2026年10月01日

(歯科衛生士さんの治療見学ノート)

はじめに
「乳酸菌のタブレットって、歯周病にもいいんですか?」
歯周病の治療やメインテナンスをしていると、ときどき患者さんからこんな質問をいただきます。
「腸活のために乳酸菌をとっています」
「口の中にも善玉菌ってあるんですよね?」
「善玉菌を増やしたら、歯周病も良くなりますか?」
“善玉菌”という言葉は、とても分かりやすいですよね。
歯周炎は、歯の周りに形成されるバイオフィルムと、それに対する私たちの体の炎症反応が深く関わる病気です。プロバイオティクスには、歯周病に関係する細菌との競合、抗菌性物質の産生、バイオフィルム構成への影響、上皮バリアや免疫反応への作用など、いくつもの仕組みが考えられています。
しかも今回の研究対象は、ただ歯周炎がある患者さんではありません。
2型糖尿病があり、なおかつ歯周炎がある患者さんです。
糖尿病では、慢性的な高血糖、AGE-RAGEシグナル、酸化ストレス、微小循環の変化、好中球やマクロファージなどの機能変化、創傷治癒の遅れなどが、歯周組織の炎症や修復に影響すると考えられています。
そう聞くと、
「だったら、普通の歯周治療に“善玉菌”を足せば、もっと治りやすくなるのでは?」
と思いたくなります。
では「なんとなく効きそう」という理屈ではなく、実際の患者さんを無作為に分けた臨床試験をまとめると、どうだったのでしょうか。
2026年9月28日にBMC Oral Healthで公開された更新メタ解析が、この問いをかなり真正面から検証しています。

今回調べたのは「善玉菌だけで歯周病が治るか」ではありません
最初に、今回の研究を読むうえで一番誤解してほしくないところがあります。
比較したのは、
プロバイオティクスだけを使う
vs
歯周治療をする
ではありません。
対象となったのは、2型糖尿病と歯周炎を併存する成人です。
そして比較したのは、
非外科的歯周治療+プロバイオティクス
と、
同じ非外科的歯周治療+プラセボ、またはプロバイオティクスなし
でした。
つまり、本当に調べたかったのは、
「通常の歯周治療をきちんと行ったうえで、さらにプロバイオティクスを足すと追加の利益があるのか?」
です。
ここはとても重要です。
たとえば、プロバイオティクスを使った患者さんの歯周ポケットが治療前より浅くなったとしても、それだけで「善玉菌が効いた」とは言えません。
なぜなら、対照群の患者さんも歯周治療を受けているからです。
知りたいのは、
「治療前より良くなったか」
ではなく、
「同じ歯周治療を受けた対照群より、さらに良くなったか」
です。
今回のキーワードは、ずっとこの「上乗せ効果」です。
歯周治療そのものは、今回の研究でも治療の土台です
今回の論文でも、非外科的歯周治療は歯周治療の基本として位置づけられています。
バイオフィルムをコントロールし、必要な歯肉縁下インスツルメンテーションを行い、患者さん自身のセルフケアも改善していく。
そこが治療の土台です。

今回の研究は、
「プロバイオティクスが歯周基本治療の代わりになるか」
を調べたものではありません。
乳酸菌のタブレットを食べているから、歯垢が残っていても大丈夫。
プロバイオティクスを使っているから、歯石を取らなくても大丈夫。
そういう話ではありません。
あくまで、
標準的な歯周治療という土台の上に、さらにプロバイオティクスを積み上げる価値があるのか
を調べています。
なぜ糖尿病がある歯周炎では「追加療法」が期待されるのでしょう
2型糖尿病と歯周炎は、「糖尿病の人は歯周病になりやすい」という一方向だけの関係ではありません。
持続する高血糖は、AGEs(終末糖化産物)の形成やAGE-RAGEシグナル、酸化ストレス、微小血管の変化、好中球・マクロファージなどの機能変化を通して、歯周組織の炎症や創傷治癒に影響する可能性があります。
一方、歯周炎は慢性的な炎症負荷となり、細菌や炎症性物質を介してインスリン抵抗性や代謝状態へ影響する可能性も考えられています。
だから糖尿病を伴う歯周炎では、
バイオフィルムを機械的に除去するだけでなく、微生物叢や宿主側の炎症反応にも働きかけられないか
という発想が出てきます。
そこにプロバイオティクスが登場します。
細菌どうしの競争を利用したり、抗菌性物質を産生したり、バイオフィルム構成や免疫反応へ作用したりできるのであれば、歯周治療に加える意味があるのかもしれません。
理屈としては、かなり魅力的です。
でも、
「効きそうな仕組みがある」
ことと、
「患者さんの歯周ポケットや歯を支える組織が実際にさらに改善する」
ことは同じではありません。
今回の研究が調べたのは、その先です。
8RCT・9報・511人をまとめた更新メタ解析
今回の研究は、
Efficacy of probiotics as an adjuvant therapy for periodontitis in patients with type 2 diabetes mellitus: an updated meta-analysis of randomized controlled trials
というシステマティックレビュー+メタ解析です。
対象になったのは、
- 8件のRCT
- 9報の論文
- 合計511人
- プロバイオティクス群257人
- 対照群254人
でした。
文献検索にはPubMed、Embase、Cochrane Libraryなどが使われ、2026年2月1日までの研究が検索されています。
今回の大きな特徴の一つは、RCTだけに限定したこと。
もう一つは、
30日、60日、90日、180日という異なる評価時点を一緒くたにせず、時点ごとに分けて統合したことです。
後で触れますが、この方法の違いが過去のレビューとの結論の違いにも関係しています。
「9報なのに8RCT」なのはなぜ?
論文は9報なのに、RCTは8件。
数字が合わないように見えますが、これは間違いではありません。
イランから出たBazyar 2020と、その後の報告は同じ無作為化比較試験から出た別報告でした。
そのため、同じ患者さんを別々の試験として二重に数えないよう、1つのRCTとして扱われています。
論文を読むときには、
「論文が何本あるか」
と
「独立した患者集団がいくつあるか」
は、必ずしも同じではありません。
少し細かい話ですが、メタ解析の人数を読むときには大切です。
参加者は中国・インド・イラン・ブラジル・スペインから
8件のRCTは2017年から2026年に報告され、中国、インド、イラン、ブラジル、スペインの患者さんが含まれていました。
追跡期間は、おおむね30日から6か月です。
日本人だけを対象にした研究ではありません。
もちろん、
「海外の研究だから日本では参考にならない」
という意味ではありません。
ただし、日本の患者さんにまったく同じ効果量が出ると保証された研究でもありません。
実は「同じ善玉菌」を8回試した研究ではありません

「プロバイオティクスのRCTが8件」と聞くと、同じ乳酸菌製剤を8回検証したようにも感じます。
ところが実際は、かなり違います。
研究によって、
- Lactobacillus reuteri
- Lactobacillus fermentum
- Bifidobacterium longum
- 複数の菌を組み合わせた製剤
- プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせたシンバイオティクス
などが使われていました。
投与方法も、
- カプセル
- 錠剤
- ロゼンジ
- チューインガム
- 局所投与
とさまざまです。
治療期間も数週間から数か月まで統一されていません。
つまり、
「プロバイオティクス」という一つの名前の中に、かなり違う治療がまとめられている
わけです。
この点は、後で「研究結果のばらつき」を考えるときにも重要になります。
まず主要な臨床指標の一つであるPD――30・60・90・180日のすべてで有意差なし
まず見たいのがPD、probing depthです。
歯周ポケットの深さを表す、歯周治療で重要な臨床指標の一つです。
今回の結果は次のようになりました。
| 評価時点 | 平均差(MD) | 95%信頼区間 | P値 | I² |
|---|---|---|---|---|
| 30日 | -0.15 mm | -0.42〜0.13 | 0.29 | 0% |
| 60日 | +0.26 mm | -0.53〜1.04 | 0.52 | 84% |
| 90日 | -0.12 mm | -0.55〜0.30 | 0.57 | 96% |
| 180日 | -0.11 mm | -0.33〜0.11 | 0.35 | 0% |

30日、60日、90日、180日のすべてで、プロバイオティクス追加による統計学的に有意な追加改善は認められませんでした。
ここは今回の研究でかなり重要です。
「短期なら効く」「半年後なら効く」という結果でもありませんでした
今回の研究では、異なる時点を混ぜずに解析しています。
30日。
60日。
90日。
180日。
それでもPDでは、どの時点にも統計学的に明確な追加利益はありませんでした。
つまり、
「3か月だけたまたま差が出なかった」
という結果ではありません。
ただし、逆方向にも言い過ぎてはいけません。
追跡はおおむね6か月までです。
だから、
1年間続けたらどうなるのか
2年間続けたらどうなるのか
までは分かりません。
「半年まで明確な差がなかった」と、
「長く使っても絶対に何の意味もない」
は違います。
もう一つの主要臨床指標CALも、90日・180日で有意差なし
もう一つ重要なのがCAL、clinical attachment levelです。
PDがポケットの深さを見るのに対し、CALは歯を支える歯周組織の付着状態を評価する重要な指標です。
今回、CALは5研究・420人で解析されました。
90日では、
MD -0.07 mm
95%信頼区間 -0.25〜0.12
P=0.46
I²=55%
180日では、
MD -0.03 mm
95%信頼区間 -0.31〜0.26
P=0.86
I²=0%
でした。
どちらの時点でも、統計学的に有意な追加利益は確認されませんでした。
つまり今回、
PDでも明確な追加利益なし。
CALでも明確な追加利益なし。
この2つが、著者らが結論を慎重にした大きな理由です。
ここまでなら「善玉菌は効かなかった」で終わりそうですが、結果はもう少し複雑です
もし今回、
PDも差なし。
CALも差なし。
出血指標も差なし。
炎症マーカーも差なし。
だったなら、結論はかなり単純です。
でも、そうではありません。
一部の出血・炎症関連指標では、プロバイオティクス群に有利な結果が出ています。
この「主要な臨床指標には差がないのに、一部の炎症指標には差が出る」というところが、今回の研究の面白い部分です。
SBIは90日でプロバイオティクス群が良好
SBI、sulcus bleeding indexは、歯肉溝周囲の出血や炎症を評価する指標です。
3研究・341人を統合した90日の解析では、
MD -0.72
95%信頼区間 -1.00〜-0.43
P<0.001
となり、プロバイオティクス群に有利な結果でした。
P値だけを見ると、かなりはっきりしています。
しかし、もう一つ見ておきたい数字があります。
I²=95%。
研究間の結果のばらつきが非常に大きいのです。
つまり、
「どの研究でも同じようにSBIが0.72改善した」
という意味ではありません。
SBIとBOPは同じ指標ではありません
ここは歯周検査に関わるところなので、少し細かいですが大切です。
今回、有意差が出たのはSBIです。
一方、8RCTの中にはBOP、bleeding on probingを評価している研究もあります。
どちらも歯ぐきの出血や炎症に関係しますが、同じ評価指標ではありません。
したがって今回の結果を、
「BOPが改善した」
と置き換えてしまうのは適切ではありません。
正確には、
「出血関連指標の一つであるSBIでは、90日にプロバイオティクス群に有利な結果が出た」
です。
ところがGIでは、30日と90日に対照群が良好
さらに結果は複雑です。
GI、gingival indexでは、
30日:
MD +0.37
95%信頼区間 0.10〜0.64
P=0.008
I²=0%
90日:
MD +0.42
95%信頼区間 0.06〜0.79
P=0.02
I²=54%
となり、こちらは対照群に有利でした。
60日には有意差がありません。
ただし、GIのデータを提供したのはわずか2研究・44人です。
さらに90日の結果は、特定の研究を1つ除外すると、
MD 0.45
95%信頼区間 -0.69〜1.60
P=0.44
となり、有意差が消えました。
したがって、
「プロバイオティクスを使うと歯肉炎が悪化する」
とは到底言えません。
大切なのは、
SBIではプロバイオティクス群有利
なのに、
GIでは一部時点で対照群有利
という、結果の方向が一貫していないことです。

一つのP値だけを切り取ると、まったく違う記事が書けてしまいます
今回の論文を読んでいて、ここは特に面白いところだと思いました。
SBIだけを取り出せば、
「善玉菌で歯ぐきの出血が改善!」
という見出しを作れます。
GIだけなら、
「善玉菌群より対照群の方が良かった!」
とも書けます。
PDとCALだけなら、
「主要な歯周指標への上乗せ効果なし」
です。
全部、同じメタ解析から出てきた結果です。
だから研究を読むときには、
「P<0.05になった項目はあったか」
だけを見るのではなく、
- もともと重要な評価項目は何だったのか
- 結果の方向は揃っているか
- 何人のデータなのか
- 何研究から出た数字なのか
- 研究間のばらつきは大きくないか
まで見なければいけません。
今回の論文自身も、統計学的有意差が出た副次アウトカムの方向は一様ではないとして、慎重な解釈を求めています。
IL-6には30日・90日とも有意差なし
次に、全身の炎症に関係する指標を見てみます。
IL-6は4研究・380人で評価されています。
30日:
SMD -0.07
95%信頼区間 -1.47〜1.33
P=0.92
I²=97%
90日:
SMD -0.69
95%信頼区間 -2.03〜0.65
P=0.31
I²=92%
でした。
どちらの時点でも統計学的に有意な群間差はありませんでした。
しかもI²は92〜97%。
研究間のばらつきが非常に大きい結果です。
TNF-αにも有意差なし
TNF-αは3研究・290人で評価されました。
30日時点で、
SMD -1.00
95%信頼区間 -2.45〜0.46
P=0.18
I²=96%
です。
こちらも統計学的に明確な群間差はありませんでした。
ここでもI²=96%です。
hs-CRPだけは、はっきりプロバイオティクス群が良好でした
一方、hs-CRPではかなり目を引く結果が出ています。
2研究・251人、30日時点で、
SMD -1.69
95%信頼区間 -1.98〜-1.40
P<0.001
I²=0%
でした。
プロバイオティクス群で有意に低い結果です。
ここは隠す必要はありません。
むしろ、
プロバイオティクスにまったく生物学的作用がない、と単純に切り捨てるべきではない
ことを考えさせる結果です。
ただし、
hs-CRPが下がったこと
と
歯周病がさらに治ったこと
は同じではありません。
炎症マーカーが動いても、PD・CALが変わらなければ同じ意味ではありません

hs-CRPは全身性炎症に関係するマーカーです。
一方、PDやCALは歯周組織の状態を見る臨床指標です。
性質が違います。
さらに今回のhs-CRP解析は、
2研究・251人・30日時点
です。
ここから、
- 半年後もhs-CRPが低い
- 歯周ポケットが長期的に安定する
- 歯を失いにくくなる
- 糖尿病合併症が減る
とまでは言えません。
短期間の炎症マーカー変化と、長期間の患者さんの利益は分けて考える必要があります。
糖尿病患者さんなら気になるHbA1c――90日では有意差なし
今回の研究で、特に気になる数字の一つがHbA1cではないでしょうか。
90日のHbA1cを統合できたのは、2研究・140人です。
結果は、
MD -0.38%ポイント
95%信頼区間 -0.88〜0.12%ポイント
P=0.13
I²=54%
でした。
点推定値では、プロバイオティクス群のHbA1cが対照群より0.38%ポイント低い方向でした。
しかし、95%信頼区間は0をまたいでいます。
ですから、
「プロバイオティクスでHbA1cが0.38%改善した」
とは言えません。
今回言えるのは、
「90日の統合解析では、HbA1cに統計学的に明確な追加改善を確認できなかった」
というところまでです。
「511人でHbA1cに差がなかった」でもありません

ここも数字を読むときに注意したいところです。
今回の研究全体には511人が含まれています。
しかし、511人全員についてすべての項目が測定されたわけではありません。
たとえば、
| 評価項目 | 統合された参加者数 |
|---|---|
| PD | 511人 |
| CAL | 420人 |
| SBI | 341人 |
| IL-6 | 380人 |
| TNF-α | 290人 |
| hs-CRP | 251人 |
| HbA1c | 140人 |
です。
したがって、
「511人でHbA1cを調べたら差がなかった」
ではありません。
HbA1cについては、2研究・140人の90日データです。
「研究全体の参加者数」と「各項目の解析人数」を混同しないことも、メタ解析を読むうえで大切です。
今回の結果を一覧にすると、かなり複雑です

| 評価項目 | 評価時点 | 群間差 |
|---|---|---|
| PD | 30日 | 有意差なし |
| PD | 60日 | 有意差なし |
| PD | 90日 | 有意差なし |
| PD | 180日 | 有意差なし |
| CAL | 90日 | 有意差なし |
| CAL | 180日 | 有意差なし |
| GI | 30日 | 対照群有利 |
| GI | 60日 | 有意差なし |
| GI | 90日 | 対照群有利 |
| SBI | 90日 | プロバイオティクス群有利 |
| 歯肉退縮 | 90日 | 有意差なし |
| 歯肉退縮 | 180日 | 有意差なし |
| IL-6 | 30日 | 有意差なし |
| IL-6 | 90日 | 有意差なし |
| TNF-α | 30日 | 有意差なし |
| hs-CRP | 30日 | プロバイオティクス群有利 |
| HbA1c | 90日 | 有意差なし |
こうして並べると、
「全部効果なし」
でも、
「善玉菌は歯周病に効く」
でもないことがよく分かります。
一部の炎症・出血関連指標には有利なシグナルがある。
でもPD・CALという主要な歯周臨床指標では、安定した上乗せ利益が見えていない。
この両方を同時に読む必要があります。
なぜ炎症の数字は動いても、PD・CALは動かないことがあるのでしょう
著者らは、この点について一つの生物学的な解釈を示しています。
出血関連指標や全身炎症マーカーは、バイオフィルムと宿主反応のバランスが変われば、比較的短期間でも動く可能性があります。
一方で、PDやCALの改善には、
- 炎症が持続的に抑えられること
- 結合組織が再構築されること
- 良好な創傷治癒が進むこと
などが必要になります。
さらに2型糖尿病では、高血糖、AGE-RAGEシグナル、酸化ストレス、微小血管機能、自然免疫反応などが修復過程へ影響し得ます。
だから、
「炎症の数字が少し動くこと」
と、
「歯を支える組織がさらに治ること」
は同じではありません。
今回の研究を読むうえで、私はここがかなり重要だと思います。
「有意差なし」は「絶対に効果ゼロ」の証明ではありません
ここで、反対方向の誤解にも注意が必要です。
PDやCALに統計学的有意差がなかったから、
「プロバイオティクスには絶対に何の作用もない」
と証明されたわけではありません。
今回の研究には、
- RCT自体が8件
- 一部アウトカムは2〜3研究しかない
- 菌株が違う
- 複数菌種を使った研究もある
- シンバイオティクスも含まれる
- 投与量が違う
- 剤形が違う
- 局所投与と経口投与が混在する
- 治療期間が違う
- 背景となる歯周治療も完全には同じではない
- 糖尿病のコントロール状態や歯周炎の重症度も均一ではない
という限界があります。
ですから今回の正確な読み方は、
「効果がゼロと証明された」
ではなく、
「現在あるRCTをまとめても、主要アウトカムに一貫した追加利益を支持できない」
です。
この二つは似ているようで、意味がかなり違います。
だからといって「少し効いているかもしれないなら全員使えばいい」にもなりません
では、
「完全否定ではないなら、とりあえず全員使えばいいのでは?」
となるかというと、それも違います。
追加療法を日常的な標準治療として勧めるのであれば、
- 費用
- 毎日続ける手間
- 菌株や製剤による違い
- 長期データの不足
- 標準治療の代用品と誤解される可能性
なども考える必要があります。
そして何より、
「何か生物学的作用があるかもしれない」
より一段強い、
「患者さんにとって意味のある追加利益が繰り返し確認されている」
という証拠がほしいところです。
今回の著者らも、現在のランダム化エビデンスだけでは、2型糖尿病と歯周炎を併存する患者さん全員にプロバイオティクスを日常的な標準追加療法として推奨する根拠には足りないとしています。
I²=96%――メタ解析の「平均値」の裏では研究結果がかなり違います
今回の研究で、もう一つ見逃したくない数字があります。
I²です。
I²は、研究結果にみられるばらつきのうち、偶然の標本誤差だけではなく、研究間の違いによる異質性がどの程度を占めるかを見る指標の一つです。
90日PDは、
I²=96%。
SBIは、
I²=95%。
IL-6は、
92〜97%。
TNF-αは、
96%。
かなり大きな異質性です。

つまり、90日PDが「有意差なし」だったといっても、
すべての研究で同じような小さな差しかなかった
という意味ではありません。
研究によって結果の方向や大きさがかなり違う中で、全体として安定した追加利益を確認できなかった、ということです。
なぜ研究結果がそんなにばらつくのでしょう
今回の論文では、その理由として考えられるものがいくつも挙げられています。
たとえば、
- 菌株
- 単一菌株か複数菌株か
- プロバイオティクスかシンバイオティクスか
- 投与量
- 錠剤・カプセル・ロゼンジなどの剤形
- 局所投与か経口投与か
- 投与期間
- 背景となる歯周治療
- 糖尿病のコントロール状態
- 歯周炎の重症度
などです。
つまり、
「プロバイオティクス」
という名前だけで全部を一つの治療と考えるのは、少し乱暴です。
ではI²=0%なら「結果は盤石」なのでしょうか
これも単純ではありません。
今回、30日PDと180日PDではI²=0%でした。
一見すると、
「研究結果が完璧に一致している」
ように感じます。
しかし、それぞれの時点で寄与した研究は2件です。
ですから、
I²=0%
=
大量の研究で完全に同じ結果が再現された
ではありません。
異質性の数字は、
何本の研究から計算された数字なのか
とセットで見る必要があります。
RCTだからといって、全部が同じ品質ではありません
RCTは治療効果を調べるうえで重要な研究デザインです。
しかし、
「RCTである」
と
「質の高いRCTである」
も同じではありません。
今回、CochraneのRoB 2を用いて評価すると、
- 4RCT:全体としてlow risk
- 4RCT:全体としてhigh risk
でした。
主な懸念は、無作為化過程、割付隠蔽に関する記載、一部研究のアウトカム測定などでした。
つまり、
RCTだけを集めたから、すべての証拠が高品質になった
わけではありません。
GRADEによるエビデンスの確実性も「moderate〜very low」
著者らはGRADEによるエビデンスの確実性評価も行っています。
その結果は、
moderateからvery low
でした。
主な格下げ理由は、
- バイアスのリスク
- 結果の不一致
- 推定値の不精確さ
です。
ですから、
「プロバイオティクスが効かないことが非常に高い確実性で証明された」
という研究でもありません。
慎重に読む必要があります。
出版バイアスも「問題なし」と確認されたわけではありません
今回、各メタ解析に含まれる研究数が10件未満だったため、著者らは出版バイアスを正式には評価していません。
これは、
「出版バイアスがなかった」
という意味ではありません。
「十分に評価できなかった」
です。
似ていますが、意味は違います。
以前のレビューでは「効いた」とする結果もありました
今回の結果が面白い理由の一つが、過去のレビューよりも結論が慎重になっていることです。
今回の論文では、2025年に出た先行レビューが二つ取り上げられています。
一方の2025年レビューは、3研究のみを含み、PDとCALの3か月値だけを統合していました。
もう一方の2025年レビューは、PDとIL-6に有意な改善を報告していましたが、RCTだけではなく準実験研究も一緒に含め、異なる追跡時点を分けずに統合していました。
今回の更新メタ解析では、
RCTだけに限定し、異なる追跡時点を混ぜずに解析しました。
その結果、主要な臨床指標について、より慎重な結論になりました。

メタ解析の答えは「何本集めたか」だけでは決まりません
メタ解析という言葉を聞くと、
「たくさんの研究を全部足したのだから、一番正しい答えが自動的に出る」
という印象を持つかもしれません。
でも実際には、
どの研究を入れたのか
RCTだけにしたのか
準実験研究まで入れたのか
30日のデータと180日のデータを一緒にしたのか
別々に解析したのか
で、結果は変わります。
今回の論文が以前のレビューより慎重な結果になったことは、
メタ解析は「研究をたくさん集めれば自動的に答えが決まる仕組み」ではない
ことも教えてくれます。
9月28日に出た最新論文でも、文献検索は2月1日までです
今回の研究は2026年9月28日に公開されました。
一方、文献検索が終了したのは2026年2月1日です。
これはシステマティックレビューでは珍しいことではありません。
文献を検索し、
研究を選び、
データを抽出し、
解析し、
論文を書き、
査読を受け、
公開される。
そこには時間がかかります。
ですから、
「9月28日に公開された最新メタ解析」
だからといって、
「9月28日までに世界で発表された研究をすべて検索した」
という意味ではありません。
これも「最新研究」という言葉を見るときに覚えておきたいところです。
半年より先のことは、このメタ解析では分かりません
今回含まれた研究の追跡期間は、おおむね30日から6か月でした。
だから今回の研究だけでは、
- 1年後
- 2年後
- 歯の喪失
- 再発
- 再治療
- 長期的なHbA1c
- 糖尿病合併症
までは判断できません。
歯周炎も糖尿病も慢性的に管理していく病気です。
6か月までの結果は重要ですが、
長期予後そのものを調べた研究ではない
ことは忘れないようにしたいです。
市販されている口腔プロバイオティクス全部を判定した研究でもありません
もう一つ、患者さんへの説明で気をつけたいところです。
今回の結果を、
「市販されている乳酸菌タブレットやプロバイオティクス製品は全部意味がない」
と読み替えることはできません。
市販されている口腔プロバイオティクス製品には、今回のRCTで調べられたものとは異なる菌株、菌の組み合わせ、量、剤形を使ったものがあります。
今回の研究自体でも、菌株や投与方法はかなり違っていました。
だから、
「プロバイオティクスという名前なら全部同じ効果」
とも、
「今回差がなかったから、市販製品もすべて無効」
とも言えません。
逆に、
「善玉菌だから歯周病に効くことが証明されている」
とも言えません。
製品名ではなく、どの菌株を、どの量で、どの患者さんに、何の目的で使った研究なのかを見る必要があります。
歯科衛生士としては「何を足すか」より先に、土台を崩さないことを伝えたいです

プロバイオティクスに興味を持つこと自体は、悪いことではありません。
口腔内細菌、バイオフィルム、宿主反応の研究は今も進んでいます。
ただし、
「善玉菌をとっているから、少しくらい磨けていなくても大丈夫」
「乳酸菌タブレットを食べているから、歯周治療は少なくても大丈夫」
という考え方になってしまうと、順序が逆です。
歯周病治療の土台は、
- 毎日のプラークコントロール
- 歯間清掃
- 必要な歯周基本治療
- 治療後の再評価
- 継続的なメインテナンス
- 糖尿病そのものの管理
です。
その土台を作ったうえで、
「さらに何かを足したら、追加の利益があるのか」
を考える。
今回の研究も、まさにその順番で調べています。
では、プロバイオティクスを使ってはいけないのでしょうか
今回の研究は、そこまでは言っていません。
プロバイオティクスが危険だと証明した研究ではありません。
すべての菌株が無効だと証明した研究でもありません。
一部の出血・炎症関連指標には、プロバイオティクス群に有利な結果もありました。
一方で、
PD、CAL、HbA1cなどの主要な臨床・代謝アウトカムについては、一貫した追加利益を確認できませんでした。
だから現時点では、
2型糖尿病と歯周炎を併存する患者さん全員に、通常の歯周治療への標準的な追加療法として一律に勧められるだけの証拠はまだない
というのが、今回の研究に近い表現です。
今回の研究から「言えること」と「言えないこと」
今回の研究から言えるのは、
2型糖尿病と歯周炎を併存する患者さんを対象に8RCT・511人をまとめると、
- PDは30・60・90・180日で有意な追加改善なし
- CALは90・180日で有意な追加改善なし
- HbA1cは90日で有意差なし
- IL-6は30・90日で有意差なし
- TNF-αは30日で有意差なし
- SBIは90日でプロバイオティクス群有利
- hs-CRPは30日でプロバイオティクス群有利
- GIは30・90日に対照群有利
だった、ということです。
一方、この研究だけからは、
- すべてのプロバイオティクスが無効
- 特定の菌株も絶対に無効
- 市販製品すべてが無意味
- 日本人でもまったく同じ結果になる
- 長期間使っても意味がない
- プロバイオティクスが有害
- プロバイオティクス単独では歯周炎が治らない
とまでは言えません。
研究が答えた問いと、答えていない問いを分けること。
エビデンスを読むときには、そこがとても大切だと思います。
「善玉菌を足せば治りやすい?」への現在の答え
2型糖尿病と歯周炎がある患者さんに、
「炎症に関係する病気なのだから、善玉菌を足せばもっと治りやすいのでは?」
と考えるのは不自然ではありません。
生物学的に考えられる仕組みもあります。
実際、SBIやhs-CRPにはプロバイオティクス群に有利な結果がありました。
でも、歯周治療の主要な臨床指標の一つであるPDは、30日、60日、90日、180日のすべてで明確な追加改善を示しませんでした。
CALも90日、180日で有意差なし。
HbA1c、IL-6、TNF-αにも、一貫した追加利益は確認されませんでした。
だから2026年時点での答えは、
「善玉菌には何の意味もない」
ではありません。
もっと正確に言えば、
「通常の歯周治療に加えて、2型糖尿病と歯周炎を併存する患者さん全員へ標準的に勧められるほどの、安定した上乗せ利益はまだ証明されていない」
ということになります。
歯周病でまず大切なのは、
何か新しいものを足すことより、標準的な歯周治療と毎日のセルフケアという土台をきちんと続けること。
その土台があって初めて、
「さらに何を足せばよいのか」
を考える意味が出てくるのだと思います。
参考文献
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