2026年8月26日

(歯科衛生士さんのある日の日誌)

はじめに
今日のメインテナンスで、患者さんと一緒に前歯の歯ぐきを鏡で確認していたときのことです。
「ここ、前より黒く空いて見えるんです」
患者さんが指さされたのは、下の前歯の歯と歯の間でした。
歯と歯そのものは接触しています。でも、その根元側には小さな三角形の空間ができていて、口の中の暗い部分が透けて黒く見えています。
「フロスをした方がいいですか?」
「歯間ブラシを入れると、もっと歯ぐきが下がりませんか?」
「一番細い歯間ブラシなら大丈夫でしょうか?」
こうした質問は、歯科衛生士をしていると決して珍しいものではありません。
このように、歯と歯の間を満たしている歯肉が接触点まで届かず、黒い三角形の空間として見える状態は、一般に「ブラックトライアングル」と呼ばれます。
ブラックトライアングルがあるからといって、そこに必ず歯間ブラシを使えばよいわけではありません。反対に、「歯ぐきが下がっているから怖い」と歯間清掃そのものを避けてしまうのもおすすめできません。
大切なのは、「ブラックトライアングルを何で磨くか」ではなく、「その歯間の広さと形に何が合っているか」を考えることです。
歯間ブラシが無理なく入る場所なら歯間ブラシが向いていることがあります。一方、歯と歯の間が狭く、歯間ブラシが安全に通らない場所ではフロスが適しています。
さらに同じ人のお口の中でも、「ここはフロス」「ここは細い歯間ブラシ」「奥歯はもう少し太い歯間ブラシ」ということは珍しくありません。
今回は、ブラックトライアングルができた歯間をどう清掃すればよいのか、歯間ブラシとフロスの使い分け、歯間ブラシのサイズの合わせ方、出血したときの考え方、そして「歯間ブラシを使うと隙間が広がるの?」という疑問まで詳しくお話しします。
ブラックトライアングルとは?黒く見えているのは「汚れ」ではありません
ブラックトライアングルという名前を聞くと、「歯と歯の間に黒い汚れが付いているのかな?」と思われるかもしれません。
しかし、多くの場合、黒く見えているもの自体が汚れなのではありません。
本来、隣り合った歯の間には歯間乳頭(しかんにゅうとう)と呼ばれる三角形の歯肉があります。
この歯間乳頭が歯と歯の接触部分付近まで満たされていれば、根元に大きな空間は見えません。
ところが、歯間乳頭の高さが低くなったり、歯の接触点から歯槽骨までの距離が大きくなったりすると、その部分に空間が生じます。その奥にある口腔内の暗い部分が見えるため、正面から見ると黒い三角形のように見えるのです。

「すきっ歯」とブラックトライアングルは同じとは限りません
ここは少し大切です。
ブラックトライアングルが見えていても、歯の上側では隣り合う歯同士が接触していることがあります。
つまり、歯と歯そのものが離れている「歯間離開」と、歯同士の接触は残っているけれど、その下の歯肉側だけが開いているブラックトライアングルは、必ずしも同じ状態ではありません。
この違いは、後ほどお話しする「食べ物が毎回同じ場所に詰まる場合」の判断にも関係します。
ブラックトライアングルには歯間ブラシとフロスのどちらを使う?
今回、いちばんお伝えしたいところです。
答えは、ブラックトライアングルがあるかどうかだけでは決めません。
実際に歯間ブラシが無理なく入るスペースがあるのか、それとも歯と歯の間が狭いのかを見て選びます。
欧州歯周病学会(EFP)のS3レベル臨床ガイドラインでは、解剖学的に使用可能な場合、歯磨きに歯間ブラシを追加することが推奨されています。また、歯周メインテナンス患者ではフロスを歯間清掃の第一選択とはしていません。[2]
ただし、これは「フロスは必要ない」という意味ではありません。
歯間ブラシが無理なく入るスペースには歯間ブラシ、歯間ブラシが入らない狭い場所にはフロス。まずはこの考え方を基本にすると分かりやすいでしょう。
当院でも以前、歯間ブラシとフロスの基本的な使い分けについて解説していますが、ブラックトライアングルがある場合も基本的な考え方は同じです。
歯間ブラシが向いているところ
歯間ブラシが無理なく通り、毛が左右の歯面へ触れられる程度の空間がある場合には、歯間ブラシが使いやすいことがあります。
特に歯周炎によるアタッチメントロスなどで歯間が開いている場合には、細いフロスだけを通すより、歯間ブラシの毛を広い歯面へ接触させやすくなります。
Kigerらの研究では、歯周炎既往患者の隣接面清掃において、フロスより歯間ブラシの方が高いプラーク除去効果を示しました。[3]
一方、Cochraneのシステマティックレビューでは、歯間ブラシやフロスを歯磨きに追加することで歯肉炎やプラークを減らす可能性があり、歯間ブラシがフロスより有利な可能性も示されていますが、全体としてエビデンスの確実性は低~非常に低いと評価されています。[4]
ですから、「ブラックトライアングルなら絶対に歯間ブラシ」「歯間ブラシなら必ずフロスより優れている」と単純化するのではなく、その歯間の形に合う道具を選ぶことが大切です。
歯間ブラシが入らないところにはフロス
前歯の根元にブラックトライアングルが見えていても、その上側の歯と歯の接触部分がとてもきついことがあります。
そこへ歯間ブラシを力で押し込む必要はありません。
フロスなら狭い接触点を通過し、左右それぞれの歯面に沿わせて清掃できます。
フロスの種類や選び方について迷う場合は、デンタルフロスの選び方と使い方も参考にしてください。
同じ歯間で歯間ブラシとフロスを使い分けることもあります
「結局、どちらか一つを選ばないといけないのでしょうか?」
そんなことはありません。
たとえば、接触点付近は狭いためフロスを通し、その下にある根元側の開いた空間は歯間ブラシで清掃する方が使いやすい場合もあります。

奥歯で歯周病が進み、根が分かれる部分まで清掃が必要になった場合には、通常のブラックトライアングルよりさらに形が複雑になります。そのような場合は、根分岐部病変での歯間ブラシとワンタフトブラシの使い分けも参考になります。
歯間ブラシは何サイズ?「一人一サイズ」とは限りません
ここも患者さんからとてもよく質問されます。
「私はSSサイズを使えばいいんですよね?」
私はここで、「○○さんがSSサイズなのではなく、この歯間にはこのサイズ、という考え方なんですよ」とお話しすることがあります。
歯間ブラシは「一人に一サイズ」ではなく、「歯間ごとに選ぶ」というのが大切なポイントです。
前歯には細いものが合い、奥歯にはもう少し太いものが合うことがあります。同じ前歯でも、右側と左側で歯間の広さが違うこともあります。
「入る中で一番太いブラシ」を選べばよいわけではありません
歯間ブラシの目的は、歯間を押し広げることではありません。
ブラシの毛を歯面に接触させ、そこに付着したプラークを機械的に乱して除去することが目的です。
そのため、太いブラシを力で押し込むほどきれいになるわけではありません。
目安は、毛が歯面に触れながら、強く押し込まなくても通り、歯間の中で無理なく動かせることです。
大きすぎるブラシを無理に挿入すれば、歯肉を傷つけたり、ワイヤーが大きく曲がったりすることがあります。反対に細すぎてほとんど毛が歯面へ触れないブラシでは、十分に清掃できないことがあります。

「軽い抵抗があるサイズ」だけでも決めきれません
歯間ブラシのサイズ選択は、意外と奥が深いものです。
2024年に日本歯科衛生学会で報告された顎模型を用いた研究では、歯科衛生士40名が適切と考える歯間ブラシのサイズを選んだところ、全員の選択が完全に一致した歯間部はありませんでした。[6]
さらに、この研究では臨床経験年数が長い歯科衛生士ほど小さいサイズを選ぶ傾向が報告されています。[6]
これは模型を用いた研究であり、「小さい歯間ブラシほどよい」という意味ではありません。
歯間の形に合わせてブラシを少し動かし、左右の歯面へ毛を当てるには、単に「入るかどうか」だけでなく、入れたあとに安全に操作できるかも重要だということです。
同じ「SS」「S」でもメーカーが変われば同じとは限りません
ここも、歯間ブラシを買い替えるときに知っておいていただきたいところです。
市販の歯間ブラシには「SS」「S」「M」などさまざまな表示がありますが、メーカー独自のサイズ名称をまたいで、すべて同じ太さ・通りやすさになるわけではありません。
歯間ブラシには、ISO 16409でPHD(Passage Hole Diameter:通過孔径)を用いたサイズ評価があります。PHDは、その歯間ブラシが大きく変形せずに通過できる孔径を基準にした考え方です。[8][9]
市販製品を調べた研究では、メーカーによってサイズ分類や製品ラインの構成に違いがあり、PHDそのものを表示している製品も限られていました。[8]
そのため、「これまでSを使っていたから、別メーカーでもSなら同じ」とは限りません。
商品を変えたあとに「前より入りにくい」「逆にスカスカする」「歯ぐきが痛くなった」と感じたら、無理に使い続けず、一度サイズを確認してもらうと安心です。
ブラックトライアングルへの歯間ブラシの使い方
サイズが合っていても、使い方が強すぎれば歯肉へ余計な負担をかけることがあります。
力任せに押し込まない
歯間ブラシは、ワイヤーの先端で歯肉を探りながら押し込む道具ではありません。
歯間の入り口を確認し、無理のない方向からゆっくり挿入します。
「空間」ではなく左右の歯面を磨く
ブラックトライアングルの真ん中にブラシを通しただけで満足しないことも大切です。
清掃したいのは空間そのものではなく、その左右にある歯面です。
ブラシの毛が両側の歯面へ触れていることを意識し、小さくやさしく動かします。

強く握りしめてゴシゴシしない
2024年の日本歯科衛生学会の報告では、歯間ブラシを強く把持する人や、刷掃時に高い負荷をかける人ほど、ブラシに加わる力のばらつきも大きくなる傾向が示されました。[7]
これも模型を用いた研究なので、そのまま歯肉退縮の発生率を示した研究ではありません。
ただ、「サイズが合っていれば、どれだけ強く動かしてもよい」というわけではないことは覚えておいてください。
何十回も大きく往復させるより、どの歯面に毛を当てたいのかを意識して、やさしく清掃することが大切です。
フロスは「通しただけ」で終わらせないでください
ブラックトライアングルがある歯間でも、狭いところにはフロスを使います。
ただし、フロスを上から下へ一度通し、そのまま抜くだけでは歯面を十分に清掃できないことがあります。
接触点をゆっくり通したあと、フロスを片側の歯へ沿わせるようにして動かします。そのあと反対側の歯面にも沿わせます。
いわゆるC字状に歯面を包むように使う方法です。
勢いよく接触点を越えて、「パチン」と歯肉へ落とす必要はありません。

歯間が大きく開いている場合には、細いフロスだけでは広い歯面へ十分に接触しにくいことがあります。そのような場所では歯間ブラシと役割を分けます。
「フロスか歯間ブラシか」という二者択一ではなく、どの歯面へ、どの道具なら毛や糸をきちんと当てられるかで考えてみてください。
なぜブラックトライアングルができるのでしょうか?
ブラックトライアングルには一つだけの原因があるわけではありません。
歯周組織の状態、歯を支える骨、歯の形、歯の位置、歯と歯の接触点など、いくつもの要素が関係します。

歯周病によって歯を支える骨が減っている場合
歯間乳頭の下には歯槽骨があります。
歯周炎が進行すると、歯を支える歯槽骨やアタッチメントが失われることがあります。
すると、その上にある歯間乳頭の形態も変化し、ブラックトライアングルが目立つようになることがあります。
ブラックトライアングルを「歯ぐきだけの問題」と考えない方がよい理由の一つです。
歯周病そのものについては、歯周病について詳しく解説したコラムも参考にしてください。
歯石取りや歯周病治療のあとに隙間が目立つ場合
「歯石を取ったら歯と歯の隙間が広がった」と感じる患者さんもいらっしゃいます。
歯肉に炎症があると、赤く腫れて歯間部がふっくらして見えることがあります。
歯石除去やプラークコントロールによって炎症が改善すると、その腫れが引き、歯肉が引き締まります。
その結果、それまで腫れた歯肉によって見えにくかった歯間部の空間が目立つことがあります。
つまり、すべてを「歯石取りで健康な歯ぐきを削ってしまった」と考える必要はありません。
一方、歯周病による骨やアタッチメントの喪失が大きい場合には、炎症が改善しても以前と同じ歯間乳頭の高さまで戻らないこともあります。
歯石取り後の変化については、歯石取り後に歯がしみる理由とクリーニング後の変化でも解説しています。
矯正治療後にブラックトライアングルが見える場合
成人の矯正治療後に、前歯の根元のブラックトライアングルが気になることもあります。
歯が重なっていた状態から整列することで、それまで見えにくかった歯間部が見えるようになることがあります。
また、歯の形、歯根の方向、接触点の位置、歯周組織の状態などによっても見え方は変わります。
ですから、「矯正をするとブラックトライアングルになる」という単純な話ではありません。
歯の形によってもできやすさが違います
前歯をよく見ると、すべての人の歯が同じ形をしているわけではありません。
比較的長方形に近い歯もあれば、歯の先端側が広く、歯肉側へ向かって細くなる三角形・台形に近い歯もあります。
歯肉側へ向かって細くなる歯では、隣の歯との接触部分が切縁側に位置しやすく、その下の空間が大きく見えることがあります。
つまりブラックトライアングルは、磨き残しだけで決まるものではありません。
歯間乳頭と「5mm・6mm・7mm」の有名な研究
ブラックトライアングルを考えるときによく引用される研究があります。
Tarnowらが1992年に報告した研究では、歯と歯の接触点から歯槽骨頂までの距離と、歯間乳頭がその空間を満たしている割合が調べられました。[1]
接触点から歯槽骨頂までの距離が5mm以下では歯間乳頭がほぼ100%存在し、6mmでは56%、7mm以上では27%以下だったと報告されています。[1]

この数字を見ると、「では5mm以内なら必ず歯ぐきが戻るのですか?」と思われるかもしれません。
そういう意味ではありません。
この研究は、接触点と骨頂の距離と歯間乳頭の存在との関連を示した古典的な研究です。
実際のブラックトライアングルには、歯冠形態、歯間距離、歯根の位置、歯肉の厚さ、歯周炎の程度などさまざまな要素が関係します。
5mmという数字を「治療すれば必ず閉じる境界線」と考えるのではなく、歯間乳頭の形には、その下にある歯槽骨や歯との位置関係も関係していると理解するための一つの目安として考えてください。
「歯間ブラシを使うとブラックトライアングルが広がる」は本当?
これも、とてもよく聞かれる質問です。
「歯間ブラシを毎日入れていたら、ブラシで歯ぐきを押して、もっと隙間が広がるのでは?」という不安です。
適切なサイズの歯間ブラシを歯面清掃のために正しく使用することと、太すぎるブラシを歯肉へ力で押し込むことは分けて考える必要があります。
歯周病治療後などでは、炎症による腫れが改善して歯肉が引き締まった結果、それまで見えにくかったブラックトライアングルが目立つことがあります。
これは「歯間ブラシで健康な歯肉を削り取った」という話とは異なります。
ただし、だからといってどんなサイズでも押し込んでよいわけではありません。
大きすぎる歯間ブラシ、誤った挿入方向、強すぎる往復運動などは、歯肉への機械的な外傷につながる可能性があります。
「歯ぐきを刺激すれば歯間乳頭が育つだろう」と考えて、大きな歯間ブラシで強く刺激することもおすすめしません。
ブラックトライアングルを埋めるために歯間ブラシを使うのではなく、ブラックトライアングルがある歯間の歯面を清潔に保つために使うと考えてください。
歯間ブラシで血が出たら使用をやめる?
「歯間ブラシを入れると血が出るので、怖くてやめました」という方もいらっしゃいます。
ここで大切なのは、出血=ブラシが太すぎる、とは限らないことです。
歯肉炎や歯周炎がある場所では、歯肉に炎症があるため、軽い刺激でも出血することがあります。
一方で、歯間ブラシのワイヤーを歯肉へ突き刺してしまったり、大きすぎるブラシを無理に押し込んだりすれば、機械的な外傷でも出血します。
つまり出血を見たときには、「炎症があるのか」「道具や使い方による外傷なのか」「両方なのか」を分けて考える必要があります。
同じ歯間から繰り返し出血する、腫れている、膿が出る、痛む、口臭が気になる、歯が動くといった変化がある場合には、一度歯科医院で確認してください。
特に「いつも同じ場所」が気になる場合には、フロスを抜いたときに同じ歯間が臭う場合の確認ポイントも参考になると思います。
ブラックトライアングルに食べ物が詰まるときは、磨き方だけの問題ではないことがあります
ブラックトライアングルがあると、歯と歯の根元側へ食べ物が入りやすくなることがあります。
ただ、ここでも少し分けて考える必要があります。
根元の開いたスペースへ食物が入り込むことと、噛むたびに食べ物が上から歯と歯の間へ強く押し込まれることは同じではありません。
後者では、隣り合う歯の接触関係、詰め物や被せ物の形、歯の移動などを確認した方がよい場合があります。
- 以前はフロスを通すと抵抗があったのに、最近はスカスカ通る
- 被せ物や詰め物を入れてから毎回食べ物が挟まる
- 肉や繊維質の食べ物が、噛むたびに同じ場所へ押し込まれる
- 食べ物が入る場所の歯ぐきだけ痛い・腫れる
こうした変化があれば、単純に歯間ブラシを太くする前に歯科医院でその場所を確認した方がよいでしょう。
清掃方法をいくら工夫しても、食べ物が押し込まれる原因そのものが残っているケースがあるからです。
歯肉退縮で根元が見えている場合は「根面う蝕」にも注意
ブラックトライアングルが大きい人の中には、歯間乳頭だけでなく歯肉そのものが下がり、歯の根元の面が口の中に露出している方もいます。
そのような場合は、歯周病だけでなく根面う蝕(歯の根元にできる虫歯)にも注意が必要です。
歯肉退縮によって根面が口腔内へ露出すると、知覚過敏や根面う蝕、非う蝕性歯頸部病変などが問題になることがあります。[10]
ブラックトライアングルの清掃では、歯間ブラシやフロスでプラークを残しにくくすることに加え、毎日の歯磨きでは年齢に適したフッ化物配合歯磨剤を使用することも大切です。
「根元がしみる」「白っぽい・茶色っぽい変化が出てきた」「表面の形が変わってきた」と感じる場合は、歯科医院で確認してもらいましょう。
ブラックトライアングルは歯間ブラシやフロスで治る?
歯間ブラシやフロスは、とても大切なセルフケア用品です。
ただし、その目的はブラックトライアングルそのものを閉じることではありません。
歯と歯の間に残るプラークを除去し、歯肉の炎症を抑え、残っている歯周組織を守るために使います。
ブラックトライアングルの原因が歯周炎による骨の喪失にあるのか、歯の形なのか、歯の位置なのか、接触点なのかによって、改善の方法は変わります。
場合によっては歯周治療、矯正治療、修復治療、歯周形成外科などが検討されることもあります。
一方で、どのような方法でもすべてのブラックトライアングルを完全に閉鎖できるとは限りません。
特に大切なのは、「見た目のブラックトライアングルを改善したい」という相談と、「この歯間を健康に保つにはどう清掃すればよいか」という相談を分けることです。
セルフケア用品だけで歯肉の形を無理に変えようとしないでください。
ブラックトライアングルの歯間清掃は1日何回?
歯間ブラシやフロスによる歯間清掃は、まず1日1回を目安に毎日の習慣へ組み込むとよいでしょう。
EFPの患者向け情報でも、歯と歯の間を少なくとも1日1回清掃し、歯間ブラシが入る場所には歯間ブラシ、入らない狭い場所にはフロスを使うことが案内されています。[11]
出血するからといって、自己判断で1日に何度も強く清掃する必要はありません。
回数を増やすことより、毎日、その場所に合った器具を適切な力で使うことを大切にしてください。
フロス・歯間ブラシは歯磨きの前?後?
歯間清掃をいつ行うかについても研究があります。
Mazhariらのランダム化比較試験では、フロスを先に行ってから歯磨きをした方が、歯磨き後にフロスを行う場合よりも歯間プラークの減少と歯間部のフッ化物保持で良好な結果が得られました。[5]
そのため、フロスや歯間ブラシで歯間清掃を行い、そのあとフッ化物配合歯磨剤を使って歯を磨くという順番は一つの方法です。
詳しくは、デンタルフロスは歯磨きの前と後のどちらで使うのかについてのコラムも参考にしてください。
ただし、順番ばかりを気にして歯間清掃そのものを続けられなくなるより、まず毎日の習慣として無理なく継続することも大切です。
歯間ブラシは一度サイズを決めたら一生同じ、ではありません
今日の患者さんにも、実際に何種類かの歯間ブラシを確認してもらいました。
ある歯間には細いものがちょうどよく入りました。
一つ隣では、そのサイズでは毛がほとんど歯面へ当たらず、もう一段階違うサイズの方が使いやすそうでした。
さらに別の場所は、歯間ブラシを入れずフロスで清掃した方が安全でした。
このように、歯間ブラシは「一人に一サイズ」ではなく「歯間ごとに考える」というのがポイントです。
さらに歯周病治療によって炎症が改善したり、矯正治療で歯の位置が変化したり、詰め物や被せ物が変わったりすれば、歯間の形も変化することがあります。
以前ちょうどよかったサイズが、今も必ず最適とは限りません。
ご自宅で使っている歯間ブラシがあれば、メインテナンスのときに実物を持ってきていただいても構いません。
「このブラシを使っています」と見せていただければ、実際のお口の中でどの場所に使っているのか、サイズや入れる方向が合っているのかを一緒に確認できます。
ブラックトライアングルが気になるとき、歯科医院では何を見るの?
ブラックトライアングルを見たとき、私たちが確認するのは「隙間の大きさ」だけではありません。
- 周囲にプラークが残っていないか
- 歯肉から出血していないか
- 歯周ポケットが深くなっていないか
- 歯肉退縮が進んでいないか
- 歯を支える骨の状態に問題がないか
- 歯が動いていないか
- 詰め物や被せ物の形に問題がないか
- 歯と歯の接触点が失われていないか
- 食片圧入が起きていないか
- 露出した根面に知覚過敏や虫歯がないか
そして歯間ブラシを使う場合には、「どのサイズが入るか」だけではなく、「どの方向から入れるか」「毛がどの歯面へ当たっているか」「患者さん自身が自宅で無理なく再現できるか」まで確認します。
道具を渡して終わりではありません。
自宅で実際に続けられる清掃方法にすることが大切です。
ブラックトライアングルについてよくある質問
ブラックトライアングルには歯間ブラシとフロスのどちらがいいですか?
歯間ブラシが無理なく入る空間がある場合には歯間ブラシが向いています。歯間ブラシが入らない狭い場所にはフロスを使います。接触点はフロス、根元側の広い部分は歯間ブラシというように、同じ歯間で両方を使い分ける場合もあります。
ブラックトライアングルには一番細い歯間ブラシを使えば安全ですか?
必ずしもそうではありません。細すぎて毛が歯面へ十分接触しなければ、効率よく清掃できないことがあります。反対に、太すぎて強く押し込まなければ入らないブラシも適切ではありません。その歯間に合わせてサイズを選びます。
同じSサイズならメーカーが違っても同じですか?
必ずしも同じではありません。メーカー独自の「SS」「S」「M」といった表示は、別メーカーの製品と完全に同じ太さ・通りやすさを意味するものではありません。商品を変更したときは、今までと同じ表示だけで決めず、実際の使用感も確認しましょう。
歯間ブラシを使うと歯ぐきが下がりますか?
適切なサイズを正しく使用することと、大きすぎるブラシを歯肉へ強く押し込むことは別です。歯周病治療後には、炎症による腫れが改善して、それまで隠れていた隙間が見えることもあります。強い痛みや繰り返す外傷がある場合には、サイズと使い方を確認しましょう。
歯間ブラシで血が出たらやめた方がいいですか?
出血には歯肉の炎症によるものと、機械的な外傷によるものがあります。毎回同じ場所から出血する、腫れ・膿・痛み・歯の動揺などを伴う場合には歯科医院で確認してください。
ブラックトライアングルは歯間ブラシで治りますか?
歯間ブラシはブラックトライアングルを閉じるための道具ではありません。プラークを除去し、残っている歯周組織を健康に保つことが目的です。ブラックトライアングルそのものの改善方法は、原因や歯周組織の状態によって異なります。
ブラックトライアングルの歯間清掃は毎日した方がいいですか?
基本的には1日1回を目安に、歯間の状態に合った歯間ブラシやフロスで清掃する習慣をつけるとよいでしょう。回数を増やして強く磨くことより、適切な器具を毎日やさしく使うことが大切です。
歯石取りのあとブラックトライアングルが目立つのはなぜですか?
歯周病などで腫れていた歯肉の炎症が改善すると、歯肉が引き締まり、それまで腫れによって見えにくかった歯間の空間が見えることがあります。すべてが「歯石取りで歯ぐきが削られた」という意味ではありません。
まとめ|ブラックトライアングルは「隙間の形」に合わせて磨きましょう
ブラックトライアングルがある歯間を見つけると、「何かで埋めた方がいいのかな」「歯間ブラシを使うともっと広がるのかな」と不安になるかもしれません。
でも、毎日のセルフケアで最初に考えていただきたいのは、ブラックトライアングルを閉じることではなく、その場所を清潔に保つことです。
歯間ブラシが無理なく入る歯間なら、歯間ブラシの毛を歯面へ当てて清掃します。
狭くて歯間ブラシが入らないところなら、フロスを歯面へ沿わせます。
必要であれば、同じ歯間でも両方を使います。
そして歯間ブラシは、「私はSSサイズ」ではなく、「この歯間にはこのサイズ」と考えてください。
一度決めたサイズがずっと変わらないとも限りません。歯周治療、矯正治療、加齢による変化、詰め物や被せ物の変更などによって歯間の状態が変われば、適切な清掃方法も変化することがあります。
ブランデンタルクリニックでは、歯周ポケットや出血、歯肉退縮、歯間の広さ、歯面の形などを確認しながら、歯間ブラシやフロスの使い方も一緒に確認しています。
広島市中区立町、立町駅から徒歩1分の立町中央ビル4階にあり、エレベーターでお越しいただけます。
「ブラックトライアングルが急に大きくなった」「同じ場所から出血する」「歯が動く」「腫れや痛みがある」「急に食べ物が詰まるようになった」といった場合には、清掃用品だけで様子を見るのではなく一度ご相談ください。
急な症状については当日電話受付も行っており、診療状況を確認しながら急患の同日受診にも対応しています。
今日お話しした患者さんにも最後に、
「一番太いブラシを探す必要はないんですね」
と言っていただけました。
そうなんです。
歯間ブラシもフロスも、大きさや種類を競う道具ではありません。
今ある歯と歯ぐきを傷つけず、きれいに保つために、その場所に合ったものを選ぶ。
それが一番大切です。
参考文献
- Tarnow DP, Magner AW, Fletcher P. The effect of the distance from the contact point to the crest of bone on the presence or absence of the interproximal dental papilla. J Periodontol. 1992;63(12):995-996.
- Sanz M, Herrera D, Kebschull M, et al. Treatment of stage I–III periodontitis—The EFP S3 level clinical practice guideline. J Clin Periodontol. 2020;47(Suppl 22):4-60.
- Kiger RD, Nylund K, Feller RP. A comparison of proximal plaque removal using floss and interdental brushes. J Clin Periodontol. 1991;18(9):681-684.
- Worthington HV, MacDonald L, Poklepovic Pericic T, Sambunjak D, Johnson TM, Imai P, Clarkson JE. Home use of interdental cleaning devices, in addition to toothbrushing, for preventing and controlling periodontal diseases and dental caries. Cochrane Database Syst Rev. 2019;4:CD012018. doi:10.1002/14651858.CD012018.pub2.
- Mazhari F, Boskabady M, Moeintaghavi A, Habibi A. The effect of toothbrushing and flossing sequence on interdental plaque reduction and fluoride retention: A randomized controlled clinical trial. J Periodontol. 2018;89(7):824-832.
- 嵐聖芽、宮崎晶子、長谷川優ほか.歯間ブラシの適正サイズに関する研究 第1報 顎模型への挿入サイズとアンケート.日本歯科衛生学会雑誌.2024;19(1):122.
- 宮崎晶子、長谷川優、土田智子ほか.歯間ブラシの適正サイズに関する研究 第2報 歯間ブラシのブラシ圧と測定方法の検討.日本歯科衛生学会雑誌.2024;19(1):123.
- Sekundo C, Staehle HJ. Mapping the Product Range of Interdental Brushes: Sizes, Shapes, and Forces. Oral Health Prev Dent. 2020;18(2):343-354. doi:10.3290/j.ohpd.a44035.
- Sekundo C, Ottensmeier F, Rues S, Staehle HJ, Pujades M, Frese C. Creation of a Systematic Interdental Brush Set Based on the Passage Hole Diameter (PHD)—An In-Vitro Study. Oral Health Prev Dent. 2024;22:409-416. doi:10.3290/j.ohpd.b5683229.
- Cortellini P, Bissada NF. Mucogingival conditions in the natural dentition: Narrative review, case definitions, and diagnostic considerations. J Periodontol. 2018;89 Suppl 1:S204-S213.
- European Federation of Periodontology. Patient information on periodontitis and interdental cleaning. European Federation of Periodontology.
