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人工甘味料は全部同じではない――6種+ステビオール配糖体を吸収・代謝・ADI・発がん性まで完全解剖

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2026年9月24日

人工甘味料は全部同じではない――6種+ステビオール配糖体を吸収・代謝・ADI・発がん性まで完全解剖

(院長の徒然コラム)

はじめに

こんにちは。ブランデンタルクリニック院長です。

今日はあんまりにも多い質問に対してのコラムです。

「人工甘味料って、結局体に悪いんですか?」

これは簡単そうに見えて、実際にはかなり答えにくい質問です。

理由ははっきりしています。

「人工甘味料」という一つの物質が存在するわけではないからです。

アスパルテームとアセスルファムKは、どちらも砂糖よりはるかに強い甘味を持ち、低糖・低カロリーの商品に広く使われています。

しかし、飲み込んだ後の体内動態はほとんど正反対です。

アスパルテームは消化管で分解され、フェニルアラニン、アスパラギン酸、メタノールとなってから吸収されます。

一方、アセスルファムKはほぼ完全に吸収されながら、ほとんど代謝されず、未変化体のまま尿へ出ます。

スクラロースは、およそ8.8~21.7%しか吸収されず、大部分は全身循環へ入りません。

サッカリンは通常の摂取量では大部分~ほぼ全量が吸収されますが、ほとんど代謝されず、主に腎臓から尿へ排泄されます。

ネオテームはアスパルテームによく似た構造を持ちながら、速やかにNC-00751という脱エステル化体へ変わります。

アドバンテームではANS9801-acidが全身曝露の主役になり、投与された物質由来成分の排泄は圧倒的に便優位です。

さらにステビオール配糖体は、これらとはまた違います。

人の上部消化管酵素ではほとんど分解されません。大腸まで届き、そこで腸内細菌が糖鎖を切ってsteviolへ変えて初めて、本格的な吸収が始まります。

吸収されたsteviolは肝臓でsteviol glucuronideへ抱合され、主に尿へ排泄されます。

EFSAも、stevioside、Reb A、Reb B、Reb C、Reb D、Reb E、Reb F、Reb Mなどのステビオール配糖体が、上部消化管ではほぼ加水分解されず、大腸細菌による脱糖鎖を経てsteviolへ収束する共通代謝経路を整理しています。

人間の舌にはどれも「甘い」。しかし、その分子が口から入った後の運命は驚くほど違います。

にも関わらず、昨今はほとんどその違いを検討もせず情報発信しているメディア…更には医療従事者の方まで見受けられます。

今回は世界的にどういう形で「人工甘味料」というものが研究されているのかにスポットを当てて、それぞれを徹底解剖していきます。

「人工甘味料」「NSS」「低・無カロリー甘味料」は同じ言葉ではない

最初に言葉を整理しておきましょう。

日本で一般的に「人工甘味料」と呼ばれるものとして、代表的には次の6種類があります。

  • アスパルテーム
  • アセスルファムK(Ace-K)
  • スクラロース
  • サッカリン
  • ネオテーム
  • アドバンテーム

一方、WHOなどが用いるNSS(non-sugar sweetener、非糖類甘味料)は、もう少し広い概念です。

ステビア由来のステビオール配糖体のような、植物由来の非糖類甘味料も含まれます。

論文では、LNCS(low- and no-calorie sweetener、低・無カロリー甘味料)という表現もよく使われます。

ここで注意したいのが、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、マルチトールなどの糖アルコールです。

糖アルコールは、高甘味度甘味料とは必要使用量、吸収、腸管での挙動、エネルギー量が大きく違います。WHOの2023年NSSガイドラインでも糖アルコールはNSSには含めていません。

したがって、論文タイトルに「artificial sweeteners」「NSS」「LNCS」と書かれていても、具体的にどの甘味料が解析対象に入っているのかを確認しなければなりません。

たとえば後で触れる認知機能研究では、アスパルテーム、サッカリン、Ace-Kだけではなく、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、タガトースまで同じ研究の解析対象に含まれています。

「人工甘味料の研究」という見出しだけを見て、すべての甘味料に同じ結論を広げないことが重要です。

ADIとは「ここから毒になる量」ではない

人工甘味料について調べると、必ず出てくる数字がADIです。

ADIはAcceptable Daily Intake、許容一日摂取量。

簡単にいえば、その量を毎日、一生涯摂取し続けても、通常は健康上の有害影響が生じないと考えられる1日当たりの摂取量です。

ただし、ADIは「毒性が始まる線」ではありません。

ADIを1日だけ少し超えたら中毒になる、という意味ではありません。

逆に、「ADI以下であれば、将来どのような研究が出ても絶対に何の作用もないことが証明された」という意味でもありません。

多くの場合、動物試験などからNOAEL(No Observed Adverse Effect Level、無毒性量)を探します。

NOAELは、有害影響が観察されなかった最高用量です。

そこから動物と人の種差、人どうしの個人差などを考慮し、多くの場合は100倍程度の不確実係数を用いてADIを設定します。

たとえばアセスルファムK。

EFSAは2025年、2年間のラット慢性毒性・発がん性試験からNOAEL 1,500 mg/kg体重/日を採用しました。

これを100で割り、ADI 15 mg/kg体重/日を設定しています。

従来の欧州ADI 9 mg/kg体重/日は、この再評価で置き換えられました。

ネオテームも2025年に変わりました。

EFSAはラット52週慢性試験と104週発がん性試験のNOAEL 1,000 mg/kg体重/日を採用し、ADIを従来の2 mg/kg体重/日から10 mg/kg体重/日へ変更しています。

つまりADIは、分子量や融点のような自然定数ではありません。

どの研究を採用するのか、どの変化を有害影響と判断するのか、新しい研究が追加されたかによって更新され得るリスク管理上の基準値です。

NOAEL、LOAEL、BMDLは何が違う?

ADIの根拠になる数字も、一種類ではありません。

NOAELは、有害影響が認められなかった最高用量。

LOAEL(Lowest Observed Adverse Effect Level)は、有害影響が認められた最低用量。

BMDL(Benchmark Dose Lower Confidence Limit)は、用量反応データ全体を統計学的にモデル化して求めた基準用量の下側信頼限界です。

全部ADI設定の出発点になり得ますが、意味は同じではありません。

サッカリンでは、2024年EFSA再評価で適切なNOAELではなくLOAELが使われました。

遊離サッカリン換算のLOAELは3,420 mg/kg体重/日。

そこへ、種差・個人差の100、LOAELからNOAELへ補正する2、短期試験から慢性曝露へ補正する2を適用し、総不確実係数400。

3,420÷400=8.55。

そこからADI 9 mg/kg体重/日が設定されています。

スクラロース2026では、ラットの体重減少を対象としたBMD解析が行われました。

雌ラットでBMDL 55 mg/kg体重/日、雄ラットで61 mg/kg体重/日となり、EFSAは55 mg/kg体重/日を参照点として採用しています。

さらにスクラロースでは、通常の一律100倍ではなく、毒性動態と毒性力学を考慮した化学物質固有の評価係数3.2~8も検討されました。

その結果から導かれるADI候補範囲が従来の15 mg/kg体重/日を含み、さらに新たな有害作用も同定されなかったため、EFSAは2026年に従来のADI 15 mg/kg体重/日を維持しました。

このように、同じ「ADI」という一つの数字でも、そこへ至る科学的な道筋は甘味料ごとに違います。

ADIの大小だけを並べて「この甘味料の方が安全」と順位づけすることはできません。

IARCの「発がん性」とJECFAの「安全性」はなぜ両立するのか

アスパルテームでは、ここが最も混乱しやすいところです。

2023年、IARCはアスパルテームをGroup 2B、すなわち「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」に分類しました。

一方、JECFAはアスパルテームのADI 0~40 mg/kg体重/日を変更しませんでした。

これは矛盾ではありません。

IARCは主としてハザード同定を行います。

つまり、「その物質に発がん性を示す能力があるという科学的根拠がどの程度あるか」を評価します。

JECFAは食品として摂取した場合のリスク評価を行います。

つまり、「実際の摂取量を踏まえると、人への健康リスクがどの程度になるか」を評価します。

国立医薬品食品衛生研究所も、IARCは発がん性に関する科学的根拠の強さを評価する「ハザード同定」、JECFAは食品として摂取した場合の影響を評価する「リスク評価」であることを、両評価を理解するうえで重要な違いとして説明しています。

したがって、

  • 「IARC 2BだからADI以下でも危険」
  • 「JECFAがADIを維持したからIARC評価は意味がない」

という二つの読み方は、どちらも適切ではありません。

「検出された」と「有害だった」は別

人工甘味料研究では、「胎盤から検出された」「母乳から検出された」「羊水から検出された」という言葉が大きく取り上げられることがあります。

しかし、検出は曝露されたことの証拠です。

それだけで有害作用が証明されたわけではありません。

健康影響を考えるには、少なくとも次のような情報が必要です。

  • どのくらいの濃度だったか
  • どのくらいの量を摂ったか
  • どのくらいの期間続いたか
  • 毒性試験の参照点からどれくらい離れているか
  • 実際の病気や発達異常が増えたか

たとえばAce-Kは、ヒトで胎盤を通過し、臍帯血や羊水へ移行することが確認されています。

しかし、「胎児に届いた」という事実と、「胎児に有害だった」という結論は同じではありません。

検出、曝露、有害作用、臨床転帰は一段ずつ分けて考える必要があります。

研究には一律の「強さ順位」があるわけではない

「RCTが一番偉く、細胞研究は一番弱い」と単純に並べてしまうのも適切ではありません。

研究には、それぞれ答えやすい質問があります。

ADIや規格値を確認したいなら、EFSA、JECFA、FDA、食品安全委員会などの一次規制評価が重要です。

摂取直後の血糖、インスリン、GLP-1などを知りたいなら、ヒトRCTやヒト薬物動態試験が重要です。

20年、30年後の癌や心血管疾患を知りたいなら、数十年間のRCTは現実的にほぼ不可能なので、大規模な前向きコホート研究が重要になります。

受容体への結合、細胞内signal、DNA損傷機序などを知りたいなら、細胞研究や構造研究が必要です。

動物研究は、長期毒性、発がん性、生殖発生毒性などを人では実施できない条件まで調べるために不可欠です。

したがって、問いに応じて適した研究デザインを使い分ける必要があります。

もう一つ注意したいのが、総説の情報が必ずしも最新とは限らないことです。

Ace-KのEFSA ADIは2025年に9から15 mg/kg体重/日へ変更され、Neotameも2025年に2から10 mg/kg体重/日へ変更されました。

2026年に出た総説であっても、古いADIが表に残っている例があります。

規制値を見るときは、総説だけで終わらず、現在の一次規制資料まで戻ることが重要です。

甘さの入口は似ている――その先は全然違う

多くの高甘味度甘味料は、T1R2/T1R3という甘味受容体を刺激します。

受容体が活性化すると、Gタンパク質、PLC、IP3、細胞内Ca²⁺上昇、TRPM5、ATP放出などを介して「甘い」という神経信号が生じます。

T1R2/T1R3関連分子は口腔だけではなく、消化管や膵臓などでも研究されています。

そのため、「非糖類甘味料でもGLP-1に影響するのではないか」「腸管のglucose輸送へ作用するのではないか」といった研究が行われています。

しかし、甘く感じること=glucoseになることではありません。

味覚は受容体の問題。

代謝は分子構造の問題です。

7種類を並べると、吸収・代謝・排泄の違いが見えてくる

同じ「高甘味度甘味料」でも、吸収率、主要代謝物、排泄経路、半減期は大きく異なります。

代表的な数字を文章で並べると、次のようになります。

  • アスパルテーム:親化合物として血中を回るのではなく、消化管でフェニルアラニン、アスパラギン酸、メタノールへ分解。
  • Ace-K:ほぼ完全吸収。Tmax約1~1.5時間、半減期約2~4時間。ほぼ未代謝のまま尿中へ約99%。
  • スクラロース:吸収約8.8~21.7%。代表Tmax約2時間。大部分は未吸収で便へ、一部は尿へ。少量のみグルクロン酸抱合。
  • サッカリン:通常量では大部分~ほぼ全量吸収。半減期約4時間。ほぼ代謝されず主に尿へ。
  • ネオテーム:0.25 mg/kg体重投与で親化合物Tmax約0.4時間、Cmax 95.7 ng/mL、半減期0.6時間。主要代謝物NC-00751はTmax約1時間、Cmax 236 ng/mL、半減期1.5時間。
  • アドバンテーム:親化合物よりANS9801-acidへの曝露が中心。ANS9801-acidのTmax約1.75時間、Cmax 22.7 ng/mL、半減期約5.7時間。投与由来成分は尿6.22%、便89.48%。
  • ステビオール配糖体:上部消化管ではほぼ分解されず大腸へ。腸内細菌がsteviolへ変換。steviol glucuronideのTmaxはStevioside由来で約8時間、Reb A由来で約12時間、半減期約14時間。

ここで重要な注意があります。

「尿に何%出た」「便に何%出た」という数字は、甘味料どうしで単純比較できません。

Ace-Kの約99%は、ほぼ未変化の親化合物としての尿中回収です。

一方、Neotameの尿34.3%、便63.7%や、Advantameの尿6.22%、便89.48%は、放射標識した投与物質に由来する親化合物・代謝物を合わせた総回収率です。

Steviol glycosideのReb A 59%、Stevioside 62%という尿中回収率も、親配糖体ではなく、主としてsteviol glucuronideとして回収された割合です。

同じ「尿中回収率」という見出しでも、何を測定している数字なのかを確認しなければいけません。

1.アスパルテーム――親化合物より分解産物を追う甘味料

アスパルテームはC₁₄H₁₈N₂O₅、分子量294.30。

化学的にはL-アスパラギン酸とL-フェニルアラニンメチルエステルが結合したジペプチドメチルエステルです。

CAS番号は22839-47-0。

甘味度はショ糖の約180~200倍。

アミノ酸由来なので化学的にはエネルギーを持ちますが、砂糖の数百分の一程度の量で甘味を得られるため、食品全体へのエネルギー寄与は小さくなります。

親アスパルテームのCmaxや半減期を無理に置かない

アスパルテームの体内動態を理解するうえで、最も大切な点です。

JECFAやEFSAの基本的な評価では、アスパルテームは消化管・腸粘膜で速やかに加水分解され、意味のある量の親化合物がそのまま全身循環へ入るとは考えられていません。

したがって、

  • アスパルテーム親化合物のCmax
  • アスパルテーム親化合物のTmax
  • アスパルテーム親化合物の半減期

をAce-Kと同じように一つの標準値で埋めるのは適切ではありません。

一方、2025年のドイツKarMeN研究では、24時間尿中にintact aspartame、すなわち未変化アスパルテームと解釈された超微量のsignalが報告されました。

ただし、この研究では尿中濃度から摂取量を逆算する際に、未変化アスパルテームの尿中回収率を0.4%と仮定しています。

従来の「消化管でほぼ完全に分解される」というヒト薬物動態モデルを、この一報だけで否定することはできません。

現時点では、

「従来のヒトPKでは意味のある未変化体の全身曝露は認められていない。一方、2025年に超微量尿中signalが報告されており、その再現性と定量的意義は今後確認が必要」

とするのが最も慎重です。

約50%がフェニルアラニン、約40%がアスパラギン酸、約10%がメタノール

アスパルテームを分解すると、重量比でおおよそ、

  • フェニルアラニン:約50%
  • アスパラギン酸:約40%
  • メタノール:約10%

になります。

フェニルアラニンは通常のアミノ酸代謝へ入り、phenylalanine hydroxylaseによってtyrosineへ変換される経路などへ進みます。

アスパラギン酸も通常のアミノ酸代謝へ入ります。

メタノールは、

methanol → formaldehyde → formate → CO₂

という経路で代謝されます。

「formaldehydeという名前が出てくるから危険」と結論することも、「食品由来だからformaldehydeは一切生じない」と説明することも、どちらも適切ではありません。

重要なのは、どの程度の量が生じ、どの程度の血中濃度になるのかです。

フェニルアラニンは実際に血中で上がる

健康成人へアスパルテーム34 mg/kg体重を単回投与した古典的ヒト試験では、血漿フェニルアラニンは投与前の約4.9±1.0 μmol/100 mLから、約10.7±1.9 μmol/100 mLまで上昇しました。

ピークはおおむね45~60分。

その後低下し、約4時間で投与前付近へ戻ります。

一方、アスパラギン酸はフェニルアラニンほど大きな血中上昇を示さない研究が多くあります。

同じアスパルテーム分解物であっても、体内動態は同じではありません。

メタノールも「出るか・出ないか」ではなく、量を見る

アスパルテームとメタノールの関係も、数字を見ずに議論すると極端になりやすいところです。

古典的な成人試験では、34 mg/kg体重投与時に、当時の測定法の検出限界0.4 mg/dLを超える血中メタノール上昇は確認されませんでした。

一方、500 mg程度の比較的少量のアスパルテームを用いた、より感度の高い測定では、平均約1.06 mg/Lの小さな血中メタノール上昇が報告されています。ピークは約45分、その後およそ2時間でbaseline付近へ戻りました。

さらに高用量では上昇がはっきりします。

  • 100 mg/kg体重:血中メタノールpeak 約1.27±0.48 mg/dL
  • 150 mg/kg体重:約2.14±0.35 mg/dL
  • 200 mg/kg体重:約2.58±0.78 mg/dL

このように、

日常的な少量摂取、ADI付近、極端な単回高用量負荷を同じ「アスパルテーム摂取」として扱わないこと

が重要です。

DKPは「体内の主代謝物」と「食品中分解物」を混ぜない

アスパルテームにはDKP、5-benzyl-3,6-dioxo-2-piperazine acetic acidという有名な分解物があります。

しかし、DKPをフェニルアラニン、アスパラギン酸、メタノールと同じ「消化後の主要代謝物」のように扱うのは適切ではありません。

DKPは、食品中の保存、pH、温度などによってアスパルテームが環化して生じる重要な分解物です。

したがって、

  • 消化管での主要分解:フェニルアラニン、アスパラギン酸、メタノール
  • 食品中の重要な分解物:DKP

と分ける方が正確です。

DKPは腸管からの吸収が良くなく、大部分は便へ排泄されます。

一部はphenylacetic acidへ代謝され、さらにphenylacetylglutamineなどとして尿へ排泄されます。

「アスパルテームは加熱すると全く別の強力な毒物になる」という単純な説明ではありません。

PKUでは明確に別扱いが必要

フェニルケトン尿症、PKUは、アスパルテームを考えるうえで最も明確な特殊集団です。

PKUではフェニルアラニンの代謝能力が低下しています。

そのため、一般人口を前提に設定されたアスパルテームADIだけを見て、「ADI以下ならPKUでも同じ」と考えることはできません。

さらに注意したいのは、アスパルテームは食品だけに使われるとは限らないことです。

散剤、ドライシロップ、小児用医薬品などで矯味剤として使われる場合があります。

日本の小児製剤研究では、アスパルテーム分子量294に対し、フェニルアラニン構造部分163として、55.44%をPhe相当量として薬剤由来負荷を計算しています。

PKUでは「ゼロ飲料を避ければよい」という問題ではなく、薬剤を含めた総フェニルアラニン管理が必要になります。

ADIはJECFA・EFSA 40、FDA 50 mg/kg体重/日

アスパルテームのADIは、JECFA・EFSAでは40 mg/kg体重/日。

FDAでは50 mg/kg体重/日です。

JECFA・EFSA系の評価では、NOAEL 4,000 mg/kg体重/日に100倍の不確実係数を適用し、40 mg/kg体重/日というADIが導かれています。

体重70 kgの成人で単純計算すれば、40 mg/kg体重/日は2,800 mg/日に相当します。

ただし、これは「2,799 mgなら絶対安全、2,801 mgなら突然危険」という線ではありません。

ADIは毎日・生涯の摂取を前提としたリスク評価上の管理値です。

IARC Group 2B――「可能性」と「実際のリスク」を分ける

2023年、IARCはアスパルテームをGroup 2B、「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」に分類しました。

一方、同時期のJECFAはADI 0~40 mg/kg体重/日を維持しています。

ここで重要なのは、癌疫学の結果が一方向ではないことです。

NutriNet-Santéでは全癌HR 1.15

2022年のNutriNet-Santéでは、高アスパルテーム摂取群と非摂取群を比較し、

全癌 HR 1.15、95%CI 1.03~1.28

という関連が報告されました。

HRはハザード比です。

HR 1.15という結果は、研究期間中の発症率が比較群より15%高かったという推定です。

95%CIは、その推定値の不確実性を示します。

乳癌についてもアスパルテーム高摂取と関連が報告されました。

ただしこれは観察研究です。

肥満、糖尿病、体重変化、食行動、健康意識、diet製品を選ぶ理由などを完全に除くことはできません。

MCC-Spainでは複数癌を解析

スペインのMCC-Spainでは、

  • 大腸癌1,881例
  • 乳癌1,510例
  • 前立腺癌972例
  • 胃癌351例
  • 慢性リンパ性白血病109例
  • 対照3,629人

を解析しました。

全体として、アスパルテーム含有製品と主要癌の間に一貫した明確な関連を示す結果にはなりませんでした。

Nurses’ Health Studyでは乳癌10,814例、HR 1.00

2025年に報告されたNurses’ Health StudyとNHS IIの解析では、約30年間の追跡で侵襲性乳癌10,814例が確認されました。

アスパルテーム200 mg/日増加あたりの乳癌HRは、

1.00、95%CI 0.98~1.03

でした。

この研究では、アスパルテーム摂取と侵襲性乳癌リスクの増加は認められていません。

つまり、

IARC Group 2B、JECFAのADI維持、関連を示す疫学、関連を示さない大規模疫学が同時に存在している

のが現在の状況です。

血糖・インスリンへの影響は「ほぼ何もない」で終わるのか

アスパルテームでは、血糖、インスリン、GLP-1、食欲などを調べた多くのヒト試験があります。

2025年の系統的レビュー・メタ解析では、101報・100実験が整理され、急性試験79、中期8、長期13という非常に偏った研究構成でした。

全体として、アスパルテームが血糖やインスリンへ大きく一貫した影響を与える証拠は乏しい一方、研究の異質性が大きく、確実性も高くありません。

つまり、

「血糖を上げることが証明された」でも、「どの条件でも代謝作用が完全にゼロと証明された」でもない

という位置づけです。

日本人7人試験では満腹感に小さな差

日本の20代男性7人を対象にした小規模研究では、10%ショ糖と甘味度を合わせたアスパルテーム飲料などを比較しています。

アスパルテーム条件では、ショ糖と比べて60分の満腹感が低く、120分の「まだ食べられそうな量」が高いという差が出ました。

一方、insulin、GLP-1、ghrelinには有意差がありませんでした。

被験者7人です。

したがって、

「アスパルテームは食欲を増やす」と断定できる研究ではありません。

ただし、同じ甘さでもエネルギーを伴う場合と伴わない場合で、主観的な満腹感が異なる可能性を考える材料にはなります。

頭痛研究も一致していない

アスパルテームと頭痛・片頭痛の関係も、古くから研究されています。

片頭痛歴のある11人を対象にした13週間の二重盲検クロスオーバー試験では、1,200 mg/日のアスパルテーム摂取期間で頭痛頻度が増えました。

一方、アスパルテーム摂取後に頭痛などの症状を経験すると自己申告していた40人へ30 mg/kg体重を投与した別の二重盲検クロスオーバー試験では、頭痛発生率はアスパルテーム35%、プラセボ40%で差を認めませんでした。

さらに自己申告性頭痛を持つ18人を対象にした別の7日間試験では、アスパルテーム条件33%、プラセボ24%と、アスパルテーム期間で頭痛発生が多い結果でした。

研究規模はいずれも小さく、結果も一致していません。

「アスパルテームは頭痛を起こさない」とも、「誰にでも頭痛を起こす」とも言えないのが現状です。

認知機能――2025年12,772人、8年追跡研究をどう読むか

2025年には、12,772人を8年間追跡した認知機能研究がNeurologyに報告されました。

ただし、この研究はアスパルテーム単独の研究ではありません。

解析対象には、アスパルテーム、サッカリン、Ace-Kに加え、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、タガトースなどが含まれています。

60歳未満では、高摂取群で全般的認知機能や言語流暢性の低下がより速いという関連が報告されました。

一方、60歳以上では同じ関連は認められませんでした。

この論文にはその後訂正が入り、2026年には生データから解析を再実行し、推定値、95%CI、表、図を更新しましたが、主結論は変更されませんでした。

それでも前向き観察研究です。

「アスパルテームを摂ると認知症になる」ことを証明した研究ではありません。

日本人の平均摂取量はADIの0.02%

2026年に公表された日本のマーケットバスケット方式による調査では、成人のアスパルテーム推定摂取量は約0.006 mg/kg体重/日、1人当たり約0.37 mg/日でした。

調査で使用されたADI 40 mg/kg体重/日に対する比率は、

0.02%

です。

日本人成人の「平均摂取量」という意味では、ADIからかなり離れています。

ただし平均値は、特定製品を大量・継続摂取する個人の曝露量を示すものではありません。

歯科では「砂糖より低う蝕原性」と「歯に安全」を同じにしない

アスパルテーム自体は、ショ糖のようにプラーク細菌へ大量の発酵性糖質を供給するものではありません。

そのため、砂糖をアスパルテームへ置き換えることは、う蝕原性を下げる方向に働きます。

ただし、

非う蝕原性=抗う蝕性

ではありません。

アスパルテーム自体が歯質を強化することを意味するわけではありません。

さらに、アスパルテームを使った「ゼロシュガー飲料」であっても、クエン酸やリン酸などを含みpHが低ければ酸蝕は起こり得ます。

う蝕と酸蝕は別の病態です。

環境ではAce-Kやスクラロース型の追跡物質ではない

Ace-Kやスクラロースは、親化合物のまま尿・便から排出される割合が大きく、下水や河川で追跡しやすい甘味料です。

アスパルテームは人体内でほぼ分解されるため、同じような「親化合物がそのまま尿→下水→河川」という型ではありません。

環境中からアスパルテームが検出される研究はありますが、Ace-Kのような典型的生活排水tracerとは性格が違います。

アスパルテームを一言でまとめると

アスパルテームは、「親化合物そのものを血中で追う甘味料」ではなく、「消化で生じるフェニルアラニン、アスパラギン酸、メタノールを中心に追う甘味料」です。

IARC Group 2Bというハザード評価、JECFAのADI 40 mg/kg体重/日の維持、関連を示す癌疫学、関連を示さない大規模疫学、PKUという明確な特殊集団、頭痛・認知・代謝研究の不一致。

これらを一つの「安全」「危険」という言葉へ押し込めると、重要な情報が消えてしまいます。

何を、どれだけ、誰が、どのくらいの期間摂取したのか。

人工甘味料を読むときの基本は、アスパルテーム一つを見ても変わりません。

2.アセスルファムK――ほぼ完全に吸収され、ほぼそのまま尿へ出る

アセスルファムK、一般にAce-Kと略される甘味料は、化学式C₄H₄KNO₄S、分子量201.24。

CAS番号は55589-62-3。

甘味度はショ糖の約200倍です。

アスパルテームと同じ「人工甘味料」に分類されますが、体内へ入った後の動きはほとんど正反対です。

アスパルテームでは、親化合物そのものより消化後のフェニルアラニン、アスパラギン酸、メタノールを追う必要がありました。

Ace-Kでは逆です。

親化合物そのものがほぼ完全に吸収され、ほとんど代謝されないまま腎臓から尿へ排泄されます。

ほぼ完全に吸収される

ヒトでのAce-Kの吸収率は非常に高く、EFSA 2025再評価でも「ほぼ完全に吸収される」と整理されています。

古典的な放射標識ヒト試験では、30 mg程度のAce-K投与後、投与量の約99%が尿から回収され、便への排泄は1%未満でした。

別のヒト試験でも、2.2~102 mg程度の範囲で摂取されたAce-Kのほぼ全量が吸収され、24時間以内に主として尿へ出ることが確認されています。

代表的なTmax、すなわち血中濃度が最大になるまでの時間は約1~1.5時間。

半減期はおおむね2~4時間です。

吸収された後に大規模な代謝を受けるわけではありません。

つまり、

口 → 消化管 → 吸収 → 血液 → 腎臓 → 尿

という、比較的直線的な体内動態をとります。

Ace-Kは「吸収されないから低カロリー」なのではありません。

よく吸収されるが、エネルギー源として大きく代謝されず、比較的速やかに未変化体として排泄される甘味料です。

なぜ「尿に出る」ことが重要なのか

「尿に99%出る」と聞くと、「体に全く作用しない」という意味に受け取られるかもしれません。

しかし、そうではありません。

尿へ排泄されるまでの数時間は血液中に存在します。

だからこそ、胎盤を通過したり、母乳へ移行したりすることも可能です。

「最終的に尿へ出る」と「全身曝露がない」は同義ではありません。

甘味受容体ではIle-67というアミノ酸まで研究されている

Ace-Kも、主にTAS1R2/TAS1R3という甘味受容体を刺激します。

近年は、受容体のどこでAce-Kを認識しているのかについて、さらに細かい研究が進んでいます。

TAS1R2のVenus flytrap domainと呼ばれる領域のIle-67が、Ace-Kのようなsulfamate系甘味料の認識に重要であることを示す構造・機能研究があります。

「人工甘味料は甘味受容体を刺激する」という段階から、どのアミノ酸残基が甘味認識に関わるのか、というレベルまで解析が進んでいます。

胎盤を通る――母体血、臍帯血、羊水まで実測されている

Ace-Kで特に興味深いのが、ヒト妊娠時の胎盤移行です。

2023年の臨床研究では、帝王切開を予定していた妊婦の介入群へ、手術のおよそ2時間前に250 mLの飲料を投与しました。

その飲料には、

  • Ace-K 85 mg
  • アスパルテーム 100 mg
  • シクラメート 60 mg
  • サッカリン 20 mg
  • スクラロース 75 mg

が含まれていました。

したがって、「Ace-Kだけを単独投与した妊婦試験」ではありません。

それでもAce-K自体の濃度は個別に測定されています。

平均値は、

  • 母体血漿:848.5 ng/mL
  • 臍帯血漿:643.9 ng/mL
  • 臍帯血/母体血濃度比:0.80
  • 羊水:494.7 ng/mL

でした。

臍帯血/母体血比0.80という数字は、胎児循環側にもかなりの濃度が到達していたことを示します。

さらに羊水からも検出されています。

EFSAは、この研究からAce-Kが胎盤を通過して胎児循環へ入り、さらに胎児の腎臓から羊水へ排泄されたことを示すと評価しています。

ただし、ここで言えるのは、

「胎児へ届く」

ということです。

「その濃度で胎児毒性が起きる」

ことを、この研究が証明したわけではありません。

母乳にも移行する

Ace-Kは母乳にも移行します。

2024年に報告された授乳婦40人の研究では、母親にスクラロース95 mgとAce-K 17 mgを含む飲料を摂取してもらい、血液と母乳を12時間まで追跡しました。

Ace-Kの母体血漿Cmaxは幾何平均で、

379 μg/L

でした。

Cmax到達は約4時間。

平均半減期は、

3.6時間

でした。

血漿AUCに対する母乳AUCの比は平均、

1.75±1.17

で、母乳中へ明確に移行していました。

授乳児の血漿Ace-K濃度は平均9.2 μg/L。

母親の投与量に対する乳児の相対投与量は、

平均1.59±1.7%

でした。

EFSAは、この平均乳児曝露量について懸念を示していません。

ここでも大事なのは、

「母乳から検出された」だけで話を止めず、「どれくらいの量だったか」まで見ることです。

ADIは2025年に15 mg/kg体重/日へ更新された

EFSAは2025年の再評価でAce-KのADIを見直しました。

2年間のラット慢性毒性・発がん性試験から、

NOAEL 1,500 mg/kg体重/日

を採用。

100倍の不確実係数を用いて、

ADI 15 mg/kg体重/日

としました。

それまで欧州で使われていたADI 9 mg/kg体重/日は更新されています。

古い総説やウェブ記事では、現在でも「EFSAのAce-K ADIは9 mg/kg体重/日」と記載されていることがあります。

2025年以降の評価では15 mg/kg体重/日です。

高摂取幼児ではP95が15.7 mg/kg体重/日という推計もある

平均曝露だけを見ていると、Ace-KはADIからかなり余裕があるように見えます。

しかしEFSAの2025年再評価では、曝露推計を複数の条件で計算しています。

より現実的とされた精密な高摂取想定では、平均曝露は、

青年の0.04 mg/kg体重/日から、幼児の5.2 mg/kg体重/日程度。

一方、95パーセンタイルでは、幼児で、

15.7 mg/kg体重/日

という推計も出ています。

新ADI 15 mg/kg体重/日をわずかに上回る数字です。

ただしEFSAは、曝露推計には保守的な仮定が多く、全体として現在の使用条件で安全性上の懸念はないと判断しています。

ここでも、

「国民平均」と「高摂取幼児」は同じではない

ことが分かります。

癌疫学――全癌HR 1.13という所見

NutriNet-Santéでは、Ace-K摂取量と癌発症の関連も解析されています。

高摂取群は、非摂取群と比較して、

全癌 HR 1.13、95%CI 1.01~1.26

でした。

高摂取群の平均Ace-K摂取量は22.39 mg/日。

一方、前立腺癌や乳癌を個別にみると、統計学的に明確な関連にはなっていません。

EFSAは、この癌解析について利用可能な質の高い研究が実質一つであり、その研究自体にも選択バイアスなどの限界があるため、Ace-Kと癌との因果関係について結論できないとしています。

「HR 1.13が出た」という事実と、

「Ace-Kが癌を起こすと証明された」

は同じではありません。

心血管疾患ではHR 1.30、冠動脈疾患ではHR 1.40

同じNutriNet-Santéでは心血管疾患との関連も調べられています。

Ace-Kを連続量として解析した場合、全心血管疾患では、

HR 1.18、95%CI 0.98~1.41

で、統計学的有意差には達していません。

一方、冠動脈疾患では、

HR 1.40、95%CI 1.06~1.84

という関連が報告されました。

Ace-K摂取をカテゴリー化した解析では、高摂取群と非摂取群を比べた全心血管疾患で、

HR 1.30、95%CI 1.09~1.55

でした。

ただし、解析方法によって結果が変わっています。

これは観察疫学を読むうえで重要な点です。

2型糖尿病では高摂取群HR 1.70

NutriNet-Santéの2型糖尿病解析では、Ace-K高摂取群で、

HR 1.70、95%CI 1.42~2.04

という関連が報告されました。

数値だけを見るとかなり大きく見えます。

しかし、対象はインターネット利用可能なボランティア中心。

食事は複数回の24時間記録から推定。

元の参加者すべてが解析に残っているわけでもありません。

さらに、肥満や体重増加、糖尿病家族歴、健康意識、diet製品を選ぶ理由など、観察研究では完全に除けない要因があります。

「関連がある」ことを無視しない。

しかし、

「Ace-Kが2型糖尿病を起こした」と因果関係へ飛躍しない。

その両方が必要です。

妊娠中の早産研究――OR 3.33という数字はどう読むか

台湾の妊婦613人を対象とした研究では、Ace-K摂取と37週未満の早産との関連が調べられました。

低摂取群に対し、中程度摂取群で、

OR 3.21、95%CI 1.02~10.12

高摂取群では、

OR 3.33、95%CI 1.17~9.47

という関連が報告されています。

ただし、この研究では最初に登録された1,170人のうち、出生記録まで確認できたのは613人で、約47.6%が追跡から脱落しています。

さらに、妊娠高血圧、糖尿病、喫煙、カフェインなど重要な交絡因子を十分調整できていません。

95%CIも非常に広い。

したがって、

「Ace-Kで早産リスクが3倍になる」と一般化できる研究ではありません。

一方で、妊娠中の長期ヒトデータが十分ではないという意味では、今後追跡すべき所見です。

短期の血糖・インスリン試験では大きな変化なしが多い

長期観察研究で糖尿病との関連が報告される一方、短期ヒト介入試験ではAce-K単独摂取によって血糖やインスリンが大きく変化しない研究が多くあります。

複数の短期試験のうち、多くでは明確な血糖・インスリン変化を認めていません。

一方、小規模試験ではAce-K 85 mgを45 g glucoseと一緒に摂取した条件で、glucose単独より血糖反応が約17%大きかったという報告もあります。

つまり、

甘味料単独なのか、糖質と同時なのか

で結果が変わる可能性があります。

短期介入試験と長期疫学が違う結果を示すこと自体も不思議ではありません。

見ている時間軸と評価項目が違うからです。

遺伝毒性についてEFSA 2025は懸念なし

EFSA 2025は、新旧の遺伝毒性試験を再評価しました。

Ames試験、in vitro micronucleus試験などを含む現在の証拠全体から、

Ace-K本体について遺伝毒性上の懸念はない

としています。

ただし、これは製品中のあらゆる不純物まで一括して無条件に問題ないという意味ではありません。

5-chloro-acesulfameは親Ace-Kとは別に管理する

2025年EFSA再評価で重要だったのが、製造由来不純物の問題です。

その一つが5-chloro-acesulfameです。

5-chloro-acesulfameについては、十分な実験毒性・遺伝毒性データが確認されませんでした。

一方、QSARという構造から毒性を推定する計算解析では、遺伝毒性に関する警告が出ました。

EFSAは、潜在的遺伝毒性物質へ用いるTTC、すなわち毒性学的懸念の閾値と比較し、製品中に2 mg/kg存在すると仮定した場合には閾値を上回る可能性があると評価。

そのため、

5-chloro-acesulfameを最大0.1 mg/kgに規格化するか、適切な遺伝毒性試験を追加する

ことを勧告しています。

これは、

親Ace-Kの安全性評価

と、

製造時に混入し得る微量不純物の品質管理

を分けて考える必要があるということです。

Acetylacetamideも規格論点

酸性条件ではAce-Kが分解し、acetylacetamideなどを生じる可能性があります。

Acetylacetamideについては、従来から低毒性・非変異原性と評価されています。

EFSAは1 mg/kg存在すると仮定した場合でも曝露余裕が十分大きく、安全性上の懸念はないと評価しました。

そのうえで、EU規格へ最大1 mg/kgの上限を設定することを勧告しています。

加熱には比較的強い

Ace-Kは高甘味度甘味料の中では比較的熱に強い物質です。

pH 5~7付近、100℃を超える短時間加熱でも高い回収率を示す研究があります。

そのため焼き菓子、飲料など様々な加工食品へ使用しやすいという特徴があります。

ただし、「熱に強い」は「どんな条件でも永久に分解しない」という意味ではありません。

強酸性、長期保存、高温条件では分解が進み、acetylacetamideなどの分解物が生じ得ます。

歯科ではショ糖より低う蝕原性方向だが、飲料の酸性度は別

Ace-K自体は、ショ糖のようにプラーク細菌へ大量の発酵性糖質を供給するものではありません。

したがって、砂糖をAce-Kへ置き換えることはう蝕原性を下げる方向に働きます。

ただし、Ace-K入りのゼロシュガー飲料がクエン酸やリン酸などを含む低pH飲料であれば、酸蝕リスクは別に存在します。

また、低う蝕原性だからといってAce-K自体に歯質強化作用があるわけではありません。

環境では生活排水の指標になる

Ace-Kは人体内でほとんど代謝されず、未変化体として尿へ出ます。

この性質は、環境科学では非常に特徴的です。

下水処理場を通過した後も河川などから検出されることがあり、人の生活排水がどの程度流入しているかを追跡する指標として利用されることがあります。

「人体で分解されにくい」という特徴が、そのまま環境中で追跡しやすい特徴につながっています。

Ace-Kを一言でまとめると

「吸収されるのに、ほとんど変身しない甘味料」です。

ほぼ完全に吸収され、数時間血中に存在し、胎盤や母乳にも移行する。

しかし、その大部分は代謝されず尿へ出る。

一方、長期疫学では癌、心血管疾患、2型糖尿病、早産などとの関連が報告されており、短期ヒト試験や規制評価では同じような因果関係は確立されていません。

さらに親化合物だけでなく5-chloro-acesulfameのような製造不純物まで個別管理が必要です。

「尿へ出るから何も起きない」「疫学で関連があるから危険」とどちらか一方だけで読むことはできません。

3.スクラロース――大部分はそもそも吸収されない

スクラロースはC₁₂H₁₉Cl₃O₈、分子量397.64。

CAS番号は56038-13-2。

ショ糖に似た骨格を持ちますが、3か所の水酸基が塩素で置換された分子です。

甘味度はショ糖の約600倍。

「塩素が入っているから危険」「砂糖から作られているから安全」というように、構造の一部分だけで安全性を決めることはできません。

スクラロースの最大の特徴は、

摂取した大部分がそもそも全身循環へ入らない

ことです。

吸収率は約8.8~21.7%

EFSA 2026が整理したヒト試験では、経口摂取後に全身循環へ入るスクラロースは、

8.8~21.7%

程度です。

つまり、概ね8割以上は吸収されません。

「スクラロースは全く吸収されない」と説明するのも正しくありません。

1~2割程度は血中へ入ります。

一方、

「摂ったものが全部血液中へ入る」わけでもありません。

便約85%、尿約10~13%というヒト試験

14C標識スクラロースを10 mg/kg体重投与したヒト試験では、120時間で、

  • 便:約85%
  • 尿:約10~13%

が回収されました。

尿と便を合わせた平均回収率は約96%です。

尿へ出た放射活性の大部分は未変化スクラロースでした。

一方、便へ出たものの大部分は、そもそも消化管から吸収されなかったスクラロースです。

血中へ入った分はどのくらいになる?

2017年のヒト試験では、成人11人と小児11人などで血漿スクラロース濃度が測定されています。

小児が68 mg摂取した場合、血漿peakは145~400 ng/mL。

平均は、

262.3±24.6 ng/mL

でした。

成人では250 mg摂取後、平均peakが、

365.6±69.9 ng/mL

でした。

水で飲んだ場合、Ace-Kと組み合わせた場合、diet sodaとして摂取した場合でも、この研究では大きく異なる血漿peakにはなりませんでした。

半減期は「24時間」と一つだけ書くと不正確

スクラロースの血中濃度は単純な一相性で下がるわけではありません。

EFSAが整理したヒトデータでは、初期には比較的速く低下し、その後ゆっくり低下する二相性がみられます。

100 mg投与のヒトデータでは、

  • 最初の約8時間:半減期約4時間
  • その後:半減期約12時間

という二相性がみられました。

別の14C標識試験では、初期半減期約4時間、terminal half-life、すなわち最終消失相の平均半減期は、

24.6時間

でした。

一方、12週間反復摂取試験では、血漿濃度から明らかな蓄積は示されませんでした。

したがって、

「スクラロースの半減期は24.6時間」

と単純に一つの数字だけを書いてしまうのは適切ではありません。

「全く代謝されない」でもない

スクラロースは大部分が未変化のまま排泄されます。

しかし、全く代謝されないわけではありません。

14C標識ヒト試験では、尿中放射活性のおよそ80%が未変化スクラロース。

一方、約10%程度の尿中放射活性はスクラロースのグルクロン酸抱合体と考えられる代謝物でした。

別試験ではM1、M2という二つの少量代謝物が確認され、それらを合わせても投与量全体の約2%程度でした。

また、呼気中に14CO₂は検出されていません。

つまり、glucoseのように体内で大きく酸化されてエネルギー代謝へ入るわけではありません。

胎盤を通過する

スクラロースもヒト胎盤を通過します。

Ace-Kで紹介した帝王切開予定妊婦の研究では、75 mgのスクラロースも同じ混合飲料に含まれていました。

スクラロースの臍帯血漿濃度は母体血漿濃度と有意な正の関係を示しました。

また羊水からも確認され、胎盤を越えて胎児循環へ移行し、胎児の腎臓から羊水へ排泄されたことが示唆されています。

ここでも、

「移行する」という薬物動態上の事実と、「その曝露が有害だった」という臨床的結論は別です。

母乳にも移行する――平均母乳/血漿比0.15、乳児量約4%

スクラロースについては、複数のヒト研究で母乳移行が確認されています。

EFSA 2026がまとめたデータでは、

  • 平均母乳/血漿比:0.15±0.06
  • 乳児の推定摂取量:母体の外部投与量の約4±2%

でした。

Ace-Kの相対乳児投与量約1.6%とは同じではありません。

甘味料によって母乳移行の程度も違います。

ADIはJECFA・EFSA 15、FDA 5 mg/kg体重/日

スクラロースのADIは、

  • JECFA:15 mg/kg体重/日
  • EFSA:15 mg/kg体重/日
  • FDA:5 mg/kg体重/日

です。

この違いも、「5のFDAの方が科学的に3倍厳しい」と単純化してはいけません。

評価時期、採用した毒性試験、評価法が異なります。

EFSA 2026はなぜADI 15を維持したのか

2026年EFSA再評価では、スクラロースの長期動物試験を再検討し、ラットでの体重低下を基準にBMD解析を行いました。

体重10%以上の低下は従来有害影響とみなされることがあります。

しかしスクラロース試験では、体重低下の一部が試験食の嗜好性低下と摂餌量低下で説明されると考えられました。

EFSAはこの点を考慮し、15%の体重低下を生物学的に意味のあるBMR、すなわちベンチマーク反応として設定しました。

その結果、

  • 雌ラットBMDL:55 mg/kg体重/日
  • 雄ラットBMDL:61 mg/kg体重/日

となりました。

EFSAはより低い55 mg/kg体重/日を参照点として採用しました。

ここから単純に100で割れば0.55 mg/kg体重/日になりますが、EFSAはそのような計算をしていません。

スクラロースの体重影響は消化管での局所作用が関係している可能性があり、全身吸収量に強く依存する作用ではないと考えました。

そこで、従来の一律100倍ではなく、毒性動態と毒性力学を考慮した化学物質固有の評価係数を検討。

考えられた評価係数は、

3.2~8

でした。

BMDL 55 mg/kg体重/日にこれらを適用すると、導かれるADI候補範囲の中に従来の15 mg/kg体重/日が含まれます。

さらに、新たな明確な有害作用も同定されなかったことから、EFSAは、

「現行ADI 15 mg/kg体重/日を変更する必要はない」

と判断しました。

これは、ADIが単純に「NOAEL÷100」でしか作られないわけではないことを示す好例です。

高摂取幼児P95は14.3 mg/kg体重/日

EFSAの曝露評価では、現在認可されている用途について複数の摂取想定が計算されています。

特定ブランドを継続的に選ぶことまで考慮した精密推計では、平均曝露は、乳児・小児・青年・高齢者で0.1 mg/kg体重/日前後から、幼児で最大4.7 mg/kg体重/日。

95パーセンタイルでは、

幼児で最大14.3 mg/kg体重/日

でした。

ADI15にかなり近い値です。

ただし、現在認可されている用途について、この精密推計でADIを超えた集団はありませんでした。

一方、個別食品カテゴリーだけを非常に多く摂る人を取り出すと、卓上甘味料などでADIを超える推計が出る場合があります。

これは「平均人口の安全性評価」と「極端な特定食品高摂取者」を分けて考える必要があることを示します。

焼き菓子類への用途拡大ではP95 16 mg/kg体重/日の想定も

EFSA 2026では、スクラロースを新たに砂糖不使用・エネルギー低減のfine bakery wares、すなわち焼き菓子類へ最大700 mg/kgまで使う用途拡大申請も評価しました。

この用途を加えた精密な最大量想定では、幼児P95が、

16.0 mg/kg体重/日

となり、ADI15をわずかに超える推計が出ました。

ただし、EFSAがこの用途拡大について結論できなかった最大の理由は、曝露量だけではありません。

高温加熱時にスクラロースの塩素が有機分子へ移り、望ましくない塩素化化合物が形成される可能性について不確実性が残ったことが重要でした。

焼成温度・時間が多様で、申請された食品カテゴリーすべてを安全と結論できるだけの加熱データが不足していたため、EFSAは用途拡大の安全性を結論できませんでした。

糖代謝研究はなぜ結果が割れるのか

スクラロースは、人工甘味料の中でも血糖、インスリン、GLP-1などについて比較的多く研究されています。

短期2~4週間程度では、血糖、インスリン、GLP-1、HbA1c、インスリン感受性に大きな変化を認めない研究があります。

一方、10週間程度の介入で、血糖値や体重は大きく変化しなかったものの、インスリン上昇やインスリン感受性低下を報告した研究もあります。

研究結果が割れる理由として、少なくとも、

  • 対象者が痩せ型か肥満か
  • 普段からNSSを摂っているか
  • スクラロース単独か
  • 糖質と同時に摂ったか
  • 単回か長期か
  • 用量がどれくらいか

などが考えられます。

EFSA 2026はヒトデータを統合し、スクラロースによってglucose/insulin homeostasisが悪化するという一貫した証拠については限定的と評価しています。

したがって、

「スクラロースは血糖に絶対何も影響しない」

でも、

「スクラロースが糖尿病を起こすことが証明された」

でもありません。

腸内細菌研究が多いのは、大部分が大腸へ行くから

スクラロースは摂取量の大部分が吸収されません。

したがって、大腸内容物は比較的高いスクラロース曝露を受けます。

そのため、人工甘味料と腸内細菌叢を研究するとき、スクラロースが頻繁に対象になるのは自然です。

動物研究や細胞・微生物研究では、菌構成、腸管透過性、炎症関連markerなどの変化が多数報告されています。

一方、ヒト介入研究では変化を認める研究と認めない研究が混在しています。

さらに、

「ある菌の割合が変わった」

という結果と、

「人で病気につながる有害な腸内細菌叢変化が起きた」

という結論の間には、大きな距離があります。

microbiome研究では、何を「有害な変化」と呼ぶか自体がまだ発展途上です。

Sucralose-6-acetate――「検出された」だけで体内生成とは限らない

2023年にはSucralose-6-acetateに関する遺伝毒性研究が大きく報道されました。

この物質について注意したいのは、スクラロース製造工程の中間体・不純物として存在し得ることです。

そのため、動物の尿や便からacetylated sucralose関連物質が検出されたとしても、

「スクラロースが人体内でSucralose-6-acetateへ代謝された」

と自動的に結論することはできません。

もともと投与試料中に含まれていた可能性、製造由来不純物の可能性、実際の体内代謝生成の可能性を分けて調べる必要があります。

遺伝毒性評価は「全試験が陰性」だから安全、ではない

スクラロースでは、一部のin vivo comet assayなどでDNA損傷を示す陽性所見があります。

だからといって、それだけで「スクラロースにはヒト発がん性がある」とは言えません。

EFSA 2026は、遺伝子突然変異、染色体損傷、DNA損傷、長期発がん性試験、試験の信頼性、曝露量などを総合評価しました。

その結果、

現在の証拠全体では、スクラロースについて遺伝毒性上の安全性懸念はない

と判断しています。

ここでも、

陽性試験が1本あること

と、

日常摂取で人に遺伝毒性リスクがあると結論されること

は同じではありません。

4-CGと1,6-DCF――不純物・分解物まで評価されている

スクラロースでは親化合物だけでなく、4-CGと1,6-DCFという塩素化単糖も評価されています。

これらは製造由来不純物として存在し得るだけでなく、酸性条件でスクラロースが加水分解された場合にも生じ得ます。

提出された市販試料の分析では、

  • 1,6-DCF:25~185 mg/kg
  • 4-CG:23~169 mg/kg

でした。

EFSAは保守的に、どちらも200 mg/kg存在すると仮定して曝露を評価しています。

毒性試験からの参照値は、

  • 1,6-DCF:NOAEL 約10 mg/kg体重/日
  • 4-CG:NOAEL 約9 mg/kg体重/日

です。

実際のスクラロース利用から推定される曝露量との間には100倍を超える曝露余裕があり、EFSAは安全性上の懸念なしと評価しました。

その一方で、4-CGと1,6-DCFは個別に測定できるため、EU規格でも「chlorinated monosaccharides」と一括せず、

それぞれ個別の上限規格を設ける

ことを勧告しています。

これも、

親化合物のリスク評価と、製造品質・分解物管理は別

という重要な例です。

加熱――「ダイオキシンが出る」でも「何℃でも安全」でもない

スクラロースの加熱問題は、極端な説明が非常に多い分野です。

現実的な食品加工条件で行われた研究では、たとえばビスケットを約180℃で12分、ウエハースを約160℃で75秒加熱した条件などで、明確なPCDD/PCDF増加が確認されなかった研究があります。

一方、より高温・長時間のモデル加熱では様々な分解物が生じます。

特に180℃を超える条件などで、スクラロース由来塩素が周囲の有機分子へ移る可能性を示した研究もあります。

EFSA 2026は、現在認可されている使用用途については安全性上の懸念なしとしました。

しかし、新たな広範囲の焼き菓子用途については、調理温度・時間が多様で、高温条件の塩素化生成物について十分なデータがないため、安全性を結論できませんでした。

さらに家庭でのfryingやbakingのような高温調理についても、望ましくない分解物形成の検討を勧告しています。

したがって、

「スクラロースを加熱すると必ずダイオキシンができる」

も、

「認可されているからどんな加熱条件でも問題ない」

も、現在の証拠を正確に表していません。

2026年雄性生殖研究――無視も断定もできない新しい所見

2026年には、スクラロースと雄性生殖機能を調べた新しい細胞・動物研究が報告されました。

細胞実験ではLeydig細胞、Sertoli細胞などを用い、

  • 細胞生存率
  • ROS
  • 自食作用関連タンパク質
  • リソソーム機能
  • T1R3
  • LH分泌

などが調べられました。

ラットでは8週間、

  • 1.5 mg/kg体重/日
  • 15 mg/kg体重/日
  • 45 mg/kg体重/日
  • 90 mg/kg体重/日

が経口投与されました。

最高90 mg/kg体重/日では、著者らが体表面積換算係数6.25で割り、

ヒト約14.4~15 mg/kg体重/日相当

と説明しています。

ラットでは体重、心臓・肝臓index、ALT、ASTには大きな差がない一方、精巣・精巣上体index低下などが報告されています。

しかし、ここで絶対に混同してはいけないのが、

ヒト相当量換算とADIは同じものではない

ということです。

ADIは生涯毎日摂取する安全管理値。

Human Equivalent Doseは動物用量を体表面積などで換算しただけの比較値です。

さらに、この研究は人の男性不妊を調べたRCTではありません。

2026年EFSA再評価後に出た新しい研究なので、

「新しい動物・細胞レベルの所見として追跡する価値は高いが、人の妊孕性リスクが証明されたわけではない」

という位置づけが妥当です。

歯科――低う蝕原性でも酸蝕は別

スクラロースもショ糖のようにプラーク細菌へ大量の発酵性糖質を供給する甘味料ではありません。

したがって、砂糖置換としてはう蝕原性を低くする方向です。

しかし、スクラロース入りのdiet drinkやzero drinkが酸性なら、酸蝕は別に起こり得ます。

また、スクラロース自体に抗う蝕作用や歯質強化作用が証明されているという意味でもありません。

環境では非常に残りやすい

スクラロースは環境研究でも特徴的です。

人体で吸収されるのは2割以下。

吸収された分も多くが未変化体として尿へ。

未吸収分は便へ。

そのため、多くの親スクラロースが下水系へ到達します。

しかも通常の下水処理では除去効率が低く、流入水と処理後水で濃度があまり変わらない研究もあります。

EFSAがまとめた文献では、表層水濃度として、

0.0001~600 μg/L

という非常に広い範囲が報告されています。

この600 μg/Lという値を「普通の川では600 μg/L」と読むのは間違いです。

国、河川、生活排水影響、測定条件などが異なる多数の研究をまとめた幅広い報告範囲です。

EUなどのIPCHEMデータでは、表層水は最大25 μg/L、地下水は最大1.1 μg/L。

底質では最大115 μg/kg乾燥重量、土壌では0.16~35 μg/kgという報告があります。

スクラロースは水溶性が高く、通常の環境条件で分解されにくいため、生活排水のtracerとして使われることもあります。

「人に吸収されにくい」という性質が、環境では「そのまま残りやすい」という別の特徴につながっています。

スクラロースを一言でまとめると

「体へ入りにくいことが、腸と環境の研究テーマを作る甘味料」です。

摂取量の8割以上は全身循環へ入らず、大腸・便側へ向かう。

一方、1~2割は吸収され、胎盤や母乳への移行も確認される。

少量はグルクロン酸抱合される。

高温加熱では不確実性が残る。

4-CG、1,6-DCF、Sucralose-6-acetateなど、親化合物とは別の不純物・分解物問題もある。

2026年には雄性生殖に関する新しい動物・細胞所見も報告された。

それでもEFSA 2026の統合評価では、現在の認可用途についてADI15 mg/kg体重/日を維持し、遺伝毒性・発がん性について新たな安全性上の懸念は認めていません。

「ほとんど吸収されないから何も起きない」でも、「塩素が入っているから危険」でもありません。

吸収率、体内動態、腸内曝露、加熱条件、不純物、実際の摂取量を分けて読む必要があります。

4.サッカリン――ラット膀胱癌の歴史をどう読み直すか

サッカリンは、人工甘味料の安全性評価の歴史を考えるうえで非常に重要な物質です。

遊離サッカリンの化学式はC₇H₅NO₃S、分子量183.18。

CAS番号は81-07-2。

甘味度はショ糖のおよそ300~500倍です。

現在では広く使われている甘味料ですが、かつて高用量のサッカリンを与えた雄ラットで膀胱腫瘍が増えたことから、大きな発がん性論争を経験しました。

その後、腫瘍が生じる機序そのものが詳しく研究され、現在では「ラットで腫瘍が出た」という結果を否定するのではなく、その機序をヒトへそのまま外挿できるのかという形で評価されています。

甘いのに、高濃度では苦味・金属様後味も出る

サッカリンはTAS1R2/TAS1R3という甘味受容体を刺激します。

一方、高濃度になるとTAS2R31やTAS2R43などの苦味受容体も刺激することが知られています。

そのため、濃度が高くなると「金属っぽい」「少し苦い」と感じる後味が出やすくなります。

サッカリンが他の甘味料とブレンドされることが多い理由の一つです。

通常量では大部分~ほぼ全量が吸収される

サッカリンも、「人工甘味料だからほとんど吸収されない」というタイプではありません。

EFSA 2024が整理したヒトデータでは、2.2~69.3 mg程度を経口投与した条件で、大部分、あるいはほぼ全量が吸収されると評価されています。

一方、非常に高い2 gのsodium saccharinを単回投与した古典的試験では、尿中回収率と静脈内投与とのAUC比較から、吸収率は約85%と推定されました。

つまり通常の食品曝露に近い範囲ではかなりよく吸収されます。

吸収された後も、ほとんど代謝されない

吸収後のサッカリンには大きな代謝経路がありません。

ほぼ未変化体のまま腎臓へ運ばれ、尿へ排泄されます。

EFSAはヒトでの半減期をおよそ、

4時間

と整理しています。

一方、静脈内投与を行った古典的ヒト試験ではterminal half-lifeは約70分でした。

経口投与と静脈内投与、測定条件、解析する消失相によって「半減期」の数字が変わり得るため、単一の数字だけを絶対値として扱うべきではありません。

腎臓では糸球体濾過だけでなく尿細管分泌も関わる

サッカリンの腎排泄は、単に糸球体で濾過されるだけではありません。

健康成人男性へ静脈内投与した古典的研究では、腎クリアランスは、

310±120 mL/分

でした。

ところが、尿細管分泌を阻害するprobenecidを併用すると、

180±70 mL/分

まで低下しました。

この結果から、サッカリンは糸球体濾過に加えて、能動的な尿細管分泌によっても腎排泄されると考えられています。

「未代謝で尿へ出る」という一文の中にも、こうした腎排泄機序があります。

胎盤を通過する――母体血101.8、臍帯血61.2 ng/mL

サッカリンも胎盤を通過します。

Ace-Kと同じ帝王切開予定妊婦の研究では、飲料中にサッカリン20 mgが含まれていました。

平均濃度は、

  • 母体血漿:101.8 ng/mL
  • 臍帯血漿:61.2 ng/mL
  • 臍帯血/母体血濃度比:0.65
  • 羊水:61.3 ng/mL

でした。

サッカリンが胎盤を通過し、胎児循環へ到達し、その後胎児から羊水へ排泄されることを示すヒトデータです。

ただし、Ace-Kの章と同じく、胎盤を通ることは曝露の証拠であって、胎児毒性そのものの証明ではありません。

母乳では血漿より遅れてピークへ

授乳婦を対象にサッカリン20 mgを含む混合飲料を摂取してもらった研究では、

  • 血漿Cmax:350.7 ng/mL
  • 血漿Tmax:30分
  • 母乳Cmax:81.5 ng/mL
  • 母乳Tmax:240分

でした。

血漿では30分でピークになる一方、母乳では4時間後です。

母乳AUC/血漿AUC比は約38.9%と計算されました。

ただしEFSAは、この研究では6時間時点でも血漿・母乳濃度がまだ残っていたため、AUCは完全な濃度時間曲線を覆っておらず、過小評価になっている可能性を指摘しています。

つまり、数字を紹介するときも、その数字自体の測定限界まで確認する必要があります。

ラット膀胱癌は「研究が間違っていた」のではない

サッカリンを語るうえで避けて通れないのが、ラット膀胱癌の歴史です。

高用量のsodium saccharinを長期間与えた雄ラットで、膀胱腫瘍が増えることが報告されました。

この所見そのものは実際に観察されたものです。

現在の評価は、

「昔の研究は間違っていた」

という話ではありません。

その後、なぜ雄ラットで腫瘍が生じたのかが詳しく研究されました。

現在重視されるのは、

高用量sodium saccharin → ラット尿中でcalcium phosphateを含む沈殿形成 → 尿路上皮への物理・化学的細胞毒性 → 再生性細胞増殖 → 長期的に腫瘍形成

という非DNA反応性機序です。

この機序には雄ラット特有の尿組成、尿中タンパク質、pH、ミネラル環境などが深く関係します。

IARCやEFSAは、現在の機序理解では、この高用量雄ラット膀胱腫瘍をそのまま人へ外挿することは適切ではないと評価しています。

IARCは1999年にGroup 3へ分類

IARCがサッカリンとその塩類について行った最新のモノグラフ評価は1999年です。

そこでサッカリンとその塩類は、

Group 3――ヒト発がん性について分類できない

と評価されました。

Group 3は、

「発がん性がないと証明された」

という意味ではありません。

現在利用できる証拠では、ヒト発がん性について分類できないという意味です。

アスパルテームのGroup 2Bとは異なります。

遺伝毒性についても「昔の陽性試験を全部無視」ではない

サッカリンには古いin vitro試験で染色体異常などの弱い陽性所見が報告されたものがあります。

しかし、それらは非常に高濃度でみられ、イオンバランスの乱れなど非特異的作用の可能性が指摘されていました。

EFSA 2024は新旧の遺伝毒性試験を再評価しています。

一部comet assayで胃・大腸に陽性所見がありましたが、試験上の限界が大きく、他のin vitro・in vivo試験、特に頑健なmicronucleus試験やtransgenic rodent mutation assayは一貫して陰性でした。

全体として、

サッカリンについて現在の証拠から遺伝毒性上の懸念はない

と結論しています。

EFSA 2024はなぜADIを9 mg/kg体重/日にしたのか

以前のサッカリンADIは、現在の評価と同じではありません。

EFSA 2024は、ラット膀胱腫瘍をヒトへ関連するcritical endpointとはみなしませんでした。

代わりに、動物試験でみられた体重低下をADI設定の基準にしました。

8週間ラット試験でのLOAELは、sodium saccharinとして、

4,500 mg/kg体重/日

これを遊離サッカリンへ換算すると、

3,420 mg/kg体重/日

です。

ここでは適切なNOAELが得られず、BMD解析に十分なデータもなかったため、LOAELを参照点として採用しました。

そのうえで、

  • 通常の種差・個人差:100
  • LOAELからNOAELへの補正:2
  • 8週間から慢性曝露への補正:2

総不確実係数400を適用。

3,420÷400=8.55。

そこから、

ADI 9 mg/kg体重/日、遊離サッカリン換算

が設定されました。

「3.8、5、9、15」というADIは単純比較できない

サッカリンでは、資料によって、

  • 日本の摂取量調査で使用:3.8 mg/kg体重/日、遊離サッカリン相当
  • JECFA:5 mg/kg体重/日
  • EFSA 2024:9 mg/kg体重/日、遊離サッカリン換算
  • FDA:15 mg/kg体重/日

という数字が並びます。

しかし、これを、

「FDAは日本より約4倍甘い評価をしている」

とだけ書くのは不正確です。

sodium saccharinとして評価しているのか、遊離サッカリン換算なのか、group ADIなのか、どの評価年・どの試験を参照したのかが違うためです。

ADIは単純な「安全性ランキング」ではありません。

Suez 2022――180 mg/日を2週間で耐糖能変化

サッカリンは糖代謝研究でも注目されました。

Suezらの2022年RCTでは、120人を複数群へ分け、そのうちSaccharin群では1日180 mgを2週間摂取しました。

ここで注意したいのは、Saccharinだけを純粋に飲んだ研究ではないことです。

市販sachetを想定した形で、glucoseが増量剤として一緒に投与されました。

Saccharin群では、glucoseだけを含むvehicle群や無介入群と比べて、OGTT後のglycaemic responseが有意に大きくなりました。

baselineからの変化でも、1週目、2週目で耐糖能悪化方向の差が報告されました。

一方、follow-up終了時には有意差は消失。

インスリンにも明確な差は認めませんでした。

そしてEFSAが評価した他の小規模RCTでは、空腹時血糖、OGTT、insulin、HOMA-IR、HbA1c、GLP-1などに明確な差を認めないものが複数ありました。

したがって、

「Saccharinは必ず耐糖能を悪化させる」

とまでは言えません。

EFSA 2024も、Suez 2022にシグナルがある一方、他の介入研究では再現されておらず、特に長期のヒト介入試験が不足していることを不確実性として残しています。

腸内細菌――「Saccharinで必ず変わる」とも言えない

Saccharinと腸内細菌叢の関係は、2014年以降特に注目されるようになりました。

Suez 2022でも、甘味料による血糖反応には個人差があり、腸内細菌叢との関係が検討されています。

一方、Serranoらの二重盲検プラセボ対照試験では、最大許容摂取量レベルのsodium saccharinを短期間摂取しても、腸内細菌叢や耐糖能に明確な変化を認めませんでした。

EFSAも、現在は腸内細菌叢のどの変化を「有害」と定義すべきかに国際的な合意がないことを指摘しています。

菌の割合が変わったことと、臨床疾患につながる有害な変化が起きたことは同じではありません。

NHANES IIIでは死亡率との関連――しかし対象集団に注意

2024年には米国NHANES IIIデータを使い、Saccharin摂取と死亡率との関連を調べた研究が報告されました。

糖尿病・前糖尿病集団では、高摂取群で、

  • 全死亡 HR 1.41、95%CI 1.05~1.90
  • 心血管死亡 HR 1.93、95%CI 1.15~3.25
  • 癌死亡 HR 2.26、95%CI 1.10~4.45

という関連が報告されました。

数字だけを見るとかなり大きく見えます。

しかし対象者は、一般人口そのものではなく、糖尿病・前糖尿病、または過体重集団です。

また曝露評価には古い食事調査データが用いられています。

健康状態が悪化した人ほどSaccharinを使うという逆因果、糖尿病の重症度、肥満、他の食生活、薬物療法などを完全には除けません。

したがって、

「ADI以下でもSaccharinで死亡率が上がることが証明された」研究ではありません。

一方で長期ヒトデータの一つとして無視するのも適切ではありません。

製造法――Remsen-Fahlberg法とMaumee法を同じにしない

食品添加物の安全性では、親分子だけでなくどの製造法で作られ、どんな不純物が入り得るかも重要です。

SaccharinにはRemsen-Fahlberg processとMaumee processなど複数の製造法があります。

2024年EFSA再評価では、Remsen-Fahlberg法で製造されたSaccharinについては複数batchの不純物分析データが提出されました。

一方、Maumee法由来製品については、想定される不純物の分析データが十分提出されませんでした。

しかもMaumee法に関連する一部不純物には、構造上の遺伝毒性懸念が示唆されました。

そのためEFSAは、データのあるRemsen-Fahlberg法製品を中心に評価し、EU規格のSaccharin定義をその製法へ限定することを勧告しています。

これも、

「Saccharinという親分子の安全性」と「市販食品添加物に含まれ得る製造不純物の安全性」は別

であることを示します。

加熱・保存では比較的安定

Saccharinは通常の食品加工・保存条件では比較的安定な甘味料です。

Aspartameのように加熱・保存で容易に甘味を失うタイプではありません。

そのため焼き菓子、卓上甘味料、加工食品など広い用途に使いやすい特徴があります。

ただし、「化学的に安定」なことと「製造不純物まで含めて何も管理しなくてよい」ことは別です。

歯科では低う蝕原性方向

Saccharin自体は、ショ糖のようにプラーク細菌へ大量の発酵性糖質を供給するものではありません。

そのため砂糖置換としては低う蝕原性方向です。

ただし、非う蝕原性=歯を強くする、ではありません。

Saccharinが入った飲料自体が酸性なら酸蝕は別に考えます。

環境――表層水・地下水から検出される

Saccharinはほぼ未代謝のまま尿へ出るため、下水へ到達します。

EFSAがまとめた環境研究では、

  • 表層水:0.027~19.7 μg/L
  • 地下水:0.0027~26.7 μg/L
  • 底質:1.63~4.17 ng/g乾燥重量

などの報告があります。

一方、下水流入水と処理後水を比較すると、処理後に濃度が低下する研究も多く、Sucraloseほど一貫して残留するわけではありません。

サッカリンを一言でまとめると

「動物で癌が出たという事実を、機序解明によってどうヒトへ外挿し直したかが見える甘味料」です。

よく吸収される。

ほとんど代謝されない。

腎臓から未変化体で排泄される。

胎盤・母乳へ移行する。

高用量雄ラット膀胱癌は実在するが、その機序はヒトに関連しにくいと評価されている。

一方、糖代謝、死亡率、腸内細菌などのヒト研究には未解決部分が残ります。

「昔発がん性があったが、今は安全になった」という話ではありません。

同じデータを、機序が分かったことでより正確に解釈できるようになったという話です。

5.ネオテーム――アスパルテームに似ていても、体内では別の甘味料

ネオテームはC₂₀H₃₀N₂O₅、分子量378.47。

CAS番号は165450-17-9。

甘味度はショ糖のおよそ7,000~13,000倍です。

アスパルテームへ3,3-dimethylbutyl基を付加した構造を持ちます。

分子構造だけを見るとアスパルテームにかなり近く見えます。

しかし、この置換によって甘味度だけでなく、消化・吸収・代謝、フェニルアラニン生成量が大きく変わります。

親ネオテームの血中濃度は速く上がり、速く下がる

健康成人男性へ0.25 mg/kg体重を単回投与した試験では、親ネオテームの、

  • Cmax:95.7 ng/mL
  • Tmax:0.4時間、約24分
  • 半減期:0.6時間、約36分

でした。

非常に速い体内動態です。

主役はNC-00751

ネオテームは小腸などで速やかに脱エステル化されます。

主反応は、

Neotame → NC-00751 + methanol

です。

主要代謝物NC-00751では、

  • Cmax:236 ng/mL
  • Tmax:1時間
  • 半減期:1.5時間

でした。

親NeotameのCmaxより高く、全身曝露ではNC-00751が重要です。

少なくとも34.3%は全身利用可能になる

14C標識Neotame 18.75 mg、約0.25 mg/kg体重を健康成人男性に投与した研究では、血中放射活性は約30分でピークへ達しました。

尿中へ排泄された放射活性から計算すると、

少なくとも34.3%

が吸収され、全身利用可能になったと評価されています。

「Neotameはほとんど吸収されない」と単純に説明するのは適切ではありません。

尿34.3%、便63.7%――ただし便=未吸収親化合物ではない

同じヒト放射標識試験では、72時間以内に投与放射活性の約98%が回収されています。

内訳は、

  • 尿:約34.3%
  • 便:約63.7%

です。

ここで「63.7%が吸収されず、そのままNeotameとして便に出た」と考えるのは間違いです。

詳しくみると、

  • 尿中親Neotame:約3.3%
  • 尿中NC-00751:約23.8%
  • 便中親Neotame:0%
  • 便中NC-00751:約52.5%

でした。

便中には親Neotameが検出されず、主要代謝物NC-00751が大量に存在します。

これは、消化管内で未吸収NeotameがNC-00751へ変換されることや、吸収後に胆汁へ排泄された代謝物が腸管へ戻ることなどが関係すると考えられています。

排泄率だけで吸収率を単純に読めない甘味料です。

フェニルアラニンは投与量の1%未満

Neotameはアスパルテーム由来の構造を持つため、PKUとの関係が気になるところです。

しかしNeotameからフェニルアラニンまで分解される割合は非常に小さい。

EFSA 2025は、フェニルアラニンをNeotame投与量の、

1%未満

のminor metaboliteと評価しています。

さらに新ADI 10 mg/kg体重/日までNeotameを摂取した場合でも、生成するフェニルアラニンによる生理的血中フェニルアラニン濃度の増加は、

1%未満

と予測されました。

したがって、アスパルテームと同じフェニルアラニン負荷を想定する必要はありません。

MethanolだけでなくformaldehydeまでADI再評価に組み込まれた

Neotameの脱エステル化ではmethanolも生じます。

Methanolは体内でformaldehyde、さらにformateへ代謝されます。

EFSAが2025年にADIを2から10 mg/kg体重/日へ引き上げる際、単にNOAEL 1,000÷100という計算だけで終わらせてはいません。

ADI10まで摂取した場合に生じるmethanolとformaldehydeを保守的条件でモデル計算しました。

その結果、内因性formaldehydeのbackgroundに対して、

  • 定常状態:約4%増加
  • peak:約18.5%増加

と推定されました。

比較に使ったラット研究では、血中formaldehyde background自体の個体差が約30%ありました。

EFSAは、ADI10による推定増加はこの通常変動範囲内であり、安全性上の懸念を生じないと評価しました。

これは、

「methanolができるから危険」ではなく、実際にどの程度増えるかを定量して評価する

リスク評価の好例です。

ADIが0.3、1、2、10と大きく違う

Neotameは評価機関によるADI差が非常に大きい甘味料です。

  • FDA:0.3 mg/kg体重/日
  • 日本の摂取量評価で使用:1 mg/kg体重/日
  • JECFA:2 mg/kg体重/日
  • EFSA 2025:10 mg/kg体重/日

EFSA 2025では、52週慢性毒性試験と104週発がん性試験のラットNOAEL、

1,000 mg/kg体重/日

を参照点にし、100倍の不確実係数で10 mg/kg体重/日としました。

さらに先ほどのmethanol/formaldehyde評価も行ったうえで、旧EFSA ADI2を10へ変更しています。

NeotameのADI差は、ADIが「分子そのものに刻まれた固定値」ではないことをよく示します。

遺伝毒性――in vitro micronucleus試験では陽性だった

Neotameの2025年EFSA再評価で非常に興味深いのが、遺伝毒性評価です。

細菌や哺乳類細胞を用いたgene mutation試験では、Neotameは遺伝子突然変異を誘発しませんでした。

一方、新たに提出されたヒトリンパ球を用いるin vitro micronucleus assayでは、陽性所見が出ました。

EFSAは、このmicronucleus増加を、DNAを直接切断するclastogenicityよりも、

aneugenicity、すなわち染色体の数的異常を誘発する作用

による可能性が高いと判断しました。

ここで、

「in vitro試験が陽性だったからNeotameは遺伝毒性物質」

で話は終わりません。

BMCL 156 mg/Lと、現実の飲料20・7・2.8 mg/Lを比較した

EFSAは、24時間micronucleus assayのデータをBMD解析しました。

得られたBMCL、すなわちbenchmark concentrationの下側信頼限界は、

156 mg/L

でした。

では、人の食道や胃が食事からその濃度へ曝露されるのか。

EFSAは飲料中の現在の最大許容量、

20 mg/L

を保守的に接触部位濃度とみなしました。

BMCL 156 mg/Lは最大許容濃度20 mg/Lの約8倍。

さらに報告された実使用量は、

7 mg/L

実測濃度は、

2.8 mg/L

程度でした。

この比較から、EFSAは現在の認可使用条件では、食道・胃などの接触部位でaneugenic effectが起こるとは考えにくいと判断。

長期マウス・ラット試験で発がん性所見がなかったことなども合わせ、

現在の最大許容量・実使用量ではNeotameに遺伝毒性上の懸念はない

と結論しています。

この評価は、

陽性試験を消すのではなく、「陽性になった濃度」と「人が実際に曝露される濃度」を比較する

リスク評価の考え方を非常によく示しています。

53人のビスケットRCT――Neotame単独効果とは言えない

2024年には、過体重・肥満成人53人を対象に、ビスケットを使ったcross-over RCTが報告されています。

比較したのは、

  • Neotameを使ったreformulated biscuit
  • Reb Mを使ったreformulated biscuit
  • Sucroseを使ったcontrol biscuit

です。

Neotame biscuitでは、Sucrose biscuitより食後insulin iAUCが低くなりました。

しかし、この研究を、

「Neotameがインスリンを下げたRCT」

と読むことはできません。

Reformulated biscuitにはpolyolが約19.3 g含まれ、Sucrose controlでは約3.1 g。

エネルギー量もおよそ326 kcal対360 kcalと異なりました。

さらに、EFSAの評価では、Neotameそのものの実投与量が論文から十分に確認できない点も研究の限界として扱われています。

したがって、ここで言えるのは、

「Neotameを含む別組成のビスケットでは、Sucrose biscuitより食後インスリン反応が低かった」

までです。

商品研究と純物質研究は分けて読む必要があります。

2024年Caco-2研究――面白いが濃度換算には問題がある

2024年にはNeotameをヒト腸上皮モデルCaco-2細胞へ曝露した研究が報告されました。

研究では、

  • 1 μM以上:透過性変化
  • 10 μM以上:apoptosis増加、Claudin-3低下など
  • 100 μM以上:細胞死増加

が報告されています。

T1R3 knockdownで一部作用が弱くなり、甘味受容体T1R3を介した機序が提案されました。

機序研究として興味深い結果です。

しかし、この研究では濃度を人の摂取量へ結びつける説明に注意が必要です。

Neotameの分子量378.47を使えば、

40 mg/L ≒ 0.106 mM

です。

10 mMではありません。

さらに、ADIはmg/kg体重/日という「1日摂取量」です。

これを腸管内のmMという瞬間濃度へ変換するには、

  • 体重
  • 消化管内容量
  • 摂取回数
  • 飲食物量
  • 溶解・吸収速度
  • 腸管内滞留時間

など多数の仮定が必要です。

したがってこの研究を、

「ADI量のNeotameで人の腸が壊れることを証明した」

と表現するのは適切ではありません。

2026年ラット研究――250~750 mg/kg体重/日はADIの25~75倍

EFSA 2025再評価の後、2026年にはNeotameを高用量投与したラット研究も報告されました。

投与量は、

  • 250 mg/kg体重/日
  • 500 mg/kg体重/日
  • 750 mg/kg体重/日

を60日間。

EFSA 2025 ADI10に対して、

25~75倍

の用量です。

肝機能指標、組織像、dopamine関連、Cyp1a2などに変化が報告されました。

新しい毒性シグナルとして無視すべきではありません。

一方、日常的な人の摂取量や日本の平均曝露と同一視することもできません。

高用量動物研究として追跡し、ヒトにどこまで関連するかを今後確認する

という位置づけです。

加熱・保存――Aspartameより安定だが、完全不変ではない

NeotameはAspartameより食品中での安定性が高く、加熱食品へも利用しやすい甘味料です。

一方、温度、pH、保存時間によって脱エステル化などの分解は進みます。

特に低pH・高温条件ではNC-00751などの分解物が増えます。

「Aspartameより耐熱性が高い」と「どんな条件でも化学的に不変」は同じではありません。

歯科データはかなり薄い

Neotameは必要量が極めて少なく、Sucroseのように大量の発酵性糖質を供給しません。

そのため糖置換としては低う蝕原性方向と考えるのが合理的です。

しかしNeotameそのものを用いたヒトの直接的なう蝕・プラーク酸産生研究はかなり少ない。

「高甘味度甘味料だから虫歯を防ぐ」とまで表現する根拠はありません。

環境――親NeotameよりNC-00751を調べたいのに、データがない

環境研究でもNeotameはAce-KやSucraloseほど一貫して検出されません。

EFSA 2025が整理した研究では、

  • 下水:不検出~129 ng/L
  • 表層水:不検出~27 ng/L
  • 河川底質:2~56 ng/g

などでした。

一方、Neotameの主要代謝物・主要分解物であるNC-00751について、環境試料中で測定した研究はEFSAの検索では確認されていません。

人体内ではNC-00751が重要なのに、環境では親Neotameばかりが測定されている。

ここには明確なデータギャップがあります。

ネオテームを一言でまとめると

「アスパルテームに似た構造を持つが、親化合物よりNC-00751を中心に追う甘味料」です。

フェニルアラニン負荷はAspartameより大幅に小さい。

Methanol/formaldehydeについてはADI10まで定量的にモデル評価されている。

一方、in vitro micronucleus試験には陽性所見があり、EFSAは実際の食品曝露濃度と比較して現在の使用条件では懸念なしと判断した。

Caco-2研究や2026年高用量ラット研究など新しいシグナルもあります。

「新しい研究が出たから危険」とも、「再評価済みだから以後の研究は無視」で終わらせることもできません。

6.アドバンテーム――約2万倍の甘さ、血中の主役はANS9801-acid

アドバンテームはC₂₄H₃₀N₂O₇・H₂O、一水和物として分子量476.52。

CAS番号は714229-20-6。

甘味度は代表値でショ糖の約20,000倍。

研究条件によっては約14,000~48,000倍程度という幅があります。

Neotameよりさらに強い甘味を持ち、必要使用量は極めて少量です。

アドバンテームもAspartame系の骨格を持ちますが、体内では親化合物よりANS9801-acidが重要になります。

胃では比較的安定、小腸で速やかに脱エステル化する

アドバンテームは胃内条件では比較的安定ですが、小腸環境、特にpancreatinなどの存在下では速やかに脱エステル化されます。

主要反応は、

Advantame → ANS9801-acid + methanol

です。

その後ANS9801-acidの一部は、HF-1、HU-1などの代謝物へさらに変化します。

「AdvantameのCmax 30.1 ng/mL」と書くのは正確ではない

14C標識Advantame 0.25 mg/kg体重を健康成人男性へ投与したヒト試験では、血中の総放射活性として、

  • Tmax:1.25時間
  • Cmax:30.1 ng equivalent/g
  • 半減期:3.9時間

が得られています。

しかし、この30.1という数字は親Advantameだけの濃度ではありません。

親化合物と代謝物を含めた放射活性の値です。

親Advantame自体は多くの採血時点で定量限界未満でした。

したがって、

「Advantameの標準Cmaxは30.1 ng/mL」

と親化合物の数字として書いてはいけません。

ANS9801-acidはCmax 22.7 ng/mL、半減期5.7時間

主要代謝物ANS9801-acidでは、

  • Cmax:22.7 ng/mL
  • Tmax:1.75時間
  • 半減期:5.7時間

でした。

全身曝露では、親AdvantameよりANS9801-acidを追う方が実態を反映します。

血漿たん白結合率も親化合物と代謝物で違う

ヒト血漿を用いたin vitro試験では、Advantameの血漿たん白結合率は、

81~92%

でした。

一方、ANS9801-acidは、

96~97%

と、さらに高い結合率を示しました。

試験された濃度範囲では明確な飽和は認められていません。

これも、Advantameの体内動態では親化合物とANS9801-acidを分けて見る必要がある理由の一つです。

排泄は圧倒的に便優位――尿6.22%、便89.48%

健康成人男性の放射標識試験では、168時間までの総放射活性回収率は、

  • 尿:6.22±3.11%
  • 便:89.48±2.03%

でした。

合計すると約95.7%。

ほぼ全量が120時間前後までに排泄されています。

しかし、これも、

「89%が未吸収Advantameのまま便へ出た」

という意味ではありません。

便の主役もANS9801-acidとHF-1

ヒト試験では、尿・便のどちらにも親Advantameは検出されませんでした。

尿中では、投与量に対して、

  • ANS9801-acid:2.3±0.6%
  • HF-1:1.0±0.6%
  • HU-1:1.9±1.9%

でした。

便では、

  • ANS9801-acid:52.0±13.0%
  • HF-1:30.0±12.0%

が主要成分でした。

したがって、

Advantameは吸収率が低く便優位に排泄されるが、その便中成分も親Advantameそのものではなく、主に代謝物

です。

健康成人単回試験――0.10、0.25、0.50 mg/kg体重

健康成人男性各8人を対象とした単回投与試験では、

  • 0.10 mg/kg体重
  • 0.25 mg/kg体重
  • 0.50 mg/kg体重

のAdvantameが投与されました。

この試験では、Advantame投与に関連する明確な変化は確認されませんでした。

以前0.35 mg/kgと記載されることがありますが、このヒト単回試験の最高用量は0.50 mg/kg体重です。

4週間30 mg/日試験――軽度そう痒をゼロ扱いしない

健康成人を対象とした4週間試験では、placeboまたはAdvantame 10 mg capsuleを1日3回投与しました。

Advantame条件では、

30 mg/日、約0.375~0.5 mg/kg体重/日

です。

試験では2人に軽度のそう痒がみられ、そのうち1人についてはAdvantame投与との関連を否定できないと判断されました。

それ以外には、明確な投与関連変化は確認されていません。

したがって、

「4週間試験で副作用は一切なかった」

とするのではなく、

「重大な安全性シグナルはなかったが、軽度そう痒について投与との関連を否定できない例があった」

とする方が正確です。

2型糖尿病患者12週間試験――これは治療効果試験ではない

非インスリン依存型糖尿病患者を対象とした12週間試験もあります。

PlaceboまたはAdvantame 10 mg capsuleを1日3回。

Advantame用量は、

30 mg/日、約0.375~0.5 mg/kg体重/日

でした。

この試験全体では、14人に合計19件の有害事象が報告されました。

そのうち1人にみられた、

  • 消化不良
  • 腹部膨満
  • 悪心

については、Advantame投与との関連を否定できないと判断されました。

症状は投与終了時までに回復しています。

その他に明確な投与関連変化は確認されませんでした。

ただし、この試験は、

「Advantameが糖尿病を改善するか」を調べた治療効果試験ではありません。

糖尿病患者で12週間摂取した場合の忍容性・安全性をみる試験です。

PKUではAspartameと同じ扱いではない

Advantameも、構造上はphenylalanineを含むAspartame系甘味料です。

しかし体内では速やかにANS9801-acidへ変化し、通常使用量からphenylalanineまで分解される量は極めて小さいと評価されています。

JECFAは、通常使用から生じるphenylalanine量はPKUに対して有意な負荷にならないとして、

AdvantameのADI 0~5 mg/kg体重/日はPKU患者にも適用可能

と判断しています。

これはAspartameとの重要な違いです。

同じAspartame系骨格を持つからといって、phenylalanine負荷も同じではありません。

Methanolも生じるが、使用量が極めて小さい

Advantameの脱エステル化ではmethanolも生じます。

しかしAdvantameはショ糖の約20,000倍という非常に強い甘味を持つため、食品へ加える量そのものが極めて少量です。

そのため通常使用から生じるmethanol・phenylalanine負荷はAspartameより大幅に小さくなります。

「Aspartameと同じ骨格があるから、methanol・Phe問題も同じ」と考えることはできません。

ADIはJECFA・EFSA・日本5、FDA32.8 mg/kg体重/日

Advantameも、規制機関によってADIが大きく異なります。

  • JECFA:5 mg/kg体重/日
  • EFSA:5 mg/kg体重/日
  • 日本:5 mg/kg体重/日
  • FDA:32.8 mg/kg体重/日

JECFA・EFSA・日本側で重要になったのは、ウサギの出生前発生毒性試験です。

高用量で母動物の消化器症状、一般状態への影響がみられ、

母体毒性NOAEL 500 mg/kg体重/日

が採用されました。

100倍の安全係数で、

ADI 5 mg/kg体重/日

です。

FDAは別の長期ラット試験を基準として32.8 mg/kg体重/日を設定しています。

ここでも、数字の大小だけで規制機関の「厳しさ」を比較してはいけません。

遺伝毒性・発がん性は現在の規制評価で懸念なし

Advantame本体だけでなく、ANS9801-acid、HF-1、HU-1、β-ANS9801関連物質などについても遺伝毒性試験が行われています。

細菌reverse mutation試験、哺乳類細胞試験、mouse micronucleus assayなどを統合し、食品安全委員会は、

Advantameと主要代謝物・分解物に、人の健康に関連する遺伝毒性上の懸念はない

と評価しています。

長期マウス・ラット発がん性試験でも、Advantame投与に関連した腫瘍増加は確認されませんでした。

ただしこれは、

「将来どんな研究が出ても絶対に影響がない」

という意味ではありません。

現在の規制評価に使われた毒性データの範囲で、遺伝毒性・発がん性の懸念は支持されていない、という意味です。

加熱・保存――Aspartameより安定だが、完全不変ではない

AdvantameはAspartameより食品加工中の安定性が高い甘味料です。

そのため飲料だけでなく、加熱を伴う食品にも利用しやすい特徴があります。

一方、酸性溶液では時間とともにANS9801-acidへ加水分解します。

温度が高いほど分解も速くなります。

したがって、

「Aspartameより安定」=「酸・熱・長期保存でも全く変化しない」

ではありません。

腸内細菌のヒト直接研究はほぼ空白

Aspartame、Sucralose、Saccharin、Steviol glycosideなどでは腸内細菌研究がかなりあります。

一方、Advantame単独を人へ摂取させ、腸内細菌叢を詳細に追った研究は極めて少ない。

他の人工甘味料研究からAdvantameへ結論を借りてくることはできません。

研究が少ないことは「問題がない証拠」ではなく、「まだ十分調べられていない」というデータ不足です。

胎盤・母乳移行も大きなデータ不足

Ace-K、Sucralose、Saccharinではヒト胎盤・母乳移行を定量した研究があります。

Advantameでは、同じレベルのヒト定量データを確認できません。

「胎盤を通らないことが証明された」のではありません。

人で十分測られていないのが現在の状態です。

歯科――直接ヒトデータは薄い

Advantameは必要量が極端に少なく、Sucroseのように大量の発酵性糖質をプラーク細菌へ与えるものではありません。

その意味では砂糖置換は低う蝕原性方向です。

しかしAdvantameそのものについて、ヒトのプラークpH、長期う蝕発症、エナメル質脱灰などを直接調べた研究は非常に少ない。

したがって、

「Advantameに抗う蝕効果がある」とまでは言えません。

環境データも大きな空白

Advantameは人体内でANS9801-acid、HF-1、HU-1などへ変化し、その多くが便へ排泄されます。

ところが、環境中のAdvantame、ANS9801-acid、HF-1などについて、Ace-KやSucraloseのような豊富な実測データはありません。

水環境中の残留性、下水処理除去率、生態毒性、生物蓄積性なども研究不足です。

ここでも、

「環境影響がない」のではなく、「十分なデータがない」

と区別します。

アドバンテームを一言でまとめると

「甘味度は最大級だが、長期ヒトデータはまだ少ない甘味料」です。

約20,000倍の甘さ。

親化合物よりANS9801-acidが重要。

便排泄が約89%と圧倒的ですが、その便中成分も主に代謝物です。

健康成人単回、4週間反復、2型糖尿病患者12週間のヒト安全性試験はあります。

一方、胎盤、母乳、腸内細菌、長期代謝転帰、認知、環境については大きな空白があります。

だから、

「研究で問題が出ていない」ことと、「あらゆる長期影響が調べ尽くされた」ことを同じにしない。

Advantameでは、この区別が特に重要です。

7.ステビオール配糖体――代謝を始めるのは人ではなく腸内細菌

「ステビア」は、一つの化学物質の名前ではありません。

Stevia rebaudianaという植物があり、その葉に含まれる甘味成分として、複数のステビオール配糖体があります。

  • Stevioside
  • Rebaudioside A(Reb A)
  • Rebaudioside B
  • Rebaudioside C
  • Rebaudioside D
  • Rebaudioside M(Reb M)
  • その他のステビオール配糖体

これらは共通してsteviolという骨格を持ちますが、結合している糖鎖の種類や数が異なります。

したがって、

「ステビア」という一語だけで、分子量、甘味度、製造法、代謝、純度、不純物まで全部同じと考えることはできません。

分子量もかなり違う

代表的な分子量を比べると、

  • Steviol:318.45
  • Stevioside:804.87
  • Reb A:967.01
  • Reb M:1291.3

です。

共通するsteviol骨格へ、複数のglucoseが結合しているためです。

糖鎖が増えれば、同じsteviol骨格を一つ含んでいても分子全体の重さは増えます。

ADIが「steviol換算」になっている理由

ステビオール配糖体のADIは、JECFA・EFSAともに、

4 mg/kg体重/日、steviol equivalent(steviol換算)

です。

これは、

「Reb Aを4 mg/kg体重/日まで」

という意味ではありません。

Stevioside、Reb A、Reb D、Reb Mでは分子量が違い、steviol骨格が分子全体に占める割合も違います。

そこで、共通骨格であるsteviolの量へ換算して、安全性評価を共通化しています。

FDAの現在の消費者向けページではReb Aについて、

12 mg/kg体重/日

という数字が示されていますが、これはFDAが独立して全く別のADIを設定したというより、JECFAのsteviol換算4 mg/kg体重/日をReb A重量へ換算した値として示されているものです。

ステビオール配糖体では、「何mg食べたか」だけではなく「steviol換算で何mgか」を見る必要があります。

胃・小腸ではほとんど分解されない

ステビオール配糖体の体内動態で最も特徴的なのが、上部消化管での挙動です。

SteviosideやReb Aなどの糖鎖をつないでいるβ-glycosidic bondは、人の消化酵素では効率よく切断できません。

そのため、胃や小腸で大きく分解・吸収されるのではなく、かなりの量がそのまま大腸まで到達します。

Ace-Kのように小腸からすばやくほぼ完全吸収される甘味料とは、全く違う経路です。

大腸へ届いて初めて、腸内細菌が糖鎖を外す

大腸へ到達したステビオール配糖体は、腸内細菌によって糖鎖を一つずつ外されます。

最終的に、

Stevioside、Reb A、Reb D、Reb Mなど → steviol

へ収束します。

ヒト便由来細菌を用いた試験では、多くのステビオール配糖体が最終的にsteviolへ変換されます。

糖鎖数の多いReb Mでは、SteviosideやReb Aより分解に時間がかかる傾向があります。

ここでは腸内細菌が、

「甘味料によって影響を受ける存在」ではなく、「甘味料の代謝を始める主体」

になっています。

人工甘味料と腸内細菌の関係を考えるとき、これはかなり重要な違いです。

吸収される主役は親配糖体ではなくsteviol

大腸細菌によって糖鎖を外されたsteviolは、腸管から吸収されます。

そして肝臓へ運ばれ、主にグルクロン酸抱合を受け、

steviol glucuronide

になります。

その後、主として尿へ排泄されます。

したがって、SteviosideやReb Aの「血中濃度」を語るときも、親配糖体そのものより、steviolやsteviol glucuronideを追う必要があります。

ヒトPK――Reb AはTmax 12時間、Steviosideは8時間

Wheelerらは健康成人男性8人を対象に、

  • Reb A:5 mg/kg体重
  • Stevioside:4.2 mg/kg体重

を単回投与する二重盲検クロスオーバー試験を行いました。

血中free steviolは、定量限界100 ng/mL以上で確認されたのが8人中1人の1時点のみでした。

一方、steviol glucuronideは全員の血漿から確認されました。

中央値Tmaxは、

  • Stevioside:8時間
  • Reb A:12時間

です。

Ace-Kの1~1.5時間と比べると、かなり遅い。

大腸まで移動し、腸内細菌に糖鎖を外してもらってから吸収されるためです。

CmaxはStevioside由来1886、Reb A由来1472 ng/mL

steviol glucuronideのCmaxは、

  • Stevioside投与後:1886 ng/mL
  • Reb A投与後:1472 ng/mL

でした。

一方、AUCはReb Aで30.8 ng×h/mL、Steviosideで34.1 ng×h/mLで、大きな差はありませんでした。

血漿からのsteviol glucuronideの半減期は、両方とも、

約14時間

です。

尿59~62%――親配糖体の尿中排泄率ではない

72時間までの尿中回収率は、

  • Reb A投与:59%
  • Stevioside投与:62%

でした。

ただし、これは親Reb Aや親Steviosideがそのまま尿へ出た割合ではありません。

主としてsteviol glucuronideとして尿中へ回収された割合です。

一方、便ではsteviol glucuronideは確認されず、主にfree steviolがみられます。

この点は、Ace-Kの「未変化体として尿99%」とは全く違います。

ADI 4 mg/kg体重/日はどう作られた?

JECFA・EFSAのADIは、

4 mg/kg体重/日、steviol換算

です。

主要な長期ラット試験では、Steviosideとしておよそ970 mg/kg体重/日前後、steviol換算で約383~388 mg/kg体重/日がNOAELとして扱われました。

そこへ約100倍の安全係数を用い、4 mg/kg体重/日というADIが設定されています。

このADIは、精製された高純度ステビオール配糖体を共通steviol換算で管理する考え方です。

2024年、「ADIを6や16へ上げられないか」が再検討された

2024年には、ステビオール配糖体の使用拡大とともに、現在のADI 4 mg/kg体重/日を引き上げられないかという提案がEFSAで評価されました。

申請側は、ヒトとラットの体内動態差を使ったchemical-specific adjustment factor、すなわち化学物質固有の補正係数を用いることで、

  • ADI 6 mg/kg体重/日
  • あるいは16 mg/kg体重/日

まで引き上げられる可能性を提案しました。

しかしEFSAは、この提案を採用しませんでした。

理由として、

  • ヒトPK試験の人数が少ない
  • 個人差が大きい
  • 性差を十分評価できない
  • 試験間のばらつきが大きい
  • 現在のデータだけでは頑健な化学物質固有係数を設定しにくい

ことなどを挙げています。

そのため、

ADI 4 mg/kg体重/日、steviol換算を維持

しました。

「天然だから安全係数を緩められる」という評価ではありません。

Glucosylated steviol glycosidesはさらに別の構造を持つ

ステビオール配糖体には、さらにglucoseを追加したglucosylated steviol glycosides、GSGというタイプがあります。

GSGでは親ステビオール配糖体へ、追加のglucoseが1~20個付加されることがあります。

この追加glucoseは主にα-(1→4)結合です。

人のα-amylaseで切断できないβ結合部分とは違い、この追加α-glucose部分は唾液・膵α-amylaseなどで外れ得ます。

したがってGSGでは、

追加α-glucoseを消化酵素が外す → 親ステビオール配糖体になる → 大腸へ進む → 腸内細菌がsteviolへ変換する

という二段階構造になります。

「ゼロ系甘味料なのにglucoseが付いている」――実量まで計算されている

GSGでは追加glucoseがあるため、

「砂糖の代わりなのにglucoseが付いているなら、実際どのくらい入ってくるのか?」

という疑問が生じます。

EFSAはここまで計算しています。

平均して10個の追加glucoseが付くというかなり保守的な仮定を置いた場合、最大追加glucose摂取量は、

  • 体重12 kgの幼児:約0.4 g/日
  • 体重70 kgの成人:約1.2 g/日

と推計されました。

EFSAは、一般的な総glucose摂取量と比較して、この寄与は大きなものではないと判断しています。

「glucoseが付いている」という言葉だけで判断するのではなく、実際に何gになるのかまで見るのがリスク評価です。

Reb Mは植物から取るだけではなく、発酵でも作れる

Reb Mは味質が良好な次世代ステビオール配糖体として注目されています。

しかし、Stevia葉に大量に含まれているわけではありません。

そのため、葉抽出だけでなく、酵素変換や微生物発酵によって製造する技術が使われます。

EFSAは2023年、遺伝子改変したYarrowia lipolytica VRMを用いてsimple sugarから発酵生産するReb M主体のステビオール配糖体を評価しました。

ここで重要なのは、

「遺伝子組換え酵母を使ったから安全/危険」

と抽象的に判断したわけではないことです。

最終製品から生産菌やDNAは検出されたのか

発酵由来Reb M製品では、製造に使ったY. lipolytica VRMの、

  • 生菌:最終製品で検出されず
  • 組換えDNA:最終製品で検出されず

でした。

さらに製造経路に関連する不純物として、kaurenoic acidまで分析されています。

5 batchすべてで、

LOD 0.3 mg/kgで不検出

でした。

EFSAは、このkaurenoic acid不検出データなどを踏まえ、製造法固有の遺伝毒性懸念を解消できると判断しています。

植物から抽出した製品と、微生物発酵で作った製品では、想定される不純物が同じとは限りません。

だからこそ、製造法ごとに最終製品の規格と不純物を確認する必要があります。

「天然だから安全」「人工だから危険」はここでも通用しない

ステビオール配糖体は「天然甘味料」と紹介されることが多い甘味料です。

しかし、現在市販される製品を「植物の葉を乾かして粉にしたもの」とだけ考えるのは正確ではありません。

葉から抽出・精製した高純度配糖体もあれば、酵素変換した製品、glucosylationした製品、微生物発酵でReb Mを生産した製品もあります。

最終的な安全性を考えるときに見るべきなのは、

  • 最終的に何という分子が入っているか
  • 純度はどの程度か
  • どの製造法か
  • 製造法固有の不純物は何か
  • どのくらい摂取するか

です。

「天然/人工」という二分法は、生物学的・毒性学的には情報量の少ない分類です。

ヒト腸内細菌RCT――59人、4週間で明確な差なし

ステビオール配糖体では、腸内細菌が代謝に必須なので、

「腸内細菌を壊すのではないか」

という懸念もよく話題になります。

2024年には、健康成人59人を対象にした無作為化二重盲検並行群試験が報告されました。

ステビオール配糖体入り飲料とSucrose入り飲料を4週間比較。

ステビオール配糖体摂取量はADIの約25%程度でした。

評価したのは、

  • 腸内細菌叢構成
  • 便中短鎖脂肪酸
  • 空腹時血糖などの代謝指標

です。

その結果、4週間ではステビオール配糖体群とSucrose群の間に、腸内細菌叢構成や便中短鎖脂肪酸などの明確な差は確認されませんでした。

もちろん、59人、4週間の健康成人試験です。

長期影響、小児、糖尿病患者、非常に高摂取する人まで否定する研究ではありません。

一方で、

「Steviaを摂れば必ず腸内細菌叢が破壊される」

という説明を支持する研究でもありません。

糖尿病治療薬のように扱うのも行き過ぎ

Stevioside、Reb A、steviolなどでは、細胞・動物研究で、

  • AMPK
  • GLUT4
  • インスリンシグナル
  • β細胞機能
  • 脂質代謝

などへの作用が多数報告されています。

しかし、基礎研究で糖代謝関連経路へ作用したことと、

「Steviaを摂れば糖尿病が治療できる」

ことは全く同じではありません。

ヒト臨床試験での血糖・血圧などへの効果は、研究によって中立~小さな変化が中心で、糖尿病治療薬に相当する一貫した治療効果は確立していません。

「抗癌作用がある」研究も人の癌予防とは別

Stevioside、steviol、Reb Aなどを癌細胞へ作用させた研究では、apoptosis、mitochondrial dysfunction、ferroptosisなどを介した増殖抑制が報告されています。

これは基礎研究として興味深い結果です。

しかし、培養癌細胞へ高濃度の化合物を直接作用させた結果と、

「ステビア食品を摂れば癌予防になる」

という臨床的主張には、大きな距離があります。

抗癌細胞作用が報告されたことを、人の発癌予防効果へそのまま変換してはいけません。

薬物相互作用はまだ機序研究の段階

ステビオール配糖体については、薬物代謝酵素との相互作用も研究されています。

In vitroでは、steviolがUGT2B7の基質と競合する可能性、steviol glucuronideがCYP2C8活性を阻害する可能性などが報告されています。

ただし、これは、

「Steviaを摂ると臨床的な薬物相互作用が起きることが確立した」

という意味ではありません。

現時点では主に機序研究です。

これだけを根拠に処方薬を中止・変更するべきではありません。

ステビオール配糖体を一言でまとめると

「腸内細菌が代謝の入口を担い、“天然”という一語では製造法まで説明できない甘味料群」です。

上部消化管ではほぼ分解されない。

大腸細菌がsteviolへ変える。

吸収後はsteviol glucuronideとして主に尿へ出る。

さらに葉抽出、酵素変換、glucosylation、発酵など製造法が複数ある。

「天然だから単純」「腸内細菌に届くから危険」といった一言では評価できません。

ステビオール配糖体の摂取量――規制上限モデルと現実の市場曝露はかなり違う

安全性を考えるとき、ADIだけでなく、実際にどのくらい摂取しているのかを見る必要があります。

しかし曝露推計には、大きく異なる方法があります。

最も保守的なのは、

「使用可能な食品すべてに、許可上限量いっぱい入っている」

と仮定する方法です。

現実には、製品ごとの配合量も違えば、Steviaを全商品が使っているわけでもありません。

ベルギーでは最大量モデルだと小児P95がADIを超えた

ベルギーの曝露評価では、まず最大許容量を利用するTier 2評価を行いました。

この保守的条件では、高摂取小児P95がADIの、

106%

へ達する推計が出ました。

つまり、「規制上限を使った計算だけ」を見ればADI超過です。

実際に198製品を買って測ると、小児P95は13.75%ADI

しかし、この研究はそこで終わっていません。

ベルギー市場から実際に、

198製品

を購入。

製品中のsteviol glycoside濃度を実測して、より現実的なTier 3評価へ進みました。

その結果、高摂取者P95は、

  • 小児:ADIの13.75%
  • 青年:10%
  • 成人:6.25%

まで低下しました。

同じ国、同じ甘味料でも、

「許可上限を全商品へ当てはめた計算」と「実際の市場濃度を測った計算」で、結果が大きく違います。

曝露評価では、この違いを必ず確認する必要があります。

研究資金はInternational Stevia Council

このベルギー研究は、International Stevia Councilから研究費提供を受けています。

研究者らは、スポンサーは研究デザイン、解析、論文執筆には関与していないと記載しています。

研究資金が業界団体から出ているから結果を自動的に否定する必要はありません。

一方で、利益相反・資金源をなかったことにする必要もありません。

研究方法と結果を読み、同時に資金源も透明に示す。

それで十分です。

タイ2,114人では3~9歳のP97.5でもADIの22.95%

2025年のタイ研究では、

2,114人

を対象に、食品摂取量、摂取頻度、体重、市場食品中のステビオール配糖体実測濃度を組み合わせて曝露量を推計しました。

最も曝露が高かったのは3~9歳。

この年齢群で、人口全体を分母にしたP97.5は、

ADIの22.95%

でした。

全年齢・全想定でADI未満です。

ただし、タイの食品市場や食習慣を日本へそのまま当てはめることはできません。

国ごとに、製品濃度、飲料摂取、卓上甘味料使用、体重分布が違うからです。

日本人は実際にどれくらい摂っているのか

日本では、厚生労働省・消費者庁系のマーケットバスケット方式により、食品添加物としての甘味料摂取量が調査されています。

2026年に公表された成人平均の推定値を、ADIに対する割合でみると、

  • アスパルテーム:0.02%ADI
  • アセスルファムK:0.09%ADI
  • スクラロース:0.11%ADI
  • サッカリン:0.007%ADI
  • ネオテーム:0%扱い
  • アドバンテーム:0%扱い
  • ステビオール配糖体:0.17%ADI

でした。

今回扱う中で成人平均ADI比が最も大きいステビオール配糖体でも、

0.17%

です。

日本成人の平均曝露という意味では、いずれも現在使用されているADIからかなり離れています。

ネオテーム・アドバンテームの「0」は本当のゼロではない

NeotameとAdvantameは成人平均推定値が0と表示されます。

しかし、

「日本人は誰もNeotameやAdvantameを1分子も摂っていない」

という意味ではありません。

マーケットバスケット調査では定量限界未満を0として計算する場合があります。

「0」は、

定量できるほどの平均曝露が確認されなかった

という意味で読む必要があります。

公表mg/kg値からADI比を逆算するとズレることがある

日本の調査結果では、mg/kg体重/日の表示値が小数点以下で丸められています。

そのため、たとえば表示された0.01 mg/kg体重/日をADI15で割って100倍しても、公表ADI比と完全には一致しない場合があります。

公表ADI比は、丸める前の内部計算値から求められているためです。

したがって、ADI比については公表値を優先します。

平均摂取量が低ければ、高摂取者も安心なのか

ここまで日本成人平均をみると、

「ADIの1%にも届いていないなら、ほとんど考えなくていいのでは?」

と思うかもしれません。

しかし、平均摂取量と高摂取者は別です。

体重の小さい幼児。

特定ブランドの商品を毎日多量に摂る人。

卓上甘味料を多く使う人。

このような人は国民平均とは違います。

実際、スクラロースではEFSAの精密な特定ブランド継続摂取想定で、幼児P95が、

14.3 mg/kg体重/日

となり、ADI15にかなり近づきます。

Ace-Kでも幼児P95で15 mg/kg体重/日前後になる保守的推計があります。

一方Neotameでは高摂取想定でもADIからかなり離れています。

ステビオール配糖体も、最大許容量だけを使えば小児ADI超過推計が出る一方、実市場濃度へ精密化すると大幅に下がります。

したがって、

平均曝露、P95・P97.5、特定ブランド継続摂取、規制上限モデル、実市場濃度

を同じ数字として扱ってはいけません。

WHOは2023年になぜ「NSSを体重管理目的に使わない」と勧告したのか

人工甘味料をめぐる近年最大の話題の一つが、WHOの2023年ガイドラインです。

WHOは、非糖類甘味料、NSSを、

長期的な体重管理や、食事関連の非感染性疾患リスク低減のために使用しない

よう条件付き勧告を出しました。

このニュースだけを見ると、

「WHOが人工甘味料を危険物と認定した」

ように読めるかもしれません。

しかし、これは正確ではありません。

WHO 2023は「ADIを撤回した」ガイドラインではない

WHO 2023の栄養ガイドラインは、個々の甘味料について毒性学的なADIを再設定したものではありません。

JECFAなどが設定している、

  • Aspartame 40 mg/kg体重/日
  • Ace-K 15 mg/kg体重/日
  • Sucralose 15 mg/kg体重/日
  • Steviol glycoside 4 mg/kg体重/日 steviol換算

といった毒性学的安全摂取量を取り消したわけではありません。

WHO自身も、このガイドラインは個々のNSSの毒性学的安全性評価を更新・置換するものではないとしています。

評価しているのは、

「長期体重管理や生活習慣病予防という目的でNSSを使うことに、十分な長期利益があるのか」

という別の質問です。

なぜ「条件付き勧告」なのか

WHOが根拠として用いた系統的レビューでは、短期RCTでは砂糖をNSSへ置き換えることで体重やエネルギー摂取に小さな利益がみられる研究があります。

一方、長期観察研究では、NSS摂取量が多い人に、

  • 肥満
  • 2型糖尿病
  • 心血管疾患
  • 全死亡

などが多いという関連が報告されています。

しかし観察研究には、

もともと太っているからdiet drinkを選ぶ、糖尿病になったから砂糖をNSSへ変える

という逆因果が入り得ます。

WHOもこうした交絡・逆因果の可能性を認めています。

そのため勧告は、強い勧告ではなく、

conditional recommendation、条件付き勧告

になっています。

既存の糖尿病患者は評価対象外

さらに重要なのが、既存糖尿病患者です。

WHOの2023年ガイドラインは、すでに糖尿病を持つ人の疾患管理を評価する目的ではありません。

糖尿病患者だけを対象とした研究は、主要な系統的レビューから除外されています。

そのため、

「WHOは糖尿病患者にもNSSを使うなと言った」

という解釈は正しくありません。

逆に、

「WHOは糖尿病患者ならNSSを推奨している」

という意味でもありません。

正確には、

既存糖尿病患者の疾患管理は、このガイドラインの評価範囲外

です。

砂糖→NSSと、水→NSSでは意味が全く違う

体重管理研究で最も重要な点の一つが、

「何と比べたのか」

です。

砂糖入り飲料をNSS飲料へ替える。

この場合、砂糖由来のfree sugarとエネルギーを減らします。

体重増加が少なくなっても、不思議ではありません。

一方、

水をNSS飲料へ替える。

この比較では、「砂糖を除く」という利益がありません。

したがって、

「人工甘味料を飲むと痩せるか?」

だけでは、問いが粗すぎます。

正しくは、

「砂糖をNSSへ置き換えたのか、水をNSSへ置き換えたのか」

を見る必要があります。

子どもの有名RCTも「砂糖を除いた」試験

2012年のNEJMに報告された小児RCTでは、砂糖入り飲料と無糖・非カロリー甘味料飲料を比較し、無糖飲料群で体重増加や脂肪増加が少ない結果が報告されました。

これは重要なRCTです。

しかし、

「NSSそのものが脂肪を燃やした」

と読むのではなく、

「砂糖入り飲料から継続的にエネルギーを除いた」

影響が大きいと考えるべきです。

甘いものへの嗜好は強くなるのか

「強い甘味を毎日摂っていると、もっと甘いものを欲しがるようになるのではないか」

という考えは直感的には理解しやすいものです。

いわゆるsweet-calorie mismatch、すなわち、

「甘いのにエネルギーが来ない状態が脳や代謝を混乱させるのではないか」

という仮説もあります。

また、肝臓由来ホルモンFGF21など、糖摂取と甘味嗜好を結ぶ内分泌経路も研究されています。

一方、人の長期的sweet preferenceがNSS摂取によって必ず一方向へ変わることは、現時点では確立していません。

甘味嗜好には、

  • 幼少期からの食習慣
  • 普段の食事
  • 年齢
  • 糖摂取量
  • 体重
  • 報酬系
  • 文化・食品環境

など多くの要因が関係します。

「NSSを使うと脳が騙されて必ず甘党になる」

とまで言えるヒトデータはありません。

人工甘味料は血糖・インスリンを上げるのか

これも非常に多い質問です。

「甘味を感じると脳が糖だと思ってインスリンを出す」

という説明を見かけることがあります。

しかし、人の血糖・インスリン反応はそこまで単純ではありません。

高甘味度甘味料そのものは、Sucroseやglucoseのように大量の糖質を直接供給しません。

一方、口腔・腸管の甘味受容体を介して、

  • GLP-1
  • GIP
  • 胃排出
  • 腸管glucose輸送
  • インスリン分泌
  • 腸内細菌

などへ影響する可能性は研究されています。

「全部同じ」ではない

Aspartameでは、多くのヒト試験で血糖・インスリンへの大きな一貫した変化は認められていません。

Ace-Kでも短期試験の多くは大きな影響を示していませんが、glucoseと同時摂取した小規模試験で血糖反応増加が報告されています。

Sucraloseでは短期無影響の研究と、より長期でinsulin sensitivity低下を示す研究が混在。

SaccharinではSuez 2022で耐糖能悪化方向の変化が出た一方、他RCTでは再現していません。

Neotameでは商品組成が違うビスケットRCTがあり、単独効果を分けられません。

Advantameでは代謝効果を目的とした長期RCT自体が少ない。

Steviol glycosideでも治療薬レベルの血糖改善効果は確立していません。

したがって、

「人工甘味料はインスリンを出す/出さない」ではなく、甘味料、摂取条件、対象者、同時摂取物を分けて読む

必要があります。

腸内細菌――「人工甘味料が腸内細菌を壊す」は粗すぎる

腸内細菌は、人工甘味料議論の中で最もセンセーショナルになりやすい分野の一つです。

しかし、7種類の体内動態をここまで追うと、一括りにできない理由がよく分かります。

  • Aspartame:大腸へ到達する前にほぼ分解
  • Ace-K:ほぼ小腸で吸収
  • Sucralose:大部分未吸収で大腸へ
  • Saccharin:通常量では大部分~ほぼ全量吸収
  • Neotame:親化合物・NC-00751が消化管内でも変化
  • Advantame:ANS9801-acidなどへ変化、ヒト腸内細菌データは乏しい
  • Steviol glycosides:腸内細菌が代謝に必須

つまり、大腸細菌が実際に接触する物質も、濃度も、形も違います。

これを全部まとめて、

「人工甘味料が腸内細菌を変える」

とだけ表現するのは、かなり粗い。

腸内細菌叢が変わった=病気になった、ではない

さらに、microbiome研究では、

「ある菌の割合が5%から8%になった」

という結果と、

「糖尿病や炎症性疾患を増やした」

という臨床的結果の間には大きな距離があります。

腸内細菌は個人差が非常に大きく、食事全体、薬、抗菌薬、年齢、地域、便通などにも左右されます。

EFSAも、どのmicrobiome変化を「有害」と定義するかについて、まだ十分な科学的合意がないことを認めています。

菌叢変化を機序研究として重視しつつ、臨床疾患へ直結させない。

これが現在の妥当な読み方です。

子どもでは成人よりデータが少ない

小児は体重が軽いため、同じ量を摂ってもmg/kg体重/日の曝露量が大きくなりやすい集団です。

一方、長期ヒト研究は成人ほど豊富ではありません。

砂糖入り飲料をNSS飲料へ替えたRCTでは体重増加が少なかった

小児でよく知られるRCTでは、砂糖入り飲料と砂糖を含まない甘味飲料を比較し、無糖飲料群で体重増加・脂肪増加が少ない結果が出ています。

この結果は、砂糖入り飲料からエネルギーを除くことに意味があることを示します。

しかし、

「人工甘味料そのものに小児肥満を治す薬理作用がある」

という意味ではありません。

9週間の行動・認知試験では大きな差なし

古い二重盲検研究では、

  • 3~5歳の典型発達児25人
  • 6~10歳で保護者から「砂糖に敏感」と考えられていた23人

を対象に、

  • high sugar diet
  • low sucrose+Aspartame
  • low sucrose+Saccharin

を9週間比較しました。

この試験では、行動や認知機能に大きな差は認められませんでした。

ただし対象者数は少なく、現在の飲料・食品環境とも異なります。

「小児では絶対何も起こらない」と証明する試験ではありません。

一方、

「人工甘味料を摂ると子どもの行動が必ず乱れる」

という主張も、このヒト試験とは合いません。

「子どもだから危険」ではなく、「子どもの長期データが少ない」

小児について科学的に重要なのは、

「危険だから避けるべき」と即断することではなく、

成人ほど長期ヒトデータが充実していない

という事実です。

平均曝露だけでなく、体重当たり摂取量、高摂取製品、長期習慣を考える必要があります。

妊娠・授乳――「胎児へ届くか」と「有害か」を分ける

妊娠中の甘味料研究では、二つの問いを明確に分ける必要があります。

第一に、

その甘味料が胎盤を通過するのか。

第二に、

胎児曝露によって実際の有害転帰が増えるのか。

この二つは同じ質問ではありません。

Ace-K、Sucralose、Saccharinはヒトで胎盤通過を確認

すでに個別章でみたように、Ace-K、Sucralose、Saccharinではヒトで胎盤通過が確認されています。

Ace-Kでは母体血、臍帯血、羊水まで定量。

Saccharinでも同様に母体血、臍帯血、羊水から検出。

Sucraloseも胎児循環・羊水へ移行します。

一方、Neotame、Advantame、Steviol glycosideでは、同じレベルのヒト定量データが十分そろっていません。

データがない甘味料について、

「胎盤を通らない」

と推定することもできません。

早産との関連を示す観察研究はある

妊娠中のartificially sweetened beverage摂取と早産との関連を示す大規模観察研究があります。

また、複数研究をまとめた解析でも、高いNSS摂取と早産の関連を示す結果があります。

一方、こうした研究は飲料摂取研究が中心です。

一つの純粋な甘味料だけを無作為化して妊婦へ長期投与した試験ではありません。

母体BMI、糖尿病、食習慣、diet drinkを選ぶ理由などの交絡が残ります。

子どもの将来の体重との関連も観察研究中心

10万人を超える妊婦を含むデンマークのコホートでは、妊娠中にartificially sweetened beverageを日常的に摂取していた母親の子どもで、その後の過体重との関連が報告されています。

しかし、これも観察研究です。

母体体重、糖代謝、食事全体、生活習慣などの影響を完全には除けません。

したがって、

「胎盤を通るから危険」

でも、

「ADI以下だから妊娠中長期影響もすべて解明済み」

でもありません。

認知機能――12,772人を8年間追った研究はどう読む?

2025年、低・無カロリー甘味料摂取と認知機能低下の関連を調べた大規模前向き研究がNeurologyに報告されました。

参加者は、

12,772人

追跡期間は、

8年

です。

ただし、この研究を、

「Aspartameだけの認知研究」

として紹介してはいけません。

解析対象には、

  • Aspartame
  • Saccharin
  • Ace-K
  • Erythritol
  • Xylitol
  • Sorbitol
  • Tagatose

の7種類が含まれています。

糖アルコールまで含んだ総摂取量解析です。

60歳未満では高摂取群で低下が速い関連

研究では60歳未満の参加者で、高摂取群ほど、

  • 全般的認知機能
  • 言語流暢性

などの低下が速いという関連が報告されました。

一方、60歳以上では同じ関連は認められていません。

年齢によって結果が違います。

これだけでも、

「人工甘味料を摂ると認知症になる」

という単純な一文にはできません。

この論文には2025年・2026年に訂正が入っている

さらに、この研究は発表後に訂正されています。

2025年11月に信頼区間などの修正。

2026年7月には、生データから解析を再実行し、推定値、95%CI、表、図を再作成する大きな訂正が入りました。

それでも主結論自体は変更されなかったとされています。

ここは非常に重要です。

研究が発表された時点のニュースだけでなく、その後の訂正・再解析まで追う必要があります。

ただし、再解析後もあくまで観察研究です。

特定の甘味料がAlzheimer病や認知症を因果的に引き起こしたことを証明したものではありません。

発がん性――「人工甘味料」でまとめてはいけない

発がん性は、人工甘味料議論の中で最も強い言葉が使われやすい分野です。

しかし、7種類は同じ評価ではありません。

アスパルテーム――IARC Group 2B

Aspartameは2023年、IARC Group 2B。

ヒトでは肝細胞癌などの疫学が評価されました。

ただしJECFAはADI40を維持。

NutriNet-Santéでは全癌との関連が報告される一方、MCC-SpainやNurses’ Health Studyでは一貫した増加を認めていません。

サッカリン――IARC Group 3

Saccharinは高用量雄ラットで膀胱癌が出た歴史があります。

しかし機序は、尿中沈殿→尿路上皮傷害→再生性増殖という非DNA反応性のラット特有機序と理解され、IARCは1999年にGroup 3へ分類しています。

Ace-K――疫学シグナルはあるが因果確定ではない

Ace-KではNutriNet-Santéで全癌HR 1.13という関連があります。

一方、個別癌では一貫せず、EFSAは利用可能なヒト研究だけで因果関係を結論できないとしています。

スクラロース――EFSA 2026で発がん性懸念を支持せず

Sucraloseでは、親化合物、遺伝毒性試験、不純物・分解物、長期動物試験などが再評価されました。

現在の証拠全体では、EFSAは発がん性上の新たな安全性懸念を認めていません。

ネオテーム――in vitro陽性所見と発がん性は別

Neotameではin vitro micronucleus assayにaneugenicityを示唆する陽性所見があります。

しかし、実際の飲料濃度と陽性濃度を比較すると十分な差があり、マウス・ラット長期試験でも発がん性所見は確認されていません。

アドバンテーム・高純度ステビオール配糖体

Advantame、高純度steviol glycosideについても、現在の規制評価では遺伝毒性・発がん性上の懸念は支持されていません。

だからといって、

「人工甘味料は発がん性がある」

または、

「人工甘味料は絶対に発がんしない」

と全部まとめるのは不適切です。

物質ごとに、発がん性、遺伝毒性、用量、ヒト疫学、動物機序を分けて読む必要があります。

心血管疾患・2型糖尿病・死亡率――長期疫学をどう使うか

NSSやartificially sweetened beverageと、

  • 2型糖尿病
  • 心血管疾患
  • 脳卒中
  • 全死亡

との関連を報告する前向きコホート研究は複数あります。

Ace-KではNutriNet-Santéで2型糖尿病HR 1.70、高摂取群CVD HR 1.30などが報告されています。

SaccharinではNHANES IIIで糖尿病・前糖尿病集団の死亡率との関連が報告されました。

しかし、長期疫学で常に問題になるのが、

reverse causation、逆因果

です。

体重が増えたからゼロ飲料へ変えた。

糖尿病になったから砂糖をNSSへ変えた。

心血管リスクが高いから低カロリー食品を選んだ。

こうした場合、

「NSSを使っている人に病気が多かった」

だけでは、

「NSSが病気を起こした」

とは言えません。

一方、心筋梗塞、癌、死亡を30年間RCTで追うのは現実的ではありません。

長期観察研究を無視することもできません。

長期疫学は重要なシグナルとして使う。しかし因果関係へ一足飛びしない。

これが最も現実的な読み方です。

複数甘味料を一緒に摂る問題――ADIは基本的に単剤評価

現実の商品を見ると、一つの甘味料だけを使っているとは限りません。

  • Ace-K+Sucralose
  • Aspartame+Ace-K
  • Stevia+Erythritol
  • Sucralose+Ace-K+他の甘味料

など、複数配合は一般的です。

一方、ADIは基本的に、

一つの化学物質ごと

に設定されます。

各成分がADI以下であることは重要です。

しかし、

7種類すべての組み合わせを、すべての比率・すべての年齢で何十年も検証したわけではありません。

24時間尿を用いたヒト曝露研究でも、同じ人から複数の低・無カロリー甘味料が同時検出されています。

実生活では複合曝露が普通です。

Mixture effect、すなわち複数甘味料の組み合わせによる長期的な相互作用は、単剤評価ほど十分には分かっていません。

これは現在の明確な研究課題です。

純粋な甘味料研究と「商品研究」を混ぜない

人工甘味料研究を読むとき、もう一つ非常に重要なのが、

純粋な甘味料を投与した研究なのか、市販商品を使った研究なのか

という違いです。

たとえばNeotame biscuit研究では、Neotameだけでなくpolyol量やエネルギー量が異なっていました。

Stevia-containing sugar substituteと称する動物研究でも、製品重量の大部分がErythritolで、steviol glycosideはごく少量という場合があります。

Saccharinのsachet研究ではglucoseが増量剤として一緒に摂取されています。

「その商品を摂ったら差が出た」

という結果を、

「その甘味料分子だけが原因だった」

と変換してはいけません。

食品研究では、

  • 甘味料本体の量
  • 他の甘味料
  • 糖
  • 糖アルコール
  • 食物繊維
  • 酸
  • エネルギー量

まで確認する必要があります。

横断して見えてくること――「安全か危険か」より先に、何を比べているかを確認する

ここまで7種類と横断研究を並べると、人工甘味料の議論で繰り返し現れる共通点が見えてきます。

第一に、同じ「甘い」でも体内動態が全く違う。

第二に、平均曝露と高摂取者曝露は違う。

第三に、毒性学的安全性と体重管理上の有効性は別の問い。

第四に、観察研究の関連と因果関係は別。

第五に、細胞・動物研究で起きたことが、そのまま日常摂取量の人で起きるとは限らない。

第六に、純粋な分子と市販商品は同じではない。

そして第七に、「データがない」と「問題がない」は同じではない。

Artificial sweetenerという一つの言葉で全てをまとめると、こうした差が消えてしまいます。

加熱するとどうなる?――「人工甘味料は全部加熱OK」でも「全部危険」でもない

人工甘味料について調べていると、もう一つ頻繁に出てくるのが、

「加熱して大丈夫なのか?」

という問題です。

これも、人工甘味料全体へ一つの答えを出すことはできません。

分子構造が違えば、熱、pH、水分、保存時間に対する安定性も違います。

「人工甘味料だから熱に強い」わけでも、「人工物だから加熱すると毒になる」わけでもありません。

アスパルテーム――比較的熱に弱い

アスパルテームは、高甘味度甘味料の中では比較的熱に弱い物質です。

温度、pH、水分、保存時間などによって分解が進みます。

食品中では、

  • DKP
  • 脱メチル化物
  • その他の分解物

が生じ、甘味自体も低下していきます。

したがって、長時間の高温加熱を伴う食品では、Aspartameより熱安定性の高い甘味料が選ばれることがあります。

一方、Aspartameが熱で分解することと、

「加熱したAspartameは必ず強力な毒物になる」

という主張は同じではありません。

何という分解物が、どの条件で、どの程度生じるかを確認する必要があります。

アセスルファムK――比較的安定

Ace-Kは、Aspartameに比べて熱安定性の高い甘味料です。

通常の飲料・焼成食品などで使いやすく、短時間の加熱では高い残存率を示します。

ただし、強酸性条件や長期保存、高温条件では全く変化しないわけではありません。

酸性条件ではacetylacetamideやacetoacetamide-N-sulfonic acidなどの分解物が生じ得ます。

EFSAはこうした分解物も親Ace-Kとは別に評価しています。

サッカリン――通常の食品条件ではかなり安定

Saccharinも通常の食品加工条件では比較的安定です。

熱安定性が高いため、焼き菓子や卓上甘味料など幅広い用途に使われてきました。

ただしSaccharinでは、加熱分解よりも製造方法による不純物の違いが安全性評価上の重要論点になっています。

熱安定性と製造品質は、別の問題として考える必要があります。

ネオテーム――Aspartameより安定だが完全不変ではない

NeotameはAspartameより熱・保存に対する安定性が高く、加工食品に使いやすい甘味料です。

しかし温度、pH、時間によって脱エステル化が進み、NC-00751などへ変化します。

特に低pH、高温、長期保存では分解速度が上がります。

「Aspartameより安定」と「永久に分解しない」は同じではありません。

アドバンテーム――比較的安定だが酸・熱・時間で変化する

AdvantameもAspartameより食品加工への適応性が高い甘味料です。

一方、酸性条件では時間とともにANS9801-acidへの加水分解が進みます。

温度が高くなれば分解速度も上がります。

「耐熱性がある」という食品技術上の評価と、

「化学的に全く変化しない」

という意味を混同しないことが重要です。

ステビオール配糖体――全部を「Stevia」とまとめない

Stevioside、Reb A、Reb Mなどは、構造や糖鎖数が違います。

さらに、葉抽出、酵素変換、glucosylation、発酵など製造形態も異なります。

熱安定性についても、分子、pH、水分、温度、加熱時間によって結果が変わります。

一般に食品加工へ利用可能な安定性を持ちますが、

「Steviaだからどんな加熱でも絶対に変化しない」

とする必要はありません。

スクラロースの加熱問題は、もう少し詳しく見る必要がある

7種類の中で、加熱について最も慎重な説明が必要なのがスクラロースです。

「スクラロースを加熱するとダイオキシンが出る」

という説明が広く出回っています。

一方で、

「食品添加物として認可されているのだから、何℃で何時間加熱しても問題ない」

とするのも、現在のEFSA評価とは一致しません。

180℃12分のビスケット、160℃75秒のウエハースではPCDD/PCDF増加なし

EFSA 2026が評価した実際の食品を模した加熱試験では、スクラロースを含む、

  • ビスケット:180℃、12分
  • ウエハース:160℃、75秒

という条件が使われました。

17種類の2,3,7,8-塩素置換PCDD/PCDFを高感度分析した結果、Sucrose、Sucralose+maltodextrin、maltodextrinのみの条件を比較しても、Sucralose使用による統計学的・毒性学的に意味のあるPCDD/PCDF増加は確認されませんでした。

この条件についてEFSAは懸念を認めていません。

つまり、

「スクラロースを180℃で焼いたら必ずダイオキシンができる」

という説明は、この食品モデル試験とは一致しません。

一方、2024年研究では高温で塩素化分解物を確認

一方、Hellwigが2024年に報告した研究では、Sucralose単独、タンパク質共存、実食品中など複数条件で熱分解が調べられました。

乾燥Sucraloseを80~120℃で加熱したモデル系では、90℃以上で褐変やHCl生成を示唆する変化が報告されています。

さらにchlorinated furanoneやchlorinated dicarbonyl compoundなど複数の塩素化分解物が報告されました。

実食品では、Sucralose入りcookieを、

220℃

で焼成した条件でchlorinated 1,2-dicarbonyl compoundが報告されています。

EFSAは、この研究には、

  • 純Sucraloseを用いたモデル系が実際の家庭製品と異なる
  • 一部生成物でauthentic standardを使った確証が十分でない
  • 探索的研究である

などの限界があることも指摘しています。

それでも、

「Sucraloseは一部の高温条件では安定ではない」

ことを示す研究として重視しています。

EFSA 2026の結論は「現行用途は問題なし、高温用途拡大は結論できず」

EFSAが最終的に出した結論はかなり慎重です。

現在認可されている使用条件では、安全性上の懸念なし。

しかし、より広いfine bakery wares、すなわち焼き菓子類への用途拡大については、焼成温度・時間が多様で、180℃を超える高温条件における塩素化生成物形成の不確実性を除けないため、

安全性を結論できない

としました。

家庭でのbaking、frying、roastingについても、温度、時間、Sucralose量を一定にできないため、高温分解物形成によるリスクを完全には除外できないとしています。

したがって、現在の証拠に最も近い表現は、

「通常の認可食品用途では安全性上の懸念は確認されていない。一方、高温・長時間条件では分解物形成の不確実性が残る」

です。

歯科では「虫歯」と「酸蝕」を絶対に混ぜない

歯科医院のコラムとして、ここはかなり重要です。

「ゼロシュガーなら歯にいい」

という説明は半分正しく、半分は危険です。

なぜなら、

う蝕と酸蝕は別の病態

だからです。

う蝕では「発酵性糖質」が重要

う蝕では、プラーク細菌が発酵性糖質を利用して酸を産生し、プラーク内部のpHが低下することが重要です。

Sucroseやglucoseなどは、この酸産生へ利用されます。

一方、Aspartame、Ace-K、Sucralose、Saccharin、Neotame、Advantameなどの高甘味度甘味料は、砂糖と同じ量を食品へ入れるわけではありません。

砂糖の数百倍~数万倍の甘さがあるため、使用量自体が極めて少なく、Sucroseのように大量の発酵性糖質をプラーク細菌へ供給するものではありません。

そのため、

砂糖を高甘味度甘味料へ置き換えることは、う蝕原性を下げる方向

に働きます。

しかし「非う蝕原性=抗う蝕性」ではない

ここで一段区別が必要です。

プラーク細菌が酸を作る材料になりにくいことと、

その甘味料自体が、

  • 再石灰化を促進する
  • フッ化物のように歯質を強化する
  • 歯垢を除去する
  • う蝕菌を殺す

ことは別です。

非う蝕原性と抗う蝕作用を同義にしてはいけません。

「ゼロシュガー飲料」でも酸蝕は起こり得る

一方、酸蝕は細菌による病気ではありません。

食品や飲料そのものの酸によって歯の無機質が化学的に溶ける現象です。

したがって、飲料中の砂糖をSucraloseやAce-Kへ置き換えても、

飲料自体が強い酸性であれば酸蝕リスクは残ります。

特に、

  • クエン酸
  • リン酸
  • その他の有機酸

を含む低pH飲料では注意が必要です。

酸蝕はpHだけでも決まらない

さらに、

「pHが低い飲料ほど必ず同じ割合で歯を溶かす」

わけでもありません。

飲料の侵食性には、

  • pH
  • 酸の種類
  • 滴定酸度
  • 緩衝能
  • カルシウム濃度
  • リン酸濃度
  • フッ化物濃度
  • 飲料温度
  • 歯との接触時間
  • 飲み方
  • 唾液量・唾液緩衝能

などが関係します。

酸性飲料では、pHが低いだけでなく滴定酸度が高いと、唾液で中和されるまでにより長い時間がかかる可能性があります。

したがって、

「炭酸が入っているから歯が溶ける」

という単純な説明でもありません。

重要なのは、製品全体の酸性度と組成です。

糖アルコール入りガムはまた別の話

XylitolやSorbitolなどの糖アルコールは、ここまで扱ってきた高甘味度甘味料とは別のカテゴリーです。

特にsugar-free chewing gumでは、

「何という甘味料が入っているか」だけでなく、噛むこと自体による唾液分泌増加

も大きな影響を持ちます。

したがって、Xylitol gumの研究結果を、そのままSucralose飲料やAce-K卓上甘味料へ当てはめることはできません。

食品形態まで含めて考える必要があります。

人体を出た後――人工甘味料は環境中でも同じようには動かない

人工甘味料の体内動態を追っていくと、最後にもう一つ面白い問題が出てきます。

人体から出た後です。

尿や便へ排泄された甘味料や代謝物は、下水処理場へ流れ込みます。

そこで分解されれば環境中濃度は低下します。

一方、分解されにくければ、処理水から河川、湖、地下水などへ移行します。

人体内での「代謝されやすさ・されにくさ」が、そのまま環境での追跡しやすさにもつながります。

アセスルファムK――生活排水の指標として使われることもある

Ace-Kは人体でほとんど代謝されず、主に未変化体で尿へ出ます。

水溶性が高く、揮発性が低く、水相へ移行しやすい。

そのため下水を通じて水環境へ到達しやすい甘味料です。

下水処理での除去効率は処理法によってかなり異なり、EFSAが引用するreviewでは、

17~100%

という非常に広い範囲が報告されています。

処理法・条件で差が大きいということです。

Ace-Kは下水・河川で比較的追跡しやすいため、人の生活排水のtracerとして利用されることもあります。

スクラロース――下水処理後もかなり残る

Sucraloseは環境中で特に残りやすい甘味料の一つです。

下水流入水と処理後水の両方を測った研究では、処理後も流入時と大きく変わらない濃度が報告されることがあります。

つまり、通常の下水処理では除去されにくい。

EFSAが集めた研究では、表層水中のSucralose濃度は、

0.0001~600 μg/L

という非常に広い範囲。

一部研究では不検出です。

IPCHEMデータでは、

  • 表層水:最大25 μg/L
  • 地下水:最大1.1 μg/L

でした。

底質では最大115 μg/kg乾燥重量、土壌では0.16~35 μg/kgという報告もあります。

ただし、600 μg/Lという最大値を、

「普通の河川では600 μg/L存在する」

と読むのは誤りです。

地域・排水影響・測定対象などが異なる多数の研究をまとめた広いrangeです。

サッカリン――下水処理である程度低下する研究が多い

Saccharinも大部分が未変化で尿へ出るため水環境へ到達します。

しかしSucraloseとは少し違い、流入水と処理後水を比較した研究では、処理後のSaccharin濃度が低くなる研究が多くあります。

EFSAが整理した文献では、

  • 表層水:0.027~19.7 μg/L
  • 地下水:0.0027~26.7 μg/L
  • 底質:1.63~4.17 ng/g乾燥重量

でした。

環境分解性も「人工甘味料」という一語ではまとめられません。

ネオテーム――親化合物は測られてもNC-00751データが不足

Neotameの環境研究では、

  • 下水:不検出~129 ng/L
  • 表層水:不検出~27 ng/L
  • 河川底質:2~56 ng/g

などが報告されています。

しかし人体内ではNC-00751が主要代謝物なのに、環境試料中のNC-00751については十分な実測研究がありません。

親化合物だけ測っても、総環境曝露を完全に把握できない可能性があります。

アドバンテーム――環境影響が「ない」のではなく、データが少ない

Advantameは人体内でANS9801-acid、HF-1、HU-1などへ変化し、その多くが便へ排泄されます。

しかし、

  • Advantame
  • ANS9801-acid
  • HF-1
  • HU-1

について、水環境中濃度、下水処理除去率、慢性生態毒性などのデータはAce-KやSucraloseほどそろっていません。

「環境影響が認められない」ではなく「研究が不足している」

という表現の方が正確です。

アスパルテーム――Ace-K型の環境tracerではない

Aspartameは人体内でほぼ加水分解されます。

そのためAce-Kのように、親化合物が大量に尿へ出て下水へ流れるタイプではありません。

環境試料からAspartameが検出される研究はありますが、人体からの未変化排泄を利用した典型的生活排水tracerとは性格が違います。

ステビオール配糖体――人体内でまずsteviolへ変換される

Steviol glycosideも、親配糖体が大量にそのまま尿へ出る甘味料ではありません。

大腸細菌でsteviolとなり、吸収後は主にsteviol glucuronideとして排泄されます。

したがって環境を調べる場合も、親配糖体だけでなくsteviol・抱合体・製造排水まで含めて考える必要があります。

一方、Ace-KやSucraloseほど環境挙動データは豊富ではありません。

人工甘味料の記事を読むときに確認したい10項目

ここまで読んで、人工甘味料についての研究がかなり複雑だと感じたかもしれません。

しかし、研究やニュースを見るときに確認することは、ある程度パターン化できます。

① 何という甘味料なのか

「人工甘味料で○○」という見出しだけでは足りません。

Aspartameなのか。

Ace-Kなのか。

Sucraloseなのか。

Saccharinなのか。

Neotameなのか。

Advantameなのか。

Steviol glycosideなのか。

最初に分子名を確認します。

② 純物質なのか、市販商品なのか

Neotame biscuitのように、甘味料以外の組成が大きく違う研究があります。

Saccharin sachetでもglucoseを増量剤として含む場合があります。

商品研究で差が出ても、甘味料単独の作用とは限りません。

③ 用量は何mg/kg体重/日なのか

「少量」「高用量」という表現だけでは判断できません。

ラット250 mg/kg体重/日と、日本成人平均0.01 mg/kg体重/日を同じ「摂取」として並べることはできません。

④ ADIからどれくらい離れているか

ADIは毒性開始線ではありません。

しかし、日常曝露量と毒性試験用量の距離を見る重要な物差しです。

⑤ ヒト、動物、細胞のどれか

Caco-2細胞へ100 μM作用させた研究と、人が飲料を1本飲んだ研究は同じではありません。

ラットで精巣変化が出た研究は、人の男性不妊RCTではありません。

⑥ 何日、何週間、何年か

単回摂取。

2週間。

12週間。

30年間。

見ているものが違います。

急性血糖反応と発癌・死亡を同じ時間軸で比較できません。

⑦ 実験濃度は人で到達し得るか

μM、mM、ng/mL、mg/L。

単位を確認します。

NeotameのBMCL 156 mg/Lと、実測飲料2.8 mg/Lのように、陽性濃度と実曝露濃度を比べることが重要です。

⑧ 病気を見たのか、途中の指標を見たのか

ROSが増えた。

ある菌が増えた。

遺伝子発現が変わった。

こうした機序研究と、

癌、糖尿病、心筋梗塞、死亡が増えた、

という臨床転帰は同じではありません。

⑨ 何と比較したのか

砂糖と比べたのか。

水と比べたのか。

Placeboと比べたのか。

別の甘味料と比べたのか。

体重研究では特に重要です。

⑩ その後に再評価・訂正が出ていないか

Ace-K ADIは2025年に更新。

Neotame ADIも2025年に更新。

Sucraloseは2026年に再評価。

認知機能研究は2026年に生データから再解析。

発表時のニュースだけで判断せず、現在の評価まで追う必要があります。

かなり確実に言えること

研究には不確実性が多くても、かなり確実に言えることもあります。

第一に、

人工甘味料は全部同じではありません。

Aspartameは消化管で分解。

Ace-Kはほぼ完全吸収後、ほぼ未変化で尿へ。

Sucraloseは大部分未吸収。

Saccharinはよく吸収されるがほぼ未代謝。

NeotameはNC-00751へ。

AdvantameはANS9801-acidへ。

Steviol glycosideは大腸細菌によってsteviolへ。

代謝経路だけでも全く違います。

第二に、

日本人成人の平均曝露量は、現在使用されているADIからかなり低い水準です。

第三に、

平均曝露が低いことは、全員の摂取量が低いことを意味しません。

小児、高摂取者、特定ブランドを継続摂取する人は別に考えます。

第四に、

ADI以下であることと、体重減少効果があることは全く別です。

毒性学的安全性と健康上の有効性を混ぜてはいけません。

まだ決着していないこと

一方、かなり調べてもまだ答えが十分出ていない問題があります。

① 長期的な腸内細菌変化の臨床的意味

菌叢の変化は多数報告されています。

しかし、その変化が長期疾患へどうつながるのかは十分分かっていません。

② 複数甘味料の長期複合曝露

実生活では複数配合が普通です。

しかしADIは基本的に単剤評価です。

③ 妊娠・授乳・小児の長期転帰

胎盤・母乳への移行が確認された甘味料はあります。

一方、出生後何十年という長期転帰は十分ではありません。

④ 認知機能の因果関係

大規模前向き研究で関連が報告されました。

しかし観察研究から特定甘味料の因果関係までは確定できません。

⑤ スクラロース高温分解物

現行用途では懸念なし。

一方、高温・長時間・家庭調理条件の全てが解明されたわけではありません。

⑥ 2026年スクラロース雄性生殖研究の再現性

動物・細胞レベルで興味深い所見が出ています。

ヒト妊孕性へどうつながるのかは未確定です。

⑦ ネオテーム高用量動物研究のヒト関連性

ADIの25~75倍という高用量ラット研究で新しい所見があります。

日常人曝露との距離を考えながら追跡する必要があります。

⑧ アドバンテームの長期ヒト研究

短期ヒト安全性試験はあります。

しかし長期体重、糖代謝、心血管、認知、腸内細菌、妊娠データは少ない。

⑨ Neotame・Advantame代謝物の環境動態

人体内では代謝物が主役なのに、環境研究では親化合物しか測られていない場合があります。

⑩ 新世代ステビオール配糖体と製造法固有不純物

Reb M、発酵生産、glucosylationなど、新しい製造技術が増えています。

共通代謝を利用したread-acrossは可能でも、製造法固有不純物は別に評価する必要があります。

「まだ分からない」は「危険」という意味ではありません。

一方、

「安全だと完全に証明された」という意味でもありません。

分からないことは、分からないまま残しておく。

それも科学では重要です。

FAQ

人工甘味料は体に蓄積しますか?

一括では答えられません。

Ace-K、Saccharinはよく吸収されますが、比較的速やかに尿へ排泄されます。

Sucraloseは大部分がそもそも吸収されません。

Aspartameは親化合物として長時間循環するのではなく、消化管で分解されます。

Neotame、Advantameは主要代謝物へ変化します。

Steviol glycosideは大腸でsteviolとなり、steviol glucuronideとして主に尿へ出ます。

「人工甘味料は全部体にたまる/全部すぐ出る」というどちらの説明も正しくありません。

人工甘味料には発がん性がありますか?

物質ごとに違います。

AspartameはIARC Group 2B。

SaccharinはIARC 1999でGroup 3。

Ace-K、Sucralose、Neotame、Advantame、高純度Steviol glycosideもそれぞれ別に規制評価されています。

「人工甘味料」というカテゴリー自体を一つの発がん物質として扱うことはできません。

IARC Group 2Bなら食べると癌になるという意味ですか?

違います。

Group 2Bは、発がん性を示す可能性についての科学的根拠の強さを示すハザード分類です。

実際の摂取量で、どの程度癌リスクが増えるかを直接示す数字ではありません。

ADIを1日だけ超えたら危険ですか?

ADIは急性中毒量ではありません。

毎日、生涯にわたり摂取することを前提に安全性を管理するための値です。

一度わずかに超えたから直ちに中毒になる、という線ではありません。

逆にADI以下なら何があっても絶対に安全ですか?

ADI以下であれば、現在利用できる毒性学データでは生涯摂取しても健康影響が生じないと考えられる範囲です。

しかし、将来どんな作用も絶対に発見されないことを数学的に保証する数字ではありません。

新しい研究が出れば規制評価は更新されます。

WHOは人工甘味料を「危険」と言ったのですか?

そういう意味ではありません。

WHO 2023は、NSSを長期的な体重管理や非感染性疾患予防の目的で使わないよう条件付き勧告を出しました。

個々の甘味料のADIを撤回したものではありません。

毒性学的安全性評価と、体重管理手段としての長期有効性は別の問題です。

糖尿病の人もWHO勧告に従ってNSSをやめるべきですか?

WHO 2023のNSSガイドラインは、既存糖尿病患者の疾患管理を評価するものではありません。

したがって、WHO勧告だけを根拠に、糖尿病患者でNSSを使うべき/使わないべきと決めることはできません。

ゼロ飲料を飲むとインスリンが出ますか?

甘味料、摂取量、同時に糖質を摂ったか、対象者が肥満・糖尿病か、普段NSSを摂っているかなどで結果が違います。

「甘い味を感じれば必ず大量のインスリンが出る」という単純なモデルは、ヒト研究全体とは一致しません。

人工甘味料は腸内細菌を壊しますか?

一括りにはできません。

Sucraloseは大腸到達量が大きい。

Ace-KやSaccharinは多くが先に吸収されます。

Steviol glycosideは腸内細菌による代謝が必須です。

さらに菌叢変化がみられたことと、臨床疾患が起きたことも同じではありません。

妊娠中はどうですか?

Ace-K、Sucralose、Saccharinではヒト胎盤通過が確認されています。

しかし胎児へ移行したことと、胎児毒性が確認されたことは別です。

長期妊娠転帰については観察研究が中心で、まだ不確実性があります。

授乳中は母乳へ出ますか?

Ace-K、Sucralose、Saccharinでは母乳移行が確認されています。

一方、Advantameなどでは同じレベルのヒト定量データが不足しています。

「母乳から検出された」という情報だけでなく、実際の乳児曝露量を見る必要があります。

PKUで注意するのはどれですか?

Aspartameはフェニルアラニン負荷のため明確な注意が必要です。

Neotame、AdvantameはAspartame由来構造を持ちますが、phenylalanine生成量は大幅に少なく、同じ扱いではありません。

AdvantameについてJECFAはADIをPKU患者にも適用可能としています。

Steviaは天然だから人工甘味料より安全ですか?

「天然」という言葉だけでは判断できません。

Steviol glycosideには葉抽出、酵素変換、glucosylation、発酵など複数製法があります。

最終分子、純度、不純物、摂取量を見る必要があります。

スクラロースを加熱すると危険ですか?

現行の認可用途についてEFSA 2026は安全性上の懸念なしとしています。

一方、高温・長時間条件では塩素化分解物形成の不確実性が残り、広い焼き菓子用途拡大については安全性を結論できませんでした。

「加熱すれば必ず危険」でも、「どんな加熱でも問題ない」でもありません。

人工甘味料入り飲料なら虫歯になりませんか?

砂糖を高甘味度甘味料へ置き換えることは、う蝕原性を下げる方向です。

しかしゼロシュガー飲料でも低pHなら酸蝕は起こり得ます。

また非う蝕原性だからといって、その甘味料自体に歯を強くする作用があるとは限りません。

日本人はADIに近い量を摂っていますか?

成人平均ではかなり低い水準です。

今回扱った中ではSteviol glycosideの0.17%ADIが成人平均では最も高い程度です。

ただし平均値なので、高摂取者、小児、特定製品を大量摂取する人とは分けて考えます。

複数の人工甘味料を一緒に摂っても大丈夫ですか?

実際の商品では複数配合は一般的です。

各成分には個別の安全性評価があります。

一方、全ての組み合わせについて、あらゆる配合比・年齢・長期曝露を試験したわけではありません。

複合曝露は現在も研究課題です。

結局、砂糖と人工甘味料のどちらを選べばいいですか?

何を目的に、何から置き換えるかで意味が変わります。

砂糖入り飲料をNSS飲料へ替えれば、free sugarとエネルギー摂取を減らせます。

水をNSS飲料へ替える場合は、その「砂糖を除く」という利益はありません。

歯科では砂糖置換はう蝕リスク低減には有利ですが、酸性飲料なら酸蝕は別問題です。

まとめ――「人工甘味料は安全か?」という質問自体が大きすぎる

「人工甘味料は安全ですか?」

この質問は、やはり大きすぎます。

Aspartame。

Acesulfame K。

Sucralose。

Saccharin。

Neotame。

Advantame。

さらにSteviol glycosides。

食品の表示上は、どれも「砂糖の代わりに甘味を付けるもの」として並びます。

しかし、人体の中では全く同じようには動きません。

Aspartameは消化管で分解されます。

Ace-Kはほぼ完全に吸収され、ほぼそのまま尿へ出ます。

Sucraloseは大部分が吸収されません。

Saccharinはよく吸収されますが、ほとんど代謝されません。

NeotameではNC-00751が重要になります。

AdvantameではANS9801-acidが重要になります。

Steviol glycosideでは、人の消化酵素ではなく、大腸の腸内細菌がsteviolへの変換を始めます。

癌研究も同じではありません。

血糖研究も同じではありません。

胎盤・母乳への移行も違います。

大腸へ届く量も違います。

加熱安定性も違います。

製造不純物も違います。

歯科的な意味も、う蝕と酸蝕で分ける必要があります。

人体を出た後の環境中での運命まで違います。

だから、人工甘味料について必要なのは、

「人工甘味料だから安全」

でも、

「人工甘味料だから危険」

でもありません。

見るべきなのは、

  • 何という分子なのか
  • 誰が摂るのか
  • どれくらい摂るのか
  • 何と置き換えるのか
  • どれくらいの期間なのか
  • 純物質なのか、市販商品なのか
  • ヒト研究なのか、動物研究なのか、細胞研究なのか
  • 実際の摂取量で到達し得る濃度なのか
  • 観察された「関連」なのか、介入で確認された変化なのか

です。

そして、多数の規制評価、ヒト薬物動態研究、RCT、疫学研究、動物研究、細胞研究、妊娠・小児研究、歯科研究、環境研究まで並べて見えてくる結論は、非常にシンプルです。

人間はどれも「甘い」と感じます。

しかし、その分子が口から入った後の運命は、驚くほど違います。

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