2026年7月14日

(院長の徒然コラム)

はじめに
「舌が赤くなって、ピリピリと痛みます」
このような訴えで歯科を受診する患者さんは、決して珍しくありません。舌を診ると、糸状乳頭が広い範囲で失われ、表面全体が平滑になっていることもあれば、一部だけが赤く抜け落ちたように見えることもあります。明らかなびらんや白色線条を伴う患者さんもいれば、本人は強い灼熱感を訴えているのに、肉眼的には症状を説明できるほどの異常を認めないこともあります。
赤く痛い舌から考えられる疾患は、Hunter舌炎やPlummer–Vinson症候群だけではありません。
鉄欠乏、ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏、その他の栄養障害、紅斑性カンジダ症、口腔乾燥、シェーグレン病、胃切除後、自己免疫性胃炎、セリアック病、地図状舌、正中菱形舌炎、口腔扁平苔癬、口腔苔癬様病変、自己免疫性水疱症、薬剤性口腔病変、紅板症、口腔上皮性異形成、初期口腔癌、Burning Mouth Syndromeまで、病態の異なる疾患がよく似た色と痛みを作ります。
したがって、赤い舌を見て病名を一つ思い浮かべるだけでは、診断にはなりません。
なぜ赤く見えるのか。糸状乳頭が萎縮・消失しているのか。炎症、感染、乾燥、びらん、上皮異形成のどれが起きているのか。痛みは粘膜病変によるものか、それとも神経障害性疼痛なのか。
病名を当てにいく前に、形態、分布、時間軸、触診所見、全身背景を一つずつ分解して考える必要があります。

「赤い」という色だけでは診断できません
口腔粘膜が赤く見える理由は一つではありません。
舌背の糸状乳頭が失われれば、その下にある粘膜固有層の血管が透け、表面が赤く見えます。炎症があれば血管が拡張し、粘膜全体が発赤します。上皮が剝がれてびらんになれば、上皮下組織が露出します。口腔上皮性異形成や上皮内癌でも、上皮の成熟や角化が失われることで赤色病変になります。
同じ赤色でも、糸状乳頭の萎縮、炎症、感染、乾燥、上皮剝離、上皮性異形成では、診断も治療も全く異なります。
さらに、赤いことと痛いことが、必ずしも同じ原因によるとは限りません。
紅斑性カンジダ症による発赤が改善した後も、神経障害性疼痛だけが残ることがあります。シェーグレン病では、乾燥、Candida、栄養欠乏、末梢神経障害が重なっていることがあります。反対に、紅板症や初期口腔癌は鮮明な赤色を呈していても、ほとんど痛みがない場合があります。
痛みの強さから病変の危険度を判断することはできません。
「すごく痛いから重い病気」「あまり痛くないから経過観察でよい」と考えるのではなく、色、形、分布、硬さ、時間的変化を別々に評価します。
萎縮性舌炎は一つの病名ではありません
萎縮性舌炎とは、舌背の糸状乳頭が部分的または広範囲に萎縮・消失し、表面が赤く平滑になった状態を指します。
患者さんは、
- 舌が薄くなった
- 表面がつるつるする
- 火傷したように痛い
- 歯磨剤がしみる
- 熱い物や辛い物が痛い
- 味が分かりにくい
- 苦味や金属味を感じる
- 舌の感覚がおかしい
と表現します。
しかし、萎縮性舌炎は病因診断ではありません。
鉄欠乏、ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏、その他の低栄養、Candida、口腔乾燥、糖尿病、胃疾患、吸収障害など、複数の病態が共有する臨床的な表現型です。
したがって、糸状乳頭の萎縮・消失を確認した段階は、診断の終点ではなく、原因検索の出発点です。
「萎縮性舌炎があります」という表現だけでは、病態の外観を説明したにすぎません。そこから、なぜ糸状乳頭が失われたのかを調べる必要があります。
最初に確認するのは病名ではなく、形態と分布です
赤い舌を診たときは、まず糸状乳頭が本当に萎縮・消失しているかを確認します。
舌苔が薄いだけなのか、照明の反射で赤く見えるだけなのか、それとも乳頭構造そのものが失われているのかを区別します。
次に、病変が舌全体へ広がっているのか、一部だけなのかを見ます。数日から数週で位置や形が変わるのか、同じ場所に固定しているのかも重要です。
さらに、白色線条、白板、びらん、水疱、潰瘍を伴っていないか、触診で硬結、粘膜下腫瘤、易出血性、舌運動制限を認めないかを確認します。


びまん性の平滑舌なら、鉄、ビタミンB12、葉酸などの造血因子欠乏、Candida、乾燥、胃腸疾患・吸収障害を優先します。
一方、一か所に限局する赤色病変なら、地図状舌、正中菱形舌炎、口腔扁平苔癬、接触性病変、紅板症、口腔上皮性異形成、初期舌癌を考えます。
特に、片側性で同じ場所に固定し、粗造面、硬結、易出血性、潰瘍を伴う病変では、採血や抗真菌治療よりも生検を優先すべき場合があります。
診断で最も危険なのは、採血で鉄欠乏を見つけた、あるいは培養でCandidaが検出されたという理由で、固定性の局所病変をそれ以上調べなくなることです。
一人の患者さんに、鉄欠乏とCandidaと局所性腫瘍性病変が同時に存在する可能性があります。
鉄欠乏性萎縮性舌炎――「貧血の舌」と考えるだけでは不十分です
赤く、表面が滑らかになり、食事や歯ブラシの接触でヒリヒリする舌を診たとき、鉄欠乏は最初に考えるべき全身的原因の一つです。
ただし、鉄欠乏性舌炎は、単にヘモグロビンが低い患者さんに起こる舌炎ではありません。
鉄欠乏は、いきなり小球性低色素性貧血として始まるわけではありません。まず体内に蓄えられた貯蔵鉄が減少し、続いて血中を運搬される鉄や造血・組織で利用できる鉄が不足し、最後にヘモグロビン合成が障害されて貧血が明確になります。
したがって、ヘモグロビンが基準範囲内にあっても、貯蔵鉄の低下や組織鉄欠乏はすでに始まっていることがあります。
舌粘膜は代謝回転が速く、上皮細胞の増殖・修復や鉄依存性酵素系の機能低下による影響を受けやすい組織です。鉄不足が進むと、舌背の糸状乳頭が小さくなり、さらに消失して、表面が平滑で光沢を帯びた赤い舌になります。

ヘモグロビンが正常でも鉄欠乏を否定できません
鉄欠乏の評価で重要なのは、CBCだけを見て終わらないことです。
基本的には、ヘモグロビン、MCV、MCH、血清フェリチン、血清鉄、TIBCまたはトランスフェリン、トランスフェリン飽和度、CRPを組み合わせて評価します。
鉄欠乏が進行するにつれて、一般にはフェリチン低下、トランスフェリン飽和度低下、MCV・MCH低下、ヘモグロビン低下という形で異常が明確になります。
ただし、実際の変化には個人差があります。炎症、腎疾患、肝疾患、低栄養、B12・葉酸欠乏の併存によって、典型的な血液像にならないことがあります。
フェリチンは貯蔵鉄を反映するため、潜在性鉄欠乏を見つけるうえで重要です。しかし、フェリチンは炎症によって上昇する急性期蛋白でもあります。
慢性炎症性疾患、感染症、悪性腫瘍などがある患者さんでは、フェリチンが正常または高値でも、造血や組織で利用できる鉄が不足している可能性があります。
炎症性サイトカイン、とくにIL-6の刺激によって肝臓からヘプシジンが分泌されると、腸上皮細胞やマクロファージに存在する鉄排出蛋白フェロポーチンが抑制されます。その結果、体内に鉄が存在していても、腸管から吸収した鉄やマクロファージ内で再利用される鉄を、血液中へ十分に放出できなくなります。
これは、体内の鉄そのものが枯渇した絶対的鉄欠乏とは異なる、鉄利用制限の状態です。
したがって、「血清鉄が低いから鉄欠乏」「フェリチンが正常だから鉄欠乏ではない」という単純な二分法では判断できません。

鉄欠乏を見つけたら、原因検索が本体です
歯科で赤い舌をきっかけに鉄欠乏を疑い、採血で確認できたとしても、そこで診断を終えてはいけません。
鉄が不足していることは結果であり、その背景を探す必要があります。
閉経前女性では、月経量の増加や長期間の出血が重要です。患者さん自身が月経過多を「昔から普通」と考えていることもあるため、月経の有無だけでなく、短時間でナプキン交換が必要か、大きな血塊が出るか、月経が長く続くか、婦人科疾患を指摘されたことがあるかまで確認します。
成人男性や閉経後女性の鉄欠乏では、生理的な鉄喪失だけでは説明しにくいため、消化管出血や悪性腫瘍を含む病的原因を考えます。
胃・十二指腸潰瘍、大腸病変、NSAIDsの長期使用、慢性出血などを、「鉄剤を飲めばよい」と処理してはいけません。
また、出血だけでなく吸収障害も重要です。
萎縮性胃炎、自己免疫性胃炎、胃切除後、H. pylori関連胃炎、セリアック病などでは、鉄を摂取していても十分に吸収できない場合があります。
鉄剤への反応が悪い、いったん改善しても繰り返す、ほかの栄養素も同時に不足している場合には、消化器内科での評価が必要です。

氷食症は問診で拾える鉄欠乏の手掛かりです
鉄欠乏を疑う問診として、氷食症は非常に実用的です。
患者さんは氷を大量に食べることを異食とは考えていないことが多く、「異食がありますか」と聞いても拾えません。
「氷を一日に何個も噛みますか」「製氷機の氷がすぐなくなりますか」「飲み物がなくても氷だけを食べますか」と、具体的に聞く必要があります。
氷食症の有無や強さは、フェリチン値や貧血の重症度と単純には対応しません。一方、鉄補充後に氷食が消失する症例は多く、原因不明の舌炎、倦怠感、集中力低下を診るときの有用な手掛かりになります。
氷を食べる理由については、口腔内の熱感を和らげる説や、咀嚼刺激によって覚醒度を高める説などがありますが、完全には解明されていません。
少なくとも、「氷を食べているから鉄が補給される」という行動ではありません。
鉄を補えば舌は治るのか
原因が鉄欠乏であれば、鉄補充によって舌の痛みや糸状乳頭の萎縮が改善する可能性があります。
しかし、改善の速度には個人差があります。適切に補充しても赤みや痛みが残る場合には、B12や葉酸の併存欠乏、紅斑性カンジダ症、口腔乾燥、口腔扁平苔癬、接触性口内炎、BMS、腫瘍性病変を再評価します。
とくに鉄とB12が同時に不足している症例では、小球性変化と大球性変化が相殺され、MCVが見かけ上正常になることがあります。
小球性だから鉄、大球性だからB12、正球性ならどちらでもないという単純な分類では見逃します。
また、ヘモグロビンが正常化したからといって、貯蔵鉄が十分に回復したとは限りません。治療後も、原因疾患への対応と貯蔵鉄の回復を確認する必要があります。
Plummer–Vinson症候群――赤い舌と嚥下障害が同じ病態を示すとき
鉄欠乏性萎縮性舌炎を診る際、嚥下障害の問診は欠かせません。
赤く平滑な舌、口角炎、鉄欠乏に加えて、食物が喉元で引っかかるという訴えがあれば、Plummer–Vinson症候群を考えます。
Plummer–Vinson症候群は、一般に、
- 鉄欠乏性貧血
- 嚥下障害
- 輪状軟骨後部から上部食道に生じる食道ウェブ
の三徴で定義されます。
Paterson–Kelly症候群、sideropenic dysphagiaと呼ばれることもあります。
ただし、食道ウェブがあるだけではPlummer–Vinson症候群とは診断できません。
食道ウェブは無症候者にも認められ、鉄欠乏がない患者にも生じます。また、鉄欠乏性貧血の患者全員にウェブが形成されるわけでもありません。
診断には、食道ウェブ、鉄欠乏、嚥下障害を臨床的に統合する必要があります。

嚥下障害は具体的に聞きます
Plummer–Vinson症候群の嚥下障害は、一般に固形物から始まり、断続的または緩徐に進行します。
患者さんは、
- 肉やパンが喉の入り口で止まる
- よく噛まないと飲み込めない
- 水で流し込む必要がある
- 錠剤が引っかかる
- 食事に時間がかかる
- むせるというより、物理的に通りにくい
と表現します。
「飲み込みにくいですか」とだけ聞くと、長年の症状を患者さんが正常だと思い、否定することがあります。
固形物と液体の違い、引っかかる位置、症状の進行、体重減少、嚥下時痛、嗄声まで具体的に確認します。
液体も初期から飲みにくい、むせが強い、鼻腔へ逆流する、構音障害がある場合には、食道ウェブだけではなく、神経・筋疾患を含む口腔咽頭期嚥下障害を考えます。
舌炎や口角炎は三徴ではありませんが、重要な手掛かりです
Plummer–Vinson症候群の三徴に舌炎は含まれません。
しかし、同じ鉄欠乏を背景として、萎縮性舌炎、口角炎、口唇炎、匙状爪、易疲労感、顔色不良、動悸、息切れを伴うことがあります。
歯科で舌炎や口角炎を診たときに、「鉄不足かもしれない」と考えるだけでなく、「食べ物が引っかかることはないか」まで聞くことで、口腔所見を食道病変の発見につなげられます。
食道ウェブはどのように評価するのか
食道ウェブの評価には、バリウムによる嚥下造影、ビデオ透視、上部消化管内視鏡などが用いられます。
ウェブは薄い膜状構造であるため、検査方法や撮影方向によっては見逃されることがあります。
内視鏡は、診断と同時に拡張治療を行える可能性があり、食道や胃のほかの病変も確認できます。一方、薄いウェブは内視鏡挿入時に偶然破れることもあり、上部食道を注意深く観察する必要があります。
歯科側で検査方法を固定するのではなく、症状と紹介先の判断に応じ、耳鼻咽喉科・消化器内科で評価します。
鉄補充だけで嚥下障害は改善するのか
鉄欠乏の補正によって軽度の嚥下障害が改善する症例はあります。
しかし、構造的な狭窄が強い症例や、長期間持続した症例では、鉄補充だけでは不十分であり、内視鏡的拡張が必要になる場合があります。
治療によって食べられるようになったとしても、鉄欠乏の原因検索は必要です。
月経過多、消化管出血、悪性腫瘍、胃・十二指腸疾患、萎縮性胃炎、セリアック病、炎症性腸疾患、食事性不足、胃切除後、H. pylori関連胃炎などを検討します。
発癌リスクをどう説明するか
Plummer–Vinson症候群は、下咽頭、輪状軟骨後部、上部食道の扁平上皮癌との関連が古くから指摘されています。
背景には、長期間の鉄欠乏による粘膜萎縮、上皮修復障害、慢性刺激などが想定されてきました。
ただし、過去に報告された発癌率の多くは古い症例集積に基づく数字であり、栄養状態、診断法、治療介入が異なる現代の患者さんへそのまま適用することはできません。
統一された内視鏡監視間隔も確立していません。
したがって、古い数値を断定的に示すよりも、耳鼻咽喉科・消化器内科で初回所見と患者背景に応じてフォロー方針を決めるのが現実的です。
嚥下障害の再燃、嚥下時痛、嗄声、持続する咽頭痛、血痰、原因不明の体重減少、頸部リンパ節腫脹があれば、ウェブの再発だけと考えず、咽頭・食道腫瘍を含めて速やかに再評価します。
鉄欠乏性舌炎とPlummer–Vinson症候群で押さえるべき点
鉄欠乏による舌症状は、ヘモグロビンが明らかに低下する前から現れる可能性があります。
フェリチンは重要ですが、炎症下では正常値や高値でも鉄利用障害を否定できません。鉄欠乏を確認した場合は、月経過多、消化管出血、胃疾患、吸収障害など、鉄が不足した理由まで調べる必要があります。
赤い平滑舌と鉄欠乏に、固形物の嚥下障害が重なる場合は、Plummer–Vinson症候群を考えます。
鉄欠乏性舌炎とよく似た外観を作るもう一つの代表が、ビタミンB12欠乏によるHunter舌炎です。両者は視診だけでは区別できず、鉄とB12が併存すると、MCVさえ診断の助けにならないことがあります。
ビタミンB12欠乏とHunter舌炎――大球性貧血がなくても起こります
Hunter舌炎は、もともと悪性貧血に伴う舌炎として記載された病態ですが、現在はより広く、ビタミンB12欠乏によって生じる萎縮性舌炎を指して用いられます。
典型的には、
- 舌背の鮮紅色化
- 糸状乳頭の萎縮・消失
- 平滑で光沢を帯びた舌
- 灼熱感
- 接触痛
- 味覚低下
- 錯味・異味
- 舌のしびれ
などを呈します。
しかし、実際の臨床で最も重要なのは、Hunter舌炎が典型的な大球性貧血より先に現れることがある点です。
舌が赤い。味が変だ。熱い物や酸っぱい物がしみる。しかし、ヘモグロビンやMCVはほぼ正常である。
このような症例を「貧血がないからB12欠乏ではない」と除外すると、診断が長期間遅れることがあります。
舌粘膜は血液より先にB12欠乏を知らせることがあります
ビタミンB12はDNA合成に必要な補酵素です。
欠乏すると、骨髄の造血細胞や口腔粘膜のように代謝回転の速い組織ほど影響を受けやすくなります。
そのため、血液検査で重度の貧血が完成する前から、糸状乳頭萎縮、発赤、舌痛、味覚異常が現れる可能性があります。
MCVも必ず高くなるとは限りません。
早期で血液学的変化が軽い場合や、鉄欠乏を併存している場合には、見かけ上正球性になることがあります。
したがって、赤い平滑舌、味覚異常、舌のしびれ、食事時の接触痛がある場合には、CBCやMCVが正常でもB12値を確認する価値があります。
Hunter舌炎の痛みは単なる炎症痛ではありません
Hunter舌炎の患者さんは、
- ピリピリする
- 火傷したように熱い
- 舌の表面が薄くなった感じがする
- 塩味や酸味が痛い
- 味が薄い
- 何も食べていないのに変な味がする
- 舌がしびれる
と訴えます。
この痛みは、糸状乳頭萎縮と上皮菲薄化によって刺激を受けやすくなることだけでは説明しきれません。
B12欠乏では末梢神経障害も起こり得るため、粘膜の構造的障害、味蕾や味覚神経系の変化、小径感覚神経の機能異常、疼痛閾値の低下が重なっている可能性があります。
Hunter舌炎では、熱い物、香辛料、酸味、塩味、硬い食物、歯磨剤との接触で痛みが悪化しやすくなります。
一方、明らかな粘膜所見がない一次性BMSでは、食事中に痛みが軽くなる患者さんがいます。
「食べている間は楽ですか。それとも、食べ物が触れると痛いですか」と聞くことは、診断の手掛かりになります。
ただし、食事による変化だけで診断を確定できるわけではありません。
ビタミンB12は複雑な経路で吸収されます
食物中のB12は、蛋白質と結合した状態で摂取されます。
胃酸とペプシンによって食品蛋白から遊離したB12は、まずハプトコリンと結合します。十二指腸では膵酵素によってハプトコリンが分解され、B12は胃壁細胞から分泌された内因子と結合します。
B12―内因子複合体は回腸末端で取り込まれ、その後トランスコバラミンと結合して、肝臓、骨髄、神経組織などへ運ばれます。
つまり、B12を十分に摂取していても、
- 胃酸が十分に分泌されない
- 胃壁細胞が減少している
- 内因子が不足している
- 膵酵素が不足している
- 回腸末端が障害されている
- 胃や回腸が切除されている
場合には、吸収できない可能性があります。

B12は肝臓を中心に数年分が貯蔵されているため、原因となる病態が始まってから症状が出るまでに長い時間がかかります。
胃全摘後にすぐHunter舌炎になるわけではなく、数年後に舌痛や味覚障害を訴えることがあります。
「胃の手術は何年も前だから関係ない」とは言えません。
Hunter舌炎を見たら原因を探します
B12低値を確認した時点で、診断の半分は終わります。
しかし、なぜB12が低下したのかを探さなければ、治療中断後に再発し、胃疾患や神経障害を見逃す可能性があります。
確認するのは、
- 胃全摘・胃切除
- 自己免疫性胃炎
- 悪性貧血
- PPIやH2受容体拮抗薬
- メトホルミン
- 食事性不足
- Crohn病
- セリアック病
- 回腸切除
などです。

自己免疫性胃炎と悪性貧血
自己免疫性胃炎では、胃体部・胃底部の壁細胞が自己免疫反応によって減少し、胃酸と内因子の分泌が低下します。
その結果、B12吸収障害が生じ、巨赤芽球性貧血、神経障害、Hunter舌炎が起こります。
抗胃壁細胞抗体は感度が比較的高い一方、特異性は十分ではありません。抗内因子抗体は感度が高くありませんが、陽性なら悪性貧血を強く支持します。
いずれも単独で診断・除外する検査ではなく、内視鏡所見、胃粘膜生検、ガストリン、ペプシノゲンなどを医科で統合して判断します。
自己免疫性胃炎は、橋本病、Basedow病、1型糖尿病、Addison病、白斑など、ほかの自己免疫疾患と併存することがあります。
B12低値に自己免疫疾患の既往が重なる場合には、食事性不足だけで説明しないことが重要です。
神経症状は貧血より深刻になることがあります
B12欠乏では、手足のしびれ、知覚鈍麻に加え、進行すると振動覚低下、位置覚低下、歩行障害、ふらつき、筋力低下などが起こることがあります。
重要なのは、神経障害が貧血の程度と平行しないことです。
ヘモグロビン低下が軽くても、神経障害が進行している可能性があります。
Hunter舌炎を疑う患者さんには、
- 手足のしびれ
- 足裏の感覚低下
- 暗い場所で歩きにくい
- ボタン掛けが難しい
- 物を落としやすい
- ふらつく
- 歩幅が変わった
といった症状を確認します。

神経症状がある場合には、舌炎の局所治療よりも速やかな医科評価が優先されます。
B12値だけで診断できるのか
血清B12は重要な検査ですが、万能ではありません。
明らかな低値で臨床像が一致すれば診断を支持しますが、境界域では評価が難しくなります。測定法、結合蛋白、肝疾患、腎機能、炎症、サプリメント摂取などの影響を受けることがあります。
臨床的にB12欠乏が疑わしい場合には、必要に応じて、
- メチルマロン酸
- ホモシステイン
- 葉酸
- 網赤血球
- LDH
- 間接ビリルビン
- 鉄・フェリチン
- 抗内因子抗体
- 抗胃壁細胞抗体
などを組み合わせます。
メチルマロン酸は腎機能の影響を受け、ホモシステインは葉酸欠乏、B6欠乏、腎機能などでも上昇します。
一つの数値だけでなく、臨床背景とほかの検査を統合して判断します。
葉酸だけを先に補充しない
B12欠乏と葉酸欠乏は、どちらも巨赤芽球性変化や舌炎を起こし得ます。
葉酸を補充すると、B12欠乏が残っていても血液学的異常だけが改善する場合があります。
その一方で、B12欠乏に伴う神経障害は改善せず、進行する可能性があります。
したがって、大球性変化や萎縮性舌炎を認めた場合には、葉酸だけでなくB12を同時に評価する必要があります。
「とりあえずビタミンB群を飲めばよい」という対応は、背景疾患を覆い隠し、診断を遅らせる可能性があります。
B12を補充すれば舌はどの程度で改善するのか
原因がB12欠乏であれば、舌症状は比較的早く改善することがあります。
自覚症状が数日で軽減する症例がある一方、糸状乳頭の再生には数週間かかることがあります。
ただし、B12補充後も赤みや痛みが残る場合には、Candida、口腔乾燥、鉄欠乏、葉酸欠乏、口腔扁平苔癬、接触性口内炎、BMS、神経障害、腫瘍性病変の併存を再評価します。
また、B12補充によって造血が再開すると、急速に鉄が利用され、それまで隠れていた鉄不足が前面化することがあります。
B12が正常化したのに貧血が十分に改善しない場合、治療失敗と決める前に鉄欠乏の併存を考えます。
症状が改善しても補充を中断できるとは限りません
胃全摘後、回腸切除後、自己免疫性胃炎、悪性貧血など、原因が不可逆的な場合には、長期あるいは生涯にわたる補充が必要になることがあります。
舌が治ったことは、B12補充が効いたことを示します。しかし、吸収障害そのものが治ったことを意味しません。
また、自己免疫性胃炎では、B12欠乏だけでなく、胃腺癌、1型胃神経内分泌腫瘍、鉄欠乏の評価も必要になります。
歯科側で内視鏡間隔を一律に決めるのではなく、消化器内科で初回評価と長期フォロー方針を決めてもらう必要があります。
Hunter舌炎で押さえるべき点
Hunter舌炎は、明らかな大球性貧血がなくても発症します。
MCVが正常でも、鉄欠乏の併存によって見かけ上正球性となる可能性があります。
B12欠乏を確認した後は、自己免疫性胃炎、胃切除、薬剤、回腸疾患、食事性不足などの原因検索が必要です。
舌症状が改善しても、不可逆的な吸収障害が残っていれば、長期補充と医科での経過観察が必要になります。
鉄とビタミンB12だけではない――葉酸・亜鉛・その他の栄養欠乏
赤く、平滑で、痛む舌を見たとき、鉄欠乏とビタミンB12欠乏は優先して調べるべき原因です。
しかし、この二つが正常だからといって、栄養性の舌炎をすべて除外できるわけではありません。
葉酸、亜鉛、ビタミンB2、B6、ナイアシンなどの不足でも、舌の発赤、糸状乳頭の萎縮、口角炎、味覚異常、口腔粘膜の灼熱感が報告されています。
ただし、これらを鉄欠乏やHunter舌炎と同じ強さの根拠で扱うべきではありません。
鉄欠乏とB12欠乏には、比較的明確な病態、検査異常、治療反応があります。一方、その他の栄養素では、単独欠乏による舌所見なのか、複数の栄養素が不足した全身的低栄養の一部なのかを分けにくいことがあります。
「赤い舌だから何らかのビタミン不足」と一括りにせず、患者背景と検査結果から優先順位をつけて考えます。
葉酸欠乏――B12欠乏と似ていても同じではありません
葉酸はDNA合成と細胞分裂に必要であり、骨髄や口腔粘膜のように代謝回転の速い組織は、欠乏の影響を受けやすくなります。
葉酸が不足すると、B12欠乏と同様に巨赤芽球性変化を起こし、舌の発赤、糸状乳頭の萎縮・消失、平滑舌、舌の灼熱感、口角炎、口内炎が現れることがあります。
原因としては、食事摂取不足、アルコール多飲、高齢者の低栄養、妊娠などによる需要増加、小腸吸収障害、メトトレキサート、トリメトプリム、スルファサラジン、一部の抗てんかん薬などを考えます。
葉酸欠乏を疑ったときに最も重要なのは、B12を確認せず葉酸だけを補充しないことです。
葉酸補充によって血液学的異常だけが改善しても、B12欠乏に伴う神経障害は残り、進行する可能性があります。赤い平滑舌や大球性変化を認めた場合には、葉酸とB12を同時に評価します。
亜鉛欠乏――赤みだけでなく味覚と背景を見ます
亜鉛は、上皮の維持、蛋白合成、免疫、創傷治癒、味覚機能に関与します。
亜鉛不足では、
- 味覚低下
- 自発性異常味覚
- 食欲低下
- 舌痛
- 口角炎
- 口内炎
- 創傷治癒遅延
- 皮膚炎
- 脱毛
などがみられることがあります。
しかし、舌の発赤や糸状乳頭の萎縮から亜鉛欠乏を特異的に診断することはできません。
血清亜鉛値は、採血時刻、食事、炎症、アルブミン、肝機能、腎機能などの影響を受けます。単回の低値だけで舌痛の原因が確定するわけではなく、味覚障害、低栄養、皮膚症状、消化管疾患、薬剤歴を合わせて判断します。
亜鉛欠乏を考慮する背景としては、高齢者の摂取量低下、慢性下痢、炎症性腸疾患、セリアック病、胃切除後、肝疾患、腎疾患、アルコール多飲、長期経管栄養などがあります。
一方、高用量の亜鉛を長期間摂取すると、腸管での銅吸収を妨げ、銅欠乏性貧血、好中球減少、神経症状を起こす可能性があります。
味覚障害や舌痛だけを理由に、亜鉛サプリメントを漫然と継続させるべきではありません。
ビタミンB2・B6・ナイアシン
ビタミンB2欠乏では、口角炎、口唇炎、舌炎、咽頭痛などが知られています。舌が赤色または赤紫色を呈し、乳頭が萎縮することがありますが、B2だけが単独で不足しているというより、他のB群、鉄、蛋白質不足を伴う低栄養状態の一部として現れることが少なくありません。
ビタミンB6欠乏でも、舌炎、口角炎、皮膚炎、貧血、神経症状が起こり得ます。ただし、B6欠乏を赤い平滑舌の単独原因として示した臨床研究は、鉄やB12ほど強くありません。アルコール依存、高度低栄養、慢性腎疾患、吸収障害、イソニアジドなどの背景がある場合に検討します。
ナイアシン欠乏によるペラグラでは、鮮紅色で腫脹した痛い舌、口内炎、口角炎が現れることがあります。ただし、舌所見だけで診断する疾患ではありません。皮膚炎、下痢、認知・精神神経症状を含む全身像を評価します。
銅欠乏
銅欠乏は、赤い舌の代表的原因ではありません。
しかし、原因不明の貧血、好中球減少、感覚障害、歩行障害を伴い、B12補充へ反応しない症例では考慮する必要があります。
胃切除、肥満外科手術後、慢性吸収障害、長期経管栄養、過剰な亜鉛摂取が背景になります。
普段行う診断体系では、銅は赤い舌の基本検査ではなく、貧血、神経症状、患者背景から選択する追加検査として位置づけるといいでしょう。
採血はすべての栄養素を無差別に測るものではありません
びまん性萎縮性舌炎の基本評価は、
- CBC
- MCV・MCH
- フェリチン
- 血清鉄
- TIBCまたはトランスフェリン
- TSAT
- CRP
- ビタミンB12
- 葉酸
です。
味覚障害、低栄養、吸収障害、神経症状などの背景に応じて、亜鉛、銅、アルブミン、総蛋白、メチルマロン酸、ホモシステインなどを追加します。
検査は、不足している栄養素を片端から探すものではありません。問診と舌所見から立てた仮説を検証するために選択します。
栄養補充へ反応しない場合
検査値の異常が見つかると、その異常だけですべての症状を説明したくなります。
しかし、鉄や亜鉛が低い患者さんに、Candida、OLP、BMS、上皮性異形成、癌が併存することがあります。
栄養補充後に舌全体の発赤は改善しても、一か所だけ赤色病変が残る場合には、その局所病変を改めて評価します。
固定性、片側性、硬結性の病変を、「栄養不足があるから」という理由で経過観察してはいけません。
その他の栄養欠乏で押さえるべき点
鉄とB12以外の栄養欠乏も赤い舌の鑑別には入りますが、すべてを同じエビデンスの強さで扱うべきではありません。
葉酸はB12と同時に評価し、味覚障害や低栄養背景があれば亜鉛を考慮します。B2、B6、ナイアシン、銅は、複合低栄養、吸収障害、薬剤、全身症状を伴う症例で選択的に評価します。
栄養補充へ反応しない病変、または一部だけ固定して残る病変では、局所疾患を再評価します。
鉄やB12を含む栄養欠乏は、食事摂取不足だけで起こるとは限りません。反復する欠乏や複数栄養素の低下がある場合には、胃や小腸に原因が隠れている可能性があります。
胃腸疾患・吸収障害――舌炎の原因が口腔外にあるとき
鉄、ビタミンB12、葉酸などの不足が確認されたとき、「食事内容が悪かった」と結論づける前に、胃や小腸で正しく吸収できているかを考える必要があります。
赤く平滑な舌は、栄養素の摂取量だけでなく、
- 胃酸分泌
- 内因子
- 胃粘膜萎縮
- 小腸絨毛
- 回腸末端
- 膵機能
- 消化管手術歴
などの異常を反映している場合があります。
特に、鉄剤やB12補充への反応が悪い、治療中止後にすぐ再発する、鉄・B12・葉酸など複数の栄養素が同時に低下している症例では、吸収障害を疑います。
胃切除後
胃切除後には、胃酸分泌低下による鉄吸収障害と、内因子減少によるB12吸収障害が問題になります。
胃全摘では内因子を介したB12吸収が失われますが、体内には数年分のB12が貯蔵されているため、手術直後ではなく数年後にHunter舌炎や神経症状が現れることがあります。
患者さん自身が「胃の手術は昔だから関係ない」と考えている場合があります。手術の有無だけでなく、術式、手術時期、現在の補充状況を確認します。
自己免疫性胃炎
自己免疫性胃炎では、胃体部・胃底部の壁細胞が障害され、胃酸と内因子が低下します。
病初期には胃酸低下による鉄吸収障害が前面に現れ、病態が進むと内因子不足によるB12欠乏が明確になることがあります。
そのため、一人の患者さんが時間の経過とともに、
鉄欠乏性舌炎
↓
ビタミンB12欠乏・Hunter舌炎
という異なる表現型を示す可能性があります。
抗胃壁細胞抗体や抗内因子抗体は参考になりますが、抗体だけで診断・除外はできません。消化器内科で、内視鏡、胃粘膜生検、ガストリン、ペプシノゲンなどを統合して評価します。
H. pyloriは赤い舌を直接作るのか
H. pyloriは慢性胃炎や胃粘膜萎縮の重要な原因であり、鉄欠乏やB12欠乏を介して萎縮性舌炎の背景になる可能性があります。
一方、H. pyloriが舌粘膜へ直接作用し、赤い舌や糸状乳頭の萎縮を起こすという証拠は確立していません。
H. pyloriのDNAや抗原は、唾液、歯垢、舌苔などから検出されることがあります。しかし、口腔内の検出率は、採取部位、検出方法、対象集団、口腔衛生状態によって大きく異なります。
PCRは生菌だけでなく死菌由来DNAを検出する可能性もあります。
したがって、口腔内からH. pyloriが検出されたことと、口腔内で生存・定着し、舌病変を起こしていることは同義ではありません。
現時点では、H. pyloriを赤い舌の直接原因として扱うよりも、胃炎、胃粘膜萎縮、鉄・B12吸収障害を介する背景因子として評価する方が妥当です。
また、舌の色や舌苔の状態から胃のH. pylori感染を診断することもできません。
赤い舌の診断目的で、口腔内H. pylori検査を基本検査として行う根拠もありません。
セリアック病
セリアック病は、遺伝的素因を持つ患者さんでグルテンに対する免疫反応が起こり、小腸粘膜の炎症と絨毛萎縮を生じる疾患です。
小腸絨毛が障害されると、鉄、葉酸、B12、カルシウム、ビタミンDなどの吸収障害が生じます。
その結果、口腔では、
- 萎縮性舌炎
- 地図状舌
- 舌痛
- 口腔乾燥
- 口角炎
- 再発性アフタ
- エナメル質形成異常
などが現れる可能性があります。
ただし、萎縮性舌炎や地図状舌はセリアック病に特異的な所見ではありません。
研究によって有病率や関連の強さにばらつきがあり、萎縮性舌炎と地図状舌を一括して集計している報告もあります。
したがって、
「萎縮性舌炎ならセリアック病である」
「地図状舌があれば全例検査する」
という結論にはなりません。
セリアック病を疑う条件
次の所見が重なる場合に、セリアック病を考慮します。
- 原因不明の鉄欠乏が反復する
- 鉄剤へ十分に反応しない
- 鉄・葉酸・B12など複数の栄養素が低下する
- 慢性下痢
- 腹満
- 体重減少
- 低アルブミン血症
- 骨量低下
- 再発性アフタ
- 左右対称性のエナメル質形成異常
- 自己免疫疾患の併存
- セリアック病の家族歴
スクリーニングでは一般に、抗tTG-IgAと総IgAを組み合わせます。IgA欠損があるとIgA抗体検査が偽陰性となるため、総IgAの確認が必要です。
ただし、検査の実施と診断は消化器内科と連携し、患者さん自身の判断でグルテン除去食を始める前に評価する必要があります。
先にグルテンを除去すると、血清学的検査や小腸生検が診断しにくくなる可能性があります。
複数栄養素欠乏は原因検索のサインです
鉄だけが低い場合でも原因検索は必要ですが、鉄、B12、葉酸、アルブミンなど複数項目が低下している場合には、単なる偏食だけでは説明できない可能性が高くなります。
胃切除後、自己免疫性胃炎、セリアック病、炎症性腸疾患、慢性膵疾患、高度低栄養などを考えます。
歯科で赤い舌を診る意味は、不足した栄養素を補うことだけではありません。
なぜ不足したのか。
消化管から吸収できているのか。
胃や小腸に未診断の疾患がないか。
そこまで診断をつなげることにあります。
胃腸疾患・吸収障害で押さえるべき点
胃腸疾患は、舌炎を直接起こすというより、鉄、B12、葉酸などの吸収障害を介して赤い平滑舌を作ることがあります。
H. pyloriは口腔内から検出され得ますが、赤い舌との直接関連は確立していません。胃炎や胃粘膜萎縮を介する背景因子として位置づけます。
セリアック病では口腔症状が報告されていますが、萎縮性舌炎の全例を検査する根拠はありません。
反復性・治療抵抗性の鉄欠乏、複数栄養素欠乏、消化器症状、自己免疫疾患が重なる患者さんで考慮します。
栄養欠乏や吸収障害がなくても、赤く平滑で痛い舌は生じます。その代表が、白苔をほとんど作らない紅斑性カンジダ症です。
紅斑性カンジダ症――白い苔がなくてもCandidaは舌を赤くします
口腔カンジダ症と聞くと、ガーゼで拭うと除去できる白苔を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、赤く、平滑で、ピリピリする舌の診断で問題になるのは、むしろ白苔をほとんど作らない紅斑性カンジダ症です。
紅斑性カンジダ症は、従来、萎縮性カンジダ症とも呼ばれてきました。
舌背では糸状乳頭が萎縮・消失し、粘膜が赤く平滑に見えます。患者さんは、
- 舌がヒリヒリする
- 食べ物が触れると痛い
- 熱い物、辛い物、酸っぱい物がしみる
- 舌の表面が薄くなった感じがする
- 苦い味や渋い味が続く
- 味が分かりにくい
と訴えます。
鉄欠乏性舌炎やHunter舌炎と臨床像が似るため、視診だけで原因を決めることはできません。
口腔カンジダ症は白い病変だけではありません
口腔カンジダ症には、偽膜性、紅斑性、肥厚性などの病型があります。
さらに、Candidaが関与する病変として、義歯性口内炎、口角炎、正中菱形舌炎、既存の口腔扁平苔癬や潰瘍への二次感染があります。
白苔がないからカンジダ症ではないという判断は危険です。
一方、紅斑性病変を見て何でもカンジダ症とするのも誤りです。
鉄欠乏、B12欠乏、地図状舌、正中菱形舌炎、萎縮型口腔扁平苔癬、接触性口内炎、紅板症、上皮性異形成、初期舌癌も赤い病変を作ります。
紅斑性カンジダ症は、見逃されやすい一方で、過剰診断もされやすい病態です。
Candidaは常在菌です
Candidaは、健康な人の口腔からも検出される常在真菌です。
したがって、培養検査でCandidaが生えたことと、Candidaが病変を形成していることは同じではありません。
診断では、発赤や糸状乳頭の萎縮・消失などの臨床像、舌痛、接触痛、刺激痛、味覚異常、口腔乾燥・義歯・糖尿病・ステロイドなどの背景、塗抹鏡検での酵母・菌糸・仮性菌糸、培養所見、抗真菌治療後の変化を統合します。

病原性を考えるうえで重要なのが、菌糸または仮性菌糸の確認です。
ただし、菌糸を形成しにくいCandida菌種もあるため、菌糸が見えないだけで感染を完全に否定することはできません。
培養検査にも限界があります。
Candidaの存在、菌量、主要菌種を評価できる一方で、常在菌も陽性になり、採取量や採取部位によって結果が変わります。
検査が陰性だった場合も、本当に病変部から採取したか、十分に擦過できたか、抗真菌薬や洗口剤使用後ではないかを見直します。
舌痛症との鑑別――食事中に軽くなるか、悪化するか
紅斑性カンジダ症と一次性BMSは、どちらも「ピリピリする」「焼けるように痛い」という訴えを作ります。
紅斑性カンジダ症では粘膜に器質的炎症があるため、熱い物、辛い物、酸っぱい物、塩味の強い物、硬い物、アルコール、刺激性歯磨剤で悪化しやすくなります。
触診やミラーの接触でも痛みが再現されることがあります。
一方、一次性BMSでは、食事中や会話中に痛みが軽くなる患者さんがいます。
ただし、「食事で悪化するからCandida」「食事で軽くなるからBMS」と機械的に診断できるわけではありません。
CandidaとBMSは併存します。問診は診断を確定するものではなく、検査の優先順位を決めるために使います。
Candidaが消えても痛みが消えないことがあります
Candidaが検出された患者さんに抗真菌薬を投与し、培養が陰性化しても、痛みが残ることがあります。
一人の患者さんの中に、Candidaによる粘膜炎症、乾燥による摩擦痛、栄養欠乏、口腔扁平苔癬、神経障害性疼痛、一次性BMSが重なっていることがあるからです。
治療後は、菌が減ったかだけでなく、発赤、糸状乳頭、接触痛、食事時痛、味覚異常、乾燥がそれぞれどう変化したかを分けて評価します。
他覚所見は改善したのに痛みだけが残る場合、同じ抗真菌薬を漫然と繰り返すのではなく、BMSや神経障害性疼痛を再評価する必要があります。
口腔乾燥は紅斑性カンジダ症の中心的な背景です
Candidaが存在するだけでは病変にならず、宿主側の防御機構が低下したときに感染が成立しやすくなります。
とくに紅斑性カンジダ症と深く関係するのが、唾液分泌低下です。
唾液には、微生物を洗い流す作用、粘膜を覆う潤滑作用、抗菌・抗真菌作用、緩衝作用、粘膜修復を助ける作用があります。
唾液量が低下するとCandidaが粘膜へ付着しやすくなり、食事中の機械的・化学的刺激から粘膜を守れなくなります。

乾燥患者の赤い舌を見たときは、乾燥だけなのか、Candidaが重なっているのかを分けて評価します。
抗真菌薬だけを投与しても乾燥が残れば再発します。反対に、保湿だけを行っても感染が成立していれば十分に改善しません。
Candidaを疑う背景
口腔カンジダ症を疑う際には、口腔内だけでなく、口腔乾燥、義歯、糖尿病、吸入ステロイド、全身ステロイド、抗菌薬、免疫抑制薬、がん薬物療法、頭頸部放射線治療、高度低栄養などを確認します。

吸入ステロイドでは、吸入後にうがいをしているか、吸入補助具を使用しているか、舌背や口蓋に薬剤が残留していないかを確認します。
義歯患者では、義歯基底面の清掃、夜間装着、表面の粗造性、適合を確認します。
義歯が感染源になっている場合、口腔粘膜だけを治療して義歯側を管理しなければ、再発を繰り返します。
糖尿病患者では、口腔乾燥、唾液中糖濃度、免疫機能、義歯、清掃状態など複数の因子がCandida感染へ関係します。
糖尿病と歯周病の相互関係や、口腔内の炎症を診る際の全身評価については、次のコラムでも詳しく解説しています。
Candidaと栄養欠乏は併存します
紅斑性カンジダ症と鉄・B12欠乏は、排他的な診断ではありません。
栄養欠乏によって上皮の再生能力や免疫機能が低下すると、Candida感染が成立しやすくなる可能性があります。
反対に、Candidaによる慢性炎症が糸状乳頭の萎縮を進め、鉄欠乏性舌炎やHunter舌炎に似た外観を作ることがあります。
したがって、平滑で赤い舌を見たときは、血液評価と真菌評価を並行して考えます。
「鉄が低かったからCandidaは関係ない」「Candidaが生えたからB12は調べない」という二者択一は避けるべきです。
OLPや潰瘍性病変への二次感染
Candidaは、すでに障害された粘膜へ二次感染することがあります。
びらん型口腔扁平苔癬、苔癬様病変、慢性潰瘍、ステロイド外用中の粘膜、自己免疫性水疱症などです。
この場合、病変の本体はOLPや自己免疫疾患であり、Candidaは症状を増悪させる修飾因子です。
抗真菌治療によって痛みや発赤が一部改善しても、白色線条、びらん、潰瘍などの基礎病変は残ります。
抗真菌治療後も固定性の赤色病変、白色線条、びらん、潰瘍が残る場合には、OLP、上皮性異形成、癌を再評価し、必要に応じて生検を行います。
治療抵抗性は診断を見直すサインです
抗真菌薬が効かない場合、Candidaの問題が強いとは限りません。
診断自体が違う、Candidaは存在するが症状の主因ではない、乾燥や糖尿病が残っている、義歯が感染源になっている、口腔扁平苔癬やBMSが併存している、薬剤の使用方法が不十分、菌種や薬剤感受性に問題があるなど、複数の可能性があります。
治療が効かないから同じ抗真菌薬を繰り返すのではなく、病変本体を再評価します。
固定性、片側性、不整境界、顆粒状、硬結、易出血性、潰瘍、舌運動制限がある場合には、真菌検査より生検を優先する状況があります。
紅斑性カンジダ症で押さえるべき点
白苔がなくても口腔カンジダ症はあります。
培養陽性だけでは感染成立を証明できません。臨床像、菌糸・仮性菌糸、宿主背景、治療反応を統合します。
乾燥や義歯などの背景を治さなければ再発します。Candidaが消えても痛みが残るなら、BMSなどを再評価します。
紅斑性カンジダ症を繰り返す患者では、感染だけを治療しても再発します。次に評価すべきなのは、Candida増殖の土台となる口腔乾燥と、その背後にあるシェーグレン病です。
口腔乾燥とシェーグレン病――乾いているから痛いのか、乾燥の背後に病気があるのか
赤く、平滑で、ピリピリする舌を診るとき、口腔乾燥は単なる付随症状ではありません。
唾液が減少すると、舌粘膜は潤滑を失い、食物、歯、補綴物、歯ブラシ、歯磨剤などの刺激を直接受けやすくなります。
さらに、口腔内の自浄作用と抗菌・抗真菌作用が低下し、Candidaが増殖しやすくなります。
その結果、舌の発赤、糸状乳頭の萎縮、平滑舌、灼熱感、接触痛、味覚異常、口角炎、紅斑性カンジダ症が重なって現れます。
しかし、診断上は、唾液分泌低下そのものが舌を傷つけている場合と、シェーグレン病、薬剤、糖尿病、脱水、放射線治療など、唾液が減った原因が背後にある場合を分けなければなりません。
口腔乾燥とシェーグレン病の免疫学的背景については、過去の院長コラムでもRo60特異的T–B細胞ループを含めて詳しく解説しています。
【唾液腺は自己免疫の現場です|Ro60特異的T-B細胞ループから読み直す口腔乾燥症と歯科臨床】
唾液は単に口を濡らす液体ではありません
唾液は、粘膜と歯を潤滑し、食塊形成を助け、嚥下と会話を補助し、酸を中和し、歯の再石灰化を助け、微生物や食物残渣を洗い流し、抗菌・抗真菌作用を担い、味物質を味蕾へ運び、粘膜修復を助けます。
したがって、唾液量や性状が変化すると、患者さんは「口が乾く」という一言だけでは表現できない多様な症状を訴えます。
パンやクラッカーを水なしで食べられない。食事中に何度も水を飲む。夜中に口が乾いて目が覚める。長く話すと舌が口蓋へ張りつく。錠剤が飲み込みにくい。味が薄い。何も食べていないのに苦い。舌が歯へこすれて痛い。義歯が粘膜へ張りつく。口角が切れる。
これらはすべて、口腔乾燥を疑う問診になります。
起床時の口腔内の粘つきについては、プラーク、唾液、口呼吸との関係を次のコラムで患者さん向けに解説しています。
【朝、口の中がネバネバするのはなぜ?プラークと唾液から考える】
口腔乾燥感と唾液分泌低下は同じではありません
患者さんが口が乾くと感じる状態を口腔乾燥感、xerostomiaと呼びます。
客観的に唾液分泌量が低下している状態は、唾液分泌低下、hyposalivationです。
両者は一致することもありますが、必ずしも同じではありません。
唾液量が少なくても乾燥を自覚していない場合があります。反対に、測定上の唾液量が大きく低下していなくても、強い乾燥感を訴える場合があります。
この乖離には、唾液の粘度、部位ごとの唾液分布、口呼吸、鼻閉、水分摂取、不安、粘膜感覚異常、BMS、薬剤、義歯などが関係します。

したがって、乾燥感がないから唾液は正常、唾液量が正常だから乾燥症ではないとは言えません。
問診と口腔内所見に加え、必要に応じて安静時・刺激時唾液分泌量、口腔粘膜湿潤度などを測定します。
安静時唾液と刺激時唾液は意味が違います
安静時唾液は、食事や咀嚼をしていない状態で口腔粘膜を持続的に潤す唾液です。
刺激時唾液は、咀嚼や味覚刺激に反応して分泌され、食塊形成、嚥下、味覚、食事中の粘膜保護に重要です。
赤い舌や摂食時痛を考えるうえでは、刺激時唾液が特に重要です。
食事中に十分な唾液が出なければ、食品が舌表面へ張りつき、硬い食物が直接こすれ、酸味や香辛料が希釈されず、味物質が局所に長く残ります。
患者さんは、「食べ物が舌へ刺さる」「食べると焼ける」と感じます。
ただし、唾液分泌には日内変動があり、測定時刻、食事、喫煙、水分摂取、薬剤、緊張などによって変動します。経時比較では条件をそろえる必要があります。
口腔内で見るべき乾燥の徴候
診察では、口腔粘膜の光沢低下、ミラーが頬粘膜へ張りつく所見、舌表面の乾燥・亀裂、泡沫状・粘稠な唾液、口底部の唾液貯留、唾液腺開口部からの分泌、糸状乳頭の萎縮、口角炎、口唇の乾燥・落屑、紅斑性カンジダ症、義歯性口内炎、歯頸部・根面の多発う蝕を確認します。
以前はう蝕が少なかった成人に、短期間で歯頸部・根面う蝕が多発した場合には、唾液環境の変化を考えます。
口を潤すために、のど飴、キャンディー、甘味飲料を頻回に使用していると、う蝕リスクがさらに高まります。
「口を潤すために何を口へ入れているか」まで確認する必要があります。
乾燥はどのように赤い平滑舌を作るのか
唾液膜が薄くなると、舌は歯、口蓋、義歯、食物と直接こすれやすくなります。
慢性的な摩擦は、舌上皮の微小損傷、炎症、疼痛を引き起こします。上皮が薄くなれば、粘膜固有層の血管が透け、舌は赤く見えます。
さらに、舌背の乳頭構造は唾液を舌表面に保持する役割も担っています。
乾燥によって糸状乳頭が萎縮すると、舌表面で唾液を保持しにくくなります。するとさらに乾燥が強まり、摩擦と刺激が増えます。
唾液低下から乳頭萎縮が起こり、乳頭萎縮によってさらに唾液保持が難しくなる悪循環です。
また、唾液による機械的洗浄と抗真菌作用が弱くなると、Candidaが粘膜へ付着・増殖しやすくなります。
乾燥そのものによる舌痛に紅斑性カンジダ症が重なれば、発赤、糸状乳頭の萎縮、灼熱感、味覚異常、口角炎が強くなります。
口腔乾燥の原因はシェーグレン病だけではありません
日常臨床で多い原因の一つは薬剤です。
抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬、抗精神病薬、抗ヒスタミン薬、抗コリン薬、降圧薬、利尿薬、抗パーキンソン薬、頻尿治療薬などは、唾液分泌へ影響する可能性があります。
一剤だけでは強い乾燥を起こさなくても、複数薬剤が重なると症状が明確になります。
問診では薬剤名だけでなく、いつ開始したか、増量後に乾燥が悪化したか、服薬数が増えていないか、市販薬を使っていないかを確認します。
脱水、発熱、下痢、嘔吐、多量発汗、水分摂取不足、アルコール多飲でも一時的に唾液が減ります。
鼻閉、睡眠時無呼吸、いびき、口唇閉鎖不全があると、唾液腺機能が保たれていても口腔粘膜は乾燥します。起床時だけ強く乾く場合には、鼻閉、就寝時の開口、CPAP、室内湿度も確認します。
糖尿病では、高血糖、浸透圧利尿、脱水、薬剤、神経障害などを介し、乾燥感が生じます。また、糖尿病はCandida感染の背景因子でもあります。
頭頸部放射線治療では、照射範囲・線量に応じて唾液腺が障害されます。治療から長期間経過していても、唾液腺障害は残ることがあります。
加齢だけで著しい唾液分泌低下が必ず起こるわけではありません。高齢者では、多疾患、多剤服用、摂食量低下、脱水、口腔機能低下などが重なっています。
「年齢のせい」と説明する前に、服薬と全身状態を見直す必要があります。
シェーグレン病は単なるドライマウスの病名ではありません
シェーグレン病は、涙腺と唾液腺を中心とする外分泌腺へリンパ球が浸潤し、腺機能障害を引き起こす全身性自己免疫疾患です。
主な症状は口腔乾燥、眼乾燥、唾液腺腫脹、疲労、関節痛ですが、肺、腎臓、末梢神経、中枢神経、血管、皮膚、血液・リンパ系にも病変が及ぶことがあります。
したがって、赤い舌からシェーグレン病を疑う場合も、「唾液を増やせばよい」という局所問題として終えるべきではありません。
どのような患者でシェーグレン病を疑うか
口腔乾燥患者すべてに自己抗体検査や口唇腺生検を行う必要はありません。
しかし、3か月以上持続する口腔乾燥、乾いた食品を水なしで飲み込めない、夜間に何度も水を飲む、反復する耳下腺・顎下腺腫脹、眼の異物感、人工涙液の頻回使用、原因不明の多発う蝕、反復性Candida、萎縮性舌炎、舌痛、疲労、関節痛、Raynaud現象、皮疹、手足のしびれ、他の自己免疫疾患が重なる場合には、シェーグレン病を考えます。

反復する唾液腺腫脹も重要です。
「食事をすると顎の下が腫れる」「耳の前が何度も腫れる」という訴えでは、唾石症、細菌性唾液腺炎、IgG4関連疾患なども鑑別に入ります。
抗SSA/Ro抗体が陽性ならシェーグレン病なのか
抗SSA/Ro抗体は重要な血清学的マーカーですが、陽性だけで診断が確定するわけではありません。
全身性エリテマトーデスなど、ほかの自己免疫疾患でも認められます。
逆に、抗SSA/Ro抗体が陰性でもシェーグレン病を完全には否定できません。
診断は、自覚症状、唾液分泌検査、眼科的検査、抗SSA/Ro抗体、口唇腺生検などを組み合わせて行います。
分類基準は研究対象を均質化するための基準であり、個々の患者さんの臨床診断と完全に同一ではありません。
口唇腺生検は何を見ているのか
下唇内側から複数の小唾液腺を採取し、導管周囲への巣状リンパ球浸潤を評価します。
一定面積当たりのリンパ球集簇数をfocus scoreとして評価しますが、口唇腺生検も万能ではありません。
採取腺量、挫滅、加齢性変化、慢性唾液腺炎、病変分布、評価者間差によって結果が影響されます。
口唇腺生検は単独で診断する検査ではなく、症状、唾液量、眼所見、自己抗体と統合して解釈します。
シェーグレン病の唾液腺では何が起こっているのか
シェーグレン病の唾液腺障害は、単に腺房細胞が減少するだけではありません。
初期にはT細胞を中心としたリンパ球浸潤がみられ、その後B細胞や形質細胞が増加します。一部では唾液腺内に異所性リンパ組織が形成され、自己抗体産生が持続します。
近年の研究では、Ro60という自己抗原を認識するCD4陽性T細胞と、抗Ro60抗体を産生するB細胞が、唾液腺内で互いに反応を増幅する可能性が示されています。
細胞死などによってRo60が組織内へ放出されると、抗Ro60抗体と免疫複合体を形成します。抗原提示細胞がこれを取り込み、Ro60由来ペプチドをHLAクラスII上へ提示します。Ro60特異的CD4陽性T細胞が活性化されると、抗Ro60抗体を産生するB細胞をさらに支援します。
自己抗体が抗原提示を強め、抗原提示が自己反応性T細胞を刺激し、T細胞が再び自己抗体産生B細胞を助ける正のフィードバックループです。

ただし、このT–B細胞ループを歯科外来で直接測定する検査はなく、赤い舌の鑑別へそのまま使用するものでもありません。
シェーグレン病を、唾液腺が一方向に破壊される病気ではなく、唾液腺内で自己抗原特異的な免疫反応が維持・増幅される病気として理解するための病態モデルです。
乾燥だけでは説明できない舌痛
シェーグレン病患者の舌痛は、すべて唾液不足で説明できるわけではありません。
乾燥による摩擦、紅斑性カンジダ症、糸状乳頭の萎縮、味覚障害、鉄・B12・葉酸欠乏、薬剤性口腔乾燥、口腔扁平苔癬、小径線維ニューロパチー、三叉神経障害、BMSの併存を考えます。
シェーグレン病は末梢神経障害を伴うことがあり、小径線維障害では、通常の神経伝導検査で異常が出ないまま、灼熱痛、ピリピリ感、針で刺すような痛み、温度感覚異常、触覚過敏を生じる場合があります。
唾液を補っても痛い。Candidaを治療しても痛い。粘膜所見が改善しても痛い。
このような場合には、神経障害性疼痛を考えます。
「シェーグレン病だから乾燥痛」と一つにまとめないことが重要です。
シェーグレン病患者の口腔管理
口腔管理の目的は、単に口を湿らせることではありません。
保湿ジェルや保湿スプレー、こまめな水分摂取、室内加湿、口呼吸への対応、必要に応じた唾液分泌刺激を行います。ただし、糖分を含む飴や飲料を頻回に使うと、う蝕リスクが増加します。
う蝕予防では、フッ化物製品の適切な使用、短い間隔での定期管理、根面う蝕の確認、飲食回数の見直し、乾燥対策製品の糖分確認が必要です。
Candida管理では、舌、口蓋、口角、義歯下粘膜を確認し、抗真菌治療だけでなく、義歯清掃、夜間の義歯撤去、乾燥、糖尿病、薬剤の再評価を行います。
疼痛があると清掃が不十分になり、プラーク停滞と歯肉炎が悪化します。痛みに配慮した清掃器具や方法を選び、患者さんが清掃を完全に諦めないよう支援する必要があります。
また、嚥下困難をすべて唾液不足として処理してはいけません。食道疾患、神経疾患、筋疾患、腫瘍などが隠れている場合があります。
口腔乾燥とシェーグレン病で押さえるべき点
口腔乾燥感と客観的な唾液分泌低下は同義ではありません。
唾液低下は、摩擦、味覚障害、Candida増殖、う蝕、嚥下障害を同時に引き起こします。
乾燥が持続し、眼乾燥、唾液腺腫脹、多発う蝕、反復性Candida、自己免疫症状が重なる場合は、シェーグレン病を疑います。ただし、抗SSA/Ro抗体単独で診断や除外はできません。
シェーグレン病患者の舌痛は、乾燥だけではなく、Candida、栄養欠乏、口腔扁平苔癬、神経障害性疼痛が重なっている可能性があります。
乾燥、Candida、栄養欠乏は比較的頻度の高い原因ですが、赤い病変の中には、治療反応を待ってはいけないものがあります。
見逃してはいけない紅板症・口腔上皮性異形成・初期口腔癌
口腔乾燥、Candida、鉄欠乏、ビタミンB12欠乏は、赤く痛い舌で比較的よく遭遇する原因です。
しかし、診断の順序は、頻度の高い疾患だけを上から並べればよいわけではありません。頻度が低くても、見逃した場合の不利益が大きい疾患を早い段階で除外する必要があります。
その代表が、紅板症、口腔上皮性異形成、上皮内癌、初期浸潤性扁平上皮癌です。
鉄欠乏性舌炎やHunter舌炎では、比較的広い範囲に糸状乳頭の萎縮と発赤を生じます。これに対し、腫瘍性病変は舌の一部に固定した赤色斑、赤白混在病変、浅いびらん、わずかな陥凹として現れることがあります。
必ずしも強い痛み、大きな潰瘍、明瞭な硬結があるとは限りません。
患者さんは、
- 少し赤い
- 表面がなめらかになった
- 食べると少ししみる
- 歯が当たる
- なかなか治らない口内炎がある
と訴えるだけのこともあります。
「痛みが弱いから大丈夫」「硬くないから癌ではない」「Candidaが出たから感染症」という判断はできません。
紅板症は「赤い病変」という意味ではありません
紅板症は、単に赤く見える口腔粘膜病変の総称ではありません。
臨床的にも病理学的にも、ほかの定義可能な疾患として説明できない赤色斑に用いる臨床診断名です。
したがって、赤い病変を見た時点ですぐに紅板症と診断するのではありません。
まず、紅斑性カンジダ症、萎縮型・びらん型口腔扁平苔癬、口腔苔癬様病変、接触性口内炎、外傷性びらん、地図状舌、正中菱形舌炎、自己免疫性水疱症、血管性病変、感染性病変などを検討します。
それでも説明できず、同じ場所に固定して残る赤色病変に対して、紅板症という臨床診断を用います。
紅板症は白板症より発生頻度が低い一方、組織学的には高異型度の上皮性異形成、上皮内癌、すでに浸潤した扁平上皮癌を含む割合が高い病変です。
そのため、紅板症は長期間の経過観察で診断を確かめる病変ではありません。
原則として、組織診断へ進むべき病変です。
紅板症、OED、扁平上皮癌は同じ言葉ではありません
紅板症は臨床診断です。
口腔上皮性異形成、oral epithelial dysplasia:OEDは病理診断です。
上皮内癌や扁平上皮癌も病理診断です。
臨床的に紅板症と考えて生検した結果、反応性炎症、低異型度OED、高異型度OED、上皮内癌、浸潤性扁平上皮癌のいずれかであることがあります。
反対に、臨床的には単なるびらんや口腔扁平苔癬に見える病変に、上皮性異形成や癌が含まれている場合もあります。
したがって、肉眼所見から病理診断名まで決めつけないことが重要です。

生検を優先する危険徴候
赤い舌を診たとき、次の所見があれば、生検または口腔外科・口腔腫瘍専門施設への紹介を優先します。

特に重要なのは、固定性と片側性です。
鉄、B12、葉酸などの栄養欠乏や、高度口腔乾燥による萎縮性舌炎は、通常、舌全体または比較的広い範囲へ影響します。
舌の一か所だけ、特に舌縁や舌下面に赤色病変が固定している場合には、局所性病変を優先します。
硬結は浸潤癌を疑う重要な所見ですが、硬結がないことは癌を否定する材料にはなりません。
上皮内癌やごく浅い初期浸潤癌では、触診上明瞭な硬結がないことがあります。
表面の微細な粗造、顆粒状変化、浅い陥凹、赤白混在、軽度の易出血性だけが手掛かりになることもあります。

痛みの有無は安全性の基準になりません
初期口腔癌は無痛のことがあります。
一方、浅いびらん、二次感染、歯との接触、食物刺激が重なると、小さな上皮内病変でもピリピリ感や摂食時痛が出ます。
したがって、「痛いから炎症」「痛くないから良性」「強い痛みだから進行癌」「軽い違和感だから経過観察」という判断はできません。
疼痛の強さよりも、固定性、境界、表面性状、硬さ、易出血性、時間的変化、治療への反応を重視します。
Candida陽性でも癌を否定できません
赤色病変からCandidaが検出されると、診断がそこで止まりやすくなります。
しかし、Candidaは常在真菌であり、炎症性病変だけでなく、異形成や癌によって障害された粘膜表面にも付着・増殖します。
したがって、
Candida陽性
↓
病変の本体はカンジダ症
↓
生検は不要
とはなりません。
抗真菌治療後に、痛みは少し改善したが赤色斑が残る、白苔は消えたが粗造面が残る、周囲炎症は減ったが中心部の陥凹が残る、同じ場所に固定している場合には、Candidaは二次的に存在していた可能性があります。
感染や炎症が減ったことで、基礎となる腫瘍性病変が見えやすくなることもあります。
ステロイドへ反応しても癌を否定できません
萎縮型・びらん型口腔扁平苔癬を疑い、局所ステロイドを使用することがあります。
炎症を伴う上皮性異形成や癌では、ステロイドによって周囲炎症や疼痛が一時的に軽減する可能性があります。
したがって、
ステロイドで少し良くなった
↓
口腔扁平苔癬である
↓
悪性ではない
とは言えません。
病変が完全に消失せず、同じ場所に固定して残る場合には、治療反応を根拠に生検を先延ばしにしないことが重要です。
外傷源があることは、外傷性病変の証明ではありません
舌縁部には、鋭い歯、破折歯、不適合冠、義歯、咬傷、舌癖が接触しやすく、外傷性潰瘍や発赤を起こします。
しかし、口腔癌患者にも歯や補綴物は存在します。
病変の近くに刺激源があることは、病変が外傷性である証明にはなりません。
明らかな刺激源を除去した場合には、疼痛だけでなく、発赤、潰瘍、硬結、表面性状が適切な期間で改善するかを確認します。
刺激源除去後も同じ場所に病変が残る、あるいは一部しか改善しない場合には、生検へ進みます。
「二週間治らなければ癌」という単純な基準ではありません
口腔粘膜病変では、「二週間治らなければ専門医へ」という説明がよく用いられます。
一般向けの注意喚起としては有用ですが、歯科医師が診断を決める厳密な基準ではありません。
明らかな硬結、易出血性、舌運動制限、不整な固定性病変があるなら、二週間待つ必要はありません。
反対に、慢性的な口腔扁平苔癬や地図状舌は二週間以上続きます。
重要なのは期間だけではなく、形態、分布、触診、原因除去後の変化、治療への反応、患者背景です。
「二週間」という数字を、安全確認の代わりに使ってはいけません。
口腔上皮性異形成では何を見ているのか
OEDでは、上皮構造の乱れと細胞自体の異常を評価します。
構造異型としては、不規則な細胞重層、基底細胞の極性消失、滴状の上皮脚、増殖領域の拡大、上皮表層での細胞分裂、早期角化、上皮脚内の角化真珠、細胞接着の低下などがあります。
細胞異型としては、核の大小不同、核形不整、細胞の大小不同、N/C比上昇、核腫大、濃染核、核小体の増加・腫大、異型核分裂、単一細胞角化などを見ます。
ただし、異形成の診断とグレード判定には、病理医間のばらつきがあります。
炎症や潰瘍に伴う反応性異型をOEDと過剰診断する可能性がある一方、部分生検では最も高度な部位が採取されず、過少診断になる可能性もあります。
病理診断書の言葉だけではなく、どこから採取したか、病変全体のどの部分か、臨床像と病理像が一致しているか、病変が経時的に変化していないかを考える必要があります。
低異型度なら安心なのか
低異型度OEDは、高異型度OEDより悪性転化リスクが低い傾向があります。
しかし、「低異型度だから癌にならない」わけではありません。
また、最初の生検で低異型度と診断されたとしても、病変内により高度な部位が存在し、採取できていなかった可能性があります。
病変が固定して残る、赤色部が増える、白色部との割合が変わる、表面が粗造になる、びらんや出血が加わる場合には、再生検を考えます。
経過観察とは、何もせずに待つことではありません。
規格化した口腔内写真、病変径、色調、表面性状、硬結、易出血性、疼痛、舌運動、頸部リンパ節を記録し、変化を比較する必要があります。
生検はどこから採取するか
広い赤色病変や赤白混在病変では、病変全体が均一とは限りません。
同じ病変内に、反応性炎症、軽度異形成、高度異形成、上皮内癌、浸潤癌が隣接している可能性があります。
一般に生検部位として注意するのは、最も赤い部位、表面が粗造な部位、顆粒状または乳頭状の部位、硬結に近い部位、白色部と赤色部の移行部、陥凹部、易出血部です。
一方、壊死や潰瘍の中心だけを採ると、非特異的な炎症と壊死組織しか得られないことがあります。
広範囲、不均一、多巣性の病変では、一か所だけでは病変全体を代表できず、複数部位からの生検が必要になる場合があります。
病理依頼書には、病変部位、大きさ、色、表面性状、触診所見、経過、使用薬剤、臨床診断、生検部位を記載し、可能であれば写真も共有します。
生検結果と臨床像が一致しない場合
臨床的に強く癌を疑うのに、病理結果が「炎症」だった場合、その結果だけで診療を終えてはいけません。
考えるべきことは、採取部位が病変を代表していなかった、潰瘍中央だけを採取した、標本が浅かった、最も高度な部位を外した、炎症が強く評価が困難だった、病変が経時的に変化した可能性です。
「病理結果が正しいか」という二者択一ではなく、その検体が病変全体を代表していたかを考えます。
病変が残存し、肉眼像と病理結果が一致しない場合には、再生検または専門施設への紹介を考えます。
紅板症・OED・初期口腔癌で押さえるべき点
紅板症は、他の疾患として説明できない固定性赤色病変に用いる臨床診断名です。
硬結がないこと、Candidaが検出されたこと、ステロイドで一部改善したことは、癌を否定する根拠になりません。
固定性、片側性、粗造、顆粒状、易出血性、潰瘍、舌運動制限を認める病変では、生検を先延ばしにしません。
腫瘍性病変と紛らわしいもう一つの大きな群が、口腔扁平苔癬や自己免疫性水疱症などの赤いびらん性病変です。
口腔扁平苔癬・口腔苔癬様病変――白い網目だけの病気ではありません
口腔扁平苔癬、oral lichen planus:OLPは、慢性炎症性の口腔粘膜疾患です。
教科書的には、頬粘膜に両側性・対称性の白色網状線条を形成する病変として知られています。
しかし、赤く痛い舌の鑑別で重要なのは、萎縮型、びらん型、潰瘍型のOLPです。
これらでは白色線条よりも、発赤、上皮萎縮、びらん、潰瘍、灼熱感、接触痛、摂食時痛が前面に出ます。
OLPは、白い病変の一部が赤い疾患だけではありません。
赤く、痛く、びらん性の病変として受診することがあります。
赤色優位型OLPの見方
赤色優位型OLPでは、発赤部だけを見ると、紅斑性カンジダ症、接触性口内炎、紅板症、上皮性異形成、自己免疫性水疱症と区別しにくくなります。
診断の手掛かりは、赤色部の周囲や離れた部位にある白色病変です。
確認するのは、網状の白色線条、放射状の細い白線、斑状白色部、丘疹状白色部、白色部と赤色部の移行、両側性、複数部位、ほぼ対称性です。
ただし、すべてのOLPに明瞭な白色網状線条があるわけではありません。
一方で、白色線条が乏しく、片側性・局所性に固定した赤色病変なら、OLPよりもOLL、上皮性異形成、癌を強く考える必要があります。
舌のOLP
OLPは頬粘膜、歯肉、舌、口唇などに発生します。
舌では、舌背の糸状乳頭萎縮、不規則な発赤、白色線条、舌縁部の白斑・紅斑、びらん、接触痛、味覚異常を示します。
舌背の萎縮型OLPでは、糸状乳頭が失われ、栄養欠乏性舌炎や紅斑性カンジダ症に似た平滑な赤色面となることがあります。
ただし、鉄欠乏やB12欠乏による萎縮性舌炎が比較的びまん性であるのに対し、OLPでは赤色部の形が不整で、周囲に白色線条があり、頬粘膜や歯肉にも病変があり、左右両側に病変があり、病変内にびらんが混在することが手掛かりになります。
OLPは臨床診断だけで確定できるのか
典型的な両側性白色網状病変では、臨床像からOLPを強く疑うことができます。
しかし、赤色優位型、びらん型、片側性病変、治療抵抗性病変では、生検による確認が重要です。
OLPの代表的な病理所見には、基底細胞層の液状変性、Civatte小体、上皮直下の帯状リンパ球浸潤、鋸歯状の上皮脚、過角化、上皮萎縮、上皮・結合組織境界の不明瞭化などがあります。
しかし、びらん部そのものを採取すると上皮が欠損しているため、診断に必要な構造が観察できません。
OLPの生検部位
びらん型OLPで生検するなら、潰瘍中央だけを採らず、赤色部と白色部の移行を含め、上皮が残っている部位を選びます。
複数の病型がある場合には代表部位を選びますが、癌を疑う硬結部・粗造部がある場合には、その部位を優先します。
OLPを疑って生検する場合でも、目的はOLPを証明することだけではありません。
上皮性異形成や癌を除外するための生検でもあります。
OLP、OLL、苔癬様異形成を分ける
OLPに似た口腔病変を、口腔苔癬様病変、oral lichenoid lesion:OLLと呼びます。
OLLの背景には、歯科金属、レジン・歯科材料、薬剤、慢性GVHD、免疫チェックポイント阻害薬、接触性反応、全身疾患があります。
臨床的にはOLPとよく似ていますが、OLLでは片側性、局所性、原因物質に接する部位へ限局、左右非対称、薬剤開始後に出現、原因除去後に改善するといった特徴が手掛かりになります。
ただし、病理だけでOLPとOLLを完全に区別することは困難です。
OLP・OLLの診断は、臨床分布、左右対称性、歯科材料との位置関係、薬剤歴、発症時期、原因除去後の経過、病理所見を統合して判断します。
最も注意すべきなのは、白色線条や炎症を伴うためOLPに見えても、実際には上皮性異形成を含む病変です。
異形成を伴う病変では、片側性、固定性、赤色部が強い、表面粗造、顆粒状、潰瘍、硬結、白色線条が不規則、ステロイド抵抗性となることがあります。
接触性・刺激性口内炎
歯磨剤、洗口剤、香料、シナモン、メントール、SLS、菓子、義歯洗浄剤、歯科材料などによって、赤色・びらん性の口腔粘膜病変が起こることがあります。
臨床像は、発赤、浮腫、白色変化、剝離、びらん、潰瘍、灼熱感が混在し、OLP、Candida、薬疹、外傷性病変と似ます。
診断で最も重要なのは、時間軸です。
製品を使い始めた
↓
症状が出た
↓
使用を中止した
↓
改善した
↓
再使用で再燃した
という関係があれば、接触性病変を支持します。
問診では、最近歯磨剤を変えたか、洗口剤を使い始めたか、香りの強いガムや飴を摂っているか、舌ブラシを強く使っていないか、ホワイトニング製品を使っていないか、義歯洗浄剤を十分にすすいでいるかまで確認します。
原因除去後も固定性病変が残る場合には、接触性と決めつけず生検を考えます。
OLPとCandidaは同時に存在します
OLPと口腔カンジダ症は、排他的な関係ではありません。
びらん・萎縮した粘膜はCandidaが付着しやすく、局所ステロイド治療も二次感染のリスクを高めます。
OLP本体にCandidaが重なると、赤みの増強、灼熱感、接触痛、味覚異常、ステロイド反応不良が起こります。
抗真菌治療で症状が一部改善しても、白色線条や固定性びらんが残れば、原疾患はOLP・OLLである可能性があります。
逆に、Candidaを評価せずにステロイドを増量すると、感染が悪化することがあります。
治療抵抗性OLPでは、Candida、乾燥、清掃不良、接触性刺激、異形成、癌を再評価します。
痛くて磨けない――OLPでは口腔衛生そのものが崩れます
びらん型OLPでは、歯ブラシが粘膜に触れるだけで強く痛み、患者さんが清掃を避けるようになります。
すると、
疼痛
↓
清掃不良
↓
プラーク蓄積
↓
歯肉・粘膜の二次炎症
↓
さらに疼痛
という悪循環が生じます。
口腔衛生指導では、硬いブラシを避け、軟毛ブラシやワンタフトブラシを使い、患部を完全に避けず、痛みに応じて清掃法を変えます。SLSや強い香料を含む製品、アルコール含有洗口剤を見直し、義歯や補綴物の粗造面、プラーク停滞因子も確認します。
OLP治療は、局所ステロイドを処方するだけでは完結しません。
自己免疫性水疱症――水疱を見なくても疑います
尋常性天疱瘡、粘膜類天疱瘡、水疱性類天疱瘡では、口腔粘膜に水疱が生じます。
しかし、口腔粘膜は機械的刺激を受けやすいため、水疱はすぐに破裂します。
そのため患者さんは、「口内炎が何か月も治らない」「歯肉の皮がむける」「歯磨きで出血する」「水もしみる」「舌が擦れると出血する」「食べ物が当たると皮がむける」と訴えます。
診察時に見えるのは、発赤、びらん、潰瘍、上皮剝離、出血、剝離性歯肉炎です。
「水疱がないから水疱症ではない」と考えてはいけません。
尋常性天疱瘡
尋常性天疱瘡、pemphigus vulgaris:PVは、デスモグレイン3などの細胞接着分子に対する自己抗体によって、上皮細胞同士の接着が失われる疾患です。
病理学的には上皮内水疱を形成します。
口腔病変は皮膚病変に先行することがあり、頬粘膜、口蓋、口唇、舌、歯肉に広範なびらんを形成します。
水疱は薄く、すぐに破れるため、診察時には不整形の浅いびらんが主体です。
通常病理では、基底層直上の上皮内裂隙、棘融解、基底細胞が基底膜上に残る像がみられます。
直接蛍光抗体法では、上皮細胞間にIgGやC3が網目状に沈着します。
粘膜類天疱瘡
粘膜類天疱瘡、mucous membrane pemphigoid:MMPは、基底膜部の構成蛋白に対する自己抗体によって、上皮下水疱を形成する疾患群です。
主に侵されるのは、口腔、眼結膜、鼻腔、咽頭、喉頭、食道、外陰部、肛門です。
口腔では、剝離性歯肉炎、頬粘膜びらん、口蓋びらん、水疱、潰瘍として現れます。
皮膚病変がない患者も多く、歯科が最初の診療科になる可能性があります。
MMPで確認すべき口腔外症状
特に危険なのは、眼と気道病変です。
患者さんには、目がゴロゴロする、目が赤い、目が乾く、まぶたが癒着する感じがある、鼻血を繰り返す、鼻の中が痛い、声がかすれる、喉が痛い、息苦しい、飲み込みにくい、外陰部にびらんがあるといった症状を確認します。
眼病変は瘢痕化すると視力障害を残し、喉頭病変は気道狭窄につながる可能性があります。
口腔びらんだけを局所治療して、眼科・耳鼻咽喉科評価を省略してはいけません。
水疱性類天疱瘡
水疱性類天疱瘡、bullous pemphigoid:BPは、通常は高齢者の皮膚に緊満性水疱を形成する疾患です。
口腔病変はMMPやPVより少ないものの、口腔病変が皮膚病変に先行する症例があります。
高齢者の難治性口腔びらんでは、MMPやPVだけでなく、BPも鑑別に入ります。
皮膚に水疱がないからBPではない、とは言えません。
通常病理とDIFは同じ検体ではありません
自己免疫性水疱症を疑う場合、最も重要な実務の一つが生検方法です。
必要なのは通常、HE染色用の通常病理検体と、直接蛍光抗体法用のDIF検体の二つです。
通常病理用は、病変辺縁を含めて採取し、ホルマリンへ入れます。
DIF用は、病変周囲または疾患によっては正常に見える粘膜から採取し、病理部門が指定する搬送液へ入れます。
DIF検体をホルマリンに入れると、免疫沈着物を評価できなくなります。
潰瘍中央だけを採取すると、上皮が失われており、通常病理でもDIFでも診断できないことがあります。

検査前に病理部門へ連絡します
DIFを行う場合は、どの保存液を使うか、何個の検体が必要か、どの曜日に提出できるか、何時間以内に搬送するか、ステロイド使用中でも採取できるかを事前に病理部門へ確認します。
採取後に「DIFも必要だった」と気づいても、ホルマリン固定済みの検体は使えません。
DIFが陰性なら水疱症ではないのか
陰性でも、臨床的疑いが強ければ否定できません。
偽陰性の原因には、潰瘍中央を採取した、上皮が剝離していた、病変が古い、ステロイド治療後、検体が小さい、保存液が不適切、搬送が遅れた、病変分布にばらつきがあることがあります。
臨床像が自己免疫性水疱症に合う場合には、適切な部位からの再生検を考えます。
ステロイドを始める前に考えること
OLPや自己免疫性水疱症の治療にはステロイドが用いられます。
しかし、診断確定前に長期間ステロイドを使用すると、病理像が変化し、DIFの感度が低下し、Candidaが増殖し、異形成や癌の診断が遅れる可能性があります。
重症で緊急治療が必要な場合を除き、可能であれば治療開始前に必要な生検を行います。
赤いびらん性病変で押さえるべき点
OLPは白い病変だけではありません。赤色、萎縮、びらん、灼熱感が前面に出ることがあります。
OLPとOLLは病理だけでは完全に分けられません。
びらん中央だけを生検すると診断できないことがあります。
自己免疫性水疱症では、水疱を確認できないことが多く、反復する上皮剝離やびらんから疑います。
通常病理用とDIF用の検体を分け、MMPでは眼、咽頭、喉頭などの口腔外病変も確認します。
次に、赤い舌の中でも良性であることが多い一方、腫瘍性病変と取り違えやすい地図状舌と正中菱形舌炎を考えます。
地図状舌――動く赤い病変
地図状舌、良性移動性舌炎は、舌背や舌縁に糸状乳頭が限局して脱落した赤色斑を形成する病変です。
病変の周囲には、白色から黄白色の蛇行した辺縁を伴うことが多く、赤い部分では糸状乳頭が消失して表面が平滑になります。
地図状舌の最大の特徴は、病変が移動することです。
数日から数週で、赤い部分が縮小し、別の場所に新しい病変が出て、白色辺縁の位置が変わり、病変全体の形が変化します。
この時間軸が、紅板症、正中菱形舌炎、OLP、癌などの固定性病変との重要な違いです。
地図状舌の症状
無症状の患者も多い一方で、熱い物、香辛料、酸味、アルコール、塩味、歯磨剤などでヒリヒリすることがあります。
紅斑性カンジダ症と似た刺激痛を訴えるため、病変が本当に移動するか、白色辺縁があるかを確認します。
診察時の所見だけで分からない場合、患者さんがスマートフォンで撮影した数日前の写真が、診断の助けになることがあります。
地図状舌と全身疾患
地図状舌と、乾癬、アトピー性疾患、セリアック病などとの関連が報告されています。
しかし、地図状舌がある患者全員に全身検査を行う根拠はありません。
原因不明の鉄欠乏、反復性アフタ、慢性下痢、体重減少、自己免疫疾患などが重なる場合に、セリアック病などを考慮します。
典型的な地図状舌はOPMDに分類されておらず、独立した前癌病変とは考えられていません。
ただし、全く動かない、数か月同じ場所に残る、白色辺縁がない、硬結がある、出血する、深い潰瘍がある、片側の一か所に固定する場合には、地図状舌という診断を見直します。
正中菱形舌炎――正中に固定する赤色病変
正中菱形舌炎は、舌背正中、有郭乳頭の前方付近に生じる、楕円形または菱形の赤色・平滑病変です。
地図状舌と異なり、ほとんど移動しません。
無症状のことが多い一方で、灼熱感や刺激痛を伴うことがあります。
以前は胎生期の癒合異常と考えられていましたが、現在はCandidaとの関連が重視されています。
ただし、Candidaだけで全例を説明できるわけではなく、Candida関連病変として理解するのが妥当です。
舌病変と向かい合う口蓋にも赤色病変が生じることがあり、kissing lesionと呼ばれます。
地図状舌と正中菱形舌炎を分けるもの
地図状舌の診断根拠は、白色辺縁を伴い、時間とともに形や位置が変化することです。
正中菱形舌炎の診断根拠は、舌背正中に固定した楕円形・菱形病変であることです。

正中菱形舌炎でも、隆起、硬結、潰瘍、出血、側方への不整な拡大、抗真菌治療抵抗性、非典型部位を認める場合には、生検を考えます。
「動かない地図状舌」や「正中以外の正中菱形舌炎」という矛盾があれば、診断を一度リセットする必要があります。
薬剤性口腔病変――薬剤名より病態機序を考えます
赤く痛い舌を「薬の副作用」と説明する場合にも、薬剤がどのような経路で病変を作っているかを考える必要があります。
薬剤性口腔病変は、一つの病気ではありません。
薬剤は、口腔乾燥、栄養欠乏、直接的粘膜障害、苔癬様・水疱症性免疫反応、二次性Candidaという複数の経路で、赤い舌やびらん性病変を作ります。

乾燥を介する薬剤
抗うつ薬、抗精神病薬、抗ヒスタミン薬、抗コリン薬、一部の降圧薬、利尿薬、抗パーキンソン薬、頻尿治療薬などは、唾液分泌へ影響する可能性があります。
薬剤が直接舌を傷つけるのではなく、
薬剤
↓
唾液分泌低下
↓
摩擦・粘膜障害
↓
Candida増殖
↓
舌の発赤・疼痛
という経路で病変が形成されます。
複数の薬剤が重なっている高齢者では、一剤ごとの影響だけでなく、総合的な抗コリン負荷も考えます。
栄養欠乏を介する薬剤
メトホルミンや胃酸分泌抑制薬の長期使用は、B12欠乏との関連が知られています。
ただし、服薬しているだけでHunter舌炎と診断することはできません。
服薬期間、用量、食事、胃疾患、年齢、併用薬、実際のB12値を確認します。
薬剤性が疑われても、歯科側から基礎疾患の治療薬を独断で中止させず、処方医へ情報を共有します。
吸入ステロイドとCandida
吸入ステロイドでは、舌背、口蓋、咽頭に薬剤が残留し、Candidaが増殖しやすくなります。
確認するのは、吸入後のうがい、スペーサーの使用、吸入手技、吸入回数、口腔乾燥、糖尿病、義歯です。
ただし、吸入ステロイド使用者の赤い舌を、すべてCandidaとして扱うわけではありません。
舌所見、真菌検査、乾燥、糖尿病、義歯、ほかの粘膜疾患を合わせて評価します。
免疫チェックポイント阻害薬
免疫チェックポイント阻害薬では、OLP様病変、口腔乾燥、Sjögren様唾液腺障害、粘膜炎、びらん、自己免疫性水疱症、味覚障害、二次性Candidaなど、多様な口腔有害事象が起こります。
現在治療中かどうかだけでなく、過去にニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、イピリムマブなどを使用していないかを確認します。
ICI関連口腔病変は、薬剤を休止・中止した後も長期間残ることがあります。
「もうがん治療は終わっているから関係ない」とは言えません。
また、ICI関連の口腔乾燥や苔癬様病変では、通常のシェーグレン病や特発性OLPと、自己抗体・病理像が完全には一致しない症例があります。
既存疾患の名称へ無理に当てはめるのではなく、ICI関連口腔免疫有害事象として、腫瘍内科、皮膚科、膠原病内科などと連携して評価します。
mTOR阻害薬・EGFR阻害薬
mTOR阻害薬では、比較的小さな円形のアフタ様潰瘍や粘膜炎が生じます。
一般的な化学療法性粘膜炎とは異なる外観を示すことがあり、口唇、舌、頬粘膜などに痛みの強い浅い潰瘍を形成します。
EGFR阻害薬やマルチキナーゼ阻害薬でも、口腔粘膜炎、びらん、潰瘍、舌痛、地図状舌様変化、味覚障害などが生じることがあります。
顔面のざ瘡様皮疹、爪囲炎、手足症候群など、口腔外の有害事象も手掛かりになります。
DPP-4阻害薬関連類天疱瘡
糖尿病治療薬のDPP-4阻害薬は、水疱性類天疱瘡との関連が知られています。
高齢者に新しく、口腔びらん、剝離性歯肉炎、水疱、皮膚の緊満性水疱が生じた場合には、糖尿病薬を確認します。
ただし、糖尿病患者にはCandidaや乾燥も多く、服薬歴だけで類天疱瘡と診断することはできません。
病理、DIF、血清学的評価が必要です。
薬剤関連が疑われる場合も、歯科側が独断で糖尿病薬を中止するのではなく、皮膚科・糖尿病内科と連携します。
薬剤性を診断する時間軸
薬剤性口腔病変を疑うときは、薬剤開始、増量、変更、中止、再開と症状の関係を確認します。
舌痛が何年も続いている患者で、最近開始した薬剤を原因にすることはできません。
一方、
薬剤開始
↓
病変出現
↓
中止
↓
改善
↓
再投与
↓
再燃
という経過なら、薬剤性を強く支持します。
ただし、薬剤中止後も病変が残る疾患があります。
薬剤性を疑っても、固定性、硬結、顆粒状、易出血性の病変では、異形成や癌を除外します。

頻度は高くありませんが、背景によって考慮する疾患
赤い舌や口腔灼熱感の鑑別は、ここまで扱った疾患だけで完全に閉じるわけではありません。
多発性潰瘍、リンパ節腫脹、発熱、皮疹、眼病変、外陰部病変、免疫抑制状態、臓器移植歴、造血幹細胞移植歴がある場合には、梅毒、HIV感染に伴う口腔病変、Behçet病、全身性エリテマトーデス、慢性GVHD、血液疾患、重症薬疹、ウイルス感染症なども考慮します。
これらは「赤い平滑舌」だけを特徴とする疾患ではありません。
口腔以外の所見と患者背景を組み合わせ、必要に応じて医科へつなぎます。
Burning Mouth Syndrome――見た目が正常なのに痛い舌
ここまで、赤く痛い舌を作る多くの器質的病変を見てきました。
一方、患者さんは強い灼熱感を訴えているのに、肉眼的には病変を認めず、血液、感染、乾燥、薬剤などを調べても、症状を十分に説明できる原因が見つからない場合があります。
そこで考えるのが、Burning Mouth Syndrome、BMSです。
最も重要な原則は、BMSは最初につける診断ではなく、必要な評価を行った後に残る診断だということです。
BMSの診断――「異常がない」ではなく、ほかに適切な診断がない
国際口腔顔面痛分類第1版では、BMSは、口腔内の灼熱痛または異常感覚が1日2時間を超えて連日反復し、その状態が3か月を超えて持続する病態として整理されています。
診断では、臨床的に明らかな原因病変がなく、ほかに症状をより適切に説明する診断がないことが必要です。
したがって、舌が正常に見えるという一事だけでBMSとは診断できません。
少なくとも、鉄、B12、葉酸などの欠乏、Candida、口腔乾燥、OLP・OLL、地図状舌、接触性・外傷性病変、薬剤、糖尿病、三叉神経障害、腫瘍性病変を、病歴と臨床像に応じて評価します。

ただし、BMSを「すべての検査を片端から行い、すべて正常になるまで診断できない病気」と捉えるのも適切ではありません。
臨床像と痛みの時間軸を確認し、症状を説明できる妥当な疾患がないことを判断します。
検査は患者ごとの所見と背景に応じて選択します。
BMSの痛み方
典型的には、舌尖、舌前方、舌縁、口唇、口蓋などに、ヒリヒリ、ピリピリ、火傷したような熱感を生じます。
朝は比較的軽く、午後から夕方にかけて増悪する患者がいます。
食事中や会話中に症状が軽くなることもあります。
一方、Candida、OLP、びらん性病変、栄養欠乏性舌炎では、食物の接触や刺激物で悪化しやすくなります。
ただし、食事中に軽くなる、夕方に増悪する、味覚異常を伴う、乾燥感を伴うといった特徴は、BMSを支持する手掛かりにはなりますが、診断基準そのものではありません。
BMS以外でも日内変動は起こり、BMS患者のすべてが同じパターンを示すわけではありません。
一次性BMSと二次性口腔灼熱痛
口腔灼熱感の原因が、鉄欠乏、B12欠乏、Candida、口腔乾燥、薬剤、糖尿病、接触性病変、口腔扁平苔癬などで説明できる場合は、二次性口腔灼熱痛として扱います。
原因治療によって症状が改善する可能性があります。
これらを適切に評価しても原因が見つからない場合に、一次性BMSを考えます。
したがって、BMSという名前を使う前に、「この患者に必要な評価をどこまで行ったか」が重要です。
BMSと小径線維障害
BMSは、以前、心因性疼痛として説明されることが多くありました。
現在は、少なくとも一部の患者で、舌粘膜や三叉神経系の小径感覚神経障害が関与する可能性が示されています。
熱や酸、辛味の感覚に関わるTRPV1などの受容体、味覚系と三叉神経系の相互作用、中枢感作も研究されています。
しかし、すべてのBMS患者を同じ小径線維ニューロパチーで説明できるわけではありません。
BMSは、末梢神経障害、中枢神経系の変化、味覚系異常、心理社会因子、睡眠障害、疼痛増幅などが異なる割合で関与する、異質な慢性疼痛群と考える方が妥当です。
乾燥感と味覚異常
BMS患者は強い口腔乾燥感を訴うことがありますが、唾液分泌量が正常の場合もあります。
乾燥感と、実際の唾液分泌低下を分けて評価します。
味覚異常も多く、苦味、金属味、塩味の変化、甘味が分かりにくい、何も食べていないのに味がすると訴えることがあります。
ただし、味覚異常は、亜鉛欠乏、B12欠乏、Candida、薬剤、口腔乾燥でも生じます。
BMSに特異的な所見ではありません。
「心因性」で終わらせない
不安、抑うつ、睡眠障害、ストレスは、BMS患者でしばしば認められます。
しかし、これらを原因と決めつけてはいけません。
慢性疼痛は不安や睡眠障害を悪化させ、不安や睡眠障害は疼痛を増幅します。
心理社会因子は、原因または結果のどちらか一方ではなく、病態を修飾する要素として理解します。
患者さんへ「気のせいです」「異常はありません」と説明すると、症状を否定されたと感じさせます。
「口腔癌や明らかな感染、栄養欠乏などは除外できました。見た目に病変を作らない慢性口腔顔面痛が考えられます」と説明する方が適切です。
片側性・発作性疼痛は典型的なBMSではありません
BMSは、両側性または広い範囲に持続痛を生じることが多い病態です。
片側に限局する、数秒から数分の電撃痛、明確な誘発点がある、感覚脱失がある、進行する神経症状がある、舌運動障害がある、嚥下痛がある、頸部腫瘤がある場合には、典型的なBMSとして扱いません。
三叉神経痛、舌咽神経痛、帯状疱疹後神経痛、外傷後三叉神経障害性疼痛、占拠性病変などを考え、必要に応じて神経学的評価や画像検査へ進みます。

BMSの治療
一次性BMSに、すべての患者へ有効な単一治療はありません。
症例に応じて、疼痛教育、認知行動療法、クロナゼパム、抗うつ薬、ガバペンチノイド、睡眠への介入、不安・抑うつへの対応、多職種連携などが検討されます。
ただし、治療を考える前に、二次性原因を適切に治療することが優先されます。
鉄やB12が低い、Candidaがいる、乾燥が強いという一つの異常だけを見つけ、その治療が効かなかったからBMSとするのでもありません。
局所病変、血液異常、感染、薬剤、乾燥、神経疾患を体系的に評価します。
赤く、痛い舌の実践診断アルゴリズム
ここまで扱った疾患を、実際の診察順にまとめます。
最初に確認するのは、鉄不足やCandidaではありません。
硬結、易出血性、舌運動制限、頸部リンパ節など、見逃してはいけない危険所見です。
危険所見があれば、採血や抗真菌治療の反応を待たず、生検または専門紹介を優先します。

最初に危険徴候を確認します
初診時に最初に確認するのは、固定性の局所病変、硬結、易出血性、不整な潰瘍、顆粒状・乳頭状変化、舌運動制限、感覚低下、頸部リンパ節、体重減少、嚥下障害です。
これらを認める場合には、鉄欠乏やCandidaが存在していても、腫瘍性病変の除外を優先します。
危険所見がなければ糸状乳頭を確認します
糸状乳頭が広範囲に失われたびまん性平滑舌なら、鉄、B12、葉酸、Candida、口腔乾燥、糖尿病、胃疾患、吸収障害を優先します。
一部だけの乳頭消失なら、地図状舌、正中菱形舌炎、OLP、接触性病変、紅板症、初期癌を考えます。
びまん性か局所性か
びまん性病変では、局所病変だけでなく全身背景を調べます。
一方、局所性病変では、形態と時間軸を優先します。
局所性病変が移動し、白色辺縁を伴うなら地図状舌を支持します。
舌背正中へ固定しているなら正中菱形舌炎を考えます。
白色線条を伴うならOLP・OLLを考えます。
片側性・固定性・不整な赤色病変なら生検を検討します。
白色線条、びらん、水疱がある場合
白色網状線条と両側性病変があればOLPを考えます。
片側性で、歯科材料や薬剤との位置関係が強い場合はOLLを考えます。
反復する上皮剝離、剝離性歯肉炎、水疱後のびらんがあれば、尋常性天疱瘡や粘膜類天疱瘡を考え、通常病理用とDIF用の生検を行います。
びらん中央だけを採取してはいけません。
基本的な血液評価
びまん性萎縮性舌炎や原因不明の口腔灼熱感では、基本検査として、CBC、MCV、MCH、フェリチン、血清鉄、TIBCまたはトランスフェリン、TSAT、CRP、ビタミンB12、葉酸、血糖・HbA1cを検討します。
必要に応じて、亜鉛、銅、メチルマロン酸、ホモシステイン、抗内因子抗体、抗胃壁細胞抗体、抗tTG-IgA、総IgA、抗SSA/Ro抗体、甲状腺機能、ガストリン、ペプシノゲン、アルブミン、腎機能・肝機能などを追加します。
全例へ無差別に測定するのではなく、病歴と初期所見から選択します。

Candida評価
Candidaは、培養陽性だけで感染成立と判断しません。
臨床像、菌糸・仮性菌糸、乾燥、義歯、糖尿病、ステロイド、がん治療などの背景、治療反応を統合します。
治療後に他覚所見が改善したのに痛みだけが残る場合には、BMSや神経障害性疼痛を考えます。
治療後も固定性赤色病変が残る場合には、生検を考えます。
生検を行うか
生検を考える条件は、固定性、片側性、不整境界、粗造・顆粒状、赤白混在、硬結、易出血性、不整な潰瘍、舌運動制限、治療抵抗性、病理と臨床像の不一致です。
すべての項目がそろうまで待つ必要はありません。
固定性と非典型性だけで生検すべき病変もあります。
医科・専門科へつなぐ目安
歯科で赤い舌を診たとき、口腔内だけで診療を完結できない場合があります。

重度または原因不明の貧血、B12欠乏、血球異常では、内科・血液内科へつなぎます。
Plummer–Vinson症候群、自己免疫性胃炎、反復性鉄欠乏、セリアック病、H. pylori関連胃炎が疑われる場合は、消化器内科を検討します。
シェーグレン病や全身性自己免疫疾患が疑われる場合には、膠原病内科・リウマチ科と連携します。
自己免疫性水疱症では皮膚科が中心となり、眼症状があれば眼科、嗄声・咽頭痛・呼吸困難・嚥下障害があれば耳鼻咽喉科の評価が必要です。
固定性赤色病変、硬結、易出血性、OED・癌が疑われる場合は、口腔外科・口腔腫瘍専門施設へつなぎます。
高度医療や専門診療へ紹介した後も、患者さんの口腔全体を継続して管理するかかりつけ歯科医の役割については、次のコラムでも詳しく述べています。
【専門分化時代のかかりつけ歯科医|口腔全体を診て専門医とつなぐ役割】
赤い舌の診断で起こりやすい失敗
赤い舌の診断で起こりやすい失敗は、最初に見つかった異常ですべてを説明してしまうことです。
Candidaが検出されたから、すべてCandida。
フェリチンが低いから、すべて鉄欠乏。
口が乾くから、すべてシェーグレン病。
OLPの既往があるから、新しい赤色病変もOLP。
薬剤を飲んでいるから、すべて副作用。
この考え方では、併存疾患を見逃します。
鉄欠乏とCandidaは併存します。
シェーグレン病患者にも、BMSや口腔癌は起こります。
OLP患者にも、新しいOEDや癌が発生する可能性があります。
薬剤性口腔病変がある患者にも、偶発的な舌癌は起こり得ます。
一つの診断名で、口腔内のすべての所見を説明しないことが重要です。
正常値が一つあっても病気は否定できません
赤い舌の診断では、一つの正常値を除外診断として使いすぎることがあります。
ヘモグロビンが正常だから鉄欠乏ではない。
MCVが正常だからB12欠乏ではない。
抗SSA/Ro抗体が陰性だからシェーグレン病ではない。
Candida培養が陰性だからカンジダ症ではない。
DIFが陰性だから水疱症ではない。
生検が炎症だから癌ではない。
いずれも単独では言い切れません。
検査には、それぞれ偽陰性、採取誤差、時期による変化、併存疾患による修飾があります。
検査結果は、診断を自動的に決めるものではなく、臨床推論を支える材料です。
治療反応も診断の一部ですが確定診断ではありません
鉄補充で改善した。
B12補充で改善した。
抗真菌薬で痛みが減った。
ステロイドで赤みが減った。
保湿で楽になった。
これらは診断を支持する情報になります。
しかし、治療反応があったから、ほかの病気が存在しないとは言えません。
一人の患者さんに、鉄欠乏、Candida、口腔乾燥、OLP、BMS、局所性腫瘍性病変が重なっている可能性があります。
治療後も一部の所見が残る場合には、残った所見を別の問題として再評価します。
赤い舌を診ることは、舌だけを診ることではありません
赤い舌から鉄欠乏が見つかることがあります。
鉄欠乏の原因として、慢性出血や消化管疾患が見つかることがあります。
Hunter舌炎から、自己免疫性胃炎や胃切除後のB12欠乏が見つかることがあります。
乾燥と反復性Candidaから、シェーグレン病へつながることがあります。
びらん性歯肉炎から、自己免疫性水疱症が見つかることがあります。
小さな固定性赤色病変から、初期口腔癌が見つかることがあります。
したがって、赤い舌を「舌炎」という一語で片づけず、形態、分布、時間軸、触診、血液検査、感染評価、生検、全身疾患を一つずつ積み重ねます。
まとめ
赤く、平滑で、痛い舌は、一つの病気ではありません。
糸状乳頭の萎縮、栄養欠乏、Candida感染、口腔乾燥、自己免疫性炎症、上皮剝離、薬剤、上皮性異形成、神経障害など、異なる病態が似た外観と症状を作ります。
萎縮性舌炎は病名ではなく、原因検索の出発点です。
鉄欠乏では、貧血が完成する前から舌症状が現れる可能性があります。赤い平滑舌に固形物嚥下障害が重なる場合は、Plummer–Vinson症候群を考えます。
Hunter舌炎は、大球性貧血がなくても起こります。B12低値を確認した後は、自己免疫性胃炎、胃切除、薬剤、回腸疾患など、原因を探します。
鉄・B12以外の栄養欠乏も鑑別には入りますが、すべてを同じエビデンスの強さで扱ってはいけません。
反復性・治療抵抗性の栄養欠乏や複数栄養素欠乏では、胃や小腸の吸収障害を考えます。
Candidaは常在真菌であり、培養陽性だけで病因と確定できません。乾燥、菌糸、臨床像、治療反応を統合します。
口腔乾燥感と唾液分泌低下は同義ではありません。乾燥、眼症状、唾液腺腫脹、多発う蝕、反復性Candidaが重なる場合は、シェーグレン病を疑います。
固定性、片側性、粗造、顆粒状、易出血性、硬結、舌運動制限を伴う赤色病変では、生検を先延ばしにしません。
OLPは白い病変だけではなく、萎縮、発赤、びらん、灼熱感が前面に出ることがあります。水疱症では、診察時に水疱が残っていないことが多いため、反復する上皮剝離から疑います。
地図状舌の最大の特徴は移動性、正中菱形舌炎の特徴は正中固定性です。これらの特徴と矛盾する場合には、診断を見直します。
薬剤性口腔病変は、一つの病気ではありません。乾燥、栄養欠乏、粘膜障害、免疫性病変、Candidaのどの経路で病変が生じているかを考えます。
BMSは、見た目が正常だから診断する病気ではありません。局所病変、栄養欠乏、感染、乾燥、薬剤、神経疾患を評価し、ほかに症状をより適切に説明する診断がないと判断した後に考えます。
このコラムの結論は、ただの病名の列挙ではありません。
赤く、痛い舌を診断するとは、病名を当てることではなく、形態と時間軸から病態を分解し、危険な疾患を先に除外し、局所所見と全身背景を結びつける過程である
という考えこそ大事なことなのです。
臨床FAQ
舌が赤くてピリピリするとき、最初に何を疑いますか
一つの病気に決めるのではなく、最初に病変の形態と分布を確認します。
舌全体が赤く平滑であれば、鉄、ビタミンB12、葉酸などの栄養欠乏、紅斑性カンジダ症、口腔乾燥、胃腸疾患・吸収障害を優先します。
一方、舌の一か所だけに赤色病変が固定している場合は、口腔扁平苔癬、紅板症、口腔上皮性異形成、初期口腔癌などの局所病変を考えます。
硬結、易出血性、不整な潰瘍、舌運動制限がある場合には、採血や抗真菌治療よりも、生検または専門施設への紹介を優先します。
貧血がなくても鉄欠乏性舌炎は起こりますか
起こる可能性があります。
鉄欠乏は、まず貯蔵鉄が減少し、その後に造血へ利用できる鉄が不足し、最後にヘモグロビンが低下します。そのため、ヘモグロビンが基準範囲内でも、フェリチンやトランスフェリン飽和度が低下している場合があります。
鉄欠乏を疑う場合は、CBCだけでなく、フェリチン、血清鉄、TIBCまたはトランスフェリン、トランスフェリン飽和度、CRPを組み合わせて評価します。
炎症がある患者さんではフェリチンが上昇するため、正常値や高値であっても鉄利用制限を完全には否定できません。
大球性貧血がなくてもHunter舌炎は起こりますか
起こります。
ビタミンB12欠乏では、明らかな貧血やMCV上昇より先に、赤い平滑舌、舌痛、味覚異常、舌のしびれなどが現れることがあります。
また、鉄欠乏を併存すると、小球性変化と大球性変化が相殺され、MCVが見かけ上正常になることがあります。
赤い平滑舌に味覚異常やしびれを伴う場合には、CBCが正常でもB12を確認し、必要に応じてメチルマロン酸、ホモシステイン、抗内因子抗体、抗胃壁細胞抗体などを追加します。
Plummer–Vinson症候群では、どのような嚥下障害が起こりますか
典型的には、固形物が喉の入り口付近で引っかかるような嚥下障害です。
患者さんは、「肉やパンが止まる」「錠剤が引っかかる」「水で流し込まないと通らない」と表現することがあります。
Plummer–Vinson症候群は、鉄欠乏性貧血、嚥下障害、上部食道ウェブの三徴で診断します。食道ウェブがあるだけ、あるいは鉄欠乏があるだけでは診断できません。
液体も初期から飲みにくい、むせる、構音障害がある場合には、食道ウェブだけでなく、神経・筋疾患を含む口腔咽頭期嚥下障害も考えます。
Candidaが検出されれば、舌痛の原因はカンジダ症ですか
培養陽性だけでは確定できません。
Candidaは健康な人の口腔にも存在する常在真菌です。そのため、検出されたことと、実際に粘膜感染を起こしていることは別です。
診断には、舌の発赤や糸状乳頭萎縮、接触痛、塗抹鏡検での菌糸・仮性菌糸、口腔乾燥や義歯、糖尿病、ステロイドなどの背景、抗真菌治療後の変化を統合します。
抗真菌治療後も同じ場所に固定した赤色病変が残る場合には、口腔扁平苔癬、上皮性異形成、口腔癌などを再評価します。
口が乾いていると感じなくても、唾液分泌が低下していることはありますか
あります。
自覚的な口腔乾燥感と、客観的な唾液分泌低下は必ずしも一致しません。
唾液量が少なくても乾燥を自覚しない患者さんがいる一方、唾液量が大きく低下していなくても、口呼吸、鼻閉、唾液の性状変化、薬剤、粘膜感覚異常などによって強い乾燥感を訴える場合があります。
問診だけで判断せず、口底部の唾液貯留、唾液の粘稠性、ミラーの粘膜への張りつき、唾液腺開口部からの分泌、多発する根面う蝕などを確認し、必要に応じて唾液分泌量を測定します。
抗SSA/Ro抗体が陰性なら、シェーグレン病を否定できますか
完全には否定できません。
抗SSA/Ro抗体は重要な検査ですが、すべてのシェーグレン病患者で陽性になるわけではありません。
反対に、抗SSA/Ro抗体は全身性エリテマトーデスなど、ほかの自己免疫疾患でも陽性になることがあります。
診断には、口腔・眼乾燥症状、唾液分泌検査、眼科的検査、自己抗体、口唇腺生検などを組み合わせます。
口腔乾燥、眼乾燥、唾液腺腫脹、多発う蝕、反復性Candida、関節痛や神経症状が重なる場合には、自己抗体が陰性でも医科連携を検討します。
赤い舌は口腔癌の可能性がありますか
あります。
特に注意するのは、片側性で、同じ場所に固定し、不整な境界、粗造面、顆粒状変化、硬結、易出血性、潰瘍、舌運動制限を伴う病変です。
初期口腔癌や上皮内癌では、明瞭な硬結や強い痛みがない場合があります。
Candidaが検出された、外傷源が近くにある、ステロイドで一部改善したという所見も、口腔癌を否定する根拠にはなりません。
固定性で非典型的な病変では、治療反応を長期間待たず、生検または口腔外科・口腔腫瘍専門施設への紹介を検討します。
地図状舌と腫瘍性の赤色病変は、どのように見分けますか
地図状舌の最も重要な特徴は、病変が移動することです。
白色または黄白色の蛇行した辺縁を伴い、数日から数週で病変の形や位置が変わります。
一方、紅板症や口腔上皮性異形成、初期口腔癌では、同じ場所に固定して残ることが多く、粗造面、陥凹、赤白混在、硬結、易出血性を伴う場合があります。
患者さんが撮影した過去の写真も、移動性を確認するうえで有用です。
数か月間全く動かない、白色辺縁がない、片側性、出血や硬結を伴う場合には、地図状舌という診断を見直します。
ステロイドで改善すれば、口腔扁平苔癬と考えてよいですか
ステロイドへの反応だけでは診断できません。
口腔扁平苔癬ではステロイドが有効なことがありますが、上皮性異形成や癌に重なった炎症も、一時的に軽減する可能性があります。
また、ステロイド使用によってCandidaが増殖し、病変が複雑になることもあります。
典型的な両側性・対称性の白色網状線条が乏しい、片側性で固定する、表面が粗造、硬結や潰瘍がある場合には、治療反応にかかわらず生検を検討します。
水疱が見えなくても、自己免疫性水疱症はありますか
あります。
口腔内の水疱は、食事や舌・歯の接触によって短時間で破裂するため、診察時には水疱ではなく、びらん、潰瘍、上皮剝離、剝離性歯肉炎として見えることが多くなります。
反復する粘膜剝離を認める場合には、尋常性天疱瘡や粘膜類天疱瘡を考えます。
生検では、通常病理用の検体と直接蛍光抗体法用の検体を分けます。DIF用検体をホルマリンへ入れると評価できないため、採取前に病理部門へ搬送方法を確認します。
Burning Mouth Syndromeは、どのように診断しますか
BMSは、見た目に異常がないという理由だけで診断する病気ではありません。
国際口腔顔面痛分類では、口腔内の灼熱痛または異常感覚が1日2時間を超えて反復し、その状態が3か月を超えて持続し、ほかに症状を適切に説明する診断がないことが求められます。
鉄・B12・葉酸欠乏、Candida、口腔乾燥、口腔扁平苔癬、接触性病変、薬剤、糖尿病、神経障害、腫瘍性病変などを、患者さんの所見に応じて評価します。
片側性、電撃様の発作痛、明らかな感覚脱失、舌運動障害がある場合には、典型的なBMSとして扱わず、神経疾患や占拠性病変を検討します。
赤く痛い舌は何科へ紹介すればよいですか
疑う病態によって異なります。
鉄欠乏、B12欠乏、血球異常では内科・血液内科へ、Plummer–Vinson症候群、自己免疫性胃炎、セリアック病などでは消化器内科へつなぎます。
シェーグレン病が疑われる場合は膠原病内科・リウマチ科、自己免疫性水疱症では皮膚科が中心になります。眼症状があれば眼科、嗄声、呼吸困難、咽頭痛、嚥下障害があれば耳鼻咽喉科の評価が必要です。
固定性赤色病変、硬結、易出血性、口腔上皮性異形成・癌が疑われる場合には、口腔外科または口腔腫瘍専門施設へ紹介します。
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