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歯周組織再生療法の適応を考える:垂直性骨欠損・根分岐部病変・患者因子からみた“再生の場”の条件

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2026年7月02日

歯周組織再生療法の適応を考える:垂直性骨欠損・根分岐部病変・患者因子からみた“再生の場”の条件

(院長の徒然コラム)

歯周組織再生療法は「材料」ではなく「場」を選ぶ治療

歯周組織再生療法を考えるとき、議論はしばしば材料名から始まります。

GTR法を選ぶのか。
エムドゲインを使うのか。
リグロスを使うのか。
骨補填材を併用するのか。
膜を使うのか。

もちろん、材料や術式の選択は重要です。しかし、臨床で最も大切なのは、そこではないと考えています。

歯周組織再生療法は、「何を入れるか」よりも前に、「どのような欠損に、どのような患者条件で、どのような創傷治癒環境を作れるか」を読む治療です。

言い換えるなら、再生材料を入れる治療ではなく、再生が起こり得る場を作る治療です。

歯周炎によって失われた歯周組織は、単純に骨だけではありません。歯肉、セメント質、歯根膜、歯槽骨が、それぞれ異なる治癒速度と生物学的性質を持ちながら破壊されています。歯槽骨がX線写真上で減っているように見えるため、歯周病は患者説明では「骨が溶ける病気」と表現されることがありますが、実際には付着機構全体の破壊として捉える必要があります。

歯周組織再生療法の理想は、新生セメント質、新生歯根膜、新生歯槽骨による新たな結合組織性付着を獲得することです。しかし、日常臨床でそれを組織学的に確認することは通常できません。臨床では、プロービングデプスの減少、臨床的アタッチメントレベルの改善、BOPの消失、X線画像上の骨欠損改善、歯の動揺の安定、そして長期的に清掃しやすい形態が維持されるかを総合して評価します。

ここで誤解してはいけないのは、X線写真上で骨様の不透過像が増えたことだけをもって「完全に再生した」とは言えないという点です。歯周組織再生療法は、失われた歯周組織を常に術前の状態へ戻せる治療ではありません。条件が合った部位で、失われた支持組織の一部回復を目指し、歯の保存可能性と長期安定性を高める治療です。

したがって、適応判断では、まず次の問いを立てる必要があります。

この欠損は再生スペースを保てる形か。
血餅は安定するか。
歯肉弁で初期閉鎖できるか。
根面の感染組織を十分に除去できるか。
患者のプラークコントロールは成立しているか。
喫煙、糖尿病、咬合力、ブラキシズム、通院継続性はどうか。
術後にSPTで維持できる形態にできるか。

材料の選択は、その後に来る問題です。

歯周組織再生療法の失敗は、材料の性能不足だけで起こるわけではありません。術前に炎症が残っている、根面デブライドメントが不十分である、血餅が動く、縫合が開く、歯肉弁が陥凹する、喫煙が続く、患者がSPTに来なくなる。こうした条件が重なると、どれだけ良い材料を使っても、再生に向かう場が成立しません。

逆に、適応が合っていれば、材料はその治癒環境を後押しする存在になります。GTR法は歯肉上皮や歯肉結合組織由来細胞の侵入を遮断し、歯根膜由来細胞が働くためのスペースを守る。EMDは歯根形成期を模倣するように根面の創傷治癒環境に作用する。FGF-2は細胞増殖、遊走、血管新生を通じて局所の治癒環境を整える。骨補填材は、症例によっては血餅と軟組織の陥凹を防ぐ足場として機能する。

いずれも、単独で予後を決めるものではありません。

再生療法の適応は、材料ではなく、場で決まります。

再生療法は歯周基本治療後の残存病変に対する選択肢である

歯周組織再生療法をいきなり選択することはありません。

歯周病治療の基本は、原因除去です。プラークコントロール、スケーリング、ルートプレーニング、プラークリテンションファクターの除去、咬合性外傷への対応、必要に応じた暫間固定、生活習慣や全身疾患の確認。これらを行い、再評価をして初めて、外科処置の必要性を判断します。

歯周基本治療によって炎症が改善し、ポケットが浅くなり、BOPが消失する部位も多くあります。そのような部位に、あえて外科的侵襲を加える必要はありません。歯周組織再生療法は、基本治療で改善しきれない残存病変に対する選択肢です。

具体的には、基本治療後にも深いポケットが残る部位、BOPが残る部位、X線写真やCBCTで垂直性骨欠損が確認される部位、根分岐部病変が残存する部位などが検討対象になります。

ここで大切なのは、「深いポケットがあるから再生療法」ではないということです。深いポケットがあっても、それが垂直性骨欠損を伴わない水平性骨吸収であれば、再生療法よりも清掃性の改善や切除的アプローチ、補綴設計、SPTでの管理を優先する場合があります。逆に、深いポケットが残っていても、歯根破折、歯内歯周病変、セメント質剥離、外傷性咬合など、原因が歯周炎単独でない場合には、再生療法の前に診断そのものを見直す必要があります。

歯周外科に進むかどうかは、ポケットの数字だけでは決まりません。

プロービングデプス。
BOP。
プラークコントロール。
骨欠損形態。
根面形態。
根分岐部の清掃性。
動揺。
咬合力。
患者の希望。
全身状態。
術後管理への参加。

これらを総合して判断します。

歯周基本治療後に炎症が十分にコントロールされていない場合、再生療法の予測性は下がります。再生療法は感染のある場に材料を置く治療ではありません。感染を除去し、治癒に向かう環境を作ったうえで、さらに支持組織の回復を期待できる欠損に対して行う治療です。

その意味で、再生療法の第一条件は、手術日に始まるものではなく、手術前の基本治療です。

患者自身のセルフケアが成立していない。
歯肉縁上プラークが多い。
BOPが広範囲に残っている。
喫煙が続いている。
糖尿病のコントロールが不十分である。
SPTに継続して通う意思が乏しい。

こうした状態では、再生材料の選択以前に、再生療法の前提が揺らぎます。

歯周組織再生療法は、患者と術者の共同作業です。術者が手術で再生の場を整え、患者が日々のプラークコントロールと通院継続でその場を維持する。どちらか一方が欠けても、長期安定は期待できません。

【歯周病治療後も炎症の履歴が残るのかについてはこちら】

何をもって歯周組織再生と評価するのか

歯周組織再生療法を語るとき、まず「再生」と「修復」を分けて考える必要があります。

歯周外科後の治癒では、長い接合上皮による上皮性付着が形成されることがあります。これは臨床的にはポケットが浅くなり、プロービング時の出血が減り、症状が落ち着くことがあります。しかし、組織学的には新生セメント質、新生歯根膜、新生歯槽骨による本来の付着器官が再構築された状態とは異なります。

一方で、臨床の現場では、すべての症例で組織切片を採って本当に新生セメント質や歯根膜ができたか確認することはできません。そのため、臨床的には複数の指標を使って評価します。

代表的なものは、プロービングデプスの減少です。深かったポケットが浅くなれば、清掃性が改善し、炎症の再発リスクを下げることができます。ただし、プロービングデプスは歯肉退縮によっても浅くなります。したがって、PDだけで再生効果を評価することはできません。

次に、臨床的アタッチメントレベル、つまりCAL gainです。これは歯肉退縮の影響を含めて、付着レベルがどれだけ改善したかを見る指標です。歯周組織再生療法の臨床研究では重要な評価項目になります。

さらに、X線画像上の骨欠損深さの減少、骨欠損改善率、骨充填率、骨増加量なども評価されます。ただし、X線上の不透過性増加は組織学的な完全再生を直接証明するものではありません。骨様組織の増加、骨補填材の残存、骨密度の変化、撮影条件の違いなどが影響します。

根分岐部病変では、水平的プロービングの改善、分岐部の完全閉鎖または部分閉鎖、清掃性の改善が重要になります。Class IIがClass Iに改善する、またはファーケーションプローブが入りにくくなることは臨床上大きな意味がありますが、それも長期に清掃可能であることが前提です。

BOPも重要です。BOPが残っている部位は、炎症が完全に制御されていない可能性があります。ポケットの深さだけでなく、BOPの有無を見なければ、歯周組織の安定性は判断できません。

再生療法の評価では、患者が「痛くない」「腫れない」だけでは不十分です。術者は、次のような点を確認します。

プロービングデプスは減少したか。
CAL gainは得られたか。
BOPは消失したか。
X線上の骨欠損は改善しているか。
歯肉退縮は許容範囲か。
分岐部は清掃可能か。
動揺は安定しているか。
補綴や咬合設計に耐えられるか。
SPTで維持できるか。

そして、最終的には「その歯を機能させながら長期に維持できるか」を見ます。

歯周組織再生療法の目的は、画像上の骨を増やすことだけではありません。ポケットが浅くなり、炎症が抑えられ、患者が清掃しやすくなり、歯が機能し、長期的に維持できる環境を得ることです。

その意味では、再生療法の成功は術後6か月や12か月だけで完結しません。数年後、10年後に、その歯がどのような清掃環境で、どのような咬合力を受け、どのようなメインテナンス下にあるかまで含めて評価されるべきです。

垂直性骨欠損をどう読むか

歯周組織再生療法が最も検討されやすいのは、垂直性骨欠損です。

水平性骨吸収では、歯列全体あるいは複数歯にわたって骨頂が比較的平行に下がります。この場合、再生のためのスペースが開放されやすく、血餅の保持も難しくなります。失われた骨を広範囲に歯冠側へ戻すことは、現在の一般的な再生療法では予測性が高いとは言えません。

一方、垂直性骨欠損では、歯根面に沿って局所的に深い骨欠損が存在します。骨壁が残っていれば、欠損部はある程度囲まれた空間となり、血餅が保持されやすく、骨壁からの血流や細胞供給も期待できます。これが、垂直性骨欠損が再生療法の適応になりやすい理由です。

ただし、垂直性骨欠損といってもすべて同じではありません。

1壁性骨欠損。
2壁性骨欠損。
3壁性骨欠損。
2〜3壁混合型。
幅の狭い欠損。
幅の広い欠損。
深い欠損。
浅い欠損。
根尖方向に鋭く入る欠損。
水平性吸収に近い浅く広い欠損。

これらは、同じ「垂直性骨欠損」と呼ばれても、再生療法に対する反応性が異なります。

一般に、3壁性骨欠損は再生療法に有利です。骨壁に囲まれているため、血餅が安定しやすく、軟組織の陥凹も起こりにくく、骨壁からの細胞供給と血流が期待できます。深く狭い3壁性欠損は、再生療法の代表的な好適応と考えられます。

2壁性骨欠損は、欠損の深さや幅、残存骨壁の状態、歯肉弁の閉鎖性によって予測性が変わります。骨壁が十分に残り、血餅が安定する形であれば再生療法を検討しやすい一方、開放的で広い欠損ではスペースメイキングが課題になります。

1壁性骨欠損はさらに難しくなります。残存骨壁が少なく、再生スペースが潰れやすく、血餅も動きやすいからです。このような欠損で再生療法を行う場合、材料単独ではなく、骨補填材や膜、軟組織管理、フラップデザインを含めた設計が重要になります。

欠損の角度も重要です。狭い角度の欠損は血餅が保持されやすく、骨壁に囲まれた再生空間が成立しやすい傾向があります。反対に、広い角度の欠損は開放的で、血餅が安定しにくく、軟組織が陥凹しやすいことがあります。

欠損の深さも重要です。深い欠損は、術前のポケットやアタッチメントロスが大きいため、改善量として大きな変化が出やすい場合があります。ただし、深ければ必ず良いわけではありません。根尖近くまで進行している欠損では、歯内病変、歯根破折、セメント質剥離、咬合性外傷、根面形態などの影響を鑑別しなければなりません。

浅い欠損は、外科的に再生療法を行っても得られる改善量が小さいことがあります。特に、浅く広い欠損では、再生療法よりも清掃性の改善、歯槽骨形態の整え方、補綴設計、SPTでの炎症管理の方が重要になることがあります。

したがって、垂直性骨欠損の適応判断では、単に「骨欠損が何mmあるか」だけを見てはいけません。

骨壁は何壁残っているか。
欠損角は狭いか広いか。
欠損は深いか浅いか。
血餅が保持される形か。
歯肉弁で閉鎖できるか。
根面のデブライドメントが可能か。
骨欠損底部に到達できるか。
隣接歯や根分岐部との関係はどうか。
歯の動揺は制御できるか。
最終的に清掃しやすい形になるか。

これらを読みながら、再生療法の適応を判断します。

3壁性欠損と1〜2壁性欠損では治療設計が違う

再生療法を考えるとき、3壁性欠損と1〜2壁性欠損は、同じ土俵で考えない方がよいと思います。

3壁性欠損では、欠損そのものが再生に有利な形を持っています。骨壁が歯根面を囲み、血餅を保持し、軟組織の落ち込みを抑え、骨壁からの血流と細胞供給を期待できます。このような部位では、適切なデブライドメントと根面処理、創傷安定、初期閉鎖が得られれば、比較的予測性の高い治癒が期待できます。

一方、1〜2壁性欠損では、再生療法の難易度が上がります。

開放された骨欠損では、歯肉弁が欠損内に落ち込みやすく、血餅が潰れやすくなります。再生スペースが維持されなければ、細胞が遊走し、増殖し、基質を作る場が成立しません。ここで重要になるのが、スペースメイキングです。

スペースメイキングとは、単に骨補填材を詰めることではありません。血餅と再生空間を守るために、欠損形態、軟組織、縫合、材料、膜、歯肉弁の厚み、角化歯肉幅まで含めて設計することです。

3壁性欠損では再生材料単独でも場が成立しやすい。
1〜2壁性欠損では、場を作るための補助設計が必要になりやすい。

この違いを理解しないまま、同じように材料を塗布しても、結果は安定しません。

また、1壁性欠損や広い2壁性欠損では、再生療法で得られる骨様不透過性が、長期的な清掃性や炎症の安定に結びつくかを冷静に考える必要があります。術後に深いポケットが残る、分岐部が清掃できない、歯肉退縮で根面が露出し清掃困難になる、咬合力を受けて再発する。このような状況では、短期的な改善が得られても、長期保存にはつながりません。

再生療法のゴールは、骨欠損を画像上で埋めることではありません。
浅い歯肉溝を作ること。
BOPをなくすこと。
患者が清掃できる形態にすること。
咬合力に耐えられる支持を得ること。
SPTで維持できる口腔環境にすること。

そのため、骨欠損形態を読むことは、単なる術式選択ではなく、その歯の保存戦略そのものになります。

GTR、EMD、FGF-2をどう位置づけるか

歯周組織再生療法の材料を考えるとき、GTR、EMD、FGF-2を単純な優劣で並べると、臨床判断を誤りやすくなります。

「どれが一番骨を作るか」
「どれが一番新しいか」
「どれが保険で使えるか」

もちろん、これらは重要です。しかし実際には、材料の効果は欠損形態、術式、軟組織、術者の操作、患者因子によって大きく変わります。3壁性の深い骨縁下欠損に使う場合と、広い2壁性欠損に使う場合、根分岐部病変に使う場合、軟組織が薄く閉鎖が不安定な場合では、同じ材料でも意味が変わります。

日常臨床での判断では、次の3層を分けて考える必要があります。

まず、生物学的にどう作用するか。
次に、臨床研究上どの程度の上乗せ効果があるか。
最後に、日本の診療体系の中でどのように使えるか。

この3つを分けて整理しないと、材料選択が曖昧になります。

GTRは、遮断膜によって細胞の侵入を制御し、歯根膜由来細胞が働くスペースを作る治療です。EMDは、歯根面に塗布することで、歯根形成期に近い創傷治癒環境を誘導することを目指す治療です。FGF-2は、創傷治癒に関わる細胞の増殖・遊走、血管新生を促し、局所環境を整える治療です。

どれも「骨を詰める材料」ではありません。
作用の中心が異なります。

GTRはスペースと細胞選択性。
EMDは根面上の生物学的反応。
FGF-2は細胞増殖・血管新生・創傷治癒環境。

したがって、同じ骨縁下欠損でも、どの問題を補いたいのかによって材料の意味が変わります。

GTR法:スペースを守り、細胞の入り方を制御する治療

GTR法の本質は、遮断膜によって歯肉上皮や歯肉結合組織由来細胞の歯根面への侵入を抑え、歯根膜由来の未分化間葉系細胞が歯根面へ到達しやすい環境を作ることです。

歯周外科後の創傷治癒では、歯肉上皮の増殖は速く、歯根面に沿って上皮が深行増殖すると、長い接合上皮による治癒になりやすくなります。これは臨床的にポケットの改善をもたらすことがありますが、組織学的な新付着とは異なります。

GTR法は、この上皮の侵入を膜で遮断し、歯根膜由来細胞が働くためのポテンシャルスペースを作る発想から生まれました。

骨縁下欠損に対するGTR法の臨床効果について、日本歯周病学会のガイドライン2023では、吸収性膜を用いたGTR法とフラップ手術を比較したランダム化比較試験を整理し、GTR法はフラップ手術と比較して、プロービングデプス減少量で0.71mm、臨床的アタッチメントゲインで1.25mmの有意な上乗せが示されています。一方、歯肉退縮量については、フラップ手術とGTR法で有意差は認められていません。

この数字だけを見ると、GTR法は非常に魅力的に見えます。実際、深い骨縁下欠損では、GTR法は今も重要な選択肢です。しかし、GTR法は手技感受性が高い治療でもあります。

膜をどこに置くか。
膜をどのように固定するか。
膜の下に十分なスペースが維持できるか。
歯肉弁で完全に閉鎖できるか。
膜露出を避けられるか。
術後感染を防げるか。

これらが結果を大きく左右します。

GTR法の強みは、遮断膜によってスペースを守れることです。特に、骨壁が残っている2〜3壁性欠損では、膜によってポテンシャルスペースを保持し、歯根膜由来細胞が働く環境を作りやすくなります。

しかし、膜が露出すれば、細菌汚染のリスクが上がります。膜が動けば、血餅は安定しません。膜の位置が不適切であれば、再生したい空間を守れません。軟組織が薄く、閉鎖に無理がある症例では、GTR法の利点よりも合併症リスクが前に出ることもあります。

GTR法は、理論的には非常に明快です。
上皮を遮断し、再生スペースを守る。

しかし臨床では、その明快さを成立させるために、正確なフラップデザイン、膜の固定、縫合、術後管理が求められます。したがって、GTR法は「膜を入れる治療」ではなく、「膜で守るべきスペースを作り、そのスペースを最後まで維持する治療」と考えるべきです。

深く狭い2〜3壁性骨欠損で、軟組織が十分にあり、初期閉鎖が確実で、術後管理が徹底できる症例では、GTR法は強力な選択肢になります。

一方で、広く浅い欠損、軟組織が薄い部位、分岐部周囲で閉鎖が不安定な部位、患者のプラークコントロールが不十分な症例では、GTR法の理論を臨床で実現できるかを慎重に考える必要があります。

EMD:根面に働きかけ、創傷治癒環境を整える治療

EMD、つまりエナメルマトリックスデリバティブは、GTR法とはかなり発想が異なります。

GTR法が膜によって細胞の侵入を物理的に制御するのに対し、EMDは歯根面に塗布することで、歯根形成期に近い生物学的環境を誘導し、セメント質形成をはじめとした歯周組織再生を促すことを目的としています。

EMDの臨床的な利点は、GTR法と比較して術式が比較的シンプルであることです。膜をトリミングし、固定し、スペースを保持する手技が必要なGTR法に比べ、EMDは根面処理後に塗布するという手順が中心になります。

もちろん、シンプルだから簡単という意味ではありません。EMDを用いる場合でも、根面のデブライドメント、感染組織の除去、血餅の安定、初期閉鎖、術後管理は必須です。材料の塗布が簡単でも、再生の場が不安定であれば結果は出ません。

骨縁下欠損に対するEMDは、フラップ手術と比較して、臨床的アタッチメントゲインで1.10mm、骨欠損深さの減少で1.23mm、骨欠損の改善率で23.23%、プロービングデプス減少で0.70mmの有意な改善が示されています。一方、歯肉退縮量はフラップ手術と同等の変化量とされています。

このデータは、EMDが骨縁下欠損に対して一定の上乗せ効果を持つことを示しています。しかし、ここでも数字だけで適応は決まりません。

EMDが向きやすいのは、比較的containedな骨縁下欠損で、根面処理とデブライドメントが十分にでき、軟組織閉鎖が得られる部位です。特に審美領域では、膜露出のリスクを避けたい場合や、軟組織への侵襲を抑えたい場合に、EMDが選択肢になりやすいと考えられます。

一方で、EMDはスペースメイキングそのものを強く担う材料ではありません。広い1壁性欠損や、軟組織が陥凹しやすいnon-contained defectでは、EMDを塗布するだけでは血餅や再生空間を守りきれないことがあります。このような場合には、フラップデザイン、骨補填材の併用、膜の使用、あるいは別の術式を含めて設計を考える必要があります。

また、EMDは幼若ブタ歯胚由来の材料です。臨床上の有用性とは別に、患者の宗教的・文化的背景、動物由来材料への抵抗感には配慮が必要です。

EMDは、膜を使わずに生物学的に根面の治癒を誘導するという点で、日常臨床において使いやすい材料です。しかし、使いやすい材料ほど、適応が広く見えすぎる危険があります。

EMDを塗布すれば再生するのではありません。
EMDが働ける根面環境を作る必要があります。
EMDが働ける血餅を守る必要があります。
EMDが働いた後に維持できる清掃環境を作る必要があります。

この前提を忘れないことが重要です。

FGF-2/リグロス:細胞増殖と血管新生で局所環境を整える治療

日本の歯周組織再生療法を考えるうえで、FGF-2、つまりリグロスの登場は非常に大きな変化でした。

リグロスは、塩基性線維芽細胞増殖因子、FGF-2を有効成分とする歯周組織再生剤です。2016年に日本発・世界初の歯周組織再生剤として製造販売承認され、国内で保険適応となりました。

GTRがスペースと細胞選択性を重視する治療であり、EMDが根面の生物学的環境に働きかける治療であるなら、FGF-2は創傷治癒の初期段階における細胞応答と血管新生を後押しする治療といえます。

リグロスの適応は、歯周ポケットの深さが4mm以上、骨欠損の深さが3mm以上の垂直性骨欠損です。これは、EMDの国内適応よりも数値上は広く見えます。EMDが6mm以上のポケット、X線上深さ4mm以上・幅2mm以上の垂直性欠損を適応としているのに対し、FGF-2は4mm以上のポケット、3mm以上の骨欠損という基準です。

骨縁下欠損に対するFGF-2は、フラップ手術よりも推奨されると整理されています。0.3%FGF-2、すなわちリグロス相当の投与群は、プラセボ投与群と比較して骨欠損改善率が22.03%有意に大きく、臨床的アタッチメントゲインも0.38mm有意に大きいとされています。一方で、プロービングデプスの減少量には両群間で差を認めず、術後36週までに発生した有害事象の頻度も差を認めていません。

この結果の読み方は重要です。

FGF-2は、特にX線的あるいは骨欠損改善率で強いデータを持っています。一方で、PD減少量に明確な差が出ない場合もあり、臨床的アタッチメントゲインの上乗せも大きな数字ではありません。したがって、「リグロスを使えばポケットが大きく改善する」と単純に説明するのは適切ではありません。

むしろ、FGF-2は骨欠損部の治癒環境を整えることで、骨欠損改善を後押しする材料と捉えるべきです。細胞増殖や血管新生を促すシグナルがあっても、感染が残り、血餅が動き、軟組織閉鎖が不十分であれば、その作用は十分に発揮されません。

また、FGF-2には使用上の注意があります。少数例ながらFGF-2投与後に軟組織の硬結・肥厚が報告されています。特に、付着歯肉幅が狭い下顎第二大臼歯頬側部、歯肉歯槽粘膜境を越える縦切開や減張切開、骨欠損部外へのFGF-2の流出には注意が必要です。

リグロスは保険適応で使いやすい材料です。そのため、適応が曖昧なまま使用範囲が広がりやすい面があります。しかし、成長因子である以上、どこに置くか、どこに流れるか、どの組織に接触するかを意識する必要があります。

骨欠損内に置く材料であって、粘膜下に流してよい材料ではありません。
減張切開部に直接触れさせる材料ではありません。
歯肉弁の安定を犠牲にして広く塗る材料でもありません。

FGF-2は、場が整った骨欠損内で働く材料です。

FGF-2のHPC基剤は足場材ではない

FGF-2を考えるうえで、もう一つ重要なのがHPC基剤の理解です。

リグロスはFGF-2を有効成分とし、3%hydroxypropylcellulose、HPCを基剤として用いています。このHPCは、液垂れを防ぎ、骨欠損の形に対応しやすい粘稠性を与える目的で使われています。しかし、HPCそのものには足場材としての機能はありません。

これは、1〜2壁性欠損や広いnon-contained defectを考えるうえで非常に大切です。

リグロスはシグナル因子です。
しかし、スペースを物理的に支える材料ではありません。

3壁性欠損のように、欠損そのものが血餅を保持し、歯肉弁の陥凹を防ぎ、再生スペースを保ちやすい形であれば、リグロス単独でも治癒環境が成立しやすいと考えられます。

一方で、広い1壁性欠損、開放的な2壁性欠損、歯肉弁が落ち込みやすい欠損では、FGF-2が作用する場そのものが潰れやすくなります。細胞増殖や血管新生を促すシグナルがあっても、その細胞が働くスペースと血餅が維持されなければ、再生は成立しにくくなります。

このような症例では、骨補填材、膜、軟組織移植、フラップデザイン、縫合によるスペースメイキングを含めて考える必要があります。

ここで誤解してはいけないのは、「リグロスには足場がないから骨補填材を必ず併用する」という話ではないということです。3壁性欠損のように、欠損形態そのものが足場として働く場合には、骨補填材を入れない方がシンプルで、余計な介入を避けられることもあります。

問題は、欠損形態です。

場が保てる欠損なのか。
場を補助しなければならない欠損なのか。

この判断が、リグロス単独か、骨補填材や膜を併用するかの分岐になります。

材料選択は効果量だけでは決まらない

GTR、EMD、FGF-2には、それぞれ臨床研究上のエビデンスがあります。

GTRは、フラップ手術と比べてPD減少とCAL gainで有意な上乗せを示しています。
EMDも、CAL gain、骨欠損深さ、骨欠損改善率、PD減少でフラップ手術より改善が示されています。
FGF-2も、骨欠損改善率とCAL gainでプラセボより上乗せがあります。

しかし、これらの数字を横並びにして、「この材料が一番よい」と決めることはできません。

研究対象が違います。
欠損形態が違います。
術式が違います。
観察期間が違います。
国内適応が違います。
保険適用が違います。
副作用や合併症の性質も違います。

GTRはスペースを作る力がありますが、膜露出や手技感受性が問題になります。
EMDは術式が比較的シンプルで軟組織に優しい面がありますが、スペースメイキングそのものは弱く、国内では根分岐部病変の適応ではありません。
FGF-2は保険適応で使いやすく、骨欠損改善率に強いデータがありますが、HPCは足場材ではなく、骨欠損外への流出や軟組織硬結・肥厚には注意が必要です。

材料選択は、次のように考える方が臨床的です。

深く狭い3壁性欠損で、血餅が保持されやすく、軟組織閉鎖が安定するなら、EMDやFGF-2のような生物学的材料が働きやすい。
2壁性欠損でスペース保持が問題になるなら、GTRや骨補填材併用を含めて考える。
1壁性や広い欠損では、材料単独ではなく、スペースメイキングと軟組織管理を治療設計の中心に置く。
審美領域で膜露出を避けたいなら、EMDや低侵襲術式を考える。
保険診療の中で現実的に再生療法を提供するなら、FGF-2の役割は大きい。
根分岐部では、材料名よりもClass、部位、清掃性、術後維持を優先して読む。

なお、材料ごとの国内適応やガイドライン上の推奨は、骨縁下欠損と根分岐部病変で異なります。根分岐部病変では「垂直性骨欠損と同じ材料選択」と単純に考えないことが重要です。

材料は適応に合わせて選ぶものであり、材料から適応を広げるものではありません。

骨補填材併用は「材料を足す」話ではなくスペースメイキングの話

骨補填材を併用するかどうかは、再生療法で非常に議論になりやすいところです。

骨補填材を入れた方が骨が増えそうに見える。
欠損が大きいと、補填材で空間を満たした方が治癒に有利に見えることがあります。
術後のX線写真でも、材料が入っている方が不透過性が増えて見える。

しかし、骨補填材を入れれば再生療法の成績が必ず上がるわけではありません。骨補填材の役割を誤解すると、単に欠損を埋めることが目的になってしまいます。

骨補填材には、自家骨、他家骨、異種骨、人工骨があります。自家骨は骨形成能、骨誘導能、骨伝導能の面で優れていますが、採取部位の侵襲や供給量の限界があります。異種骨や人工骨は主に骨伝導性を期待して用いられますが、それ自体が歯周組織再生を直接起こすわけではありません。

ただし、国内では材料ごとに承認状況や使用可能範囲が異なるため、実際の臨床では薬事承認、保険適用、患者への説明と同意を確認したうえで選択する必要があります。

歯周組織再生療法で骨補填材を使う意味は、主にスペースメイキングにあります。

血餅を守る。
歯肉弁の陥凹を防ぐ。
non-contained defectで再生空間を維持する。
膜や成長因子が働く場を支える。

この目的がある症例では、骨補填材併用を検討する意味があります。

一方で、深く狭い3壁性欠損のように、欠損そのものが血餅を保持し、スペースを維持しやすい場合には、骨補填材を入れなくても場が成立することがあります。むしろ、不要な材料を入れることで、治癒を複雑にしたり、評価を難しくしたりする可能性もあります。

ここで重要なのは、骨補填材は万能な再生材料ではなく、再生の場を支える補助材料として考えることです。

1〜2壁性欠損で、歯肉弁の陥凹が予想される症例。
リグロス単独ではスペースが維持しにくい症例。
非contained defectで血餅安定が難しい症例。
軟組織が薄く、術後の形態変化が予測される症例。

こうした場合には、骨補填材を「再生を直接起こす材料」としてではなく、「再生の場を保持する補助材料」として考えることができます。

つまり、骨補填材併用の本質は、材料を足すことではありません。
場を守ることです。

根分岐部病変:Class IIの中でも予後は同じではない

根分岐部病変は、歯周組織再生療法の適応判断を難しくする代表的な病変です。

単根歯の垂直性骨欠損では、歯根面と骨壁との関係を比較的単純に評価できます。もちろん単根歯でも、欠損角、骨壁数、軟組織、咬合、根面形態などを読む必要がありますが、病変の立体構造は比較的把握しやすいものです。

一方、根分岐部病変では、歯根が複数に分かれた解剖学的構造そのものが問題になります。分岐部の入口は狭く、器具が届きにくく、患者自身も清掃しにくい。さらに、上顎大臼歯では頬側・近心・遠心の分岐部があり、下顎大臼歯では頬側・舌側の分岐部があるため、同じClass IIでも病変の意味が変わります。

根分岐部病変は、単に「何度か」だけで判断できません。
どの歯か。
どの面の分岐部か。
水平的な侵入量はどの程度か。
垂直性骨欠損を伴うか。
歯根の離開度はどうか。
歯根形態は清掃可能か。
補綴物のマージンや形態はどうか。
咬合力はどうか。
患者が分岐部を清掃できるか。

これらを合わせて判断します。

Class Iでは、分岐部への初期侵入があるものの、水平的な骨欠損は限定的です。この段階では、非外科的治療、プラークコントロール、補綴物形態の修正、咬合管理によって安定化を図ることが多くなります。

Class IIでは、水平的に分岐部へ進行しているものの、貫通はしていません。この段階は、再生療法の適応を検討しやすい領域です。特に、下顎大臼歯のClass II、あるいは上顎大臼歯の頬側Class IIでは、病変の位置とアクセスが比較的把握しやすく、垂直性骨欠損を伴う場合には再生療法の対象になり得ます。

Class IIIでは、分岐部が貫通しており、清掃性と長期維持が大きな問題になります。この場合、再生療法だけで完全閉鎖を期待するよりも、トンネリング、ルートリセクション、ヘミセクション、補綴設計、抜歯を含めて検討する必要があります。もちろんClass IIIであっても、すぐに抜歯と決めるのではなく、歯の位置、咬合支持、患者の清掃能力、全顎的治療計画を踏まえて判断します。

根分岐部病変で特に重要なのは、「Class II」という分類の中にも、再生療法に向きやすい病変と向きにくい病変があることです。

たとえば、下顎第一大臼歯の頬側Class IIで、頬側からアクセスでき、垂直性骨欠損を伴い、舌側の支持が残っていて、歯肉弁の閉鎖が安定する場合は、再生療法を検討しやすい病変です。

一方で、上顎大臼歯の近心分岐部や遠心分岐部では、病変のアクセスが難しく、歯根形態も複雑です。プローブでClass IIと評価できても、デブライドメント、材料の保持、初期閉鎖、術後清掃性の確保が難しい場合があります。

また、根分岐部病変には水平性の成分と垂直性の成分があります。単純に水平的に分岐部が開いている病変と、分岐部周囲に垂直性骨欠損を伴うコンビネーション型では、再生療法への反応性が異なります。

垂直性骨欠損を伴う根分岐部病変では、骨壁が残り、血餅が保持され、再生スペースが成立する可能性があります。反対に、水平的に広く開放された分岐部では、血餅の安定や清掃性の確保が難しくなります。

つまり、根分岐部病変の適応判断では、

Class分類だけでなく、
垂直性骨欠損の有無、
欠損の囲まれ方、
歯根形態、
アクセス、
清掃性、
補綴設計、
患者のセルフケア能力、
SPT継続性、

を読む必要があります。

根分岐部病変があること自体は、抜歯の理由ではありません。
しかし、根分岐部病変がある歯は、長期的にはリスクを持った歯です。

再生療法を選ぶなら、術後に患者が分岐部を清掃できる形態にできるか、補綴物が分岐部清掃を妨げないか、咬合力が過度に集中しないかまで考える必要があります。

再生しても清掃できなければ、再発します。
骨様の改善が得られても、分岐部に炎症が残れば長期安定しません。
根分岐部病変では、再生療法の成功は「閉じたか」だけではなく、「維持できる形になったか」で評価すべきです。

根分岐部病変では、再生療法と形態修正を対立させない

根分岐部病変では、再生療法と切除的・形態修正的な治療を対立させて考えない方がよいと思います。

「再生療法で保存する」
「再生できないから切除する」

この二分法では、実際の臨床に合いません。

根分岐部病変の治療では、再生療法、ファーケーションプラスティ、トンネリング、ルートリセクション、ヘミセクション、補綴設計、SPTでの管理が連続した選択肢になります。どれか一つを選ぶというより、その歯を長期に機能させるために、どの組み合わせが最も安定するかを考えます。

たとえば、Class II分岐部病変で再生療法を行い、一定の骨様改善や水平的侵入量の減少が得られたとしても、補綴物形態が不良で、歯間ブラシが入らず、咬合力が集中する状態であれば、長期的には再発しやすくなります。

逆に、完全な再生を狙うより、分岐部を清掃しやすく形態修正し、適切な補綴形態とSPTを組む方が、その患者にとって歯の保存につながる場合もあります。

歯周組織再生療法の目的は、検査値だけを改善することではありません。
歯を機能させ、清掃でき、維持できる形にすることです。

そのため、根分岐部病変においては、再生療法の適応を考えると同時に、術後の清掃性と補綴設計を必ず考える必要があります。

分岐部に歯間ブラシが届くのか。
補綴物のマージンは分岐部を悪化させないか。
根面う蝕のリスクはどうか。
咬合接触は過重ではないか。
患者はその部位を継続して清掃できるか。
SPTで毎回確認できるか。

これらが整わなければ、再生療法を行っても、その成果は維持されにくくなります。

根分岐部病変では、再生療法の適応判断は保存戦略全体の一部です。材料を入れるかどうかではなく、その歯をどのように使い、どのように清掃し、どのように維持するかを考える必要があります。

血餅を守る:再生療法の主役は材料だけではない

歯周組織再生療法では、材料に注目が集まりやすいのですが、実際の治癒を考えると、血餅の安定は極めて重要です。

再生には、細胞、成長因子、足場が必要です。血餅は、単なる出血の塊ではありません。フィブリン網の中に赤血球、白血球、血小板を含み、創の閉鎖、成長因子の供給、細胞の足場として機能します。

歯周組織再生療法では、この血餅がどこにできるか、どれだけ動かずに保持されるかが結果に関わります。

血餅が安定すれば、細胞が遊走し、増殖し、基質を作り、血管が入り、骨や歯根膜様組織が形成される環境が整います。
血餅が動けば、その場は崩れます。
血餅が汚染されれば、炎症が再燃します。
創が開けば、材料も血餅も外部環境に晒されます。

したがって、再生療法の外科操作は、単に骨欠損にアクセスするためのものではありません。血餅を作り、守り、安定させるための操作です。

ここで重要になるのが、フラップデザイン、乳頭保存、初期閉鎖、縫合、低侵襲外科です。

従来の大きなフラップでは、視野を広く確保できます。その一方で、血流が遮断されやすく、軟組織の侵襲が大きく、術後の歯肉退縮や創傷不安定につながることがあります。再生療法では、単に見えることだけでなく、見た後にどれだけ創を安定させられるかが重要になります。

MIST、M-MIST、EPPTなどの低侵襲歯周外科の考え方は、この点で非常に重要です。

MISTは、限局した深い垂直性骨欠損に対して、外科的侵襲を抑えつつ創傷安定性を高めることを目的とします。M-MISTはさらにフラップの剥離範囲を制限し、単独歯の垂直性骨欠損で創傷安定性を高める術式として発展してきました。EPPTは、乳頭を保存し、深く広い骨縁下欠損で乳頭の連続性を保ちながら閉鎖を得ることを狙います。

ここから分かることは、再生療法の成功には「どの材料を置いたか」だけでなく、「どのように創を閉じたか」が深く関わるということです。

血餅を守るためには、創縁が安定している必要があります。
創縁が安定するためには、乳頭が保存されている必要があります。
乳頭を保存するためには、切開線とフラップデザインが重要です。
フラップを緊密に閉鎖するためには、軟組織の厚みとテンションコントロールが重要です。

この連鎖が崩れると、再生療法の場は不安定になります。

MIST、M-MIST、EPPTは「小さく開く技術」ではなく「治癒を守る設計」

低侵襲歯周外科を、単に小さく切る技術として理解すると不十分です。

小さく切ればよいわけではありません。
見えなければデブライドメントが不十分になります。
十分に根面処理できなければ感染源が残ります。
欠損底部にアクセスできなければ再生材料も適切に置けません。

低侵襲歯周外科の本質は、小さくすることではなく、必要な処置を確実に行いながら、治癒に必要な組織をできるだけ温存することです。

そのため、MISTやM-MISTを選択する場合でも、術者には高い診断力と技術が求められます。

欠損が単独歯か複数歯か。
歯間幅は十分か。
乳頭保存が可能か。
頬側だけでアクセスできるか。
舌側・口蓋側のフラップが必要か。
根面デブライドメントが直視下で可能か。
材料を適切に保持できるか。
縫合によって一次閉鎖が得られるか。

これらを術前に読んでおく必要があります。

低侵襲歯周外科は、魔法の術式ではありません。
しかし、再生療法の生物学を臨床で成立させるための重要な設計思想です。

血餅を守る。
乳頭を守る。
血流を守る。
材料を露出させない。
軟組織を安定させる。

この目的があるから、MIST、M-MIST、EPPTが意味を持ちます。

「不良肉芽」ではなく慢性炎症組織として考える

歯周外科でよく使われる言葉に「不良肉芽」があります。

ただ、この言葉は便利である一方、かなり曖昧です。治癒の場に存在する肉芽組織をすべて悪いものとして扱うと、残すべき組織と除去すべき組織の区別がつきにくくなります。

「不良肉芽」という表現ではなく、慢性炎症組織あるいは感染肉芽組織として整理する視点が重要です。炎症が残存し治癒が妨げられている組織を保存しても、線維組織や骨組織への速やかな分化は期待しにくいと考えられます。

これは、歯周組織再生療法のデブライドメントを考えるうえで非常に重要です。

再生療法では、感染している組織、慢性炎症組織、歯石、汚染セメント質、エンドトキシンを含む粗造な根面を除去する必要があります。これらが残れば、再生の場は炎症の場になります。

一方で、何でも削ればよいわけではありません。

骨壁、歯根膜、付着線維、血流を持つ軟組織、再付着に関わる組織を不用意に傷つければ、むしろ治癒に不利になります。特に、骨欠損周囲に残る健全な結合組織、根面に残る付着構造、骨頂部周囲の軟組織は、創傷安定やシールに関わる可能性があります。

したがって、デブライドメントの本質は、ただ掻爬することではありません。

感染している組織を除去する。
慢性炎症組織を取り除く。
根面を清潔にする。
しかし、治癒に必要な組織は守る。

このバランスが重要です。

「不良肉芽を取る」という言葉だけでは、この繊細な判断が見えにくくなります。再生療法では、術野に見えている組織が、感染組織なのか、治癒に関与する組織なのかを見極めながら操作する必要があります。

特に低侵襲外科では、アクセスが限定されるため、デブライドメントの精度がより重要になります。小さく開くことを優先しすぎて感染組織を残せば、低侵襲の意味はありません。反対に、大きく開いて過剰に削れば、血流や軟組織安定性を損ないます。

再生療法におけるデブライドメントは、感染を除去する処置であると同時に、再生の場を傷つけない処置です。

血餅・デブライドメント・初期閉鎖は一つの流れである

ここまで、血餅、低侵襲外科、初期閉鎖、慢性炎症組織の除去を分けて整理しました。しかし実際の手術では、これらは別々の工程ではありません。

まず、術前に欠損形態を読みます。
次に、最小限かつ十分なアクセスを設計します。
フラップを開き、感染組織を除去します。
根面を清潔にします。
必要な材料を適切な位置に置きます。
血餅が安定する空間を作ります。
軟組織でその空間を閉鎖します。
術後管理でその状態を守ります。

この一連の流れが再生療法です。

どこか一つだけ優れていても、全体が崩れれば結果は安定しません。

デブライドメントが不十分なら、感染が残ります。
フラップが大きすぎれば、血流が損なわれます。
閉鎖が不十分なら、血餅が汚染されます。
材料が適応外に流れれば、望ましくない反応が起こります。
患者が清掃できなければ、炎症が再発します。

歯周組織再生療法は、単一の材料や単一の手技で成り立つ治療ではありません。診断、基本治療、外科設計、デブライドメント、材料選択、軟組織閉鎖、術後管理、SPTが連続して初めて成立します。

この考え方を持つと、再生療法の適応判断はかなり変わります。

単に「骨が深いから再生療法」ではない。
単に「リグロスが使えるから再生療法」ではない。
単に「Class IIだから再生療法」でもない。

その部位で、再生の場を作れるか。
作った場を守れるか。
守った結果を維持できるか。

この問いに答えられる症例が、再生療法の候補になります。

軟組織フェノタイプ:角化歯肉幅と歯肉の厚みを読む

歯周組織再生療法では、骨欠損形態に目が向きやすくなります。

何壁性か。
深さは何mmか。
欠損角は狭いか。
CBCTで頬舌側の骨壁は残っているか。

これらはもちろん重要です。しかし、実際の術後経過を左右するのは、硬組織だけではありません。

再生療法で作った血餅と再生スペースは、最終的には軟組織に覆われて守られます。つまり、骨欠損が再生に向いていたとしても、その上を覆う歯肉弁が安定しなければ、創は開き、血餅は汚染され、材料は露出し、再生環境は崩れます。

その意味で、軟組織フェノタイプは再生療法の適応判断に含めるべき因子です。

軟組織フェノタイプを見るうえで、特に重要なのは角化歯肉幅と歯肉の厚みです。角化歯肉幅が十分にあり、歯肉が厚い場合、術後に歯肉弁は安定しやすく、裂開や陥凹が起こりにくくなります。反対に、角化歯肉幅が少なく、歯肉が薄い場合、歯肉弁は動きやすく、裂開しやすく、再生スペースを守りにくくなります。

これは、再生療法を「骨の手術」とだけ考えていると見落としやすい視点です。

たとえば、下顎大臼歯部の頬側で角化歯肉幅が少ない部位に再生療法を行う場合、骨欠損そのものは適応に見えても、術後にフラップが陥凹し、裂開し、材料や血餅が不安定になる可能性があります。特にFGF-2を使用する場合、骨欠損外への流出を避ける意味でも、フラップデザインと軟組織の安定は重要です。

また、歯肉退縮を伴う部位では、再生療法のゴールを骨欠損の改善だけに置くと不十分です。歯根面が露出し、知覚過敏や根面う蝕のリスクが高く、清掃時に患者が痛みを感じる状態では、長期維持は難しくなります。軟組織の厚み、角化歯肉幅、歯肉辺縁の位置、乳頭の高さまで含めて、術後に清掃可能で安定した形態を目指す必要があります。

つまり、再生療法の適応を考えるときは、

骨欠損が再生に向いているか。
歯肉弁が血餅を守れるか。
初期閉鎖が得られるか。
裂開や陥凹のリスクは高くないか。
歯肉退縮が長期的な問題にならないか。
必要なら軟組織の補強を同時または段階的に行うべきか。

ここまで読む必要があります。

硬組織の再生は、軟組織の治癒に守られて初めて成立します。再生療法で「骨をどう増やすか」だけを考えるのではなく、「その骨を作る場を、歯肉がどのように守るか」を考えることが重要です。

患者因子:プラーク、BOP、喫煙、糖尿病、SPT

再生療法の適応判断では、局所の骨欠損形態だけでなく、患者因子を同時に評価する必要があります。

同じ3壁性骨欠損でも、患者のプラークコントロールが良好で、非喫煙者で、糖尿病がなく、SPTに継続して通院できる場合と、プラークコントロールが不安定で、喫煙が続き、糖尿病のコントロールが不十分で、通院が途切れやすい場合では、予測性はまったく異なります。

再生療法は、手術日に完結する治療ではありません。術前の炎症コントロール、術中の創傷安定、術後の清掃管理、長期SPTが連続して初めて成立します。

まず、プラークコントロールです。

歯周炎の主因はプラークです。再生療法の前にプラークコントロールが成立していなければ、手術部位の治癒環境は感染に傾きます。歯肉縁上プラークが多く、全顎的にBOPが多い状態で再生療法を行っても、局所に材料を置くことは、炎症環境に材料を置くことになりかねません。

BOPは、単なる出血ではありません。プロービング時に出血するということは、その部位に炎症が残っている可能性を示します。ポケットの深さだけでなく、BOPの有無を見ることが重要です。

たとえば、4mmのポケットでもBOPがなく、清掃状態が安定していれば、SPTで維持できることがあります。一方で、同じ4mmでもBOPがあり、プラークが残りやすく、深部に垂直性骨欠損がある場合には、再発リスクを考えて外科的介入を検討することがあります。

再生療法の対象となるのは、単に「数字が深いポケット」ではありません。
炎症が残り、骨欠損形態があり、基本治療では改善しきれず、かつ再生の場を作れる部位です。

次に喫煙です。

喫煙は歯周治療の予後を悪化させる代表的な因子です。血流、免疫応答、創傷治癒、線維芽細胞機能、骨代謝に影響し、歯周組織再生療法でも予測性を下げる因子として扱うべきです。

臨床では、「喫煙者だから絶対に再生療法をしない」と機械的に決めるより、喫煙量、禁煙意思、病変の重症度、他の保存選択肢、抜歯時のリスク、患者の価値観を総合して判断します。ただし、喫煙が予測性を下げる因子であることは、術前に明確に説明すべきです。

再生療法を行うなら、禁煙指導は治療の一部です。
喫煙継続下での再生療法は、非喫煙者と同じ予後を期待できない可能性があります。

これは患者説明としても重要です。

糖尿病がある症例で再生療法をどう考えるか

糖尿病も、歯周組織再生療法の適応判断で重要な患者因子です。

糖尿病では、持続的な高血糖により、白血球機能、コラーゲン代謝、微小循環、炎症性サイトカイン、創傷治癒が影響を受けます。そのため、歯周外科治療では創傷治癒遅延や術後感染リスクを考慮する必要があります。

糖尿病と歯周病は双方向性の関係にあります。糖尿病は歯周炎のリスクを高め、歯周炎による慢性炎症は血糖コントロールに影響する可能性があります。したがって、糖尿病患者に対する歯周治療は、口腔内だけでなく全身管理の一部としても重要になります。

【糖尿病と歯周病の双方向性についてはこちら】

ただし、糖尿病があるから再生療法はできない、という単純な話ではありません。

重要なのは、血糖コントロールの状態です。
感染リスクを管理できるか。
創傷治癒を妨げる因子がどの程度あるか。
医科と連携が必要か。
術後管理を安定して行えるか。

これらを確認します。

糖尿病と歯周組織再生に関する基礎研究では、高血糖状態が創傷治癒や再生に影響することが示されています。一方で、FGF-2を糖尿病ラットの歯周組織欠損に応用した研究では、HPCのみより新生骨形成が増加し、PCNA陽性細胞や血管新生関連所見から、細胞増殖や血管新生の調整を介して治癒を促進する可能性が示されています。

この結果は興味深いものです。糖尿病状態でも、成長因子や低侵襲術式、適切な足場材料の組み合わせによって、治癒環境を改善できる可能性があります。

しかし、基礎研究の結果をそのまま臨床に拡大することはできません。実際の臨床では、血糖コントロールが適切になされていることが前提になります。コントロール不良の糖尿病患者に対して、歯周組織再生療法を積極的に行うことは慎重であるべきです。

糖尿病患者に再生療法を検討する場合には、

HbA1cなどの血糖コントロール状況。
感染既往。
服薬状況。
医科主治医との連携。
手術侵襲の程度。
術後感染対策。
通院継続性。
SPTでの管理能力。

を確認します。

糖尿病があっても、血糖コントロールが良好で、歯周基本治療に反応し、プラークコントロールが安定し、低侵襲な術式で創傷安定が得られる症例では、再生療法を検討できる場合があります。

一方で、血糖コントロールが不十分で、炎症が広範囲に残り、通院継続が不安定で、術後感染リスクが高い場合には、再生療法よりも炎症コントロールと全身管理を優先すべきです。

糖尿病症例では、「できるかどうか」よりも、「どの条件なら安全に行えるか」を考えることが重要です。

【骨粗鬆症薬や抜歯リスクを含めた外科判断についてはこちら】

SPT:再生した組織を維持できなければ意味がない

歯周組織再生療法は、術後のSPTなしには語れません。

どれだけ術後6か月や12か月で良い結果が出ても、その後のメインテナンスが途切れれば、再発リスクは高くなります。歯周炎は慢性疾患であり、プラーク、咬合力、全身因子、生活習慣、加齢、補綴物の変化などが長期的に影響します。

再生療法を行う場合、術後にどのようなSPT計画を組むかは、術前から考えておくべきです。

術後のポケットはどこまで浅くできるか。
BOPは消失するか。
患者はその部位を清掃できるか。
歯間ブラシは入るか。
根分岐部は管理できるか。
咬合力は安定しているか。
補綴形態は清掃を妨げないか。
どの間隔でSPTに来るべきか。

再生療法の成功は、術者が手術で作った組織を、患者と歯科医院が維持できるかで決まります。

術後に深いポケットが残る。
BOPが残る。
清掃器具が届かない。
補綴物の形態が悪い。
咬合力が集中する。
SPTが途切れる。

このような状態では、再生療法で得た改善も長期安定しません。

したがって、再生療法の適応判断では、「この歯は再生できるか」だけでなく、「再生後に維持できるか」を必ず考える必要があります。

咬合・動揺・矯正:骨欠損形態を変えられる場合がある

歯周組織再生療法の適応判断では、咬合や動揺も重要です。

歯周炎が進行すると支持骨が減少し、歯は動揺しやすくなります。さらに、咬合性外傷やブラキシズムが加わると、歯周組織への負担は増えます。特に二次性咬合性外傷では、通常の咬合力でも、支持組織が減少しているために外傷的に作用することがあります。

動揺がある歯をすぐに再生療法の非適応とする必要はありません。
しかし、動揺の原因を読まずに再生療法を行うことは危険です。

炎症による動揺なのか。
支持骨減少による動揺なのか。
咬合性外傷による動揺なのか。
歯根破折があるのか。
歯内病変が関与しているのか。
暫間固定で安定できるのか。

これらを評価します。

歯周基本治療によって炎症が改善すると、動揺が軽減する場合があります。一方で、支持骨が大きく失われた歯では、炎症が消えても動揺が残ることがあります。そのような場合、咬合調整、暫間固定、補綴設計、矯正的介入を含めて、歯を機能させられるかを考えます。

咬合管理は、再生療法と対立するものではありません。再生した組織を守るための条件です。過度な咬合力が加わる部位では、血餅の安定や長期維持に悪影響を及ぼす可能性があります。特にブラキシズムが疑われる症例では、スプリントや咬合設計も含めて考える必要があります。

【噛み合わせの紙で高さを確認する理由はこちら】

さらに、矯正治療によって骨欠損形態を変えられる場合があります。

これは非常に重要な視点です。

通常、歯周炎患者では、炎症コントロールが不十分なまま矯正力をかけると、歯周組織破壊が進む危険があります。そのため、歯周基本治療で炎症をコントロールし、必要な外科処置や再評価を行ったうえで矯正を検討するのが基本です。

しかし、症例によっては、歯の位置を変えることそのものが、再生療法に有利な骨欠損形態を作ることがあります。

たとえば、広く浅い骨欠損が、歯体移動や圧下によって、より深く狭い欠損形態に変化する場合があります。歯肉や付着位置も歯の移動に伴って変化するため、軟組織条件が改善することもあります。

X線上は骨が失われているように見える症例でも、付着が失われているのか、付着は残っているが骨が失われているのかで再生の可能性は異なります。歯肉溝、上皮性付着、sealing spaceを意識し、その根尖側に再生スペースを設定する考え方は、骨欠損を「骨の量」だけで見るのではなく、「付着の位置」と「シールできる場」で見る視点です。

同じように骨がないように見えても、歯根面の付着が失われている場合と、骨だけが失われて付着が保たれている場合では、治癒の可能性が違います。付着が残っている根面では、適切なスペースメイキングと軟組織閉鎖により、再生の可能性を過小評価しない方がよい場合があります。

また、歯周組織再生療法と加速矯正治療を組み合わせた報告もあります。ただし、この報告は後ろ向き研究であり、症例選択や術者の熟練度の影響を受けるため、一般的な歯周組織再生療法の標準適応として扱うものではありません。

それでも、「骨欠損形態は固定されたものではない」という視点は、再生療法の適応判断を広げます。

歯の位置。
付着の位置。
骨欠損の形。
軟組織の位置。
咬合関係。

これらは治療によって変化し得ます。

再生療法の適応は、初診時のX線写真だけで決まるものではありません。歯周基本治療、炎症の改善、矯正移動、暫間固定、咬合管理、補綴設計によって、保存可能性が変わることがあります。

【治療途中で転院・相談するときに必要な情報はこちら】

セメント質剥離・歯根破折・歯内歯周病変を見落とさない

垂直性骨欠損を見たとき、すぐに歯周炎による骨欠損と決めつけてはいけません。

孤立性に深いポケットがある。
急にBOPや排膿が出た。
メインテナンス中の歯に突然深いポケットができた。
X線で限局した透過像がある。
根尖部に病変が近い。
生活歯なのに限局性骨欠損がある。
失活歯で歯内病変との連続が疑われる。
咬合痛や違和感がある。

このような場合、歯周炎以外の原因を鑑別する必要があります。

代表的なのが、垂直性歯根破折、歯内歯周病変、セメント質剥離です。

垂直性歯根破折では、限局した深いポケットや瘻孔、咬合痛、根面に沿った骨吸収を認めることがあります。再生療法を行っても、破折線が存在すれば根本原因は除去されません。保存困難となることも多く、診断が極めて重要です。

歯内歯周病変では、根管内感染と歯周組織破壊が関連します。根尖性病変が歯周ポケットと連続している場合、先に根管治療を行うべきか、歯周治療をどう組み合わせるかを判断します。歯内由来の病変に対して、歯周再生療法だけを行っても治癒しません。

セメント質剥離は、診断が難しい病態です。限局した深いポケット、急な炎症、X線上の根面近くの不透過像、CBCTでの剥離片、外科的直接確認などが診断の手がかりになります。歯周炎や垂直性歯根破折と似た臨床像を示すため、見落とすと適応判断そのものがずれます。

もしセメント質剥離を単なる歯周炎と考えれば、基本治療を繰り返しても改善しないかもしれません。
もし垂直性歯根破折をセメント質剥離や歯周炎と誤れば、保存困難な歯に再生療法を行うことになります。
もし歯内病変を見落とせば、歯周外科だけでは治癒しません。

再生療法の適応判断は、「骨欠損があるか」ではなく、「なぜその骨欠損ができたか」から始まります。

原因診断を飛ばした再生療法は、適応判断が不安定になります。

したがって、限局した深い垂直性骨欠損を見たときは、次の点を確認します。

歯髄生活反応。
根管治療歴。
ポストの有無。
歯根破折を疑う症状。
咬合痛。
瘻孔。
孤立性ポケット。
根面近くの不透過像。
CBCTでの根面形態。
外科時の直接確認。

再生療法は診断の代わりにはなりません。
診断があって初めて、再生療法の適応が決まります。

既存再生療法の限界と細胞治療の未来

現在の歯周組織再生療法は、以前と比べて大きく進歩しています。GTR、EMD、FGF-2、骨補填材、低侵襲外科、マイクロサージェリー、軟組織管理によって、保存可能性が広がった症例は少なくありません。

しかし、既存の再生療法には限界があります。

水平性骨吸収。
広い1壁性骨欠損。
重度のnon-contained defect。
Class III根分岐部病変。
多発する根分岐部病変。
清掃不能な補綴設計を伴う症例。
高度な喫煙リスク。
コントロール不良の全身疾患。

こうした領域では、現在の日常臨床で行える再生療法だけでは、予測性に限界があります。

歯根膜細胞シートは、歯周組織再生に必要な細胞成分を直接補う発想です。歯髄幹細胞や歯根膜由来間葉系幹細胞は、将来的な再生医療の細胞源として期待されています。また、移植細胞そのものが長期に生着して組織を作るというより、液性因子、死細胞由来因子、エクソソームなどを介して創傷治癒を修飾する可能性も議論されています。

ただし、ここは冷静に分ける必要があります。

細胞治療は興味深い将来展望です。
しかし、現時点の日常臨床の適応判断を置き換えるものではありません。

今、一般臨床でまず行うべきことは、既存の再生療法を適切に使うことです。

歯周基本治療を徹底する。
骨欠損形態を読む。
軟組織を評価する。
血餅を守る術式を選ぶ。
材料を適応に合わせる。
患者因子を管理する。
SPTで維持する。

この基盤があって初めて、将来の細胞治療も意味を持ちます。

新しい材料や技術が出ても、感染が残り、血餅が動き、清掃できず、SPTが途切れる環境では、長期安定は得られません。再生医療の未来を考えるほど、現在の歯周基本治療と適応判断の重要性はむしろ増していくと思います。

まとめ:再生療法の適応は、骨・歯肉・患者・維持管理を同時に読む

歯周組織再生療法の適応は、骨欠損の深さだけで決まるものではありません。

深い垂直性骨欠損があっても、血餅が安定しない形であれば予測性は下がります。
3壁性欠損であっても、プラークコントロールが不良でBOPが広範囲に残っていれば、再生環境は整いません。
Class II根分岐部病変であっても、清掃不能な形であれば長期維持は難しくなります。
リグロスやエムドゲインを使っても、創が開けば治癒環境は崩れます。
X線上で骨様不透過像が増えても、BOPが残り清掃できなければ安定とは言えません。

再生療法は、材料を入れる治療ではありません。

感染を除去する。
血餅を安定させる。
軟組織で閉鎖する。
骨欠損形態を読む。
根面を清潔にする。
咬合力を管理する。
患者因子を整える。
SPTで維持する。

この条件がそろったとき、再生材料は初めて力を発揮します。

GTRは、スペースと細胞選択性を守る治療です。
EMDは、根面の生物学的治癒環境を整える治療です。
FGF-2は、細胞増殖と血管新生を通じて局所環境を整える治療です。
骨補填材は、症例によってスペースメイキングを補助する材料です。

どれか一つが万能なのではありません。
それぞれが、適応に合った場で意味を持ちます。

垂直性骨欠損では、深さ、角度、骨壁数を読みます。
根分岐部病変では、Classだけでなく部位、方向、清掃性、補綴設計を読みます。
軟組織では、角化歯肉幅、歯肉の厚み、乳頭、初期閉鎖の可能性を読みます。
患者因子では、プラーク、BOP、喫煙、糖尿病、咬合力、SPT継続性を読みます。
鑑別診断では、歯根破折、歯内歯周病変、セメント質剥離を見落とさないようにします。

保存か抜歯かの判断も、再生療法単独で決まるものではありません。歯内療法の可否、歯冠修復の可否、フェルール、歯根破折の有無、咬合支持、患者の清掃能力まで含めて、その歯が機能する単位として残せるかを判断する必要があります。

歯周組織再生療法の適応を考えるということは、骨欠損の深さを見ることだけではありません。

その部位に、再生が起こり得る場を作れるか。
その場を、軟組織と血餅で守れるか。
得られた治癒を、患者と歯科医院が長期に維持できるか。

そこまで読んで初めて、再生療法は単なる材料選択ではなく、歯を保存するための治療戦略になります。

歯周組織再生療法は、できる治療ではなく、条件がそろったときに選ぶ治療です。
その条件を読む力こそが、歯周外科における適応判断の本質だと考えています。

FAQ

Q1. 歯周組織再生療法は、骨が溶けたところならどこでもできますか?

いいえ。歯周組織再生療法は、すべての骨吸収に適応できる治療ではありません。深い垂直性骨欠損や一部の根分岐部病変では検討できますが、水平性骨吸収や浅く広い骨欠損では予測性が下がります。骨欠損の深さだけでなく、骨壁数、欠損角、血餅の安定、軟組織の閉鎖、患者さんの清掃状態まで含めて判断します。

Q2. リグロス、エムドゲイン、GTRはどれが一番よいですか?

一概には決められません。GTRは膜によって再生スペースを守る治療、エムドゲインは根面の創傷治癒環境に働きかける治療、リグロスはFGF-2によって細胞増殖や血管新生を促す治療です。どの材料がよいかは、骨欠損形態、軟組織、国内適応、保険適用、患者背景、術者が安定した創閉鎖を得られるかによって変わります。

Q3. 喫煙していても歯周組織再生療法はできますか?

喫煙は歯周組織再生療法の予測性を下げる重要な因子です。喫煙によって血流、免疫応答、創傷治癒、骨代謝が影響を受けるため、非喫煙者と同じ結果を期待できない可能性があります。実際の適応判断では、喫煙量、禁煙の意思、病変の重症度、他の保存選択肢、術後管理への参加を含めて慎重に判断します。

Q4. 糖尿病があると歯周組織再生療法はできませんか?

糖尿病があるだけで直ちに不可とは言えません。ただし、血糖コントロール、感染リスク、創傷治癒、医科との連携、SPTへの継続参加を確認する必要があります。血糖コントロールが不十分な場合は、再生療法よりも炎症コントロールと全身管理を優先することがあります。

Q5. 歯周組織再生療法をすれば、失った骨は元通りになりますか?

完全に元通りになる治療ではありません。歯周組織再生療法は、失われた支持組織の一部回復を目指す治療です。治療の目標は、X線上の骨様不透過像だけではなく、歯周ポケットの改善、BOPの消失、清掃しやすい形態、咬合の安定、SPTで維持できる環境を作ることです。

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