビデンスが、ロキソプロフェン固有の組み合わせに存在するわけではありません。
これは併用を否定する結論ではありません。
同時に、
海外でイブプロフェン+アセトアミノフェンが有効だったため、ロキソプロフェン+アセトアミノフェンでも同じ効果量が保証されます
という意味でもありません。
併用するなら二剤を別々に評価します
ロキソプロフェン+アセトアミノフェンを、一つの「セット処方」として考えてはいけません。
ロキソプロフェンについては、次を確認します。
- 消化性潰瘍、消化管出血
- CKD、急性腎障害
- 脱水
- 心不全
- 高血圧
- 利尿薬、ACE阻害薬、ARB、ARNI
- 抗血栓薬
- 妊娠
- NSAIDs過敏症
- 他のNSAIDsの使用
アセトアミノフェンについては、次を確認します。
- 肝疾患
- 多量飲酒
- 低栄養
- 絶食
- 低体重
- 1回量
- 24時間総量
- 市販薬、感冒薬との重複
- NSAIDs過敏性喘息患者での耐容歴
併用によって、それぞれの禁忌や注意事項が相殺されるわけではありません。

同時併用と交互服用を混同してはいけません
併用療法のRCTで主に評価されているのは、二剤の同時投与または固定用量配合です。
一方、患者が自己判断で服用時刻をずらす交互服用では、各成分の総量と投与間隔を把握しにくくなります。
たとえば、
- 8時にロキソプロフェン
- 10時に市販のアセトアミノフェン配合薬
- 12時に市販のイブプロフェン
- 14時にカロナール
- 16時に再びロキソプロフェン
という服用が行われれば、アセトアミノフェンの重複だけでなく、ロキソプロフェンとイブプロフェンという異なるNSAIDsの重複も生じます。
交互投与が常に不適切という意味ではありません。
しかし、同時併用の研究結果を、複雑な自己判断による交互服用へそのまま移すことはできません。
交互投与を行う場合には、薬剤名、1回量、服用可能時刻、24時間上限を文書で示す必要があります。
何を使うかだけでなく、いつ使うか
「局所麻酔が切れる前に飲む」と先制鎮痛は同じではありません
組織損傷による末梢感作が成立する前にNSAIDsを投与すれば、術後痛を軽減できるという考え方には、薬理学的合理性があります。
しかし、局所麻酔が切れる前に薬を飲ませることと、厳密な意味でのpreemptive analgesiaは同じではありません。
真の先制鎮痛効果を証明するには、同一薬剤を侵害刺激前と侵害刺激後に投与し、その差が術後に持続することを示す必要があります。
術前投与群とプラセボ群を比較しただけでは、単に薬剤が早く血中へ到達したため、初期疼痛が低かった可能性を除外できません。
臨床では、次の二つを分けて考えるべきです。
- 局所麻酔消退前から有効血中濃度を確保する早期投与
- 侵害刺激前の投与によって、その後の感作自体を抑える先制鎮痛
前者には実用性がありますが、後者の証明には、より厳密な試験設計が必要です。
頓用か定時投与か
軽度の単純抜歯後痛に、全患者へ数日間の定時NSAIDsを投与する必要はないかもしれません。
一方、骨削除や歯牙分割を伴う埋伏智歯抜歯、術前から強い自発痛がある歯内療法、広範な歯周外科では、局所麻酔消退後に強い疼痛が予測されます。
定時投与か頓用かは、次の要素から決めます。
- 処置侵襲
- 術前痛
- 炎症の程度
- 過去の術後痛
- 患者の全身リスク
- 患者が服用時刻を管理できるか
- 次回診査までの期間
「念のため」という理由だけで、リスクの高い患者にNSAIDsを定時で長期間投与することは避けるべきです。
鎮痛天井を超えて増量しても効果は比例しません
NSAIDsには、用量を増加させても鎮痛効果の増加が小さくなり、有害作用だけが増える領域があります。
不十分な用量で薬剤の効果を評価してはいけません。
一方、十分量を超えて単剤を増量し続けることも合理的ではありません。
十分な単剤投与で効果が不十分な場合には、次の順序で評価します。
- 診断を再評価します。
- 原因治療が完了しているか確認します。
- 患者が指示どおり服用したか確認します。
- OTCを含む重複服用を確認します。
- 投与時期と間隔を確認します。
- 別機序薬との併用を検討します。
- NSAIDsを使用してよい患者か再確認します。
抗菌薬を「鎮痛薬の代わり」にしてはいけません
不可逆性歯髄炎による疼痛は、抗菌薬を投与するだけでは解決しません。
歯髄炎痛に対する確定的治療は、歯髄処置、根管治療または抜歯です。
発熱、蜂窩織炎、リンパ節症状、感染の組織間隙への波及、免疫抑制など、抗菌薬の適応がある場合を除き、抗菌薬を「痛み止め」として処方してはいけません。
2014年の国内歯科薬物療法総説も、急性歯髄炎の救急処置として抗菌薬を処方することに科学的根拠はなく、不適切であると記載しています。
急性根尖性膿瘍でも、排膿や感染源制御が可能であれば、それが治療の中心です。
抗菌薬使用後に痛みが軽減することはあります。
しかし、それは抗菌薬自体が鎮痛薬だからではありません。感染負荷や炎症が低下した結果であり、適応のない抗菌薬投与を正当化する理由にはなりません。
患者背景から経口鎮痛薬を選び直す
消化性潰瘍・消化管出血
NSAIDs処方前には、現在の胃部症状だけでなく、消化性潰瘍と消化管出血の既往を確認します。
特に注意すべきなのは、次の患者です。
- 活動性消化性潰瘍がある
- 潰瘍または消化管出血の既往がある
- 高齢である
- 抗血小板薬・抗凝固薬を使用している
- ステロイドを使用している
- 複数NSAIDsを使用している
- 高用量または長期使用が予想される
- 重篤な全身疾患を有している
日本消化器病学会の消化性潰瘍診療ガイドライン2026でも、NSAIDsによる薬物性潰瘍について、危険因子、NSAIDsの種類・用量、単剤・多剤使用、低用量アスピリンや抗血栓薬との併用、潰瘍・出血既往を踏まえた評価が独立して扱われています。
PPIを併用すれば、上部消化管障害の一部を低減できる場合があります。
しかし、PPIはNSAIDsによる急性腎障害、心不全増悪、血圧上昇、過敏症、妊娠中の胎児リスクを防ぎません。
「NSAIDs+胃薬」という固定処方ではなく、NSAIDs自体を選んでよい患者かを先に判断する必要があります。
CKD、脱水、利尿薬、RAS阻害薬
NSAIDsは腎血管系プロスタグランジン産生を抑制し、腎血流と糸球体濾過を低下させる可能性があります。
特に危険なのは、次の因子が重なる場合です。
- CKD
- 高齢
- 脱水
- 発熱
- 嘔吐
- 食事・水分摂取不良
- 心不全
- 肝硬変
- 利尿薬
- ACE阻害薬
- ARB
- ARNI
抜歯後に食事と水分の摂取が落ちている患者や、強い歯痛のため数日間食べられていない患者では、平常時の血清クレアチニンだけで安全性を判断できません。
日本腎臓学会のCKD診療ガイド2024は、CKD患者への解熱鎮痛薬ではアセトアミノフェンを第一選択とし、十分な効果が得られれば、できるだけ少ない量で使用するよう説明しています。NSAIDsについては、腎機能と患者背景を踏まえた慎重な使用が必要です。
これはCKD患者における安全性上の第一候補という意味であり、歯科急性痛に対する鎮痛効果がNSAIDsより強いという意味ではありません。
利尿薬+ACE阻害薬またはARB+NSAIDsの組み合わせは、急性腎障害リスクを高める、いわゆるtriple whammyとして知られています。
歯科医師が処方する数日分のロキソプロフェンが、最後に追加される一剤になる可能性があります。
心不全・浮腫
NSAIDsは、ナトリウム・水分貯留を通じて心不全を悪化させる可能性があります。
2025年改訂版心不全診療ガイドラインでも、NSAIDsによる塩分貯留は心不全悪化の薬剤要因として扱われています。
問診では「心臓病がありますか」だけでは不十分です。
次を確認します。
- 心不全の診断
- 最近の息切れ
- 起坐呼吸
- 下腿浮腫
- 数日間の体重増加
- 利尿薬
- ACE阻害薬、ARB、ARNI
- MRA
- SGLT2阻害薬
- 腎機能
腎機能が一見保たれていても、心不全患者にNSAIDsを安全に使用できるとは限りません。
高血圧
高血圧管理・治療ガイドライン2025は、二次性高血圧の章で薬剤誘発性高血圧を扱っています。
また、ロキソプロフェンを含むNSAIDsの電子添文には、チアジド系利尿薬の利尿・降圧作用を弱めること、ACE阻害薬やARBの降圧作用を減弱させ、腎機能を悪化させる可能性が記載されています。
歯科で数日間だけ処方するから問題ないと考えるのではなく、次を確認します。
- 高血圧のコントロール状況
- CKD
- 心不全
- 脱水
- 利尿薬
- ACE阻害薬、ARB、ARNI
- 複数の降圧薬
歯科医院で測定した血圧が高い場合、疼痛や不安による一時的上昇だけで説明せず、全身状態と服薬内容を評価する必要があります。
抗血栓薬
抗血小板薬や抗凝固薬を服用している患者では、処置時の止血と、術後鎮痛薬の選択を分けて考えます。
鎮痛薬を使用するために、抗血栓薬を安易に休薬してはいけません。
特に冠動脈ステント留置後のDAPTでは、休薬による血栓リスクが重大となります。日本循環器学会の抗血栓療法ガイドラインおよび非心臓手術ガイドラインは、歯科処置を含む周術期の抗血栓療法を、出血リスクと血栓リスクの双方から評価しています。
ロキソプロフェンの電子添文では、ワルファリンの抗凝血作用増強、第Xa因子阻害薬との出血リスク増大が記載されています。
確認すべきなのは、次の内容です。
- 抗血栓薬の適応疾患
- 低用量アスピリン
- クロピドグレル、プラスグレルなど
- 二剤併用の有無
- ワルファリン
- DOAC
- 最近のステント留置、心筋梗塞、脳梗塞
- 消化管出血歴
- 他のNSAIDs
NSAIDs追加による出血・消化管障害リスクが高い場合には、抗血栓薬側を変更するのではなく、鎮痛薬側を見直します。
高齢者・ポリファーマシー
高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025の主要改訂点に関する解説では、ポリファーマシーによる有害事象リスク、認知機能、ADL、生活環境を含む高齢者総合機能評価、慎重な投与を要する薬物の見直しが重視されています。
高齢者では、成人通常量を年齢だけで機械的に適用するのではなく、次を評価します。
- 体重
- 腎機能
- 肝機能
- 水分摂取
- 心不全
- 潰瘍・出血歴
- 抗血栓薬
- 複数医療機関からの処方
- OTC薬
- 認知機能
- 服薬自己管理能力
- 転倒リスク
- 独居か家族管理か
「何日分処方するか」も安全性の一部です。
余った鎮痛薬が、数か月後に別の症状へ自己使用されたり、家族へ渡されたりする可能性も考える必要があります。
妊娠
NSAIDsについて、「妊娠後期だけ禁忌で、それ以前は問題ありません」と説明するのは不正確です。
PMDAは、経口剤・坐剤を妊婦へ使用した後に胎児腎機能障害、尿量減少、それに伴う羊水過少症が起きた報告があること、妊娠中期の全身作用NSAIDs使用後に胎児動脈管収縮が起きた報告があることを、使用上の注意へ追加しました。妊娠末期以外に使用する場合も、治療上の有益性と危険性を評価し、必要最小限とし、妊娠週数と投与日数を考慮する必要があります。
妊娠患者では、次を確認します。
- 妊娠週数
- 単回投与か反復投与か
- 投与日数
- 産科的合併症
- 他の鎮痛薬
- 水分・栄養状態
- 原因歯へ直ちに処置できるか
アセトアミノフェンは、NSAIDsを避けたい場合の重要な選択肢です。
しかし、「妊娠中なら無制限に安全」という意味ではありません。必要最小限という原則は変わりません。

喘息・NSAIDs過敏症を一括りにしてはいけません
すべての喘息患者が、NSAIDs過敏症を有するわけではありません。
一方、NSAIDs過敏性呼吸器疾患では、化学構造の異なる複数の強いCOX-1阻害薬に交差反応し、鼻症状、喘鳴、呼吸困難、時に皮膚・消化器症状を生じます。
歯科医師が理解すべき病型は、大きく三つに整理できます。
交差反応型
強いCOX-1阻害薬に、薬剤の化学構造を越えて反応する病型です。
代表的なものに、次があります。
- 喘息・慢性鼻副鼻腔炎・鼻茸を背景とする呼吸器型
- 慢性特発性蕁麻疹を背景とする皮膚型
- 慢性蕁麻疹がなく、複数NSAIDsで蕁麻疹・血管浮腫・アナフィラキシーを起こす病型
単一薬剤型
特定のNSAID、または化学的に近い薬剤だけで即時型反応を起こす病型です。
免疫学的機序が関与し、他系統のNSAIDを使用できる場合もあります。
ただし、病歴だけで安全な代替薬を断定すべきではありません。
遅延型
服用後数時間から数日を経て、斑状丘疹型薬疹、固定薬疹、接触皮膚炎、まれにSJS/TENやDRESSなどを生じる病型です。
口腔粘膜のびらん、水疱、発熱、眼症状を伴う場合には、通常の歯科的な「薬疹」として経過観察せず、原因薬を中止して医科へ緊急紹介する必要があります。
WAOの2025年ステートメントは、交差反応型、単一薬剤型、遅延型に加え、呼吸器・皮膚症状の混合型や、NSAIDsが食物アレルギー反応の補因子となる病型を整理しています。
歯科問診で確認すべきこと
「ロキソニンでアレルギーが出ました」という申告だけでは不十分です。
次を確認します。
- 正確な商品名
- 1回量、錠数
- 内服、坐薬、注射、外用の別
- 服用後何分・何時間で発症したか
- 鼻閉、鼻汁、嗅覚低下
- 喘鳴、咳、呼吸困難
- 蕁麻疹、血管浮腫
- 喉頭症状
- 嘔吐、腹痛
- 血圧低下、意識障害
- 数日後の発疹、粘膜病変
- 喘息発症後に他のNSAIDsを使用できたか
- 成人発症喘息
- 慢性鼻副鼻腔炎、鼻茸、鼻茸手術歴
- 慢性特発性蕁麻疹
一剤で反応したからといって、直ちにすべてのNSAIDsへ交差反応するとは限りません。
一方、一剤だけの反応歴から、歯科医師が自己判断で別のNSAIDを安全と断定することもできません。
アセトアミノフェンも無条件に安全ではありません
NSAIDs過敏症患者の一部は、高用量アセトアミノフェンにも反応します。
日本のアセトアミノフェン電子添文では、アスピリン喘息またはその既往歴がある患者について、1回最大用量を300mg以下としています。
一般患者に使用する500~1000mgという鎮痛用量を、そのままNSAIDs過敏性喘息患者へ使用してはいけません。
歯科診療室で少量を飲ませて確認しません
NSAIDs過敏症の診断や、安全に使用できる代替薬の確認には、薬剤負荷試験が必要となることがあります。
薬剤負荷試験は診断上重要ですが、病型と重症度を評価し、監視・救急対応が可能な専門施設で行う検査です。EAACI/ENDAのポジションペーパーも、薬剤負荷試験の利益と安全性を両立するため、リスク層別化と適切な実施環境を求めています。
「ロキソプロフェンで発疹が出たので、イブプロフェンを半錠飲ませてみます」といった確認を、歯科診療室で行ってはいけません。
特にSJS/TEN、DRESSなどの重症遅延型反応が疑われる病歴では、負荷試験自体が禁忌となりえます。
日本皮膚科学会の蕁麻疹診療ガイドライン2026は、NSAID誘発蕁麻疹患者への解熱・鎮痛では、COX阻害作用がない、または小さい薬剤を選ぶことを推奨していますが、それらでも反応が生じないことを保証するものではありません。

OTC鎮痛薬は、臨床試験の併用療法と同じではありません
日本の一般用鎮痛薬にも、イブプロフェン+アセトアミノフェン配合製品があります。
しかし、商品名に同じ二成分が含まれているからといって、歯科RCTで評価された併用療法と同じではありません。
成人1回量では、代表的な製品に次の違いがあります。
- バファリンプレミアム:イブプロフェン130mg+アセトアミノフェン130mg
- バファリンプレミアムDXクイック⁺:イブプロフェン160mg+アセトアミノフェン160mg
- イブスリーショットプレミアム:イブプロフェン195mg+アセトアミノフェン195mg
さらに、無水カフェイン、鎮静性成分、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの補助成分も製品ごとに異なります。
バファリンプレミアムには鎮静性成分が含まれ、服用後の運転・機械操作は禁止されています。バファリンプレミアムDXクイック⁺は、眠くなる成分を含まない製品ですが、副作用として眠気を生じる可能性はあります。イブスリーショットプレミアムは、成人1回量にイブプロフェン195mgとアセトアミノフェン195mgを含み、眠くなる成分は無配合とされています。
海外の第三大臼歯抜歯試験で用いられたイブプロフェン400mg+アセトアミノフェン500~1000mgとは、各成分量が大きく異なります。
したがって、
OTC薬にも同じ二成分が含まれているので、歯科RCTと同等の併用療法です
とはいえません。
「眠くなる成分無配合」の製品であっても、NSAIDsとアセトアミノフェンの消化管、腎、心血管、肝障害リスクがなくなるわけではありません。

歯痛患者は、受診時点ですでに鎮痛薬を飲んでいます
歯科医師が鎮痛薬を処方する時点で、患者が薬剤未使用であるとは限りません。
むしろ強い歯痛で救急受診する患者の多くは、来院前に何らかの鎮痛薬を使用しています。
2025年に、コペンハーゲンの歯科救急2施設を受診した歯痛患者180例を調査した研究では、82.8%が来院前に少なくとも一種類の鎮痛薬を使用していました。
全患者の75.6%がアセトアミノフェン、54.4%がイブプロフェンを使用し、9%は推奨最大量を超えていました。
アセトアミノフェンとイブプロフェンの最大量を正しく知っていた患者は、それぞれ39%、41%にとどまりました。
最も多かった歯科診断は歯髄由来痛で、66.1%を占めていました。
この研究はデンマークの調査であり、同国の最大用量を日本の処方基準として使用することはできません。
しかし、次の点は日本の歯科診療にも重要です。
最大量を説明するだけでは、過量服用を完全には防げません。
患者は痛みに耐えられなければ、上限を知っていても追加服用することがあります。
したがって、鎮痛薬の説明は「1日何錠まで」で終えてはいけません。
- なぜこれ以上飲んではいけないのか
- 効果が不十分ならどこへ連絡するのか
- どの症状で再診するのか
- 追加してはいけない市販薬は何か
- 原因治療を行わなければ痛みが続く可能性
まで説明する必要があります。
「痛み止めを飲みましたか」では薬歴確認になりません
歯痛患者に対して、
痛み止めを飲みましたか。
とだけ質問しても、十分な薬歴は得られません。
具体的には、次のように聞く必要があります。
商品名は何ですか。
1回に何錠飲みましたか。
最後に飲んだのは何時ですか。
昨日から合計何回飲みましたか。
風邪薬、頭痛薬、生理痛薬も飲みましたか。
家族や知人からもらった薬はありませんか。
以前に処方された鎮痛薬や抗菌薬を使っていませんか。
患者が「イブを飲みました」と答えても、製品によって成分と量が異なります。
患者が「バファリンを飲みました」と答えても、製品によってアスピリン、イブプロフェン、アセトアミノフェン、鎮静性成分などの構成が異なります。
商品名、錠数、服用時刻が分からなければ、歯科医師が処方した時点で、NSAIDsまたはアセトアミノフェンの重複が生じる可能性があります。
鎮痛薬が効かないとき、薬を強くする前に診断を強くします
処置後2~3日目に痛みが増強している患者へ、電話だけでより強い鎮痛薬を追加するのは危険です。
再評価すべき病態には、次があります。
- ドライソケット
- 術後感染
- 排膿不十分
- 残存歯根、残存異物
- 骨鋭縁
- 根尖部への過剰な機械的・化学的刺激
- 高い仮封、修復物、補綴物
- 咬合性外傷
- 歯根破折
- 隣在歯由来痛
- 顎関節・咀嚼筋由来痛
- 神経障害性疼痛
- 非歯原性疼痛
ADAガイドラインの救急医療実装論文でも、抜歯後2~3日目の突破痛や、72時間後も続く強い痛みに対しては、処方を増強する前にドライソケット、感染、骨鋭縁などを再評価することが重視されています。
強い痛みが残っていることは、必ずしも「より強い薬が必要です」というメッセージではありません。
効かない鎮痛薬を強くする前に、診断を強くします。
この順序を崩してはいけません。
歯科診療における経口鎮痛薬選択アルゴリズム

Step 1 原因診断を行います
疼痛を、次のように分類します。
- 抜歯後痛
- 歯科小手術後痛
- 不可逆性歯髄炎
- 症候性根尖性歯周炎
- 根管治療後痛
- 智歯周囲炎
- 歯周膿瘍
- 咬合性外傷
- 歯根破折
- 非歯原性疼痛の疑い
必要な歯髄処置、根管治療、排膿、洗浄、咬合調整、抜歯窩処置などを先に行います。
Step 2 すでに使用した薬を24時間単位で再構成します
処方薬だけでなく、OTC薬、総合感冒薬、残薬、家族からもらった薬を確認します。
商品名、1回の錠数、服用時刻を確認し、NSAIDsとアセトアミノフェンの総量を計算します。
Step 3 NSAIDsを使用できるか評価します
少なくとも次を確認します。
- 消化性潰瘍、出血歴
- CKD
- 脱水
- 心不全、浮腫
- 高血圧
- 利尿薬、ACE阻害薬、ARB、ARNI
- 抗血栓薬
- 妊娠週数
- 喘息、NSAIDs反応歴
- 高齢、低体重
- 他NSAIDsの使用
NSAIDsが不適切であれば、アセトアミノフェンを含む代替を検討します。
ただし、肝疾患、飲酒、低栄養、重複服用、NSAIDs過敏症患者での耐容歴を別途評価します。
Step 4 薬剤と1回量を選びます
健康成人の炎症性歯科急性痛では、NSAIDsが中心になります。
日本でロキソプロフェンを使用する場合は、処方する製品の最新電子添文に従い、歯痛、抜歯後痛、定時投与、頓用の用法を確認します。
アセトアミノフェン単剤を使用する場合は、少量すぎる用量で無効と判定しません。
一方、4000mg/日は目標ではなく上限であり、患者背景によっては大幅に少ない量で設計する必要があります。
Step 5 単剤か併用かを決めます
単剤で管理可能と予測される場合は、不必要な併用を避けます。
十分量のNSAID単剤では不十分と考えられ、両薬を使用可能な患者では、アセトアミノフェン併用を検討できます。
ロキソプロフェン+アセトアミノフェンについては、日本の専門家による実務提案はありますが、ロキソプロフェン固有の質の高い直接歯科RCTが不足していることを理解しておきます。
Step 6 投与時期と間隔を指定します
「痛いときに飲んでください」だけでは不十分です。
次を具体的に伝えます。
- 1回量
- 最短服用間隔
- 24時間の上限
- 頓用か定時か
- 使用する日数
- 追加してはいけない市販薬
- どの症状で連絡するか
Step 7 再診基準を設定します
次の場合は、薬剤の増量ではなく再評価を優先します。
- 時間とともに痛みが強くなる
- 処置後2~3日目に急に増悪する
- 腫脹、発熱、排膿が出現する
- 開口障害、嚥下痛、呼吸症状を伴う
- 通常量を使用しても耐え難い
- 薬疹、蕁麻疹、喘鳴、粘膜病変を生じる
- 数日間にわたって鎮痛薬が必要な状態が続く
- 患者が服用上限を守れない
服薬指示は処方設計の一部です
鎮痛薬を処方するときは、薬剤名だけを伝えて終えてはいけません。
患者へ文書で示すべき内容は、次のとおりです。
- 1回に服用する錠数
- 次に服用できる時刻
- 24時間の最大回数と最大量
- 他のNSAIDsを追加しないこと
- アセトアミノフェン含有薬を重ねないこと
- アルコールとの併用に関する注意
- 服用後の運転可否
- 服用を終了する目安
- 再診・連絡が必要な症状
- 痛みが改善しない場合に自己増量しないこと
併用療法では、二剤を一つの「強い痛み止めセット」として説明してはいけません。
ロキソプロフェンとアセトアミノフェンについて、それぞれの1回量、投与間隔、24時間総量を別々に理解してもらう必要があります。

経口鎮痛薬の目標は、薬だけで完全な無痛を作ることではありません
歯科医師が患者へ、
この薬を飲めば完全に痛くなくなります。
と約束すると、患者は痛みが少し残るたびに追加服用しやすくなります。
歯科急性痛における現実的な目標は、次のとおりです。
- 食事や睡眠が可能になる
- 処置後の予測範囲内まで痛みを抑える
- 過量服用を防ぐ
- 原因治療まで安全に橋渡しする
- 異常経過を鎮痛薬で隠さない
- 患者が再診すべき時期を理解する
ある程度の疼痛が予測される処置では、正常な経過、鎮痛薬の到達目標、連絡すべき症状を事前に共有します。
「痛みゼロ」だけを治療成功の基準にしないことは、過量服用を防ぐうえでも重要です。
まとめ――歯科の鎮痛薬に普遍的な「強さランキング」はありません
日本でロキソプロフェンが広く使用されてきたことには、国内の承認試験と長い臨床使用経験という背景があります。
しかし、慣れている薬であることと、すべての歯科急性痛、すべての患者に最適であることは同義ではありません。
イブプロフェンを中心とする海外研究では、NSAIDsとアセトアミノフェンの併用が、単剤やオピオイド配合薬を上回る結果も示されています。
一方、ロキソプロフェン+アセトアミノフェンについては、日本の歯科実務における専門家提案は存在するものの、歯科急性痛に対する質の高い直接比較試験は不足しています。
したがって、歯科医師が行うべきことは、最も「強い」とされる薬剤を機械的に選ぶことではありません。
原因となる歯科疾患を診断し、必要な歯科処置を行います。
そのうえで、
- 疼痛モデル
- 炎症性成分
- 薬剤
- 1回量
- 投与間隔
- 投与時期
- 単剤か併用か
- 患者の全身状態
- 併用薬
- OTCを含む24時間総量
- 患者の服薬管理能力
- 再診基準
を、一つの処方設計として考えます。
歯科診療における経口鎮痛薬の選択とは、薬剤名を選ぶ作業ではありません。診断、用量、時間、患者背景を統合する臨床判断です。
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