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39歳以下の口腔がんは“別のがん”なのか?岡山大学などの研究48例の93.7%が舌|AYA・若年舌癌を読む

39歳以下の口腔がんは“別のがん”なのか?岡山大学などの研究48例の93.7%が舌|AYA・若年舌癌を読む|広島市中区立町の歯医者(紙屋町、八丁堀、袋町からすぐで通いやすい)|ブランデンタルクリニック|土曜日、日曜日、祝日診療

2026年9月11日

39歳以下の口腔がんは“別のがん”なのか?岡山大学などの研究48例の93.7%が舌|AYA・若年舌癌を読む

(院長の徒然コラム)

はじめに

広島で歯科医療をしていると、隣県の岡山大学から口腔外科・口腔病理領域の研究が出ると、やはり目に留まります。

2026年、Head and Neck Pathologyに、AYA世代の早期口腔扁平上皮癌(oral squamous cell carcinoma:OSCC)を扱った日本の多施設共同研究が掲載されました。

(AYA世代とは15歳から39歳までの思春期・若年成人(Adolescent and Young Adult)のこと)

対象となったAYAは15〜39歳、48例。そのうち45例、93.7%が舌癌でした。

さらにAYA群では、白板症を思わせるような白色調を伴いながら粘膜表面を側方へ広がる「superficial spreading type」が60.4%。病理組織ではtumor buddingの高い症例やabnormal p53 immunophenotypeが多く、AYA群の中で予後を比較すると、DOI(depth of invasion:浸潤深度)5mm超がOS・DFSの不良と関連していました。術後の後発頸部リンパ節転移も15/48例、31.2%にみられています。

こうした数字だけを見ると、「若い人の口腔癌は、高齢者のOSCCとは別の癌なのではないか」と考えたくなります。

しかし、日本・海外の研究を突き合わせると、話はそう単純ではありません。

舌への偏りはかなり一貫しています。一方、「若年舌癌が増えているか」「若年ほど予後が悪いか」「特徴的な肉眼像があるか」「特有の遺伝子異常があるか」については、研究によって結果が割れています。

そこで今回は、岡山大学などの研究を入口に、AYA口腔癌には何が本当に特徴的なのか。そして“若年型OSCC”という独立した疾患単位を想定できるところまで証拠は揃っているのかを考えます。

まず岡山大学2026年研究は、何を比較したのか

研究対象は、2000年4月から2020年3月までに参加施設で外科治療を受けたOSCC患者です。

AYA群は15〜39歳48例、比較群は65歳以上69例。さらに予後因子の検討を早期癌に限定するため、UICC/TNM第8版のclinical stage I〜IIだけが対象になっています。

ここは最初に押さえておきたいところです。

これは「15〜39歳と40歳以上を比較した研究」ではありません。40〜64歳は比較対象に含まれておらず、AYAと65歳以上という年齢分布の両端を比較しています。

このことは、後でOS(overall survival:全生存期間)を読むときにも効いてきます。高齢群では、癌とは別の原因による死亡も増えるためです。

実際、最終観察時点で他疾患による死亡はAYA群0%に対して高齢群14.5%でした。

したがって、「AYAのOSが良かった」という結果だけから、「AYAの癌そのものが生物学的におとなしい」と判断することはできません。

「AYA」「若年」「early-onset」は同じ患者群ではない

若年口腔癌の文献を読むと、最初に問題になるのが何歳までを「若い」とするかです。

今回の岡山大学研究では、AYA oncologyで一般的に用いられる15〜39歳を採用しています。

ところが若年OSCCの研究を広げると、40歳以下、45歳未満、50歳未満など、さまざまな区切りが「young」「young-onset」「early-onset」として使われています。

これは単なる呼び方の違いではありません。年齢の切り方だけで、疫学上の結論そのものが変わることがあります。

オランダの全国がん登録を使ったOSCC 18,963例の人口ベース研究では、20〜34歳群の年間罹患率はAPC(annual percentage change:年間変化率)+2.4%と有意に増加していました。

一方、35〜44歳群ではAPC−0.9%でした。

ところが両者をまとめて45歳未満として解析するとAPCは−0.1%となり、最も若い20〜34歳群に起きていた増加が見えにくくなります。

つまり「若年口腔癌」という同じ言葉でも、15〜39歳、40歳以下、45歳未満、50歳未満を同じ集団として扱うことはできません。

以下では、15〜39歳を直接対象とした研究をAYA研究、それ以外については原著の年齢区分を併記して考えます。

それでも比較的よく再現する特徴がある――舌への偏り

年齢区分も地域も異なる若年OSCC研究の中で、それでもかなり繰り返し観察されている所見があります。

舌への偏りです。

岡山大学研究ではAYA 48例中45例、93.7%が舌。65歳以上では47.8%でした。

これだけなら48例という小規模研究特有の偏りを疑うべきでしょう。

しかし、日本の別コホートでも同じ方向が出ています。

2021年の日本多施設研究では、AYAのOSCC 107例中101例、94.4%が舌原発でした。その後の予後解析では、このAYA舌SCC 101例と高齢対照175例が比較されています。

昭和医科大学の2026年報告でも、AYA OSCC 23例中21例、約91%が舌でした。

海外でも同様です。カナダ9施設4,506例を集めた研究では、40歳以下205例の73.4%が舌で、40歳超では47.7%でした。

オランダの人口ベースデータでも、20〜34歳のOSCCではmobile tongueが80.1%を占めています。

40歳以下36例を解析した別研究でも、若年群の91.7%が舌でした。

研究ごとに数字は異なります。それでも、若年・AYAでOSCCを発症した患者では、高齢患者より舌に原発する割合が高いという方向は比較的よく再現されています。

ここでいう「oral tongue」と舌根は別です

ここでもう一つ、解剖学的な用語を区別しておきます。

今回の若年舌癌研究で主に問題になるoral tongueは、口腔に属する舌前方の可動部です。一方、base of tongue、つまり舌根は中咽頭に属します。

この区別は後述するHPVの議論でも重要です。HPV関連癌が大きな問題となっている中咽頭癌と、oral tongue SCCを混同してはいけません。

「93.7%が舌」と「若者は舌癌になりやすい」は別の話

なお、93.7%という数字は「39歳以下の一般人口が93.7%の確率で舌癌になる」という意味では当然ありません。

OSCCをすでに発症した患者の中で「どこに癌が生じたか」を示した構成比です。

一般人口における絶対発症リスクとは分母が違います。

臨床的な意味としては、若い患者で口腔癌を考える場面でも、舌を軽視してはいけないということになります。

もちろん、舌が白く見える原因の大半が癌というわけではありません。舌苔、カンジダ症、角化性病変など多くの鑑別があり、詳しくは舌が白く見える原因を整理したコラムでも解説しています。

若年舌癌は本当に増えているのか

次に、「若年舌癌は増加している」というよく知られた話を見てみます。

ここでは、増えている地域があることと、世界共通で増えていることを分けなければなりません。

22のがん登録、舌SCC 89,212例を解析した2017年の国際研究では、多くの地域で罹患率が年間0.4〜3.3%増加し、22登録中14登録では45歳未満の増加率が45歳以上より大きいという結果でした。

一方、この研究の結論は「general but not universal」、つまり広くみられるが普遍的ではない増加でした。

オランダでは20〜34歳で増加がみられ、フランスでは若年女性のoral tongue cancer増加が報告されています。オーストラリア・シンガポールなどを含む国際多施設研究でも、45歳未満の女性、特に非喫煙女性の舌SCC増加が報告されています。

ところが、反対方向のデータもあります。

世界8か所の紹介施設から1998〜2018年のOSCC 10,727例を集めた研究では、40歳以下は626例、5.8%でしたが、調査した施設群では若年OSCCが増加する傾向は確認されませんでした。

これは必ずしもどちらかが間違っているという意味ではありません。

人口ベースのがん登録が測るのは人口当たりの罹患率です。一方、紹介施設研究がみているのはその施設に集まったOSCCの中で若年患者が何%だったかです。

分母が違います。

さらに米国の58,661例を解析した2024年研究では、若年非ヒスパニック白人女性のoral tongue cancerが一方向に増え続けるという従来の単純な説明にも修正が加わりました。女性では50〜59歳の増加率が50歳未満を上回り、1980年以降に出生した女性では罹患率上昇が安定化する傾向がみられ、出生コホートの影響が示唆されています。

したがって、現時点で妥当なのは、「若年舌癌の罹患率が上昇している地域・年齢層は存在する。ただし、その増加は世界で一様ではない」という表現でしょう。

今回の岡山大学48例だけから、日本全体、まして広島でAYA舌癌が増加しているとまでは言えません。

AYA舌癌に「典型的な見た目」はあるのか

岡山大学研究で、舌への偏りと並んで目を引くのが肉眼型です。

AYAではsuperficial spreading typeが60.4%、高齢群では31.8%でした。

この研究でsuperficial spreading typeとは、単に「表面にある癌」という意味ではありません。

原著では、白板症様の病変で、主として粘膜を側方へ進展するものと定義されています。endophytic typeは粘膜下を中心とした潰瘍性病変、exophytic typeは外方へ増殖する腫瘤形成性病変です。

つまり「白板症が60.4%」ではありません。

浸潤癌が白板症を思わせる臨床像を呈していたという意味です。

これは一般歯科でも無視できない所見です。

典型的な進行OSCCなら、硬結を伴う潰瘍、不整な腫瘤、易出血性、舌運動制限など、悪性を疑わせる所見が揃うことがあります。

しかし、若年者の舌に白色調の面が広がっているだけなら、第一印象で浸潤癌を疑いにくい可能性があります。

白板症、紅板症、口腔扁平苔癬など、口腔癌発症リスクの上昇と関連する一群は、現在では口腔潜在的悪性疾患(oral potentially malignant disorders:OPMD)という枠組みで整理されています。初期口腔癌やOPMDと良性粘膜疾患の鑑別については、口腔がんAIと粘膜病変のトリアージを扱ったコラムでも触れています。

九州大学2026年研究では、少し違う景色が見える

2026年に九州大学から出た別の研究を並べると、話は少し複雑になります。

この研究は754例の「口腔癌」を対象とし、AYAは43例でした。

重要なのは、754例すべて、あるいはAYA43例すべてがOSCCではないことです。AYA群の88.4%、非AYA群の94.9%が扁平上皮癌でした。AYA43例のうち舌原発は34例、79.1%です。

その上で舌癌だけをみると、endophytic growthはAYA 18/34例、52.9%、非AYA 137/371例、36.9%でした。

ただしp=0.066で統計学的有意差には達していません。したがって「AYAに内向性増殖が有意に多かった」ではなく、「多い傾向がみられた」と読む必要があります。

一方、原発巣周囲に臨床的に認識できるleukoplakia-like changeがみられた割合はAYA 61.8%、非AYA 81.4%で、こちらはp=0.006と有意に少なくなっています。

岡山と九州は矛盾しているのか

「岡山では白板症様に表在性に広がる」「九州では周囲の白板症様変化が少ない」。言葉だけを見ると反対に見えます。

しかし、両研究は同じ変数を測定していません。

岡山は原発腫瘍そのものの肉眼的growth patternをsuperficial/endophytic/exophyticに分類しています。

九州では腫瘍のgrowth patternとは別に、腫瘍周囲に臨床的に認識できるleukoplakia-like changeが存在するかを評価しています。

内向性に増殖する腫瘍の周囲に白色変化が存在することは両立します。

したがって現在は、AYA舌癌に一つの決まった肉眼的「顔」があるとはまだ言えないと考えるのが妥当でしょう。

若い口腔癌の予後は良いのか、悪いのか

この問いへの答えも、文献では揃っていません。

岡山大学研究では、AYA群は高齢群よりOS、DFSとも有意に良好でした。

OSはp=0.024、DFSはp=0.044です。

しかしDSS(disease-specific survival:疾患特異的生存)はp=0.68で、有意差がありませんでした。

先ほど触れたように、高齢群では他疾患死亡が14.5%存在し、AYAでは0%でした。そのため、少なくともOSの差には癌以外の死亡が影響しています。

一方、日本頭頸部癌登録を使った舌癌2,221例、AYA258例の全国研究では、propensity score matching後もAYAのOS、DSSが有意に良好でした。

ところが、2025年のカナダ9施設4,506例では、40歳以下の若年群は舌癌が多くT1症例も多いものの、局所再発、頸部再発、遠隔再発に明らかな年齢差はなく、背景因子調整後のOS・DFSにも有意な年齢差はありませんでした。

病理学的に不利でも、生存率は悪くない研究がある

インド・シンガポール5施設2,138例の研究も興味深い結果です。

45歳未満478例では、高齢群よりPNI(perineural invasion:神経周囲浸潤)が42.9%対35.0%、LVI(lymphovascular invasion:脈管侵襲)が22.4%対17.3%、ENE(extranodal extension:節外浸潤)が36.0%対24.5%と、有害な病理所見が多く認められました。

それでもStage別5年OS・DSSには明らかな有意差がありませんでした。

例えば5年OSはStage Iで若年93.9%対高齢86.9%、Stage IIで80.7%対75.0%、Stage IIIで73.1%対71.5%、Stage IVで58.7%対52.8%でしたが、いずれも有意差には達していません。

なぜ、より不利な病理像があるのに生存率が悪くならないのでしょうか。

一つの説明候補が治療強度です。

同研究では若年群の25.9%が術後同時化学放射線療法(CCRT)を受け、高齢群では16.6%でした。なお、この論文のAbstractには26.9%という数字も記載されていますが、Table 1とDiscussionは25.9%で一致しているため、ここでは25.9%を採用します。

著者らも、若年患者の良好な全身予備能と少ない併存疾患により、より強力な補助療法を実施できたことが病理学的不利を緩和した可能性を挙げています。

したがって、「生存率が同じ=癌の生物学も同じ」ではありません。

逆に「若年の生存率が良い=若年癌はおとなしい」とも言えません。

2026年メタ解析でも、「年齢そのもの」の結論は強くない

若年口腔癌の予後因子をまとめた2026年のsystematic review / meta-analysisは、このテーマを整理する上で重要です。

ただし、この論文には研究数の記載に不一致があります。

Abstractでは24研究、若年患者6,965例と記載されています。

ところが本文のstudy selectionには、「A total of 23 studies met the inclusion criteria」と記載されています。

このため、研究本数自体を強く根拠にするのではなく、統合された効果量とその不確実性を見る必要があります。

さらに、「年齢は生存と有意に関連しなかった」という解析は3研究に基づき、aHR 0.80、95%CI 0.34〜1.25でしたが、I²=99.79%と極めて大きな異質性があります。

したがって、「若年かどうかは予後に関係しないことが証明された」とまでは言えません。

より正確には、若年群における年齢そのものの独立した予後効果は、現在の調整解析では一貫していないということです。

一方、同解析では進行したT分類、高いN分類、リンパ節転移、高い組織学的grade、低分化、DOIなど、腫瘍側の因子が予後と関連しています。

つまり、若いという年齢ラベルだけでなく、その癌がどのような癌なのかを見る必要があります。

熊本大学2026年研究も「年齢より浸潤様式」を示した――ただし方法記載には注意がいる

熊本大学を中心とした2026年の舌SCC研究では、AYA15〜39歳と60〜79歳を比較しています。

全体では高齢237例、AYA31例です。

背景因子を調整するためpropensity score matching(PSM)を行った後の多変量解析では、世代そのものではなくYK分類がDFS、OS双方の予後モデルで有意な因子になったと報告されています。

これは「若いかどうか」より、「癌がどのように浸潤しているか」の方が予後情報を持つ可能性を示す興味深い所見です。

ただしPSMの記載には整合しない部分がある

この論文のMethodsには、caliper width 0.2による1:1 nearest-neighbor matchingと明記されています。

ところが、結果として示されたmatched cohortは高齢58例、AYA29例で、人数は2:1です。

さらにMethodsではSMD<0.1を十分なbalanceと定義していますが、Resultsでは「多くの変数でSMD<0.2になった」と説明されています。

この記載上の不整合だけで研究全体を否定する理由にはなりません。

ただし、「背景因子を完全に揃えた結果、年齢は無意味でYKだけが重要だと証明された」と強く読むのも適切ではありません。

この研究は、年齢そのものより浸潤様式を重視すべきだという支持材料の一つとして読むのが妥当でしょう。

岡山大学研究の核心――DOI 5mmは何を意味するのか

今回の岡山大学論文で、著者らが最も強く評価している予後指標がDOIです。

DOIとはdepth of invasion、浸潤深度です。

これはtumor thickness、腫瘍厚径とは似ていますが同じ概念ではありません。

外向性に大きく盛り上がった癌なら、腫瘍そのものは厚くても、正常粘膜の基準面から深部へ入り込んだ距離は短いことがあります。

逆に潰瘍型では、現在見えている表面が陥凹しているため、「表面から底まで」という単純な厚さと、本来の粘膜表面を基準にした浸潤深度は一致しません。

岡山大学研究ではAYA48例をDOI 5mm以下と5mm超に分けたところ、DOI >5mmでOS p=0.032、DFS p=0.012と有意に不良でした。

一方、tumor thickness >5mmでは同様の明確な生存差は示されませんでした。

著者らは、これらの結果を踏まえてDOIを早期AYA OSCCで“the most robust prognostic indicator”と位置づけています。

ただし、この表現にも注意が必要です。

これはAYA群内のKaplan–Meier解析や転移解析を総合した著者らの評価であって、多変量Cox比例ハザードモデルで他の全因子から独立した生存予後因子として確立したという意味ではありません。

正確には、AYA群内でDOI >5mmがOS・DFSを有意に分け、著者らが最も頑健な予後指標と位置づけたと読むべきでしょう。

5mmは「安全」と「危険」を分ける壁ではない

ここで5mmという数字が出ると、臨床ではつい境界線として覚えたくなります。

しかし、DOIは本来連続変数です。

4.9mmまでは安全で、5.1mmになった瞬間に癌の性質が切り替わるわけではありません。

早期oral tongue SCC 145例を対象とした研究では、頸部リンパ節病変を予測する最適なDOI閾値は4.5mmで、5mmを用いても有用性に明らかな差はありませんでした。

一方、早期舌癌212例の別研究では、潜在性頸部リンパ節転移を予測する最適DOIは7.25mm、5年OS・DSSでは8mmでした。

研究対象や評価項目が変われば、最適な閾値も変わります。

さらに年齢を限定しない早期oral tongue SCC 293例では、DOIとtumor thicknessはr=0.984と極めて強く相関し、リンパ節転移やOSに対する予測性能もほぼ同等でした。

したがって、岡山大学のAYA48例ではDOIの方がきれいに予後を分けたことは重要ですが、OSCC全体でDOIがtumor thicknessより常に圧倒的に優れているとまでは言えません。

浅くても転移する――深さだけでは説明し切れない

DOIが重要でも、浅い癌なら絶対に転移しないわけではありません。

Stage I〜II舌SCC 69例を対象にRac1を調べた研究では、高いRac1発現がDOI、tumor budding、血管侵襲、後発頸部リンパ節転移と関連し、多変量解析ではRac1発現が後発頸部リンパ節転移に関連する独立因子として残りました。

Rac1がそのまま日常臨床で使える確立マーカーという意味ではありません。

ただ、腫瘍の深さだけでは転移能を完全には説明できないことを示す一つの材料になります。

遠隔転移ではDOI >5mmのORが15.11――しかし症例は5件しかない

岡山大学研究で、もう一つ見逃せない結果があります。

AYA48例中、術後に遠隔転移を生じたのは5例、10.4%でした。高齢群では4/69例、5.8%で、群間差は有意ではありません。

AYA群内で遠隔転移に関連する因子を解析すると、DOI >5mmのORは15.11。95%信頼区間は1.50〜152.42、p=0.021で、多変量解析でも同じ推定値が示されています。

「15倍」という一点推定値だけを見ると非常に強烈です。

しかし、信頼区間を見れば推定の不確実性が分かります。

下限1.50から上限152.42。そして遠隔転移はわずか5イベントです。

原著自身も、イベント数が少ないため信頼区間が広く、精度には限界があるとしています。

したがって、「DOI >5mmなら遠隔転移が15倍になる」と一般化するのは適切ではありません。

この48例では強い関連が観察されたものの、効果量の正確な大きさについては、より大きなAYA集団での検証が必要です。

後発頸部リンパ節転移31.2%――ここもDOIだけでは決められない

AYA48例のうち、術後に頸部リンパ節転移を生じたのは15例、31.2%でした。

高齢群は14/69例、20.3%。

ただし、この群間差はp=0.19で統計学的有意差ではありません。

単変量解析ではStage II、tumor thickness >5mm、DOI >5mm、tumor budding score 1〜2が後発頸部リンパ節転移と関連しました。

ところが複数因子を同時に考慮すると、いずれも統計学的有意差を維持できませんでした。

DOI >5mmも単変量OR 3.94、95%CI 1.02〜15.13、p=0.046でしたが、多変量ではadjusted OR 2.19、95%CI 0.27〜17.55、p=0.460です。

したがって、「DOI >5mmはAYAの後発頸部リンパ節転移を独立して予測した」とは言えません。

初回の頸部治療方針も大きく違っていた

もう一つ重要なのが治療内容です。

AYA群では47/48例、97.9%が頸部郭清を伴わない原発巣手術のみでした。

一方、高齢群では52/69例、75.4%が原発巣手術+頸部郭清でした。

したがって、その後に観察された後発頸部リンパ節転移率は、腫瘍生物学だけでなく、初回頸部治療方針の違いにも影響されます。

AYA31.2%対高齢20.3%という数字だけを取り出して、「AYAの方がリンパ節転移しやすい」と結論することはできません。

それでも頸部リンパ節転移が重要なことは変わらない

年齢にかかわらず、OSCCで頸部リンパ節転移は極めて重要な予後因子です。

40歳以下36例を含む比較研究では、若年群で頸部転移がある場合、全死亡・疾患死に対するORはいずれも23、再発にも強い関連が報告されました。

ただし、OR 23の95%CIは約2.3〜229と非常に広く、若年群も36例しかありません。

一点推定値の「23倍」をそのまま臨床的な固定値として受け取るべきではありません。

それでも、若年だからregional diseaseを軽く考えてよい理由はないことは明らかです。

DOIは「どこまで深いか」、tumor buddingやWPOIは「どう浸潤するか」を見る

岡山大学研究ではDOIだけでなく、浸潤先端の形態も詳細に評価しています。

ここで出てくるのがtumor buddingmodified WPOIです。

tumor buddingとは何か

tumor buddingは、浸潤先端で癌が小さな細胞集団あるいは単独細胞となって、主腫瘍から解離するようにみえる所見です。

今回使われた評価では、score 0は単独癌細胞もtumor budもなし、score 1は200倍視野で5個未満の低密度budding、score 2は単独癌細胞の存在、または5個以上の高密度buddingと定義されています。

AYAではscore 2が41.7%、高齢群では18.9%。

逆にscore 0はAYA35.4%、高齢群56.5%でした。

modified WPOIとは何か

WPOIはworst pattern of invasion、最も攻撃的な浸潤様式を評価する考え方です。

今回のmodified WPOIでは、WPOI-1は癌胞巣が主腫瘍の境界内にとどまるもの、WPOI-2・3は癌胞巣が主腫瘍境界を越えるものです。

WPOI-2と3は離れたsatellite間の距離で分け、1mm未満を2、1mm以上を3としています。

興味深いことに、AYA群ではむしろWPOI-1が45.8%で、高齢群26.1%より多く、WPOI-2はAYA54.2%、高齢73.9%でした。WPOI-3は両群とも0例です。

つまり、tumor buddingはAYAで高いのに、modified WPOIは単純にAYAの方が悪いという結果ではありません。

病理学的な「攻撃性」は、一つの尺度だけでは表現しきれないということです。

既存の病理リスクモデルでもAYAの予後はうまく説明できなかった

岡山大学研究では、modified WPOIとtumor buddingを組み合わせたChang氏らのrisk modelも評価しています。

modified WPOI 0〜2点とbudding score 0〜2点を合計し、Changモデルでは0〜1点をlow、2〜3点をintermediate、4点をhigh riskとします。

さらにAlmangush氏らによる分類では0〜2点をlow、3〜4点をhigh riskとしています。

岡山研究ではChangモデルに年齢群差はありませんでした。

一方、Almangush型ではhigh-riskがAYA39.6%、高齢18.8%とAYAに多くなりました。

ところがAYA患者だけの生存解析では、このrisk categoryは明確に予後を分けませんでした。

著者らは、従来の病理リスクモデルだけでは早期AYA OSCCの予後を十分に捉えられない可能性を指摘しています。

ただし、モデル自体が無効という話ではありません。

年齢を限定しない早期oral tongue SCC 310例の多施設validationでは、新しいrisk modelのhigh-risk群がDSS不良と関連し、HR 2.54、95%CI 1.48〜4.37、DFSでもHR 1.66、95%CI 1.07〜2.58でした。

問題は、一般の早期OSCCで有用な病理モデルが、AYA48例という小さな集団でも同じ性能を示すのかという点です。

そこはまだ答えが出ていません。

若年OSCCはtumor buddingの多い癌なのか――ここも研究が割れる

岡山大学だけを見ると、AYAでhigh buddingが多い。

しかし、外部研究は一方向ではありません。

南インドのOSCC 510例では、40歳以下68例のtumor buddingが51.47%、高齢群28.28%。stroma-rich tumorも48.52%対12.89%と若年群に多く報告されました。

一方、北インドの707例では、40歳以下122例でもlow tumor buddingが98.3%と大半を占め、高齢群94.3%と大きな差を認めませんでした。

同じ国の研究でさえ結果が揃いません。

対象部位、病期、病理評価方法、生活習慣による発癌曝露、症例選択などの違いが考えられます。

したがって、tumor buddingはOSCCの重要な予後関連所見ではあるものの、AYA OSCC固有の特徴として確立したとは言えないというのが現在地でしょう。

YK、WPOI、tumor buddingは似た話だが、同じ指標ではない

ここは用語が増えるので、一度整理します。

  • DOI:どれだけ深く入り込んだか
  • tumor budding:浸潤先端で癌細胞がどれだけ小集団・単細胞化しているか
  • WPOI:腫瘍境界からどのようなパターンで癌胞巣が広がるか
  • YK分類:癌の浸潤様式を別の分類体系で評価する方法

したがって、熊本大学研究でYK分類が予後因子となったことを、「岡山大学のWPOIやtumor buddingも予後因子だった」と読み替えることはできません。

ただし、異なる評価法でありながら、年齢そのものよりも、浸潤先端で癌がどのように振る舞っているかを捉える情報が重要という方向は共通しています。

p53 85.4%――この数字を「TP53変異率」と読んではいけない

岡山大学論文でもう一つ非常に目立つ数字があります。

abnormal p53 immunophenotypeはAYAで41/48例、85.4%。高齢群は47/69例、68.1%で、p=0.03でした。

しかし、「AYA OSCCの85.4%にTP53遺伝子変異があった」という意味ではありません。

今回行われたのはp53の免疫組織化学染色(IHC)です。

原著ではabnormal patternとして、basal/parabasal+diffuse overexpression、basal/parabasal-only overexpression、null patternなどを分類しています。

p53蛋白の染色パターンはTP53遺伝子異常を推測するsurrogateとして有用ですが、遺伝子sequencingそのものではありません。

実際、口腔上皮性異形成(oral epithelial dysplasia:OED)40例を対象にTP53 sequencing、FISH、p53 IHCを統合した研究では、p53 IHCの特定パターンがTP53変異状態とよく対応していました。

しかし「よく対応する」と「完全に同義」は別です。

early-onset舌癌ではTP53変異頻度自体はほぼ同じだった

さらに、early-onset oral tongue SCC 227例を解析したCampbell氏らの研究では、TP53のnon-silent mutationはearly-onsetで62.6%、typical-onsetで62.5%と、ほぼ同じでした。

若年だけTP53 mutationが突出していたわけではありません。

一方、early-onsetでは全体のnon-silent somatic mutation burdenが有意に少なく、その差は喫煙歴で調整しても残りました。

したがって、AYAでp53 IHC abnormal patternが多いことは興味深いが、「AYA舌癌はTP53変異による癌だ」とは言えないということです。

白板症様病変とp53――OPMDとの境界も単純ではない

岡山大学研究のsuperficial spreading typeが「leukoplakia-like」であることから、OPMDとの関係も気になります。

WHO Collaborating Centre for Oral Cancerによる国際consensusでは、leukoplakia、erythroplakia、oral lichen planusなど、口腔癌発生リスクの上昇と関連する一群をOPMDとして整理しています。

また、OEDを含む203例を調べた別研究では、abnormal p53 IHC patternを示すOEDで、その後の浸潤性SCCへの進展が21.6%、wild-type patternでは0%と報告されています。

ただし、これはAYAに特化した研究ではありません。

さらに岡山大学研究でもAYA患者に多発病変は認められず、臨床的なfield cancerizationが明確に証明されたわけではありません。

したがって、AYAの白板症様OSCC=OPMDから進展した癌と結びつける根拠はありません。

白板症様に「見える」こと、病理学的OEDが存在すること、分子学的field changeが存在することは、それぞれ別の概念です。

赤色病変でも同じです。色や痛みだけで良性・悪性は決められません。局所に固定した舌病変の見方については、赤く平滑で痛む舌の鑑別を整理したコラムも参考にしてください。

若年頭頸部癌ならHPV――という発想を口腔癌へそのまま持ち込めない

若い人の頭頸部扁平上皮癌という話になると、HPVを想像する人は多いと思います。

HPV-associated oropharyngeal squamous cell carcinomaは、頭頸部腫瘍学で非常に重要な疾患です。

しかし、先ほど述べた通り、中咽頭とoral cavityは同じ解剖学的領域ではありません。

岡山大学研究では全例にp16 IHCを行い、p16 overexpressionはAYA 4/48例、8.3%、高齢3/69例、4.3%でした。

そしてp16陽性だった7例だけに、18種類のhigh-risk HPVを標的とするE6/E7 mRNAのRNA ISHを行い、全例陰性でした。

したがって、「AYA48例すべてをHPV RNA ISHで調べて全例陰性」ではありません。

HPV DNAがあったことと、HPV-driven cancerであることは違う

Morodomi氏らによる2025年研究では、formalinfixed cancer tissueのDNA断片化やviral sequence variationによる見逃しを減らすため、DNA quality checkとHPV-16全ゲノムを覆うmultiplex PCRを組み込んだ検出法が構築されています。

OSCC 112例へ適用すると105例はmultiplex PCR陰性で、HPV DNAを検出できた症例についてもviral loadやintegrationまで詳しく検討されました。

著者らは、少なくともこの集団ではHPV-16とOSCCとの関係は中咽頭癌ほど顕著ではないとしています。

また、北米4施設409例を対象にhigh-risk HPV E6/E7発現まで確認した研究でも、口腔OSCCにおけるhigh-risk HPVの病因寄与率は5.9%でした。p16 IHCの陽性的中率も41.3%にとどまっています。

つまり、HPV DNAが検体中に存在すること、p16が陽性であること、そのHPVが癌を実際に駆動していることは同じではありません。

若年舌癌を「HPV癌」と一括して説明する証拠は、現時点ではありません。

ゲノムを全部読めば「若年舌癌の正体」は分かるのか

では、遺伝子を調べればAYA OSCCを定義できるのでしょうか。

今のところ、こちらも一つの答えにはなっていません。

Campbell氏らは7研究とTCGAを統合し、oral tongue SCC 227例、そのうち50歳未満のearly-onset 107例についてsomatic mutationを解析しました。

TP53、CDKN2A、CASP8、NOTCH1、FAT1に加え、ATXN1、CDC42EP1などがdriver候補として同定されています。

しかし、early-onsetだけを一つの特異的driverで説明できたわけではありません。

むしろ最も明瞭な年齢差は、early-onset群のsomatic mutational burdenが低いことでした。

しかも、この差は喫煙歴だけでは説明できませんでした。

「年長者より変異の蓄積が少ないのに癌になる」。これは若年舌癌研究で興味深い点の一つです。

日本C-CATでも低TMBとEGFRというシグナルが出た

日本人OSCCの包括的ゲノムプロファイリングをC-CATデータで解析した2024年研究では、OSCC 242例が対象になっています。

年齢別解析ではAYA28例と75歳以上29例を比較し、EGFR alterationはAYAで有意に多く、このデータセットではAYA側にのみ観察されました。

一方、CDKN2A、CDKN2B alterationは75歳以上で多く、median TMBも高齢群の方が有意に高値でした。ただしTMB≧10の割合はほぼ同じでした。

ここにも重要な限界があります。

日本の保険診療で包括的ゲノムプロファイリングを受けた患者は、一般的な初期OSCC患者から無作為に抽出された集団ではありません。進行癌や標準治療終了後・終了見込みの患者が多く含まれます。

したがって、C-CATで見えたAYAのゲノム像を、そのまま早期AYA OSCC全体へ外挿することはできません。

別の若年OSCC研究でもEGFR方向のシグナル

Satgunaseelan氏らの50歳未満OSCC 26例では、TMBは3.20/Mbで、比較した50歳以上11例では8.45/Mbでした。

EGFRを含む7p11領域のamplificationは若年7/26例、27%にみられ、高齢群では0/11例でした。

ただし群間差はp=0.08で、有意差には達していません。

したがって、「AYA OSCCはEGFR増幅癌である」とは言えません。

独立した複数集団でEGFR関連異常が若年側に偏るシグナルが出ているため、今後検証する価値がある、という段階です。

腫瘍免疫まで年齢で違うのか

最近のAYA OSCC研究は、遺伝子だけでなくtumor microenvironment(TME:腫瘍微小環境)へ進んでいます。

九州大学2026年研究では、AYAと非AYAの口腔癌について腫瘍浸潤T細胞を免疫蛍光で調べています。

CD4、CD8、GZMK+CD8、PD-1、LAG-3などが評価され、非AYAではCD4+、CD8+細胞浸潤がより目立つ傾向があり、checkpoint分子の発現にも年齢群による違いが示唆されました。

ただし、著者ら自身がこの免疫解析を探索的な組織レベル比較と位置づけています。

解析可能な症例数が限られ、markerごとに対象症例が完全に一致しているわけでもありません。

さらに、この研究は免疫表現型とDFSの因果関係を直接証明する設計ではありません。

したがって、「AYAには特有の免疫型がある」と断定するのはまだ早いでしょう。

ECM、EMT、CD8低下――別研究でも免疫抑制方向のシグナル

2024年のEstephan氏らの研究では、TCGA-HNSCからHPV-negative oral cavity subsiteを抽出し、45歳以下17例と60歳以上104例を比較しています。

若年群ではextracellular matrix(ECM:細胞外基質)remodelingやepithelial-mesenchymal transition(EMT:上皮間葉転換)関連経路が上昇し、複数の免疫関連経路が低下していました。

さらに別の組織標本を用いたIHCでは、CD8+ T-cell infiltrationが若年群で約2.5分の1でした。

ただしIHCは若年5例、高齢5例、NanoStringによる検証も若年4例、高齢4例です。

非常に小さい集団です。

この研究は、AYA OSCCの免疫抑制的TMEを確定した研究ではなく、ECM remodeling、EMT、T-cell exclusionが若年OSCCの生物学に関与する可能性を示した探索的研究として読むべきでしょう。

また、40歳以下の非喫煙OSCC患者100例を含むValero氏らの研究では、若年非喫煙群でregional・distant recurrenceが多い方向がみられ、末梢血NLRも対照群より高かったことから、host側の免疫状態が仮説として提起されています。

ただし、これは若年OSCC全体ではなく「若年かつ非喫煙」という選択された集団です。

現段階で言えるのは、複数の研究から免疫微小環境や宿主免疫の年齢差を示唆するシグナルが出始めているところまでです。

では、なぜ若い人にOSCCが発生するのか

ここまで読むと、最も知りたい問いが残ります。

原因は何なのか。

典型的なOSCCでは、喫煙、飲酒、地域によってはareca nut・betel quidなどが重要な発癌因子です。

若年患者では累積曝露期間が短く、非喫煙・非飲酒患者が注目されてきました。

しかし、AYA OSCC=non-smoker/non-drinkerではありません。

若年舌SCC 185例を喫煙状態で比較した多施設研究もあり、同じ「若年舌癌」の中にも異なる患者背景が混在することが分かります。

それならHPVなのか。先ほど見たように、それだけでは説明できません。

遺伝性癌素因なのか。Fanconi anemiaやdyskeratosis congenitaなど頭頸部癌リスクと関連する遺伝性疾患は確かに存在します。

しかし岡山大学研究では、AYA48例の大半に既知の遺伝性癌素因症候群は記録されていませんでした。

歯列や慢性的な機械的刺激は原因なのか

歯科医師として無視しにくい仮説が、慢性的な舌への機械的刺激です。

日本の40歳未満舌SCC 36例を調べた研究では、機械的刺激あり91.7%、歯の位置異常52.8%、歯列狭窄63.8%と、高い割合が報告されています。

さらに日本からは、若年舌SCC患者で下顎第二大臼歯の舌側位置や狭い舌房を検討した研究もあります。

かなり興味を引く数字です。

しかし、ここから「若年舌癌の91.7%は歯並びが原因」と書くことはできません。

研究が示したのは、癌患者の多くに機械的刺激源が認められたという関連です。

癌ができる前から何年間、どの程度の刺激が存在したのか。その刺激がなければ癌が発症しなかったのか。他の交絡因子はどうだったのか。

そこまでを証明した研究ではありません。

したがって、慢性機械的刺激は現段階では、日本の若年舌癌研究で繰り返し浮上している病因仮説の一つという位置づけに留めるべきでしょう。

microbiome、電子タバコ、食事――候補が増えても答えが出たわけではない

2026年のearly-onset OSCC reviewでは、従来の喫煙・飲酒に加えて、oral microbial dysbiosis、電子タバコ、食事・代謝、慢性炎症、遺伝的素因、epigenetic dysregulationなど、さまざまな病因候補が整理されています。

分子面でもTP53、CDKN2A、NOTCH1、EGFR、低TMB、免疫微小環境などが俯瞰されています。

ただし、このレビューはevidence mappingとnarrative synthesisを組み合わせたもので、formal risk-of-bias assessmentを伴うsystematic review / meta-analysisではありません。

糖入り飲料、超加工食品、電子タバコ、microbiomeなどは興味深い仮説ですが、「これが若年舌癌の原因だ」という因果関係が確立したわけではありません。

候補が増えたことと、原因が分かったことは別です。

現在のearly-onset OSCC研究は、喫煙・飲酒だけでは説明しにくい症例が存在することは分かってきたが、その空白を埋める単一原因はまだ見つかっていないという段階にあります。

AYAという年齢は、癌細胞だけの問題ではない

AYA oncologyを考える上で、もう一つ重要な視点があります。

15〜39歳で癌になることの意味は、「若い癌細胞」があるかどうかだけではありません。

治療後に続く人生が長いということです。

昭和医科大学のAYA OSCC 23例の報告では、3例が遠隔転移後に原病死しました。

この3例を除く20例では、16例が復職・就職し、3例が出産・子育てを経験していました。1例は遠隔転移に対する化学療法を継続しており、復職していませんでした。

AYA世代の治療後には、仕事、学業、結婚、妊娠・出産、育児、発音、嚥下、食生活、顔貌や審美、長期的な口腔管理が続きます。

また、若年患者は高齢患者より全身予備能が高く、強い治療を受けられることがあります。

先ほどのSingh氏らの研究では、若年群にPNI、LVI、ENEが多かった一方、CCRT施行率も25.9%対16.6%と高く、著者らは治療強度の差が病理学的不利を緩和した可能性を論じています。

しかし、強い治療に耐えられることは、治療負担が小さいという意味ではありません。

放射線治療を受ければ口腔乾燥、嚥下障害、顎骨放射線壊死などの晩期障害が問題になり得ます。薬物療法では使用薬剤によって神経毒性や生殖機能への影響を考える必要があります。外科治療でも舌切除範囲に応じ、構音・嚥下・審美・社会復帰への影響が生じます。

つまり長期影響は「AYAだから同じように起こる」のではなく、どの治療を受けたか、どの機能を失ったか、治療後どれだけ長い時間を生きるのかによって考える必要があります。

Singh氏らはさらにYears of Potential Productive Life Lost(YPPLL)を用いて、若年死亡による社会的な生産年数損失も評価しました。

もちろん、インド・シンガポールの賃金や退職年齢を使った金額を日本へそのまま移すことはできません。

それでもAYA cancerでは、同じ1人の死亡でも失われる人生年数・就労年数が大きくなり得るという問題は無視できません。

結局、AYA口腔癌は“別のがん”なのか

最初の問いへ戻ります。

39歳以下の口腔癌は、高齢者のOSCCとは別の癌なのでしょうか。

現在の証拠からは、

「いくつかの違いはかなり見えてきた。しかし、独立した一つの疾患単位として証明されたとはまだ言えない」

という答えが最も近いと思います。

比較的再現していること

  • 若年・AYAのOSCCは舌へ偏る
  • 複数のゲノム研究で若年側のTMBが低い方向を示す
  • EGFR関連異常が若年側に多いという独立したシグナルがある
  • 若年でもDOI、リンパ節、grade、浸潤様式など従来の腫瘍側因子が重要である

まだ決着していないこと

  • 若年舌癌の増加が世界共通の現象なのか
  • AYA舌癌に一つの典型的肉眼像があるのか
  • tumor buddingがAYAに特異的に多いのか
  • AYA OSCCを定義する固有のdriver alterationが存在するのか
  • HPV、機械的刺激、microbiome、電子タバコなどがどの程度病因に寄与するのか
  • 若いこと自体が独立した予後因子なのか

岡山大学ではsuperficial spreadingが目立ちましたが、九州大学では内向性増殖が多い傾向と、周囲白板症様変化の減少が報告されました。

tumor buddingがAYAに多い研究もあれば、差を再現しない研究もあります。

p53 IHC abnormal patternは岡山AYAで85.4%でしたが、early-onset OTSCCのTP53 mutation frequency自体は年長発症とほぼ同じという研究があります。

HPVだけでは説明できません。

低TMBやEGFRには興味深いシグナルがありますが、まだAYA OSCCを規定する分子マーカーにはなっていません。

T細胞やECMを含む免疫微小環境にも年齢差が示唆されていますが、探索的な小規模解析が中心です。

そして予後も、「若い方が良い」「差がない」「一部では再発が多い」が混在しています。

つまり、AYAという年齢そのものがOSCCの予後や生物学を一義的に決めるところまでは来ていません。

それでも岡山大学研究が示したものは小さくない

今回の研究で興味深いのは、AYAと高齢群の間にさまざまな違いが見つかった一方で、AYA48例の予後をみると、p53、WPOI、tumor budding、既存の病理risk modelのすべてが明瞭に患者を層別化したわけではなかったことです。

その中で、DOI >5mmはAYA群内のOS・DFSを有意に分けました。

著者らはDOIを最も頑健な予後指標と位置づけています。

ただし、そのDOIですら万能ではありません。

後発頸部リンパ節転移については多変量解析で独立した関連を維持できず、遠隔転移とのOR 15.11はわずか5イベントに基づき、信頼区間は1.50〜152.42と非常に広い。

別の早期舌癌研究ではtumor thicknessとほぼ同等の予測性能でした。

だからこそ、「AYAだから特別な癌」と先に決めるのではなく、年齢というラベルの下に隠れている腫瘍深度、リンパ節、浸潤様式、病理像を一例ずつ読むことが重要なのだと思います。

若さだけでは癌を否定できない。

白色病変だから浸潤癌ではないとも言えない。

喫煙歴がないからOSCCではないとも言えない。

そしてDOI 5mm未満だから転移しない、とも言えません。

口腔は直接観察できる臓器である一方、初期癌やOPMDは良性疾患に似ることがあります。口腔癌を疑う際の基本については、口腔がんの早期発見についてのコラムもあわせてご覧ください。

AYA口腔癌が将来、一つの分子的subtypeとして定義されるのか。

あるいは「若年発症」という共通項の中に、異なる発癌経路を持つ複数の癌が混在しているのか。

まだ答えは出ていません。

ただ、現在までの研究から一つだけ、臨床で変えるべき認識があります。

「若いから口腔癌ではない」という考え方は、もう成立しません。

若さに安心せず、舌を診る。

表面だけでなく、浸潤の深さを見る。

原発巣だけでなく、頸部を見る。

そして「AYA癌」という名前だけで予後を決めず、その癌自身の振る舞いを見る。

岡山大学などの48例の研究は、その必要性をかなり鮮明に示した研究だと思います。

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