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MIH(Molar Incisor Hypomineralization)の病因を再考する/2026年の前向きコホート研究が全身性炎症仮説を問い直す

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2026年8月27日

MIH(Molar Incisor Hypomineralization)の病因を再考する/2026年の前向きコホート研究が全身性炎症仮説を問い直す

(院長の徒然コラム)

はじめに-MIHの病因研究は、2026年に一つの節目を迎えました

Molar Incisor Hypomineralization、いわゆるMIHは、主として第一大臼歯に生じ、しばしば切歯にも認められる発育性のエナメル質低石灰化です。

白色、クリーム色、黄色、褐色などの境界明瞭な不透明部として認められ、重症例では萌出後に咬合力が加わることでエナメル質が崩壊します。知覚過敏、う蝕、修復治療の困難さ、局所麻酔への反応の問題などを伴うこともあり、単なる「歯の色の異常」ではありません。

現在では、MIHが決してまれな発育異常ではないことも分かっています。世界各国から10%台の有病率が報告され、日本でもSaitohらが7~9歳児4,496人を対象とした全国規模の多施設調査で19.8%にMIHを認めました。ただし、この調査は日本全国の小児から無作為に抽出した住民調査ではなく、協力した歯科医療機関を介した横断調査であるため、「日本人小児全体の真の有病率が19.8%である」とまで解釈することはできません。

MIHの基本的な臨床像については、以前の「むし歯だけじゃない!子どもの歯の『エナメル質形成不全(MIH)』について」でも解説しています。

今回考えたいのは、その先です。

なぜMIHが生じるのでしょうか。

この問いに対して、これまで妊娠中の疾患、早産、低出生体重、出生時低酸素、乳幼児期の発熱、肺炎、喘息、気管支炎、中耳炎、抗菌薬、栄養状態、vitamin D、環境化学物質、遺伝的素因など、非常に多くの因子が調べられてきました。

その中でも繰り返し報告されてきたのが、乳幼児期の発熱や感染症とMIHとの関連です。

そこから、一つの分かりやすい仮説が生まれます。

感染症や発熱が起こる。全身に炎症反応が起こる。その炎症が、歯冠形成中のエナメル芽細胞を障害する。その結果としてMIHが生じる。

非常に理解しやすい仮説です。

しかし2026年、Shieldsらはこの仮説の中心にある「全身性炎症そのもの」を、出生前から追跡されたヒトのコホートで直接検討しました。

結果は、これまでの疫学研究から想像されるほど単純ではありませんでした。

まず「エナメル質形成不全」という言葉を整理する必要があります

MIHについて日本語で議論するときには、用語に注意が必要です。

日本の古い歯科文献では、「エナメル質形成不全」という言葉が非常に広く使われてきました。

現在なら、エナメル質の量そのものが不足する低形成、厚さは保たれているものの石灰化や成熟が不十分な低石灰化、遺伝性のamelogenesis imperfecta、全身疾患や局所外傷に伴う発育障害などを区別して扱います。しかし古い日本語文献では、これらが同じ「形成不全」という表現の下で論じられることがあります。

新谷氏は2010年、日本語における「エナメル質形成不全」と「エナメル質形成不全症」の混乱を整理し、遺伝性のamelogenesis imperfectaと、非遺伝性の発育性低石灰化を区別して論じています。

MIHは基本的には、エナメル質の「量」よりも「質」の障害が中心となる発育性エナメル質障害です。

そのため、白い部分があるというだけでMIHと診断することはできません。初期う蝕、フッ素症、amelogenesis imperfecta、乳歯外傷や感染によって後継永久歯に生じるTurner歯などとの鑑別が必要です。

白斑の一般的な鑑別については、「歯に白斑…ホワイトスポットってなに?」も参考になります。

さらに近年は、MIHに似た低石灰化が第一大臼歯と切歯だけに完全に限定されないことも注目されています。第二乳臼歯に生じるHSPM、犬歯、第二大臼歯などにも類似した低石灰化が認められることがあり、「MIH」という名称が発育性低石灰化の広がりを完全には表現していない可能性も議論されています。

古い「エナメル質形成不全」をすべてMIHと読み替えることも、MIHを第一大臼歯だけの孤立した異常として扱うことも、どちらも適切ではありません。

MIHを理解するには、エナメル質の「成熟」を理解する必要があります

MIHの病因を考えるうえでは、エナメル質がどのように形成されるのかを理解する必要があります。

エナメル質を形成する中心的な細胞がエナメル芽細胞です。

分泌期のエナメル芽細胞は、amelogenin、enamelin、ameloblastinなどのエナメル基質タンパクを分泌します。その後、MMP20やKLK4などのタンパク分解酵素によって基質タンパクが分解・除去され、その空間へCa²⁺やリン酸が供給され、hydroxyapatite結晶が成長していきます。

つまり、「エナメル質の形を作ること」と「作ったエナメル質を十分に石灰化・成熟させること」は同じではありません。

シングルセルRNAシーケンシングを用いた研究では、従来一つの集団として捉えられていた歯原性上皮にも複数の細胞状態が存在し、エナメル芽細胞だけでなく、中間層細胞など周囲の歯原性上皮細胞も石灰化環境の維持に関与することが示されてきました。

MIHを単に「歯を作るときに何か悪いことが起きた」と捉えるだけでは不十分です。

実際には、基質分泌、タンパク分解、Ca²⁺輸送、リン酸供給、pH調節、細胞間バリア、エナメル芽細胞とエナメル質との接着、細胞のエネルギー代謝など、複数の過程が正確に進まなければ、十分に成熟したエナメル質は形成されません。

一般的な脱灰・再石灰化については「歯のエナメル質と再石灰化の仕組み」でも説明していますが、MIHは萌出後の酸によって生じた脱灰ではありません。

歯が顎骨内で形成されている時期に成立した発育異常です。

しかも、一度完成したエナメル質は骨のように細胞によって大規模に作り替えられません。発育期の一時的な障害が、数年後に萌出する歯の中へ記録として残ることになります。

MIHの病因として、これまで何が疑われてきたのでしょうか

MIHの病因候補は非常に多岐にわたります。

出生前には母体疾患、薬剤、喫煙、栄養状態など、周産期には早産、低出生体重、帝王切開、出生時低酸素など、出生後には発熱、肺炎、気管支炎、喘息、中耳炎、腎疾患、胃腸疾患、感染症などが研究されてきました。

さらに抗菌薬、vitamin D、dioxinやbisphenol Aなどの環境化学物質、遺伝的・epigeneticな要因も候補になっています。

Silvaらは2016年、28研究をまとめたsystematic reviewで、特に幼少期の発熱、喘息、肺炎などとの関連が繰り返し報告されていることを整理しました。

しかし同時に、そのエビデンスの弱点も指摘しています。多くの研究で曝露情報は数年後の保護者への質問票や面接から得られ、医療記録などを使用した研究は少数でした。交絡因子の調整も十分ではありませんでした。

Silvaらの結論の一つは明快です。

より良く設計された前向き研究が必要である。

その後もsystematic reviewやmeta-analysisが続きましたが、Garotらの更新reviewでも、横断研究や症例対照研究が多く、前向きコホート研究は少数でした。

つまり、MIHの病因研究は長い間、「MIHが見つかった子どもの過去を振り返る研究」を中心に積み上げられてきたのです。

Garotらのmeta-analysisは2025年のCorrection後の数値で読む必要があります

Garotらの更新systematic review・meta-analysisは、MIH病因研究を整理するうえで重要な論文ですが、一つ大きな注意があります。

2025年にCorrectionが公表され、主要な周産期因子の効果推定値が訂正されています。

Correction後の値では、早産はOR 1.59(95%CI 1.25~2.04)、帝王切開はOR 1.13(95%CI 1.01~1.28)、周産期低酸素はOR 2.59(95%CI 1.69~3.98)です。

また、元論文で研究間異質性を大きくする外れ値研究を除いた解析では、発熱OR 1.40、肺炎OR 1.49、喘息OR 1.55、抗菌薬使用OR 1.21などの関連も報告されました。

これらは重要な疫学的信号です。

しかし、数字だけを見て「低酸素がMIHを起こす」「抗菌薬がMIHを起こす」と読むことはできません。

「関連している」と「原因である」は違います

MIHの病因研究が難しい最大の理由の一つは、原因候補となる曝露の時期と、MIHを診断できる時期が大きく離れていることです。

第一大臼歯のエナメル質形成に重要な時期は出生前後から乳幼児期にあります。しかし、MIHを口腔内で診断できるのは第一大臼歯が萌出してからです。

そのため従来研究では、「1歳ごろ高熱がありましたか」「肺炎になりましたか」「抗菌薬を飲みましたか」と、数年前の出来事を保護者に尋ねる方法が多く用いられてきました。

当然、想起バイアスが生じます。

さらに重要なのが交絡です。

例えば、抗菌薬を使用した子どもにMIHが多かったとします。

その時期には、感染症、高熱、肺炎などによる低酸素、食事摂取低下、栄養状態の変化、微生物叢の変化、そして抗菌薬投与が同時に存在していたかもしれません。

その場合、「抗菌薬そのもの」だけの影響を観察研究から切り離すことは容易ではありません。

同じことは発熱にも当てはまります。

発熱そのものがエナメル芽細胞を障害したのか、感染症に伴う全身性炎症なのか、低酸素なのか、栄養・代謝変化なのか、病原体そのものなのか。従来の疫学研究の多くは、そこまで分離できていません。

2026年Shieldsらの研究は何が新しかったのでしょうか

この問題に対して、2026年のShieldsらは従来とは違う方法で研究しました。

論文タイトルは「Systemic Inflammation and Molar Incisor Hypomineralisation: A Cohort Study」です。

使用されたのは、オーストラリアのBarwon Infant Studyです。妊娠中から参加者を登録して長期間追跡する出生前コホートで、1,074組の母子が研究に同意しました。

最大の特徴は、MIHが診断された後に「昔、炎症がありましたか」と尋ねたのではないことです。

妊娠28週、出生時、生後6か月、12か月、4歳という複数の時点で採取された血液試料を利用して、炎症を実際に測定しました。

測定した代表的な指標がhsCRPとGlycAです。

hsCRPは高感度C反応性タンパクで、急性期反応を反映する代表的な炎症指標です。

GlycAは複数の急性期糖タンパクに由来する信号をNMRで捉える指標で、hsCRPとは異なる時間特性を持ち、比較的安定した全身性炎症負荷の指標として利用されます。

さらに4歳時には全血刺激試験を行い、サイトカイン・ケモカイン反応も測定しました。

その後9~13歳で標準化した歯科診査を行い、modified EAPD indexでMIHを判定しています。

最終的に歯科診査を受けたのは481人でした。

129人、27%がMIH。そのうち43人、MIH症例の約33%が重症例でした。

単なる群間比較ではなく、因果推論を意識した解析が行われています

Shieldsらは、「MIH群のCRPが非MIH群より高かったか」だけを比較したわけではありません。

有向非巡回グラフ、いわゆるDAGを用いて、感染症、母乳育児、帝王切開、在胎週数、母体喫煙、社会経済的位置など、炎症とMIHの双方に関係し得る交絡因子を事前に整理しています。

さらにG-computationを用いて、これらの交絡因子を調整した解析を行いました。

もちろん観察研究である以上、これだけで完全な因果関係を証明できるわけではありません。

しかし、「過去の病歴を質問票で聞く研究」から、「発育期の生体指標を前向きに測り、因果構造を意識して解析する研究」へ一段進んだという点は重要です。

結果――測定された全身性炎症とMIHに明確な関連はありませんでした

妊娠中、出生時、生後6か月、12か月、4歳の各時点で測定したhsCRPまたはGlycAと、後のMIHとの間に明確な関連は認められませんでした。

軽症MIHと重症MIHに分けても、明確な傾向は認められませんでした。

4歳時の全血刺激試験による自然免疫系のサイトカイン反応にも、MIH群と非MIH群との明確な差は認められませんでした。

G-computationによる複数の解析でも、GlycAとMIHとの明確な関連は示されませんでした。

abstractに示された12か月時GlycAの推定では、1単位増加に対するMIHのリスク差は−0.03、95%CI −0.07~0.02、P=0.24でした。

少なくともこのコホートでは、「発育期に測定された全身性炎症負荷が高いほど、後にMIHになりやすい」という明確な関係は確認されませんでした。

これはMIH病因研究にとって重要な陰性結果です。

では「炎症はMIHと無関係」と結論してよいのでしょうか

ここを誤解してはいけません。

答えはいいえです。

Shieldsらが測定したhsCRP、GlycA、全血刺激後のサイトカイン反応は、主として全身性の自然免疫・炎症状態を捉えるものです。

著者ら自身、今回の測定では獲得免疫反応を十分に捉えていないと明記しています。喘息や湿疹など、獲得免疫が関係する病態を介した経路まで排除されたわけではありません。

さらに、血液中の炎症状態と、形成中の歯胚周囲の局所環境が一致する保証もありません。

全血刺激試験では組織特異的な環境を再現できず、血液中の炎症指標が未萌出歯周囲の免疫状態を正確に反映しない可能性も、Shieldsら自身が指摘しています。

また、元のコホート全員が歯科診査を受けたわけではありません。欠測、追跡脱落、残余交絡、選択バイアスが残り、民族的に多様な集団や医学的に複雑な小児へそのまま一般化できない点も限界です。

したがって、この研究によって以前より支持しにくくなったのは、

感染症・発熱 → 累積的な全身性自然免疫炎症 → エナメル芽細胞障害 → MIH

という単純な一本道です。

「感染症は関係ない」「発熱は関係ない」「炎症は一切関係ない」という結論ではありません。

原因としての炎症と、MIH成立後の歯髄炎症は区別しなければなりません

ここでもう一つ重要な整理があります。

MIH歯では、萌出後の歯髄にも変化が起こり得ます。

Roddらは2007年、低石灰化永久第一大臼歯でsubclinicalな歯髄炎症を報告しました。また、MIH歯で疼痛受容に関与するTRPV1発現を検討した研究もあります。

さらに2026年のSahinらの研究では、MIH歯の歯髄血中でTNF-α、IL-4、IL-13、MMP-3、MMP-8などの上昇が報告されました。

しかし、この結果を「炎症があったからMIHになった」という証拠として使用してはいけません。

これらの研究が測定したのは、すでにMIHとして形成され、萌出した歯の現在の歯髄状態です。

MIHエナメル質は多孔性が高く、外見上比較的保たれた低石灰化エナメル質の下まで細菌が侵入し得ることも報告されています。

したがって、

MIH成立 → 多孔性・細菌侵入・知覚過敏 → 歯髄への慢性的刺激・炎症

という逆方向の経路が十分に考えられます。

2026年には、MIH切歯112本と健全切歯112本を比較した研究で、MIH歯の歯髄酸素飽和度が平均1.37 percentage points低いことも報告されました。ただし著者ら自身が、差は小さく、現時点での臨床的意義は限定的だとしています。

これも「形成期に低酸素だったからMIHになった」ことを証明する研究ではありません。

発育期の原因としての低酸素と、萌出後のMIH歯の現在の歯髄酸素状態は別問題です。

過去の「発熱・感染症との関連」は何を見ていたのでしょうか

ここからが、Shields 2026を読んだ後に最も重要な問いです。

Silvaらは2016年、幼少期の疾患、とくに発熱とMIHとの関連を示唆しながら、前向き研究の必要性を強調しました。

その10年後、Silva氏自身を共著者に含むShieldsらの研究が、全身性炎症という経路を直接調べました。

結果は明確な関連なしでした。

そうなると次に考えるべきなのは、従来の「病気との関連」が、全身性炎症以外の生物学的変化を間接的に捉えていたのではないかという可能性です。

Shieldsら自身も、重症・反復疾患に伴う栄養不足、反復する抗菌薬曝露に伴う微生物叢の変化、未成熟な顎骨内の局所炎症など、全身性炎症とは別の経路を挙げています。

ここに低酸素、体温上昇そのもの、エナメル芽細胞のエネルギー代謝、Ca²⁺・リン酸輸送、pH調節、局所的な血管透過性変化、血清タンパクの侵入、遺伝的感受性などを加えて考える必要があります。

低酸素――感染症とMIHを炎症以外でつなぐ経路

呼吸器疾患とMIHとの関連は古くから報告されています。

Kühnischらは出生コホート692人を用いた研究で、呼吸器疾患の既往と、第一大臼歯と切歯の双方に低石灰化を認めるMIH phenotypeとの関連を報告しました。

近年も呼吸器疾患に絞ったsystematic review・meta-analysisが行われていますが、疾患ごとに結果は一様ではなく、エビデンスの確実性も高いとは言えません。

それでも低酸素仮説が興味深いのは、エナメル芽細胞側にそれを説明し得る基礎研究が存在するからです。

Araiらは2022年、成熟期エナメル芽細胞のエネルギー代謝を検討しました。

低酸素条件では、エナメル芽細胞の代謝が解糖系優位へ移行し、ALP活性、Ca²⁺輸送、石灰化が低下しました。

つまり、

低酸素 → 全身性炎症 → MIH

という経路を通らなくても、

低酸素 → エナメル芽細胞の代謝変化 → Ca²⁺輸送低下 → 石灰化障害

という経路が生物学的には成立し得ます。

ただし、これは培養細胞・動物系を中心とする機序研究であり、ヒトMIHの原因が低酸素であることを証明したものではありません。

発熱そのものはどうでしょうか

発熱も、感染症や全身性炎症から完全に同一視せず考える必要があります。

Tungらは2006年、ラットに持続的な発熱状態を作り、形成中の切歯エナメル質を観察しました。発熱状態は約57時間持続し、対照群より平均体温が約1.5℃高い状態で、エナメル質にX線透過性の高い線状変化、エナメル小柱の配列異常、結晶を欠く領域が認められました。

これは、体温上昇そのものがエナメル質形成に影響し得るという生物学的妥当性を示します。

しかしヒトでは、「何度以上の発熱が」「何時間あるいは何日持続すると」「どの形成段階の第一大臼歯に」「どの程度のMIHを生じるのか」というdose-response relationshipは確立していません。

これまでの「発熱あり・なし」という病歴だけでは、曝露評価として粗すぎる可能性があります。

抗菌薬――amoxicillinは本当にMIHを起こすのでしょうか

MIH病因研究で非常に有名な候補の一つがamoxicillinです。

Laisiらが2009年にamoxicillinとMIHとの関連を報告して以降、抗菌薬は長く病因候補として議論されてきました。

2025年のMlinkóらのsystematic review・meta-analysisでは、4歳未満の抗菌薬使用とMIHとの間にOR 1.50(95%CI 1.13~1.99)の関連が報告されました。

しかし同じ解析で、amoxicillin単独の推定値はOR 1.87であったものの95%CIは0.83~4.21で、統計学的に明確な関連とはなっていません。

さらに重要なのが、先ほど述べた適応による交絡です。

抗菌薬は通常、健康な小児へ理由なく投与されるものではありません。感染症があるから処方されます。

したがって、抗菌薬なのか、感染症なのか、発熱なのか、低酸素なのか、疾患の重症度なのかを分離しなければなりません。

日本の熊澤らの研究は、この問題を考えるうえで興味深いものです。

ラットへamoxicillinを投与すると、象牙質には拡大した球間象牙質など石灰化障害を示す変化が認められました。しかしエナメル質基質には明確な異常が認められず、エナメル芽細胞にも形態学的変化は確認されませんでした。

Serna Muñozらの動物研究でも、抗菌薬による直接毒性だけでMIHを説明するには慎重な結果が示されています。

現時点では、「幼少期の抗菌薬使用とMIHとの疫学的関連が報告されている」とは言えても、「amoxicillinがMIHを起こす原因薬である」と断定できる段階ではありません。

栄養・vitamin D・Ca/P代謝も、一つの単純な答えにはなっていません

エナメル質は高度に石灰化した組織です。そのため、vitamin D、Ca、リン、栄養状態などがMIH病因として疑われるのは自然です。

しかし結果は一貫していません。

van der TasらのGeneration R Studyでは、胎児期、新生児期、小児期のvitamin D statusとMIH/HSPMとの明確な関連は示されませんでした。

一方、Børstingらの前向き研究では、妊娠中期のvitamin D不足そのものとMIHの「発症有無」について明確な結論は出なかったものの、MIHを有する子どもの中では罹患歯数との関連が報告されています。

Nørrisgaardらの妊娠中vitamin D高用量補充試験の追跡では、児のdevelopmental enamel defectsが少なかったという結果が報告されています。ただし、これはMIHだけに限定した研究ではありません。

developmental enamel defect全体と、EAPD等の基準で診断されたMIHは同じではありません。

また、重い感染症などの際には、食事摂取量低下、vitamin DやCa/P代謝の変化、低アルブミン、酸塩基平衡の変化などが同時に生じ得ます。

したがって、「疾患との関連=炎症」と考える必要はなく、病気に伴う代謝・栄養変化が形成中の歯へ影響する可能性も残ります。

遺伝は「MIHになるかどうか」の感受性を変えている可能性があります

MIHには遺伝的関与を示唆するデータも蓄積しています。

Jeremiasらはamelogenesis関連遺伝子とMIHとの関連を報告し、その後family-based association studyも行いました。

Teixeiraらの双生児研究では、一卵性双生児で二卵性双生児よりMIHの一致性が高いことが報告されています。

さらにMMP20を含むエナメル質形成関連遺伝子、免疫応答関連遺伝子、vitamin D receptor、ion transport関連遺伝子など、多数の候補が研究されてきました。

2023年のFigueiraらのsystematic reviewでは、MIHとamelogenesis、免疫応答、異物代謝、イオン輸送などに関係する遺伝子多型との関連が整理されましたが、エビデンスの確実性は低~非常に低いと評価されています。

これは逆に、単一の「MIH遺伝子」が存在するという証拠ではないとも言えます。

同じ発熱、同じ低酸素、同じ栄養変化、同じ薬剤曝露を受けても、エナメル芽細胞が耐えられる子どもと耐えにくい子どもがいる。その差の一部を遺伝的・epigeneticな背景が左右していると考える方が、現在の研究にはよく合います。

そして、免疫関連遺伝子とMIHとの関連が報告されたことと、「MIHになる子どもは全身性炎症が高い」ということは同じではありません。

この点でも、Shields 2026の結果とは矛盾しません。

MIHエナメル質に血清由来タンパクが存在するという問題

MIH病因研究で、もう一つ非常に興味深い領域があります。

完成したMIHエナメル質そのものを分析すると、正常エナメル質よりタンパク質含有量が多いことが知られています。

Farahらは2010年、MIHエナメル質のprotein contentが正常エナメル質より大幅に多いことを報告しました。

同じ年、Mangumらは低石灰化エナメル質のproteomeを解析し、正常より3~15倍多いタンパク質を認めながら、残存amelogeninはほぼ正常レベルであることを示しました。

これは単純な「amelogeninを除去できない古典的hypomaturation defect」とMIHが異なる可能性を示します。

さらに、表面が保たれた病変にはserum albuminが特徴的に認められました。

Williamsらは2020年、低石灰化した6歳臼歯からfetal serum albuminの痕跡を報告しました。

ここから発展したのが、Hubbardらのmineralisation-poisoning modelです。

形成中のエナメル質へalbuminなどの血清タンパクが局所的に侵入し、albuminがhydroxyapatite結晶表面へ結合して結晶成長を妨げ、その結果として境界明瞭な低石灰化領域が残る、というモデルです。

重要なのは、Shields 2026の結果はこの仮説を否定していないことです。

実際、Shieldsら自身もMIHエナメル質中のalbuminなどの血漿タンパクに触れ、その侵入機序として局所的な血管障害やtight junctionの破綻を候補に挙げています。

全身のhsCRPやGlycAが高くなくても、形成中の特定の歯の周囲で一時的な血管透過性変化が生じる可能性までは排除されません。

2026年の材料解析からみるMIHエナメル質

出来上がったMIHエナメル質を最新の材料解析でみると、その異常はさらに明瞭です。

Jähn-Rickertらは2026年、少数の抜去MIH歯と対照歯を用いて、マイクロCT、ラマン分光法、電子顕微鏡、X線散乱などを組み合わせたマルチスケール解析を行いました。

症例数そのものは小さく、病因となる曝露を調べた研究ではありません。しかし、MIHエナメル質で何が構造的に壊れているのかを理解するうえでは非常に興味深い研究です。

マイクロCTでは、MIHエナメル質のhydroxyapatite量は対照エナメル質より平均約10%低下していました。一方、象牙質の石灰化度には同様の差を認めませんでした。

さらにエナメル小柱を取り囲むprism sheathでは、非石灰化領域が大きく拡大していました。

このような構造は、亀裂形成、エナメル小柱の脱落、酸の侵入、機械的強度低下などを説明する可能性があります。

MIHは、「白や茶色に見える歯」ではなく、エナメル質の組成と階層構造そのものが異常な歯です。

結局、最後に破綻しているのは「エナメル質の成熟機構」ではないでしょうか

ここまでの研究をつなぐと、一つの考え方が見えてきます。

「MIHの原因物質は何か」だけを問い続けるより、「何がエナメル質の成熟を破綻させればMIH様の低石灰化が生じるのか」と問う方が、現在の研究を理解しやすくなります。

STIM1――Ca²⁺流入

Furukawaらは2017年、STIM1を介するstore-operated Ca²⁺ entry、すなわちストア作動性Ca²⁺流入がエナメル質形成に重要であることを示しました。

Stim1の機能を障害すると、chalkyな外観を持つエナメル質、石灰化低下、咬耗、成熟期エナメル芽細胞のmodulation異常などが生じました。

全身性炎症がなくても、Ca²⁺ signalingそのものの破綻で低石灰化エナメル質を生じ得ることを示す機序研究です。

GPR115――pHとイオン環境

Chibaらは2020年、GPR115/ADGRF4がエナメル質石灰化に必要であることを示しました。

Gpr115欠損マウスでは低石灰化エナメル質が形成され、成熟期の酸性領域やイオン環境にも異常が認められました。

エナメル質の成熟には、Caを運ぶだけではなく、結晶成長に伴って変化する局所pHを適切に制御する必要があることが分かります。

Claudin-10――中間層細胞と細胞間バリア

Wangらは2020年、Claudin-10が歯の中間層細胞に強く発現することを示しました。

Claudinはtight junctionを構成する主要なタンパクであり、細胞間を通過する物質の選択性や局所環境の維持に関係します。

Claudin-10を歯原性上皮細胞で過剰発現させると、成熟した中間層細胞のmarkerであるALP発現が誘導されました。

S100A6――Ca²⁺とエナメル芽細胞分化

Otakeらは2024年、Ca-binding proteinであるS100A6がエナメル芽細胞に強く発現し、S100a6をknockdownすると細胞内Ca²⁺濃度が低下し、amelogeninやameloblastinなどの発現が低下することを示しました。

Ca²⁺は単なる石灰化材料ではなく、エナメル芽細胞の分化や細胞内signalそのものにも関係していることになります。

SLC9A5/NHE5――Na⁺/H⁺交換

Takanoらは2026年、SLC9A5/NHE5が正常なエナメル質形成に必要であることを報告しました。

Slc9a5欠損マウスでは、幼若期にpit状のエナメル質異常がみられ、成長後には石灰化度低下、エナメル質の菲薄化、Ca/P低下などが認められました。

興味深いのは、初期の基質形成がある程度保たれていても、その後の成熟が障害され得ることです。

V-ATPase a3とODAM――酸性化・輸送・細胞接着

Otsuらは2026年、V-ATPaseのa3 subunitが成熟期エナメル芽細胞の機能に重要であることを報告しました。

a3欠損では重度のエナメル質低石灰化、matrix acidificationの低下、ruffled borderの異常、エナメル芽細胞の剥離などが認められました。

さらに、a3陽性のsecretory lysosomeがRab27Aを介してODAMを適切な位置へ運び、エナメル芽細胞と石灰化面との接着維持に関与することが示されました。

TNAP――局所リン酸供給

Kodamaらは2026年、TNAPがエナメル基質内で実際に機能し、リン酸化されたamelogeninやenamelinなどから無機リン酸を遊離できることを示しました。

さらに、amelogeninがMMP20やKLK4で分解された後には、TNAPによるリン酸遊離が増えました。

これは、エナメル基質が単なる「Caとリンが沈着する受動的な足場」ではなく、タンパク分解とリン酸代謝が協調する能動的な石灰化環境であることを示します。

これだけ多くの機構が必要である以上、異なる上流の原因が、最終的には同じ「低石灰化」という表現型へ収束することは十分考えられます。

HSPMはMIHの「原因」ではなく、早期の手がかりかもしれません

第二乳臼歯に認められるHSPMも、MIH病因を考えるうえで重要です。

Negre-Barberらは2016年、HSPMを有する小児では後のMIHとの強い関連があることを報告しました。

2025年のZhangらの更新systematic review・meta-analysisでは、12研究、8,944人を統合し、HSPM群では非HSPM群よりMIHを認めるオッズが高く、OR 10.90(95%CI 4.59~25.89)でした。

ただし、HSPMがある子ども全員がMIHになるわけではありません。

HSPMそのものがMIHを引き起こすのではなく、その子どもが発育性の低石灰化を起こしやすい背景を、永久第一大臼歯萌出前に示す早期表現型と考える方が自然です。

さらにHSPMとMIHには形成時期の重なりがありますが、完全に同じ病態であると証明されたわけでもありません。

日本では「MIH」という名前ができる前から、似た問いが研究されていました

古い日本文献まで遡ると、非常に興味深い研究史が見えてきます。

1980年――内海らのエナメル質形成不全122症例

内海らは1980年、大阪歯科大学で撮影された約40万枚の歯科X線資料からエナメル質形成不全122症例を抽出しました。

平均年齢は11.9歳で、切歯、犬歯、第一大臼歯に比較的多く異常が認められました。

もちろん、この研究を「1980年にMIHが診断されていた」と解釈してはいけません。当時の「エナメル質形成不全」は現在のMIHよりはるかに広い病態を含みます。

それでも、第一大臼歯・切歯を含む発育障害と出生後早期の全身状態を結びつけて考えていた点は、現在のMIH研究につながる歴史として興味深いものです。

低出生体重児と周産期障害

同じ1980年、船越らは低出生体重児52名を調査し、エナメル質形成不全や着色歯を検討しました。

在胎34週以下では29名中12名、41.4%に形成障害を認め、34週を超える群より高頻度でした。

これも乳歯を中心とした古い「形成不全」研究であり、MIH研究ではありません。しかし早産、呼吸窮迫、低Ca血症などが歯の発育に与える影響は、日本でもかなり早い時期から検討されていました。

1989~1991年――歯そのものから障害時期を読む

1989年の井出らの研究では、周生期障害を有する患児の乳歯について、新産線とエナメル質減形成部の位置を組織学的に比較しました。

減形成部の内側と新産線の位置が一致し、障害されたエナメル質が出生直後に形成されたことを示しています。

1991年の市川・長坂らはさらに、新産線を基準にRetzius線上の発育障害線の形成時期を推定し、既往歴と照合しました。

現在のMIH病因研究が悩まされている「数年前の病歴をどう正確に知るか」という問題に対して、日本の研究者は30年以上前に、歯そのものを時間記録として読むという方法を試みていたことになります。

1990年――野坂らはすでに「複数因子」を考えていました

野坂らは1990年、永久歯の形成不全について全国的な調査を行いました。

発熱を伴う疾患などを候補に挙げながら、最終的には「障害を受けやすい歯種」「時期」「個人の感受性」「障害の種類や強さ」が関連し合う可能性を論じています。

MIHという名称が定着する前の研究ですが、現在の多因子モデルにかなり近い発想です。

2008年――杉山氏によるMIH臨床報告

杉山氏は2008年、12歳児108人を調べ、12人、11.1%にMIHに相当する所見を報告しました。

症例写真では、萌出時の白濁・着色から、その後の実質欠損やう蝕へ進む過程も示されています。

2013~2014年――日本の大規模MIH調査

桜井氏、新谷氏らの調査では2,121人が調査に協力し、未萌出などの理由で評価できない症例を除いた1,753人が解析対象となりました。

そのうち209人、11.92%がMIHでした。

重症度別では、Level 1が160人、Level 2が19人、Level 3が30人でした。

この研究では、妊娠中の疾患、分娩方法、低出生体重、3歳未満の大きな疾患などについても質問していますが、全体のMIH発症との明確な関連は認められませんでした。

さらに著者らは、自由記入式の病歴調査では疾患名や薬剤情報の把握が不十分になることを指摘し、病因調査方法そのものの改善が必要だと論じています。

現在の視点から見ると重要です。

日本でも2014年の時点で、「保護者に過去の病歴を聞くだけではMIH病因を十分に評価できない」という問題がすでに見えていたことになります。

2018年以降――日本研究は細胞機構へ

Saitohらの4,496人調査によって、日本でもMIHが広く存在することが認識されました。

その一方、日本からはSTIM1、GPR115、シングルセルRNAシーケンシング、CLDN10、S100A6、SLC9A5、V-ATPase、TNAPなど、エナメル質形成・成熟の細胞分子機構に関する研究が相次いでいます。

日本の研究史を俯瞰すると、「どの病気が歯を悪くするのか」から、「何が壊れれば低石灰化エナメル質になるのか」へ、問いの解像度が上がってきたようにもみえます。

2026年時点では、MIHを「4つの層」で考えると理解しやすいと思います

ここまでの疫学、遺伝学、材料学、細胞生物学を一つにまとめると、私はMIHを4つの層に分けて考えるのが理解しやすいと思います。

これは確立された公式の病因分類ではなく、現在の知見を整理するための作業仮説です。

第1層――感受性

遺伝的素因、epigeneticな背景、amelogenesis関連遺伝子、免疫応答関連遺伝子、イオン輸送関連遺伝子などです。

第2層――発育期に加わる負荷

感染症、発熱、低酸素、栄養・代謝変化、薬剤、環境化学物質、局所的血管イベントなどです。

第3層――形成中の歯で実際に障害される機構

エネルギー代謝、Ca²⁺輸送、リン酸供給、pH調節、細胞間バリア、基質タンパク分解、エナメル芽細胞とエナメル質の接着、血清タンパク侵入などです。

第4層――臨床でみえるMIH

石灰化度低下、タンパク質増加、多孔性増大、prism sheath異常、機械的強度低下、境界明瞭な不透明部、知覚過敏、萌出後崩壊、う蝕、修復治療の難しさです。

このモデル通りで考えると、MIH研究で長年「原因が一つに決まらない」こと自体が、必ずしも研究の失敗ではなくなります。

同じMIHという表現型に、複数の経路が到達している可能性があるからです。

2026年時点で、何が言えて何が言えないのでしょうか

現在のエビデンスから、比較的言いやすいことがあります。

  • MIHは、多因子性の発育性エナメル質障害である可能性が高いこと。
  • 発熱、感染症、呼吸器疾患、抗菌薬などとの疫学的関連は繰り返し報告されていること。
  • 一方、従来研究の多くは横断研究、症例対照研究、後ろ向き病歴調査であり、想起バイアスや交絡の影響を受けやすいこと。
  • Shieldsらの2026年前向きコホートでは、測定された全身性自然免疫炎症とMIHとの明確な関連が示されなかったこと。
  • MIHエナメル質自体には、低石灰化、高タンパク、多孔性、構造異常が存在すること。
  • 遺伝的感受性を支持するデータが存在すること。
  • エナメル質成熟にはCa²⁺、リン酸、pH、基質分解、細胞間バリア、細胞接着など多くの経路が必要であること。

一方、まだ言えないことも多くあります。

「全身性炎症はMIHと一切無関係である」とは言えません。

「amoxicillinがMIHを起こす」とも言えません。

「低酸素がMIHの主原因である」とも言えません。

「vitamin D不足がMIHの原因である」とも言えません。

「albumin侵入だけですべてのMIHを説明できる」とも言えません。

「一つの遺伝子がMIHを決める」とも言えません。

さらに、「現在のMIH歯髄に炎症があるから、乳幼児期の炎症がMIHを作った」という推論もできません。

原因と結果の時間軸を逆にしてはいけません。

この研究は、明日の臨床をどう変えるのでしょうか

Shieldsらの研究によって、明日からMIHの治療方法が変わるわけではありません。

しかし、患者さんへの説明は少し変わるかもしれません。

MIHの患児を診たとき、「小さいころに高熱が出たからMIHになったのでしょう」「抗菌薬を飲んだからでしょう」「早産だったからでしょう」と、一つの過去の出来事を原因として断定するのは適切ではありません。

病歴聴取に意味がないわけではありません。研究としては、妊娠、出生、乳幼児期の詳細な医療情報は非常に重要です。

しかし個々の患児について、「あなたのMIHの原因はこれです」と特定できる段階にはありません。

臨床で現在できることは、原因探しよりも、早くMIHを認識し、萌出直後からエナメル質を保護し、知覚過敏とう蝕リスクを管理することです。

必要に応じてシーラント、知覚過敏抑制材、レジン系コーティング材などを使用し、修復が必要な歯には適切な修復処置を行います。

重症の第一大臼歯では、長期的な保存の可否だけでなく、抜歯時期や矯正的な歯列変化まで含めて考える必要があります。

病因が完全に分からなくても、早期診断と早期管理はできます。

次に必要なのは「もっと質問票を増やす研究」だけではありません

MIH病因研究を次へ進めるためには、これまでと同じ後ろ向き質問票をさらに増やすだけでは限界があります。

必要なのは、出生前から追跡する大規模出生コホート、詳細な診療記録との連結、薬剤曝露の用量・期間・適応疾患の記録、発熱の温度・持続時間・回数、低酸素の程度と持続時間、栄養・代謝指標、獲得免疫を含む免疫評価、genetics、epigenetics、proteomics、metabolomics、HSPMを利用した早期追跡、標準化されたMIH診断などを組み合わせることです。

Shieldsら自身も、今回の採血時点だけでは時間解像度に限界があり、2歳、3歳など追加時点の測定が重要かもしれないと述べています。

さらに、多様な人種・地域を含む大規模共同研究と、臨床研究と基礎研究との連携が必要だとしています。

形成中のヒト第一大臼歯を生検して研究することは倫理的に困難です。

そのため、幹細胞モデル、organoid、歯胚モデル、動物モデルなどを利用し、低酸素をどの時期にどれだけ加えると何が起こるのか、albuminがどの時期に侵入すると石灰化を妨げるのか、pH調節異常だけでMIH様低石灰化が成立するのか、遺伝的背景によって同じ曝露への反応がどの程度変わるのか、といった時間軸を含む研究が必要になります。

まとめ-MIHの病因は「分からなくなった」のではなく、単純な説明から一段進んだのだと思います

2026年のShieldsらの研究は、MIHの原因を突き止めた研究ではありません。

それでも、病因研究の流れの中では大きな意味があります。

これまで、発熱が多い、肺炎が多い、喘息が多い、感染症が多い、抗菌薬使用が多い、という疫学的関連が繰り返し報告されてきました。

そこから、「病気による全身性炎症がエナメル芽細胞を障害するのではないか」という仮説が生まれました。

Shieldsらは、その中心にある全身性炎症を、出生前から幼児期に採取された血液試料を用いて、MIHとの関連を前向きに直接検討しました。

しかし、hsCRP、GlycA、4歳時の自然免疫系サイトカイン反応とMIHとの間に明確な関連は認められませんでした。

私は、この結果を「MIHの原因がまた分からなくなった」とは考えません。

むしろ、「病気→全身性炎症→MIH」という単線的な説明だけでは足りないことが見えてきた、と捉えるべきではないでしょうか。

過去の「発熱」「肺炎」「喘息」「抗菌薬」とMIHとの関連の裏側には、低酸素があるのかもしれません。栄養・代謝変化があるのかもしれません。局所的な血管透過性変化があるのかもしれません。albuminなどの血清タンパク侵入があるのかもしれません。Ca²⁺輸送、リン酸供給、pH調節が障害されるのかもしれません。

そして、それらに対する耐性を遺伝的・epigeneticな背景が左右しているのかもしれません。

最終的に同じ「MIH」という歯が形成されていても、そこへ至る道が一つである必要はありません。

むしろ、これまで数十年にわたってMIHの原因が一つに決まらなかったこと自体が、MIHという表現型へ複数の発症経路が収束している可能性を示しているのかもしれません。

これから必要なのは、「MIH児では昔どんな病気が多かったか」という問いだけではありません。

どの発育時期に、どの負荷が、どの細胞機構を、どの程度障害すると、MIHエナメル質が成立するのか。

そこまで解明することです。

Shieldsらの2026年研究は、MIH病因研究の「答え」ではありません。

しかし、次に問うべき問題を変えた研究として、今後のMIH病因研究を考えるうえで重要な論文になるのではないかと思います。

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