2026年7月25日

(歯科衛生士さんのある日の日誌)

はじめに
今日は、歯周外科を受けた患者さんの術後確認が続きました。
お一人は、手術からしばらく経ち、抜糸を終えたばかりの患者さんです。
診療台に座ると、少し安心した表情で尋ねられました。
「糸も取れたので、今日から普通に歯を磨いてもいいですか?」
お口の中を確認すると、創部は落ち着き始めており、歯の表面は超軟毛歯ブラシによる清掃を再開できそうな状態です。
しかし、歯と歯の間にある歯ぐきには、まだわずかな腫れが残っています。
そこで、
「歯の表面は、今日から少しずつ磨いていきましょう。ただ、この部分の歯間ブラシは、もう少し待ちましょう」
とお伝えしました。
すると患者さんは、少し不思議そうに、
「同じ手術をしたところなのに、磨いてよい場所と、まだ触らない場所があるんですね」
とおっしゃいました。
実は、歯周外科後の清掃は、ある日を境に一斉に元の歯磨きへ戻すものではありません。
同じ手術部位であっても、
- 歯の表面
- 歯と歯ぐきの境目
- 切開線や縫合部
- 歯と歯の間
では、組織の状態も、清掃器具から加わる力も異なります。
そのため、歯周外科後の清掃では、
「何日目から磨けるか」
だけでなく、
「どこを、どの道具で、どこまで清掃できるか」
を分けて考える必要があります。
今回は、歯周外科後の「触らない時期」から、普段の歯磨きへどのように戻していくのかを、歯科衛生士の視点からお話しします。
なお、実際の清掃再開時期は、受けた手術の種類、使用した材料、縫合方法、創部の状態などによって異なります。
この記事に書かれている流れだけで自己判断せず、手術を担当した歯科医師や歯科衛生士から受けた説明を優先してください。
歯周外科後の「触らない」は、何もしないという意味ではありません
歯周外科を受けた後には、
「しばらく手術したところを触らないでください」
と説明されることがあります。
ところが、この「触らない」という言葉は、患者さんによって受け取り方が大きく異なります。
縫合した部分だけを避ける方もいれば、手術した歯を一本まるごと磨かなくなる方もいます。
中には、手術した側全体を磨かなくなったり、歯ブラシを口に入れること自体が怖くなり、お口全体の歯磨きを中断したりする方もいます。
しかし、歯周外科後に避けたいのは、基本的には歯ブラシや歯間清掃器具によって、まだ安定していない創部を直接動かすことです。
手術をしていない歯や、手術部位から十分に離れた場所まで、不潔にしてよいわけではありません。
右下の歯ぐきを手術したのであれば、左側や上あごの歯まで磨かなくてよいということではありません。
むしろ、磨ける場所を清潔に保つことは、お口全体のプラークを増やしすぎないためにも大切です。
歯周外科後の基本は、
手術したところを守りながら、磨ける場所はきちんと磨く
ということです。
また、手術部位に歯ブラシを当てられない期間があっても、完全に放置するわけではありません。
歯科医院では創部の状態を確認しながら、必要に応じて周囲のプラークや付着物を除去します。
患者さん自身では清掃できない部分を、歯科医院での専門的な管理によって補う期間でもあるのです。
「触らない時期」は、何もしない時期ではありません。
患者さんによるセルフケアの一部を、一時的に歯科医院側へ預けながら、創部を守る時期と考えると分かりやすいかもしれません。
なぜ歯周外科後は、すぐにいつもの歯磨きへ戻せないのでしょうか
歯周外科では、歯ぐきを切開し、通常の歯周治療では確認しにくい歯根面や骨の状態を直接確認することがあります。
歯根面に残った歯石や感染した組織を除去し、必要に応じて骨の形を整えたり、歯周組織の再生を促す材料を使用したりした後、歯ぐきを戻して縫合します。
手術直後の歯ぐきは、見た目には糸でしっかり固定されているように見えます。
しかし、糸の下では、まだ組織同士が十分につながっているわけではありません。
まず血液が固まり、血餅と呼ばれる血のかたまりが創部を覆います。
その血餅を足場として周囲から細胞が移動し、新しい血管が形成され、切開した組織同士が少しずつ結びついていきます。
表面が落ち着いて見えるようになっても、内部ではその後も組織の修復と成熟が続きます。
ここへ歯ブラシの毛先を強く押し込んだり、縫合部に引っ掛けたりすると、治り始めた組織へ余計な力が加わる可能性があります。
歯周組織再生療法では、さらに慎重な管理が必要になることがあります。
再生療法では、歯を支える骨や歯根膜などが再び形成される環境を整えるため、薬剤、骨補填材、膜などを使用する場合があります。
手術部位では、
- 血餅を安定させる
- 再生させたい空間をつぶさない
- 再生材料を動かさない
- 縫合した歯間部へ余計な力を加えない
ことが重要です。
患者さんから見えるのは縫合糸や歯ぐきの表面ですが、その下では、目に見えない治癒が進んでいます。
そのため、単に「糸へ触れなければ大丈夫」とは限りません。
「術後何日目から磨けますか?」だけでは決められません
歯周外科後の患者さんから、よく受ける質問の一つが、
「何日目から普通に磨けますか?」
というものです。
できれば、
「三日目からです」
「一週間後からです」
と分かりやすくお答えしたいところです。
しかし実際には、すべての歯周外科で同じ日に清掃を再開できるわけではありません。
受けた手術の種類によって、守らなければならない組織や、清掃を戻す方法が異なるからです。
また、歯周外科後は、長期間まったく歯ブラシを当てない方法だけが正しいわけでもありません。
術式によっては、術後の早い時期から、術後用の柔らかい歯ブラシで歯面清掃を始めた研究もあります。
一方で、再生材料や移植した組織を守るため、数週間にわたって手術部位の機械的清掃を制限した研究もあります。
大切なのは、
「早く磨いた方がよい」
「長く触らない方が安全」
と一律に決めることではありません。
受けた手術と現在の創部に合った方法を選ぶことです。
通常のフラップ手術
歯ぐきを開いて歯根面を清掃し、元の位置へ戻して縫合する手術です。
創部が安定していれば、比較的早い段階から、術後用または超軟毛歯ブラシで歯の表面を清掃する場合があります。
ただし、歯の表面を磨けるようになっても、歯肉縁や歯と歯の間まで同じ日に再開できるとは限りません。
歯周組織再生療法
EMD、FGF-2、骨補填材、膜などを使用することがあります。
再生させたい空間や血餅を守る必要があるため、通常のフラップ手術より慎重な清掃管理になる場合があります。
歯の表面へ超軟毛歯ブラシを当てられるようになっても、歯間ブラシやフロスは、さらに長い期間休止することがあります。
歯肉移植や根面被覆術
上あごなどから採取した組織を移植する場合や、下がった歯ぐきを覆うように組織を移動させる場合があります。
移植した組織や移動させた歯ぐきが、その場所で安定するまで摩擦を避ける必要があります。
抜糸を終えていても、手術部位へのブラッシングは、もうしばらく待つことがあります。
歯冠長延長術など、骨の形も整える手術
歯ぐきだけでなく、その下にある骨の形を整える場合があります。
腫れや歯肉の位置が落ち着くまでには時間がかかるため、歯肉縁へ歯ブラシを戻す時期は、創部の状態を見ながら判断します。
同じ「術後一週間」であっても、通常のフラップ手術、再生療法、歯肉移植では、磨いてよい範囲が異なる可能性があります。
さらに、同じ手術を受けた患者さん同士でも、創部の閉じ方、腫れ、出血、プラークの付着、喫煙習慣、糖尿病などによって治り方には差があります。
清掃再開は、カレンダーだけでは決められないのです。

まず続けてほしいのは、手術部位以外の歯磨きです
手術後に歯磨きをするのが怖くなる気持ちは、よく分かります。
頬を引っ張るだけでも糸が外れそうに感じたり、歯ブラシを口へ入れることで傷に当たりそうに感じたりするからです。
しかし、手術を受けていない場所まで磨かなくなると、短い期間でもプラークが増えます。
歯ぐきが腫れたり、出血しやすくなったり、口臭が気になったりする原因になります。
右側を手術した場合、食事を左側で噛むことが増えるため、反対側の歯に食べ物が残りやすくなることもあります。
手術した側を避けることに集中するあまり、反対側の奥歯が磨けていなかったということも珍しくありません。
手術部位から離れた歯は、基本的には普段どおり清掃します。
ただし、頬や唇を強く引っ張ると、創部へ力が伝わる場合があります。
手術した場所によっては、お口を大きく開けすぎず、小さな動きで磨いていただくことがあります。
どこまで磨いてよいか分からない場合は、
「手術した歯全部を避けるのか」
「縫合した歯ぐきだけを避けるのか」
を、術後の説明時に確認しておくと安心です。
手術した歯は「四つの場所」に分けて考えます
「この歯は磨いてよいですか?」
という質問に、単純に「はい」「いいえ」だけで答えにくい理由があります。
一つの歯の周囲にも、清掃器具から加わる力が異なる場所があるからです。
手術した歯は、
- 歯の表面
- 歯と歯ぐきの境目
- 切開線や縫合部
- 歯と歯の間
の四つに分けて考えると分かりやすくなります。

1.歯の表面
歯ぐきから離れた、歯冠と呼ばれる部分です。
創部が安定していれば、歯肉縁へ触れない範囲から、超軟毛歯ブラシで比較的早く清掃を戻せることがあります。
最初は、普段のように毛先を歯と歯ぐきの境目へ入れるのではなく、歯の表面だけを軽く拭うように清掃します。
2.歯と歯ぐきの境目
通常の歯周病予防では、プラークがたまりやすく、丁寧に磨く必要がある場所です。
しかし歯周外科直後は、切開線や縫合部に近いことがあります。
歯の表面は磨けるようになっても、歯肉縁へ毛先を近づけるのは、もう一段階後になる場合があります。
3.切開線や縫合部
糸が残っている間は、歯ブラシの毛先が糸へ引っ掛かる可能性があります。
抜糸後も、縫い合わせていた歯ぐきが十分に安定しているかを確認しながら、清掃を戻します。
4.歯と歯の間
歯間ブラシやフロスを使う場所で、歯周外科後は特に慎重に扱います。
歯間ブラシは歯と歯の間へ横方向から入り、歯間乳頭と呼ばれる歯ぐきへ力を加えます。
フロスは縫合糸へ引っ掛かったり、歯ぐきの下へ深く入り込んだりする可能性があります。
そのため、同じ歯であっても、
「歯の表面は磨いてよい」
「歯ぐきとの境目はまだ待つ」
「歯間ブラシはさらに後から再開する」
という段階が生まれます。
患者さんには、
「この歯を磨かないでください」
とだけお伝えするのではなく、鏡を見ながら、
「今日はここまで清掃できます」
と実際の範囲を示すことが大切だと感じます。
清掃器具も、一斉には元へ戻しません
歯周外科後の清掃では、場所だけでなく、使用する道具も段階的に戻します。
歯ブラシ、歯間ブラシ、フロスは、すべて歯をきれいにするための道具ですが、創部へ加わる力の方向が異なります。
術後用・超軟毛歯ブラシ
最初に使用することが多いのは、術後用または超軟毛の歯ブラシです。
毛先が柔らかいため、歯の表面を軽く清掃するときに使われます。
ただし、超軟毛であれば、手術した歯ぐきへ自由に当ててよいわけではありません。
柔らかい歯ブラシでも、縫合部へ押しつけたり、同じ場所を何度もこすったりすれば刺激になります。
どの位置へ当て、どの方向へ動かすかが重要です。
通常の歯ブラシ
創部が安定してくると、通常の歯ブラシへ戻します。
このとき、毛の硬さだけでなく、患者さんのブラッシング圧も確認します。
普段から強い力で磨く癖がある場合、通常の歯ブラシへ戻した途端に、手術部位へ強い力が加わる可能性があります。
歯間ブラシ
歯間ブラシは、歯ブラシより遅れて再開することがあります。
特に、歯と歯の間を切開・縫合した場合や、再生療法を行った場合は、自己判断で早く通さないようにします。
また、歯周外科後は歯ぐきの腫れが引き、歯間部の形が手術前と変わることがあります。
手術前に使っていた歯間ブラシが、術後も同じサイズで適切とは限りません。
大きすぎる歯間ブラシを無理に押し込むと、歯ぐきを傷つける可能性があります。
反対に、小さすぎる歯間ブラシでは、歯面へ十分に毛先が届きません。
フロス
フロスも、再開時期を個別に判断します。
縫合部へ糸が引っ掛かるだけでなく、歯ぐきの下へ強く押し込むことで創部を刺激する可能性があります。
再開後は、フロスを勢いよく歯ぐきへ落とすのではなく、歯面へ沿わせて動かします。
電動歯ブラシ
電動歯ブラシについても、
「電動だから危険」
「手用歯ブラシだから安全」
とは一概に言えません。
振動するヘッドが縫合部へ接触しないか、患者さんが毛先の位置を細かく調整できるかが重要です。
手用歯ブラシであっても、強い力で何度もこすれば負担になります。
口腔洗浄器
口腔洗浄器の水流も、手術直後の創部へ自己判断で直接当てないようにします。
食べ物が入ったように感じても、強い水流で洗い流そうとすると、創部へ思わぬ力が加わることがあります。
歯磨き粉
術後用歯ブラシを使い始める時期には、歯磨き粉を使用するかどうかも確認してください。
歯磨き粉の泡や刺激によって創部が見えにくくなるため、最初は歯磨き粉を使わず、歯ブラシだけで清掃するよう指示される場合があります。
一方で、使用してよい製品を指定されることもあります。
研磨剤や発泡剤の有無だけで自己判断せず、手術を受けた医院の指示に従ってください。
「やさしく磨いてください」だけでは伝わらないことがあります
歯科医院では、術後の患者さんに、
「やさしく磨いてください」
と説明することがあります。
しかし、「やさしく」という言葉から想像する力加減は、患者さんによって大きく異なります。
ほとんど歯へ触れないほど弱くする方もいれば、ご本人は軽く当てているつもりでも、歯ブラシの毛先が大きく開くほど押しつけている方もいます。
また、力は弱くても、同じ場所を何十回もこすっていることがあります。
反対に、縫合部へ触れるのが怖くて、歯の表面にも毛先が届いていないこともあります。
そのため、術後の清掃指導では、言葉だけで説明するのではなく、実際に歯ブラシを持っていただくことが大切です。
今日は患者さんに鏡を持っていただき、超軟毛歯ブラシを実際に歯へ当ててもらいました。
私が患者さんの手へ軽く触れ、
「今は、このくらいの力で大丈夫です」
「この歯の白い部分までは磨きましょう」
「まだ、この歯ぐきの線には入れないようにしてください」
と、一緒に確認しました。
歯ブラシを動かす幅も、普段より小さくします。
広い範囲を一度に磨こうとすると、縫合部へ毛先が入りやすくなるからです。
手術した場所を数本ずつに分け、毛先が今どこへ当たっているのかを確認しながら清掃します。

歯科衛生士が確認しているのは、単に歯ブラシの種類だけではありません。
毛先の位置、力の方向、動かす幅、清掃する回数、患者さんが感じている怖さまで含めて調整します。
「磨いてよい」と許可を出すだけでなく、患者さんが実際に安全な方法で磨けるところまで確認することが大切です。
清掃は、ある日から一斉に戻すのではなく段階的に戻します
歯周外科後の清掃は、大きく分けると五つの段階で考えられます。
ただし、以下の五段階は、術後の清掃を戻す考え方を整理したものです。
術後何日目に何を行うかを示す、すべての患者さんに共通する日程表ではありません。
実際の順序や時期は、
- 手術の種類
- 使用した材料
- 縫合方法
- 創部の状態
- 執刀医の方針
によって変わります。

第1段階 手術直後
手術部位へ歯ブラシを直接当てず、舌や指でも触れないようにします。
強く何度もうがいすると、創部を覆う血餅へ負担がかかる可能性があるため、術後の指示に従います。
一方で、手術部位から離れた場所の歯磨きは続けます。
指定された洗口剤がある場合は、説明された方法で使用します。
第2段階 最初の経過確認後
創部の状態がよければ、術後用または超軟毛歯ブラシで、歯の表面だけ清掃を始めることがあります。
この段階では、縫合部や歯肉縁へ毛先を無理に入れません。
清掃によって痛みや出血が増える場合は、当てる場所や力が適切か確認します。
第3段階 抜糸前後
抜糸は清掃範囲を広げる一つの節目ですが、すべての道具を通常どおり使えるようになる日とは限りません。
歯の表面は広く磨けるようになっても、歯と歯ぐきの境目や、縫合していた歯間部は慎重に扱います。
歯間ブラシやフロスについては、別に再開時期を決めます。
第4段階 創部が安定してから
通常の歯ブラシへ戻し、歯肉縁まで清掃範囲を広げます。
歯間ブラシのサイズや挿入方向も再確認します。
電動歯ブラシを使用している方は、ヘッドが手術部位へ強く当たらないかを確認してから再開します。
第5段階 通常のセルフケアへ
最終的には、通常の歯肉縁清掃と歯間清掃へ戻します。
ただし、手術前とまったく同じ磨き方へ戻すとは限りません。
手術によって歯ぐきの形が変化していれば、新しい形に合った清掃方法を覚える必要があります。
清掃を再開した後も、プラークが残っていないか、出血が続いていないかを歯科医院で確認します。
抜糸が終わっても、歯間ブラシはまだ待つことがあります
患者さんにとって、抜糸は大きな区切りです。
糸がなくなると、見た目にもすっきりし、
「もう傷は治った」
と感じるかもしれません。
しかし、抜糸できる程度に創縁が安定していても、内部の組織では、その後も治癒が続いています。
したがって、抜糸したことだけを理由に、すべての清掃器具を一斉に再開できるとは限りません。
特に歯間部は、歯間乳頭を縫い合わせていることがあります。
ここへ歯間ブラシを通すと、横方向から力が加わります。
歯の表面へ歯ブラシを軽く当てる力とは、力の加わり方が違うのです。
再生療法を行った場所では、歯間部の下に再生材料が存在する場合もあります。
歯間ブラシを早く通すことで歯ぐきが動かないよう、歯ブラシより長く休止することがあります。
患者さんから、
「糸を取ったのに、まだ歯間ブラシは使えないんですね」
と聞かれたときには、
「歯の表面と歯間部では、治り方だけでなく、清掃したときに加わる力も違うからです」
と説明しています。
抜糸は全面解禁の日ではありません。
清掃方法を次の段階へ進められるか、確認する日の一つです。
白い膜や黄色っぽいものが見えても、こすり取らないでください
歯周外科後、縫合した部分に白色または黄色っぽい膜が見えることがあります。
患者さんから、
「汚れがついている気がします」
「膿ではないでしょうか」
「歯ブラシで落とした方がよいですか」
と相談されることがあります。
創部の表面には、治癒の過程でフィブリンを含む白っぽい膜が見えることがあります。
そのため、白く見えるものが、すべてプラークや膿とは限りません。
しかし、色だけを見て正常か異常かを患者さん自身で判断することもできません。
大切なのは、汚れだと思って歯ブラシで強くこすったり、綿棒、指、爪楊枝などで取ろうとしたりしないことです。
気になるものが見えた場合は、触らずに歯科医院で確認を受けてください。

白い膜とともに、
- 腫れや痛みが日ごとに強くなる
- 膿が出る
- 強い悪臭や不快な味が続く
- 発熱している
という場合は、感染などの可能性も考える必要があります。
次回予約までそのまま待たず、手術を受けた歯科医院へご連絡ください。
歯磨きを再開したら少し血が出ました
術後に歯ブラシを再開した患者さんから、
「少し血が出たので、また磨くのをやめました」
と聞くことがあります。
手術部位の近くは、治癒途中の組織に軽く触れただけでも、少量の出血が見られることがあります。
一方で、
- ブラッシング圧が強すぎる
- 毛先を歯ぐきの下へ深く入れすぎている
- 歯間ブラシのサイズが大きい
- 縫合部へ器具を引っ掛けた
- プラークによる炎症が残っている
可能性もあります。
出血したという事実だけでは、清掃を続けてよいか、中止した方がよいかを判断できません。
どこから出血したのか、どのくらいの量だったのか、すぐに止まったのか、痛みを伴っているのかを確認します。
一度の少量出血を怖がって、その後何週間も清掃を中断すると、さらにプラークが増えて出血しやすくなることがあります。
反対に、出血している場所を同じ方法で何度も強く磨き続けることも避けなければなりません。
歯磨きを再開した後に出血した場合は、自己判断で全面的に中止するのではなく、使用している歯ブラシ、当てている場所、力加減を歯科医院で確認してください。
洗口剤は歯磨きの代わりではありません
手術部位へ歯ブラシを当てられない期間には、洗口剤が使用されることがあります。
歯ブラシによる清掃を一時的に制限している場所で、細菌の増殖を抑える補助として使われます。
ただし、洗口剤だけで、歯の表面へ付着したプラークを完全に除去できるわけではありません。
プラークは歯面へ付着した細菌のかたまりで、時間が経つと、うがいだけでは落ちにくい状態になります。
そのため、磨いてよい場所は歯ブラシで物理的に清掃し、洗口剤はあくまで補助として使用します。
術後だからといって、市販の洗口剤を自己判断で何種類も併用する必要はありません。
洗口剤には、製品ごとに成分、濃度、希釈方法、使用回数が異なります。
クロルヘキシジンを含む製品についても、海外の研究で使用されている洗口液と、日本国内で使用される口腔用製品では、濃度、剤形、適応、使用方法が異なります。
皮膚消毒用など、口腔内への使用を目的としていない製剤を使ってはいけません。
手術後に洗口剤が指定されている場合は、歯科医院から説明された口腔用製品を、説明された濃度と回数で使用してください。
使用後に、
- 発疹
- 全身のかゆみ
- 息苦しさ
- 顔や喉の腫れ
などが現れた場合は使用を中止し、速やかに医療機関へ相談してください。
同じ手術でも、治り方には個人差があります
歯周外科後の治り方は、受けた手術だけで決まるものではありません。
患者さんの全身状態や生活習慣も影響します。
喫煙
喫煙は歯ぐきの血流や組織の修復へ影響し、歯周外科や歯周組織再生療法の結果に関係する可能性があります。
「手術後の数日間だけ本数を減らせばよい」とは限りません。
ただし、禁煙できなかった患者さんを責めても、治療がよい方向へ進むわけではありません。
現在の喫煙状況を確認し、手術をきっかけとして、可能な範囲から禁煙について一緒に考えることが大切です。
糖尿病
糖尿病があるだけで、必ず傷の治りが遅くなるわけではありません。
大切なのは、現在の血糖コントロールの状態です。
血糖コントロールが良好な方では、糖尿病のない方と大きく変わらない経過が期待できる場合があります。
一方、コントロールが不十分な場合は、炎症が長引いたり、感染や創傷治癒について、より慎重な管理が必要になったりすることがあります。
服用薬や全身状態
全身疾患や服用薬によっても、出血のしやすさや感染への注意点が変わることがあります。
手術前にお薬手帳を確認するだけでなく、術後に薬が追加・変更された場合も歯科医院へお知らせください。
清掃再開時期は、手術から何日経過したかだけではなく、現在の創部がどのように治っているかを見て決めます。
歯科衛生士は、清掃を再開できるか何を見ているのでしょうか
術後確認では、カレンダーを見て、
「今日は一週間目なので、歯ブラシを再開しましょう」
と機械的に決めているわけではありません。
まず、切開した部分が閉じているか、創部が開いていないかを確認します。
発赤や腫れが強くなっていないか、出血や排膿がないか、縫合部に異常がないかも見ています。
再生療法や移植を行っている場合は、材料や移植組織の露出が疑われないかも確認します。
次に、歯の表面を見ます。
プラークがどこに付着しているのか、食べ物が残っていないか、患者さんが避けすぎている場所はないかを確認します。
清掃を止めていた場所に汚れがたまっていても、患者さんを責めることはありません。
磨いてはいけないと言われた場所を、説明どおり避けていた結果だからです。
大切なのは、現在の治癒状態に合わせて、今日からどこを清掃できるかを見つけることです。
さらに、患者さんの歯ブラシの使い方も確認します。
- 毛先を強く押しつけていないか
- 歯肉縁へ深く入れすぎていないか
- 縫合部を避けられているか
- 怖がって必要な歯面まで磨けていないか
- 歯間ブラシのサイズが適切か
- 清掃後の痛みや出血が増えていないか
などを確認します。
手術前と歯ぐきの形が変わっていれば、新しい形に合う器具へ変更します。
術後の日数、創部の状態、患者さんの清掃技術を合わせて、
「今日から戻す場所」
「まだ待つ場所」
「使ってよい道具」
「次回もう一度確認する部分」
を決めていきます。
歯周外科後に避けたい清掃上の行動
歯周外科後には、手術部位を守ろうとするあまり、お口全体の歯磨きを中断してしまう方がいます。
反対に、汚れが気になり、縫合糸の周囲を通常の歯ブラシで強く磨く方もいます。
抜糸した日から歯間ブラシやフロスを自己判断で再開することや、白い膜を汚れだと思ってこすり取ることも避けなければなりません。
食べ物が入ったように感じても、大きな歯間ブラシ、爪楊枝、口腔洗浄器の強い水流などで無理に取ろうとしないでください。
市販の洗口剤を複数併用したり、傷が気になって何度も強くうがいしたりすることも、術後の指示と合わない場合があります。
また、痛みや腫れが日ごとに強くなっているのに、
「次の予約まで待たなければ」
と我慢する必要はありません。

術後の清掃では、早く元へ戻しすぎることにも、必要以上に長く避け続けることにも問題があります。
迷ったときには、自分で創部を触って確かめるのではなく、手術を受けた歯科医院へ確認してください。
次回予約を待たずに連絡してほしい症状があります
歯周外科後には、ある程度の痛み、腫れ、少量の出血が起こることがあります。
しかし、時間が経つにつれて症状が強くなっている場合は、予定された経過と異なる可能性があります。
次のような症状がある場合は、早めにご連絡ください。
- 強い出血がなかなか止まらない
- 日を追うごとに痛みが増す
- 腫れが急に大きくなる
- 膿が出る
- 強い悪臭や苦い味が続く
- 発熱や強い倦怠感がある
- 縫合糸が大きく緩んだ
- 歯ぐきがめくれたように見える
- 移植した組織が動いたように感じる
- 歯が急に強く動く
- 痛くて食事や睡眠が難しい
骨補填材のような粒状物が見えた場合は、量にかかわらず、自分で取り除いたり、創部へ押し戻したりしないでください。
本当に骨補填材なのか、食べ物なのかを患者さん自身で判断することは困難です。
使用した材料や手術方法によって対応が異なるため、手術を受けた歯科医院へご連絡ください。
少し気になる程度だからと、指や舌で何度も触ると、かえって創部を刺激します。
迷う場合は、触って確認する前にご相談ください。
歯周外科は、手術が終わった日で治療終了ではありません
歯周外科によって深い歯周ポケットが改善し、歯を清掃しやすい環境がつくられても、その状態が自動的に何年も続くわけではありません。
再びプラークが蓄積すれば、歯ぐきに炎症が起こり、歯周病が再発する可能性があります。
手術後には、
- 歯周ポケットの深さ
- 歯ぐきからの出血
- プラークの付着
- 歯肉退縮
- 歯の動揺
- エックス線画像上の骨の変化
- 患者さんが実際に清掃できているか
などを継続して確認します。
表面の歯ぐきが落ち着いたことと、歯を支える内部の組織が十分に成熟したことは同じではありません。
再生療法を行った場合は、数か月から年単位で変化を確認します。
術後に清掃を戻すことは、傷を治すためだけではありません。
手術によって得られた状態を、患者さん自身のセルフケアへ受け渡す最初の一歩です。
また、手術後は歯ぐきの形が変わることがあります。
腫れが引いて歯が長く見えるようになったり、歯と歯の間が広く感じられたりすることもあります。
その変化を「悪くなった」と感じる患者さんもいますが、炎症による腫れが引き、歯ぐきが引き締まった結果である場合もあります。
形が変われば、適切な清掃方法も変わります。
歯間ブラシのサイズ、歯ブラシを当てる角度、磨く場所を、術後の状態に合わせて見直します。
歯周病治療は、手術を受ければ終わりではありません。
治療後の状態を長く守るためには、ご自宅でのセルフケアと、歯科医院での継続的なメインテナンスの両方が必要です。
よくあるご質問
歯周外科後は、何日目から歯を磨けますか?
受けた手術の種類と創部の状態によって異なります。
手術部位以外は基本的に普段どおり清掃し、手術部位は歯科医院から指定された範囲から段階的に再開します。
同じ手術部位でも、歯の表面は磨けても、歯肉縁や歯間部はまだ待つことがあります。
抜糸が終われば、普通の歯ブラシを使えますか?
抜糸後すぐに通常の歯ブラシへ戻せるとは限りません。
超軟毛歯ブラシを継続する場合や、歯の表面だけ清掃範囲を広げる場合があります。
抜糸は大きな節目ですが、すべての清掃器具を一斉に再開する日ではありません。
歯間ブラシはいつから使えますか?
歯間ブラシは、歯間乳頭へ横方向から力を加えます。
そのため、歯ブラシより遅れて再開することがあります。
特に再生療法を行った場合や、歯と歯の間を縫合した場合は、自己判断で通さず、歯科医院で再開時期とサイズを確認してください。
歯磨きをしたら少し血が出ました。大丈夫ですか?
少量の出血が直ちに異常とは限りません。
ただし、創部から出血している、出血が長く続く、強い痛みを伴う場合は、清掃方法や創部の確認が必要です。
歯磨きを完全に中止する前に、どの場所から、どの程度出血したかを歯科医院へお伝えください。
白い膜のようなものは、歯ブラシで取った方がよいですか?
治癒の過程で、創部に白っぽい膜が見えることがあります。
白いものがすべて膿や磨き残しとは限りません。
歯ブラシ、綿棒、指などで取ろうとせず、気になる場合は歯科医院で確認を受けてください。
電動歯ブラシはいつから使えますか?
創部の位置、受けた手術、治癒状態によって異なります。
振動するヘッドが縫合部や移植部へ接触する可能性があるため、再開前に歯科医院で確認してください。
洗口剤だけで過ごしてもよいですか?
洗口剤は、機械的な清掃を制限している期間の補助として使われることがあります。
しかし、歯の表面へ付着したプラークを、うがいだけで十分に除去することはできません。
磨いてよい場所は歯ブラシで清掃し、洗口剤は指定された製品と方法で使用してください。
食べ物が手術部位へ入った気がします
爪楊枝、歯間ブラシ、フロス、口腔洗浄器などを自己判断で使用し、無理に取ろうとしないでください。
指定された方法で軽く洗口し、それでも取れない場合や、痛み、腫れがある場合は歯科医院へご連絡ください。
歯ぐきについているパックのようなものが取れました
手術内容によっては、創部を保護する歯周パックを使用することがあります。
予定より早く外れた場合も、自分で戻したり、市販の接着剤などで固定したりしないでください。
外れた時期や創部の状態によって、付け直すか、そのまま経過を見るかを判断するため、手術を受けた歯科医院へご連絡ください。
まとめ|早く磨くことでも、長く避け続けることでもありません
歯周外科後の清掃では、手術部位を守りながら、磨ける場所を清潔に保つことが大切です。
手術部位から離れた歯まで、すべての歯磨きを中断する必要はありません。
一方で、手術した歯については、
- 歯の表面
- 歯と歯ぐきの境目
- 切開線や縫合部
- 歯と歯の間
を分けて考えます。
歯の表面へ超軟毛歯ブラシを当てられるようになっても、歯肉縁の清掃や、歯間ブラシ、フロスの再開は、さらに後になることがあります。
抜糸が終わった日も、すべての清掃器具を一斉に通常へ戻す日とは限りません。
歯周外科後の清掃で大切なのは、できるだけ早く元の歯磨きへ戻すことでも、怖がって長く避け続けることでもありません。
現在の創部に合った方法を確認しながら、一段階ずつ戻していくことです。
同じ手術名であっても、治り方や清掃を再開できる時期には個人差があります。
術後に受けた説明を優先し、途中で分からなくなった場合は、自己判断で清掃範囲を広げず、手術を受けた歯科医院へ確認してください。
私たち歯科衛生士も、単に、
「もう磨いて大丈夫です」
「まだ触らないでください」
とお伝えするだけではありません。
どの歯を、どの道具で、どの位置まで清掃するのかを、患者さんと一緒に確認していきます。
歯周外科後の清掃再開は、傷が治るまでの短い期間だけの問題ではありません。
手術によって得られた状態を、この先も長く守るセルフケアへつなげていく、大切な治療の一部です。
参考文献
- 日本歯周病学会 編.歯周治療のガイドライン2022.
- 日本歯周病学会 編.歯周病患者における再生療法のガイドライン2023.
- Heitz F, Heitz-Mayfield LJA, Lang NP. Effects of post-surgical cleansing protocols on early plaque control in periodontal and/or periimplant wound healing. Journal of Clinical Periodontology. 2004;31:1012-1018.
- Solderer A, et al. Efficacy of chlorhexidine rinses after periodontal or implant surgery: a systematic review. Clinical Oral Investigations. 2019;23:21-32.
- 日本歯周病学会 編.糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン.
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構.クロルヘキシジン含有製剤に関する安全対策情報.
