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テレビ朝日で紹介「5秒ブクブクうがい」で口は鍛えられる?“長生きうがい”を原著まで検証

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2026年9月20日

テレビ朝日で紹介「5秒ブクブクうがい」で口は鍛えられる?“長生きうがい”を原著まで検証

(歯科衛生士さんのある日の日誌)

はじめに

こんにちは。ブランデンタルクリニックの歯科衛生士です。

2026年9月19日、テレビ朝日のテレ朝POSTに、「毎日うがいを“5秒”頑張るだけで健康を目指せる!」という記事が公開されました。

前日の9月18日に放送された『有働由美子の健康案内人!』の内容を記事化したもので、東京都健康長寿医療センター歯科口腔外科の平野浩彦先生が「長生きうがい」を紹介しています。[1]

方法はとても簡単です。

水を口に含み、頬に水をぶつけるようなイメージで素早く左右へ動かし、しっかり音を立てながら5秒間ブクブクしてから吐き出します。

記事では、水そのものが負荷となり、舌や口の周囲の筋肉を使うことで口のトレーニングになると説明されています。さらに、「感染症対策と同時に口のトレーニングにもなる」という趣旨も紹介されています。[1]

歯科衛生士としてこの記事を読んでいて、私は一つの数字が気になりました。

「5秒」という時間は、どこから出てきたのでしょうか。

ブクブクうがいをすると、頬や唇、舌を使うことは感覚的にもよく分かります。

でも、「筋肉を使う」ことと、「5秒行えば筋力が上がる」ことは同じではありません。

そこで今回は、「テレビで紹介されたから正しい」「健康番組だから科学的根拠が弱い」と最初から決めるのではなく、長生きうがいの過去の紹介、口の筋肉の働き、ブクブク運動の人間研究、オーラルフレイルへの介入研究、さらに感染症とうがいの研究まで遡って調べました。

先に結論を少しだけお伝えすると、ブクブクという運動そのものには、思った以上に研究があります。

一方で、「水を左右へ高速で5秒」という今回の具体的な方法になると、現在の研究で直接確認されている範囲との間に、まだ一つ橋が足りませんでした。

テレビで紹介された「5秒ブクブクうがい」は何をしている?

今回のテレ朝POSTでは、普段の「ブクブクペッ」ですぐ吐き出すのではなく、水を左右へ素早く移動させ、5秒続けることがポイントとして紹介されています。[1]

内容を分解すると、実はいくつもの医学的な問いが含まれています。

  • ブクブクすると舌・頬・口の周囲の筋肉を使うのか
  • 水そのものが筋肉への負荷になるのか
  • その運動を繰り返せば筋力が上がるのか
  • 5秒で十分なのか
  • 口腔機能が改善するのか
  • オーラルフレイル対策になるのか
  • 感染症対策にもなるのか

これらは一続きに見えますが、研究としては別々に確認する必要があります。

例えば、歩けば脚の筋肉は動きます。でも、「歩行中に脚の筋肉が活動した」という研究だけで、「この速度で5秒歩けば脚力が上がる」とは言えません。

口の筋肉でも同じです。

まずは、ブクブクという運動そのものに意味があるのかから見ていきます。

その前に――「長生きうがい」は昔から5秒だった?

今回調べていて、最初に意外だったのがここでした。

平野浩彦先生は2022年に『食事でムセない!のどを鍛える 長生きうがい』を出版しています。

国立国会図書館に登録されている出版紹介では、この方法は「1動作10秒」と説明されています。[2]

さらに2023年の平野先生への取材記事では、「長生き10秒うがい」という表現が使われています。そこでは、およそ30mLの水を口へ含み、水を5回「噛む」ように動かしたあと、左右へ10秒、続いて前後へ10秒水を動かす方法が紹介されています。[3]

2025年7月に平野先生本人名義で掲載された一般向け記事では、さらに具体的です。

左右方向は、1秒間に1往復、10秒間で10往復。続く前後方向も、1秒間に1往復、10秒間で10往復と説明されています。できる人は一連の運動を2セット行う方法です。[4]

つまり、「20秒」という数字は、一つの動作を20秒続けるという意味ではなく、

左右10秒+前後10秒

です。

時系列にすると、

  • 2022年:1動作10秒
  • 2023年:左右10秒+前後10秒
  • 2025年:左右10秒+前後10秒
  • 2026年9月のテレビ版:左右5秒

となります。

もちろん、ここから「テレビだから勝手に短くした」と考えることはできません。

平野先生自身が最近方法を変更した可能性もありますし、高齢者でも取り組みやすい簡略版なのかもしれません。

ただし今回、公開されている学術論文や臨床試験登録まで調べた範囲では、従来10秒だった左右運動を、なぜ5秒にしたのかを説明する臨床研究は確認できませんでした。

ブクブクすると、本当に口の筋肉を使う?

ここは比較的はっきりしています。

口に水を含んだ状態で勢いよく左右へ動かすには、まず唇を閉じ続けなければいけません。

水が外へ漏れないように口を閉じるため、口輪筋など、唇の周囲の筋肉が働きます。

頬もただ膨らんでいるだけではありません。

水を左右へ移動させながら口の中へ保持するには、頬の壁を保ちながら舌と協調させる必要があります。

そして舌も重要です。

口の中で水の位置や方向を調整し、喉側へ不用意に流れないようにしながら左右へ動かします。

つまりブクブクうがいは、口唇、頬、舌などを協調させる複合的な口の運動と考えることができます。

実際、高齢者の研究では、「ブクブクうがいができるか」という能力そのものが、口腔機能を知る一つの手掛かりとして調べられてきました。

したがって、テレビ記事の「ブクブクすることで舌や口周囲の筋肉を使う」という説明そのものには、十分な生理学的な妥当性があります。

ただし、ここから一段進むと話は別です。

筋肉を使ったことと、筋力が上がるほどのトレーニングになったことは同じではありません。

「筋肉を使う」と「筋トレになる」は別

口の筋肉についても、きちんとした筋力トレーニング研究では「どのくらいの負荷をかけるか」を設定しています。

口輪筋のトレーニングを調べた研究では、まず参加者ごとの最大能力を測定し、そのうえで最大能力の50%や80%といった負荷をかけています。[5]

例えば、最大能力の80%に相当する負荷を5秒間かけ、それを5回繰り返すといった方法です。

その研究では、強い負荷を繰り返した群では筋力の改善が認められ、やや軽い負荷を多数回繰り返した群では筋持久力の改善が認められました。[5]

ここにも「5秒」という時間は出てきます。

でも、今回のテレビ版と同じ意味ではありません。

研究では、どのくらい強い力を出しているかが分かっています。

一方、テレビ版は、水を左右へ5秒動かす方法です。その水による負荷が、その人の最大筋力の何%に相当するのかは分かりません。

つまり、5秒という時間だけが同じでも、運動の強さが違えば同じトレーニングとは言えません。

筋力トレーニングを考えるときは、強さ、1回の時間、繰り返す回数、1日の頻度、何週間続けるかをまとめて考える必要があります。

実は「ブクブク運動」で口唇閉鎖力が上がった人間研究がある

今回の調査で、とくに重要だった研究があります。

村永香織氏と辻大士氏による、「8週間の『ブクブクうがい運動』による高齢者の口唇閉鎖力への効果:クラスター割り付けクロスオーバー比較試験」です。[6]

論文は『老年歯科医学』40巻3号に収載され、冊子は2025年12月発刊、J-STAGEでは2026年2月2日に公開されています。

対象は65歳以上の高齢者で、

  • 地域在住高齢者36人、平均77.3歳
  • 高齢者施設入所者35人、平均89.6歳

でした。

行った運動は、

  • 1回1分
  • 1日2回
  • 8週間

です。

その結果、運動を行った期間では、行わなかった期間と比べ、口唇閉鎖力の変化量が、

  • 地域在住高齢者で5.3N大きい
  • 施設入所高齢者で3.1N大きい

という結果でした。どちらも統計学的に有意な差でした。[6]

この研究から分かるのは、ブクブクするような口の運動を毎日繰り返すことで、高齢者の口唇閉鎖力が改善し得るということです。

これはとても大切です。

ですから、「ブクブクうがいなんて科学的根拠のない健康法だ」と切り捨てるのは正確ではありません。

ただし、この研究はテレビの「5秒水うがい」と同じではない

ここはとても重要です。

論文本文まで読むと、この研究では、口唇を閉じて頬を膨らませる動きを繰り返す方法を行っています。

さらに、誤嚥を防ぐため、水を含まない「空ブクブクうがい」でよいと説明されていました。[6]

つまり、テレビ版は、

  • 水あり
  • 左右へ高速
  • 5秒

です。

一方、研究は、

  • 水なしでもよい
  • 頬を膨らませるブクブク様運動
  • 合計60秒
  • 1日2回
  • 8週間

です。

似た「ブクブク」ではありますが、同じ方法ではありません。

したがって、この研究は、ブクブク様運動で口唇閉鎖力が改善し得る証拠にはなります。

でも、テレビの5秒うがいの有効性を直接証明する研究ではありません。

この8週間研究にも限界はある

ここも公平に見ておきたいところです。

この研究は、単純な前後比較よりしっかりした比較方法を使っていますが、完璧な研究というわけではありません。

まず、参加者の9割以上が女性でした。また、対象は東京都内の高齢者に限られています。

そのため、男性や別の地域の高齢者でも同じ結果になるかは、今後さらに確認が必要です。

また、地域在住高齢者では、介入順序の違う2群で開始時の口唇閉鎖力に差がありました。施設入所者でも、開始時の介護度に群間差がありました。

研究者自身も、より望ましい回数、運動時間、頻度、期間はまだ分からないとしています。時期による影響も認められ、必要と見込まれた人数をわずかに下回った点も限界として挙げられています。[6]

もう一つ、研究の透明性を見るうえで知っておきたい点があります。

調査は2024年5月から10月に行われました。一方、UMIN臨床試験登録システムで一般公開されたのは2024年12月でした。

つまり、公開登録は研究開始後です。

ただし論文では、解析計画は介入開始前に文書化し、倫理審査で承認を受けていたと説明されています。

ですから、「登録が後だったから結果は信用できない」と単純に考える必要はありません。

一方で、研究開始前に一般公開された試験登録と比べると、研究計画と最終報告を外部から照合するという意味での透明性には差があります。

では「5秒」と「10秒」は直接比べられている?

ここが今回の最大の疑問でした。

そもそも今回のテレビ記事では、5秒を1日に何セット行うのか、何週間続けるのか、水を何mL使うのかというトレーニング全体の量までは示されていません。

記事から明確に読み取れるのは、主に「左右へ素早く動かす」「音を立てる」「5秒」という部分です。[1]

そこで、5秒、10秒、20秒、30秒、60秒と、ブクブクうがいの時間を変えて、何秒なら十分なのか、5秒でも10秒と同じなのかを直接比べた研究を探しました。

しかし今回確認した範囲では、

  • 5秒と10秒
  • 5秒と20秒
  • 5秒と60秒

を直接比較した臨床研究は確認できませんでした。

さらに、先ほどの8週間研究の著者ら自身も、研究開始前には、回数、運動時間、頻度、期間を規定して口唇閉鎖力への効果を検証した報告が見当たらなかったという趣旨を述べています。[6]

つまり、ブクブク運動の研究は、「本当に効果があるのか」だけでなく、「何秒、何回、何週間やればよいのか」を調べ始めた段階でもあります。

ここから、「5秒では短すぎて意味がない」と結論することもできません。

5秒でもかなり強く、速く、何セットも繰り返せば、筋肉への刺激になる可能性はあります。

ただし現在のところ、「5秒で十分だ」と示した比較試験は確認できない。

これが最も正確な表現です。

「水が負荷になる」はどこまで分かっている?

テレビ記事では、水そのものが口の筋肉への負荷になるという趣旨で説明されています。

これは理屈としては理解しやすいです。

口の中で水を加速させ、左右へ切り返しながら、唇を閉じて保持するには力が必要だからです。

ただし、水を動かしたときに、口の筋肉が最大能力の何%くらい働くのかとなると、まだ十分に分かっていません。

ここで興味深い研究があります。

東京都健康長寿医療センターでは2026年、「粘度の異なる溶液を用いた含嗽が舌骨上筋群の筋活動に与える影響の検証」という臨床研究がUMINへ登録されています。研究責任者は、今回テレビに出演した平野浩彦先生です。[7]

65歳以上で舌圧が30kPa未満などの条件を満たす人を対象に、粘度の異なる5種類の液体で、それぞれ20秒うがいしたときの舌骨上筋群の筋活動量を調べる計画です。嚥下障害がある人や、すでに口腔機能低下症と診断されている人などは除外されています。[7]

つまり、液体の性質が違うと、うがい中の筋肉の活動も変わるのかを調べる研究です。

ただし、ここも慎重に読む必要があります。

UMINの最終更新は2026年4月1日で、登録上は参加者30人の組み入れが終わり、「参加者募集終了・試験継続中」となっていますが、結果は未公表です。[7]

また、登録上の試験開始予定日は2026年2月1日、一般公開日は4月1日です。そのため、この研究も一般公開された試験登録は試験開始予定日より後です。[7]

さらに研究費提供組織として、サンスター株式会社が登録されています。[7]

これは、「企業が研究費を出しているから結果は信用できない」という意味ではありません。

研究結果を読む際には、研究方法だけでなく、誰が研究費を提供したかも一緒に確認しておく、という意味です。

そして何より、この研究の結果はまだ発表されていません。

したがって現時点で、「液体の粘度が高いほど筋トレ効果が高い」、あるいは「普通の水でも十分な筋力トレーニングの負荷になる」と結論することはできません。

言えるのは、液体を使ったうがい中の筋活動そのものが、今まさに研究されているテーマというところまでです。

口の筋肉そのものは、高齢者でも鍛えられる

では少し視野を広げて、そもそも高齢者の口の筋肉はトレーニングで変わるのかを見てみます。

ここにはかなり研究があります。

Linらが2022年に発表した舌抵抗訓練についての系統的レビューとメタ解析では、12件の無作為化比較試験、合計388人が解析されました。[8]

舌を抵抗に押しつけるトレーニングを行った群では、対照群より、

  • 前方の最大舌圧が平均5.34kPa高い
  • 後方の最大舌圧が平均8.12kPa高い

という結果でした。65歳以上の健常高齢者に限った解析でも、前方舌圧の改善が認められています。[8]

またHsuらが2026年に発表した口腔・咽頭運動についての系統的レビューとメタ解析では、11件の無作為化比較試験、622人をまとめた結果、最大舌圧だけでなく、反復唾液嚥下テストや舌・口唇の素早い動きを調べる検査でも改善が認められました。[9]

この舌・口唇の素早い運動機能を調べる検査を、オーラルディアドコキネシス(ODK)と呼びます。

「パ」「タ」「カ」などをできるだけ速く繰り返し発音し、口唇や舌の運動機能を測る検査です。

つまり、年齢を重ねたら口の筋肉はもう鍛えられないわけではありません。

適切な運動を繰り返せば、口腔機能の一部は変化し得ます。

ただし「口を鍛える」と一言でまとめるのも危険

ここまで読むと、「ブクブクをしておけば、舌圧も噛む力も飲み込みも全部よくなるのでは?」と思うかもしれません。

でも研究を見ると、そこまで単純ではありません。

Duらが2026年7月に発表したオーラルフレイル関連介入の系統的レビューでは、23研究、合計2,412人が対象となり、そのうち18研究は無作為化試験でした。[10]

口腔運動によって、舌圧や舌口唇運動機能などが改善する方向を示した研究は複数ありました。

一方、研究ごとに運動内容、実施量、追跡期間、評価方法がかなり異なっています。

そのため、研究全体としての確実性は低い~非常に低いと評価されました。著者らも、今後は運動量や継続状況を明確に報告し、長期的な効果を評価する必要があるとしています。[10]

さらにChoiらが2026年に発表した系統的レビューとメタ解析では、19研究を整理し、8研究を統合解析しています。

そこでは、舌の運動では嚥下機能、咀嚼運動では咀嚼機能が改善した一方、口唇運動から嚥下機能への効果は統計学的に明確ではありませんでした。[11]

つまり、行った訓練に近い機能ほど変化しやすい可能性があります。

口を動かせば、口の機能が全部まとめて良くなるという話ではありません。

「検査値が上がった」と「食べられるようになった」も同じではない

歯科研究を読むときに、ここはとても大切です。

例えば、舌圧が上がった、口唇閉鎖力が上がった、「パ」「タ」「カ」を速く言えるようになった。

これは重要な結果です。

でも、その人が実際に、硬いものを食べやすくなったのか、食事時間が短くなったのか、むせが減ったのか、食べられる食品が増えたのかは、別に確認する必要があります。

当院でも以前、入れ歯で奥歯が噛み合っていても天然歯と同じ?高齢者297人の「噛める食品」を調査という記事で、奥歯が接触していることと、実際に食品を噛めることは同じではないと紹介しました。

口腔機能でも同じです。

筋力の検査値が良くなることと、日常生活で食べたり飲み込んだりする機能が良くなることは、一段分けて考える必要があります。

では「オーラルフレイル対策」と言っていい?

テレビ記事では、硬いものが食べにくい、食事中にむせる、発音しづらいといった変化を、オーラルフレイルのサインとして紹介しています。[1]

2024年の3学会合同ステートメントでは、オーラルフレイルは、健康な口腔状態と口腔機能低下との間にある状態として整理されています。[12]

現在用いられている「OF-5」では、

  • 歯が少ない
  • 噛みにくい
  • 飲み込みにくい
  • 口が乾く
  • 舌口唇運動機能が低い

の5項目を評価し、2項目以上に当てはまるとオーラルフレイルとします。[12]

ここで分かることがあります。

この5項目全部を、ブクブクうがいだけで改善できるわけではありません。

ブクブクしても、失った歯が増えることはありません。

入れ歯が合わなくて噛めないのであれば、義歯の調整や治療が必要です。

口腔乾燥が薬の副作用などによるものであれば、筋トレだけで原因を解決できるとは限りません。

ですから私は、ブクブクうがいを「オーラルフレイルのすべてを改善する方法」と考えるより、「オーラルフレイルを構成する一部の口腔運動機能へ働きかける、簡便な運動の候補」と考える方が、今の研究には合っていると思います。

口腔機能低下症については、口腔機能低下症を“検査項目”で終わらせない:咀嚼・舌圧・栄養をつなぐ高齢者歯科の臨床解釈でも詳しく解説しています。

オーラルフレイルへの介入研究では何が変わった?

オーラルフレイルを対象にした介入研究もあります。

平野先生も共同著者であるShirobeらの研究では、オーラルフレイルに該当する高齢者へ12週間の口腔機能訓練を行いました。[13]

内容は、準備運動、開口訓練、舌圧訓練、発音訓練、咀嚼訓練を組み合わせたものです。

介入群51人、対照群32人を解析し、介入群では舌口唇運動機能の一部と舌圧が改善しました。論文全体では、咀嚼や嚥下を含む複数の口腔機能を評価しています。[13]

ここで重要なのは、行われたのが一人ひとりの口腔機能に関係する複数の訓練であり、5秒ブクブク一種類ではないことです。

オーラルフレイル対策を考えるときは、一つの簡単な運動で全部を解決するというより、何の機能が落ちているのかを確認して、それに合った方法を選ぶという考え方が大切です。

「長生きうがい」なら、本当に長生きにつながる?

ここは名称の印象が強いだけに、慎重に考えたいところです。

オーラルフレイルと将来の健康状態を調べた柏スタディでは、地域在住の65歳以上の高齢者2,011人を追跡しました。[14]

当時使われていた6項目のうち3項目以上に問題がある人をオーラルフレイルとしたところ、その後のリスクは、

  • 身体的フレイル 約2.4倍
  • サルコペニア 約2.2倍
  • 要介護 約2.3倍
  • 死亡 約2.2倍

と報告されました。[14]

現在のOF-5を用いた長期追跡研究でも、年齢などさまざまな要因を調整したあと、オーラルフレイルのある人では、要介護や死亡のリスクが高いことが報告されています。[15]

ここで、

「では口を鍛えれば、そのリスクが下がるのですね」

と思いたくなります。

でも、ここで一度止まる必要があります。

これらは観察研究です。

最初に口腔状態を調べ、その後何年間も追跡して、要介護や死亡が多いかを比べた研究です。

長生きうがいをした人と、しなかった人を無作為に分けて死亡率を比べた研究ではありません。

ですから、オーラルフレイルのある人ほど死亡が多かったことと、ブクブクうがいをすれば死亡が減ることは別です。

この違いはとても重要です。

2022年の『長生きうがい』の出版紹介には、将来の死亡・要介護リスクについて強い表現も使われています。

しかし、これを「うがいをした臨床試験で死亡や要介護が減った」という意味に受け取るのは適切ではありません。

今回調べた範囲では、5秒ブクブクうがいによって要介護や死亡が減ったことを示す介入試験は確認できませんでした。

「長生きうがい」という名称と、「このうがいで寿命が延びることが臨床試験で証明された」という意味は、分けて考える必要があります。

「感染症対策にもなる」はどう考える?

テレビ記事にはもう一つ、「感染症対策と同時に口のトレーニングにもなる」という趣旨の説明があります。[1]

うがいと感染症については、実際に臨床試験があります。

2005年に日本で行われた研究では、18〜65歳の健康成人387人を、水うがい群、ポビドンヨードうがい群、通常生活群に分け、60日間追跡しました。[16]

その結果、水うがい群では上気道感染症の発症が少なく、通常生活群に対するハザード比は0.60、95%信頼区間は0.39〜0.95でした。[16]

一方で、2014年に大学生600人を対象に行われた別の無作為化比較試験では、うがいをした群で上気道感染症が明確に減る結果は得られませんでした。臨床的な上気道感染症は、うがい群で28.3%、うがいをしない群で21.7%で、統計学的な有意差はありませんでした。[17]

つまり、

  • 水うがいと感染症を調べた研究はある
  • しかし結果は一貫していない

という状態です。

さらに重要なのは、これらの研究が、今回の「水を左右へ高速で5秒」というブクブクうがいを調べたものではないという点です。

喉まで水を回す一般的なうがいと、口腔内で左右へ水を動かすブクブクうがいは、同じ「うがい」という言葉でも介入内容が違います。

ですから、一般的なうがいには感染症予防を調べた研究があることと、5秒ブクブクすれば感染症を予防できることは分けて考えた方がよいでしょう。

口腔ケアで肺炎を防ぐ研究も「5秒ブクブク」とは別

高齢者の感染症というと、誤嚥性肺炎も気になるかもしれません。

歯磨き、舌清掃、義歯清掃、専門的口腔ケアなどを行い、肺炎を予防できるか調べた研究は以前からあります。

ただし、これは口腔内の細菌や汚れを減らす口腔衛生管理の研究です。

今回の、水を左右へ5秒動かして筋肉を使うという運動とは、目的も方法も違います。

したがって、「口腔ケアと肺炎の研究があるから、5秒ブクブクでも肺炎を予防できる」とは言えません。

むせやすい方は「5秒だから安全」とは限らない

今回の方法は簡単に見えます。

でも、誰にでも同じように勧めてよいとは限りません。

ブクブクうがいをするためには、

  • 水を口の中に保持する
  • 舌や頬で動かす
  • 喉側へ流し込まない
  • 最後に吐き出す

という一連の動作が必要です。

口の中で水を安全に動かす能力が低いことは、嚥下機能の低下と関連することが以前から報告されています。

ですから、

  • 水やお茶でよくむせる
  • 水を口の中に保持しにくい
  • ブクブクした後に咳き込む
  • 吐き出す動作が難しい

といった場合に、「5秒だけなら安全」と一律に考えることはできません。

先ほど紹介した口唇閉鎖力の8週間研究では、誤嚥を避けるため、水を含まない空ブクブクでもよいという方法が採用されていました。[6]

これはとても興味深い点です。

テレビ記事では、水そのものが負荷になると紹介されています。

一方、直接的な介入研究では、水を使わないブクブク様運動でも口唇閉鎖力が改善したわけです。

水やお茶でよくむせる、食事量が減ってきた、体重が落ちてきた、食事中や食後に咳が増えたといった変化がある場合は、セルフトレーニングだけで済ませず、口腔機能や嚥下機能を確認することも大切です。

歯科衛生士としての結論――「ブクブク」には研究がある。でも「5秒」は別に考えたい

今回、テレビの「5秒ブクブクうがい」をきっかけに研究を追ってみて、最初の印象から一番変わったのはここでした。

調べる前は、「5秒という数字に本当に研究があるのだろうか」という疑問が中心でした。

でも調べてみると、ブクブクという運動そのものは、思った以上に理にかなっています。

口唇、頬、舌を協調させる運動です。

さらに、1回1分×1日2回×8週間のブクブク様運動で、高齢者の口唇閉鎖力が改善した人間研究もあります。[6]

舌抵抗訓練や複合的な口腔機能訓練では、舌圧や舌口唇運動機能などが改善する無作為化比較試験や系統的レビューもあります。[8][9][10][11]

ですから、「ブクブクうがいには何の根拠もない」とは言えません。

一方で、「テレビで5秒と言っていたから、5秒で十分なことまで科学的に証明されている」とも言えません。

過去の平野先生の公開資料では、1動作10秒が紹介され、2025年には左右10秒、前後10秒という具体的な方法が示されていました。

それが今回のテレビ版では左右5秒となっています。

しかし、

  • 5秒と10秒を比べた研究
  • 5秒と60秒を比べた研究
  • 5秒で口腔機能が改善することを直接調べた研究

は、今回確認した範囲では見つかりませんでした。

現時点での私の受け止めは、

「ブクブクという運動には研究がある。でも、“5秒”という具体的な時間まで同じ強さの証拠があるわけではない」

です。

テレビの健康情報を見るときには、その方法そのものに医学的な理屈があるかと、番組で示された5秒、10回、1日1回といった具体的な数字まで研究で確認されているかを分けて考えることが大切です。

今回の「5秒ブクブクうがい」は、その違いがとてもよく分かる題材でした。

よくある質問

Q.5秒以上やれば、もっと口が鍛えられますか?

今回確認した範囲では、5秒、10秒、20秒、60秒などを直接比較したブクブクうがいの臨床研究は確認できませんでした。

そのため、「長くやれば長いほどよい」とも、「5秒で十分」とも、現時点では言えません。

トレーニング効果は時間だけでなく、動かす強さ、往復回数、1日に何回するか、何週間続けるかなどにも左右されます。

Q.以前の長生きうがいは10秒なら、10秒やった方がいいですか?

2022年の書籍紹介では「1動作10秒」、2025年の記事でも左右10秒・前後10秒が紹介されています。

ただし、5秒群と10秒群を直接比較し、「10秒の方がよく効いた」と示した研究は確認できませんでした。

以前10秒だったことと、10秒の方が科学的に優れていることは別です。

Q.5秒ブクブクすればオーラルフレイルを予防できますか?

ブクブク様運動で口唇閉鎖力が改善した研究はあります。

ただし、テレビ版の5秒ブクブクだけで、オーラルフレイル全体を予防したり改善したりできることを示した研究は確認できませんでした。

オーラルフレイルには、歯数、咀嚼、嚥下、口腔乾燥、舌口唇運動など複数の問題が含まれます。原因に合わせた対策が必要です。

Q.水を使わなくても口のトレーニングになりますか?

少なくとも、今回紹介した8週間の研究では、水を含まない「空ブクブクうがい」でよいと説明され、口唇閉鎖力の改善が認められました。[6]

ただし、この研究はテレビ版とは異なり、1回1分、1日2回、8週間続ける方法です。

Q.ブクブクうがいとガラガラうがいは同じですか?

同じではありません。

ブクブクうがいは、主に口の中で水を動かします。ガラガラうがいは、水を喉側まで移動させて行います。

感染症予防を調べた過去の「うがい研究」を、左右5秒のブクブクうがいへそのまま当てはめない方がよい理由の一つです。

Q.むせやすい高齢者も、頑張って5秒やった方がいいですか?

水やお茶でよくむせる方、水を口の中に保持しにくい方、ブクブクした後に咳き込む方は、無理に勢いよく行わない方がよいでしょう。

「5秒だから安全」という基準が確認されているわけではありません。

むせが続く場合は、歯や入れ歯だけでなく、舌、口唇、咀嚼、嚥下なども含めて確認することが大切です。

まとめ

テレビ朝日で紹介された「5秒ブクブクうがい」を研究まで追うと、単純な「効く・効かない」では整理できないことが分かりました。

ブクブクうがいでは、口唇、頬、舌などを使うという説明には十分な妥当性があります。

さらに、1回1分、1日2回、8週間のブクブク様運動によって、高齢者の口唇閉鎖力が改善した直接的な人間研究もあります。[6]

また、舌圧など一部の口腔機能については、口腔筋トレーニングの無作為化比較試験や系統的レビューでも改善が報告されています。[8][9][10][11]

一方で、今回テレビで紹介された「水を左右へ高速で5秒」という方法そのものについて、

  • 5秒で十分な筋肉への負荷になること
  • 10秒や60秒と同じ効果が得られること
  • オーラルフレイルを改善すること
  • 感染症を予防すること

を直接確認した臨床試験は、今回の調査では確認できませんでした。

ですから、今の研究から最も正確に言えるのは、

ブクブクうがいには研究がある。

でも、

「5秒」まで科学的に確立した時間とは確認できない。

というところだと思います。

健康情報を見るときには、その方法に理屈があるかと、紹介された具体的な秒数や回数まで研究で裏づけられているかを分けて考える。

今回の「5秒ブクブクうがい」は、その大切さをよく教えてくれるニュースでした。

参考資料・参考文献

一般向け資料

  1. テレビ朝日/テレ朝POST. 「毎日うがいを“5秒”頑張るだけで健康を目指せる!口の専門家が勧める『長生きうがい』」2026年9月19日.
  2. 平野浩彦. 『食事でムセない!のどを鍛える 長生きうがい』文響社, 2022.
  3. 週刊女性PRIME. 平野浩彦先生への「長生き10秒うがい」取材記事, 2023.
  4. 婦人公論.jp. 平野浩彦「『長生きうがい』で口やのどの筋肉を一気に鍛える!毎日20秒の簡単ストレッチ」2025年7月21日.

学術資料

  1. 大矢ら. 口輪筋の筋力, 持久力の強化に対する有効なトレーニング法について. 日本顎口腔機能学会雑誌. 2009;15(2):131-138.
  2. 村永香織, 辻大士. 8週間の「ブクブクうがい運動」による高齢者の口唇閉鎖力への効果:クラスター割り付けクロスオーバー比較試験. 老年歯科医学. 40(3):167-177. 冊子2025年12月発刊, J-STAGE公開2026年2月2日. doi:10.11259/jsg.40.3_167.
  3. UMIN000061123. 粘度の異なる溶液を用いた含嗽が舌骨上筋群の筋活動に与える影響の検証. 東京都健康長寿医療センター研究所. 一般公開2026年4月1日.
  4. Lin CJ, Lee YS, Hsu CF, et al. Effects of tongue strengthening exercises on tongue muscle strength: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Scientific Reports. 2022;12:10438. doi:10.1038/s41598-022-14335-2.
  5. Hsu TW, Feng MC, Lin C, et al. Oropharyngeal Exercise Intervention for Swallowing Function in Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis. Gerodontology. 2026;43(1):1-10. doi:10.1111/ger.70013.
  6. Du S, Li X, Liu Y, et al. Interventions for Oral Frailty and Related Oral Functional Decline in Older Adults: A Systematic Review. Journal of Oral Rehabilitation. 2026. doi:10.1111/joor.70281.
  7. Choi YK, Park HA, Cha EG, Yun JH. The Effectiveness of Oral Exercise for Oral Function Rehabilitation in Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis. International Journal of Dental Hygiene. 2026. doi:10.1111/idh.70120.
  8. Tanaka T, Hirano H, Ikebe K, et al. Consensus statement on “Oral frailty” from the Japan Geriatrics Society, the Japanese Society of Gerodontology, and the Japanese Association on Sarcopenia and Frailty. Geriatrics & Gerontology International. 2024;24(11):1111-1119. doi:10.1111/ggi.14980.
  9. Shirobe M, Watanabe Y, Tanaka T, et al. Effect of an Oral Frailty Measures Program on Community-Dwelling Elderly People: A Cluster-Randomized Controlled Trial. Gerontology. 2022;68(4):377-386. doi:10.1159/000516968.
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  11. Tanaka T, et al. Oral frailty five-item checklist to predict adverse health outcomes in community-dwelling older adults: A Kashiwa cohort study. Geriatrics & Gerontology International. 2023;23(9):651-659. doi:10.1111/ggi.14634.
  12. Satomura K, Kitamura T, Kawamura T, et al. Prevention of upper respiratory tract infections by gargling: a randomized trial. American Journal of Preventive Medicine. 2005;29(4):302-307. doi:10.1016/j.amepre.2005.06.013.
  13. Goodall EC, Granados AC, Luinstra K, et al. Vitamin D3 and gargling for the prevention of upper respiratory tract infections: a randomized controlled trial. BMC Infectious Diseases. 2014;14:273. doi:10.1186/1471-2334-14-273.

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