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根分岐部病変のある奥歯はどう磨く?歯間ブラシとワンタフトブラシの使い分けと清掃方法

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2026年8月01日

根分岐部病変のある奥歯はどう磨く?歯間ブラシとワンタフトブラシの使い分けと清掃方法

(歯科衛生士さんのある日の日誌)

はじめに

「歯と歯の間ではない場所にも、歯間ブラシを使うのですか?」

今日の歯周病継続支援治療では、歯周病の治療後も定期的に通院されている患者さんと、右下の奥歯の磨き方を確認しました。

歯ブラシも歯間ブラシも毎日使っておられ、お口の中は全体的によく管理されています。

ただ、右下の大臼歯だけは、根が分かれている部分に少しプラークが残り、歯周検査をすると出血が認められました。

そこで鏡を一緒に見ながら、

「この奥歯は、歯と歯の間だけでなく、根と根の間にも歯間ブラシを使う場所があります」

とお伝えしました。

すると患者さんから、

「歯と歯の間とは別の場所ですか?」

「歯間ブラシは、反対側へ抜けるまで押した方がよいのでしょうか?」

「ワンタフトブラシも使っていますが、どちらを使えばよいですか?」

と質問がありました。

根分岐部病変のある奥歯は、通常の歯間部とは形が異なります。

歯間ブラシが入るからといって、どこへでも挿入してよいわけではありません。また、ワンタフトブラシと歯間ブラシのどちらか一方だけを選べばよいわけでもありません。

今回は、根分岐部病変のある奥歯について、歯間ブラシとワンタフトブラシをどこへ、どのように使い分けるのかをお話しします。

根分岐部病変は、普通の「歯と歯の間」とは違います

前歯の多くには1本の歯根がありますが、奥歯の大臼歯には複数の歯根があります。

一般的に、下顎大臼歯は近心根と遠心根の2根、上顎大臼歯は近心頬側根・遠心頬側根・口蓋根の3根です。ただし、実際の歯根数や形には個人差があります。

歯冠から歯根へ移り、複数の根が分かれ始める部分を「根分岐部」と呼びます。

歯周病によって歯を支える骨や歯周組織が失われ、その影響が根と根の間まで及んだ状態が「根分岐部病変」です。

根分岐部は、単純なトンネルではありません。

入口が狭く、奥で空間が広がっていることがあります。歯根面には縦方向のくぼみや凹凸があり、根の分かれ方や入口の位置も歯によって異なります。

そのため、患者さんが使う歯ブラシだけでなく、歯科医院で歯石やバイオフィルムを除去する器具であっても、根分岐部のすべてへ届かせることが難しい場合があります。日本歯周病学会のガイドラインでも、根分岐部病変は複雑な解剖学的形態を持ち、治療後に患者さん自身が清掃できるかどうかまで考える必要がある部位として扱われています。 

つまり、根分岐部病変のある奥歯は、

「奥歯だから、いつもより長く磨けばよい」

というだけでは不十分です。

その歯のどこに入口があり、どの方向から、どの清掃用具を使えばよいのかを確認したうえで、磨き方を組み立てる必要があります。

根分岐部病変があっても、すぐに抜歯が決まるわけではありません

根分岐部病変は、奥歯の将来を考えるうえで重要な所見です。

病変のない歯よりもプラークが残りやすく、炎症を繰り返したり、将来的に歯を失ったりする危険性は高くなります。

しかし、

「根分岐部病変があるから、もう残せない」

と直ちに決まるわけではありません。

2025年に報告された後ろ向き研究では、Ⅱ度の根分岐部病変を有する543歯が、歯周治療後に平均約9年間追跡されました。そのうち83%は追跡時まで保存されていました。一方、一つの歯に複数方向のⅡ度病変が残っていることや、歯周病の継続管理が不規則であることなどは、長期予後を悪くする要因として示されています。 

さらに、Ⅲ度の根分岐部病変を有する265歯を追跡した別の研究では、平均約9年間に37%が失われた一方、約63%は追跡時まで保存されていました。これは、重い根分岐部病変であっても必ず抜歯になるわけではない一方、慎重な治療と継続管理が必要であることを示しています。 

これらは、歯周治療を受け、歯科医院で継続管理されていた患者さんを調べた研究です。根分岐部病変のあるすべての歯が同じ割合で残るという意味ではありません。

実際の判断では、

  • どの程度の骨支持が残っているか
  • 歯周ポケットの深さ
  • 出血や排膿の有無
  • 歯の動揺
  • 噛み合わせ
  • 根管治療や被せ物の状態
  • 患者さん自身が清掃できる形か

などを総合的に確認します。

保存する方針になった歯では、歯周治療だけでなく、その後のセルフケアと歯周病継続支援治療が重要になります。

歯間ブラシとワンタフトブラシは、担当する場所が違います

根分岐部病変のある奥歯では、歯間ブラシとワンタフトブラシの役割を分けて考えると分かりやすくなります。

歯間ブラシは「根の間へ毛を届ける」道具です

歯科医師や歯科衛生士が使用可能と判断した根分岐部では、歯間ブラシを使えることがあります。

目的は、中央のワイヤーを奥まで通すことではありません。

歯間ブラシの毛を根の間へ届け、左右の歯根面や、その表面にあるくぼみへ接触させて、付着したプラークを崩すことが目的です。

歯間ブラシを使用する可能性があるのは、たとえば次のような場所です。

  • 口の中へ開いている根分岐部の入口
  • 根の間へ途中まで清掃用具が入る場所
  • トンネル状に反対側まで通じている場所
  • 歯周治療後に歯肉が引き締まり、清掃可能になった根面間

ただし、歯肉に覆われている場所へ、患者さんが自己判断でワイヤーを押し込むことは避けなければなりません。

ワンタフトブラシは「入口と周囲へ毛先を当てる」道具です

ワンタフトブラシは、通常の歯ブラシよりも毛束が小さく、狙った歯面へ毛先を置きやすい清掃用具です。

根分岐部病変のある奥歯では、主に次のような場所を担当します。

  • 根分岐部入口の上側や下側
  • 根が分かれる手前のくぼみ
  • 歯と歯肉の境目
  • 下顎大臼歯の舌側
  • 上顎大臼歯の頬側や、近心・遠心の口蓋寄り
  • 一番奥の歯の後ろ側
  • 被せ物の縁や段差

ワンタフトブラシを根分岐部の深い内部へ突き刺すのではありません。

入口の縁や周囲の歯根面へ毛先を置き、小さく動かしてプラークを取り除きます。

ワンタフトブラシを通常の歯ブラシと比較した研究では、上顎大臼歯の頬側や、下顎大臼歯舌側の歯間寄りなど、一部の届きにくい部位で高いプラーク除去効果が認められました。ただし、これは根分岐部病変そのものを対象とした研究ではなく、すべての部位でワンタフトブラシが優れていたわけでもありません。根分岐部では、入口周囲を仕上げる補助用具として考えます。 

覚え方としては、

歯間ブラシは「根の間へ毛を届ける」
ワンタフトブラシは「入口と周囲へ毛先を当てる」

と考えるとよいでしょう。

どちらか一方だけを選ぶのではなく、届く場所を分担させます。

デンタルフロスで根分岐部を清掃できますか?

デンタルフロスは、歯と歯が接している狭い部分を通り、歯の隣接面へ沿わせてプラークを取り除く道具です。

一方、根分岐部は根と根の間に広がる立体的な空間で、複数の歯根面やくぼみがあります。

細いフロスだけでは、根分岐部内部の歯根面へ広く接触させることは困難です。歯間ブラシが無理なく入る形であれば、毛を広く歯根面へ当てる方が清掃しやすくなります。

歯周炎患者さんの歯間清掃では、歯間ブラシを安全に挿入できる場合は歯間ブラシが第一選択となり、空間が狭く歯間ブラシを挿入できない場所では、フロスが選択肢になります。どの清掃用具でも、歯肉を傷つけないよう専門的な指導を受けることが重要です。 

つまり、

  • 狭い歯間部にはデンタルフロス
  • 歯間ブラシが入る歯間部や根分岐部には歯間ブラシ
  • 根分岐部入口や周囲にはワンタフトブラシ

というように、場所によって使い分けます。

根の間を歯間ブラシで磨くことには意味があるのでしょうか

根分岐部の内部へ歯間ブラシを使う効果を直接調べた研究は、まだ多くありません。

ただし、下顎大臼歯頬側のⅡ度根分岐部病変を対象にした、小規模な臨床試験があります。

この研究では、歯周治療後の患者20人、22部位について、通常のセルフケアを続けるグループと、根分岐部へ歯間ブラシを追加するグループを比較しました。

歯間ブラシを使うグループでは、歯科医療者と一緒に鏡を見ながら挿入場所と方向を練習し、就寝前に1日1回使用しました。

4週間後、ポケットの深さやアタッチメントレベルには明確な差がありませんでしたが、根分岐部周囲の歯肉炎や出血を示す指標は改善しました。 

ここで注意したいのは、歯間ブラシを使ったからといって、短期間で失われた骨が戻ったり、根分岐部病変そのものが消えたりしたわけではないことです。

歯間ブラシの役割は、毎日形成されるプラークを減らし、炎症を抑えやすい状態へ近づけることです。

また、この研究は下顎大臼歯頬側のⅡ度病変だけを調べた、20人・4週間の小規模な研究です。

そのため、

「根分岐部病変があれば、全員が同じサイズの歯間ブラシを使う」

「決められた回数だけ往復させればよい」

と一律に考えることはできません。

患者さんごと、歯ごとに、入口の位置や病変の形、歯肉の状態を確認する必要があります。

最初に確認するのは、ブラシの種類より「入口・方向・サイズ」です

根分岐部病変の清掃で最も大切なのは、特殊な清掃用具を購入することではありません。

まず、その歯のどこを清掃するのかを明確にすることです。

根分岐部の入口は小さく、患者さんが鏡を見ても、通常の歯間部や歯肉のくぼみと区別しにくいことがあります。

歯科医院では、歯周ポケット検査、根分岐部の水平的な広がり、歯肉の位置、エックス線写真、被せ物の形などを確認します。

そのうえで、実際に患者さん自身にブラシを持ってもらい、次の点を一緒に確認します。

  • どの歯を清掃するのか
  • 頬側・舌側・口蓋側のどこから入れるのか
  • ブラシの柄をどちらへ向けるのか
  • どの製品の、どのサイズを使うのか
  • どこまで入ったら止めるのか

「右下の奥歯に使ってください」だけでは、毎日同じ場所へブラシを入れるのは難しいと思います。

私たち歯科衛生士は、

「右下の一番奥から2番目の歯を、頬側のくぼみから少し後ろ向きに入れます」

というところまで、できるだけ具体的にお伝えします。

下の奥歯は、頬側と舌側を別々に考えます

下顎大臼歯には、一般的に頬側と舌側に根分岐部の入口があります。

頬側から歯間ブラシを入れたからといって、舌側まで自動的にきれいになるとは限りません。

途中で行き止まりになる根分岐部病変では、頬側から入る空間と舌側から入る空間がつながっていないことがあります。

また、反対側まで通じている病変であっても、歯根面にはくぼみがあります。一方向から一度通り抜けただけでは、反対側寄りの歯根面へ十分に毛が触れないこともあります。

頬側から清掃するとき

頬を軽く引き、鏡で入口を確認します。

歯間ブラシは、歯の側面へ必ず直角に入れるとは限りません。根分岐部の向きや歯の傾きによって、少し前方または後方へ傾ける場合があります。

ワイヤーの先端を歯肉へ向けず、教わった入口の方向とおおむね平行になるように合わせます。

舌側から清掃するとき

舌側は舌が触れ、唾液もたまりやすいため、頬側より操作が難しくなります。

鏡で見えにくい方は、最初にワンタフトブラシで入口周囲へ毛先を置き、清掃する場所を確認する方法もあります。

そのうえで、歯間ブラシを使うよう説明された場所だけに、指定された角度から挿入します。

頬側と舌側で、異なるサイズの歯間ブラシが必要になる場合もあります。

上の奥歯は入口が複雑です

上顎大臼歯は一般的に3根で、根分岐部の入口も下顎大臼歯より複雑です。

入口は頬側だけでなく、近心側と遠心側にもあります。近心・遠心の入口は口蓋寄りに位置するため、隣の歯や歯列の形が邪魔になり、患者さんが鏡で確認するのは簡単ではありません。

上の奥歯では、

  • 柄の長いL字型歯間ブラシ
  • ネックに角度のある歯間ブラシ
  • ヘッドの小さいワンタフトブラシ

などが使いやすい場合があります。

ただし、見えない場所へ、

「たぶん、この辺だろう」

とワイヤーを押し込むことは避けてください。

ブラシが止まったとき、それが根分岐部の入口なのか、歯肉なのか、隣の歯や被せ物の段差なのかを、患者さん自身で判断するのは難しいことがあります。

上顎大臼歯では特に、歯科医師または歯科衛生士から示された入口と方向を確認してから清掃することが大切です。

病変の形によって、歯間ブラシを使える範囲が違います

根分岐部病変は、専用の器具が水平方向へどの程度入るかなどによって分類されます。

ただし、患者さんのセルフケアでは、分類名だけで使う道具を決められるわけではありません。

同じⅡ度の病変でも、歯肉に覆われていて患者さんが入口を確認できない場合と、歯肉退縮によって入口が口の中へ開いている場合があります。

セルフケアの視点では、「どこまで清掃用具が安全に届く形なのか」を理解することが大切です。

入口が浅い、または歯肉に覆われている場合

根分岐部へ骨吸収が及んでいても、歯間ブラシを入れる空間が口の中へ開いていないことがあります。

このような場所では、歯間ブラシを歯肉の中へ押し込みません。

通常の歯ブラシやワンタフトブラシで、根分岐部入口付近の歯肉縁と歯面を清掃します。

途中で行き止まりになる袋状の病変

入口から根の間へ歯間ブラシが入っても、反対側までは通じていない形です。

この場合、ブラシが途中で止まるのは、必ずしもサイズが大きすぎるからではありません。

病変自体が袋状になっているため、奥には歯根や歯周組織が残っています。軽い力で入る範囲まで進めたら、そこで止めます。

反対側まで通じている病変

根の間がトンネル状に通じている場合は、歯間ブラシで内部を清掃できることがあります。

ただし、毎回必ず一方向から反対側まで押し抜く必要はありません。

頬側と舌側、または頬側と口蓋側から分けて清掃した方が、それぞれの歯根面へ毛を当てやすい場合もあります。

歯周外科や再生療法の直後は、普段の清掃方法を休むことがあります

歯周外科や歯周組織再生療法を受けた直後は、治療した部分へ歯間ブラシやワンタフトブラシを当てない期間を設けることがあります。

清掃を再開する時期や、最初に使用する歯ブラシは、手術内容や治癒状態によって異なります。

以前使用していた歯間ブラシを自己判断で再開せず、歯科医師または歯科衛生士から説明された時期と方法を守ってください。

詳しくは、歯周外科後の歯磨きはいつから?「触らない時期」から歯ブラシ・歯間ブラシを戻す順番⁠でも解説しています。

歯間ブラシは「奥まで通す」より「毛を根面へ当てる」ことが大切です

根分岐部へ歯間ブラシを使うときは、次の流れを基本にします。

実際の挿入方向や動かし方については、歯科医院で説明された方法を優先してください。

  1. 鏡で、指定された歯と入口を確認する
  2. ブラシをペンのように軽く持つ
  3. ワイヤーを根分岐部入口の方向へ合わせる
  4. 押し込まず、軽い力で入るところまで進める
  5. 毛が根面へ触れた状態で、短く数回動かす
  6. 入れた方向と同じ方向へ静かに戻す
  7. 使用後に毛とワイヤーの変形を確認する

根分岐部内で、大きく勢いよく往復させる必要はありません。

狭い範囲をゆっくり動かし、毛を歯根面へ接触させます。

握る力が強くなると、ブラシ先端の細かな方向を調整しにくくなります。ブラシの根元に近い部分を持ち、ペンを持つような軽い握り方を意識します。

力を加えなければ入らないときは、押す力を増やすのではなく、いったん止めましょう。

サイズが大きすぎる、角度が合っていない、ブラシが変形している、被せ物へ引っかかっているなどの可能性があります。

ワンタフトブラシは、毛先が開きすぎない力で使います

ワンタフトブラシは毛束が小さいため、細かい場所へ強く押し込めそうに見えます。

しかし、強く押しつけると毛先が外側へ開き、狙った歯面へ毛先を残しにくくなります。歯肉を繰り返しこすり、傷をつくることもあります。

根分岐部入口へ使用するときは、毛束を歯面へ軽く置きます。

毛先が歯面に沿って少し曲がる程度の力にとどめ、数ミリの範囲で小さく動かします。

入口の中央だけをこするのではなく、

  • 入口の上側
  • 入口の下側
  • 頬側や舌側へ続く歯肉縁
  • 被せ物の縁

を分けて清掃します。

大きな円を描くよりも、狙った場所へ毛先を置いたまま、小刻みに動かす方が清掃しやすくなります。

根分岐部の清掃は、1日1回を目安に続けます

根分岐部へ使う歯間ブラシは、多くの場合、1日1回を目安にします。

就寝前など、鏡を見ながら落ち着いて清掃できる時間へ組み込むと続けやすくなります。

ただし、炎症の程度、知覚過敏、手指の動かしやすさ、歯周外科後の状態などによって、使用頻度を個別に調整することがあります。

出血や腫れがあるからといって、自己判断で1日に何度も強く往復させる必要はありません。

回数を増やすよりも、正しい入口から、適切な力で毛を歯根面へ接触させることが大切です。

清掃は、毎日続けやすい順番へ組み込みます

口腔清掃の順番に、すべての人に共通する絶対的な決まりがあるわけではありません。

大切なのは、通常の歯ブラシ、歯間清掃、根分岐部清掃を忘れずに行える順番を決めることです。

たとえば、次のような流れがあります。

  1. 通常の歯ブラシで歯列全体を磨く
  2. ワンタフトブラシで奥歯の後方や根分岐部入口を清掃する
  3. 歯間ブラシで通常の歯間部を清掃する
  4. 最後に、指定された根分岐部へ歯間ブラシを使う
  5. 歯磨剤を軽く吐き出し、何度もすすぎすぎない

歯間ブラシを先に使った方が忘れにくい方は、歯間清掃から始めても構いません。

根分岐部だけに時間をかけすぎて、ほかの歯の清掃がおろそかにならないよう、口全体の清掃の中へ組み込みましょう。

根分岐部用の歯間ブラシは、通常の歯間部と同じサイズとは限りません

歯間ブラシのサイズは、

「私はSサイズ」

というように、口の中すべてを一つのサイズで統一するものではありません。

同じ奥歯でも、

  • 歯と歯の間
  • 頬側の根分岐部
  • 舌側の根分岐部
  • 近心・遠心の根分岐部

で、適するサイズが異なる場合があります。

小さすぎる歯間ブラシ

小さすぎる歯間ブラシは、抵抗なく入るため使いやすく感じます。

しかし、中央のワイヤーが通るだけで、外側の毛が歯根面へ十分に触れていなければ、プラークが残ります。

特に根分岐部内の歯根面にはくぼみがあるため、細いブラシを空間の中央で往復させるだけでは、そのくぼみへ毛が届かないことがあります。

大きすぎる歯間ブラシ

大きすぎる歯間ブラシは、入口で毛が強くつぶれます。

さらに押し込むとワイヤーが曲がり、毛ではなくワイヤーが歯肉へ当たる場合があります。

入ったあとも、空間いっぱいに毛が詰まり、清掃したい歯根面へブラシを小さく寄せる余裕がなくなります。

適切なサイズは、

「入る中で一番太いもの」

とは限りません。

強く押さなくても入り、清掃したい根面へ毛が触れ、挿入後に小さく動かせるサイズ

を選びます。

歯間ブラシの色や「SS」「S」「M」といった表示は、すべてのメーカーで統一されているわけではありません。24社、2320本の歯間ブラシを調べた研究でも、製品のサイズ表示や分類には大きな違いが確認されています。メーカーを変更するときは、以前と同じ色や記号だけで選ばず、使用する現物を歯科医院へ持参すると確実です。 

歯間ブラシのサイズ選びについては、歯間ブラシのサイズが合っていないと何が起こる?小さすぎる・大きすぎるサインと適正サイズの確認⁠でも詳しく解説しています。

歯間ブラシは、どのような状態になったら交換しますか?

根分岐部へ使用する歯間ブラシは、複雑な形の中を通るため、通常の歯間部に使う場合より変形しやすいことがあります。

次のような変化があれば、交換を検討します。

  • 毛が一方向へ大きく倒れている
  • 毛が抜けたり、短くなったりしている
  • ワイヤーが曲がったまま戻らない
  • ワイヤーの被覆が傷んでいる
  • 同じ角度で挿入しにくくなった
  • ブラシを洗っても汚れが残る

ただし、毎回同じ方向へワイヤーが曲がる場合は、単なる交換時期ではなく、挿入方向が合っていない可能性もあります。

新しいブラシへ交換してもすぐに曲がるときは、サイズと方向を確認しましょう。

出血したら、歯間ブラシをやめた方がよいのでしょうか

根分岐部へ歯間ブラシを入れたとき、毛や洗面台に血が付くことがあります。

出血すると、

「歯肉を傷つけた」

「ブラシが太すぎた」

と思うかもしれません。

しかし、出血したという事実だけでは、炎症による出血なのか、ブラシで傷をつくったのかは判断できません。

炎症があるため出血する場合

根分岐部にプラークが残り、歯肉に炎症があると、適切な毛先が触れただけでも出血することがあります。

この場合は、歯肉の赤みや腫れ、歯周検査時の出血、プラークの付着などを伴うことがあります。

適切なサイズと方法で清掃を続け、炎症が改善すると、少しずつ出血が減る場合があります。

ブラシによる傷が疑われる場合

一方、次のようなときは、サイズや挿入方向を見直す必要があります。

  • 挿入した瞬間に鋭く痛む
  • 強く押したときだけ出血する
  • 毎回まったく同じ一点から出血する
  • 使用後に歯肉へ線状の傷ができる
  • ワイヤーが毎回大きく曲がる
  • 出血や痛みが日ごとに強くなる

血が出たからといって、すべての歯間清掃を自己判断で中止する必要はありません。

反対に、炎症による出血だと思い込み、痛みを我慢してワイヤーを押し込み続けることも避けてください。

詳しくは、歯磨きで血が出るとき、磨かない方がいい?歯科衛生士が確認する歯ぐきの炎症と磨き方⁠もご覧ください。

また、喫煙している方は、歯周組織に炎症があっても出血が目立ちにくいことがあります。「血が出ないから安定している」とは限りません。

喫煙していると歯ぐきから血が出にくいのはなぜ?歯周病を見逃しやすくなる理由⁠でも解説しています。

出血が減っても、根分岐部病変が消えたとは限りません

歯間ブラシやワンタフトブラシでプラークを減らすと、歯肉の赤みや腫れ、出血が改善する可能性があります。

しかし、自宅での清掃だけで、

  • 根分岐部に付着した歯石を完全に除去する
  • 失われた歯槽骨を元どおりにする
  • 深い根分岐部病変を閉鎖する
  • 歯の動揺を必ず改善する

ことはできません。

歯間ブラシとワンタフトブラシは、歯周治療の代わりではありません。

歯周治療によって得られた状態を守り、再び細菌性プラークが増えにくい環境を維持するためのセルフケアです。

また、出血がなくなっても、深いポケットや骨吸収が残っている場合があります。

根分岐部病変の状態は、出血の有無だけでなく、ポケットの深さ、根分岐部へ器具が入る距離、排膿、歯の動揺、エックス線上の骨支持などを合わせて確認します。

清掃できるようになった根面には、虫歯と知覚過敏への注意が必要です

歯周治療によって炎症が改善すると、腫れていた歯肉が引き締まり、これまで隠れていた歯根面や根分岐部入口が口の中へ現れることがあります。

以前は清掃できなかった場所へ歯間ブラシが届くようになる一方で、露出した歯根面には別の注意が必要です。

歯冠を覆うエナメル質と比べ、露出した根面は虫歯の影響を受けやすく、根面う蝕が生じることがあります。

また、強い力で歯ブラシやワンタフトブラシを当て続けると、知覚過敏や歯根面の摩耗が問題になる場合があります。

成人では、1,400~1,500ppmFのフッ化物配合歯磨剤を、歯ブラシ全体に1.5~2cm程度使用することが推奨されています。就寝前を含めて1日2回使用し、磨いた後は軽く吐き出します。うがいをする場合は、少量の水で1回程度にすると、フッ化物を口の中へ残しやすくなります。 

露出した根面を守るためには、

  • フッ化物配合歯磨剤を毎日使用する
  • 強い力で根面をこすらない
  • 歯磨き後に何度もすすぎすぎない
  • 甘い飲食物を頻繁に摂らない
  • 冷たい物でしみる場合は相談する
  • 根面の色や表面の変化を定期的に確認する

ことが大切です。

口腔乾燥がある方は根面う蝕のリスクが高くなることがあります。口が乾く人はフッ素ケアを強めたほうがいい?口腔乾燥で虫歯・根面う蝕が増える理由と正しい使い方⁠も参考にしてください。

歯ブラシの力が強くなりやすい方は、歯磨きの力が強すぎると歯ぐきが下がる?歯肉退縮と知覚過敏を防ぐ磨き方⁠でも詳しく解説しています。

次の変化は、清掃回数を増やすだけで様子を見ないでください

根分岐部病変のある奥歯に腫れや痛みが出たとき、

「磨き残しがあったのだろう」

と歯間ブラシの回数を増やして様子を見る方がいます。

しかし、症状の原因がプラークだけとは限りません。

  • 同じ場所が繰り返し腫れる
  • 膿や強いにおいが出る
  • 噛んだときに痛む
  • 歯の揺れが強くなった
  • 今まで入っていた歯間ブラシが急に入らなくなった
  • 反対に、歯間ブラシが急に深く入るようになった
  • 被せ物が浮いたように感じる
  • 根面に黒色や茶色の変化がある
  • ブラシが毎回同じ場所へ引っかかる
  • 出血や痛みが日ごとに増えている

このような変化がある場合は、歯周炎の再発や歯周膿瘍だけでなく、歯石の再付着、根面う蝕、被せ物の不適合、歯根破折、根管内部の感染などを確認する必要があります。

痛む場所へ太い歯間ブラシを繰り返し押し込まず、早めに歯科医院へ相談してください。

歯周治療後は、ブラシのサイズと方向を定期的に見直します

根分岐部の磨き方は、一度決めたら一生同じではありません。

歯周治療後に歯肉の腫れが引くと、以前より根分岐部入口が広くなることがあります。

被せ物を新しくしたり、歯肉の形が変わったりすれば、これまでと同じ角度では清掃しにくくなることもあります。

また、歯間ブラシが毎回強く曲がる、ワンタフトブラシの毛先がすぐに開く、同じ根面だけにプラークが残る場合は、患者さんの努力不足ではなく、道具や使い方が現在の形に合わなくなっている可能性があります。

歯周病継続支援治療では、単に歯石や着色を取るだけではありません。

過去に根分岐部病変があった場所について、

  • 歯周ポケットの深さ
  • 根分岐部の水平的な広がり
  • 検査時の出血
  • 排膿
  • プラークの残り方
  • 歯の動揺
  • 使用しているブラシのサイズ
  • 患者さんが再現している挿入方向

を確認します。

歯周病治療後の通院で何を確認しているのかは、歯周病治療後のメインテナンスは普通の定期検診と何が違う?歯周病継続支援治療で確認すること⁠でもご説明しています。

歯科衛生士として大切にしているのは、「分かりましたか」だけで終わらせないことです

根分岐部病変は、説明を聞いただけでは磨き方を再現しにくい場所です。

私たちが模型や鏡を使って説明しても、患者さんが自宅でブラシを持ったときに、柄の向きが逆になってしまうことがあります。

そのため、

「使い方は分かりましたか?」

と確認するだけではなく、実際に患者さん自身にブラシを持ってもらいます。

そして、

  • 目的の歯へ正しく届いているか
  • ワイヤーが歯肉へ向いていないか
  • 強く握り込んでいないか
  • 適切な位置で止められているか
  • 毛が歯根面へ触れているか
  • 無理なく毎日続けられそうか

を一緒に確認します。

次回来院時には、普段使っている歯間ブラシを持参していただくこともあります。

ワイヤーがどの方向へ曲がっているか、毛が片側だけつぶれていないかを見ると、普段どのように使用しているのかが分かる場合があります。

根分岐部病変という言葉を覚えることよりも、

どの歯の、どちら側へ、どのブラシを、どの方向から使うのか

を自宅で再現できることの方が大切です。

うまく入らない日があっても、力で解決しようとしないでください。

次回来院されたときに、私たちと一緒にもう一度確認しましょう。

まとめ――歯間ブラシは根の間、ワンタフトブラシは入口と周囲を清掃します

根分岐部病変のある奥歯は、通常の歯ブラシだけではプラークが残りやすい場所です。

歯間ブラシは、歯科医師や歯科衛生士が使用可能と判断した根分岐部へ毛を届け、歯根面のプラークを取り除くために使います。

ワンタフトブラシは、根分岐部入口の縁、根が分かれる手前のくぼみ、舌側や口蓋寄りなど、通常の歯ブラシが届きにくい周囲を仕上げます。

ただし、すべての根分岐部へ歯間ブラシを入れられるわけではありません。

袋状の病変では途中で止まります。歯肉に覆われた場所へワイヤーを押し込んではいけません。反対側まで通じる病変であっても、強く押し抜くことが目的ではありません。

大切なのは、適切な入口から、適切なサイズの毛を歯根面へ触れさせることです。

根分岐部病変があっても、歯周治療、自宅での清掃、歯科医院での歯周病継続支援治療を組み合わせることで、長く使える奥歯はあります。

場所や角度が分からなくなったとき、ブラシが急に入らなくなったとき、痛みや腫れが出たときは、自己判断で押し込まず、歯科医師または歯科衛生士へご相談ください。

参考文献

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