2026年9月14日

(歯科衛生士さんのある日の日誌)

はじめに
「この奥歯だけ、色が少し違いますね」
小学生くらいのお子さんのお口を見ていると、ときどきそんな第一大臼歯に出会います。
一番奥から生えてきたばかりなのに、白っぽい。少し黄色っぽい。茶色っぽい部分がある。歯ブラシを当てると嫌がる。冷たい水でしみる。あるいは、すでに歯の一部が欠けたように見えることもあります。
保護者の方から、
「永久歯が生えたばかりなのに、もう虫歯にしてしまったのでしょうか?」
と聞かれることもあります。
けれど、生えたばかりの6歳臼歯に「色が違う・しみる・欠ける」といった変化があるとき、歯磨きだけでは説明できないことがあります。
その一つが、Molar-Incisor Hypomineralisation(MIH:第一大臼歯・切歯低石灰化)です。
MIHは、歯が生えてから突然エナメル質が弱くなる病気ではありません。歯がつくられ、エナメル質が成熟していく時期に生じる発育上の質的な低石灰化です。
そして2026年9月12日、中国・河南省開封市の7〜9歳児2296人を調べた新しい研究が公開されました。
そこで示されたのが、
MIHがある子どもでは、MIHがない子どもより、第一大臼歯に虫歯が認められるオッズが5.303倍だった
という結果です。
ただ、この「5.3倍」には大切な注意点があります。
「MIHになると虫歯になる確率が5.3倍」という意味ではありません。
今回はこの研究を入口に、MIHの6歳臼歯と虫歯の関係、そして歯科衛生士として生え始めの第一大臼歯のどこを見ているのかを整理してみます。
2026年9月12日、7〜9歳児2296人を調べたMIH研究
今回取り上げるのは、2026年9月12日に『BMC Oral Health』で公開された、中国・河南省開封市の研究です。
研究者らは2023〜2025年に、開封市の公立学校へ通う7〜9歳児を対象として、MIHと虫歯の状態を調査しました。
最初に2499人が調査対象となり、そのうち第一大臼歯4本と永久切歯が十分に萌出していない子どもなど203人が除外され、最終的に2296人が解析対象となりました。
MIHについては、European Academy of Paediatric Dentistry(EAPD)の基準をもとに、4本の第一大臼歯と8本の永久切歯、1人あたり最大12本を診査しています。
診査を担当した4人の歯科医師についても事前に校正が行われ、MIH判定の検査者間一致度はκ=0.87、検査者内一致度はκ=0.85と報告されています。
歯科医院へ治療に来た子どもだけを集めた調査ではなく、学校を抽出して実施した横断研究です。
MIHが見つかったのは310人、13.50%
2296人のうち、MIHと診断されたのは310人でした。
有病率は、
13.50%
95%信頼区間:12.10〜14.90%
です。
単純に人数で考えると、およそ7〜8人に1人です。
ただし、これはあくまで中国・開封市の7〜9歳児で得られた数字です。
そのまま「日本の子どもの13.5%にもMIHがある」と置き換えることはできません。
一方、MIHそのものは世界的にみても珍しい所見ではありません。
2026年に更新された大規模な系統的レビュー・メタ解析では、139研究、計19万9999人を統合し、MIHの世界推定有病率は15.5%(95%信頼区間14.4〜16.6%)と報告されています。
ただしMIHの有病率は、年齢、診断基準、診査方法、地域、対象集団などによって大きく変わります。
MIHそのものの症状や診断、治療については、以前の「むし歯だけじゃない!子どもの歯の『エナメル質形成不全(MIH)』について」でも詳しく解説しています。
MIHがある子では、第一大臼歯の虫歯が45.48%
今回の研究で特に注目したいのが、第一大臼歯の虫歯です。
MIHがある子ども310人のうち、第一大臼歯に虫歯が認められたのは141人、45.48%でした。
一方、MIHがなかった1986人では、第一大臼歯に虫歯があったのは270人、13.60%でした。

| 第一大臼歯に虫歯あり | 第一大臼歯に虫歯なし | |
|---|---|---|
| MIHあり | 141人(45.48%) | 169人(54.52%) |
| MIHなし | 270人(13.60%) | 1716人(86.40%) |
統計解析では、
オッズ比 5.303
95%信頼区間 4.098〜6.862
P<0.001
となりました。
数字だけを見ると、かなり大きな違いです。
ただし、ここで「5.303」という数字を正しく読む必要があります。
「虫歯になる確率が5.3倍」という意味ではありません
5.303倍だったのは、虫歯になる確率そのものではなくオッズです。
実際に第一大臼歯に虫歯が認められた割合は、
MIHあり 45.48%
MIHなし 13.60%
でした。
単純に割合を割ると、
45.48÷13.60≒3.34
です。
つまり、
「MIHの子どもは虫歯になる確率が5.3倍」
でも、
「MIHになると虫歯率が5.3倍になる」
でもありません。
正確には、
「この研究集団では、MIHがある子どもで第一大臼歯に虫歯が認められるオッズが、MIHのない子どもの5.303倍だった」
という結果です。
虫歯が比較的多く認められる集団では、オッズ比は単純な割合の比より大きな数字になることがあります。
今回も、割合の比は約3.34なのに対し、オッズ比は5.303です。
そのため、5.303という数字だけを見て「虫歯になる確率が5.3倍」と読むことはできません。

この研究から言えること
- MIHがある子どもでは第一大臼歯の虫歯が多く認められた
- 第一大臼歯に虫歯が認められるオッズは5.303倍だった
- MIHと第一大臼歯の虫歯との間に強い関連がみられた
この研究だけでは言えないこと
- MIHが虫歯を5.3倍「発生させた」
- MIHの子どもは必ず虫歯になる
- 日本の子どもでも5.3倍になる
- 歯磨きや食生活は関係ない
さらに重要なのは「未調整オッズ比」だということ
もう一つ、5.303という数字を読むうえで重要な点があります。
今回の研究では、MIHと虫歯との関係について二変量ロジスティック回帰が行われ、未調整オッズ比が算出されています。
つまり、次のような要因をすべて統計的に調整したあとに残った「MIHだけの独立した効果」が5.303というわけではありません。
- 糖分をどのくらい摂っていたか
- 普段どのくらい歯を磨けていたか
- フッ化物をどの程度利用していたか
- 家庭の社会経済的背景
- そのほかのう蝕リスク
研究者自身も、社会経済状況、食習慣、フッ化物曝露、口腔衛生などを調整できていないことを限界として挙げています。
したがって、
「MIHそのものだけの力で虫歯が5.3倍になる」
とは言えません。
数字の大きさは興味深いですが、研究デザインと一緒に読む必要があります。
乳歯の虫歯では同じ関連がみられなかった
今回の研究には、もう一つ興味深い結果があります。
乳歯の虫歯経験を示すdmftは、
MIHあり 2.58±2.47
MIHなし 2.56±2.54
で、ほとんど差がありませんでした。
P=0.925です。
さらに、「乳歯だけに虫歯がある」というカテゴリーについてロジスティック回帰を行った結果も、
OR 1.073
95%信頼区間 0.762〜1.510
P=0.687
で、有意な関連は認められませんでした。
つまり今回の研究では、平均dmftにも差がなく、乳歯のみのう蝕カテゴリーでもMIHとの有意な関連が認められなかったという結果です。
これは、
「もともと虫歯が多い子どもだから、乳歯も永久歯も全部虫歯が多かった」
という単純な結果とは少し違います。
MIHが問題となる第一大臼歯を含む永久歯側で、特に強い関連が現れたことが特徴です。
ただし、この一つの研究だけから、
「乳歯の虫歯とMIHは関係ない」
と一般化することもできません。
また、今回の研究ではHypomineralised Second Primary Molars(HSPM:低石灰化第二乳臼歯)を評価していないことも限界として挙げられています。
2013年の1157人調査でも似た傾向が報告されていました
今回の結果は、まったく突然現れたものではありません。
2013年にはブラジル・Araraquaraで、6〜12歳児1157人を対象とした人口ベースの横断研究が報告されています。
この研究ではMIH有病率は12.3%でした。
永久歯の虫歯経験を示すDMFTは、
MIHあり 0.89±1.18
MIHなし 0.43±1.01
で、MIHのある子どもの方が高くなっていました。
そして、この研究でもMIHとの関連が確認されたのは主に永久歯側で、乳歯の虫歯では同様の明確な関連がみられませんでした。
2023年に23研究をまとめたシステマティックレビューでも、全体としてMIH群では永久歯のDMFT、DMFS、第一大臼歯のDMF指標が高く、MIHとう蝕との関連を支持する結果がまとめられています。
一方で、文献全体が完全に一方向へそろっているわけではありません。
別の集団では、MIHとう蝕との有意な関連が確認されなかった研究もあります。
同じブラジル・Araraquaraで6年後に行われた調査では、
MIHあり:永久歯DMFT>0 24.4%
MIHなし:21.7%
で、有意な関連は認められませんでした。
さらに今回の開封市研究でも、MIH群の方が永久歯う蝕が少なかったドイツ・バイエルンの研究が紹介されています。
したがって現在の文献全体としては、
「MIHとう蝕の関連を示す研究は多いが、どの国・どの集団でも同じ強さの関連が現れるわけではない」
と考えるのが適切です。
なぜMIHの6歳臼歯では虫歯との関連が強くみられるのでしょうか
では、MIHがある第一大臼歯では、なぜ虫歯との関連が強くみられるのでしょう。
理由は一つではありません。
エナメル質の「薄さ」ではなく「質」の問題があります
「エナメル質形成不全」と聞くと、
「エナメル質が薄い歯なのかな?」
と思うかもしれません。
MIHでは、単純にエナメル質の厚さだけの問題として捉えることはできません。
MIHは主に、エナメル質の質的な低石灰化です。
見た目にはエナメル質の厚みが比較的保たれていても、正常なエナメル質と比べてミネラル含有量が変化し、多孔性が高く、機械的な抵抗性が低下していることがあります。
2025年のItalian Society of Paediatric Dentistry(SIOI)のポリシーでも、MIHエナメル質は正常に近い厚みを保ちながら、ミネラル含有量、多孔性、機械的抵抗性が異なると整理されています。
また、MIHでは白色・クリーム色・黄色〜褐色の境界明瞭な不透明部がみられることがあります。
一般に黄色〜褐色の病変は、より高い多孔性や構造崩壊との関連が報告されています。
ただし、
「茶色いから重症」「白いから軽症」
と家庭で色だけを見て判断することはできません。
- エナメル質が崩れているか
- 知覚過敏があるか
- 虫歯が重なっているか
- どの歯、どの範囲に変化があるか
まで含めて歯科で確認する必要があります。
2026年にはMIH歯と対照歯を多階層で解析した材料研究も報告されました。
この研究では、MIH病変部でミネラル量の低下、有機成分の増加、エナメル小柱周囲構造の変化などが確認されています。
対象はMIH歯5本と対照歯5本という小規模な材料研究なので、MIHの原因を証明するものではありません。
それでも、
「見た目の色だけではなく、歯質の内部構造にも違いがある」
ことを示す重要な研究の一つです。

生えたあとにエナメル質が崩れる「PEB」があります
MIHの特徴の一つに、
Post-eruptive enamel breakdown(PEB:萌出後エナメル質崩壊)
があります。
名前の通り、生えてきたあとにエナメル質が崩れる現象です。
今回の研究では、MIHと判定された675本のうち、
- 境界明瞭な不透明部 64.59%
- 非典型的う蝕 22.81%
- PEB 7.56%
- 非典型的修復 3.56%
- MIHによる抜歯 1.48%
という所見が報告されています。
ここで大切なのは、
MIH=最初から虫歯の穴が開いている
という意味ではないことです。
生えてきた時点では白色や黄色〜褐色の色調変化だけだった部分が、咀嚼による力を受けることで崩れてくることがあります。
保護者の方からすると、
「少し前まで穴なんてなかったのに、急に欠けたように見える」
ということもあり得ます。
歯質が崩れると、さらに汚れが残りやすくなります
健康なエナメル質表面と比べて、PEBによって凹凸ができた部分は清掃が難しくなります。
さらに象牙質まで露出してくれば、う蝕への注意もより必要になります。
ここで分けて考えたいのが、
MIHそのものと、MIHの歯に重なって起こる虫歯は同じものではない
ということです。
MIHによる色調変化やPEBが存在し、その上に通常のう蝕病変が重なることがあります。
反対に、虫歯が大きく進んでしまうと、もともと存在したMIH病変の特徴が分かりにくくなることもあります。
今回の研究者も、MIHに伴う非典型的な修復や崩壊とう蝕との分類方法によって、MIHとう蝕の関連を強く見積もる可能性や、逆にMIHそのものを見逃す可能性について触れています。
「磨かない」のではなく「磨くとしみる」子もいます
そして歯科衛生士として、とても気になるのが知覚過敏です。
MIHの歯では、冷たい水、空気、食べ物、歯ブラシなどでしみることがあります。
2024年、ノルウェー・オスロのMIH児を詳しく調べた研究では、再診査されたMIH児の25.8%で、少なくとも1本の第一大臼歯に知覚過敏が認められました。
さらに重症MIHの子どもでは、軽症MIHの子どもと比べ、知覚過敏が認められるオッズが5.62倍でした。
歯科衛生士としてお子さんのブラッシングについて聞いていると、
「この歯だけ嫌がります」
「奥を磨こうとすると顔をそむけます」
という話が出ることがあります。
そういうとき、
「磨かない」のではなく、「磨くとしみるから避けている」
可能性も考えます。
EAPDの診療指針でも、MIHに伴う知覚過敏によって子どもが口腔清掃を避ける可能性があるため、子ども本人と保護者への口腔衛生指導と食事指導を繰り返すことが重要とされています。
つまり、
エナメル質の性状が異なる
↓
生えたあとに崩れることがある
↓
凹凸ができ、汚れが残りやすくなる
ことに加えて、
しみる
↓
歯ブラシを避ける
↓
プラークが残りやすくなる
という経路も考えられます。

「ちゃんと磨かなかったから」と決めつけなくて大丈夫です
永久歯が生えたばかりなのに色が違ったり、欠けたりしていると、
「仕上げ磨きが足りなかったからかな」
と心配される保護者の方もいます。
ですが、MIHそのものは歯磨き不足によってつくられる病変ではありません。
第一大臼歯や切歯のエナメル質がつくられ、成熟していく過程に生じる発育上の変化です。
一方で、
「歯磨き不足がMIHをつくったわけではない」ことと、「MIHの歯なら歯磨きは重要ではない」ことは全く別です。
歯が生えてきたあとの虫歯には、プラーク、糖の摂取頻度、フッ化物の利用、唾液、歯磨き、歯の形、萌出状態など、通常のう蝕リスクが関係します。
MIHの歯だからこそ、むしろ生えてきた直後から丁寧に管理していく意味があります。
MIHがなぜ起こるのかについては、「MIHの病因を再考する」院長コラムでより詳しく扱っています。
6歳臼歯そのものも、もともと磨きにくい歯です
第一大臼歯は一般に「6歳臼歯」と呼ばれますが、必ず6歳ちょうどに生えるわけではありません。
乳歯が抜けた場所から生え替わるのではなく、乳歯列の一番奥から新しく生えてきます。
そのため、保護者の方が萌出に気づきにくい歯でもあります。
さらに生え途中では、まだ隣の歯より噛む面が低く、普通に歯ブラシを横へ動かしただけでは毛先が十分届かないことがあります。
そこへMIHによる知覚過敏や歯質崩壊が重なると、さらに清掃が難しくなることがあります。
6歳臼歯の生え替わり期の磨き方については、「小学生の歯磨きはどこを見る?6歳臼歯と生え替わり期のチェックポイント」も参考にしてください。
こんな6歳臼歯なら、一度歯科で確認してみてください
MIHを家庭だけで診断することはできません。
ただ、生えてきた第一大臼歯に次のような変化があれば、一度歯科医院で確認するきっかけになります。

ただし、
白い・黄色い・茶色い=MIHではありません。
初期う蝕、エナメル質低形成、フッ素症、その他の発育性エナメル質異常などでも似た見え方をすることがあります。
また、色の濃さだけで「軽いMIH」「重いMIH」と家庭で判断することもできません。
色だけではなく、歯質が崩れているか、しみるか、虫歯が重なっているかまで歯科で確認することが大切です。
MIHだったら、すぐ削るのでしょうか?
「弱い歯なら、早いうちに削って詰めた方がいいのでしょうか?」
という質問もあります。
MIHだから必ず削るわけではありません。
処置は、色調変化だけなのか、知覚過敏があるのか、PEBが起きているのか、すでにう蝕があるのか、どこまで萌出しているのか、お子さん自身が清掃できる状態かなどによって変わります。
まだ歯質が崩れていない場合
歯質が保たれている場合には、まず予防と経過観察が重要です。
歯磨きや食生活を確認し、必要に応じて歯科医院でフッ化物塗布などを検討します。
EAPDでは、MIH第一大臼歯の早期発見を重視し、フッ化物バーニッシュ、口腔衛生指導、食事指導などと3〜6か月程度の継続的な観察を組み合わせる考え方を示しています。
ただし、「MIHなら全員3か月ごと」という意味ではありません。
MIHの程度、知覚過敏、PEBの有無、う蝕リスク、萌出状態などに応じて受診間隔は変わります。
完全に生えた第一大臼歯ではシーラントを検討することもあります
完全萌出したMIH第一大臼歯では、歯の状態に応じて小窩裂溝をシーラントで保護することがあります。
EAPDは、レジン系フィッシャーシーラントを、MIH第一大臼歯のう蝕やPEBを防ぐために考慮する処置の一つとして挙げています。
ただし、MIHなら必ずシーラントをすれば大丈夫という意味でもありません。
歯の萌出状態、歯質、知覚過敏、清掃状態などを見ながら判断します。
シーラントそのものについては、「子どもの奥歯のシーラントとは?6歳臼歯を虫歯から守る予防処置」で詳しく解説しています。
しみる歯は「痛くても頑張って磨いて」で終わらせません
知覚過敏が強い場合は、まずその歯を避けて磨いている理由を確認します。
毛先の当て方や歯ブラシを調整し、必要に応じて歯科で知覚過敏への対応を行いながら、「痛くて触れない歯」を「毎日清掃できる歯」に近づけることが大切です。
すでに欠けている・虫歯がある場合
PEBによって歯質が大きく崩れていたり、う蝕が重なっていたりする場合には、修復治療が必要になることがあります。
重症MIHでは治療方法が複雑になることもあります。
「まだ生えたばかりだから大丈夫だろう」と長く様子を見るより、早めに状態を確認し、その時点の歯の状態に合った予防や治療を検討することが大切です。
家庭では「強く磨く」より「毎日磨ける方法」を
MIHが疑われる歯でも、基本的な虫歯予防そのものが特別なものへ変わるわけではありません。
大切なのは、
「汚れているから強くゴシゴシ磨く」ではなく、毛先が必要な場所に届き、毎日続けられる方法を探すこと
です。
生え途中の6歳臼歯は、歯ブラシを少し横から入れるようにして、噛む面に毛先を当てると磨きやすい場合があります。
一方で、歯ブラシが触れるだけで痛がる歯を無理に強くこする必要はありません。
「この歯だけいつも嫌がる」
「右の奥だけ避ける」
「冷たい水を含むと痛がる」
ということも、歯科医院で伝えてほしい大切な情報です。
6歳以上のフッ化物配合歯磨剤の濃度や使用量については、「子どもの歯磨き粉は何歳から大人用?6歳からのフッ素濃度と使う量の目安」で詳しく紹介しています。
今回の「5.3倍」を読むときに忘れたくない研究の限界
今回の研究は2296人という比較的大きな集団を調査し、診査者の校正も行われている点が強みです。
それでも、この数字だけから、「MIHが虫歯を起こした」とは断定できません。
横断研究なので、原因と結果の順番は証明できません
今回の研究は、ある時点でMIHとう蝕の状態を調べた横断研究です。
つまり、
MIHが先に存在した
↓
その結果として虫歯になった
という時間の流れを追跡した研究ではありません。
研究者自身も、横断研究であるため因果関係を証明できないことを限界として挙げています。
5.303は未調整オッズ比です
社会経済状況、食生活、フッ化物曝露、口腔衛生などを調整していません。
したがって、今回の5.303にはMIH以外の要因が影響している可能性があります。
中国・開封市の7〜9歳児を調べた研究です
今回調べたのは、中国・開封市の公立学校に通う子どもたちです。
日本の子どもや、う蝕有病率・食生活・フッ化物利用状況などが異なる集団でも、同じ5.303という数字になるとは限りません。
X線撮影をしていません
学校での診査だったためX線撮影は行われていません。
そのため、目で確認しにくい隣接面の虫歯などを過小評価している可能性があります。
HSPMを評価していません
第二乳臼歯の低石灰化であるHSPMは、MIHとの関連が研究されている所見の一つですが、今回の調査では評価されていません。
さらに、第一大臼歯4本と永久切歯が十分に萌出していない203人は解析から除外されています。
「2296人」という人数だけでなく、どんな子どもを、どんな方法で調べた研究なのかまで一緒に読むことが大切です。
それでも「生えたばかりだから安心」とは言えません
今回の研究から、「MIHなら必ず虫歯になる」とは言えません。
一方で、「永久歯は生えたばかりだから、しばらく虫歯の心配はない」とも言えません。
特に6歳臼歯は、生え始めた時期から見てほしい歯です。
確認したいのは、
- 色が違わないか
- 歯質が欠けていないか
- しみていないか
- 歯ブラシを嫌がっていないか
- 汚れが残っていないか
- 虫歯が重なっていないか
です。
「穴が開いてから見つける」のではなく、
生えてきたところから見て、必要なら壊れる前から守る。
MIHの6歳臼歯では、特に大切な考え方です。
よくある質問
Q.6歳臼歯が黄色や茶色だとMIHですか?
いいえ。色だけでは判断できません。
MIHでは白色・クリーム色・黄色〜褐色の境界明瞭な変化がみられることがありますが、初期う蝕やほかの発育性エナメル質異常などでも歯の色は変わります。
色だけでなく、第一大臼歯を中心とした歯の分布、境界、PEB、知覚過敏などを含めて歯科で確認します。
Q.茶色いMIHほど重症ですか?
黄色〜褐色のMIH病変は、一般に多孔性や構造崩壊との関連が報告されています。
ただし、色だけで重症度を決めることはできません。
歯質が崩れているか、知覚過敏があるか、う蝕が重なっているかなどを含めて評価します。
Q.MIHは歯磨き不足で起こりますか?
MIHそのものは歯磨き不足によってできる病変ではありません。
歯が形成・成熟する時期に生じる発育上のエナメル質異常です。
ただし、生えてきたあとの虫歯を防ぐためには、歯磨き、フッ化物、食生活など通常のう蝕予防がとても重要です。
Q.MIHなら虫歯になる確率が5.3倍ですか?
いいえ。
今回5.303倍だったのは、「第一大臼歯に虫歯が認められるオッズ」です。
実際の割合はMIHあり45.48%、MIHなし13.60%で、単純な割合比は約3.34です。
さらに未調整の解析であり、横断研究なので、MIHによって虫歯が5.3倍発生したと証明したものではありません。
Q.MIHの歯は全部削って治療しますか?
いいえ。
色調変化だけで歯質が保たれている場合には、予防と経過観察が中心になることがあります。
一方で、強い知覚過敏、PEB、う蝕などがあれば、その状態に応じて処置を考えます。
Q.前歯に白い部分があります。MIHでしょうか?
前歯にもMIHの所見が出ることがありますが、前歯の白い部分だけでMIHとは診断できません。
MIHの診断では第一大臼歯の所見が重要です。
前歯だけに白い部分がある場合も、初期う蝕やほかのエナメル質異常との鑑別が必要です。
Q.乳歯に虫歯が多いとMIHになりやすいですか?
今回の開封市研究では、平均dmftにも差がなく、乳歯のみの虫歯とMIHとの間にも有意な関連は認められませんでした。
ただし、この一つの横断研究だけから「乳歯の虫歯とMIHは関係ない」と断定することはできません。
6歳臼歯の「色・欠け・しみる」は、早めに確認を
2026年9月12日に公開された2296人の研究では、
MIHあり:第一大臼歯の虫歯45.48%
MIHなし:13.60%
未調整オッズ比:5.303
という結果でした。
ただ、大切なのは、
「5.3倍だから怖い」
という話ではありません。
生えたばかりの6歳臼歯に、
- 色が違う
- しみる
- 欠けている
- 歯ブラシを嫌がる
といった変化があったとき、
「磨けていなかったからだろう」
だけで終わらせないことです。
歯がつくられ、成熟する時期からエナメル質の質に違いがあるMIHが隠れていることがあります。
そしてMIHだったとしても、早く気づくことで、清掃方法を調整する、フッ化物などで予防管理する、必要に応じてシーラントを検討する、知覚過敏に対応する、PEBや虫歯が起きていないか継続して確認する、といった管理につなげることができます。
ブランデンタルクリニックは広島市中区立町、立町駅徒歩1分、立町中央ビル4階にあります。4階まではエレベーターをご利用いただけます。
お子さんの6歳臼歯の色、欠け、しみる症状などが気になる場合は、ブランデンタルクリニックの小児歯科でご相談ください。
急に歯が欠けた、痛みが強くなったなどの場合は当日の電話受付も可能です。予約状況を確認しながら急患の同日対応も可能ですので、お電話で症状をお知らせください。
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