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唾液腺は自己免疫の現場です/Ro60特異的T-B細胞ループから読み直す口腔乾燥症と歯科臨床

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2026年7月08日

唾液腺は自己免疫の現場です/Ro60特異的T-B細胞ループから読み直す口腔乾燥症と歯科臨床

(院長の徒然コラム)

はじめに

【夜間の口腔乾燥や口呼吸との関係は、こちらのコラムでも整理しています】

口腔乾燥症、いわゆるドライマウスは、歯科臨床では非常にありふれた訴えです。口が乾く、口がねばつく、舌が痛い、味がわかりにくい、義歯が擦れる、口角が切れる、カンジダ症を繰り返す、う蝕が急に増える。こうした訴えは、一般歯科の日常診療でも珍しくありません。

そのため、口腔乾燥はしばしば「唾液が少ない状態」として扱われます。保湿剤を使う。人工唾液を使う。含嗽を指導する。唾液腺マッサージを勧める。薬剤性の可能性を考える。口呼吸や加齢の影響を説明する。もちろん、それらは大切な対応です。

しかし、歯科医師としてもう一段深く見るべき症例があります。

口腔乾燥を「唾液不足」として処理して終わっていないでしょうか。多数歯う蝕、根面う蝕、非典型部位のう蝕、粘稠唾液、舌乳頭萎縮、カンジダ症、歯肉炎を、それぞれ別々の口腔疾患として扱っていないでしょうか。保湿剤や人工唾液で一応の対応をしたあと、背景疾患の検索に踏み込まないまま経過観察していないでしょうか。

特にシェーグレン病、従来の国内文脈でいうシェーグレン症候群に伴う口腔乾燥は、単なる唾液分泌低下ではありません。涙腺や唾液腺などの外分泌腺を標的とする自己免疫疾患の一表現型です。唾液腺局所では、上皮細胞、CD4陽性T細胞、B細胞、形質細胞、抗原提示細胞、マクロファージ、自己抗体、サイトカイン、ケモカインが関与する慢性炎症が進行しています。シェーグレン症候群は、腺組織の破壊により涙液や唾液の産生低下を来すだけでなく、腺外病変を伴う全身性自己免疫疾患でもあります。 

このコラムでは、シェーグレン病/シェーグレン症候群を以下、SSと表記します。

歯科医師はSSを確定診断する立場ではありません。抗SSA/Ro抗体、抗SSB/La抗体、眼科検査、唾液腺画像、口唇腺生検、全身疾患活動性評価までを一人で完結する職種ではありません。

しかし、歯科医師はSSの口腔内表現型を最初に観察しうる立場にいます。患者さんが「自己免疫性唾液腺炎が心配です」と言って来院することは多くありません。多くは、「虫歯が増えた」「口がねばつく」「舌が痛い」「義歯が痛い」「味が変だ」「口角が切れる」といった、歯科医院で拾える訴えとして現れます。

だからこそ、歯科医師はドライマウスを単なる乾燥症状としてではなく、口腔内フェノタイプとして読む必要があります。

口腔乾燥は診断名ではなく、症候です

まず確認すべきことは、口腔乾燥症は単一の診断名というより、複数の原因から生じる症候だという点です。

2024年のドライマウス総説では、ドライマウスは「口腔内の水分が減少することによって起こる不快な症候」と整理されています。成人の約10%が罹患し、本邦では約800万人、高齢者では約20%が罹患すると推定されています。原因としては、SS、頭頸部放射線治療、降圧薬、精神疾患治療薬、抗アレルギー薬などの薬剤性、ストレス、糖尿病、貧血などが挙げられています。 

つまり、口腔乾燥を見た時点で、歯科医師が最初に持つべき問いは、「これは何による乾燥なのか」です。

加齢による乾燥なのか。薬剤性なのか。口呼吸や睡眠時開口なのか。糖尿病や脱水なのか。放射線治療後なのか。ストレスや精神心理的要因なのか。それとも、自己免疫性唾液腺炎なのか。

口腔乾燥という訴えは、これらを区別してくれません。だからこそ、歯科医師は「乾燥感」という主観症状を、そのまま病名に変換してはいけません。

乾燥感は入口です。診断そのものではありません。

唾液は単なる水分ではありません

口腔乾燥を軽く見てはいけない理由は、唾液が単なる水分ではないからです。

唾液には、潤滑作用、食塊形成作用、抗菌作用、緩衝作用、再石灰化作用、口腔粘膜保護作用があります。ドライマウスではこれらの機能が低下し、口腔環境の悪化だけでなく、感染症、嚥下障害、栄養障害、QOL低下に波及しうるとされています。 

歯科臨床に引き寄せると、唾液機能低下とは、単に「口腔内の水が少ない」という話ではありません。潤滑が落ちれば、義歯性疼痛、粘膜損傷、会話困難が起こります。食塊形成が落ちれば、咀嚼困難や嚥下時飲水依存が生じます。緩衝能が落ちれば、酸性環境が持続し、脱灰が進みます。再石灰化能が落ちれば、歯頸部う蝕、根面う蝕、多数歯う蝕が増えます。抗菌能が落ちれば、カンジダ症、口角炎、粘膜炎を繰り返しやすくなります。粘膜保護が落ちれば、灼熱感、舌痛、粘膜発赤が出やすくなります。

臨床では、これらは別々の主訴として現れます。多数歯う蝕には修復処置、カンジダ症には抗真菌薬、舌痛には含嗽薬、義歯痛には義歯調整、歯肉炎にはTBIとスケーリング。それぞれの対応自体は間違いではありません。

しかし、背景に唾液機能低下がある場合、それらはすべて同じ病態の異なる出口です。

口腔乾燥を、単なる主訴としてではなく、口腔内の恒常性が崩れた結果として読む必要があります。

唾液腺を生理学的に見直します

唾液腺は、大唾液腺と小唾液腺に分けられます。大唾液腺である耳下腺、顎下腺、舌下腺が唾液の約95%を産生し、残り約5%を口唇腺、頬腺、舌腺、口蓋腺などの小唾液腺が担うとされています。大唾液腺の中では、顎下腺が安静時唾液の大部分を担い、耳下腺は刺激時唾液で大きく寄与します。安静時唾液は0.3〜0.4mL/min、刺激時唾液は7mL/minとされ、睡眠時には耳下腺分泌がほぼ消失し、顎下腺・舌下腺・小唾液腺が相対的に重要になります。 

この生理を理解すると、臨床で見える乾燥の意味が変わります。

食事中は何とかなるが、夜間に口腔乾燥で覚醒する。会話が長くなると舌が張りつく。義歯装着時だけ痛みが出る。安静時は泡沫状唾液だが、咀嚼刺激ではある程度分泌する。逆に、刺激してもほとんど唾液が出ない。

これらはすべて、唾液腺機能のどの相が障害されているかを示す情報です。

さらに、唾液分泌は腺房細胞、筋上皮細胞、導管細胞の協調で成立します。交感神経刺激ではβ受容体、cAMP、PKAを介してタンパク質分泌が促進されます。一方、副交感神経刺激ではムスカリン受容体、PLC、IP3、Ca²⁺上昇、Cl⁻チャネル、Na⁺/K⁺/2Cl⁻共輸送体、タイトジャンクション、水チャネルAQP5を介して水分泌が成立します。 

つまり、ドライマウスは単に「唾液腺が萎縮した状態」だけではありません。腺房細胞の障害、導管細胞の障害、自律神経調節の障害、水チャネルの障害、タイトジャンクションの障害、炎症性サイトカインによる分泌機構の抑制、唾液中タンパク質や糖鎖修飾の変化、口腔粘膜湿潤度の低下、感覚異常や疼痛の関与が複合して、患者さんの「口が乾く」という訴えになります。

歯科医師は口腔乾燥を「唾液量が少ないかどうか」だけで見てはいけません。唾液量、唾液性状、粘膜所見、う蝕パターン、歯周炎症、カンジダ、舌痛、味覚、嚥下、義歯適合まで含めて、ひとまとまりの口腔内表現型として読む必要があります。

歯科医師が拾うべき口腔内フェノタイプ

SSを疑う入口として、歯科医師が最も使えるのは、血液検査ではありません。口唇腺生検でもありません。Schirmer試験でもありません。

まず、口腔内です。

SS患者の口腔内には、唾液機能低下の結果として多彩な所見が出ます。国内のSS総説でも、口腔乾燥の自覚症状として、口腔内乾燥感、唾液粘稠感、口腔内灼熱感、飲水切望感、夜間の口腔内疼痛、味覚異常、食物摂取困難、嚥下困難が挙げられています。他覚所見としては、口腔内乾燥・発赤、舌乳頭萎縮、溝状舌、歯牙・口腔内汚染、口角びらん、う歯多発、歯肉炎・歯周炎、反復性の耳下腺・顎下腺腫脹が挙げられています。 

これらの所見は、患者さんの訴えを待っていても拾えないことがあります。むしろ、歯科医師が診査の中で見つけにいくべき所見です。

2025年に発表された歯科専門職向けレビューでは、歯科医師・歯科衛生士が未診断の一次性SSを拾う役割が明確に述べられています。そこでは、ドライマウスが重度う蝕、歯の摩耗、歯肉炎、カンジダ症などの重い口腔内像を伴う場合、歯科医師・歯科衛生士にとって一次性SSを疑うred flagになると整理されています。 

この視点は重要です。

単なる乾燥感だけなら、鑑別は広いです。薬剤性、加齢、口呼吸、ストレス、糖尿病、脱水、睡眠時開口など、多くの要因が考えられます。しかし、乾燥感に加えて、明らかな口腔内フェノタイプが重なる場合、話は変わります。

dry mouth alone ではなく、dry mouth plus を見る必要があります。

ここで強調したいのは、これらを個別の病名として並べるのではなく、一つのフェノタイプとして扱うことです。

「根面う蝕が多い患者」ではなく、「唾液機能低下を背景に根面う蝕が多発している患者」として見ます。

「舌痛がある患者」ではなく、「粘膜湿潤低下、カンジダ、味覚異常、灼熱感を伴う乾燥フェノタイプの患者」として見ます。

「歯肉炎が治りにくい患者」ではなく、「プラークコントロール不良に唾液機能低下が重なり、口腔内炎症が維持されている患者」として見ます。

一次性SS患者51名を対象とした2025年の研究では、歯科医師がDMFT、O’Leary index、Loe & Silnes indexを評価し、OHIP-14sp、ESSPRI、ESSDAI、SSDDI、乾燥VAS、唾液分泌量との関連を解析しています。結果として、口腔病変は100%に認められ、DMFT中央値は22、O’Leary index中央値は21、口腔乾燥VAS中央値は60、無刺激シアロメトリー陽性は75%でした。さらに、口腔関連QOLであるOHIP-14spは、疾患活動性指標であるESSDAIや、唾液分泌量そのものではなく、乾燥VASとLoe & Silnes index category 2に独立して関連していました。 

これは歯科医師にとって重要な示唆です。

患者さんの口腔負担は、唾液量だけで決まりません。客観的なシアロメトリーが低いかどうかだけでは、患者さんの口腔関連QOLを十分に説明できません。乾燥感の強さ、歯肉炎症、プラーク、う蝕経験、粘膜所見が重なって、実際の口腔機能障害になります。

つまり、歯科医師が見るべきなのは「唾液が何mL出るか」だけではありません。DMFT、根面う蝕の分布、修復物周囲の二次う蝕、プラークスコア、歯肉炎症、舌乳頭萎縮、粘膜の赤み、カンジダの有無、義歯床下粘膜の状態、乾燥VAS、嚥下時飲水依存、味覚異常、口腔灼熱感を同時に見る必要があります。

また、80名の一次性SS患者を対象とした研究でも、口腔病変を有する患者ではOHIP-14スコアが有意に高く、剥離性口唇炎、歯周病、う蝕、咀嚼困難、嚥下困難、灼熱感、味覚異常などが報告されています。 

この結果は、SSにおける口腔病変が単なる「歯科的合併症」ではないことを示しています。食べる、話す、眠る、義歯を使う、味わう、痛みなく生活するという、口腔機能全体に関わる問題です。

う蝕の本数ではなく、分布と速度を見ます

SSにおけるう蝕は、単に本数が多いだけではありません。どこにできるかが重要です。

通常のプラーク停滞部位だけでなく、歯頸部、根面、平滑面、切端、咬頭部、修復物辺縁など、唾液による緩衝・再石灰化・洗浄の恩恵を受けにくくなった部位に病変が出ます。歯頸部や根面う蝕が短期間に増えた症例、カリエスリスクの説明が通常の食習慣や清掃状態だけではつかない症例では、唾液機能を必ず評価すべきです。

「この人は甘いものを食べているから」
「磨けていないから」
「高齢だから根面う蝕が多い」

もちろん、それらは要因として存在します。しかし、SSや高度な唾液機能低下が背景にある場合、通常のう蝕リスク評価だけでは不十分です。

歯科医師が見るべきなのは、う蝕の量だけではなく、う蝕の分布と進行速度です。そして、分布と速度が通常のリスク評価と合わないとき、唾液機能低下と自己免疫性唾液腺炎を鑑別に入れる必要があります。

【間食頻度とう蝕リスクについては、こちらの衛生士コラムでも整理しています】

自覚症状に頼りすぎてはいけません

SSを疑ううえで、口腔乾燥の自覚症状は重要です。しかし、自覚症状だけに頼ると誤ります。

「口が乾く」と訴えるからSSである。
「口は乾かない」と言うからSSではない。

このような判断はできません。

倉敷成人病センターの研究では、SS精査を受けた87名を対象に、SS 49名と非SS 38名を比較しています。口腔乾燥に関する14項目の質問について、SS群と非SS群の間で、乾燥自覚あり・なしの割合に差はありませんでした。つまり、14項目すべてにおいて、自覚症状だけではSSと非SSを分けられませんでした。 

この事実は、歯科医師が必ず押さえるべきです。

ここで、xerostomia と hyposalivation を分けておく必要があります。xerostomiaは、患者さんが感じる口腔乾燥感です。hyposalivationは、測定可能な唾液分泌量低下です。

2025年の歯科専門職向けレビューでも、xerostomiaは口腔乾燥の経験であり、hyposalivationは測定可能な唾液流量低下として区別されています。無刺激全唾液流量、UWSFが0.1mL/min未満になると2016年ACR/EULAR分類基準の一項目となり、正常のUWSFは0.2〜0.3mL/minとされています。 

臨床では、この二つがしばしばズレます。

強い乾燥感を訴えるが、唾液分泌量は保たれている。唾液分泌量は低下しているが、患者さんは乾燥を強く自覚していない。口腔粘膜は乾燥しているが、主訴は舌痛や味覚異常である。多数歯う蝕が進行しているが、患者さん本人は「乾く」とは言わない。口腔乾燥感よりも、夜間覚醒、粘つき、飲水依存、乾いた食品の摂取困難として訴える。

したがって、質問は「口が乾きますか」だけでは足りません。

倉敷成人病センターの研究で用いられた14項目には、口の中が乾く、唾が出にくい、いつも水が欲しい、夜中に口が乾いて目が覚める、水がないと乾いた食べ物が飲み込みにくい、乾いた食べ物が口の中に張りつきやすい、長時間話しづらい、口の中が痛い、みかんや醤油が舌や口にしみる、味がわかりにくい、口の中がねばねばする、口の端が切れやすい、唇が乾いて荒れる、虫歯が増えた、という項目が含まれていました。 

この質問群は、歯科臨床にそのまま応用できます。

乾燥感だけを聞くのではありません。粘稠感を聞きます。夜間覚醒を聞きます。飲水依存を聞きます。乾燥食品の摂取困難を聞きます。長時間会話の困難を聞きます。舌や粘膜の疼痛を聞きます。酸味・醤油の刺激痛を聞きます。味覚異常を聞きます。口角炎を聞きます。唇の乾燥を聞きます。う蝕増加を聞きます。

このように聞くことで、単なる「乾く/乾かない」よりも、唾液機能低下の臨床像に近づくことができます。

ただし、それでも自覚症状は診断の決め手にはなりません。

同研究では、乾燥自覚症状だけではSSと非SSを分けられなかった一方で、唾液腺エコーは一定の診断補助能を示しています。SS診断における唾液腺エコーの感度・特異度は、Ariji法で70.7%・91.7%、OMERACT法で68.3%・91.7%でした。 

これは、二つのことを示しています。

一つは、自覚症状には限界があるということです。もう一つは、非侵襲的な他覚評価を組み合わせる意義があるということです。

歯科医院で唾液腺エコーまで行うかどうかは、施設の機能によります。しかし、歯科医師がすべきことは明確です。自覚症状を聞きます。口腔内フェノタイプを見ます。唾液量や唾液性状を評価します。薬剤歴と全身疾患を確認します。眼乾燥、耳下腺・顎下腺腫脹、関節症状、レイノー、皮膚症状などを拾います。SSを疑うなら、抗SSA/Ro抗体、眼科検査、唾液腺画像、口唇腺生検などへ接続します。

この流れを持つことが重要です。

【朝の口のねばつきや唾液低下については、こちらの衛生士コラムでも整理しています】

SSは「乾燥症」ではなく、自己免疫性外分泌腺炎です

SSを歯科医師が理解するとき、最も避けるべき誤解は、SSを「口と目が乾く病気」としてだけ捉えることです。

もちろん、ドライアイとドライマウスは代表的な症状です。しかし、それはSSの表面です。

SSは、涙腺・唾液腺を中心とした外分泌腺が自己免疫性に障害される疾患であり、全身性自己免疫疾患です。国内資料でも、SSは慢性唾液腺炎と乾燥性角結膜炎を主徴とし、多彩な自己抗体や高ガンマグロブリン血症を伴う自己免疫疾患であり、autoimmune exocrinopathyとも称されると整理されています。 

「乾燥症」ではありません。自己免疫性外分泌腺炎です。

この視点を持つだけで、歯科臨床での見え方は変わります。

口腔乾燥は、唾液腺の分泌能が落ちた結果です。しかしその背景では、唾液腺組織にリンパ球が浸潤し、腺房が萎縮・消失し、導管周囲に炎症が起こり、小葉内・小葉間間質の線維化や脂肪変性が生じます。国内の総説でも、SSの病理組織像として、涙腺・唾液腺の導管周囲リンパ球浸潤、腺房の萎縮や消失、線維化、脂肪変性が挙げられ、浸潤リンパ球はCD4陽性T細胞優位とされています。 

歯科医師が診ているのは、単に乾いた粘膜ではありません。その背後に、自己免疫性の腺組織障害がありうるということです。

SSは、他の膠原病を合併しない一次性SSと、関節リウマチ、SLE、全身性強皮症など他の膠原病に伴う二次性SSに大別されます。一次性SSはさらに、病変が涙腺・唾液腺などの外分泌腺に限局する腺型と、外分泌腺以外の全身諸臓器に及ぶ腺外型に分類されます。 

この分類は、歯科医師にとっても意味があります。

歯科医院で出会う口腔乾燥患者さんの中には、すでに関節リウマチやSLE、強皮症を持つ方がいます。関節リウマチで通院中である。膠原病内科にかかっている。抗リウマチ薬やステロイドを服用している。レイノー現象がある。自己免疫疾患の既往がある。抗核抗体や抗SSA/Ro抗体陽性を指摘されたことがある。

こうした患者さんに口腔乾燥、多数歯う蝕、カンジダ症、粘稠唾液が重なれば、二次性SSを含めた評価が必要になります。

厚労省研究班による2011年全国疫学調査では、国内患者数は68,483人、有病率0.05%と推定されています。男女比は1:17.4で圧倒的に女性に多く、発症年齢のピークは40〜60歳代でした。病型は一次性SSが58.5%、二次性SSが39.2%、一次性SSのうち腺型が69.1%、腺外型が24.7%でした。 

この数字をどう読むべきでしょうか。

一つは、SSは歯科臨床で遭遇しうる疾患であるということです。もう一つは、未診断例が相当数存在しうるということです。

SS患者さんは、最初から「私はSSです」と言って歯科医院に来るとは限りません。むしろ、未診断のまま、「虫歯が増えた」「口がねばつく」「舌が痛い」「義歯が痛い」「口角が切れる」「味が変だ」「歯が急に悪くなった」という形で歯科医院に来ることがあります。

歯科医師がその背景を読めるかどうかで、診断への道筋が変わります。

診断基準を歯科医師の視点で読む

SSの診断は、単一の症状や単一の検査で決まるものではありません。

口が乾く。目が乾く。抗SSA/Ro抗体が陽性である。唾液量が少ない。口唇腺にリンパ球浸潤がある。これらはいずれも重要です。しかし、いずれか一つだけでSSと断定することはできません。

歯科医師が理解すべきなのは、診断基準を丸暗記することではなく、どの検査が何を見ているのかです。

国内で広く使われてきた1999年厚生労働省研究班の改訂診断基準では、病理組織検査、口腔検査、眼科検査、血清検査の4項目のうち2項目以上が陽性であればSSと診断します。口腔検査には、唾液腺造影異常、ガムテスト10分間で10mL以下、サクソンテスト2分間2g以下と唾液腺シンチグラフィーでの機能低下所見が含まれます。血清検査では抗SS-A抗体または抗SS-B抗体が用いられます。 

一方、国際的には2016年ACR/EULAR分類基準が広く参照されます。この基準では、口唇腺生検でfocus score ≥1、抗SSA/Ro抗体陽性、眼表面染色、Schirmer試験、無刺激全唾液流量≤0.1mL/minを点数化し、合計4点以上で分類します。 

ここで歯科医師にとって重要なのは、2016年ACR/EULAR基準が抗SSA/Ro抗体と口唇腺生検を重く見ている点です。抗SSA/Ro抗体陽性と口唇腺focus score ≥1はいずれも3点であり、それぞれ単独でかなり大きな重みを持ちます。

ただし、分類基準は本来、臨床研究や臨床試験の患者分類のために作成されたものであり、日常診療の診断そのものを機械的に代替するものではありません。臨床では、分類基準を参考にしつつ、症状、口腔内所見、眼科所見、血清所見、唾液腺画像、病理所見を総合して判断する必要があります。 

歯科医師がここから学ぶべきことは、次の一文に尽きます。

乾燥症状だけではSSではありません。しかし、乾燥症状に口腔内表現型が重なったとき、SSを疑うだけの十分な理由になります。

2016年ACR/EULAR分類基準をどう歯科臨床へ落とし込むか

2016年ACR/EULAR分類基準では、口唇腺生検でfocus score ≥1が3点、抗SSA/Ro抗体陽性が3点、眼表面染色、Schirmer試験、無刺激全唾液流量≤0.1mL/minがそれぞれ1点とされています。合計4点以上で分類されます。 

この構造は、歯科医師にとって非常に示唆的です。

第一に、口腔乾燥の訴えだけでは重みが足りないということです。乾燥感があるからSS、という判断はできません。

第二に、客観的な唾液分泌量低下が評価項目に入っているということです。無刺激全唾液流量≤0.1mL/minは1点です。点数としては大きくありませんが、歯科医師が直接関与しやすい領域です。

第三に、抗SSA/Ro抗体と口唇腺生検が重いということです。これは歯科医師単独で完結する検査ではありません。だからこそ、口腔内フェノタイプを拾った時点で、適切な医科・専門施設へつなぐ判断が重要になります。

第四に、分類基準に含まれない臨床所見も、紹介判断では重要だということです。唾液腺腫脹、舌乳頭萎縮、カンジダ症、根面う蝕多発、義歯床下粘膜の脆弱性、味覚異常、嚥下時飲水依存などは、分類基準の点数表にそのまま載るわけではありません。しかし、歯科臨床ではSSを疑ううえで極めて重要なサインになります。

つまり、歯科医師は分類基準の採点者ではありません。疑い症例の設計者です。

口腔内フェノタイプを見て、乾燥の背景を整理し、唾液機能を評価し、薬剤性・代謝性・生活因子を確認し、それでも自己免疫性唾液腺炎が疑われる場合に、抗SSA/Ro抗体、眼科検査、唾液腺画像、口唇腺生検へ接続する。この流れが重要です。

口腔乾燥をすぐSSにしてはいけません

口腔乾燥を診たとき、歯科医師がやってはいけない短絡が二つあります。

一つは、すべてを「年齢のせい」「薬のせい」にしてしまうことです。もう一つは、乾燥があるだけでSSにしてしまうことです。

SSは重要な鑑別です。しかし、口腔乾燥の原因は非常に広いです。

薬剤性口腔乾燥、糖尿病、貧血、脱水、頭頸部放射線治療後、ストレスなどは日常歯科臨床で頻繁に遭遇します。ドライマウス総説でも、SS、頭頸部放射線治療、薬剤性、ストレス、糖尿病、貧血などが原因として挙げられています。 

また、SSの鑑別診断としては、薬剤性、糖尿病、甲状腺疾患、腎不全、放射線治療、HCV、HIV、サルコイドーシス、アミロイドーシス、GVHD、IgG4関連疾患などを意識する必要があります。2016年ACR/EULAR基準でも、頭頸部放射線治療歴、活動性HCV感染、AIDS、サルコイドーシス、アミロイドーシス、GVHD、IgG4関連疾患などが除外疾患として扱われます。 

歯科医師は、ここで鑑別診断を完結する必要はありません。しかし、乾燥の背景を尋ねる責任はあります。

薬剤歴、放射線治療歴、糖尿病、腎疾患、甲状腺疾患、膠原病既往、眼乾燥、耳下腺・顎下腺腫脹、口呼吸、睡眠、精神心理的背景、抗コリン作用のある薬剤、口腔カンジダ症、唾液腺腫脹の左右差。これらを聞かずに「ドライマウス」と処理するのは、専門職として不十分です。

【糖尿病と歯周病・慢性炎症の関係は、こちらの院長コラムでも整理しています】

鑑別で特に注意したいIgG4関連涙腺・唾液腺炎

とくに歯科医師が意識しておきたい鑑別が、IgG4関連涙腺・唾液腺炎、IgG4-DSです。かつてMikulicz病はSSの亜型のように扱われてきた時代がありましたが、現在ではIgG4関連疾患の涙腺・唾液腺病変として、SSとは異なる病態として整理されます。IgG4-DSは高IgG4血症、涙腺・唾液腺の腫脹、IgG4陽性形質細胞浸潤や線維化を特徴とします。 

ここで重要なのは、血清IgG4高値だけでIgG4関連疾患と診断してはいけないという点です。

九州大学の研究では、悪性腫瘍やCastleman病でも血清IgG4高値を示すことがあり、IgG4関連疾患の確定診断には病変局所の組織生検による病理診断が重要であると整理されています。 

歯科臨床では、耳下腺や顎下腺の腫脹を伴う患者さんを診ることがあります。このとき、乾燥があればSS、腫れていれば唾液腺炎、という単純な判断は危険です。

乾燥と腫脹がある症例では、SSだけでなく、IgG4関連疾患、サルコイドーシス、リンパ腫、唾液腺腫瘍などを鑑別に入れる必要があります。

特に、持続性の片側唾液腺腫脹、硬い顎下腺腫大、リンパ節腫脹、全身症状、唾液腺腫脹の左右差が目立つ場合は、安易に「ドライマウスの一部」として扱うべきではありません。口腔外科、耳鼻咽喉科、リウマチ膠原病内科などでの精査につなぐべき症例です。

唾液腺局所免疫の場を理解します

SSを自己免疫性外分泌腺炎として捉えるには、唾液腺局所で何が起きているのかを理解する必要があります。

かつてSSは、自己免疫により唾液腺が破壊され、その結果として唾液が減る病気、という理解で語られがちでした。もちろん、その理解は間違いではありません。唾液腺のリンパ球浸潤、腺房萎縮、腺房消失、線維化はSSの重要な病理所見です。

しかし現在の理解では、それだけでは足りません。

唾液腺上皮細胞は、単に攻撃される標的ではありません。免疫反応を起こし、維持し、増幅する主体でもあります。

SSはしばしば “autoimmune epithelitis” と表現されます。上皮細胞は自己免疫過程の標的であると同時に、開始因子としても振る舞います。レビューでは、上皮細胞が標的であると同時に自己免疫プロセスの開始因子でもあり、炎症性サイトカインを産生して唾液腺機能障害に関わると整理されています。 

この視点は歯科医師にとって重要です。

なぜなら、歯科医師が診ている口腔乾燥は、単に腺房細胞が失われた後の終末像ではなく、唾液腺上皮、T細胞、B細胞、自然免疫、サイトカイン、ケモカインが相互作用する過程の一部かもしれないからです。

SSの病態では、唾液腺上皮細胞が自己抗原の供給、HLA分子を介した抗原提示への関与、共刺激分子の発現、BAFF産生、ケモカイン産生、T細胞・B細胞のリクルート、tight junction障害、分泌機構障害、アポトーシスによる自己抗原露出に関与します。全身性自己免疫疾患としてのSSレビューでは、上皮細胞が自己免疫の標的であると同時に免疫活性化のトリガーであり、Ro/SSAやLa/SSBなどのリボ核タンパク複合体の発現、T細胞との相互作用、BAFFやIL-21などのサイトカイン産生、CXCL12などのケモカイン産生に関与すると整理されています。 

唾液が減る理由は、腺房細胞が単純に消えたからだけではありません。上皮細胞の極性が崩れます。tight junctionが乱れます。水チャネルの局在が変わります。導管上皮が炎症性ケモカインを出します。IFNやTNFが分泌機能を抑えます。免疫細胞がさらに集まります。その結果、唾液の量だけでなく、質も変わります。

つまり、SSの口腔乾燥は、腺組織の破壊と機能的障害の両方で成立しています。

IFN signature、BAFF、B細胞過活性

SSの病態で重要なキーワードの一つが、IFN signatureです。

2025年の歯科専門職向けレビューでは、pSSでは血液および標的組織、特に唾液腺において、type Iまたはtype II IFN signatureが50%以上の患者で認められるとされています。IFNの増加はBAFF産生を促し、BAFFはB細胞の生存、増殖、成熟を刺激します。B細胞過活性はpSSの特徴であり、抗SSA、抗SSB、リウマトイド因子、高ガンマグロブリン血症、唾液腺内異所性胚中心に反映されます。 

この流れを整理すると、遺伝的素因や環境因子を背景に、唾液腺上皮や免疫細胞がIFN応答を示し、IFNがBAFFを誘導し、BAFFがB細胞を生存・活性化させ、B細胞が自己抗体を産生し、自己抗体と免疫複合体が炎症を維持し、唾液腺局所にリンパ球浸潤が続く、という構図になります。

SSではB細胞が極めて重要です。

自己抗体レビューでは、SSの唾液腺にはB細胞クラスターを含む巣状リンパ球浸潤がみられ、B細胞過活性は炎症の慢性化と増悪に重要であるとされています。高ガンマグロブリン血症、抗Ro/SSA、抗La/SSB、リウマトイド因子はSSの重要な血清学的特徴です。 

また、B細胞の唾液腺浸潤にはCXCL13が関与します。CXCL13はB細胞を引き寄せるケモカインであり、唾液腺上皮細胞などが発現します。CXCL13とその受容体CXCR5は、Tfh細胞とB細胞を引き寄せ、外分泌腺内の異所性胚中心様構造形成に関与します。 

さらにBAFFとAPRILは、B細胞生存、形質細胞寿命、自己抗体産生を促進します。自己抗体レビューでは、type I IFNがBAFF/APRIL軸を介してB細胞過反応性に関与し、局所の炎症性唾液腺環境がB細胞活性化と自己反応性形質細胞の長期生存を支えると整理されています。 

この理解は、SSを「血液中に自己抗体がある病気」としてではなく、唾液腺局所で自己抗体産生が起こる病気として捉えるために必要です。

異所性胚中心とリンパ腫リスク

SSの唾液腺病変では、リンパ球浸潤が強くなると、異所性胚中心様構造が形成されることがあります。これは、唾液腺が単に炎症を受けているだけではなく、局所で免疫応答が組織化されていることを意味します。

自己抗体の関するレビューでは、SS患者の唾液腺の一部で機能的な胚中心形成が起こり、focus score、細胞浸潤、自己抗体産生と相関するとされています。また、慢性的な抗原刺激はB細胞のクローン拡大とリンパ腫発生につながりうるとされています。pSS患者では非ホジキンリンパ腫、特にMALTリンパ腫のリスクが高く、外分泌腺生検における胚中心様構造はリンパ腫発生の素因となりうると整理されています。 

歯科医師がリンパ腫リスクを直接管理するわけではありません。しかし、SSが単なる乾燥症ではなく、B細胞過活性を伴う全身性自己免疫疾患であることは知っておくべきです。

特に、持続性の唾液腺腫脹、片側優位の腫脹、硬結、リンパ節腫脹、全身症状、紫斑、低補体、クリオグロブリン血症などが疑われる場合は、歯科単独で抱える所見ではありません。

歯科医師が日常で拾う「唾液腺が腫れる」「口が乾く」「歯が崩れる」という所見の中に、単なる乾燥症とは異なる全身疾患のサインが隠れていることがあります。ここを見落とさないことが重要です。

導管上皮、JAK/STAT、CXCL10

徳島大学口腔内科学分野のJAK阻害薬に関する総説では、一次性SS患者の口唇腺でIFN関連分子とCXCL10が上昇しており、IFN-γ刺激を受けた唾液腺導管細胞がJAK/STAT経路を介してCXCL10を著明に分泌し、CXCR3陽性免疫細胞をリクルートすることが示されています。さらに、pSS口唇腺ではリン酸化JAK1とJAK2が導管上皮細胞に強く発現し、JAK1/2阻害薬バリシチニブがIFN-γ誘導性CXCL10発現とSTAT1/3リン酸化を抑制したとされています。 

これは、歯科医師にとって非常に重要な視点です。

導管上皮は、単に唾液を運ぶ管ではありません。炎症の場では、免疫細胞を呼び込むシグナルを出します。つまり、導管上皮は破壊される構造物であるだけでなく、炎症を維持する発信源でもあります。

この理解があると、SSの病変像は立体的になります。

腺房細胞が萎縮します。導管周囲にリンパ球が浸潤します。導管上皮がIFN刺激に応答してCXCL10を出します。CXCR3陽性T細胞やマクロファージが集まります。局所炎症が持続します。さらにB細胞が集まり、自己抗体産生が起こります。

これは、単なる唾液不足ではありません。唾液腺内で免疫反応が組織化されているということです。

TLR8陽性単球/マクロファージと自然免疫

さらに、自然免疫側も無視できません。

九州大学の研究では、SS唾液腺でTLR8の発現が亢進しており、主な発現細胞はCD68陽性単球/マクロファージでした。TLR8を過剰発現させたヒト単球細胞株ではTLR8アゴニスト刺激によりTNF-α産生が有意に亢進し、ノックアウトではTNF-α産生がほとんど認められませんでした。TNF-αはTh1誘導型炎症を引き起こし、SSにおける唾液腺組織破壊やアポトーシスに関与するとされています。 

この話は、SSをT細胞・B細胞だけの疾患として理解してはいけないことを示しています。

SSの唾液腺病変では、上皮細胞、T細胞、B細胞、マクロファージ、TLR、TNF-α、IFN、BAFF、CXCL10、CXCL13、APRILが重なって、慢性炎症のネットワークを作ります。

歯科医師が見ている口腔乾燥は、その免疫ネットワークの出口です。

口腔マイクロバイオームは乾燥環境で変わります

唾液腺内で起きる免疫病態は、口腔内環境にも波及します。

SSにおける口腔マイクロバイオームのレビューでは、SSの口腔内を “drought environment”、すなわち乾燥環境として捉え、唾液、舌、歯面、粘膜、歯肉といったニッチごとのmicrobial biomapを論じています。現時点ではSSに特異的な単一のマイクロバイオームを確立できるほどではありませんが、乾燥環境下ではGram陽性菌が相対的に多い傾向があり、唾液流量低下だけでdysbiosisを説明できるわけではないとされています。 

唾液が減ると自浄性が落ちます。それだけではありません。pHが変わります。酸素分圧が変わります。粘膜湿潤が変わります。抗菌タンパクが変わります。糖タンパクや唾液タンパクの修飾が変わります。宿主免疫が変わります。歯面、舌、粘膜、歯肉という各ニッチの微生物環境が変わります。

その結果、う蝕、カンジダ症、粘膜炎、舌痛、口臭、歯肉炎症が生じやすくなります。

つまり、SSに伴う口腔乾燥は、唾液腺局所の自己免疫、唾液量・質の変化、口腔内ニッチの変化、口腔疾患フェノタイプの形成という流れで捉えるべきです。

Ro60特異的T-B細胞ループ

ここがこのテーマの主軸です。

2026年に慶應義塾大学医学部などの研究グループがScience Advancesに報告した研究は、SSの唾液腺病変を理解するうえで非常に重要です。その理由は、SSにおける自己免疫反応を、単に「自己抗体がある」「リンパ球が浸潤している」というレベルではなく、Ro60という共有抗原を介したCD4陽性T細胞とB細胞の病的相互作用として示した点にあります。 

歯科医師が診ている口腔乾燥の背後で、唾液腺局所では何が起きているのでしょうか。この研究は、その問いに一つの明確な分子像を与えています。

SSでは、抗SSA/Ro抗体が重要な自己抗体として知られています。しかし、ここでまず確認すべきことがあります。

「抗SSA/Ro抗体」とひとことで言っても、その標的は単一ではありません。Ro/SSA抗原はしばしばRo52とRo60の二成分として語られますが、Ro52/TRIM21とRo60/SSAは別個のタンパクであり、本来は分けて理解すべきです。Ro52/TRIM21はTRIMファミリータンパクであり、Ro60/SSAはRNA結合タンパクです。 

この区別は、この研究を読むうえで非常に重要です。主役は、抗SSA/Ro一般ではありません。Ro60です。

Science Advances論文でも、抗SSA/Ro抗体はRo60とRo52の二つの異なるタンパクを標的にし、Ro60またはRo60とRo52の両方に対する抗体はSjDやSLEに関連しやすい一方、抗Ro52単独はより広い疾患でみられると整理されています。 

したがって、歯科医師向けに正確に言うなら、SSで抗SSA/Ro抗体が陽性である、という血清学的情報だけで満足してはいけません。Ro52/TRIM21とRo60/SSAは異なります。この研究は、そのうちRo60を共有抗原として、T細胞とB細胞が唾液腺局所で結びつく可能性を示した研究です。

これまで見えていたB細胞側

SSではB細胞過活性が病態の中心にあります。

唾液腺にはB細胞が浸潤し、BAFF、APRIL、CXCL13、Tfh細胞、異所性胚中心様構造などを介して、B細胞の生存、活性化、形質細胞分化、自己抗体産生が支えられます。 

慶應の研究グループは、この論文以前から、SSの病変局所に浸潤した抗体産生細胞を解析していました。Science Advances論文では、これまでに唾液腺浸潤抗体産生細胞から250以上のモノクローナル抗体を作成し、血清抗SSA/Ro陽性または抗セントロメア抗体陽性の患者では、病変局所由来抗体の約30%がRo60またはセントロメア抗原に反応することを示していたと述べられています。 

これは重要です。

自己抗体は、単に血液中に浮いているものではありません。SSでは、唾液腺局所に浸潤したB細胞・形質細胞が、Ro60に反応する自己抗体を実際に作っています。

つまり、唾液腺は自己抗体産生の被害現場ではなく、生産現場でもあります。

未解決だったT細胞側

一方で、長く不明だったのがT細胞側です。

SSの唾液腺にはCD4陽性T細胞が浸潤します。病理組織学的にも、導管周囲にリンパ球浸潤を認め、浸潤リンパ球はCD4陽性T細胞が優位とされています。 

さらに、SSではHLA class IIが遺伝的リスクと強く関係します。HLA class IIは、抗原提示細胞が外来または自己由来ペプチドを提示し、それをCD4陽性T細胞がTCRで認識するための分子です。

ここに一つの大きな疑問がありました。

B細胞はRo60を標的にしています。では、唾液腺に浸潤するCD4陽性T細胞は何を見ているのでしょうか。B細胞と同じRo60を見ているのでしょうか。それとも、まったく別の抗原を見ているのでしょうか。

この問いに答えるのが、今回の研究です。

Science Advances論文は、SSでは抗Ro60自己抗体を産生するB細胞が唾液腺病変に存在する一方、CD4陽性T細胞の抗原特異性は不明だったとし、局所自己抗体産生にT細胞が関わるという蓄積した知見を背景に、唾液腺浸潤CD4陽性T細胞のRo60反応性を包括的に調べたと述べています。 

この問いが重要なのは、SSの病変局所を「B細胞が抗体を作る場所」としてだけでなく、「T細胞とB細胞が同じ自己抗原を共有して反応を増幅する場所」として見直すことにつながるからです。

TCR-HLA class II-peptideを再構成する研究です

この研究で優れているのは、病変局所のT細胞を単に表面マーカーで分類しただけではない点です。

研究グループは、SS患者の唾液腺病変から免疫細胞を取り出し、シングルセルRNA解析とTCRレパトア解析を行いました。そこから、病変部でクローン性に増えているTCR配列を同定し、それをTCRレポーター細胞に発現させ、患者由来HLA class II上に提示されたRo60ペプチドに反応するかを調べています。慶應プレスリリースでも、シングルセル解析とT細胞レポーター解析を組み合わせ、200種類以上のT細胞受容体を解析して13種類のRo60反応性T細胞受容体を特定したと説明されています。 

この方法の意味を、歯科医師向けに整理します。

T細胞は、抗原をそのまま見るわけではありません。抗原提示細胞がタンパクを取り込み、ペプチドに分解し、HLA class IIに載せて提示します。CD4陽性T細胞は、自分のTCRを使って、HLA class IIとペプチドの組み合わせを認識します。

つまり、T細胞が何を見ているかを調べるには、TCR、HLA class II、ペプチドの三者をそろえる必要があります。

これが難しいのです。HLAは患者ごとに違います。TCRとHLA/ペプチドの結合は抗体抗原反応ほど単純ではありません。TCRの親和性は低く、反応を検出しにくいからです。

この研究は、その困難な部分を、患者由来TCR、患者HLA、Ro60ペプチド、TCRレポーター系を組み合わせることで突破しています。

専門的に言えば、病変局所でクローン拡大したCD4陽性T細胞TCRについて、TCR-HLA class II-Ro60 peptideの三者対応を実験的に再構成した研究です。

ここで歯科医師が押さえるべき点は、研究手法の細部そのものではありません。唾液腺病変に浸潤しているT細胞が、偶然そこにいるわけではなく、自己抗原を認識してクローン性に増えている可能性があるという点です。

炎症組織にT細胞がいる、というだけなら多くの慢性炎症で見られます。しかし、どの抗原を見ているのかまで同定することは簡単ではありません。そこにRo60という共有抗原が示されたことで、SSの病変局所は、より明確に抗原駆動性の免疫反応の場として理解できるようになります。

Ro60反応性TCRはTph/Tfh系に多く認められました

Science Advances論文の結論は明確です。

日本人および白人SS患者の唾液腺病変から得られた200以上のTCRをスクリーニングし、13種類のRo60反応性TCRを同定しました。それらは主にT peripheral helper/T follicular helper、すなわちTph/Tfh系に発現していました。さらに、Ro60は自己抗体存在下で抗原提示細胞に効率よく貪食され、Ro60特異的T細胞に提示されて活性化を引き起こしました。 

ここで重要なのは、Ro60反応性T細胞が「いた」というだけではありません。それらがTph/Tfh系に多かった点です。

Tfh細胞は、リンパ濾胞内でB細胞の抗体産生やクラススイッチ、親和性成熟を助けるT細胞です。Tph細胞は、炎症組織内でB細胞ヘルプを担う細胞として注目されています。

つまり、Ro60に反応するCD4陽性T細胞がTph/Tfh系に多いということは、単にRo60を認識しているだけでなく、Ro60反応性B細胞を助ける能力を持つ細胞集団である可能性が高いということです。

ここで、病態像が一気につながります。

B細胞はRo60抗体を作ります。T細胞もRo60を認識します。しかも、そのT細胞はB細胞ヘルプに関わるTph/Tfh系です。

これは、T細胞とB細胞が唾液腺局所で同じ自己抗原を共有しながら、互いに反応を維持している可能性を示します。

Ro60免疫複合体がT細胞活性化を増幅します

さらに重要なのが、免疫複合体の話です。

慶應プレスリリースでは、Ro60タンパク質と患者由来自己抗体を結合させた免疫複合体を人工抗原提示細胞に加えることで、HLAとペプチドの候補を作り、TCR反応を網羅的に調べたと説明されています。 

Science Advances論文でも、Ro60は自己抗体存在下で抗原提示細胞に効率よく取り込まれ、Ro60特異的T細胞に提示されて活性化を誘導したとされています。 

これは、病態を考えるうえで非常に重要です。

自己抗体があると、Ro60は抗Ro60抗体と結合して免疫複合体を作ります。免疫複合体は、抗原提示細胞に効率よく取り込まれます。取り込まれたRo60はペプチドに分解され、HLA class II上に提示されます。それをRo60特異的CD4陽性T細胞が認識します。活性化したTph/Tfh細胞はB細胞を助けます。B細胞はさらに抗Ro60抗体を作ります。

この流れは、自己免疫反応の悪循環です。

慶應プレスリリースは、この関係を「CD4陽性T細胞とB細胞が互いに働きかけながらRo60に対する免疫反応を増幅する、自己免疫の悪循環」と表現しています。 

歯科医師向けに言い換えれば、SSの唾液腺病変は、単にリンパ球が集まっている場所ではありません。Ro60を共有抗原として、T細胞とB細胞が互いを維持し合う自己免疫反応の反応炉です。

HLA class IIリスクを、抗原提示の文脈で理解します

SSではHLA class IIが遺伝的リスクとして重要です。

Science Advances論文では、日本人の血清抗Ro60抗体陽性SS患者において、DRB108:03-DQA101:03-DQB106:01、DRB115:01-DQA101:02-DQB106:02などが濃縮していました。また、同定されたRo60反応性TCRの一部はDRB115:01、DQA101:02/DQB106:02、DPB105:01などに拘束されていました。 

HLAの話は、歯科医師向けコラムでは深入りしすぎると散ります。しかし、ここでは触れる価値があります。

なぜなら、HLA class IIがSSリスクになるという事実を、単なる遺伝統計としてではなく、自己抗原ペプチド提示の能力差として理解できるからです。

HLA class IIは、CD4陽性T細胞にペプチドを見せる分子です。もし特定のHLAがRo60由来ペプチドを提示しやすいなら、そのHLAを持つ個体ではRo60特異的CD4陽性T細胞が活性化されやすくなる可能性があります。

もちろん、HLAを持っていれば必ずSSを発症するわけではありません。しかし、HLA class IIのリスクを、TCR-HLA-peptide認識の文脈で見ると、SSの病態はより立体的に見えます。

遺伝的素因としてのHLA。自己抗原としてのRo60。それを提示する抗原提示細胞。それを認識するCD4陽性T細胞。それに助けられて抗体を作るB細胞。

この一連の流れが、この研究によってつながったといえます。

この研究の意義は、三つあります。

第一に、SSの病変局所におけるCD4陽性T細胞の主要な標的抗原として、Ro60を分子レベルで示したことです。

第二に、Ro60特異的T細胞がTph/Tfh系に偏っており、B細胞ヘルプと結びつく可能性を示したことです。

第三に、Ro60特異的B細胞とRo60特異的CD4陽性T細胞が、唾液腺局所で病的ループを作る可能性を示したことです。

Science Advances論文は、この研究を、全身性自己免疫において主要なCD4陽性T細胞抗原を分子同定し、共有自己抗原に対する協調的T-B細胞応答を示したものと位置づけています。 

これは、歯科医師にとっても無関係ではありません。

歯科医師が診ている口腔乾燥は、単に「唾液が出ない」という分泌障害ではありません。SSでは、その背後に、Ro60をめぐる自己免疫反応が唾液腺局所で維持されている可能性があります。

つまり、歯科医師が口腔内で観察する多数歯う蝕、根面う蝕、粘稠唾液、舌乳頭萎縮、カンジダ症、口角炎、歯肉炎、味覚異常、嚥下時飲水依存は、場合によっては、この局所自己免疫反応の臨床的出口です。

Ro60ループだけでSSを説明しきらないことも重要です

Ro60特異的T-B細胞ループは、SS病態を理解するうえで非常に重要です。しかし、SS病態をそれだけで閉じてはいけません。

SSの唾液腺局所には、上皮細胞、B細胞、T細胞、形質細胞、マクロファージ、樹状細胞、サイトカイン、ケモカイン、水チャネル、タイトジャンクション、口腔マイクロバイオームが関与します。Ro60ループは、この重層的な病態ネットワークの中核の一つです。

この点を誤ると、「Ro60さえ説明すればSSがわかる」という単純化になります。そうではありません。

歯科医師が臨床で見るSSは、免疫学的に単一の異常としてではなく、複数の異常が口腔内に集約された表現型として現れます。

自己抗体がある。
唾液腺上皮が免疫応答に参加する。
導管周囲にT細胞が集まる。
B細胞が活性化する。
IFNやBAFFが上がる。
CXCL10やCXCL13が免疫細胞を呼び込む。
TLR8陽性マクロファージがTNF-αを産生する。
唾液量と唾液性状が変わる。
口腔内ニッチが変わる。
根面う蝕、カンジダ症、粘膜痛、味覚異常、歯肉炎が出る。

この全体像を持ったうえでRo60特異的T-B細胞ループを読むと、SSに伴う口腔乾燥が単なる「口の乾き」ではないことが見えてきます。

歯科医師の役割は「疑う・測る・守る・つなぐ」です

ここまで、口腔乾燥、SS、唾液腺局所免疫、Ro60特異的T-B細胞ループを見てきました。歯科医師の役割として整理すると、複雑に見えて、実は明確です。

歯科医師はSSの免疫病態をすべて治療する職種ではありません。SSの確定診断を一人で完結する職種でもありません。

しかし、SSの口腔内表現型を最初に拾える職種です。

疑うとは、口腔乾燥を単なる加齢や薬剤性で済ませず、SSを鑑別に入れることです。

測るとは、乾燥感だけでなく、唾液量、唾液性状、う蝕分布、粘膜所見を評価することです。

守るとは、フッ化物、根面う蝕対策、カンジダ管理、義歯管理、リコール短縮で口腔崩壊を防ぐことです。

つなぐとは、必要に応じて、リウマチ膠原病内科、眼科、耳鼻咽喉科、口腔外科へ接続することです。

ここで重要なのは、SS疑い患者を「修復して終わり」にしないことです。唾液機能低下が残ったままなら、修復しても再発します。根面う蝕が進みます。修復物辺縁から二次う蝕が出ます。粘膜が荒れ、カンジダを繰り返します。義歯が痛くなります。食べられなくなります。

したがって、歯科治療の目的は、単に穴を埋めることではありません。唾液機能低下を前提に、再発しにくい口腔環境を設計することです。

具体的には、高濃度フッ化物応用、フッ化物塗布、フッ化物洗口、根面う蝕管理、砂糖摂取頻度の管理、酸性飲料の制限、就寝前飲食の確認、キシリトールなど非う蝕性甘味料の活用、唾液腺マッサージ、口腔保湿剤、唾液代替剤、カンジダ症の早期発見、義歯清掃と義歯床下粘膜管理、リコール間隔の短縮、修復物辺縁の厳密な管理が必要になります。

2025年の歯科専門職向けレビューでも、pSS患者の口腔管理では、水分摂取、フッ化物応用、口腔疾患の治療と再発予防、唾液流量の改善、口腔の快適性向上が重要とされています。 

さらに、紹介時には「口腔乾燥があります」だけでは不十分です。なぜSSを疑ったのかを、歯科医師の所見として伝える必要があります。

紹介状に入れるべき情報は、主訴、口腔所見、唾液評価、眼症状、唾液腺所見、全身症状、既往歴、薬剤歴、依頼内容です。たとえば、以下のように書くと、紹介先に意図が伝わりやすくなります。

このレベルで書ければ、歯科医師の紹介は単なる紹介ではなく、診断プロセスの一部になります。

ドライマウスを、自己免疫性唾液腺炎の口腔内表現型として読みます

口腔乾燥は、歯科臨床でありふれた訴えです。しかし、ありふれているからこそ見落とされます。

「年齢のせい」
「薬のせい」
「ストレスのせい」
「口呼吸のせい」
「保湿剤で様子を見ましょう」

それで済む症例も多くあります。しかし、それだけでは済まない症例があります。

SSでは、口腔乾燥は単なる唾液不足ではありません。涙腺・唾液腺を主座とする自己免疫性外分泌腺炎の一表現型です。その病変局所では、上皮細胞、T細胞、B細胞、マクロファージ、抗原提示細胞、IFN、BAFF、CXCL10、CXCL13、TLR8、TNF-αが関与し、慢性炎症の場が形成されます。 

そしてこの研究は、そこにRo60という共有抗原を置きました。

Ro60特異的B細胞が抗Ro60抗体を作ります。Ro60免疫複合体が抗原提示細胞に取り込まれます。HLA class II上にRo60ペプチドが提示されます。Ro60特異的CD4陽性T細胞が活性化します。そのT細胞はTph/Tfh系としてB細胞を助けます。B細胞はさらに抗Ro60抗体を作ります。自己免疫反応が唾液腺局所で再生産されます。

これが、示された自己免疫の悪循環です。 

歯科医師が見ているのは、この免疫反応そのものではありません。歯科医師が見ているのは、その出口です。

泡沫状唾液。粘稠唾液。ミラーが粘膜に貼りつく所見。舌乳頭萎縮。溝状舌。口腔粘膜の発赤。口角炎。カンジダ症。多数歯う蝕。根面う蝕。歯頸部う蝕。修復物周囲の二次う蝕。歯肉炎。義歯疼痛。味覚異常。嚥下時飲水依存。

これらをバラバラに処理してはいけません。

それらが一つの流れで見えたとき、歯科医師はSSを疑うべきです。確定診断をする必要はありません。しかし、疑う必要はあります。

歯科医師は、SSの免疫病態をすべて治療する職種ではありません。しかし、SSの口腔内表現型を最初に拾える職種です。

ここに、歯科医師の臨床的責任があります。

臨床で迷いやすいポイント

口腔乾燥があれば、すぐにSSを疑うべきですか?

すぐにSSと考える必要はありません。口腔乾燥の原因は、薬剤性、加齢、口呼吸、糖尿病、脱水、放射線治療後、ストレスなど多岐にわたります。重要なのは、乾燥感だけでなく、根面う蝕、多数歯う蝕、粘稠唾液、舌乳頭萎縮、カンジダ症、眼乾燥、唾液腺腫脹などが重なっているかを見ることです。dry mouth alone ではなく、dry mouth plus として読む必要があります。

患者さんが「口は乾かない」と言えば、SSは否定できますか?

否定できません。SS精査を受けた87名の研究では、SS群49名と非SS群38名の間で、口腔乾燥に関する14項目すべてにおいて乾燥自覚の割合に差がありませんでした。自覚症状だけではSSと非SSを分けられないため、口腔内所見、唾液性状、唾液量、眼症状、唾液腺腫脹、血清抗体、画像、病理を総合して考える必要があります。 

歯科医院でSSの診断まで行うべきですか?

歯科医院単独で確定診断まで行う必要はありません。歯科医師の役割は、SSを疑うべき口腔内表現型を拾い、唾液機能を評価し、必要に応じて医科へ接続することです。抗SSA/Ro抗体、眼科検査、唾液腺画像、口唇腺生検などは、リウマチ膠原病内科、眼科、耳鼻咽喉科、口腔外科などとの連携で評価する領域です。

抗SSA/Ro抗体陽性なら、Ro60の話として理解してよいですか?

注意が必要です。抗SSA/Ro抗体という表現には、Ro52/TRIM21とRo60/SSAが含まれます。Ro52とRo60は別個のタンパクであり、同じものではありません。今回の慶應・Science Advances論文で主軸となるのはRo60です。SSを免疫学的に理解するうえでは、抗SSA/Roを一括りにせず、Ro52とRo60を分けて考える必要があります。 

唾液腺腫脹があればSSですか?

必ずしもそうではありません。唾液腺腫脹を伴う場合、SSだけでなく、IgG4関連涙腺・唾液腺炎、サルコイドーシス、リンパ腫、唾液腺腫瘍なども鑑別に入れる必要があります。特に、持続性の片側腫脹、硬結、リンパ節腫脹、全身症状がある場合は、歯科単独で抱え込まず専門医療機関へ接続すべきです。 

Ro60特異的T-B細胞ループがわかると、歯科臨床は何が変わりますか?

明日から歯科治療の手技が直接変わるわけではありません。しかし、ドライマウスの見方は変わります。SSに伴う口腔乾燥は、単なる唾液不足ではなく、唾液腺局所で自己免疫反応が維持される疾患表現型として理解できます。う蝕、粘膜、舌、唾液性状、カンジダ、歯肉炎、嚥下、味覚を一つの病態として読む視点が重要になります。

まとめ

慶應・Science Advances論文は、SSの唾液腺病変において、Ro60を共有抗原とするCD4陽性T細胞とB細胞の病的ループを示した点に意義があります。200以上のTCRを解析し、13種類のRo60反応性TCRを同定し、それらが主にTph/Tfh系に発現していたこと、Ro60が自己抗体存在下で抗原提示細胞に効率よく取り込まれ、Ro60特異的T細胞を活性化したことが示されました。 

これは、SSを「抗SSA/Ro抗体が出る疾患」としてではなく、唾液腺局所でT細胞とB細胞が同じ自己抗原を共有し、自己免疫反応を維持する疾患として理解するための重要な研究です。

ただし、SS病態はRo60ループだけで閉じません。唾液腺上皮、IFN、JAK/STAT-CXCL10、BAFF、CXCL13、TLR8陽性単球/マクロファージ、TNF-α、口腔マイクロバイオームが重層的に関与します。 

歯科医師が日常臨床で行うべきことは明確です。

口腔乾燥を症状として処理しないことです。唾液機能低下の口腔内表現型として読むことです。多数歯う蝕、根面う蝕、カンジダ症、舌乳頭萎縮、粘稠唾液、歯肉炎、味覚異常、嚥下時飲水依存を一つの病態としてつなげることです。必要に応じてSS精査へ接続することです。そして、唾液機能低下を前提に、再発予防型の歯科管理を設計することです。

最後になりますが、歯科医師が診ているドライマウスは、単なる乾燥粘膜ではありません。
ときにそれは、唾液腺局所で進行する自己免疫性外分泌腺炎の口腔内表現型です。
SSでは、Ro60を共有抗原とするCD4陽性T細胞とB細胞が、唾液腺内で自己免疫反応を維持する病的ループを形成している可能性があります。
だからこそ、歯科医師は口腔乾燥を保湿剤で処理して終わらせず、う蝕、粘膜、舌、唾液性状、カンジダ、歯肉炎、嚥下、味覚を一つの疾患表現型として読まなければなりません。

【夜間の口腔乾燥、口呼吸、いびき、朝のネバつきとの関係はこちら】

【内部リンク⑥: 朝の口のねばつきと唾液低下・磨き残しの関係はこちら】

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