2026年7月08日

(歯科助手さんの治療見学ノート)

はじめに
抜歯や歯ぐきの外科処置のあとに、「次は抜糸に来てください」と言われることがあります。
ここでいう抜糸は、歯を抜く「抜歯」ではなく、縫った糸を取る処置のことです。患者さんの中には、「糸を取るだけならすぐ終わるのかな」「抜糸したら、もう完全に治ったということなのかな」と思われる方もいます。
歯科助手として診療を見学していると、抜糸の日は、糸を取るだけの日ではないと感じます。先生は、傷口の閉じ方、腫れや痛みの変化、膿が出ていないか、食べかすやプラークがたまりすぎていないかを確認しています。
抜糸の日は、外科処置のあとに残りやすい不安を整理し、これからどこまで清掃を戻してよいかを確認する日でもあります。

抜糸の日は、糸を取るだけの日ではありません
外科処置のあとに糸で縫うのは、傷口を安定させるためです。歯ぐきが寄った状態を保ち、出血や傷口の開きを抑え、治りやすい環境をつくる役割があります。
ただし、抜糸の日は「完全に治り切った日」という意味ではありません。表面の歯ぐきが閉じてきていても、内部ではまだ治癒が続いています。
そのため、抜糸の日には、糸を取る前後で傷口の状態を見ます。傷が大きく開いていないか、赤みや腫れが強くないか、出血が続いていないか、糸がゆるんで汚れをためていないかを確認します。
患者さんから見ると一瞬の処置に見えることもありますが、診療室では「糸を取ってよい状態か」「取ったあとも傷が安定しているか」を見ながら進めています。

まず確認しているのは、傷口が閉じる方向に進んでいるかです
抜糸の日に先生が最初に見ているのは、傷口が閉じる方向に進んでいるかどうかです。
縫った部分が大きく開いていないか、歯ぐきがめくれていないか、糸の周囲に強い炎症がないかを確認します。糸が長く残っていると、舌や頬に当たって気になることもありますし、糸のまわりに食べかすが絡むこともあります。
抜糸のときに、少しチクッとしたり、引っ張られる感じが出たりすることはあります。糸を取ったあとに、にじむ程度の出血が出ることもあります。多くは一時的なものですが、出血が続く場合や、傷口が大きく開いている場合は、追加で確認します。
抜糸は、ただ糸を引き抜く作業ではなく、傷の安定を見ながら行う処置です。

痛みや腫れは「残っているか」より「悪化していないか」を見ます
外科処置のあと、痛みや腫れがいつまで続くのかは、患者さんがとても不安になりやすいところです。
奥歯や親知らずの抜歯では、処置の翌日から数日間に痛みや腫れが出やすく、その後少しずつ落ち着いていくことがあります。下顎の親知らず抜歯後の報告でも、痛みは術後1日目に強くなり、その後は日数とともに下がっていく傾向が示されています。腫れも、術後数日は目立ちやすく、1週間前後ではまだ残ることがありますが、2週間ほどでかなり落ち着いてくることが多いとされています。
そのため、抜糸のころに違和感や軽い痛み、少しの腫れぼったさが残っているだけで、すぐに異常とは限りません。
診療室で大切に見ているのは、痛みや腫れが「ゼロになったか」だけではありません。昨日より強くなっていないか、ズキズキする痛みが増えていないか、頬や歯ぐきの腫れが広がっていないか、熱っぽさがないかを確認します。
痛みや腫れが少し残っていても、日ごとに軽くなっている場合は、治りの途中として見られることがあります。反対に、抜糸の日が近づいているのに痛みが強くなっている、腫れが増えている、口が開けにくくなっている場合は、必ず伝えてください。

膿・嫌な味・口の開けにくさも確認しています
抜糸の日には、傷口から膿が出ていないかも確認します。
膿は、感染や炎症が強くなっているサインとして注意が必要です。患者さん自身では見えにくい場所でも、先生が器具やミラーで確認すると、傷口の奥や隣の歯との境目に変化が見つかることがあります。
また、奥歯の外科処置後は、一時的に口が開けにくくなることがあります。処置の刺激で周囲の筋肉や組織が反応するためです。少しずつ開きやすくなっている場合は経過を見ますが、口が開けにくい状態が強くなる、食事や会話がつらい、飲み込みにくい、発熱を伴うといった場合は確認が必要です。
「変な味がする」「口臭が気になる」「膿のようなものが出た気がする」という感覚も、診療室では大切な情報です。見た目だけでなく、患者さんが感じている変化も合わせて判断しています。
ただし、腫れが急に強くなった、発熱がある、膿が出る、飲み込みにくい、口がどんどん開けにくくなっている場合は、抜糸の日まで待たずに医院へ連絡してください。

清掃状態を見るのは、磨けていないことを責めるためではありません
抜糸の日に、傷のまわりの清掃状態を確認することがあります。
これは、「磨けていませんね」と責めるためではありません。外科処置の直後は、あえて手術した部分を強く磨かないように説明されることがあります。強くこすったり、強いうがいをしたりすると、傷口や血のかたまりを乱してしまうことがあるからです。
一方で、傷のまわりに食べかすやプラークがたまりすぎると、歯ぐきの炎症が強くなったり、傷の状態が見えにくくなったりします。糸のまわりに汚れが絡むこともあります。
そのため抜糸の日には、どこに食べかすが残りやすいか、周囲の歯ぐきが赤くなっていないか、今日からどの範囲をどのくらい清掃してよいかを確認します。
外科後の清掃は、「何もしない」でも「強くゴシゴシ磨く」でもありません。傷を守りながら、周囲を清潔に保つことが大切です。

抜糸後は、清掃を少しずつ戻していきます
抜糸が終わったからといって、その日から傷口を強く磨いてよいとは限りません。
先生や歯科衛生士さんの説明では、「この部分はまだやさしく」「周りの歯は普段に近い磨き方で」「歯ブラシの毛先を強く入れすぎないように」といったように、場所によって清掃の戻し方が変わることがあります。
歯科助手として見ていると、患者さんは「磨いた方がいいのか、触らない方がいいのか」で迷っていることが多いです。抜糸の日は、その迷いを整理するタイミングでもあります。
傷口の近くはやさしく、周囲の歯は汚れをためないようにする。うがいは強くブクブクしすぎず、医院から指示された方法で行う。歯間ブラシやフロスを再開する時期は、部位や処置内容に合わせて確認する。
このように、抜糸後の清掃は「少しずつ戻す」という考え方が大切です。

持病や薬がある方は、確認するポイントが変わることがあります
外科処置後の治り方は、処置の内容だけで決まるわけではありません。
糖尿病や免疫に関わる病気、ステロイドや免疫抑制薬などは、感染や傷の治り方を慎重に見る理由になります。骨粗鬆症の薬や一部のがん治療薬を使用している方では、顎の骨の治り方を含めて確認が必要になることがあります。血液をさらさらにする薬を飲んでいる方では、出血の続き方をより注意して見ることがあります。
そのため、外科処置の前後には、飲んでいる薬や持病について確認することがあります。お薬手帳を持参していただくと、確認がスムーズです。
骨粗鬆症の薬や顎骨壊死に関する内容は、患者さんごとに判断が必要で、単純に「薬を飲んでいるから危険」と言い切れるものではありません。気になる方は、自己判断で薬を中止せず、歯科と処方医の両方で確認することが大切です。
歯周外科や歯周組織再生療法のように、歯ぐきや骨の治りを慎重に見る処置では、抜糸の時期や清掃の戻し方も通常の抜歯と異なることがあります。

抜糸の日に伝えてほしいこと
抜糸の日には、気になっていることを遠慮なく伝えてください。
たとえば、痛みが強くなっている、腫れが引かない、膿や嫌な味がする、口が開けにくい、出血が続いた、食べかすが入っている気がする、糸が引っ張られて気になる、といったことです。
薬を飲み切ってよいのか、いつから普通に磨いてよいのか、運動や飲酒を再開してよいのか、食事はどこまで戻してよいのかも、確認してよい内容です。
患者さんにとっては小さなことに見えても、診療室では大切な判断材料になることがあります。抜糸の日は、糸を取るだけでなく、外科後の不安を言葉にして整理する日でもあります。

よくある質問
抜糸は痛いですか?
糸を切って取るときに、少しチクッとしたり、引っ張られる感じが出たりすることがあります。強い痛みを感じることは多くありませんが、傷の状態や糸の位置によって感じ方は変わります。不安が強い場合は、処置前に伝えてください。
抜糸したら、傷は完全に治っていますか?
抜糸は、傷が安定してきたことを確認する区切りですが、完全に治り切ったという意味ではありません。表面が閉じてきていても、内部ではまだ治癒が続いています。しばらくは強くこすらず、医院の指示に沿って清掃を戻していきます。
糸が抜糸前に取れてしまったらどうすればいいですか?
糸が自然にゆるんだり、取れたりすることがあります。すぐに問題になるとは限りませんが、傷口が開いている、出血がある、痛みや腫れが強い場合は連絡してください。自己判断で残った糸を引っ張るのは避けましょう。
溶ける糸の場合も、抜糸は必要ですか?
糸の種類によって、自然にほどけたり吸収されたりするものと、後日取るものがあります。溶ける糸を使った場合でも、傷口の確認が必要になることがあります。糸が気になる、早く取れた、引っ張られる感じがある場合は、自己判断で触らずに医院へ相談してください。
抜糸後に食べかすが入るのが心配です。
外科後のくぼみに食べかすが入り込んだように感じることがあります。強くつついたり、無理に取り出そうとしたりすると、傷を刺激することがあります。気になる場合は、医院で洗浄や清掃方法を確認してください。

まとめ|抜糸の日は、外科後の不安を整理する日です
抜糸の日は、糸を取って終わりの日ではありません。
傷口が閉じる方向に進んでいるか、腫れや痛みが悪化していないか、膿が出ていないか、清掃状態が治りを邪魔していないかを確認する日です。
外科処置のあとは、「まだ少し痛い」「食べかすが入った気がする」「どこまで磨いてよいか分からない」など、不安が残りやすい時期です。抜糸の日にその不安を確認しておくことで、その後の食事や清掃を落ち着いて戻しやすくなります。
糸を取ることだけが目的ではなく、傷の治り方とこれからの過ごし方を確認する。抜糸の日には、そのような意味があります。
