2026年6月26日

(院長の徒然コラム)

はじめに:ミリングか、3Dプリントかという問いをどう読むか
近年、歯科のデジタルワークフローは急速に広がっています。口腔内スキャナー、CADソフト、ミリングマシン、3Dプリンター、焼結炉、後重合機、各種レジンやジルコニア材料。かつては一部の大規模技工所や先進的な施設に限られていた工程が、一般的な歯科診療所や歯科技工所の中にも入り始めています。
その中で、最近改めて考えさせられるテーマがあります。
それは、最終補綴物を作るときに、ミリングがよいのか、3Dプリントがよいのか、という問いです。
Dental Tribuneに掲載された「Milling or printing? The reliable path to definitive restorations」という記事では、3Dプリントは模型、サージカルガイド、暫間補綴物などには有用である一方、長期使用を前提とする最終補綴物ではミリングの信頼性がなお重要である、という趣旨の内容が示されていました。
ただし、その記事はミリング機器メーカー側のAdvertorial、つまり広告記事としての性格を持つものです。したがって、そこに書かれている主張をそのまま結論として受け取るのではなく、現在の文献をもとに、何が分かっていて、何がまだ分かっていないのかを分けて読む必要があります。
このテーマで一番避けたいのは、「ミリングが正しい」「3Dプリントはまだ使えない」あるいは逆に「これからはすべて3Dプリントになる」といった単純化です。歯科補綴において本当に重要なのは、製作法そのものの新旧ではありません。
どの材料を、どの補綴物に、どの部位で、どの荷重環境の患者さんに、何年の責任を想定して使うのか。
この視点が必要です。
同じ3Dプリントでも、模型、サージカルガイド、ナイトガード、スプリント、プロビジョナル、義歯床、レジン系永久冠、レジンマトリックスセラミック系クラウン、積層造形ジルコニア、メタルAMでは、まったく別の話になります。同じミリングでも、PMMA、CAD/CAMレジンブロック、PICN、二ケイ酸リチウム、ジルコニア、チタン、Co-Crでは、材料特性も加工条件も臨床実績も異なります。
つまり、今回考えるべき問いは、「ミリングか、3Dプリントか」ではありません。
「どの材料を、どの製作法で、どの補綴形態に用いるとき、どこまでを臨床的に信頼できると判断するのか」
この問いに置き換える必要があります。

「3Dプリント補綴」という言葉は、あまりにも広すぎる
まず整理しておきたいのは、「3Dプリント補綴」という言葉の粗さです。
歯科で3Dプリントというと、患者さん向けには「3Dプリンターで歯を作る」という説明になりがちです。しかし、専門職同士で話すときには、それでは不十分です。3Dプリント、あるいは積層造形、Additive manufacturingと呼ばれる技術には、SLA、DLP、LCD、material jetting、nanoparticle jetting、inkjet printing、direct ink writing、3D gel deposition、selective laser meltingなど、さまざまな方式があります。さらに、そこに使われる材料も、光重合レジン、レジンコンポジット、レジンマトリックスセラミック系材料、ジルコニアスラリー、金属粉末など、多岐にわたります。
同じ「3Dプリント冠」という言葉でも、光重合レジンを用いたプロビジョナル冠なのか、永久修復用レジン系材料なのか、レジンマトリックスセラミック系材料なのか、ジルコニアなのかによって、評価すべき項目は大きく変わります。
たとえば、模型やサージカルガイドであれば、重要なのは主に寸法精度、滅菌対応、短期間の安定性、設計再現性です。スプリントであれば、適合、摩耗、破折、表面性状、患者さんの使用感が重要になります。プロビジョナルであれば、辺縁適合、強度、摩耗、変色、修理性、数週間から数か月の機能維持が問題になります。
一方、definitive restoration、つまり長期使用を前提とする最終修復物・最終補綴物では、話が変わります。数日から数週間ではなく、5年、10年、場合によってはそれ以上の口腔内機能を考えなければなりません。唾液、咬合力、温度変化、pH変化、ブラキシズム、プラーク、清掃状態、接着界面の劣化、対合歯との摩耗関係を含めて評価する必要があります。
したがって、3Dプリント補綴を議論するときには、最初にこう分けるべきです。
これは模型の話なのか。
これはガイドの話なのか。
これはプロビジョナルの話なのか。
これは単冠の話なのか。
これはFDP、つまり固定性補綴装置、いわゆるブリッジの話なのか。
これはレジン系材料の話なのか。
これはジルコニアの話なのか。
これは短期成績なのか。
これは長期成績なのか。
この整理をせずに「3Dプリントは使える」「3Dプリントは危ない」と言ってしまうと、議論はほぼ必ず乱れます。

最終補綴物に求められるのは、作れることではなく、責任を持てること
デジタル技術の議論では、ともすると「作れるかどうか」に目が向きます。ミリングで削れる。3Dプリントで造形できる。データ上では設計できる。適合もよさそうに見える。チェアサイドで早くできる。材料ロスが少ない。複数個を同時に作れる。
もちろん、これらは重要です。臨床や技工の現場では、時間、コスト、再現性、生産性は無視できません。特にプロビジョナルや義歯床、模型、ガイドの領域では、3Dプリントの効率性は大きな意味を持ちます。
しかし、最終補綴物では「作れること」と「長期的に責任を持てること」は同じではありません。
最終補綴物に求められる評価軸には、少なくとも以下のようなものがあります。辺縁適合、内面適合、真度、精密度、正確度、破折抵抗性、曲げ強さ、疲労耐久性、摩耗、対合歯摩耗、表面粗さ、プラーク付着、色調安定性、接着耐久性、脱離、チッピング、生物学的合併症、再研磨性、修理性、そして補綴物生存率と補綴物成功率です。
ここで、専門職向けに必ず整理しておきたい用語があります。
真度、truenessとは、設計データや基準値にどれだけ近いかを示す概念です。たとえばCAD上で設計した形態に対して、実際に作られた補綴物がどれだけ近いかを見るときに使われます。
精密度、precisionとは、同じ条件で繰り返し作ったときに、どれだけばらつきが少ないかを示す概念です。1個だけ非常に設計に近くても、次に作ったものが大きくずれるなら、精密度は高いとは言えません。
正確度、accuracyとは、真度と精密度の両方を含む概念です。日本語ではこれらをすべて「精度」とまとめてしまいがちですが、3Dプリントとミリングを比較するときには、真度、精密度、正確度を分けて読む必要があります。
もう一つ重要なのが、補綴物生存率、survival rateと、補綴物成功率、success rateの違いです。
補綴物生存率とは、補綴物が撤去・再製作されず、口腔内に残って機能している割合を指します。一方、補綴物成功率とは、残っているだけでなく、チッピング、脱離、破折、二次う蝕、歯髄・歯周組織の問題、再研磨や修理などの追加介入を伴わず、問題なく機能している割合を指します。
つまり、生存している補綴物が、必ずしも成功しているとは限りません。
この違いは、ジルコニアやセラミックの長期研究を読むときに非常に重要です。たとえば補綴物が10年残っているとしても、その間にチッピングがあったのか、研磨や補修が必要だったのか、脱離して再装着されたのか、対合歯摩耗が問題になったのかによって、その補綴物をどう評価するかは変わります。
歯科医師と歯科技工士が新しい材料や製作法を評価するときには、単に「残っているか」だけでなく、「どのような状態で残っているか」を見る必要があります。

ミリング補綴の強みは、長期データの厚みにある
現在、最終補綴物としての信頼性を考えたとき、ミリング、つまり切削加工によるCAD/CAM補綴には大きな強みがあります。その強みは、単に「削っているから強い」という単純な話ではありません。工業的に管理されたブロックやディスク材料を使用し、長年の臨床データが蓄積されていることにあります。
たとえば、二ケイ酸リチウムは、接着性セラミック修復の中でも長期データが比較的豊富な材料です。Malamentらの研究では、多数のcomplete-coverage lithium disilicate restorationsを長期に観察し、10年時点で高い補綴物生存率を示しています。このデータは、ミリングと3Dプリントの直接比較ではありません。しかし、最終補綴材料に求められる臨床データの厚みを考えるうえでは、非常に重要な対照になります。
ジルコニアも同様です。ジルコニアは高強度材料として広く用いられており、単冠、ブリッジ、インプラント上部構造など幅広い臨床応用があります。ただし、ここでも単純に「ジルコニアは強いから安心」とは言えません。特に前装ジルコニアでは、フレームそのものは生存していても、陶材チッピングなどの技術的合併症が起こることがあります。つまり、ここでも補綴物生存率と補綴物成功率を分けて考える必要があります。
また、ジルコニアと一口に言っても、3Y-TZP、4Y-PSZ、5Y-PSZ、多層ジルコニア、グラデーションジルコニアでは、強度、透光性、破折靱性、審美性が異なります。審美性を高めるためにキュービック相を増やした高透光性ジルコニアでは、従来の3Y-TZPと同じ感覚で長期荷重に対する安全域を語ることはできません。
したがって、ミリング補綴の強みは、「ミリングならすべて安心」という意味ではありません。むしろ、材料ごとの物性、適応症、形成量、接着・合着条件、咬合条件、長期データを総合して判断できるだけの蓄積がある、という点にあります。
この蓄積は、3Dプリント補綴が今後追いつかなければならない大きな壁です。
ミリングも万能ではない
一方で、ミリングの信頼性を強調する資料を読むとき、こちら側もミリングを過剰に理想化しないよう注意が必要です。
ミリングは確かに現時点で強い臨床実績を持つ製作法です。しかし、ミリングだから自動的に高精度になるわけではありません。ミリングの精度は、ミリングマシンの軸数、スピンドル、バー径、バーの摩耗、湿式か乾式か、材料の硬さ、加工経路、セメントスペース設定、CAMソフト、機械の校正、メンテナンス状態に影響されます。
特に重要なのは、バー径と補綴物形態の関係です。ミリングは、回転工具によってブロックやディスクから材料を削り出す製作法です。そのため、工具径より細かい内面形態や、深く狭い溝、鋭角な内部形態、アンダーカット様の構造を完全に再現することはできません。CAD上では存在する形態でも、CAM上で補正されたり、工具のアクセス制限によって丸められたりします。
これは、臨床側の支台歯形成とも直結します。鋭角な線角、深すぎる窩洞、過度に複雑な内面形態は、ミリングにとって不利です。CAD/CAM修復では、形成そのものを「切削加工に適した形」にしておく必要があります。つまり、デジタル補綴の精度は、スキャナーやミリングマシンだけで決まるのではなく、形成設計から始まっています。
CAM設定も重要です。セメントスペースをCAD上で50μmに設定したからといって、実際の内面間隙が均一に50μmになるわけではありません。研究では、予定したセメントスペースと実際の測定値が一致しないこと、またバーの本数、形状、摩耗、ミリングモード、軸数によって適合が変わることが示されています。
この点は、歯科技工士にとっても非常に重要です。ミリングは「データを送れば勝手に正確に削れる機械」ではありません。材料選択、ディスク配置、サポート位置、バー交換、加工戦略、焼結収縮補正、研磨、グレーズ、最終調整まで含めて、技工士の判断が品質を左右します。
ミリングは信頼できる技術です。しかし、信頼できる技術であることと、何も考えなくても高品質になることは違います。

AMジルコニアは、すでに“未来の話”ではない
ここからは3Dプリント側を見ていきます。
まず、3Dプリント補綴を考えるときに、レジン系材料とジルコニアを同列に扱ってはいけません。積層造形ジルコニア、AMジルコニアは、光重合レジン冠とは別のカテゴリーとして考えるべきです。
近年、AMジルコニアの研究は急速に増えています。SLA、DLP、material jetting、nanoparticle jetting、inkjet printing、3D gel depositionなどの方法で、ジルコニア修復物を造形し、脱脂、焼結を経て補綴物として仕上げる研究が進んでいます。
AMジルコニアの大きな特徴は、ミリングでは再現しにくい微細構造、狭い形態、複雑な内面形態を作れる可能性があることです。ミリングではバー径や工具アクセスが制約になりますが、積層造形ではその制約の一部を回避できます。また、材料ロスが少ないことも利点です。
一方で、AMジルコニアには別の難しさがあります。ジルコニア粉末を含むスラリーやインクを安定して造形すること、十分なsolid loadingを確保すること、造形後のグリーン体を壊さず処理すること、脱脂工程で有機成分を除去すること、焼結収縮を均一に管理すること、サポートを適切に除去すること、そして最終的な表面性状を整えることです。
ミリングジルコニアでは、工業的に作られた高密度のプリシンタードブロックやディスクを削り、その後に焼結します。焼結収縮は材料メーカー側でかなり管理されています。一方、AMジルコニアでは、造形方向、層厚、スラリー組成、脱脂、焼結条件、サポート設計によって、最終物性や適合が大きく変わる可能性があります。
それでも、近年のレビューでは、3Dプリントジルコニア冠のfit、trueness、precision、審美性は、ミリングジルコニアと比較可能な段階に入っていることが示されています。短期臨床では、3Dプリントジルコニア冠に明らかな機械的・生物学的合併症が見られなかった報告もあります。
ここで重要なのは、AMジルコニアを「まだ無理」と切り捨てないことです。
AMジルコニアは、すでに未来の技術というより、ミリングジルコニアと比較すべき対象になり始めています。ただし、比較対象になり始めたことと、長期最終補綴としてミリングジルコニアと同等の臨床的信頼性が確立したことは同じではありません。
この差を見誤らないことが大切です。

AMジルコニアの適合精度をどう読むか
AMジルコニア(3Dプリントによるジルコニア)の文献では、ミリングよりも良い結果を示す項目もあります。
たとえば、軸面や狭い部分、複雑な形態では、3Dプリントの方が設計データに近い形態を再現できる可能性があります。これは、ミリングが工具径や工具アクセスの制約を受けるのに対して、積層造形ではその制約が小さくなるためです。
実際、3Dプリントジルコニアのレビューでは、両製作法とも臨床的に許容される内面適合・辺縁適合を示しつつ、部位や評価項目によって優劣が変わることが整理されています。ミリングの方が辺縁間隙で小さい値を示す研究がある一方、3Dプリントの方が軸面の真度や狭い形態の再現で有利となる報告もあります。
ここで、先ほどの用語整理が重要になります。
真度が良いのか。
精密度が良いのか。
辺縁適合が良いのか。
内面適合が良いのか。
軸面が良いのか。
咬合面が良いのか。
単冠なのか。
FDPなのか。
これらを分けずに、「3Dプリントの方が精度が良い」「ミリングの方が精度が良い」と言うと、文献の読み方としてはかなり危険です。
特にジルコニアでは、焼結収縮の影響が避けられません。単冠で良い結果が出ても、FDP、とくに長いスパンでは、収縮の均一性や反り、コネクター部の変形が問題になります。単冠の精度とFDPの精度は別の問題です。
また、適合精度がよいことは重要ですが、それだけで長期予後を保証するわけではありません。辺縁適合が良くても、表面粗さ、疲労耐久性、接着、咬合、研磨状態、対合歯摩耗、低温劣化、生体応答の問題が残ります。
つまり、AMジルコニアの適合精度に関するデータは有望です。しかし、それを読むときには、常に「これはin vitroの適合データなのか」「臨床短期データなのか」「長期予後データなのか」を分ける必要があります。
AMジルコニアFDPの可能性:適合が良いことと、長期に耐えることは別である
AMジルコニアに関して興味深いのは、単冠だけでなく、3ユニットFDPに関する研究も出てきていることです。
Advanced additively manufactured zirconia 3-unit FDPをミリングジルコニアと比較した研究では、AM群は全体的な3D精度や辺縁品質で良好な結果を示し、内面適合も臨床許容範囲内とされています。一方で、表面粗さはミリング群より高いという結果も示されています。
これは非常に興味深いデータです。なぜなら、「3DプリントはFDPに向かない」と単純には言えないからです。少なくとも、AMジルコニアというカテゴリーでは、FDPにおいても適合や辺縁品質に関して有望な結果が出始めています。
しかし、ここでも注意が必要です。
このような研究は、多くの場合、in vitroでの適合、真度、辺縁品質、表面粗さの比較です。これらは臨床応用を考えるうえで非常に重要な前段階ですが、長期臨床予後そのものではありません。口腔内で5年、10年使用されたときにどうなるか、ブラキシズム症例でどうなるか、咬合調整後の表面性状がどうなるか、グレーズが失われた後にどうなるか、コネクター部の疲労がどう進むかは、別に検証が必要です。
ここでの臨床的な読み方は、次のようになります。
AMジルコニアFDPは、適合精度や辺縁品質の点で、すでに研究上はミリングと比較できる段階にある。
しかし、長期使用を前提とする最終FDPとして、ミリングジルコニアと同等に扱うには、まだ長期臨床データが不足している。
したがって、現時点では「有望だが、適応拡大は慎重に」という位置づけが妥当である。
このあたりの判断は、今後数年で変わる可能性があります。AMジルコニアの材料、プリンター、焼結、表面処理、後処理がさらに標準化され、臨床データが蓄積されれば、ミリングと3Dプリントの境界は確実に動いていくでしょう。
ただ、現時点では、最終補綴物として採用するなら、技術への期待だけでなく、失敗したときの様式まで考える必要があります。

レジン系3Dプリント永久補綴では、単冠とFDPを同じ土俵で見てはいけない
AMジルコニアと並んで、近年もっとも議論が必要になっているのが、レジン系3Dプリント永久補綴です。
ここでいうレジン系3Dプリント永久補綴とは、従来のプロビジョナル用レジンではなく、インレー、オンレー、ベニア、クラウンなどの永久修復物として使用できることをうたう、光重合型のレジン系材料やレジンマトリックスセラミック系材料を指します。メーカーによっては永久冠、永久修復用レジン、resin-matrix ceramic、hybrid composite、permanent crown resinなど、さまざまな言い方がされています。
この領域は、今後の補綴臨床を大きく変える可能性があります。もしレジン系3Dプリント材料で単冠や一部の間接修復が安定して作れるのであれば、ミリングより材料ロスが少なく、複数個同時製作が可能で、チェアサイドや院内ラボでのワークフローにも組み込みやすくなるからです。
しかし、この領域で一番危険なのは、単冠とFDPを同じものとして語ることです。
単冠は、基本的に1歯単位で支台歯に支持されます。もちろん咬合力、接着、形成量、材料厚み、辺縁適合、咬耗、対合歯との関係は重要ですが、補綴物そのものの構造としては比較的単純です。
一方、FDP、つまり固定性補綴装置、いわゆるブリッジでは、ポンティックとコネクターが入ります。ここでは、コネクター部に曲げ応力や引張応力が集中します。特に後方部では咬合力が大きく、臼歯部1歯欠損の3ユニットFDPであっても、単冠とはまったく異なる力学的問題が出てきます。
したがって、3Dプリント単冠の短期成績が良いからといって、それをそのまま3DプリントFDPに拡大するのは危険です。これは、今回の記事の中でも最も強調したい点です。

3Dプリントresin-matrix ceramic単冠の短期成績は、可能性を示している
まず、単冠については有望なデータが出始めています。
後方部の3Dプリントresin-matrix ceramic crownを対象とした2年前向き臨床研究では、30本の後方部クラウンを評価し、2年時点の補綴物生存率が93%、補綴物成功率が87%と報告されています。2本のクラウンで脱離がありましたが、生物学的合併症は認められていません。また、4本でわずかな黄変方向の色調変化が検出された一方、辺縁は観察期間中に安定していたとされています。
この結果だけを見ると、レジンマトリックス系3Dプリント単冠は、少なくとも短期的には臨床応用の可能性があると考えられます。もちろん、30本、2年という規模と期間は、10年補綴を語るには十分ではありません。それでも、従来の「3Dプリントレジンは暫間補綴まで」という認識から一歩進んでいることは間違いありません。
ここで重要なのは、補綴物生存率と補綴物成功率の差です。
2年時点で93%が生存していても、成功率は87%です。この差の中には、脱離や色調変化、評価基準上の小さな問題が含まれます。これをどう読むかが専門職として重要です。単に「2年で93%残っている」と読むのではなく、「どのようなトラブルが、どの程度、どの時期に起きたのか」を見る必要があります。
レジン系3Dプリント単冠の可能性は見えています。ただし、現時点では「短期的に有望」という表現が最も適切であり、「長期最終補綴として確立した」と書く段階ではありません。
後方3ユニットFDPでは、コネクター破折が問題になる
一方で、3Dプリントresin compositeによる後方3ユニットFDPの臨床試験では、より慎重な読み方が必要です。
この研究では、49名の患者に68装置の3Dプリントresin composite後方3ユニットFDPが装着されました。平均観察期間は8.63か月で、評価可能だった59装置のうち、14装置で失敗が観察されています。その内訳は、9装置が機械的失敗、5装置が生物学的失敗でした。機械的失敗の多くは、コネクター部の破折です。機械的合併症のみを基準にするとevent-free survivalは86.7%、生物学的合併症まで含めると71.6%と報告されています。
この結果をどう読むべきでしょうか。
研究の著者らは、1年の臨床経過で一定の受容可能性を示しつつも、失敗様式が主にコネクター部破折に関連していたため、設計パラメーターの再検討が必要であると述べています。私はこの点が非常に重要だと思います。
FDPの失敗は、単冠の脱離や軽度の色調変化とは意味が違います。特にコネクター破折は、材料そのものの曲げ強さ、疲労耐久性、コネクター断面積、咬合力、咬合接触位置、ポンティック設計、接着様式が複合的に関わります。
ここで臨床家が注意すべきなのは、「3Dプリント材料が永久修復に使える」という表現だけを見て、FDPまで同じ感覚で適応してしまうことです。単冠、インレー、オンレー、ベニアと、後方3ユニットFDPでは、力学的要求がまったく違います。
とくに臼歯部では、咬合力が大きく、ブラキシズムやクレンチングがある患者さんではコネクター部への負荷がさらに増えます。レジン系材料はセラミックやジルコニアとは弾性率も摩耗挙動も違います。レジン系であることは、補修性や対合歯への優しさという利点を持つ一方で、長期疲労や摩耗、変色、接着界面の劣化という課題も持っています。
したがって、現時点ではこう整理するのが妥当です。
3Dプリントresin-matrix ceramicやresin compositeの単冠は、短期的には可能性を示している。
しかし、後方FDP、特に3ユニット以上の固定性補綴装置では、コネクター破折や疲労を十分に考慮しなければならない。
単冠の短期成績をFDPに拡張してはいけない。
この線引きは、歯科医師にも歯科技工士にも必要です。
認可・適応表示と、長期臨床予後は同義ではない
次に重要なのが、認可・適応表示と長期臨床予後の違いです。
現在、海外では3Dプリント用の永久修復材料として、インレー、オンレー、ベニア、フルクラウンなどへの使用が示されている材料があります。たとえばCROWNTECのFDA 510(k)資料では、前歯部・臼歯部の間接修復物として、インレー、オンレー、ベニア、フルクラウンなどに使用できる材料として記載されています。
ここだけを見ると、「3Dプリントで永久冠ができる時代になった」と言いたくなります。実際、その表現自体は間違いではありません。製品として、制度上、永久修復用途を示す材料が存在するからです。
しかし、ここで絶対に混同してはいけないことがあります。
規制上のクリアランス、メーカー上の適応、短期臨床成績、長期臨床予後は、それぞれ別物です。
FDA 510(k)は、基本的に既存のpredicate device、つまり先行機器とのsubstantial equivalenceを示す枠組みです。これは「同じ適応で販売してよい」と判断されるための制度上の評価であって、「10年の臨床予後が証明された」という意味ではありません。CROWNTECの資料でも、substantial equivalenceを支持するためのヒト臨床試験は行われていないと明記されています。
これは非常に大切です。
「認可されているから長期的に安心」ではありません。
「メーカーが永久修復に使えると書いているから、臼歯部FDPにも広く使ってよい」でもありません。
「曲げ強さが一定値を満たしているから、臨床で10年もつ」でもありません。
臨床で問われるのは、材料試験、規格適合、短期臨床、長期臨床、失敗様式、再治療性を総合した判断です。
歯科医師と歯科技工士は、材料のIFUや認可情報を確認する必要があります。ただし、それを臨床予後の証明と読み替えてはいけません。特に新しい材料では、制度上の適応と、臨床家が責任を持って適応できる範囲との間に、まだ距離があることがあります。
新しい材料を使うときほど、添付文書やメーカー資料だけでなく、臨床研究、in vitro研究、失敗様式、適応除外条件まで読む必要があります。

プロビジョナルでは、3Dプリントはかなり現実的な選択肢になっている
ここまで、最終補綴物における慎重な評価を述べてきました。しかし、それは3Dプリントを否定するという意味ではありません。むしろ、プロビジョナルや診断・設計・試適の領域では、3Dプリントはすでに非常に有用です。
3ユニットinterim fixed dental prosthesis、つまり暫間固定性補綴装置を対象にした研究では、熱機械的aging後に、ミリングPMMA群が高い曲げ強さと硬さを示し、SLA方式の3Dプリント材料もミリングに近い機械的性質を示しました。一方、DLP方式の材料ではミリングより低い値が示されています。
この結果から分かるのは、プロビジョナル領域では3Dプリントがかなり現実的である一方で、3Dプリント材料間の差も大きいということです。
SLAかDLPか。
フィラーが入っているか。
後重合条件はどうか。
造形方向はどうか。
層厚はどうか。
研磨はどうか。
使用期間はどの程度か。
単冠か、3ユニットか、ロングスパンか。
これらによって結果は変わります。
プロビジョナルは、最終補綴物とは求められる責任期間が違います。数週間から数か月、あるいは咬合再構成やインプラント治療でより長期に使う場合もありますが、基本的には「最終補綴物へ移行するまでの機能・審美・歯周組織安定・咬合評価」を担うものです。
この領域では、3Dプリントの効率性、再製作のしやすさ、データ保存、複数パターンの試作、形態修正のしやすさは大きな武器になります。データが残っていれば、破折や紛失時にも再出力しやすい。診断用ワックスアップからプロビジョナルへの移行もスムーズです。
つまり、3Dプリントはプロビジョナルでは非常に強い。
ただし、その事実をもって、最終補綴物にも同じ感覚で使えると考えるのは誤りです。プロビジョナルで有用であることと、10年責任の最終補綴で標準材料になることは、別の問題です。
3Dプリント補綴は、プリンターから出た時点では完成していない
3Dプリント補綴を語るときに、もう一つ重要なのが後処理です。
ミリングでも、切削後に焼結、結晶化、研磨、グレーズ、ステイニング、調整が必要です。しかし3Dプリントでは、後処理の影響がさらに大きい場合があります。
レジン系3Dプリント材料では、造形後に未重合レジンの洗浄、乾燥、サポート除去、後重合、研磨が必要です。洗浄時間、洗浄液、後重合機、照射時間、温度、サポート除去のタイミング、研磨方法が変われば、機械的性質、寸法安定性、表面性状、生体安全性に影響します。
残留モノマーや未反応成分は、細胞毒性や生体反応の問題につながる可能性があります。3Dプリント用レジンでは、流動性を確保するために組成上の制約があり、フィラー量、モノマー構成、光開始剤、後重合条件が材料性能に関わります。つまり、材料名だけでなく、プリンター、造形パラメーター、洗浄、後重合まで含めて一つのシステムとして評価しなければなりません。
ジルコニアAMでは、造形後のグリーン体の取り扱い、脱脂、焼結、サポート除去、表面処理、研磨が重要になります。脱脂や焼結が不十分であれば、内部欠陥や収縮不均一、反り、強度低下につながる可能性があります。逆に、焼結条件や表面改質が適切であれば、ミリングでは得にくい形態再現性や表面特性が得られる可能性もあります。
NPJジルコニアとミリングジルコニアを比較した表面処理研究では、プラズマ処理によって濡れ性が大きく改善し、表面化学や初期の生体応答に影響する可能性が示されています。このような研究は、今後AMジルコニアの臨床応用を考えるうえで重要です。
しかし、ここでも誤解してはいけません。濡れ性が改善すること、表面改質が可能であること、初期生体応答に有利であることは、長期補綴予後そのものではありません。これらは臨床予後を構成する要素の一部です。
最終補綴物では、表面粗さも重要です。表面粗さは、プラーク付着、着色、対合歯摩耗、舌感、再研磨性に関わります。3Dプリントでは積層方向やサポート痕が表面性状に影響します。特に咬合調整後にグレーズが失われた場合、どの程度まで再研磨できるか、表面粗さをどこまで制御できるかは臨床上重要です。
つまり、3Dプリント補綴は、プリンターから出た時点で完成しているわけではありません。
設計、造形、洗浄、後重合、脱脂、焼結、サポート除去、研磨、適合確認、接着、咬合調整、経過観察まで含めて、初めて臨床材料として評価できます。

接着・脱離・再治療性も評価軸に入れるべきである
最終補綴物として使うなら、接着や脱離の問題も避けて通れません。
二ケイ酸リチウムであれば、エッチング、シラン処理、レジンセメントという確立した接着プロトコルがあります。ジルコニアであれば、サンドブラスト、MDP含有プライマー、接着性レジンセメントなどの考え方が整理されています。CAD/CAMレジンブロックやハイブリッドセラミックでも、材料ごとに表面処理条件があります。
では、3Dプリントレジン系永久材料ではどうか。
メーカーはそれぞれ表面処理や接着プロトコルを示しています。しかし、新しい材料では、長期水中劣化、熱サイクル、咬合負荷、表面処理後の接着耐久性、再接着時の予測性について、まだ十分な臨床データがないことがあります。特に脱離が起きたとき、再接着できるのか、内面処理をどうするのか、材料表面はどれだけ劣化しているのか、再研磨や修理が可能なのかを考える必要があります。
3Dプリントresin-matrix ceramic crownの2年研究では脱離が生じています。これは、材料そのものの問題なのか、接着操作の問題なのか、支台歯形成や咬合の問題なのか、セメントや表面処理の問題なのか、今後さらに検討が必要です。
臨床家にとって重要なのは、「脱離したら再装着すればよい」という単純な話ではありません。脱離は、患者さんの信頼、再来院、再治療時間、二次う蝕リスク、歯質汚染、接着界面の再処理に関わります。特に自費診療や最終補綴物では、脱離は小さな合併症ではありません。
補綴物を長く使うということは、失敗しないことだけではなく、もし問題が起きたときに、どのように再介入できるかまで含めて考えるということです。
再研磨できるのか。
補修できるのか。
再接着できるのか。
破折した場合に修理か再製作か。
再製作時にデータを活用できるのか。
再治療時に支台歯をどれだけ守れるのか。
これらも、最終補綴物としての評価軸です。
現時点での臨床適応の境界
では、現時点で3Dプリント補綴をどのように位置づけるべきでしょうか。
私は、用途ごとに分けて考えるのが最も安全だと思います。
まず、模型、サージカルガイド、スプリント、ナイトガード、個人トレー、ワックスパターン、診断用モックアップ、プロビジョナル、義歯床などでは、3Dプリントはすでに日常臨床に組み込める技術です。もちろん適合や強度、変形、滅菌、材料特性の確認は必要ですが、この領域では3Dプリントの利点が非常に大きいです。
次に、最終単冠については、材料を選べば可能性が見え始めています。特にAMジルコニアや、条件を選んだレジンマトリックス系3Dプリント単冠では、短期的には有望なデータがあります。ただし、5年、10年の長期臨床データという意味では、ミリングセラミックや既存CAD/CAM材料に比べてまだ蓄積が不足しています。
一方、慎重に考えるべきなのは、後方FDP、高荷重症例、ブラキサー、咬合支持が不安定な症例、コネクター断面積を十分に確保しにくい症例、臼歯部で長期使用を前提とする症例です。特にレジン系3DプリントFDPでは、コネクター破折のデータを軽視すべきではありません。
ここで重要なのは、「3Dプリント補綴を使うかどうか」という二択ではありません。
どの3Dプリント補綴を、どの患者さんの、どの部位に、どの期間の責任を想定して使うのか。
この問いに答えられるかどうかです。
たとえば、咬合力が弱く、清掃状態が良く、単冠で、形成量が十分にあり、接着条件も良好で、患者さんにも新しい材料であることを説明し、定期的に経過観察できる症例であれば、3Dプリント永久単冠の検討余地はあります。
しかし、咬合力が強い臼歯部FDP、ブラキサー、コネクター断面積が制限される症例、長期予後を最優先したい症例では、現時点ではミリングセラミック、ジルコニア、既存のCAD/CAM材料の長期データを基準に考える方が安全です。
新しい技術を否定する必要はありません。
しかし、新しい技術だからこそ、適応を狭く、慎重に始める必要があります。

歯科医師が見るべきこと
歯科医師側に求められるのは、材料名だけで判断しないことです。
「3Dプリントで永久冠ができる」と聞いたとき、まず確認すべきなのは、その材料がどの適応を持っているのか、どのプリンターと後処理機に対応しているのか、どの部位に使えるのか、単冠なのかFDPなのか、最小厚みはどれくらいか、接着プロトコルはどうか、禁忌や注意事項は何か、長期データはあるのか、という点です。
さらに、患者さん側の条件も見なければなりません。咬合力、ブラキシズム、清掃状態、支台歯高径、形成量、歯質量、接着可能なエナメル質の有無、対合歯の材質、歯列内での位置、咬合接触の入り方です。
歯科医師は、材料を選ぶだけではありません。適応を決め、形成し、咬合を設計し、接着し、経過観察し、トラブル時に説明する責任を持ちます。デジタル技術が進んでも、この責任は減りません。むしろ、材料と製作法の選択肢が増えるほど、判断すべき要素は増えます。
特に最終補綴物では、「早くできる」「安くできる」「新しい」だけで決めるべきではありません。患者さんの口腔内で何年責任を持てるのかを考えるべきです。
歯科技工士が見るべきこと
歯科技工士側にとっても、3Dプリント補綴は単なる機械更新の話ではありません。
3Dプリントは、データを送れば自動的に高品質な補綴物が出てくる技術ではありません。造形方向、サポート設計、層厚、配置、洗浄、後重合、脱脂、焼結、サポート除去、研磨、グレーズ、適合確認、再現性管理が品質を左右します。
レジン系材料では、後重合条件や研磨が表面性状と生体安全性に関わります。AMジルコニアでは、グリーン体の取り扱い、焼結収縮、反り、サポート痕、表面粗さが問題になります。FDPでは、コネクター設計とサポート位置、ポンティック形態、咬合面形態が長期耐久性に関わります。
ミリングでも同じです。バーの摩耗、CAM設定、軸数、材料配置、焼結、研磨、グレーズ、適合確認を軽視すれば、ミリングの利点は十分に発揮されません。
今後の歯科技工士には、「作れる」だけではなく、「どの製作法で作るべきか」を提案できる力がさらに求められると思います。歯科医師から「3Dプリントでできる?」と聞かれたとき、単に「できます」と答えるのではなく、「この症例なら可能です」「この部位ならミリングの方が安全です」「この材料なら単冠までが妥当です」「FDPならコネクター設計上、別材料を検討した方がいいです」と返せることが重要になります。
デジタル化は、歯科技工士の役割を減らすものではありません。
むしろ、材料と製作法を読み解く専門性をより強く求めるものです。
デジタル化は責任を減らすのではなく、責任の所在を細かくする
デジタルワークフローが進むと、臨床や技工が簡単になるように見えることがあります。たしかに、印象採得、模型製作、ワックスアップ、鋳造、調整などの一部は、デジタルによって効率化されます。データ保存、再製作、設計共有、遠隔連携も容易になります。
しかし、デジタル化は責任を消すものではありません。
むしろ、責任の所在を細かくします。
スキャンが悪かったのか。
形成が悪かったのか。
CAD設計が悪かったのか。
CAM設定が悪かったのか。
ミリングバーが摩耗していたのか。
造形方向が悪かったのか。
後重合が不足していたのか。
焼結条件が適切でなかったのか。
研磨が不十分だったのか。
接着操作に問題があったのか。
咬合設計が悪かったのか。
材料の適応を超えていたのか。
デジタルワークフローでは、これらがそれぞれ見えるようになります。だからこそ、歯科医師と歯科技工士の連携がより重要になります。
最終補綴物において、デジタル技術は道具です。ミリングも3Dプリントも、あくまで道具です。道具が進歩しても、臨床判断の責任はなくなりません。むしろ、道具の性能を理解して使い分ける責任が増えます。
現時点で考察できる結論
現時点での私の考えをまとめると、次のようになります。
ミリングは、最終補綴物において現在も強い基準です。特に二ケイ酸リチウム、ジルコニア、既存CAD/CAM材料では、材料物性と長期臨床データの蓄積があります。臼歯部単冠、FDP、高荷重症例、ブラキサー、長期予後を最優先する症例では、今なおミリング材料を基準に考えるべきです。
一方で、3Dプリント補綴は、すでに軽視できない段階に来ています。模型、ガイド、スプリント、プロビジョナル、義歯床では明らかに有用です。AMジルコニアでは、fit、trueness、precision、辺縁品質において、ミリングと比較すべき段階に入っています。レジンマトリックス系3Dプリント単冠でも、短期的な臨床可能性が見え始めています。
しかし、3DプリントFDP、とくにレジン系後方FDPでは、現時点では慎重な適応判断が必要です。コネクター破折、疲労、接着、咬合力、ブラキシズム、長期色調安定性、表面粗さ、プラーク付着を考えると、単冠と同じ感覚で適応拡大するべきではありません。
「3Dプリントは使えない」ではありません。
「3Dプリントなら何でもできる」でもありません。
正しい問いは、こうです。
その材料は何か。
その製作法は何か。
単冠かFDPか。
前歯部か臼歯部か。
荷重はどれくらいか。
後処理は適切か。
接着は安定するか。
失敗したときの様式は何か。
再治療できるか。
そして、何年の責任を想定しているか。
この問いに答えられる範囲で、3Dプリント補綴は臨床選択肢になります。
おわりに:新しい技術ほど、適応を疑う
3Dプリントは、これからの歯科補綴を確実に変えていく技術です。材料ロスの少なさ、複雑形態の再現、複数個同時製作、データ保存、再製作性、院内ワークフローとの親和性。これらは、ミリングにはない大きな魅力です。
しかし、最終補綴物では、速く作れることだけでは不十分です。安く作れることだけでも不十分です。新しいことだけでも不十分です。
口腔内で何年責任を持てるのか。
どのような失敗様式を示すのか。
再治療できるのか。
患者さんにとって本当に利益があるのか。
そして、その材料を使う臨床家が、適応と限界を説明できるのか。
そこまで含めて評価して初めて、3Dプリント補綴は「新技術」ではなく「臨床選択肢」になります。
私は、新しい技術を否定する必要はないと思っています。むしろ、新しい技術は積極的に学ぶべきです。歯科医師も歯科技工士も、デジタル技術を避けて通ることはできません。
ただし、新しい技術ほど、期待と適応を分けて語る必要があります。
ミリングか、3Dプリントか。
その二択ではなく、材料、形態、荷重、後処理、臨床データ、そして患者さんへの責任で判断する。
それが、現時点での最も誠実な答えだと考えています。
よくある質問
3Dプリント補綴は、もう最終補綴に使えるのでしょうか
一部の材料、一部の適応では、最終補綴として使える可能性が出てきています。特に単冠や一部の間接修復では、短期的に有望な臨床データも報告されています。ただし、すべての3Dプリント補綴が長期最終補綴として確立しているわけではありません。材料、部位、補綴形態、咬合力、後処理、接着条件を分けて判断する必要があります。
3Dプリント単冠と3Dプリントブリッジは同じように考えてよいですか
同じようには考えない方がよいです。単冠は1歯単位で支台歯に支持されますが、ブリッジではコネクター部に応力が集中します。特に後方3ユニットFDPでは、コネクター破折が重要な失敗様式になります。単冠の短期成績をそのままFDPに拡大するのは危険です。
ミリング補綴なら長期的に安心なのでしょうか
ミリング補綴には長期臨床データの蓄積という大きな強みがあります。しかし、ミリングなら自動的に安全という意味ではありません。材料、支台歯形成、バー径、軸数、CAM設定、工具摩耗、焼結、研磨、接着、咬合によって結果は変わります。ミリングも適切な設計と技工操作があって初めて信頼性を発揮します。
認可されている材料なら、長期予後も証明されていると考えてよいですか
認可や適応表示と、長期臨床予後は同じではありません。規制上販売できること、メーカーが永久修復用途を示していること、短期臨床で問題が少ないこと、10年単位で信頼できることは、それぞれ別の段階です。新しい材料では、特にこの違いを意識する必要があります。
今後、3Dプリント補綴はミリングを置き換えるのでしょうか
すべてを置き換えるというより、適応ごとに使い分けが進むと考えています。模型、ガイド、スプリント、プロビジョナル、義歯床では3Dプリントの利点が大きく、AMジルコニアや一部単冠でも応用は広がるでしょう。一方で、臼歯部FDP、高荷重症例、長期予後を最優先する症例では、当面はミリング材料の長期データが重要な基準になると考えます。
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