2026年9月20日

(歯科衛生士さんのある日の日誌)

はじめに
「ゆっくり口を開けてください」
「はい、閉じてください」
「もう一度お願いします」
顎の痛みや「カクッ」という音を訴える患者さんの診察を見学していると、先生が患者さんの左右の耳のすぐ前に指を置いたまま、何度か口を開けたり閉じたりしてもらうことがあります。
歯科助手として最初にこの場面を見ると、「耳が痛いかどうかを調べているのかな?」「どうして指を置いたまま何回も開け閉めしてもらうんだろう?」と思うかもしれません。
でも、先生が主に触っているのは耳ではありません。
耳のすぐ前にある顎関節(がくかんせつ)です。
口を開け閉めしてもらいながら、皮膚の下で動く下顎頭(かがくとう)の動きや左右の違い、クリックやクレピタスなどの関節雑音に伴う振動を指先で確認しています。
さらに、そのあと同じ耳の前を少し押して、「ここは痛いですか?」「いつもの痛みと同じですか?」と尋ねることがあります。
見た目はどちらも「先生が耳の前を触っている」診察です。しかし実際には、口を動かしながら触れる検査と、押して痛みを確認する検査では目的が違います。
今回は、診療室ではほんの数十秒で終わるこの診察で、先生の指先が何を確かめているのかを見学してみます。

先生が触っているのは「耳」ではなく、その前にある顎関節
耳の穴のすぐ前には、下顎と頭の骨をつないでいる顎関節があります。
その顎関節を構成する下顎側の丸みを帯びた部分が下顎頭です。
患者さんが口を開けたり閉じたりすると、この下顎頭が動きます。そのため、耳の前へ指を軽く置いた状態で開閉口してもらうと、皮膚越しに下顎頭の動きを感じることができます。
日本顎関節学会の「顎関節症治療の指針2025」では、顎関節雑音を確認するとき、外耳道の前方付近へ指を当て、下顎頭の外側極を触知しながら開閉口運動を確認する方法が示されています。
つまり患者さんからすると「先生に耳の前を触られている」ように見えますが、先生が探している中心はその奥で動いている顎関節です。
口を閉じた状態だけで触るのではなく、一度開け閉めしてもらえば、「この位置で下顎頭が動いている」という場所を確認しやすくなります。
先生が最初に口を動かしてもらうのには、診察する顎関節の位置を指先で捉えるという意味もあるのです。
口を開けるときの顎関節は「回転だけ」ではありません
顎関節という言葉から、ドアの蝶番のような構造を想像する方もいるかもしれません。
しかし、人の口を開ける運動は、その場で単純に回転するだけではありません。
顎関節の開口運動では、下顎頭の回転と前方への滑走(並進)が組み合わさって下顎が動きます。
以前は「まず純粋な回転が起こり、そのあと前方へ滑る」という二段階の説明も広く使われてきました。しかし、実際の動きをそこまではっきり二つへ分けるのは単純化しすぎる可能性があります。
2024年に健常者46人の顎運動をデジタル解析した研究では、最初の5mmの開口域でも、回転に加えて並進運動が連続して認められました。これは「開口初期には純粋な回転しか起こらない」という考え方を再検討する必要性を示した研究です。
だからこそ先生が耳の前へ指を置いていると、開口に伴って下顎頭がどのように動いていくかを指先で追うことができます。
顎関節の開閉運動については、院長の「顎関節の動き方の真実:ヒンジアキシスから瞬間回転中心へ」でも詳しく解説しています。

先生が左右の耳の前を同時に触るのはなぜ?
診察では、先生が患者さんの左右の耳の前へ同時に指を置くことがあります。
ここでは、左右とも下顎頭が動いているか、一方だけ明らかに動きが小さくないか、動き出しや移動のしかたに大きな違いがないか、動きの途中で急な変化を感じないか、どちら側で関節雑音に伴う振動が起きているか、などを診察の参考にします。
ただし、左右差がある=そのまま病名が決まるわけではありません。
指先だけで下顎頭の移動量を何mm単位で測定しているわけでもありませんし、「右の動きが小さいから右の関節円板が必ず前方転位している」と決められるものでもありません。
左右の顎関節は別々に存在しますが、下顎骨そのものは一つです。右と左の顎関節、さらに咀嚼筋が協調して一つの下顎を動かしています。
そのため、一側の状態が反対側の運動にも影響することがあります。
さらに、顎関節で生じたクリックなどの振動は骨を介して伝わり、反対側でも感じられることがあります。患者さん自身には「両側で鳴った」ように感じられる場合もあります。
先生が左右を確認することは、実際にどちら側で振動を感じるかを考える手掛かりにもなります。
ただし、これだけで雑音の発生側や関節内部の病態を必ず特定できるわけではありません。一つの所見だけで結論を出さず、複数の情報を重ねて考えます。
「カクッ」は、先生の耳だけでなく指先でも確認しています
顎関節症の相談でよく聞くのが、「口を開けるとカクッと鳴ります」という訴えです。
患者さん自身には「音」として感じられていても、診察する先生は耳で聞くだけではありません。
下顎頭付近へ指を置いていれば、クリックが起きた瞬間の小さな振動や急な動きを指先で感じることがあります。
診療室で横から見ていると先生の指はほとんど動いていませんが、その指先では「今、ここでカクッとした」という小さな変化を拾っています。
一方、先生が指で感じた情報だけで診察が完結するわけでもありません。
患者さん自身にも、「今、音がしましたか?」「右ですか、左ですか?」「音というより振動を感じましたか?」などと確認することがあります。
患者さん自身が音を聞いた、あるいは振動を感じたという情報も診察材料の一つです。
「カクッ」と「ジャリジャリ」は同じ関節雑音ではありません
顎関節から感じられる音にも種類があります。
短くはっきりした「クリック」
代表的なのが、「カクッ」「コキッ」「ポキッ」のような短く明瞭なクリックです。
クリックは、復位性顎関節円板障害などを考える手掛かりの一つになります。
連続して感じる「クレピタス」
一方、「ジャリジャリ」「ザラザラ」「ミシミシ」のように、細かな振動が連続するように感じられるものをクレピタスと呼びます。
クレピタスは、変形性顎関節症などを考えるときの所見の一つになります。
ただし、「カクッとしたから関節円板転位で確定」でも、「ジャリジャリしたから変形性顎関節症で確定」でもありません。
音や振動は診断材料の一つです。痛み、開口量、開口路、引っ掛かり、ロックの既往、触診所見、必要に応じた画像検査などを組み合わせて判断します。

どうして何回も口を開けたり閉じたりするの?
診察を見ていると、「もう一度開けてください」「ゆっくり閉じてください」と、同じ動作を何度かお願いすることがあります。
「一回カクッとしたなら、それで分かるのでは?」と思うかもしれません。
しかし、顎関節雑音は毎回まったく同じように出るとは限りません。
一回目は鳴ったのに二回目は鳴らない。数回に一度だけ鳴る。普段は鳴るのに診察室では出ない。そういったこともあります。
日本顎関節学会の診察法では、顎関節雑音について開閉口を複数回行って確認します。
したがって、「さっきはカクッとしたのに、今は鳴らなかった」こと自体は不思議ではありません。
また、診察室で再現されなかったとしても、「朝起きたときだけ鳴る」「大きくあくびをすると鳴る」「食事の最初だけ鳴る」「普段は右側で鳴る」といった情報は参考になります。
その場で再現できなかった=普段の症状が存在しないという意味ではありません。
開けるときと閉じるとき、両方を見ています
顎関節のクリックは、「口を開けたときに鳴った」だけを見ているわけではありません。
復位性顎関節円板障害では、開口時にクリックが生じ、閉口していく途中にも再びクリックが生じることがあります。
患者さん自身には「一回カクッとした」くらいにしか感じられないこともありますが、先生は、開ける途中で起きたのか、閉じる途中でも起きたのか、毎回同じように確認できるのかなどを見ています。
だから「開けてください」だけではなく、「今度はゆっくり閉じてください」と言われるわけです。
ただし、クリックが開口のどの位置で起こるかだけを見て、「これは軽症」「これは重症」と単純に判断することはできません。
クリック発生のタイミングは参考になる所見ですが、触診だけで関節内部の状態や重症度を正確に決められるものではありません。
口を閉じた瞬間の「カチッ」は、全部顎関節の音とは限りません
もう一つ紛らわしいのが、上下の歯が当たった音です。
口を閉じていくと、最後には上と下の歯が接触します。その瞬間に「カチッ」という音がすることがあります。
これは顎関節から出たクリックではなく、歯と歯の接触音かもしれません。
患者さんが「口を閉じたら音がした」と感じても、それだけでは関節音なのか歯の接触音なのか分かりにくい場合があります。
そこで先生は、指先でどの瞬間に顎関節部の振動を感じたかも合わせて確認します。
先生は指先だけではなく、あご先の動きも見ています
先生が左右の顎関節へ指を置いていると、「指先だけに集中している」ように見えるかもしれません。
しかし同時に、患者さんのあご先がどのような軌道で開いていくかも確認します。
ほぼ真っすぐ開く人もいれば、途中で右や左へずれてから中央へ戻る人もいます。最大開口まで片側へずれたままになる場合もあります。
こうした開口路も、顎関節症を診察するときの情報の一つです。
先生は、指先では左右の顎関節の動きや振動を感じ、目ではあご先の軌道を見る。複数の情報を同時に確認しています。

「右へずれて開く=右の顎関節が悪い」とは限りません
鏡の前で自分の口を開いてみると、「少し右へずれている」「左へ曲がって開く」ことに気づく方もいるかもしれません。
しかし、右へずれて開く=右の顎関節が悪いと自己診断することはできません。
片側性の関節円板障害が確認されている患者さんでも、開口量などの条件によっては必ず患側へ偏位するとは限らないことが報告されています。
開口路の偏位は一つの診断材料にはなりますが、それ単独で病変側や病態を決めるものではありません。
途中で先生が耳の前を少し押した――これは別の検査です
ここまで説明してきたのは、指を耳前部へ置きながら口を動かしてもらい、下顎頭の動きや関節雑音を確認する診察です。
ところが、そのあと先生が同じ耳前部を少し押して、「ここは痛いですか?」と尋ねることがあります。
見た目はよく似ていますが、目的は違います。
こちらでは主に、顎関節部を触診したときに痛みが誘発されるかを確認しています。
日本顎関節学会の「顎関節症の診断基準(2019)」では、顎関節痛障害の誘発テストとして、外側極を0.5kg/cm²で2秒間、外側極付近を1.0kg/cm²で2秒間触診する基準が示されています。
つまり先生が適当に強く押しているわけではなく、診断基準では触診する部位、圧、時間まで考慮されています。
ただし、これは歯科医師などが診断のために行う診察手技です。
ご自身で耳の前を強く押したり、痛みが出るまで何度も押して自己診断する必要はありません。

「痛いですか?」だけでなく「いつもの痛みですか?」と聞く理由
先生が顎関節を触診して、患者さんが「痛いです」と答えたとしても、それだけでは終わらないことがあります。
続けて、「普段困っている痛みと同じですか?」「いつもの痛みですか?」と聞かれることがあります。
これはとても重要な質問です。
確認したいのは、単に押されたために痛かったのか、それとも普段患者さんが困っている痛みが検査によって再現されたのかという違いです。
たとえば、「押されたところは痛いけれど、いつもの痛みとは違います」という場合と、「そうです。普段痛くなるのと同じ場所、同じ感じです」という場合では、診断上の意味が異なります。
この「いつもの痛み」=familiar painを確認することは、DC/TMDや日本顎関節学会の診断基準でも重要な考え方です。
つまり先生は、「押して痛かった」だけではなく、患者さんが日常生活で経験している症状を診察室で再現できたかを確認しています。
顎関節や咀嚼筋の触診が歯の痛みの鑑別にも使われる理由については、「顎関節症と非歯原性歯痛」でも詳しく解説しています。
先生は、指で関節円板そのものを触っているの?
ここは誤解されやすいところです。
結論からいうと、耳の前から関節円板そのものを直接触って、位置を確認しているわけではありません。
指先で得られる情報は主に、下顎頭がどのように動いているか、左右の動きに大きな違いがあるか、クリックやクレピタスに伴う振動があるか、顎関節部を触診したときに痛みが出るか、といった臨床所見です。
関節内部にある関節円板の位置や形態を詳しく画像で評価する場合には、MRIが重要になります。
一方、歯科用CTは下顎頭など骨の形態評価を得意とします。
つまり、指先で確認する情報と画像から確認する情報には、それぞれ役割があります。
CTやMRIの役割の違いについては、「歯科用CTと普通のレントゲンは何が違う?」でも解説しています。

カクッと鳴ったら「重い顎関節症」なの?
クリックが確認できたことと、「重い顎関節症である」ことは同じではありません。
また、クリックがある=必ず治療が必要でもありません。
診察では関節雑音だけでなく、痛みがあるか、どれくらい口を開けられるか、途中で引っ掛かることがあるか、ロックしたことがあるか、食事や会話に支障があるか、症状が最近変化しているかなどを合わせて確認します。
復位性顎関節円板障害があっても、痛みや開口障害がなく安定して経過している人もいます。
したがって、「カクッ」という一つの所見だけで、病気の重さや治療の必要性を決めることはできません。
顎関節症全般については、「顎の関節が鳴る・痛い方は顎関節症かも」も参考にしてください。
「カクッ」が消えたら治ったの?
これも少し複雑です。
以前は口を開けるたびに「カクッ」と鳴っていたのに、ある日から音がしなくなった。
患者さんからすると、「音がなくなったから治ったのかな?」と思うかもしれません。
しかし、クリックが消えたのと同じ時期から突然口が開けにくくなった、以前より開口量が減った、途中で引っ掛かるようになったといった変化がある場合には、その経過を先生へ伝えてください。
復位性顎関節円板障害から非復位性の状態へ移行すると、以前あったクリックが消え、開口障害や下顎頭の運動制限などが生じる場合があります。
そのため、「音がなくなった=必ず治った」とは言えません。
ただし、反対側も大切です。
音が消えたからといって、それだけで「悪化した」とも判断できません。
クリックがなくなっても、痛みがない、十分に口が開く、引っ掛かりやロックもない、日常生活に支障がないのであれば、「音が消えた」という一つの変化だけから病態が悪化したとは判断できません。
大切なのは、音があるかないかだけではなく、その前後で「痛み」「開き方」「引っ掛かり」「生活への支障」がどう変わったかです。
耳の前が痛い=すべて顎関節症、でもありません
今回の記事では顎関節症の診察を扱っていますが、「耳の前が痛い」「口が開きにくい」「顎を動かすと痛い」という症状があれば、すべて顎関節症と決まるわけではありません。
耳周囲には顎関節以外にも多くの組織があります。
歯や歯周組織の炎症、耳の病気、感染、外傷、顎骨の病気、全身性の関節疾患などでも似た症状が現れることがあります。
特に、強い腫れや発熱がある、外傷後に急に症状が出た、急激に口が開かなくなった、強い安静時痛が続く、顔面の感覚異常など神経症状がある、症状が急速に悪化している、といった場合には、顎関節症以外の病気も含めた評価が必要です。
だから先生は、耳の前を数秒触っただけで「顎関節症です」と判断しているわけではありません。
先生は耳の前の指だけで診断しているわけではありません
ここまで見ると、耳前部の触診から多くの情報が得られることが分かります。
それでも顎関節症の診察は、耳の前を触って終わりではありません。
問診では、いつから症状があるか、何をすると痛いか、以前から関節音があったか、音が最近変化したか、口が引っ掛かったことがあるか、ロックした経験があるかなどを確認します。
診察では、開口量、開口路、下顎頭の運動、顎関節雑音、顎関節部の圧痛、咀嚼筋の触診、開口や側方運動によって痛みが誘発されるかなどを確認します。
そして必要な場合には、パノラマエックス線、CT、MRIなどの画像検査も組み合わせます。

歯科助手として見ていて分かったこと
最初にこの診察を見ると、「先生が患者さんの耳の前に指を置いている」という一つの動作にしか見えません。
でも、その意味を知ってから見ると、同じ場面がまったく違って見えます。
口を開けてもらいながら、下顎頭がどのように動くかを見る。
左右で動きに大きな違いがないか確かめる。
「カクッ」とした瞬間の振動を指先で感じる。
開けるときなのか、閉じるときなのかを見る。
患者さん自身がその音や振動をどう感じたか聞く。
目では、あご先がどのような軌道で動いているかを見る。
そして別の触診では、「押すと痛いか」だけでなく、「それが普段困っている“いつもの痛み”なのか」まで確認する。
患者さんからすると数十秒の診察ですが、先生は一つの情報だけを見ているわけではありません。
指先で感じる情報。目で見る情報。患者さんから聞く情報。
それらを重ね合わせながら、顎関節の状態を考えています。
治療器具を使わない診察にも、実はこれだけ多くの確認項目が隠れている。
歯科助手として横から見学していて、そこが特に印象に残りました。
こんな症状や変化は診察のときに伝えてください
顎関節の診察では、その瞬間に再現できた症状だけではなく、普段の経過も大切です。
特に、いつから始まったか、右か左かあるいは両方か、どんなときに音が鳴るか、痛みがあるか、開きにくさがあるか、症状が以前と変わったかを伝えてもらえると診察の助けになります。
- 口を開けるとカクッと鳴る
- 数回に一回だけ鳴る
- 朝だけ鳴る
- 以前鳴っていた音が急に消えてから開けにくくなった
- 途中で引っ掛かる
- 一時的に口が開かなくなる
- 耳の前が痛い
- 食事で痛い
- 大きく口を開けにくい
- 顎をぶつけてから症状が出た
診察室で音が出なかったとしても、「家ではよく鳴ります」と伝えてください。それも大切な診断情報の一つです。
よくある質問
Q.顎関節を触る検査は痛いですか?
下顎頭の動きや関節雑音を確認するときは、耳前部へ指を当てながら口を動かしてもらいます。一方、顎関節痛の触診では、痛みが誘発されるかを確認するため一定の条件で圧を加えます。同じ場所を触っているように見えても、目的が違います。
Q.先生は触っただけで関節円板のずれが分かるのですか?
触診やクリック、開口路などから関節円板障害を疑う手掛かりは得られます。しかし、関節円板そのものを耳の前から直接触って、その位置を確認しているわけではありません。関節円板の位置や形態を詳しく画像で評価する場合にはMRIが重要です。
Q.カクッと鳴るだけでも治療が必要ですか?
音だけで治療の必要性は決められません。痛み、開口障害、ロック、引っ掛かり、日常生活への支障、症状の変化などを合わせて評価します。
Q.診察室で音が鳴らなかったら問題なしですか?
そうとは限りません。顎関節雑音は毎回必ず再現されるとは限らないため、普段どのような場面で鳴るかも大切です。「自宅では鳴る」という情報も伝えてください。
Q.なぜ左右の耳の前を触るのですか?
左右の下顎頭の動きや関節雑音を比較しながら確認するためです。また、一側の顎関節で生じた振動が反対側でも感じられる場合があるため、左右を確認することが雑音の発生側を考える手掛かりになることもあります。ただし、左右差だけで病態を確定するわけではありません。
Q.顎の音が消えたら治ったということですか?
必ずしもそうではありません。特に、それまであったクリックが消えたのと同時に急に口が開きにくくなった、引っ掛かるようになったという場合には、その変化を歯科医師へ伝えてください。一方、音が消えただけで痛みや開口障害などがなければ、「悪化した」とも決められません。音だけでなく、症状全体の変化を見ることが大切です。
まとめ――先生は耳の前で「動き・振動・いつもの痛み」を確かめています
顎関節症の診察で先生が耳の前へ指を置きながら口を開け閉めしてもらうのは、そこにある下顎頭の動きや、クリック・クレピタスなどに伴う振動を確認するためです。
患者さん自身が音や振動をどう感じたかも大切な情報です。
さらに同じ場所を押す触診では、今度は痛みが誘発されるか、そしてその痛みが普段患者さんが困っている「いつもの痛み」と同じかを確認します。
ただし、指で関節円板そのものを触っているわけではありません。クリック一つだけで病名が決まるわけでも、左右の動きだけで患側が決まるわけでもありません。音だけで重症度や治療の必要性は決まらず、音が消えただけで治癒とも悪化とも判断できません。
開口量、開口路、ロックの既往、痛み、咀嚼筋の状態、症状の経過、必要に応じた画像検査などを組み合わせて判断します。
診療室で見るとほんの短い動作ですが、先生が耳の前へ置いた指先には、顎関節を診るためのたくさんの情報が集まっています。
今回の見学で、それがよく分かりました。
参考文献
- 一般社団法人 日本顎関節学会 編.顎関節症治療の指針2025.
- 一般社団法人 日本顎関節学会.顎関節症の診断基準(2019).
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