2026年7月25日

(歯科助手さんの治療見学ノート)

はじめに
治療を見学していると、先生がミラーなどの器具の柄で、患者さんの歯を軽くたたくことがあります。
その後、歯ではなく、歯の根の先にあたる歯ぐきを指で押し、さらに器具を歯に当てて、わずかに動かしていました。
初めて見たときは、
「痛い歯を探しているのかな」
「歯がグラグラしていないか確認しているのかな」
と思いました。
もちろん、それも検査の目的の一部です。
しかし見学を続けていると、先生は単に「痛いか」「動くか」だけを調べているのではないことが分かってきました。
歯を軽くたたく検査を打診、歯ぐきやその周囲を押す検査を触診、歯を軽く動かして状態を調べる検査を動揺度検査といいます。
どれも短時間で終わる小さな検査ですが、歯の根の周囲で何が起きているのか、どの歯に異常がありそうなのか、患者さんが普段感じている痛みを再現できるかなど、多くの情報を得ることができます。
今回は、歯科医院で行われている打診・触診・動揺度検査で、先生が何を確認しているのかを、歯科助手の治療見学ノートとしてご紹介します。
打診・触診・動揺度検査だけで病名が決まるわけではありません
最初に知っておきたいのは、打診・触診・動揺度検査のどれか一つだけで、病名や治療方法が決まるわけではないということです。
たとえば、歯をたたいたときに痛みがあったとしても、その原因は一つではありません。
歯の根の先に炎症が起きている場合もあれば、噛み合わせの負担によって、歯根の周囲にある歯根膜が一時的に敏感になっている場合もあります。
歯をぶつけた後、歯周組織に炎症がある場合、歯にひびや歯根破折がある場合にも、似たような反応が現れることがあります。
反対に、レントゲン写真では根の先に変化が認められるのに、打診や触診ではほとんど痛みを感じないこともあります。
この3つは、検査結果と病名が一対一で結びつく検査ではありません。
異常がありそうな歯を絞り込み、どの組織が刺激に反応しているのか、患者さんが普段感じている症状を再現できるかを確認するための検査です。
歯科の診断では、患者さんから症状を伺う問診、口の中を観察する視診、歯髄検査、歯周ポケット検査、噛み合わせの検査、レントゲンやCTなど、複数の情報を組み合わせます。
打診・触診・動揺度検査は、診断という一枚の絵を完成させるための、大切なピースなのです。【1】

打診では歯の神経を直接調べているわけではありません
患者さんから見ると、歯をたたく打診は、「歯の神経が悪くなっていないかを調べる検査」に見えるかもしれません。
しかし、打診で主に確認しているのは、歯の中にある神経そのものではありません。
歯根の周囲にある歯根膜や根尖周囲組織が、力に対してどのように反応するかを調べています。
歯根膜とは、歯根と歯槽骨の間にある薄い組織です。
歯は顎の骨へ直接くっついているのではなく、歯根膜を介して支えられています。歯根膜には、噛んだときの力を受け止め、歯や骨へ急激な負担がかからないようにする役割があります。
ところが、歯根膜や根の先の組織に炎症が起こると、軽く歯をたたいただけでも、その刺激を痛みや違和感として感じることがあります。
患者さんからは、
「根の方へ響く感じがする」
「歯が浮いているように感じる」
「噛んだときと同じ痛みがする」
「たたかれた後も鈍い痛みが残る」
などと表現されることがあります。
先生は単に「痛いですか」と聞いているだけではありません。
どの歯で反応が強いのか、ほかの歯とは感じ方が違うのか、そして患者さんが普段感じている痛みと同じ症状が再現されたのかを確認しています。

なぜ痛くない隣の歯までたたくのでしょうか?
打診では、患者さんが痛いと感じている歯だけを調べるとは限りません。
正常と思われる隣の歯や、反対側にある同じ種類の歯から軽くたたき、反応を比較することがあります。
人によって、刺激の感じ方は異なります。
同じ程度の力でたたいても、敏感に感じる方もいれば、ほとんど気にならない方もいます。そのため、疑わしい歯だけを調べても、その反応が本当に異常なのか判断しにくい場合があります。
そこで最初に正常と思われる歯の反応を確認し、それを患者さん自身の基準として、疑わしい歯と比較します。
先生が確認しているのは、単なる「痛い・痛くない」だけではありません。
その歯だけ明らかに強く反応するのか、複数の歯が同じように響くのか、刺激を止めた後も痛みが残るのか、そして普段の症状が再現されたのかを確認します。
強い歯痛が続いている場合には、原因となる歯だけでなく、隣の歯まで敏感になることがあります。
患者さん自身が、痛みのある歯を正確に示せないことも珍しくありません。
そのため、隣の歯との比較は重要ですが、その結果だけで原因となる歯を決めることはできません。
「検査で痛かった」と「いつもの痛みが再現された」は違います
打診によって何らかの痛みが出ても、それが患者さんの普段感じている痛みと同じとは限りません。
たとえば、検査の刺激によって一瞬だけ痛みを感じても、患者さんが普段訴えている「噛むと根の奥へ響く痛み」とは違う場合があります。
先生が、
「いつもの痛みと同じですか」
「噛んだときに感じる痛みが再現されましたか」
と確認することがあるのは、そのためです。
普段の症状が再現されたかどうかは、原因となる歯や組織を絞り込むための重要な手掛かりになります。
患者さんから見ると、どの痛みも同じ「痛い」という言葉になりやすいのですが、診断では、痛みの場所、性質、強さ、続く時間、起こるきっかけなどを細かく分けて考えています。
打診で痛いからといって、根管治療が必要とは限りません
ここは、今回の記事で特に大切な部分です。
歯をたたいて痛みがあることと、歯の神経が死んでいることは同じではありません。
また、打診痛があることと、根管治療が必要であることも同じではありません。
歯髄に強い炎症があっても、その炎症がまだ歯根の外側まで及んでいなければ、冷たいものや温かいものには強く反応する一方で、打診ではほとんど痛まないことがあります。
反対に、歯髄に大きな問題がなくても、噛み合わせの負担や外傷によって歯根膜が敏感になれば、打診痛が現れることがあります。
打診痛は、根の先の炎症だけでなく、噛み合わせによる負担、外傷、歯周組織の炎症、歯根破折、歯以外から伝わる痛みなどでも生じる可能性があります。
そのため、打診で痛みがあったという理由だけで、直ちに根管治療を行うわけではありません。
冷たい刺激や電気刺激に対する歯髄の反応、痛みの続き方、虫歯や修復物の状態、歯周ポケット、噛み合わせ、レントゲン所見などを組み合わせて判断します。【1】
打診で痛いという理由だけで、歯の神経を取る治療が決まるわけではありません。
この点は、患者さんにもぜひ知っていただきたいと思いました。
【根管治療の日には何をしている?歯科助手が見学した診療の流れ】
打診では刺激を加える方向を変えることもあります
打診には、歯の噛む面から歯根方向へ刺激する方法と、歯の横から刺激する方法があります。
力が伝わる方向が異なるため、同じ歯でも反応に違いが現れることがあります。
ただし、「縦からたたいて痛ければ必ずこの病気」「横からたたいて痛ければ別の病気」と、単純に分けられるわけではありません。
先生は刺激を加える場所や方向を変えながら、周囲の歯との違い、普段の症状との一致、ほかの検査所見との組み合わせを確認します。
打診は、診断に必要な範囲の軽い力で行います。
強い痛みを感じた場合には、我慢せず、その時点で先生やスタッフへ伝えてください。
打診では痛みだけでなく音が手掛かりになることもあります
打診は、患者さんが感じる痛みだけを調べる検査ではありません。
特に歯をぶつけた後では、先生が聞く打診音も手掛かりになることがあります。
歯が横方向へずれて骨へ食い込む側方脱臼や、歯が歯槽骨の中へ押し込まれる陥入では、歯が周囲の骨に固定されたような状態になることがあります。
このような歯は、外傷を受けているにもかかわらず、あまり動かないことがあります。また、打診したときに、通常より高い金属的な音が聞かれる場合があります。【2】
つまり外傷では、
よく動くことだけが異常なのではなく、不自然に動かないことも異常の手掛かりになる
ということです。
レントゲンに異常がなくても打診で痛むことがあります
患者さんから、
「レントゲンでは大きな問題が見つからなかったのに、なぜ噛むと痛いのですか」
と質問されることがあります。
根尖周囲や歯根膜の炎症が始まったばかりの時期には、患者さんには打診痛や咬合痛があっても、レントゲン写真に明らかな変化がまだ現れていないことがあります。
レントゲン写真で見える変化には、ある程度の骨や周囲組織の変化が必要だからです。
反対に、慢性化した根尖部の病変では、レントゲン写真に透過像が認められても、打診や触診ではほとんど痛みがないことがあります。
根管治療後の治癒途中でも、症状がなく、レントゲン上の病変が少しずつ縮小していれば、すぐに再治療をせず、経過を確認する場合があります。
したがって、
レントゲンに異常が見えないから炎症がないとは限らず、打診で痛くないから問題がないとも限りません。
打診と画像検査は、どちらか一方が正しく、もう一方が間違っているのではありません。
それぞれ異なる情報を与えてくれる検査なのです。
【噛むと歯が痛いのはなぜ?考えられる原因と歯科で確認すること】
打診とは別に、実際に噛んでもらう検査もあります
歯のひびや破折が疑われる場合には、歯を軽くたたく打診とは別に、専用の器具などを一部分ずつ噛んでもらうことがあります。
噛み込むときに痛むのか、噛む力を緩めたときに痛むのか、特定の咬頭だけに反応があるのかを確認します。
打診と似た目的に見えますが、歯へ加わる力のかかり方が異なる別の検査です。
歯のひびや歯根破折は、打診、咬合試験、歯髄検査、歯周ポケット検査、画像検査などを組み合わせて調べます。【4】
検査によって痛みが再現されたとしても、それだけで破折が確定するわけではありません。
触診では根の先と周囲組織の状態を確認します
打診の後、先生が歯ではなく、歯の根の先にあたる歯ぐきを指で押すことがあります。
これが触診です。
触診では、歯根の先に相当する歯ぐきや頬側の粘膜をやさしく押し、圧痛、腫れ、硬さ、膨らみ、炎症が広がっている範囲などを確認します。
根尖周囲に炎症がある場合、歯をたたいたときだけでなく、根の先に相当する歯ぐきを押したときにも痛みが現れることがあります。
打診が「歯を介して歯根膜や根尖部へ力を伝える検査」だとすれば、触診は「歯ぐき側から根の周囲へ力を加える検査」です。
似た検査に見えますが、力を加える場所と方向が違うため、得られる情報も完全には同じではありません。

触診では腫れの硬さや広がりも確認しています
触診で確認しているのは、押したときに痛むかどうかだけではありません。
腫れている範囲がはっきりしているのか、周囲まで広がっているのか、硬く張ったような腫れなのか、膿がたまったような軟らかさがあるのかなども確認します。
歯ぐきに小さな膨らみや、膿の出口となる部分ができていないか、左右で粘膜の状態が違っていないかも観察します。
ただし、腫れの硬さや膿の有無をご自身で確かめようとして、何度も強く押すことはおすすめできません。
炎症を刺激し、痛みや腫れが強くなる可能性があるため、気になる変化がある場合には歯科医院で診察を受けてください。
触診で痛くなくても病変がないとは限りません
根の先に病変があっても、歯ぐきを押せば必ず痛むわけではありません。
炎症が慢性化している場合や、骨の深い部分に限局している場合には、触診で痛みをほとんど感じないことがあります。
また、炎症が骨の中からどの方向へ広がっているかによっても、触診時の反応は異なります。
そのため触診も、「痛くないから問題なし」と決めるための検査ではありません。
打診、触診、歯髄検査、歯周ポケット検査、画像検査などを重ねることで、病変の位置や原因を絞り込んでいきます。
歯ぐきではなく筋肉を触診することもあります
原因がはっきりしない歯痛では、歯ぐきだけでなく、頬にある咬筋や、こめかみにある側頭筋などを触診することがあります。
噛むための筋肉に強い緊張や圧痛があると、その痛みが歯へ伝わり、患者さんが「奥歯が痛い」と感じることがあるためです。
筋肉の一定の場所を押したときに、患者さんが普段感じている歯痛が再現されれば、歯そのものではなく、筋肉から伝わる関連痛を考える手掛かりになります。
もちろん、筋肉を押して痛かっただけで診断が決まるわけではありません。
歯や歯周組織に原因がないかを確認したうえで、痛みの部位、経過、誘発条件などを総合的に判断します。
動揺度検査では歯がどれくらい動くかを確認します
動揺度検査では、歯の両側に器具を当てるか、器具と指で歯を挟むようにして、軽い力を加えます。
「歯が動く」というと、すべて異常のように感じるかもしれません。
しかし、健康な歯にもごくわずかな生理的動揺があります。
歯は歯根膜を介して骨に支えられているため、噛む力を受けたときにわずかに動くことで、歯や骨へ加わる力を和らげています。
そのため、少し動いたというだけで、すぐに歯周病や抜歯が必要な状態と判断されるわけではありません。
動揺度は、代表的には0度から3度までの段階で記録します。
0度は生理的な範囲で、明らかな異常動揺を認めない状態です。
1度では水平方向にわずかな動揺を認め、2度では水平方向への動きがより明らかになります。
3度では水平方向に加えて、上下方向にも動く状態です。【3】
これは動揺を記録するための代表的な目安です。
数字だけで歯周病の重症度や、抜歯の必要性が決まるわけではありません。

動揺度検査では動く量だけを見ているのではありません
先生が確認しているのは、単に「動く・動かない」だけではありません。
水平方向にどれくらい動くのか、上下方向へ沈み込むような動きがあるのか、前後と左右で違いがあるのかを調べます。
さらに、歯のどの位置を中心に動いているのか、1本だけが動くのか、隣の歯も一緒に動くのかを確認します。
以前の記録との比較も重要です。
前回より動揺が増えているのか、炎症が落ち着いて動揺が減っているのか、治療後も変化がないのかを見ます。
その日の動揺度だけでは、歯周組織の支持が少ないために動いているのか、一時的に歯根膜が炎症を起こしているのか、噛み合わせの負担が加わっているのかを区別できないことがあります。
歯周ポケット、出血、骨吸収、噛み合わせ、画像所見、経時変化などを組み合わせて評価します。

歯が動く原因は歯周病だけではありません
歯がグラグラしていると、
「歯周病がかなり進んでいるのでは」
と不安になる方が多いと思います。
確かに、歯周病によって歯槽骨や歯周組織の支持が失われると、歯は動きやすくなります。
しかし、歯の動揺は歯周病だけで起こるものではありません。
根の先の急性炎症によって歯根膜が腫れている場合、強い噛み合わせや食いしばりが続いている場合、歯をぶつけた場合、歯根が破折している場合、歯槽骨が骨折している場合などにも、動揺が生じることがあります。
つまり、
歯の動揺は病名ではなく、歯や周囲組織に何らかの変化が起きていることを示す所見です。
原因が違えば、必要な治療も異なります。
歯周病に対する治療が必要な場合もあれば、根管治療、噛み合わせの評価、外傷への対応、歯根破折の精査などが必要になる場合もあります。

噛んだときの歯の振動を見るフレミタス
動揺度を調べる方法は、器具で歯を軽く動かすだけではありません。
歯に指をそっと当てた状態で、患者さんに噛み合わせてもらうことがあります。
噛むたびに歯が振動したり、歯の動きが指へ伝わったりする所見をフレミタスといいます。
安静時には大きく動いていない歯でも、実際に噛む力が加わると動くことがあります。
フレミタス、進行する動揺、歯根膜腔の拡大、歯の位置の変化、噛んだときの違和感などは、歯に加わる力の影響を考える手掛かりになります。
ただし、噛み合わせが強いことだけを理由に、歯周病の原因をすべて「力」と判断することはできません。
外傷性の咬合力は歯根膜や動揺へ影響する可能性がありますが、それだけで歯周炎による付着喪失のすべてを説明することはできないと考えられています。【3】
先生は咬合紙の印だけではなく、歯周組織の状態や、実際に噛んだときの歯の動きまで含めて判断しているのだと分かりました。
動揺があるからといって、すぐに抜歯になるわけではありません
歯が動いていると、
「もう抜かなければいけませんか」
と心配になるかもしれません。
しかし、動揺があることだけで抜歯が決まるわけではありません。
歯周組織の炎症が改善すると、動揺が小さくなることがあります。
噛み合わせによる一時的な歯根膜の負担であれば、原因となる負担が減った後に改善する場合もあります。
また、支持組織が減少している歯であっても、炎症をコントロールし、清掃しやすい環境を保ち、必要に応じて固定などを行うことで、保存を目指せる場合があります。
抜歯か保存かを考えるときには、動揺度だけではなく、残っている歯槽骨、歯周ポケット、歯根の状態、虫歯の深さ、根管治療の可否、噛み合わせ、清掃性、将来の補綴方法なども確認します。
【抜歯するか歯を残すかはどう決める?保存の可能性を確認する診察】
外傷では「動く歯」と「動かない歯」の両方を確認します
打診・触診・動揺度検査の違いが特によく分かるのが、歯をぶつけた後の診察です。
歯の外傷といっても、すべてが同じ状態ではありません。
歯の震盪では、歯の位置も動揺度もほぼ正常ですが、打診すると痛みが現れることがあります。
歯根膜などの支持組織が打撲を受けた状態です。
亜脱臼では、歯の位置は大きく変わっていなくても、生理的な範囲を超えて歯が動きます。歯肉溝から出血することもあります。
側方脱臼や陥入では、歯が骨へ食い込むように転位するため、外傷を受けているにもかかわらず、かえって歯が動きにくくなることがあります。
歯槽骨骨折では、1本の歯だけではなく、複数の歯が骨片と一緒に動くことがあります。
このため先生は、外傷を受けた歯だけを動かすのではなく、周囲の歯も一緒に確認します。【2】

【歯をぶつけた後、痛みがなくても経過観察が必要なのはなぜ?】
動揺の支点から水平歯根破折を疑うことがあります
動揺度検査では、歯がどれくらい動くかだけでなく、どの位置を中心に動いているかが手掛かりになる場合があります。
外傷によって歯根が水平方向に破折すると、歯冠側の破折片だけが動き、根尖側の破折片は骨の中に残ることがあります。
その場合、歯全体が動いているときとは、動揺の支点や感触が異なります。
見学中、先生が歯を一度動かして終わるのではなく、器具の位置や力の方向を変えながら確認していたのは、動く量だけではなく、動き方そのものを見ていたからなのだと分かりました。
打診痛や動揺から歯根破折を疑うこともあります
歯根破折は、必ずしも歯をぶつけた直後だけに起こるものではありません。
過去に根管治療を受けた歯や、大きな修復物が入っている歯では、長期間加わった力などによって、垂直方向の破折が生じることがあります。
垂直歯根破折の初期には、自発痛や大きな腫れがほとんどなく、軽い咬合痛や違和感だけが現れる場合があります。
時間が経過すると、破折線に沿って炎症が広がり、一部分だけ深い歯周ポケットが形成されたり、排膿、動揺、骨欠損などが現れたりします。
しかし、初期には通常のレントゲン写真で破折線が見えないことも少なくありません。
CTでも、細い破折線そのものを必ず確認できるわけではなく、破折線に沿って生じた周囲の骨欠損から疑うことがあります。【4】
そのため、
「打診で痛いから根尖性歯周炎」
「動揺があるから歯周病」
と、すぐに決めることはできません。
歯周ポケットの深さと形、画像所見、過去の治療歴、歯髄の反応などを組み合わせて診断します。
また、歯根表面のセメント質の一部が剝がれるセメント質剝離破折でも、打診痛、触診痛、動揺、限局した深い歯周ポケットなどが生じ、歯周病や根尖性歯周炎、垂直歯根破折と似た所見を示すことがあります。【6】
同じ検査反応を示す病気が複数あるからこそ、一つの結果だけで治療を決めず、複数の検査を重ねて判断する必要があります。
痛み止めを飲んでいる場合は診察時に伝えてください
歯が強く痛むと、歯科医院を受診する前に、市販の鎮痛薬を服用する方も多いと思います。
痛み止めを飲むこと自体が問題というわけではありません。
ただし、鎮痛薬によって、診察時の打診や触診、冷たい刺激に対する反応が弱くなることがあります。【5】
受診時には、痛み止めを飲んだかどうかだけでなく、薬の名前、飲んだ時間、服用前の痛み、服用後にどの程度楽になったかを伝えてください。
痛みが軽くなっていても、原因そのものがなくなったとは限りません。
3つの検査はほかの診察と組み合わせて判断します
打診・触診・動揺度検査で得られた情報は、ほかの検査と組み合わせて初めて意味を持ちます。
問診では、いつから痛むのか、何もしなくても痛むのか、噛んだときだけ痛むのか、冷たいものや温かいものに反応するのか、歯をぶつけたことがあるのかなどを確認します。
歯髄検査では、冷たい刺激や電気刺激に、歯がどのように反応するかを調べます。
歯周ポケット検査では、歯の周囲全体が深くなっているのか、一部分だけ極端に深い場所があるのかを確認します。
噛み合わせの検査では、特定の歯に力が集中していないか、噛んだときに歯が動いていないかを見ます。
レントゲンやCTでは、根の先、歯根膜腔、歯槽骨、歯根の形、過去の治療状態などを確認します。
検査結果が十分にそろわない場合には、無理に診断を決めず、一定期間後に再検査することもあります。
歯の病気は、始まったばかりの段階では所見がはっきりせず、時間の経過とともに、診断に必要な変化が現れる場合があるからです。

ご自身で何度も歯をたたいたり揺らしたりしないでください
歯が気になると、指で何度も押したり、舌で動かしたり、硬い物で軽くたたいたりして確認したくなるかもしれません。
しかし、繰り返し刺激を加えると、歯根膜への負担が増え、痛みや動揺感が強くなる可能性があります。
特に、歯をぶつけた後、噛むと強く痛む場合、歯が急に動き始めた場合には、ご自身で繰り返し確認せず、歯科医院へご相談ください。
受診時には、どの歯が気になるかだけでなく、いつから症状が始まったか、噛むと痛いか、何もしなくても痛むか、歯が高く感じるか、外傷を受けたことがあるか、痛み止めを飲んだかなどを伝えると、診断の助けになります。

よくあるご質問
歯をたたく検査で、歯の状態が悪化することはありますか?
通常は、診断に必要な範囲の軽い力で行います。
健康な歯や歯周組織へ大きな負担を加える検査ではありません。
ただし、すでに強い痛みがある場合には、刺激を強く感じることがあります。我慢せず、痛みを感じた時点でお伝えください。
打診で痛ければ、根管治療になりますか?
打診痛だけでは決まりません。
歯髄の反応、痛みの経過、虫歯や修復物の状態、歯周組織、噛み合わせ、画像所見などを組み合わせて判断します。
歯が動いていたら抜歯になりますか?
動揺があるだけで、直ちに抜歯になるわけではありません。
炎症や噛み合わせの負担が改善すると、動揺が小さくなる場合があります。
残っている骨、歯根の状態、清掃性、治療後の機能などを含めて、保存の可能性を検討します。
なぜ痛くない歯までたたくのですか?
患者さんごとの正常な反応を確認し、疑わしい歯との違いを比較するためです。
痛みの強い患者さんでは、原因歯の周囲まで敏感になっていることもあるため、複数の歯を比較します。
レントゲンに異常がないのに、打診で痛むことはありますか?
あります。
炎症の初期や、外傷、噛み合わせによる歯根膜の負担などでは、明らかな画像変化がまだ現れていないことがあります。
外傷後に歯が動いていなければ安心ですか?
必ずしもそうではありません。
歯が骨へ食い込んで、不自然に固定されている場合があります。
歯の位置、打診反応や打診音、歯髄反応、周囲の歯の動き、画像所見などを確認する必要があります。
触診で痛くなければ、根の先に病変はありませんか?
触診で痛みがない慢性的な病変もあります。
触診だけで病変の有無を判断することはできません。
見学を終えて|小さな反応を重ねて原因を絞り込んでいました
最初は、歯をたたく、歯ぐきを押す、歯を揺らすという、とても単純な検査に見えました。
しかし先生が確認していたのは、単なる「痛いか」「グラグラするか」だけではありませんでした。
打診では、歯根膜や根の先の組織が、歯に加わる力へどのように反応するかを確認します。
触診では、歯ぐき側から根の周囲を押し、圧痛や腫れ、炎症が広がっている範囲を調べます。
動揺度検査では、歯が動く量だけでなく、動く方向、支点、隣の歯との連動、以前の記録からの変化まで確認します。
打診で痛みがあっても、それだけで歯の神経が悪いとは限りません。
歯が動いていても、それだけで重度の歯周病や抜歯が必要な状態と決まるわけではありません。
反対に、痛みがなく、歯が動いていないからといって、必ずしも問題がないとも限りません。
外傷によって歯が骨へ食い込み、不自然に固定されている場合や、慢性化した病変によって症状がほとんど現れていない場合もあります。
そのため先生は、一つの検査結果だけで結論を出しません。
患者さんから伺った症状、歯髄検査、歯周ポケット検査、噛み合わせ、レントゲンやCT、過去の記録などを重ね合わせ、最も矛盾の少ない原因を探します。
診療中に歯を軽くたたかれたり、歯ぐきを押されたりすると、
「なぜ痛いところを触るのだろう」
と感じることがあるかもしれません。
しかし、その小さな反応の一つひとつが、必要のない治療を避け、歯を残せる可能性を探し、適切な治療方法を選ぶための大切な情報になります。
たたかれたときに「いつもの痛み」が再現された場合や、ほかの歯とは違う響き方を感じた場合には、遠慮せず先生やスタッフへお伝えください。
何気なく見える短い診察動作にも、歯とその周囲の状態を見極めるための、たくさんの意味が込められていました。
参考文献
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