2026年7月13日

(歯科衛生士さんのある日の日誌)

はじめに
「最近、口臭が気になります」
定期検診やクリーニングのときに、このような相談を受けることがあります。
「舌が白いから、もっと舌を磨いた方がよいですか」
「歯石を取れば口臭は治りますか」
「被せ物のところから臭う気がします」
口臭が気になるとき、歯科衛生士は臭いの有無だけを確認しているわけではありません。
持続する口臭の多くは、舌苔や歯周病、口腔乾燥、虫歯、被せ物やブリッジの周囲など、口の中に原因があるとされています。
そのため、舌の表面、歯周ポケット、唾液の状態、被せ物やインプラントの周囲などを順番に確認し、細菌や臭いの材料がたまっている場所を探します。
同じように「口臭が気になる」という悩みでも、必要なケアは人によって異なります。

口臭が気になるとき、臭いだけを確認するわけではありません
口腔内から生じる口臭には、細菌が作る揮発性硫黄化合物が深く関係しています。
舌苔や歯周ポケットにいる細菌が、剥がれた粘膜の細胞、唾液、食べかす、出血などに含まれるタンパク質を分解すると、硫黄を含む臭いのガスが発生します。
代表的なものには、硫化水素やメチルメルカプタンがあります。
硫化水素は舌苔との関連が比較的強く、メチルメルカプタンは歯周病や歯周ポケット内の炎症との関連が強いとされています。
ただし、口臭の原因は一つとは限りません。
舌苔が多く、さらに歯周ポケットにも炎症があり、口腔乾燥も重なっていることがあります。被せ物やブリッジの周囲に、食べ物やプラークが残っていることもあります。
そのため、歯科衛生士は臭いを一時的に隠す方法だけを考えるのではなく、細菌が停滞しやすい場所、清掃しにくい場所、炎症が起きている場所を確認します。

まずは、いつ口臭が気になるのかをお聞きします
口の中を見る前に、口臭がどのような状況で気になるのかを確認します。
起床時だけなのか、空腹時や緊張したときに強くなるのか、日中も続いているのかによって、考え方が変わるからです。
睡眠中は唾液の分泌や舌、頬の動きが少なくなります。そのため、起床直後は細菌や剥離した細胞、臭い物質が停滞しやすく、誰でもある程度の口臭が生じます。
起床時だけ気になり、歯磨きや朝食、水分摂取後に軽くなるのであれば、生理的な変化が中心のことがあります。
一方で、日中もずっと気になる、家族から指摘された、歯ぐきから出血する、膿が出る、特定の場所にフロスを通したときだけ強く臭うという場合には、口腔内の原因を詳しく確認します。
「自分で感じるのか」「誰かから指摘されたのか」も大切です。
自分の口臭は、嗅覚が慣れてしまうため、正確に判断しにくいことがあります。
反対に、診察時には強い口臭が確認されなくても、本人が深く悩んでいることがあります。そのため、すぐに「気にしすぎ」と決めつけることはありません。

【朝起きると口の中がネバネバするのはなぜ?プラークと唾液の関係】
舌では白さだけでなく、舌苔の厚さ・範囲・乾燥を見ます
口臭が気になるときに、まず舌を思い浮かべる方は多いと思います。
舌の表面に付着する舌苔は、単なる食べかすではありません。
舌から剥がれた上皮細胞、唾液成分、白血球、細菌、食物残渣などが集まった、バイオフィルムのようなものです。
歯科衛生士は、舌が白いかどうかだけでなく、舌苔の厚さ、付着している範囲、舌の湿り気、粘膜の状態を確認します。
特に舌苔は、舌の前方よりも中央から奥にたまりやすくなります。
患者さん自身では舌の前方しか見えていないことも多いため、舌の奥側に厚い舌苔が残っていないかを確認します。
舌の亀裂、発赤、痛み、潰瘍、白く拭っても取れない部分など、舌苔だけでは説明できない変化がないかも見ます。
気になる変化がある場合は、歯科医師が診察します。
口臭外来を受診した患者さんを対象にした研究でも、実際に口臭が確認された人は、確認されなかった人より、舌苔の付着量と口臭に関係するガスが多い結果が示されています。
ただし、舌が白いだけで、口臭の有無や強さを判断することはできません。
舌苔の量だけでなく、歯周病や口腔乾燥、補綴物周囲の状態などを合わせて確認する必要があります。

舌磨きは、白い部分をすべてなくすために行うものではありません
舌苔が多い場合には、舌清掃が役立つことがあります。
口臭外来患者を対象にした研究では、舌清掃の習慣がある人は、習慣がない人より、口臭に関係する揮発性硫黄化合物が少ない結果でした。
一方で、舌は強く何度も磨けばよい場所ではありません。
舌ブラシを使う場合は、舌の奥から手前へ、一方向にやさしく動かします。
前後に何度も往復させたり、舌が赤くなるまでこすったりすると、舌乳頭や粘膜を傷つけることがあります。
特に口腔乾燥が強い場合には、舌苔や唾液が硬く付着していることがあります。
その状態で無理にこすると、痛みや出血につながります。
乾燥して硬く付着している場合は、まず口腔内を潤し、舌苔を柔らかくしてから、無理のない範囲で除去します。
舌磨きを続けても口臭が改善しない場合は、歯周病、口腔乾燥、被せ物周囲など、ほかの原因を確認する必要があります。


歯周ポケットでは深さだけでなく、出血や膿を確認します
歯周病も、口腔内から生じる口臭の重要な原因です。
歯周ポケットが深くなると、酸素の少ない環境ができやすくなります。
その中では、タンパク質を分解して臭い物質を作る細菌が活動しやすくなります。
歯科衛生士は、歯周ポケットの深さだけでなく、プロービング時の出血、排膿、歯石、歯肉の腫れ、歯の動揺などを確認します。
出血や歯肉溝滲出液、膿、剥離した細胞は、細菌が臭い物質を作る材料になります。
そのため、歯磨きの回数だけでは口臭の状態は判断できません。
毎日磨いている方でも、歯間部、最後方の歯、被せ物の境目、深い歯周ポケット内に細菌が残っていることがあります。
全体的な歯周病だけでなく、一部の歯だけ極端に深い歯周ポケットがある場合もあります。
根分岐部病変や局所的な膿のたまり、歯根破折を疑う深いポケットなどが、特定の場所だけ強く臭う原因になることもあります。
必要に応じて、歯科医師がレントゲンなども含めて詳しく確認します。
歯周病が原因の場合は、マウスウォッシュで臭いを覆うだけでは不十分です。
歯周ポケット内の細菌や歯石を除去し、炎症を減らす必要があります。

フロスを通したときだけ臭う場所も確認します
「フロスを通したとき、いつも同じ場所だけ臭います」と相談されることもあります。
毎回同じ歯間部だけ強く臭う場合は、その部分にプラークや食物残渣が停滞している可能性があります。
歯ぐきに炎症がある、歯周ポケットが深くなっている、食べ物が挟まりやすい、被せ物の境目に段差があるなど、複数の原因が考えられます。
ただし、フロスの臭いだけで虫歯や歯周病と決めることはできません。
出血、フロスの引っかかり、歯周ポケット、被せ物と歯の境目などを合わせて確認します。

虫歯や歯の根の感染が口臭につながることもあります
進行した虫歯や、歯の根の先に感染がある場合も、細菌や膿によって局所的な臭いが生じることがあります。
歯ぐきにニキビのような膨らみがあり、そこから膿が出ている場合は、歯の根の先の感染によってできた膿の出口である可能性があります。
親知らずの周囲に汚れがたまり、歯ぐきが腫れる智歯周囲炎でも、強い臭いが生じることがあります。
このような場合は、口臭だけを抑えるのではなく、原因となっている虫歯や感染の治療が必要です。
痛みがない場合でも感染が進んでいることがあるため、膿や腫れ、特定の歯の違和感がある場合は、歯科医師が詳しく診察します。

口が乾いていないか、唾液の量と状態を確認します
唾液には、口の中を潤す以外にも多くの働きがあります。
食物残渣や剥離した細胞を洗い流し、臭い物質を薄め、粘膜を保護し、口腔内の細菌のバランスを整えています。
唾液が少なくなると、舌苔、プラーク、食物残渣、剥離細胞が口腔内に停滞しやすくなります。
そのため、口腔乾燥は口臭を強める要因になります。
歯科衛生士は、舌や頬粘膜が乾いていないか、唾液が泡状になっていないか、糸を引いていないかを確認します。
ミラーが粘膜に付きやすい、唇や口角が乾いている、舌苔が硬く付着しているといった所見も見ます。
問診では、服用薬、口呼吸、鼻詰まり、睡眠中の開口、水分摂取、喫煙、糖尿病、シェーグレン病、頭頸部への放射線治療歴などを確認します。
薬の影響で唾液が減ることもあります。
また、本人が感じる口の乾きと、実際の唾液分泌量は必ずしも一致しません。
「乾いていません」と感じていても、唾液が泡状になっていたり、舌や粘膜が乾燥していたりすることがあります。
反対に、乾燥感が強くても、唾液量が大きく減っていない場合もあります。


被せ物は、材料より周囲に汚れが残る場所を見ます
「被せ物のところが臭う気がします」と相談されることがあります。
この場合、被せ物の材料そのものが臭っているとは限りません。
被せ物と歯の境目に段差がある、歯ぐきが腫れている、二次う蝕がある、食べ物が挟まりやすい、フロスが引っかかるといった状態がないかを確認します。
被せ物や詰め物の周囲は、天然歯と同じように清掃できるとは限りません。
境目や歯間部にプラークが残ると、細菌が停滞し、臭いの原因になることがあります。
歯科衛生士は、清掃器具が届きにくい形になっていないか、境目に問題が疑われないかを確認します。
必要があれば、歯科医師が適合状態や二次う蝕の有無を詳しく診察します。

ブリッジではポンティックの下と支台歯周囲を確認します
ブリッジでは、ポンティックの下、コネクター周囲、支台歯と被せ物の境目を確認します。
スーパーフロスや歯間ブラシが通るか、サイズが合っているか、食べ物が停滞していないかも重要です。
患者さんが毎日清掃していても、ブリッジの形によっては器具が届きにくいことがあります。
その場合は、磨き方だけでなく、どの清掃器具をどこから通すかを一緒に確認します。
清掃器具がほとんど入らない場合や、支台歯周囲に出血や深い歯周ポケットがある場合は、補綴物の形態や適合状態について歯科医師の確認が必要になることもあります。

【ブリッジの下はどう磨く?スーパーフロスと歯間ブラシの使い分け】
インプラントでは出血・膿・上部構造の形を確認します
インプラント周囲でも、プラークがたまり、炎症が起きると口臭につながることがあります。
歯科衛生士は、インプラント周囲の発赤、腫れ、プロービング時出血、排膿、ポケット深さの変化などを確認します。
インプラント周囲粘膜炎やインプラント周囲炎が起きていないかを見るためです。
上部構造の形も重要です。
インプラントの被せ物の下に歯間ブラシやフロスが届かない形になっていると、患者さんが丁寧に磨いていても、プラークが残ることがあります。
そのため、磨き方だけを指導するのではなく、清掃器具が届く形になっているかも確認します。
出血や排膿がある場合は、セルフケアの見直しだけで済ませず、歯科医師による診察と必要な検査を行います。

入れ歯では粘膜面と夜間の装着状態を確認します
入れ歯を使用している方では、入れ歯の表面だけでなく、粘膜に接する内側も確認します。
入れ歯の粘膜面には、プラークや食物残渣が残りやすくなります。
義歯安定剤が残っていたり、入れ歯の清掃が十分でなかったりすると、細菌や真菌が増えやすくなることがあります。
入れ歯の下の粘膜が赤くなっていないか、痛みや擦れがないか、口腔乾燥が強くないかも確認します。
夜間も入れ歯を装着したままの場合は、粘膜が休めず、細菌や真菌が増えやすくなることがあります。
ただし、夜間の装着については口腔内の状態によって指示が異なります。
自己判断で外したり装着したりせず、歯科医院で確認してください。

マウスウォッシュで臭いが消えても、原因がなくなったとは限りません
口臭が気になると、まずマウスウォッシュを使う方も多いと思います。
マウスウォッシュには、香りで一時的に臭いを感じにくくするものだけでなく、細菌や臭い物質の産生を抑える成分を含むものもあります。
ただし、製品によって目的や成分は異なります。
厚い舌苔、深い歯周ポケット、被せ物周囲のプラーク、強い口腔乾燥が残っていれば、マウスウォッシュだけで原因そのものを解消することはできません。
口臭患者を対象にした研究では、舌清掃習慣がある人では口臭に関係するガスが少なかった一方、洗口剤を使っているかどうかでは、明確な差が認められませんでした。
これは、マウスウォッシュに意味がないということではありません。
原因に合ったケアの補助として使うことはできますが、舌、歯周ポケット、乾燥、補綴物周囲の確認の代わりにはならないということです。

口の中に原因が見つからない場合もあります
持続する口臭の多くは口腔内に原因がありますが、すべてが歯や舌から生じているわけではありません。
鼻炎、副鼻腔炎、扁桃や咽頭の病気など、耳鼻咽喉科領域に原因があることもあります。
胃食道逆流や、一部の呼吸器疾患、肝疾患、腎疾患、代謝性疾患、薬剤、食品などが関係することもあります。
まず口腔内を確認し、舌、歯周組織、虫歯、乾燥、補綴物周囲に明確な原因が見つからず、鼻や喉、全身の症状がある場合には、耳鼻咽喉科や内科への相談を案内することがあります。
「口臭はすべて胃が原因です」「胃はまったく関係ありません」と決めつけるのではなく、口の中に原因があるかを一つずつ確認することが大切です。

口臭が確認されなくても、悩みを否定することはありません
診察時に強い口臭が確認されないこともあります。
それでも、ご本人にとっては、人と話すのが怖い、近くに立てない、何度も歯を磨いてしまうなど、大きな悩みになっている場合があります。
そのようなときに、「臭っていないので大丈夫です」「気にしすぎです」とすぐに終わらせることはありません。
いつから気になるのか、誰かに指摘されたのか、どのような場面で不安になるのか、生活にどの程度影響しているのかを確認します。
舌を強く磨きすぎていないか、歯磨きや洗口を何度も繰り返していないかも見ます。
口臭への不安が強い場合には、実際の臭いの強さだけでなく、不安によって日常生活が制限されていないかも大切な確認項目です。
口臭の有無だけでなく、悩み方そのものを確認することも必要です。

口臭対策は、原因に合った方法を選ぶことが大切です
口臭が気になるとき、必要な対応は人によって異なります。
舌苔が多い場合は、舌を傷つけない清掃方法を確認します。
歯周ポケットに炎症がある場合は、歯石除去や歯周治療、歯間部清掃が必要です。
口腔乾燥がある場合は、服薬や口呼吸などの背景を確認し、保湿や生活上の対策を考えます。
被せ物やブリッジ周囲にプラークや食物残渣が停滞している場合は、清掃方法だけでなく、補綴物の形や適合状態も確認します。
インプラント周囲に出血や排膿がある場合は、インプラント周囲粘膜炎やインプラント周囲炎の検査が必要です。
虫歯や歯の根の感染がある場合は、原因となる歯の治療を行います。
口臭が気になるときに大切なのは、ただ臭いを隠すことではありません。
舌、歯周ポケット、唾液、被せ物やブリッジの周囲を確認し、臭いが作られている場所に合ったケアを選ぶことが大切です。

口臭についてよくある質問
舌が白いと必ず口臭がありますか?
舌苔は口臭の原因になることがありますが、舌が白いだけで口臭の有無や強さは判断できません。
舌苔の厚さや範囲、乾燥、歯周病、補綴物周囲の状態などを合わせて確認します。
舌は毎日磨いた方がよいですか?
舌苔が多い場合には役立ちますが、強く何度も磨く必要はありません。
舌の奥から手前へやさしく動かし、痛みや出血が出る方法は避けてください。
歯石を取れば口臭は治りますか?
歯周病が原因であれば改善が期待できます。
ただし、舌苔、口腔乾燥、虫歯、被せ物やブリッジ周囲の汚れなど、ほかの原因が重なっていることもあります。
被せ物から臭いがすることはありますか?
被せ物の材料そのものより、被せ物と歯の境目、歯ぐきの炎症、二次う蝕、食べ物の停滞などが原因になっていることがあります。
特定の場所にフロスを通したときだけ強く臭う場合は、その部分を詳しく確認します。
フロスを通したときだけ臭うのはなぜですか?
毎回同じ歯間部だけ臭う場合は、プラークや食べ物が残っている、歯ぐきに炎症がある、被せ物の境目に問題があるなどの可能性があります。
出血やフロスの引っかかりがある場合は、歯科医院で確認してください。
朝の口臭は病気ですか?
睡眠中は唾液が減り、細菌や臭い物質が停滞するため、起床時には誰でも口臭が強くなりやすくなります。
歯磨きや朝食、水分摂取後に軽くなる場合は生理的なことが多いですが、日中も続く場合は原因を確認します。
マウスウォッシュだけで口臭対策はできますか?
一時的に臭いを感じにくくしたり、口臭成分の産生を抑えたりする製品もあります。
ただし、舌苔、歯周病、口腔乾燥、補綴物周囲の問題を解決する代わりにはなりません。
原因に合わせたケアと組み合わせて使用することが大切です。
