2026年7月02日

(院長の徒然コラム)

骨粗鬆症の薬を飲んでいる患者さんに、抜歯はできないのか
「骨粗鬆症の薬を飲んでいるので、抜歯はできません」
歯科外来で、このように説明された経験のある患者さんは少なくありません。あるいは、医科で骨粗鬆症の薬を始める前に「歯科で抜く歯がないか確認してきてください」と言われ、不安を抱えて来院されることもあります。
その背景にあるのが、MRONJ、すなわち薬剤関連顎骨壊死(medication-related osteonecrosis of the jaw:MRONJ)です。以前はビスホスホネート関連顎骨壊死、BRONJという呼び方が広く使われていました。その後、デノスマブによる顎骨壊死も認識されるようになり、さらに骨吸収抑制薬以外の一部薬剤でも関連が疑われる症例が報告されるようになったため、現在ではMRONJという呼称が一般的になっています。
MRONJは、歯科外来にとって非常に重要な疾患です。顎骨に骨露出や骨壊死を生じ、感染、疼痛、排膿、瘻孔、病的骨折などに進展することがあります。進行すれば食事、会話、義歯使用、口腔衛生、全身治療の継続にも影響します。したがって、軽く扱ってよい病態ではありません。
しかし一方で、MRONJを恐れるあまり、骨粗鬆症薬そのものを過度に悪者にしたり、必要な抜歯を避け続けたり、歯科側の判断だけで薬を休ませたりすることも危険です。
骨粗鬆症の薬は、脆弱性骨折を防ぐために使われます。特に大腿骨近位部骨折や椎体骨折は、高齢者の生活機能、QOL、生命予後に大きく関わります。がん骨転移や多発性骨髄腫で使われる高用量の骨修飾薬(bone-modifying agent:BMA)は、骨関連事象(skeletal-related events:SRE)、病的骨折、疼痛、麻痺、放射線治療や手術の必要性を抑える目的で用いられます。つまり、これらの薬剤は単に「副作用が怖い薬」ではなく、患者さんの全身的利益を守るために処方されています。
したがって、MRONJ対策の本質は、薬を止めることではありません。抜歯を避けることでもありません。
重要なのは、薬剤の種類、投与目的、投与量、投与期間、最終投与時期、併用薬、全身疾患、口腔内の感染源、画像所見、処置の必要性を整理し、患者さんにとって何が最も利益になるかを判断することです。
歯科外来でMRONJを考えるとは、骨粗鬆症薬を飲んでいる患者さんを一律に「抜歯できない」と扱うことではありません。むしろ、歯周病、根尖病変、残根、義歯性潰瘍、インプラント周囲炎など、顎骨感染や粘膜損傷につながる要因を見落とさず、必要な歯科治療を適切なタイミングで行い、全身治療を安全に継続できる状態を作ることです。

MRONJは「薬剤」と「抜歯」だけでは説明できない
MRONJという言葉は、どうしても「薬剤によって顎の骨が壊死する病気」という印象を与えます。もちろん薬剤は重要です。ビスホスホネート(bisphosphonate:BP)製剤やデノスマブ製剤は、骨リモデリングを抑制し、顎骨の治癒や感染制御に影響を与える可能性があります。高用量投与、長期投与、累積投与量の増加は、MRONJ発症リスクに関わります。
しかし、薬剤だけでMRONJが説明できるわけではありません。
MRONJが顎骨に起こりやすい理由を考えると、口腔という環境の特殊性を避けて通れません。顎骨には歯が植立しています。歯は口腔粘膜を貫通して顎骨とつながっており、う蝕が進行すれば根管を経由して根尖部に感染が及びます。歯周病が進行すれば、歯周ポケットを通じて細菌が歯槽骨へ到達します。インプラント周囲炎では、インプラント周囲の骨に慢性炎症が生じます。不適合義歯は、薄い口腔粘膜を慢性的に圧迫し、骨露出のきっかけになることがあります。
つまり、顎骨はもともと細菌感染や外傷の影響を受けやすい骨です。
骨粗鬆症薬やがん骨転移治療薬を使用している患者さんで抜歯後に骨露出が起こった場合、「抜歯がMRONJを起こした」と考えたくなります。もちろん、抜歯などの侵襲的歯科治療は重要な局所因子です。しかし、抜歯が必要になる歯には、すでに重度歯周病、根尖病変、残根、排膿、顎骨骨髄炎などが存在していることが少なくありません。
この場合、抜歯は原因であると同時に、すでに存在していた顎骨感染や潜在性病変を顕在化させた契機でもあります。
ここを取り違えると、臨床判断を誤ります。
「抜歯が危険だから抜かない」という判断だけでは、感染源を残すことになります。感染源が残れば、歯周炎や根尖病変が進行し、顎骨骨髄炎の状態が続きます。その結果、抜歯を避けたはずなのに、MRONJの土台となる顎骨感染を温存してしまうことがあります。
MRONJを薬剤と抜歯の二項対立で考えると、歯科外来で本当に見るべきものを見落とします。見るべきなのは、薬剤投与歴だけではなく、顎骨に感染があるか、感染源を保存できるか、保存することで感染が長引かないか、抜歯を待つことで病態が進行しないか、抜歯を行うならどのように低侵襲に行い、どのように治癒を確認するかです。

日本のポジションペーパー2023で、MRONJの見方はどう変わったか
日本では、顎骨壊死検討委員会による「薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:ポジションペーパー2023」が公表されています。これは日本口腔外科学会、日本骨粗鬆症学会、日本病院薬剤師会、日本歯科放射線学会、日本臨床口腔病理学会、日本骨代謝学会が関わる、日本の臨床における重要な整理です。
このポジションペーパー2023(以下、PP2023)では、従来の考え方からいくつか重要な変更が示されています。
第一に、呼称がBRONJやARONJからMRONJへ整理されました。
当初は、BP製剤に関連する顎骨壊死としてBRONJという言葉が使われていました。その後、デノスマブ製剤でも顎骨壊死が報告され、BP製剤とデノスマブ製剤を骨吸収抑制薬(antiresorptive agent:ARA)としてまとめ、ARONJという呼称も使われました。しかし、近年ではロモソズマブ、血管新生阻害薬、チロシンキナーゼ阻害薬、mTOR阻害薬、免疫抑制薬など、ARA以外の薬剤との関連も報告されています。
とはいえ、現時点で主たる原因薬剤は、BP製剤とデノスマブ製剤です。他の薬剤については症例報告やcase seriesが中心で、単剤での明確な因果関係を大規模に示すデータは十分ではありません。したがって、MRONJという呼称は広く使われますが、臨床判断の中心には今なおBP製剤とデノスマブ製剤があります。
第二に、診断定義に「原発性がんや顎骨転移ではないこと」が明記されました。
骨露出があり、薬剤投与歴があるとMRONJを疑います。しかし、顎骨の病変が原発性口腔がんや顎骨転移である可能性を除外しなければなりません。抜歯後の治癒不全や骨露出として経過を見ていたところ、実際には悪性腫瘍だったという状況は、臨床上避けなければなりません。
第三に、いわゆるstage 0の扱いが整理されました。
AAOMSの分類では、骨露出がないものの非特異的症状や画像所見を示す病態がstage 0として扱われてきました。しかしPP2023では、stage 0を「分類」としては残しつつ、MRONJの診断・統計からは外しています。理由は明確です。骨露出、または骨に達する瘻孔という診断基準を満たさないためです。
ただし、これは「骨露出前の病態が存在しない」という意味ではありません。潜在性・非骨露出型病変の中には、通常の根尖病変や歯周炎として治癒するものもあれば、すでに骨髄炎や骨壊死が存在し、抜歯や経過中にMRONJとして顕在化するものもあります。過剰診断を避けながら、早期病変を見落とさない。この両立が難しいのです。
第四に、高用量・低用量という軸が重視されました。
従来は、経口薬か注射薬か、骨粗鬆症か悪性腫瘍かという分け方がされることも多くありました。しかし現在は、骨粗鬆症治療薬にも注射薬があり、がん治療関連骨量減少症(cancer treatment-induced bone loss:CTIBL)に対して低用量のARAが用いられることもあります。そのため、投与経路や病名だけでなく、年間あたりの用量、高用量か低用量かを意識する必要があります。
第五に、抜歯そのものより、歯性感染症の持続が重視されました。
これは歯科外来にとって非常に大きな変更です。PP2023では、局所因子として、歯周病、根尖病変、顎骨骨髄炎、インプラント周囲炎など、顎骨に発症する感染性疾患が重視されています。侵襲的歯科治療、たとえば抜歯などは重要な因子ですが、それだけをMRONJの原因として扱うのではなく、抜歯が必要になる背景にある感染源を評価する方向へ整理されています。
第六に、抜歯時の予防的休薬について、原則として休薬しないことが提案されました。
これは誤解されやすい部分です。PP2023は、「休薬は絶対に無意味である」と断言しているわけではありません。現時点で、抜歯時のARA休薬がMRONJ発症を減らすという十分なエビデンスは得られていない。一方で、短期間の休薬による害を検討した論文も乏しい。そのため、現状では原則として抜歯時にARAを予防的に休薬しないことを提案する、という整理です。
第七に、MRONJの治療目標が「症状緩和」から「治癒」へ近づきました。
以前は、MRONJは難治性疾患であり、治療目標は骨壊死の進展抑制、疼痛や排膿の緩和、感染制御、QOL維持とされることが多くありました。しかし近年、外科治療の成績が蓄積され、PP2023では骨露出を含めた症状の消失、つまり疾患の治癒を治療目標とする方向が示されています。
第八に、医科歯科連携から、薬剤師を含めた医歯薬連携へ広がりました。
MRONJは薬剤に関連する疾患です。薬剤名、投与量、投与目的、最終投与日、過去の処方歴、併用薬を把握しなければ、歯科外来で正確な判断はできません。経口薬であればお薬手帳に記録されていることが多い一方、注射薬では患者さん自身が薬剤名や投与日を把握していないこともあります。薬剤師が処方内容や併用薬の情報共有を担う意味は大きくなっています。

MRONJの診断定義をどう読むか
PP2023では、以下の3項目を満たした場合にMRONJと診断するとされています。
1つ目は、BPやデノスマブ製剤による治療歴があることです。
ここで注意すべきなのは、「現在使用中」だけではなく「過去に使用していた」場合も含むという点です。特にBP製剤は骨に長く残るため、過去の投与歴が重要になります。お薬手帳に現在の処方がないからといって、過去の投与歴がないとは限りません。注射薬の場合、患者さんが「骨の注射」「半年に1回の注射」「がんの骨の薬」としか認識していないこともあります。
2つ目は、8週間以上持続して、口腔・顎・顔面領域に骨露出を認めること、または口腔内あるいは口腔外から骨を触知できる瘻孔を8週間以上認めることです。
この8週間という期間は、抜歯など骨露出を伴う歯科処置後の通常治癒を考慮したものです。すぐ治る骨露出までMRONJと診断しないための時間軸です。しかしPP2023では、経過や画像所見などから明らかに治癒傾向のない骨壊死がみられる場合は、8週間以内でもMRONJと診断できるとされています。
つまり、8週間は機械的に待つための数字ではありません。明らかに治癒傾向がなく、壊死骨、腐骨形成、排膿、瘻孔、画像上の骨融解や骨硬化などが揃っているにもかかわらず、「まだ8週間経っていないから何もしない」という対応は適切ではありません。
3つ目は、原則として顎骨への放射線照射歴がないこと、また顎骨病変が原発性がんや顎骨へのがん転移ではないことです。
この条件は非常に重要です。骨露出や瘻孔があり、薬剤投与歴があればMRONJを疑います。しかし、口腔がん、顎骨転移、放射線性顎骨壊死、通常の顎骨骨髄炎、外傷性骨露出などを含めて鑑別する必要があります。
MRONJの診断は、単純なチェックリストではありません。薬剤投与歴があり、骨露出があるからMRONJと決めるのではなく、薬剤、臨床所見、画像所見、経過、鑑別疾患を組み合わせて判断します。
骨粗鬆症薬を怖がらせない説明が必要になる
MRONJの説明で最も避けたいのは、患者さんに「骨粗鬆症の薬は危険だから飲まない方がいい」と受け取らせてしまうことです。
低用量の骨粗鬆症治療でMRONJが起こる可能性はゼロではありません。しかし、骨粗鬆症治療の目的は、骨折を防ぐことです。骨折、特に大腿骨近位部骨折や椎体骨折は、高齢者の生活機能を大きく落とし、介護、寝たきり、死亡リスクにも関わります。MRONJのリスクを説明することは重要ですが、その説明によって骨粗鬆症治療そのものを中断させてしまえば、別の大きな不利益を生む可能性があります。
歯科外来で求められるのは、恐怖を与える説明ではありません。
「薬を飲んでいるから抜歯できません」
「顎骨壊死になるかもしれないので薬を止めてください」
「薬を飲んでいるので何もしない方がいいです」
こうした説明は、一見安全に見えて、患者さんの全身治療や口腔感染を置き去りにすることがあります。
より適切なのは、次のような説明です。
骨粗鬆症薬やがん骨転移治療薬の中には、まれに顎骨壊死と関連する薬があります。リスクは、薬の種類、量、期間、病気の背景、口の中の感染状態によって変わります。自己判断で薬を止めることはできません。必要な歯科治療を避け続けることも安全とは限りません。薬の情報を確認し、感染源があるかを調べ、必要があれば主治医と相談しながら治療方針を決めます。
この説明であれば、患者さんは薬を怖がるだけではなく、歯科受診と口腔管理の意味を理解できます。
潜在性・非骨露出型病変をどう考えるか
MRONJの診断は、骨露出または骨に達する瘻孔を基本にします。
その一方で、骨露出がない段階で、顎骨内にすでに病変が進んでいる可能性もあります。
ここが、MRONJ診療の難しいところです。
骨が露出していなければMRONJではない、と機械的に考えると、早期病変を見落とす可能性があります。逆に、骨粗鬆症薬やBMAを使用している患者さんに、顎の痛み、歯の動揺、根尖病変、骨硬化、歯根膜腔の拡大があるだけでMRONJと診断すると、過剰診断になります。
PP2023では、いわゆるステージ0、すなわち潜在性・非骨露出型病変は「分類」としては残されています。しかし、MRONJの診断基準である骨露出または骨に達する瘻孔を満たさないため、MRONJの診断・統計からは外されました。
これは非常に現実的な整理です。
骨露出のない顎骨痛や画像変化には、いくつもの病態が混ざります。通常の根尖性歯周炎、歯周炎、可逆的な骨髄炎、抜歯後治癒不全、慢性骨髄炎、腫瘍性病変、神経障害性疼痛などがあり、そのすべてをMRONJとして扱うことはできません。
一方で、潜在性病変の中には、すでに骨髄炎や骨壊死が存在し、抜歯や自然脱落、二次感染を契機にMRONJとして顕在化するものがあります。
つまり、ステージ0の問題は、「あるか、ないか」ではありません。
どこまでをMRONJとして診断し、どこまでをMRONJ疑い、あるいはMRONJに進展しうる顎骨感染として扱うかという問題です。
臨床的には、少なくとも3つに分けて考える必要があります。
第一に、通常の歯周病や根尖病変として説明でき、適切な歯科治療で改善する病態です。これはMRONJではありません。骨吸収抑制薬を使用していても、通常の歯科疾患は通常の歯科疾患として起こります。
第二に、根尖病変や歯周病に見えるものの、すでに骨髄炎や骨壊死が潜在している病態です。こうした歯を抜歯した場合、抜歯後に骨露出が続き、結果としてMRONJと診断されることがあります。この場合、抜歯が単独でMRONJを発症させたというより、抜歯前から存在していた顎骨病変が顕在化したと考える方が自然なことがあります。
第三に、骨露出も瘻孔もないものの、画像上で骨融解、腐骨形成、著明な骨硬化、Vincent症状、すなわち下唇やオトガイ部の知覚鈍麻などを認める病態です。この領域では、通常の歯科疾患、顎骨骨髄炎、MRONJの境界が非常に難しくなります。
ここで大切なのは、診断名を急がないことです。
骨粗鬆症薬を使っている患者さんに根尖病変があるからといって、すぐMRONJと決める必要はありません。
しかし、骨粗鬆症薬を使っている患者さんの根尖病変を、通常の慢性病変として軽く見すぎるのも危険です。

特に注意したいのは、次のような所見です。
歯根膜腔の不自然な拡大。
根尖部の境界不明瞭で比較的大きな透過像。
根尖病変周囲の著明な骨硬化。
抜歯窩が長期間残存している状態。
骨硬化と骨融解が混在する像。
下顎管周囲の変化。
上顎洞炎を伴う上顎臼歯部病変。
歯性感染の程度に比べて、骨変化が過剰に見える場合。
自然脱落後に治癒しない顎堤部の骨露出。
義歯床下や顎舌骨筋線部の繰り返す粘膜潰瘍。
これらはMRONJと診断するための単独所見ではありません。しかし、薬剤投与歴と組み合わせると、通常より慎重な評価が必要になります。
画像診断はMRONJを確定するものではなく、病態を読むための道具である
MRONJの診断において、画像診断は非常に重要です。
ただし、画像だけでMRONJを確定することはできません。
パノラマX線画像で骨硬化がある。
デンタルX線画像で歯根膜腔が拡大している。
CTで骨融解がある。
MRIで骨髄炎を疑う信号変化がある。
これらは重要な所見ですが、それだけでMRONJとは言えません。歯周病、根尖性歯周炎、慢性骨髄炎、放射線性骨壊死、腫瘍性病変などでも類似した画像所見を示すことがあります。
画像診断は「MRONJかどうかを一発で決める検査」ではありません。
画像診断は、感染源がどこにあるか、骨病変がどこまで広がっているか、通常の歯科疾患として説明できるか、外科処置が必要か、紹介すべきかを考えるための道具です。
一般歯科外来で最初に使われる画像は、デンタルX線画像とパノラマX線画像です。
デンタルX線画像は、歯根膜腔、歯槽硬線、根尖部透過像、根分岐部病変、局所的な骨硬化や骨融解を評価するのに向いています。パノラマX線画像は、下顎管、上顎洞底、上下顎全体の骨変化、残根、埋伏歯、抜歯窩、骨硬化の分布を広く見ることができます。
MRONJを考えるときに、デンタルやパノラマで特に注意したいのは以下です。
歯根膜腔の拡大。
歯槽硬線の肥厚。
境界不明瞭な根尖部透過像。
根尖病変周囲の著明な骨硬化。
垂直性歯槽骨吸収。
根分岐部病変。
抜歯窩の長期残存。
腐骨を疑う不整なX線不透過像。
下顎管周囲の骨硬化。
上顎洞底線の変化。
上顎洞炎を伴う臼歯部病変。
パノラマX線画像は広範囲を把握するには便利ですが、頬舌的な情報は限られます。MRONJが疑われる場合、特に骨融解、骨硬化、腐骨形成、皮質骨破壊、骨膜反応、上顎洞炎、下顎管周囲の変化を把握したい場合には、CTやCBCTが重要になります。
CTで評価する主な所見は、骨融解、骨硬化、骨融解・硬化混合像、腐骨形成、腐骨分離、皮質骨の破壊、抜歯窩の残存、骨膜反応、下顎管の肥厚、上顎洞底線の肥厚、上顎洞炎、蜂巣炎や瘻孔形成などの周囲軟組織変化です。
特にステージ2、ステージ3のMRONJでは、骨変化が広範囲に及ぶことがあります。下顎では下顎管や下顎下縁、下顎枝まで病変が及ぶかどうかが重要になります。上顎では上顎洞、鼻腔、頬骨、硬口蓋への進展を考えなければなりません。
MRONJを疑う場面で、MRIが必要になることもあります。
特に、単純X線画像やCTで明らかな異常が乏しいにもかかわらず、顎骨骨髄炎が疑われる場合、MRIは有用です。
MRIは骨髄の炎症性変化や周囲軟組織への炎症波及を評価するのに優れています。骨髄に炎症性変化がある場合、一般にT1強調像で低信号、T2強調像やSTIRで高信号を示します。骨壊死が存在する場合には、T1強調像、T2強調像ともに低信号となることがあります。

画像診断で避けたい誤りは2つあります。
1つ目は、骨露出がないから画像変化を軽視することです。
骨露出がなくても、顎骨感染や骨髄炎、潜在性病変が存在することがあります。
2つ目は、画像変化があるからすぐMRONJと決めることです。
骨硬化、歯根膜腔拡大、根尖透過像、骨融解はMRONJに特異的ではありません。
画像は、診断名を決めるためだけのものではありません。
画像は、感染源を見つけ、病変の広がりを読み、抜歯を避けるべきか、抜歯を選ぶべきか、紹介すべきかを判断するための材料です。
発症頻度を考えるときは、高用量と低用量を必ず分ける
MRONJの説明で最も混乱しやすいのが、発症頻度です。
「骨粗鬆症薬で顎骨壊死になる」
「がんの骨転移の薬で顎骨壊死になる」
この2つは、同じ言葉で語られることがあります。しかし、実際にはリスクの前提が違います。
がん骨転移や多発性骨髄腫に対して使う高用量のBMAと、骨粗鬆症に対して使う低用量のARAでは、MRONJの発症頻度、歯科処置時の慎重さ、医科連携の意味が大きく異なります。
国内データとして、PP2023では呉市での調査が紹介されています。高用量投与では、BP製剤で10万人あたり年間1,609.2人、デノスマブ製剤で3,084.8人、低用量投与では、BP製剤で135.5人、デノスマブ製剤で124.7人と報告されています。数値だけを単純比較することはできませんが、高用量と低用量ではリスクの前提が明らかに異なります。
高用量のBMAは、主に固形がん骨転移、多発性骨髄腫、骨巨細胞腫などに使われます。代表的には、ゾレドロン酸、デノスマブ120mgなどです。
これらの薬剤は、SREを抑える目的で使われます。SREには、病的骨折、脊髄圧迫、骨転移に対する放射線治療、手術、高カルシウム血症などが含まれます。がん治療において、BMAはQOLや生命予後にも関わる重要な治療です。
その一方で、高用量投与ではMRONJリスクが明らかに高くなります。
高用量BMA使用中の患者さんでは、抜歯、歯周外科、歯根端切除、インプラント埋入など、顎骨に侵襲が及ぶ処置は慎重に判断します。不要不急の侵襲的処置は避けるべきです。
ただし、高用量だから何もできないわけではありません。
根尖病変、重度歯周病、顎骨骨髄炎、排膿を伴う感染源が存在する場合、その感染源自体がMRONJリスクを引き上げている可能性があります。代替治療があるかを検討し、保存可能なら根管治療や歯周治療を選択します。しかし、保存不可能な感染源であれば、抜歯を前向きに検討すべき場面もあります。
骨粗鬆症に使われる低用量のARAでは、MRONJリスクは高用量に比べて低いとされています。
対象になる薬剤は、アレンドロン酸、リセドロン酸、イバンドロン酸、ミノドロン酸、ゾレドロン酸の骨粗鬆症用量、デノスマブ60mgなどです。商品名でいえば、フォサマック、ボナロン、ベネット、アクトネル、ボンビバ、リクラスト、プラリアなどが該当します。
低用量ARAでは、MRONJ発症頻度は高用量よりかなり低いものの、ゼロではありません。長期投与、累積投与量、糖尿病、透析、自己免疫疾患、ステロイド使用、口腔衛生不良、歯周病、根尖病変、不適合義歯、喫煙などが重なると注意が必要です。
低用量骨粗鬆症薬を飲んでいるから抜歯できない、というわけではありません。
低用量だから何も気にしなくてよい、というわけでもありません。
低用量ARAでは、リスクを過大評価して必要な歯科治療を避けることと、リスクを過小評価して感染源や治癒不全を見落とすことの両方を避ける必要があります。


CTIBLを見落とさない
がん患者さんで注意したいのが、CTIBL、すなわちがん治療関連骨量減少症です。
乳がんや前立腺がんなどの治療では、ホルモン療法により骨量が減少し、骨折リスクが高まることがあります。その予防や治療のために、骨粗鬆症治療に準じた低用量のBP製剤やデノスマブが使われることがあります。
この場合、患者さんはがん治療中であっても、使用されているARAは高用量ではなく低用量であることがあります。
逆に、がん患者さんだから高用量BMAだろうと決めつけるのは危険です。
また、骨粗鬆症薬と同じ低用量だからリスクは完全に低いと決めつけるのも危険です。がん治療による全身状態、併用薬、口腔粘膜障害、免疫状態、栄養状態などが関わるからです。
歯科外来では、がん治療中の患者さんがARAを使っている場合、次のことを確認する必要があります。
骨転移に対する高用量なのか。
CTIBLに対する低用量なのか。
投与間隔は4週ごとなのか、6か月ごとなのか。
ランマークなのか、プラリアなのか。
ゾメタなのか、リクラストなのか。
過去に高用量から低用量へ変わったのか。
BP製剤からデノスマブへ切り替えたのか。
現在のがん治療は何か。
主治医は誰か。
CTIBLを理解していないと、がん患者さんを過度に高リスクとして扱ったり、逆に低用量だからと軽く扱いすぎたりします。
MRONJリスク評価では、病名ではなく投与背景を確認する必要があります。
MRONJの病態は、骨リモデリング抑制だけでは説明できない
MRONJを考えるときには、少なくとも3つの層を分けて見る必要があります。
1つ目は、骨リモデリングの抑制です。
BP製剤やデノスマブ製剤は、破骨細胞の働きを抑え、骨吸収を抑制します。骨粗鬆症では、この作用によって骨密度を維持し、骨折を予防します。がん骨転移では、骨破壊やSREを抑えるために使われます。
しかし、顎骨ではこの骨リモデリング抑制が、感染や外傷後の修復に影響することがあります。骨は常に古い骨を吸収し、新しい骨へ置き換えることで維持されています。骨吸収が強く抑えられた状態では、傷ついた骨、感染にさらされた骨、微小損傷を受けた骨が、通常通りに置き換わりにくくなる可能性があります。
2つ目は、細菌感染です。
MRONJの発症や進行において、歯周病、根尖病変、顎骨骨髄炎、インプラント周囲炎などの感染性疾患は非常に重要です。口腔内には多くの常在菌が存在し、歯や歯周組織を通じて顎骨へ感染が波及します。骨リモデリングが抑制された顎骨に、慢性的な細菌感染が加わることで、骨髄炎から骨壊死へ進む可能性があります。
3つ目は、血管新生や創傷治癒の障害です。
BP製剤には血管新生抑制に関わる作用が報告されており、血管新生阻害薬、抗がん薬、ステロイド、免疫抑制薬などが重なると、創傷治癒や感染制御はさらに不利になります。特にがん治療中の患者さんでは、薬剤そのものだけでなく、化学療法、ホルモン療法、栄養状態、貧血、免疫状態、糖尿病などが複雑に関わります。
つまり、MRONJは単純な「薬の副作用」ではありません。
薬剤による骨リモデリング抑制を背景に、口腔内の感染、外科的侵襲、粘膜損傷、血流や免疫の問題が重なったときに発症・進行する疾患です。

なぜ顎骨に起こるのか
骨吸収抑制薬は全身の骨に作用します。
それにもかかわらず、MRONJは顎骨に特徴的に起こります。
その理由を考えるうえで、歯の存在は非常に重要です。
顎骨には歯が植立しています。歯は口腔粘膜を貫通し、歯根膜を介して歯槽骨とつながっています。う蝕が進行すれば、細菌は歯髄に入り、根管を通って根尖孔から顎骨へ到達します。歯周病が進行すれば、歯周ポケットから歯根面に沿って細菌が深部へ進み、歯槽骨を破壊します。
つまり、顎骨は他の骨と違い、歯を介して外界とつながっている骨です。
さらに、口腔粘膜は薄く、咀嚼、義歯、歯ブラシ、咬合力、鋭縁、骨隆起などの影響を受けやすい組織です。下顎隆起、口蓋隆起、顎舌骨筋線部など、粘膜が薄く骨が突出している部位では、軽い外傷や義歯刺激で骨露出が起こることがあります。
骨が露出すれば、そこは無菌環境ではありません。
口腔内の細菌が付着し、バイオフィルムが形成され、二次感染が起こります。最初は非感染性の骨露出に見えても、時間が経てば感染を伴う骨壊死へ進みます。
顎骨は、感染源に近く、粘膜が薄く、外傷を受けやすく、常に細菌にさらされる骨です。
この口腔特有の環境に、骨リモデリング抑制や血管新生障害が重なることで、MRONJが成立しやすくなります。

歯性感染症はMRONJの中心的な局所因子である
PP2023では、MRONJの局所因子として、歯周病、根尖病変、顎骨骨髄炎、インプラント周囲炎などの顎骨に発症する感染性疾患が重視されています。従来は、抜歯などの侵襲的歯科治療が大きく取り上げられてきました。しかし、抜歯が必要になる歯の多くには、すでに歯性感染症が存在します。
重度歯周病の歯。
根尖病変を伴う失活歯。
根分岐部病変を伴う大臼歯。
保存不可能な残根。
排膿を繰り返す歯。
動揺が強く、咬合時に炎症を増悪させる歯。
インプラント周囲炎を伴うインプラント。
こうしたものは、抜歯をしなければ安全という単純なものではありません。
抜歯を避けることで、顎骨内の感染源を残すことになるからです。
歯周病や根尖病変は、口腔清掃だけで消えるとは限りません。特に根尖病変は、根管内感染を制御しなければ改善しません。根管治療で保存できる歯もありますが、根破折、穿孔、重度歯周病、骨縁下う蝕、治療不能な根尖病変では、抜歯が必要になることがあります。
歯周病も同様です。歯周基本治療やメインテナンスで炎症を抑えられる場合は、歯を保存する価値があります。しかし、深い歯周ポケット、排膿、根分岐部病変、高度動揺、咬合性外傷を伴い、清掃性も悪く、感染源として残る歯では、保存がかえってリスクになることがあります。
MRONJを恐れて抜歯を避け続けた結果、感染源を長期間放置してしまう。
これは、MRONJ予防として適切とは言えません。
重要なのは、抜歯をするかしないかではありません。
その歯が、感染源として残るのか、治療により感染制御できるのかを判断することです。
抜歯はMRONJの原因なのか、それとも顕在化の契機なのか
抜歯後にMRONJが発症することはあります。
そのため、抜歯はMRONJの重要な局所因子として扱われてきました。
しかし、抜歯後にMRONJが見つかったからといって、常に「抜歯がMRONJを新しく作った」とは限りません。
抜歯前にすでに歯周病や根尖病変があり、その周囲の顎骨に慢性炎症や骨髄炎が存在していた。
薬剤により骨リモデリングが抑制され、感染巣の周囲に骨硬化や治癒不全が生じていた。
抜歯により歯がなくなり、骨露出や治癒不全が表面化した。
このような流れであれば、抜歯は原因というより、潜在病変を顕在化させた契機と考えることができます。
PP2023でも、抜歯の適応となる重度歯周病や根尖病変などの歯科疾患の多くは、すでに顎骨に細菌感染を伴っていることが多く、抜歯だけがMRONJ発症の主たる要因ではないと整理されています。
この視点は非常に重要です。
抜歯をすればMRONJになる。
だから抜歯しない。
この考え方は、単純で分かりやすい反面、歯性感染症を軽視する危険があります。
実際には、抜歯を避けたことで感染源が残り、根尖病変や歯周炎が顎骨骨髄炎へ進み、結果としてMRONJの発症リスクを上げる可能性があります。
逆に、感染源を適切なタイミングで除去し、低侵襲に処置し、治癒を確認することで、MRONJのリスクを下げられる可能性もあります。
Alblaziらの単施設研究では、包括的歯科管理(comprehensive dental care:CDC)を受けていないことがMRONJ発症と関連し、CDC未実施のオッズ比は8.64と報告されています。一方で、抜歯そのものは有意な関連を示していませんでした。ただし、この研究は単施設・後ろ向き研究であり、対象も75例と限られるため、抜歯の影響を否定する根拠としてではなく、口腔管理全体を重視する補助的資料として読むべきです。
抜歯は悪ではありません。
不必要な抜歯は避けるべきですが、必要な感染源除去まで避けるべきではありません。

「抜かないこと」が安全ではない場面
歯科外来で特に判断が難しいのは、抜歯すべきか、保存を試みるべきかの境界です。
たとえば、低用量の骨粗鬆症薬を使用している患者さんに、根尖病変を伴う大臼歯があるとします。自覚症状は軽く、排膿もなく、根管治療で改善する可能性があるなら、保存治療を考える価値があります。
しかし、同じ根尖病変でも、境界不明瞭で大きな透過像があり、周囲に著明な骨硬化があり、咬合痛や排膿を繰り返し、歯根破折が疑われる場合はどうでしょうか。保存不能な感染源として残る可能性が高いなら、抜歯を検討する必要があります。
重度歯周病でも同じです。
歯周基本治療で炎症が落ち着き、清掃性が保てる歯なら保存を考えます。
一方、深い垂直性骨欠損、根分岐部病変、排膿、高度動揺、咬合時痛があり、清掃困難で、何度も急性化する歯では、残すこと自体がリスクになります。
不適合義歯も同様です。
義歯の床縁が粘膜を傷つけ、同じ部位に潰瘍を繰り返す。顎舌骨筋線部や下顎隆起、顎堤の鋭い部分に慢性的な圧迫がかかる。こうした状態では、歯がなくてもMRONJの局所リスクになり得ます。無歯顎であっても歯科受診が必要な理由はここにあります。
「抜歯しなければMRONJを避けられる」という考え方では、このようなリスクは見えません。
歯があるかないかではなく、顎骨に感染や外傷が持続しているかを見る必要があります。

インプラント周囲炎とMRONJ
インプラントもMRONJの文脈で注意が必要です。
低用量ARAを使用している患者さんにインプラント治療を絶対に行ってはならない、という根拠は明確ではありません。PP2023でも、低用量ARA使用中の患者さんにインプラント埋入手術を行ってはならないとする根拠はないと整理されています。
しかし、これは「低用量ARAならインプラントは問題ない」という意味ではありません。
糖尿病、自己免疫疾患、透析、ステロイド使用、口腔衛生不良、喫煙、過去のBMA使用歴、長期投与、歯周病既往など、リスク因子が重なる場合には慎重に考える必要があります。代替治療を検討すべき症例もあります。
高用量BMA使用中の患者さんでは、インプラント埋入は基本的に避けるべきです。代替治療が存在すること、処置が予定的であること、MRONJリスクが高いことを考えれば、積極的に行う理由は乏しいと言えます。
また、すでに埋入されているインプラントでは、インプラント周囲炎が問題になります。
インプラント周囲炎は、天然歯の歯周病と同様、顎骨に慢性炎症を作ります。ARA使用中にインプラント周囲炎が進行すると、インプラント周囲の骨がMRONJの発症部位になることがあります。
インプラントがあるから問題なのではありません。
インプラント周囲に感染が持続することが問題です。
糖尿病・自己免疫疾患・透析・ステロイドをどう見るか
MRONJのリスクは、口腔内だけで決まりません。
全身状態も大きく関わります。
糖尿病では、感染に対する抵抗性や創傷治癒が問題になります。歯周病とも双方向に関連します。血糖コントロールが悪ければ、歯性感染症の制御も難しくなります。
自己免疫疾患では、疾患そのものに加え、ステロイド、メトトレキサート、生物学的製剤、免疫抑制薬などが関わることがあります。関節リウマチやシェーグレン症候群では、口腔乾燥、歯周病、根面う蝕、清掃困難、服薬背景も絡みます。
透析患者では、骨代謝異常、免疫機能、貧血、全身状態、感染リスクを考える必要があります。
ステロイド使用は、免疫抑制、創傷治癒遅延、骨粗鬆症、感染増悪に関わります。がん治療や自己免疫疾患でステロイドが併用されている場合、MRONJリスク評価では重要です。
MRONJリスクを評価するとき、歯科医師は薬剤名だけに注目しがちです。
しかし、同じ低用量ARAでも、糖尿病があり、ステロイドを使用し、口腔衛生状態が悪く、根尖病変があり、義歯潰瘍がある患者さんと、全身状態が安定し、口腔管理が良好な患者さんでは、同じようには扱えません。
MRONJは薬剤単独の問題ではなく、患者全体の問題です。
休薬は「安全スイッチ」ではない
MRONJの相談で、最も誤解されやすいのが休薬です。
「抜歯の前に骨粗鬆症の薬を止めれば安全ですか」
「どのくらい休めば顎骨壊死を防げますか」
「薬を飲んでいるなら、まず休薬してから抜歯した方がよいですか」
この問いは、歯科外来でもよく出てきます。
しかし、休薬はMRONJを防ぐための単純な安全スイッチではありません。
薬を休めば、顎骨壊死のリスクが必ず下がる。
薬を休めば、抜歯が安全になる。
薬を休めば、感染源を待たせてもよい。
このように考えるのは危険です。
PP2023では、抜歯時のARAの予防的休薬について、現時点では有用性を示す十分なエビデンスはないと整理されています。そのため、委員会としては「原則として抜歯時にARAを休薬しないことを提案する」という立場が示されています。
ここで大切なのは、「休薬の可能性を完全に否定した」のではないということです。
極めてリスクが高い症例でのごく短期間の休薬については、完全に否定できるだけのエビデンスも十分ではありません。
つまり、PP2023の立場は、一律に休薬する根拠はない。しかし、一律に休薬を完全否定するほど単純でもない。症例ごとに、薬剤背景、感染の緊急性、骨折リスク、主治医判断を統合すべきである、というものです。
なぜなら、MRONJのリスクは薬だけで決まらないからです。歯周病、根尖病変、顎骨骨髄炎、インプラント周囲炎、不適合義歯、口腔衛生状態、糖尿病、ステロイド、抗がん薬、免疫状態などが重なります。薬を休めても、感染源が残ればリスクは残ります。
また、休薬によって抜歯が遅れることがあります。
この待機期間中に、歯性感染が進むことがあります。
根尖病変が急性化することがあります。
歯周膿瘍を繰り返すことがあります。
顎骨骨髄炎が進むことがあります。
休薬している間に口腔内の感染が悪化すれば、結果としてMRONJのリスクを下げるどころか、病態を悪くする可能性があります。
休薬を考えるときには、常に2つのリスクを比較しなければなりません。
1つは、薬を続けたまま歯科処置を行うリスクです。
もう1つは、薬を休むことで全身治療の利益を失うリスク、そして歯科感染を待たせるリスクです。
歯科医師は前者に意識が向きやすく、処方医は後者を重視します。
MRONJ対応で医歯薬連携が必要になる理由は、ここにあります。

ビスホスホネートの休薬をどう考えるか
BP製剤は、骨に強く結合し、長く残る薬です。
そのため、短期間休薬しても、顎骨内での薬理作用がすぐに消えるわけではありません。
この性質を考えると、「抜歯前に数週間から数か月休めば安全になる」と単純には言えません。
特に長期内服の骨粗鬆症患者さんでは、BP製剤の骨への蓄積があります。抜歯前に短期間中止したとしても、骨に残っている薬剤の影響は続きます。だからこそ、BP製剤における短期休薬の意味は、薬理学的にも慎重に考える必要があります。
一方で、骨粗鬆症診療では、BP製剤の長期投与後に、非定型大腿骨骨折などのリスクを考慮して休薬や薬剤変更が検討される場合があります。これは、歯科抜歯のための短期休薬とは別の議論です。
歯科側が考えるべきなのは、「抜歯のために休薬するか」という一点だけではありません。
その患者さんは、なぜBP製剤を使っているのか。
骨折リスクはどれくらいか。
投与期間はどれくらいか。
過去に骨折があるか。
主治医は薬剤変更や休薬を考えている時期なのか。
抜歯を待てる感染なのか。
待つことで顎骨感染が進まないか。
これらを確認する必要があります。
歯科治療のためだけに、歯科側が「薬を止めてください」と機械的に依頼するのは適切ではありません。
逆に、処方医が「歯科治療があるなら、とりあえず止めましょう」と口腔内の感染状況を確認せずに決めることも危険です。
デノスマブは、ビスホスホネートとは違う
デノスマブは、MRONJの休薬判断で特に注意が必要な薬です。
BP製剤は骨に長く残ります。
一方、デノスマブはRANKLを阻害する抗体製剤であり、骨に沈着して長期間残る薬ではありません。作用は可逆的で、投与を中止すれば骨吸収抑制効果は時間とともに弱まります。
この性質だけを見ると、「デノスマブは止めれば影響が抜けるのだから、歯科治療前に止めればよい」と考えたくなります。
しかし、ここが最も危険な誤解です。
デノスマブは、投与中止や長期延期により、骨代謝マーカーが急激に上昇し、骨密度が低下し、椎体骨折リスクが問題になることがあります。特に骨粗鬆症治療でプラリアを使用している患者さんでは、予定通りの投与間隔を大きく崩すことに注意が必要です。
歯科治療があるから、次のプラリアを飛ばす。
抜歯が不安だから、半年以上注射を延期する。
顎骨壊死が怖いから、自己判断で通院をやめる。
こうした判断は、骨折リスクを高める可能性があります。
PP2023でも、低用量デノスマブ製剤は中止しないことが望ましいとされ、予定手術では最終投与4か月頃に抜歯を行うことが骨治癒の面で良い結果につながる可能性があると整理されています。ただし、歯性・顎骨感染が進行する懸念がある場合には、待機だけを優先せず、総合的に判断する必要があります。
この「4か月頃」という考え方は、臨床上参考になります。
しかし、これも機械的なルールではありません。
たとえば、保存不可能な感染歯が急性化し、排膿や腫脹を繰り返している場合、最終投与から4か月を待つことが本当に患者さんの利益になるかは分かりません。感染が進めば、顎骨にとって不利になります。痛みや腫脹で食事ができなくなれば、全身状態にも影響します。
一方で、無症状の予定抜歯や、インプラント関連の予定手術など、待てる処置であれば、デノスマブの投与時期を考慮して計画する価値があります。
つまり、デノスマブでは、止めるか止めないかよりも、投与スケジュールを崩さず、どのタイミングで歯科処置を行うかが重要になります。
そしてその判断は、歯科だけで完結しません。
処方医との連携が必須です。

CTXで抜歯可否を決められるのか
かつて、I型コラーゲンC末端テロペプチド(C-terminal telopeptide:CTX)を用いてMRONJリスクを判定しようとする考え方がありました。骨代謝マーカーを測定し、数値が低ければ骨吸収が強く抑えられているためリスクが高い、数値が上がれば抜歯しやすい、という発想です。
この考え方は、臨床的には魅力があります。
血液検査で抜歯リスクが分かる。
数値で患者さんに説明できる。
休薬後の判断材料になる。
歯科医師も処方医も納得しやすい。
しかし、現時点では、CTXなどの骨代謝マーカーだけでMRONJリスクを判断することはできません。
PP2023では、現時点で臨床的な意思決定に有効なバイオマーカーはないと整理されています。骨代謝マーカーがMRONJリスクを推定する有効なツールとみなされるには、継続的なデータ集積と前向き研究が必要です。
これは非常に重要です。
CTXが高いから安全。
CTXが低いから抜歯できない。
CTXが基準値を超えたから休薬終了。
このような使い方はできません。
骨代謝マーカーは、全身の骨代謝を反映する指標です。
しかし、MRONJは局所の顎骨感染、抜歯部位の状態、歯周病、根尖病変、義歯刺激、薬剤種類、用量、投与期間、全身疾患が重なる疾患です。全身の骨代謝マーカーだけで、局所の顎骨治癒リスクを正確に判定するのは難しいのです。
CTXは、抜歯可否を決める信号機ではありません。
抗菌薬を長く出せば予防できるのか
MRONJ予防で、もう一つ誤解されやすいのが抗菌薬です。
「抜歯前から抗菌薬を出せば安全」
「長めに抗菌薬を飲めばMRONJを防げる」
「高リスクだから、とにかく抗菌薬を長期投与する」
このような考え方も、単純化しすぎです。
MRONJには感染が深く関わります。したがって、抗菌薬が重要な場面はあります。感染を伴う骨露出、排膿、蜂窩織炎、急性炎症、術前の感染制御、術後感染予防などでは、抗菌薬の使用を検討します。
しかし、MRONJ予防に特化した抗菌薬の種類、投与方法、投与期間について、明確な基準が確立されているわけではありません。PP2023でも、MRONJ発症予防に特化した抗菌薬使用について、抗菌薬の種類、投与方法、投与期間に明確な指標はないと整理されています。現時点では、一般的な観血的歯科治療と同様、抗菌薬の適正使用を守るべきとされています。
抗菌薬は、感染源を消す魔法ではありません。
根尖病変の原因が根管内感染であれば、抗菌薬だけでは根本解決しません。
重度歯周病で深いポケットや根分岐部病変があれば、抗菌薬だけでは清掃性や感染源は改善しません。
保存不可能な残根が感染源であれば、抗菌薬で一時的に症状が落ち着いても、再燃を繰り返すことがあります。
不適合義歯が粘膜を傷つけているなら、抗菌薬では義歯刺激はなくなりません。
MRONJ予防における抗菌薬の位置づけは、感染管理の一部です。
感染源の評価、口腔衛生管理、局所処置、抜歯の適否、術後治癒確認と組み合わせて使うものです。
抗菌薬を長く出せば安全、という発想は避けるべきです。
抜歯時の閉鎖はどう考えるか
抜歯後の創部閉鎖も、MRONJ予防で議論になる部分です。
抜歯窩を完全閉鎖すれば安全なのか。
粘膜骨膜弁で閉鎖すべきなのか。
開放創でもよいのか。
骨鋭縁はどこまで削るのか。
掻爬はどこまで行うのか。
PP2023では、侵襲的歯科治療を行う場合は、侵襲を最小限にすること、できるだけ骨鋭縁を削除すること、粘膜骨膜弁で閉鎖することが望ましいとされています。一方で、無理な完全閉鎖は行わず、通常の抜歯創処理により、上皮化の進行を確認しながら治癒を期待する方法もあるとされています。
創を閉じることは、口腔内細菌から骨面を守る意味があります。骨鋭縁を丸めることも、粘膜の裂開や再露出を防ぐ意味があります。高リスク症例では、できるだけ骨露出を避ける処置設計が重要です。
しかし、完全閉鎖を目的に過度な骨膜剥離を行えば、血流を損なう可能性があります。無理な減張切開や大きな剥離は、創傷治癒に不利になることもあります。閉鎖したから必ず安全というわけではありません。閉鎖が破綻すれば、かえって管理が難しくなることもあります。
MRONJ予防では、術式だけを切り取って正解を求めることはできません。
閉鎖、抗菌薬、骨鋭縁処理、掻爬、口腔清掃、治癒確認、すべてを組み合わせて判断します。

抜歯後は「抜いたら終わり」ではない
MRONJリスクのある患者さんでは、抜歯後の確認が非常に重要です。
通常の抜歯でも、治癒には個人差があります。
骨吸収抑制薬使用中の患者さんでは、上皮化や骨治癒が遅れることがあります。
抜歯後に見るべきことは、痛みがあるかどうかだけではありません。
抜歯窩が上皮化しているか。
骨露出が残っていないか。
排膿がないか。
周囲粘膜の発赤や腫脹がないか。
義歯や食物が創部を刺激していないか。
抗菌薬終了後に再燃していないか。
パノラマやデンタルで抜歯窩が長期残存していないか。
患者さんが清掃できているか。
次回のデノスマブ投与やBMA投与の予定はどうか。
低用量ARAでは、抜歯後に上皮化が十分完了したことを確認すべきです。高用量BMAでは、さらに慎重な経過観察が必要です。がん治療中の患者さんでは、全身治療のスケジュールとも関わります。
「抜歯を安全に行う」とは、抜歯手技だけを意味しません。
術前評価、処置、術後観察、治癒確認まで含めて初めて安全管理になります。
MRONJリスク患者では、抜歯は単発の処置ではなく、経過を追う治療です。
歯科外来で確認すべきこと
MRONJのリスク評価で最初に必要なのは、特別な検査ではありません。
まず必要なのは、情報をそろえることです。
骨粗鬆症の薬を飲んでいる。
半年に1回、骨の注射をしている。
がんの骨転移で薬を使っている。
昔、骨粗鬆症の薬を飲んでいた。
薬の名前は分からないが、主治医から歯科で相談するように言われた。
こうした情報だけでは、歯科治療の判断はできません。
MRONJリスクを考えるためには、少なくとも薬剤情報、投与背景、口腔内の感染源、全身状態、処置の必要性を分けて確認します。
薬剤情報としては、薬剤名、商品名、投与経路、投与間隔、最終投与日、投与期間、過去の使用歴を確認します。
たとえば、同じデノスマブでも、骨粗鬆症に対するプラリア60mgと、がん骨転移に対するランマーク120mgでは、投与目的も用量もリスクの前提も違います。
同じゾレドロン酸でも、骨粗鬆症に対するリクラストと、がん骨転移に対するゾメタでは意味が異なります。
商品名で確認することも重要です。
骨粗鬆症では、ボナロン、フォサマック、ベネット、アクトネル、ボンビバ、リクラスト、プラリア、イベニティなどが候補になります。
がん骨転移や多発性骨髄腫では、ゾメタ、ランマークなどが重要になります。
ただし、患者さんが薬剤名を覚えているとは限りません。
「半年に1回の注射」
「月に1回の点滴」
「がんの骨の薬」
「骨を強くする薬」
このように認識していることもあります。
そのため、お薬手帳、紹介状、診療情報提供書、薬剤情報提供書、注射の投与記録を確認します。経口薬はお薬手帳で確認しやすい一方、注射薬はお薬手帳に記載されていないことがあります。ここで薬剤師の役割が大きくなります。

投与背景も重要です。
骨粗鬆症に対する低用量なのか。
がん骨転移に対する高用量なのか。
多発性骨髄腫なのか。
CTIBLなのか。
関節リウマチに伴う骨びらんに対する使用なのか。
BP製剤からデノスマブへ切り替わったのか。
ロモソズマブ後にデノスマブやBP製剤による逐次療法が予定されているのか。
薬剤名だけでは足りません。
その薬が何のために、どの強さで、どれくらいの期間使われているのかを確認する必要があります。
次に、口腔内の局所因子を確認します。
重度歯周病はないか。
根尖病変はないか。
排膿はないか。
保存不可能な残根はないか。
骨縁下う蝕はないか。
動揺歯はないか。
義歯性潰瘍はないか。
下顎隆起、口蓋隆起、顎舌骨筋線部に粘膜損傷はないか。
インプラント周囲炎はないか。
抜歯窩の治癒不全はないか。
パノラマやデンタルで歯根膜腔拡大、根尖透過像、骨硬化、抜歯窩残存はないか。
MRONJの判断は、薬剤だけではできません。
薬剤背景に、顎骨感染や粘膜外傷が重なるかどうかを見ます。
全身因子も確認します。
糖尿病。
透析。
自己免疫疾患。
ステロイド使用。
メトトレキサートなどの免疫抑制薬。
抗がん薬。
血管新生阻害薬。
貧血。
喫煙。
低栄養。
全身状態の低下。
がん治療中の予後や治療計画。
同じ薬剤を使っていても、全身状態が違えば、抜歯後の治癒や感染制御は変わります。
したがって、MRONJリスク評価は、単に「薬を飲んでいるかどうか」ではなく、患者さん全体の評価です。
抜歯を避ける治療、抜歯を選ぶ治療
骨吸収抑制薬を使用している患者さんでは、できるだけ抜歯を避けたいと考えるのは自然です。
しかし、抜歯を避けること自体が目的になってはいけません。
目的は、顎骨感染を制御することです。
そして、全身治療の利益を損なわないことです。
保存可能な歯であれば、まず保存治療を考えます。
根管治療で根尖病変が改善する見込みがある歯。
歯周基本治療で炎症を抑えられる歯。
咬合調整で症状が落ち着く歯。
義歯調整で粘膜損傷を防げる状態。
清掃指導とメインテナンスで感染管理が可能な歯。
う蝕処置で感染進行を防げる歯。
こうした場合は、抜歯を急ぐ必要はありません。
ただし、保存治療にも限界があります。
根破折が疑われる歯。
骨縁下う蝕が深く、清掃も修復も困難な歯。
排膿を繰り返す根尖病変。
根管治療を行っても感染制御が困難な歯。
高度動揺を伴う重度歯周病歯。
根分岐部病変が進行し、感染源として残る大臼歯。
抗菌薬で一時的に落ち着いても再燃する歯。
咬合時に外傷を繰り返す歯。
このような歯を「骨粗鬆症薬を飲んでいるから」という理由だけで残し続けると、感染源を温存することがあります。
抜歯を避けるべき歯と、抜歯を選ぶべき歯を分けるには、単純なルールではなく、感染制御の見込みを見ます。
特に、治療途中で歯科医院を変わった患者さんでは、過去の治療内容、薬剤情報、仮封や根管治療中の状態が分からないことがあります。MRONJリスクがある患者さんでは、前医での治療経過や薬剤情報が治療判断に関わります。
抜歯は、MRONJの敵ではありません。
不必要な抜歯は避けるべきです。
しかし、必要な感染源除去まで避けることは、MRONJ予防とは言えません。

低用量ARA使用中の歯科治療
骨粗鬆症に対する低用量ARAでは、必要な歯科治療を一律に制限するべきではありません。
低用量ARAを使用している患者さんでも、う蝕治療、根管治療、歯周治療、義歯調整、補綴治療、メインテナンスは重要です。
むしろ、これらを避けることで、将来的な抜歯や顎骨感染のリスクが高まることがあります。
歯周病の管理は特に重要です。歯周病はMRONJの局所因子であるだけでなく、糖尿病など全身疾患とも関連します。炎症を放置すれば、歯周ポケットから顎骨へ感染が続きます。
根尖病変も同様です。
根管治療で感染を制御できる歯は、抜歯回避の重要な選択肢になります。ただし、根管治療が長期化し、感染が残り続ける場合や、保存不能な病変では、抜歯を検討する必要があります。
低用量ARA使用中に抜歯を行う場合には、術前の口腔清掃、画像評価、感染源の確認、低侵襲な処置、骨鋭縁の処理、術後の上皮化確認が重要です。抜歯後に治癒が遷延することがあるため、痛みがなくても、創が閉じているかを確認します。
低用量だから何も気にしなくてよいわけではありません。
しかし、低用量だからといって必要な歯科治療を止める必要もありません。
高用量BMA使用中の歯科治療
がん骨転移や多発性骨髄腫で高用量BMAを使用している患者さんでは、処置判断はより慎重になります。
まず考えるべきは、抜歯を避けられるかどうかです。
根管治療で感染を抑えられるか。
歯周治療で炎症を落ち着かせられるか。
咬合調整で急性化を防げるか。
義歯調整で粘膜外傷を避けられるか。
保存的処置で症状を管理できるか。
高用量BMA使用中の患者さんでは、予定的なインプラント埋入などは原則として避けるべきです。代替治療が存在し、MRONJリスクが高いためです。
一方で、明らかな感染源を放置することも危険です。
根尖病変、重度歯周病、顎骨骨髄炎、排膿、腫脹を伴う歯では、その感染源自体がMRONJリスクを高める可能性があります。全身治療の継続、疼痛管理、栄養状態、感染拡大を考えると、抜歯や外科処置を前向きに検討すべき場面もあります。
この判断は、主治医との情報共有が不可欠です。
がん治療の状況、SREリスク、生命予後、休薬や投与間隔調整の可否、血液データ、感染の緊急性を確認します。
高用量BMA使用中の歯科治療では、一般歯科外来で全てを抱え込むのではなく、必要に応じて病院歯科口腔外科へ紹介します。
無歯顎でも歯科スクリーニングは必要である
歯がない患者さんは、MRONJと無関係に見えることがあります。
しかし、無歯顎でも歯科スクリーニングは必要です。
理由は、歯がなくても局所リスクがあるからです。
不適合義歯。
義歯床下の潰瘍。
顎堤の鋭縁。
下顎隆起や口蓋隆起。
顎舌骨筋線部の粘膜損傷。
残根。
埋伏歯。
過去の抜歯窩の治癒不全。
粘膜の慢性炎症。
これらは、歯がない患者さんでも起こります。
骨吸収抑制薬を開始する患者さんが無歯顎であっても、義歯の適合、粘膜の状態、パノラマX線画像による顎骨内の残根や埋伏歯の確認は重要です。義歯が当たるだけだからと軽く見てはいけません。薄い粘膜が慢性的に傷つき、骨露出の契機になることがあります。
歯がないから歯科は不要、ではありません。
歯がないからこそ、義歯と顎堤粘膜を診る必要があります。

骨粗鬆症治療開始時の歯科スクリーニング
PP2023では、骨粗鬆症治療を開始する患者さんは、原則として全例が歯科スクリーニングの対象とされています。
これは、骨吸収抑制薬を始める直前だけの話ではありません。骨形成促進薬を使用する場合でも、治療終了後にデノスマブやBP製剤による後治療、いわゆる逐次療法が必要になることがあります。そのため、骨粗鬆症治療開始時点から口腔内を評価しておく意味があります。
歯科スクリーニングで見るべきものは、抜歯が必要な歯があるかどうかだけではありません。
う蝕。
根尖病変。
歯周病。
残根。
義歯適合。
粘膜潰瘍。
インプラント周囲炎。
清掃状態。
口腔乾燥。
咀嚼機能。
パノラマ上の埋伏歯や顎骨病変。
過去の抜歯窩の状態。
骨粗鬆症治療開始前に感染源を評価し、可能な範囲で治療しておくことは、MRONJ予防だけでなく、その後の骨粗鬆症治療を安全に続けるために重要です。
ただし、歯科治療に時間がかかりすぎて、骨粗鬆症治療が不必要に遅れることも避けなければなりません。特に骨折リスクが高い患者さんでは、骨粗鬆症治療の遅れが重大な不利益になることがあります。
歯科側は、処方医に対して、どの歯科治療が必要で、どの治療は投与開始後でもよいかを整理して伝える必要があります。
処方医側は、骨粗鬆症治療の緊急性、骨折リスク、使用予定薬剤を歯科側へ伝える必要があります。
骨粗鬆症薬を始める前の歯科受診は、薬を怖がらせるためではありません。
薬を安全に続けるための口腔環境を整えるためです。
医歯薬連携は、休薬依頼ではなく情報共有である
MRONJにおける医歯薬連携は、歯科から医科へ「薬を止めてください」と依頼する仕組みではありません。
むしろ、医科、歯科、薬剤師が、それぞれ別々に持っている情報をそろえる仕組みです。
医師は、薬剤を処方する理由を知っています。
骨粗鬆症であれば、骨折リスク、骨密度、既存骨折、転倒リスク、治療継続の必要性を把握しています。
がん骨転移であれば、SREリスク、原疾患の状態、化学療法やホルモン療法、生命予後、全身状態を把握しています。
歯科医師は、口腔内の感染源を評価します。
重度歯周病、根尖病変、残根、義歯性潰瘍、インプラント周囲炎、骨露出、画像所見を確認し、どの歯が保存可能で、どの歯が感染源として問題になるかを判断します。
薬剤師は、薬剤情報を支えます。
経口薬だけでなく、注射薬、併用薬、過去の薬剤歴、ステロイドや抗がん薬、免疫抑制薬の有無、お薬手帳の記録を確認できます。患者さんが薬剤名を覚えていない場合でも、薬剤師の情報が治療判断に役立つことがあります。
MRONJは「薬剤関連」の疾患です。
そのため、歯科だけでは判断に必要な薬剤情報が足りないことがあります。
一方、医科だけでは、歯周病や根尖病変が顎骨感染にどうつながるかを把握しにくいことがあります。
医歯薬連携は、互いの不足を補う仕組みです。
歯科から医科へ伝えるべき情報は、単に「抜歯したい」ではありません。
どの歯に、どのような感染源があるのか。
保存治療が可能か。
抜歯が必要な理由は何か。
処置を急ぐ必要があるか。
抜歯を延期すると感染が進行する可能性があるか。
術後に治癒確認を行う予定か。
口腔衛生状態はどうか。
義歯やインプラントの問題はあるか。
医科から歯科へ伝えるべき情報は、単に「薬を使っています」ではありません。
薬剤名。
投与目的。
用量。
投与間隔。
最終投与日。
次回投与予定。
投与期間。
骨折リスク。
がん治療の状況。
SREリスク。
休薬や延期が可能か。
併用薬。
全身状態。
薬剤師は、この情報共有の中で薬剤名、処方歴、併用薬、注射薬情報をつなぎます。
医歯薬連携の目的は、薬を止めることではありません。
薬を続ける利益と、感染源を残す不利益を同時に扱うことです。

患者さんへの説明で避けたい言い方
MRONJの説明では、言葉の選び方が重要です。
避けたい説明があります。
「骨粗鬆症の薬を飲んでいるので、抜歯はできません」
「顎骨壊死になるので、薬を止めてください」
「薬を休めば安全です」
「CTXを測れば抜歯できるか分かります」
「歯がないなら歯科受診は不要です」
「痛くなければ様子を見て大丈夫です」
これらは、どれも単純化しすぎです。
患者さんには、次のように説明した方が安全です。
骨粗鬆症やがんの骨の薬の中には、まれに顎の骨の治癒に影響する薬があります。
ただし、薬を飲んでいるから必ず抜歯できないわけではありません。
また、薬を休めば安全という単純なものでもありません。
歯周病や根の先の病気など、口の中の感染が残ることもリスクになります。
薬を自己判断で止めると、骨折や全身治療に影響することがあります。
薬の種類、投与目的、投与時期、口の中の状態を確認し、必要に応じて主治医と相談して治療を決めます。
この説明であれば、患者さんは薬を怖がるだけで終わりません。
歯科受診の意味、口腔管理の意味、自己判断で薬を止めない意味を理解できます。
MRONJの説明は、恐怖を与えるためのものではありません。
全身治療と口腔管理を両立させるためのものです。

MRONJが疑われたときの紹介判断
すべてのMRONJ疑いを一般歯科だけで抱える必要はありません。
紹介が必要な場面を見極めることも、歯科外来の重要な役割です。
紹介を検討すべき状況には、次のようなものがあります。
骨露出が8週間以上続く。
骨に達する瘻孔がある。
排膿や腫脹を繰り返す。
CTで腐骨形成や広範囲の骨硬化・骨融解を認める。
下顎管周囲に病変が及ぶ。
Vincent症状を疑う知覚異常がある。
上顎洞炎を伴う上顎病変がある。
高用量BMAを使用している。
がん治療中で全身状態が複雑である。
保存不能な感染歯の抜歯が必要だがリスクが高い。
病的骨折リスクがある。
原発性がんや顎骨転移との鑑別が必要である。
疼痛や感染が制御できない。
このような場合には、病院歯科口腔外科、口腔外科専門施設、主治医との連携を考えます。
紹介は、治療を丸投げすることではありません。
薬剤情報、口腔内所見、画像、処置経過、患者さんの希望を整理して紹介することで、紹介先の判断精度が上がります。
MRONJの治療は、症状緩和から治癒を目指す時代へ
MRONJは、以前は難治性疾患として、症状緩和や感染制御が中心に考えられてきました。
しかし、近年は外科治療の成績が蓄積され、治癒を目標にできる症例が増えてきました。
PP2023でも、骨露出を含めたすべての症状の消失、すなわち疾患の治癒を治療目標とすることが望ましいと整理されています。一方で、患者さんの全身状態、生命予後、希望によっては、症状緩和を目標にすることもあります。
この考え方は大切です。
MRONJは、出たら終わりの疾患ではありません。
しかし、治療できるから予防しなくてよい疾患でもありません。
早期に疑い、感染源を管理し、病変範囲を把握し、適切なタイミングで口腔外科へつなぐことが重要です。
治療選択には、保存的治療と外科的治療があります。
保存的治療では、洗浄、抗菌性含嗽、局所清掃、抗菌薬、疼痛管理、鋭縁除去、口腔衛生管理を行います。
外科的治療では、壊死骨除去、周囲骨切除、辺縁切除、区域切除などが検討されます。
どちらを選ぶかは、ステージだけでは決まりません。
全身状態、病変範囲、症状、感染の程度、がん治療の状況、生活機能、患者さんの希望を考えます。
未解決事項を、未解決のまま扱う
MRONJ診療では、強い言葉ほど誤解を生みやすくなります。「抜歯は危険」「休薬すれば安全」「低用量なら問題ない」「高用量なら何もできない」といった短い結論ではなく、薬剤背景、局所感染、全身状態、処置の必要性を分けて評価することが重要です。
MRONJには、まだ未解決の論点が多く残っています。
ここを曖昧にせず、分かっていることと分かっていないことを分けることが重要です。
たとえば、いわゆるstage 0、潜在性・非骨露出型病変をどう診断するか。
8週間ルールをどこまで厳密に使うか。
画像診断をステージングにどう組み込むか。
CT、MRI、SPECT、PET/CTの位置づけをどう標準化するか。
抜歯時の休薬がどの患者群で意味を持つのか。
低用量デノスマブの最適な抜歯タイミングはどこか。
静注BP製剤の最終投与から抜歯までの期間をどう考えるか。
CTXなど骨代謝マーカーをどの集団でどう使えるのか。
抗菌薬の種類、開始時期、投与期間をどう設定するか。
歯周外科、歯根端切除、骨隆起除去など、抜歯以外の侵襲的処置のリスクはどの程度か。
インプラント周囲炎をどの時点で外科的に扱うべきか。
MRONJ治療時の休薬はどこまで有効か。
保存的治療と外科的治療の選択基準をどう標準化するか。
骨切除範囲をどの画像所見で決めるか。
医歯薬連携を地域でどう実装するか。
これらは、現時点で完全な答えがありません。
しかし、答えがないから何もできないわけではありません。
むしろ、答えがないからこそ、個々の症例で情報を集め、リスクを整理し、独断を避ける必要があります。
MRONJの専門性は、強く言い切ることではありません。
どこまでが分かっていて、どこからが未解決かを分けることにあります。
「抜歯すれば危険」
「休薬すれば安全」
「CTXで分かる」
「低用量なら大丈夫」
「高用量なら何もできない」
こうした短い言葉は、現場では便利です。
しかし、MRONJの実態を正確に表してはいません。
専門家に必要なのは、短い答えではなく、判断の構造です。

まとめ:MRONJを歯科外来でどう考えるか
MRONJを歯科外来で考えるとは、抜歯を避けることではありません。
薬を止めることでもありません。
数値で安全判定することでもありません。
MRONJを歯科外来で考えるとは、患者さんの中で同時に起こっている複数の問題を、分けて見て、もう一度統合することです。
骨粗鬆症薬やがん骨転移治療薬は、患者さんの全身的利益を守るために使われています。
一方で、歯周病、根尖病変、顎骨骨髄炎、義歯刺激、インプラント周囲炎は、顎骨に感染や外傷を与えます。
抜歯はリスクになり得ますが、感染源を残すこともリスクになります。
休薬は一見分かりやすい対策に見えますが、MRONJを確実に防ぐ安全スイッチではありません。
特にデノスマブでは、中止や長期延期による骨折リスクを考えなければなりません。
歯科外来でできることは、はっきりしています。
薬剤名を確認する。
投与目的を確認する。
低用量か高用量かを確認する。
最終投与日を確認する。
歯周病と根尖病変を評価する。
義歯とインプラントを確認する。
画像で顎骨を読む。
保存できる歯は保存する。
保存できない感染源は、適切に除去する。
処置後は治癒を確認する。
自己判断で薬を止めさせない。
必要なときは主治医、薬剤師、口腔外科と連携する。
MRONJの予防は、薬を止めるところから始まるのではありません。
口の中の感染を見落とさないところから始まります。
骨折を防ぐ治療、がんのSREを防ぐ治療、そして顎骨感染を制御する歯科治療。
この3つを同じ患者さんの中でどう両立させるか。
それが、MRONJを歯科外来で考えるということです。

よくある質問
骨粗鬆症の薬を飲んでいると抜歯はできませんか?
できないとは限りません。
薬の種類、投与目的、投与量、投与期間、最終投与日、感染源の有無、全身状態を確認して判断します。
骨粗鬆症に対する低用量薬と、がん骨転移に対する高用量薬では、MRONJリスクの前提が異なります。抜歯を避けることが常に安全とは限らず、感染源を残す方が問題になることもあります。
抜歯前に薬を休めば顎骨壊死は防げますか?
休薬すれば安全という単純なものではありません。
PP2023では、現時点では抜歯時のARA休薬がMRONJ発症を減らす十分なエビデンスはないとして、原則として抜歯時にARAを予防的に休薬しないことが提案されています。
ただし、症例によって主治医と相談が必要な場合はあります。自己判断で薬を止めたり、歯科側だけで休薬を決めたりすることは避けるべきです。
プラリアの注射は歯科治療前に延期してよいですか?
自己判断で延期しないでください。
デノスマブは中止や長期延期により、骨密度低下や椎体骨折リスクが問題になることがあります。
歯科治療の予定がある場合は、最終投与日、次回投与予定、抜歯の必要性、感染の緊急性を確認し、処方医と相談して判断します。
CTXを測れば抜歯できるか分かりますか?
現時点では、CTXなどの骨代謝マーカーだけでMRONJリスクや抜歯可否を判断することはできません。
薬剤名、投与量、投与期間、口腔内の感染源、画像所見、全身状態を総合して判断します。CTXは抜歯可否を決める信号機ではありません。
歯がない人も歯科受診が必要ですか?
必要です。
無歯顎でも、不適合義歯、義歯性潰瘍、残根、埋伏歯、骨隆起、顎堤粘膜の損傷などが問題になることがあります。
骨粗鬆症治療を開始する場合や、骨吸収抑制薬を使用中の場合は、歯がなくても歯科で顎骨や義歯の状態を確認する意味があります。
がん治療中の骨の薬と、骨粗鬆症の薬は同じですか?
同じ薬剤名が関わることはありますが、用量や目的が違うことがあります。
がん骨転移や多発性骨髄腫では高用量で使用されることがあり、骨粗鬆症では低用量で使用されます。CTIBLでは、がん患者さんでも低用量薬が使われることがあります。
歯科治療の判断には、病名だけでなく、薬剤名、投与目的、用量、投与間隔の確認が必要です。
抜歯しない方が安全ですか?
抜歯を避けられるなら、保存治療を検討します。
しかし、保存不可能な感染源を残すことが安全とは限りません。重度歯周病、排膿を伴う根尖病変、残根、顎骨骨髄炎を疑う歯では、抜歯を含めた感染源除去を検討する必要があります。
大切なのは、抜歯するかしないかではなく、感染を制御できるかどうかです。
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